チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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3、深紅のオーラ

 リオンは当面の方針としてアンジェと親交を深めつつ現状維持に徹することに決める。

 将来アンジェと恋仲になるか否かは置いておくとして、ユリウスとオリヴィアを破談にさせない、その為にアンジェとユリウスの距離を近づけさせない為にも。

 

 そうして数日が経過する。

 リオンとアンジェは日を重ねるごとにその親交を深めていく。そしてそれはアンジェの内面にも変化をもたらす。

 リオンという親友を得たことで気持ちが安定したのか滅多に切れなくなった。王子たちにしつこく付きまとわれても女生徒たちに妬み交じりの暴言を吐かれても。

 そうしてリオンも安心しきっていた。だが――

 

 アンジェにとって女子から難癖をつけられるのは既に日常茶飯事と化していた。

 貴族の中の平民と言う異物でありながら、学園中の女子達の憧れの的でもある王子たちに言い寄られる姿に妬み嫉みの的であった。

 しかもアンジェにとって彼等には明確な拒絶の意を突き付けているにも関わらずしつこく言い寄られむしろ迷惑してる。

 それなのに周囲には誑かしてる様に受け止められるのはお門違いも甚だしい。

 そんな理不尽な言いがかりに当初はよく切れていたが最近は冷静に受け流せるようになった。

 それにはリオンのアドバイスのお陰もあったのだろう。

 リオン曰く――あんなのは猿山のサルが喚いてるとでも思ってればいいんだよ、と。

 なるほど醜い感情剥き出しで難癖付けてくる女生徒どもに対して言い得て妙だなと。

 そして思わず鼻で笑う。

 

 だがそれがいけなかったのだろうか。女生徒たちは益々怒りを募らせる。

 そしてアンジェに向けてた難癖悪口の矛先を、彼女と親交のあるリオンに変え吐き出される侮辱の言葉の数々。

 それは彼女の怒りに火をつけた。

 

「やめろ! それ以上私の親友を侮辱するな!」

 

 今まで黙って聞き流していたアンジェがその顔を怒りに染める。

 その顔に絡んできた女子達は一瞬気圧されるも直後醜く歪んだ笑みを浮かべ益々侮辱の言葉を連ねる。

 アンジェは怒りのまま思わず手を振り上げようとすると後ろから髪を引っ張られ、その拍子に結んでいたポニーテールが解ける。

 更に両脇から両腕を拘束される。

 身動きの取れないアンジェに向かい女子達はさらに口汚く罵る。それもアンジェにではなくリオンの事を。

 リオンを罵られアンジェの怒りが頂点に達する。

 

「貴様ら! リオンをバカにするなあっ!」

 

 瞬間アンジェの体から魔力が深紅のオーラとなって迸り拘束していた女生徒をも吹き飛ばした。

 

「取り消せ! 貴様らがリオンに向かって放った暴言を全て!」

 

 言い放ったアンジェの顔は今までにない程怒りに燃え、拳は固く握り締められていた。

 

 

 

 

『マスター急いでください』

 

 ルクシオンに急かされリオンは廊下を駆け抜けていた。

 

「ここ数日安定してきたんじゃなかったのかよ……!」

 

 リオンはルクシオンからアンジェが暴発しそうだとの報を受け彼女の元に向かっていた。

 そうしてリオンが駆けつけた先アンジェは立っていた。

 深紅の魔力のオーラを迸らせながら。

 いつも結んでいたポニーテールは解け長い豊かな金髪はオーラを受けユラユラと揺らめき広がり魔力の威容をより一層見る者に印象付ける様相。

 顔を見れば怒りの形相で、彼女の深紅のオーラはいつ炎に転化してもおかしくなさそう。

 そしてアンジェの周りには尻餅をつき怯える複数の女生徒。

 このまま放っておけば大惨事になりかねないと思いリオンは駆けつけアンジェの肩を掴む。

 

「アンジェ!」

 

 リオンに肩を掴まれアンジェは我に返ると彼女を覆っていた深紅のオーラも消える。

 

「リオン……私は……」

 

 アンジェは周囲のざわめき、腰を抜かし怯える女生徒の姿に自分が暴走しかけてたことを思い出し顔を青くする。

 

「とりあえずこの場を離れるぞ」

 

 リオンはアンジェの手を引きその場を離れるのだった。

 

 

 

「どうしたんだよ、最近落ち着いて切れることも少なくなっていたのに」

 

 リオンは自分の部屋にアンジェを招き入れ目の前に紅茶を差し出しながら問いかける。

 アンジェは出された紅茶を一口すすると静かに口を開く。

 

「私だって自分のことなら何言われたって耐えられたさ……だけど! アイツ等リオンのこと悪く言ったんだ! 私の大事な親友をバカにしおって!」

 

 アンジェの手は固く握り締められ怒りで震えていた。

 おそらくその握り拳を感情のままにあの女生徒たちに叩きつけたいのだろう。

 だが目の前に女生徒たちが居ない今、別の何かにでも八つ当たりしたいぐらいで、若しここが自室だったら自分の私物などに当たり散らしてたかもしれない。

 だが、ここはリオンの部屋。大切な親友の部屋と彼の私物を傷つける訳に行かず怒りの行き場を見つけられず堪え震えているよう。

 そんなアンジェの気持ちを察してかリオンはクッションを差し出す。

 アンジェが視線をリオンの顔に向けるとリオンは頷く。

 次の瞬間アンジェはクッションを膝の上に乗せそこに向かって拳を叩きつけ怒りの言葉を吐き出す。

 

「アイツ等! リオンのこと何も知らない癖に! リオンが! どんなに優しいのかも! 立派なのかも! それなのに好き勝手言いおって!」

 

 叫びながらアンジェはクッションに何発も何発も拳を叩き込む。

 そしてその目には涙が滲みあふれ出していた。

 やがてクッションはアンジェの拳に耐え切れず破れ中の羽毛が飛び出し宙を舞う。

 飛び出した羽毛にアンジェは驚きそして我に返る。

 

「す、すまない! クッションを破いてしまって……!」

 

 アンジェは申し訳なさそうに謝罪すると、リオンは首を振って静かに微笑む。

 

「いいよ気にしなくて。その為に渡したんだし、それでアンジェの気持ちが少しでも晴れてくれるなら」

 

 リオンの優しい言葉にアンジェは再度「すまない」と謝罪の言葉を紡ぐ。

 

「私の、自分の事なら何言われたって我慢できたんだ。だけど……リオンをバカにされるのだけは耐えられなかった……!

そしたら頭が真っ白になって……気持ちが抑えられなくなってしまって……」

 

 アンジェの顔には悔しさが滲み出て目からは更に涙が溢れだす。

 

「ありがとうアンジェ……」

 

 リオンはアンジェの肩を優しく抱き「ゴメンな……」と呟く。

 

「違う! リオンは悪くない! 悪いのはアイツ等と切れてしまった私で!」

「うん、大丈夫だから。アンジェが俺のために怒ってくれた気持ち凄く嬉しいよ。でもな、それで問題起こして退学にでもなっちまったらどうする?

俺は嫌だぞ。アンジェが居ない学園生活なんて」

 

 言われてアンジェは理解する。自分の感情に任せた暴走が何を招くかを。

 

「すまない……私が軽率だった。だけど、それでもリオンを悪く言われるのは……」

「構わないさ例え全校の女生徒に嫌われたってたった一人、アンジェ、お前さえ分かってくれればそれで十分だ。だから約束してくれ。もう絶対切れないって」

 

 そう言ってリオンは小指を差し出す。

 

「分かった。約束する。私もリオンと離れ離れになりたくないし迷惑かけたくもない。だからもう切れたりしない」

 

 言ってアンジェも小指を差し出しリオンの小指に絡めるのだった。

 

 

 

 後日。リオンはアンジェの部屋を訪れていた。そして取り出して見せたものは一見厚めの一抱え程もある丸形のクッションの様なもの。

 

「これは?」

 

 アンジェが興味深げに見詰めながら疑問を投げかける。

 リオンは「見てて」と言ってそれを床に置いて側面のスイッチを押すと、それはみるみる膨らみ円柱のような姿に。

 それはリオンが前世知識をベースにルクシオンに作らせたエアーサンドバッグ。

 

「どう使うか実際に俺がやってみせるよ。ちょっと離れてて」

 

 リオンの言葉にアンジェが数歩下がると、それを確認したリオンは左右の拳の連打を放つ。拳を受けたサンドバッグは軽快な音を響かせ接地面を支点にその身を揺らす。

 幼い頃から父に剣術武術と鍛えられていたリオンのそれは中々に堂に入っており、その姿にアンジェは拍手を送るとリオンはやや照れくさそうな笑みを浮かべる。

 

「とまあ、こんな感じで使うモノなんでストレスたまったらこいつで発散してくれ」

「なるほど! わざわざありがとう! 早速使ってみても良いか!?」

 

 アンジェは新しいおもちゃを与えられた子供の様に瞳を輝かしながら問いかけてくる。

 

「勿論。アンジェにあげたモノなんだから。あ、使う時はこのグローブ嵌めてね。素手だと拳痛めるかもしれないから」

「ありがとう何から何まで気遣い痛み入る」

 

 アンジェは受け取ったグローブを嵌める。因みにグローブはボクシングの様な形ではなく指先の部分には覆いがない所謂オープンフィンガーと呼ばれる形。

 そして脇を締め構えるとサンドバッグに向かい拳を放った。その構えも響き渡る音もリオンが想像してたよりずっと堂に入っており思わず瞠目し「ナイスパンチ」称賛を送る。

 その言葉にアンジェは笑顔で答える。

 

「これでも子供の頃は村の悪ガキたちと取っ組み合いの喧嘩もしたものだからな。ある程度大きくなると女の子が殴り合いの喧嘩などするものではないと諫められこんな風に拳振るうことなどここ数年なかったが。いや最近殴ったな入学式の日だったか。五人ほどだったか? あまりに馴れ馴れしい態度と上から目線で腹が立ってしまってな」

 

 言いながらアンジェは再びサンドバッグに拳を繰り出す。

 アンジェの言葉にリオンの脳裏に浮かんだのはアンジェに殴られ頬を押さえながらも熱に浮かされた瞳で笑みを浮かべてたユリウス王子。

 そしてルクシオンの再生音声で聞かされた残り四人の攻略キャラたちの声。

 

「その五人とはどうなったの?」

「今にして思えば平民の私が貴族を殴ってしまったというのに不問にしてくれたのには感謝すべきなんだろうな。まぁ女に殴られたなど普通の男なら意地やプライドにかけて表沙汰にしなかっただけかもしれんが。だが先ほども言ったがあの上から目線は好きになれん! それに加えその後執拗に口説いてきて何なのだアイツ等!」

 

 言いながらアンジェの拳は激しさを増していく。

 

「じゃぁその五人に対し異性としての興味とか――」

「無い!」

 

 言いながら放たれたストレートはひと際大きな音を響かせサンドバッグを揺らす。

 アンジェが明確に攻略キャラに対し拒絶の意を示したことにリオンは胸を撫で下ろす。直後気付く。何故アンジェがあの五人に関心無いことにこんなにも安堵してるのか、と。

 そんなこと思ってるとひとしきり殴り終わったアンジェがすっきりした顔をして振り向く。

 

「うむ! イイ感じだ! 正に最高のプレゼントだ!」

 

 アンジェのプレゼントと言う言葉にリオンは何かに気づいたように気まずそうな表情になり、その表情にアンジェは首をかしげる。

 

「いや、喜んでもらえたのは嬉しいけど、よく考えたら女の子にあげるプレゼントにしてはあまりにも色気がなさ過ぎたかな、と……」

 

 リオンの言葉にアンジェは微笑みを浮かべ拳を突き出しリオンの胸に軽く充てる。

 

「何を言う、今の私にとって最高の贈り物だ。そりゃ私も女だから服とかアクセサリーとかも好きだぞ? だが今の私に何が一番必要か考え選んでくれたんだろ?

そしてまぎれもなく今の私にとって最もありがたいものだ。あらためて礼を言う。ありがとうリオン」

 

 そうしてアンジェは満面の笑顔をリオンに向けるのだった。

 リオンもまたその笑顔を受け満足気な笑顔を返すのだった。

 

 

 

 自分の部屋に戻ってきたリオンはルクシオンに向かい呟く。

 

「アンジェの奴いいパンチしてたなー。ルクシオンあのサンドバッグ壊れたりしないよな?」

『大丈夫ですマスターが全力で殴り続けても壊れない程度の強度は十分あります。若し壊れてしまったらそれはアンジェリカの拳がマスターのそれを上回ってしまったと言うことになりますね』

「怖ええこと言うなよ」

『まあ大丈夫でしょう。マスターに極めて好意的なアンジェリカがマスターに手を上げる心配は皆無でしょう。それに極めて好意的なのはマスターも同様でしょうし』

「おまっ!? 何をいきなり!?」

『アンジェリカがあの五人に関心がないと断言した時、マスターとてもホッとした嬉しそうな顔してましたよ?』

 

 言われてリオンは思わず自分の顔に手を当てる。心なしか手の平に伝わる温度がいつもより熱い。

 そして脳裏に浮かぶアンジェの笑顔。

 その笑顔に益々自分の顔の温度が上昇していくことに戸惑うリオンであった。




ルクシオンがいれば道具の手配とかも色々便利w

次回「伯爵令嬢」です。
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