チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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30、里帰り【5】

「もう直ぐリオンの実家だな」

「ああ……」

「そんな暗い顔するな私迄不安になるだろ」

「あ、ああすまねぇな」

 

 アンジェの故郷への里帰りも十分満喫した二人が乗る飛行船パルトナーは、今度はリオンの故郷の浮島へ向かっていた。

 浮島まであと少しになったころ甲板上で会話を交わす二人はどうにも気乗りしない感じ。

 

「あのクソ婆、来てなきゃいいんだけどよ。動向が読めないんだよな。普段田舎は嫌だとか家に居ない癖に、たまに前触れなく金せしめに来たりするし」

 

 リオンの悩みの種は父親の本妻。王国特有の女尊男卑の悪習を煮詰め具現化したような忌まわしき存在。

 

「ハァ……アレがいるかもしれないと思うとマジ気が重てぇ……。アンジェの実家の孤児院で過ごした日々が楽しかっただけに余計にだよ」

「私の弟妹たちとすっかり打ち解けて仲良しだったからな」

 

 アンジェの故郷を発つとき、リオンは最後まで別れを惜しみ姿が見えなくなるまで甲板から手を振り続けてたほど。

 

 

「言ったろ? リオンが逃げなかったんだから私も逃げずに立ち向かうって」

 

 アンジェが覚悟が決まってる顔を見せるとリオンも頷く。

 

「分かった。アンジェの覚悟尊重するよ」

 

 言いながら覚悟を決める。父の本妻が難癖付けようものならその時は自分も体を張りアンジェを護ってみせると。

 

 

 

 そうして覚悟を決め浮島に降り立った二人を迎えたのは意外な人物だった。

 

 

 

「ヤッホー。アンジェ、男爵。久しぶり~」

「クラリスの姉御!?」「先輩!?」

 

 それは二人が最も信を置く学園の上級生のクラリスだった。

 

「姉御、どうしてここに!?」「何でクラリス先輩がここに居るんすか!?」

「何よぉ。来ちゃいけない? 本当はアンジェの実家の方にも顔出したかったんだけど都合が付かなかったのよ。それより聞いて! ジルクと婚約解消したもんだから夏季休暇に入ってから連日お見合いばっかりでうんざりなのよ! それでやっと都合付けてアンジェに会いに来たのよ!」

「そ、そうか。姉御も大変だな」

「そうなのよ~! わかってくれる~!?」

 

 

 貴族の、それも伯爵家ともなれば婚姻も大事な政略の一環である。

 そんなクラリスを同情の視線で見詰めていたリオンの肩が掴まれる。見れば自分の父――バルカスだった。

 

「あ、親父ただいま」

「ただいまじゃないだろ! お前、伯爵家の御令嬢と! それも大臣のとこのお嬢様と一体どういう関係だ!?」

 

 バルカスが血相変えるのも無理もない。本来なら関わり合うことも無い程の身分が上の相手なのだから。

 

「え~っと、何処から話したもんかな……。っと、それよりクラリス先輩に粗相とかしてないだろうな? 特にあの婆――じゃなくて奥様とか」

 

 リオンは父の本妻を心底嫌って普段はクソ婆呼ばわりだが、ここ実家でもし耳に入ればまた報復されかねないので不本意ながら奥様呼び。

 

 

「それなんだが……」

「男爵も御当主様も大変よね~。あんなのが身内じゃ」

 

 バルカスが重い口を開こうとするとクラリスが割って入って来た。

 

「ア、アレに会ったんすか!? な、何かご無礼を働いたりとか……」

「ええもうしっかり舐めた口きいてくれたわね。男爵の知り合いだからどうせ低い身分だろう、って決めつけて。男爵も随分低く見られてるのね、同情するわ。だからしっかり自己紹介してやったわ。そしたら笑っちゃうぐらい顔真っ青にして手の平返して」

 

 言いながらクラリスが嗜虐的な笑みを浮かべるとリオンの顔が思わず晴れる。

 

「男爵の婚約者は私の可愛い妹分だから下手な真似したら許さないって言ったら、尻尾巻いて逃げてったわ。あれなら当分は、少なくともこの夏季休暇の期間中はここに来ないんじゃない?」

「マジっすか!? ありがとうございます先輩!」

 

 リオンは顔一杯に感謝の喜びを表し何度も何度も頭を下げる。

 

「喜べアンジェ! クラリス先輩のお陰であのクソ婆と顔合わせずに済んだぞ!」

「ああ、話は聞こえてた。すまないな姉御。本来なら私が向き合わねばならぬ問題だったのに」

「いいのいいの。アンジェがいくら肝が据わってて腕っぷしに自信があっても、それでも解決難しいこともあるしね。そういう時こそ姉貴分の私の出番なんだから遠慮なく頼りなさい」

「ありがとう姉御。心から礼を言う」

 

 アンジェの礼にクラリスも嬉しそうに顔を綻ばせアンジェを抱きしめるのだった。

 

 

「でも本当に助かりました。それよりこんな辺鄙なとこまで大変だったでしょう。長旅お疲れじゃなかったですか? よろしければ温泉にでも浸かっていきませんか?」

「いいわねソレ! そう言えば前に言ってたわね温泉持ってるって。じゃぁ案内してくれる?」

「分かりましたご案内します! 折角だアンジェも一緒に入って来いよ」

「そうだな。今回の件一番世話になったのは私だからな。わかった女同士裸の付き合い。誠心誠意、心を込めて背中を流させてもらおう」

「嬉しいこと言ってくれるじゃない。流石私の妹分!」

「決まりだな。じゃぁ先輩もアンジェも、温泉まで案内しますね。あ、そういう訳だから親父、詳しい話は二人を温泉に送った後話すから」

 

 言ってる間にパルトナーから小型艇が出てきたので、リオンは二人を乗せ自分の浮島の温泉に発進させるのだった。

 そんなリオン達を、話について行けないバルカスは呆然と見送るのだった。

 

 

 

 

 

「――という訳なんだが分かって貰えた? 親父」

 

 アンジェとクラリスを温泉のある浮島まで送り届けたリオンは上がる頃また迎えに来るからと、一旦実家の屋敷に戻り家族にこれまでのことをかいつまんで説明した。

 

「待て待て、情報量が多すぎて理解が追いつかん……って何処から突っ込めばいいんだ!? そもそも婚約者見つけてきたのは良いが平民!? いや養子縁組の当てがあるのならいいが……。というか平民なのにアトリー伯爵家のお嬢様と義兄弟ならぬ義理の姉妹の契り!? その上、そのお前の婚約者を巡って王太子たちと決闘しただと?」

「うん、まぁそんな感じ」

「そんな感じ、じゃないだろ! しかもただ決闘しただけじゃなく完膚なきまでに叩きのめしただと!?」

 

 リオンの話に理解が追いつかずバルカスは頭を抱える。

 同様に理解が追いつかず放心気味の兄ニックスが首を巡らせると妹の――リオンからすれば姉に当たるジェナと視線が合う。

 

「そうなのか? ジェナ?」

 

 ジェナはリオンの一つ年上で共に学園の上級クラスに通っている。ニックスも通ってるが此方は普通クラスなので、より事情に詳しいであろうジェナに確認するように問いかけると肯定する様に溜息で返される。

 

「大丈夫なのか!? 王家から仕返しとかされないだろうな!?」

「まぁ一応手を打っといたから大丈夫だよ。公爵様に金積んでお願いしたからさ」

「公爵様!?」

「あぁ、そこのお嬢さん、公爵令嬢様とはアンジェが親友でね。俺とも一応知り合いだし」

「親友!? 平民なのに公爵令嬢様と!? 伯爵令嬢様とも義理の姉妹とか言ってたし、一体何者なんだ本当に平民なのかお前の婚約者!?」

 

 その言葉にリオンは一瞬驚きを感じるも直ぐ平静を装う。

 

「平民だよ。何処にでもいる只の平民。優しくて気立てが良くて、大切な人の為にならなりふり構わず頑張れる、俺の大切な彼女で婚約者」

 

 リオンが言い放つと、その表情に覚悟を感じ取ったのかバルカスは「分かった」と呟くと、ニックスは「良いのかよ親父?」と問いかける。

 

「全て納得したわけじゃないが、コイツの顔は覚悟の決まった男の顔だった。だったらこれ以上俺達が騒いでも仕方ないだろ」

 

 バルカスの言葉にリオンは「親父……」と感嘆の声を漏らす。

 

「リオン、俺はお前たちの母さんを、リュースを心から愛してる。だが残念ながら十分に幸せにはしてやれなかった。だからリオン、せめてお前はお前の惚れた相手を幸せにしてやれ」

「ありがとう。約束する。絶対に俺の嫁を、アンジェを幸せにするって」

 

 リオンの覚悟を決めた返事にバルカスも「良し」と答える。

 その後暫し家族で積もる話をし、アンジェとクラリスが温泉から上がる頃合いになると二人を迎えに行くべくリオンは席を立つのだった。

 

 

 

 

 

「あ、男爵~。お出迎えご苦労様~」

「リオン。とってもいい湯で姉御も私もしっかり堪能させてもらったぞ」

 

 浮島の温泉には湯上りにくつろげる様に東屋も備え付けられており、リオンが到着すると二人は浴衣姿で温泉の火照りを冷ますべく涼んでいた。

 

「本当にいい湯だったわ~。肌なんかとってもすべすべになったみたいで」

「姉御は元からきれいな肌してたからな。磨きがかかって益々綺麗になったんじゃないかな」

「嬉しいこと言ってくれちゃって。男爵、アンジェは体動かすの得意なだけあって出るとこ出ていながら全体的に凄く引き締まっていい体してたわよ」

「ちょっ! 姉御! 恥ずかしいって!」

 

 言いながらクラリスはアンジェを背後から腕を胸の下に回し抱きしめると浴衣で身を包んだアンジェの胸が強調される。

 その様子にリオンは思わず目を見張り、だが直後恥ずかしそうに顔を赤らめながら目を逸らす。

 

 

「で、どうだったの二人でアンジェの実家への御挨拶?」

「ええ、まあ、つつがなく無事済ませて来た感じですね」

「ああ、院長先生――私の育ての親もリオンも互いに気に入ったようだし」

「うんうん。イイ感じみたいね。それで二人とももうキスぐらいしたの?」

 

 その言葉にリオンとアンジェは同時に目を見開きクラリスに向き直る。その仕草は何で知ってるんだと言わんばかり。

 

「あらやだ。カマかけてみたら当たっちゃった?」

 

 クラリスの言葉に二人は、しまったと言わんばかりに視線を逸らす。

 

「あらあらまあまあ。ねえねえ、どっちからしたの? 折角だから教えなさいよ~?」

 

 クラリスにせがまれ二人とも観念して話し、話し終わるとクラリスは「青春ね~」と口にしながら楽しそうに笑みを浮かべるのだった。

 それ以外にも休暇中院で過ごした話など請われるままに話し、クラリスは楽しそうに聞き入ってたのだった。

 

 

「先輩折角ですからこの後、晩飯も食べていって下さい。元よりアンジェが来るからって伝えてあったから御馳走用意してくれてる筈ですから」

「あら嬉しい。喜んでお呼ばれするわ。って言いたいんだけど……」

 

 言いながらクラリスは視線を自分の取り巻きに送る。クラリスと固い信頼関係に結ばれてる彼らはこの夏季休暇中も常に随伴してた。

 

「男爵、折角の御厚意嬉しいのだがお嬢様はこの後もスケジュールが詰まっててな。晩餐前にはお暇しないといけないんだ」

「そうなのよ~。ねぇ、でも折角なんだから少しぐらい時間遅れても――」

「ダメですよお嬢様。御父君の伯爵様からも遅れないように言われてるじゃないですか」

 

 言いながら取り巻きはスケジュール帳と時計を交互に見比べる。

 

「姉御。少ない時間の中こうして私に会いに来てくれた事すごく感謝してる。だけど約束は大事だろ? それに取り巻きの兄さんをあまり困らすものじゃない」

「はぁ~。アンジェにそう言われちゃ仕方ないわね。分かったわ名残惜しいけどこれでお暇させて貰うわ」

 

 クラリスが観念して腰を上げると取り巻きもホッとした表情に。そしてアンジェに向かい感謝と申し訳なさが混ざった表情で会釈するとアンジェも笑顔で応える。

 そしてアンジェやクラリス達を小型艇に載せ港に送る。

 

「あ~あ、コレで次にアンジェに会えるのは学期明けてからかしらね」

「そうだな。まぁそれまで体に気を付けて過ごしてお互い元気な姿でまた会おう姉御」

「そうね。アンジェはこの後、未来の義父と義母とのご対面でしょ? しっかり頑張んなさいよ」

「ああ、姉御も見合いで良い出会いがありますように。まぁ姉御ほど良い女だとそれに釣り合う男を探すのも大変そうだが」

「相変わらず可愛らしいこと言ってくれちゃって、ありがとう」

 

 言いながらクラリスは親愛の情を込めてアンジェを抱きしめる。

 

 

「じゃあ、アンジェ、男爵。学期明けたらまた学園でね」

「ああ、姉御。また学園で」

「ええ、先輩。また学園で……っと実は」

 

 別れの挨拶をしながらリオンは思う。自分が退学になるかもしれない事伝えてあったはずなんだが、と。

 そんなリオンの心情を察した様にクラリスは口を開く。

 

「男爵、学園でのこと本当にありがとうね。その恩を返せるように私の方でも微力ながら手を貸させて貰ってるから」

「え? それって――」

「じゃあね二人とも。また二学期にね~」

 

 そうしてクラリスは手を振りながら乗船し、その船も出航していったのだった。

 そんなクラリスを見送りながらリオンは思う。

 

(あれ? そう言えばクラリス先輩には確かにアンジェの故郷と俺の実家に行くとは伝えてあったけど、詳しい日時まで言ってあったっけ? それに最後に言ってたあの言葉の意味って――)

 

 そう思いにふけるリオンの耳にアンジェの声が届く。

 

「クラリスの姉御にはいつも助けてもらってるな。優しくて気配りが効いて。そんな姉御には是非素敵な殿方と巡り合って欲しいな」

「ん? ああそうだな先輩には是非幸せになって欲しいな」

 

 アンジェの言葉にリオンはふと脳裏によぎった疑問も霧散してたのだった。

 

 

 

 

 

 クラリスを見送った後、アンジェを改めて家族に紹介。

 そしてテーブルを囲んでの晩餐も済ませ、食後の後片付けも済ませ。

 

「ありがとうねアンジェちゃん。食後の後片付け洗い物迄手伝って貰っちゃって。折角遠いところまでいらしてれたのに」

「何の、気にしないでくだされおふくろ様。それにお客扱いは心苦しい。本来なら晩餐の準備だって手伝って然るべきだったのだからコレぐらい当然。リオンと添い遂げれば私も家族の一員なのだから娘と思って気軽に接していただきたい」

「アンジェちゃん……なんて出来た子なのかしら。ウチの娘たちは上も下もろくに家事も手伝ってくれないのに……今だってご飯食べ終わったらさっさと部屋に引き上げちゃうし」

 

 リオンの母――リュースはアンジェが率先して後片付けを手伝ってくれたことに甚く感激してた。

 その一方で毎度の様に後片付けもせずさっさと部屋に戻ってしまった実の娘のジェナとフィンリーに対しては落胆の溜息を吐く。

 

 

「ご苦労さんアンジェ。ありがとな、後片付け手伝ってくれて」

「気にするなリオン。育った院でも何時もやってたことだ」

「そうだな院でもアンジェも、その弟妹たちもみんな後片付けちゃんとやってたもんな。それなのにウチの姉と妹ときたら……」

 

 言いながらリオンはため息を吐く。

 リオンからもリュースからも溜息をつかれるリオンの姉妹にアンジェは思わず苦笑いを浮かべる。

 

 

「まぁいいや。片づけ済んだことだし俺が茶を淹れるよ」

「あら、リオンったらいつの間にそんな気が利くようになったの? 入学前はお茶なんか淹れた事なかったのに」

 

 リオンの言葉にリュースは感嘆の声を上げる。

 

「学園で素晴らしい茶の師匠に巡り合ってね」

「じゃあ姉ちゃんたち呼んでこようか?」

 

 テーブルを拭き終わった末の弟のコリンが言うとリオンが手で遮る。

 

「いや、いい。片づけ嫌でさっさと引き上げたアイツ等は放って置け」

 

 言いながらリオンは菓子折りの箱を出す。

 

「クラリス先輩がお土産にくれた高級菓子店の菓子、アイツ等には勿体ない。そして後悔するがいい。恨むなら手伝わなかった自分たちを恨むんだな」

 

 言いながらリオンが意地悪い笑みを浮かべると、アンジェとリュースは顔を突き合わせ呆れを含んだ笑みを浮かべるのだった。

 

 数分後、リオンが茶の準備が済み皆に振る舞うと、皆菓子に舌鼓を打ち、カップに注がれた茶と皿に盛られた菓子が無くなる頃にはアンジェはリオンの家族(ただし姉妹は除く)とすっかり打ち解けていたのであった。

 そうしてバルトファルト邸の夜は更けていくのであった。

 

 

 

 

 

 あれから数日。

 

「ふあぁ……。おはよ、アンジェ」

「おはようリオン。もうすぐ朝飯出来るから席に座って待っててくれ」

「アンジェも完全にうちの台所に馴染んでんな。ってかそこ迄してくれなくてもいいんだぞ?」

「いや、私が好きでやらせて貰ってる事だ。私は実の母というものを知らんからな。だからリオンのおふくろ様の手伝いを出来るのが嬉しいんだ。夢だったんだ。母と呼べる人と出会えるのが」

 

 アンジェの言葉にリュースは、こんなに良い子がお嫁に来てくれるなんてと感激し通しで、アンジェの事は実の娘以上に可愛がっていた。

 すっかりバルトファルト邸に馴染んでたアンジェは今朝もリュースとともに朝食の仕度を手伝っていたのだった。

 アンジェは元から院で暮らしてた時は皆で家事分担してたのもあって、その時と同様当たり前のつもりで手伝っての事なのだろうが。

 

 そうした心御がけもあってリオンの家族にアンジェの評判は上々。

 先に述べた様に母リュースは勿論、男衆からの評価も。

 特に末っ子のコリンは普段から実の姉たちに邪険にされていたのもあってか、優しく可愛がってくれるアンジェの事を甚く気に入ってた。

 

「アンジェ姉ちゃんはリオン兄ちゃんのお嫁さんになるんだよね? じゃあ僕のお姉ちゃんになるんだよね? 嬉しいな僕アンジェ姉ちゃんみたいな優しいお姉ちゃん欲しかったんだ」

 

 ――とまで言うほどだった。

 

 

 問題は姉のジェナである。

 アンジェの方はリオンの家族と言うことで仲良くしたいとの思いで歩み寄り距離を詰めようとするのだが、ジェナの方が避けるのだ。

 ジェナは学園の悪しき風潮に毒されてるのもあって平民のアンジェとなんか仲良く出来るかと言う思いなのだろうか。

 その一方でアンジェがクラリスに可愛がられてるのも知ってるので、下手に邪険にしてクラリスを敵に回したくないと結果避ける形に。

 ジェナと打ち解けられ無いことにアンジェは申し訳なく思ってたが、コレに関してはリオンとリュースもむしろ申し訳ない気持ちに。

 なのでリオンはアンジェとジェナを取り持つのは諦めた。アンジェは諦めるつもりは無いようだがコレに関しては学園に戻ってからも顔を合わせる機会があるだろうからと。長い目で見ることに。

 因みに妹のフィンリーとは可もなく不可も無くと言った感じで。

 要領の良い妹なので本能的に何かを感じ取ったのかもしれない。

 

 そうして概ね問題無くバルトファルト邸での日々は過ぎていき、夏季休暇も残り数日になったある日、公爵家からの使者が訪れる。

 その知らせにリオンは頭を抱える。

 

「何で王子様ぶっ飛ばしたのに昇進するんだよ……」

 

 この件に関してはレッドグレイブ公爵が骨を折ってくれたのは勿論だが、クラリスの実家のアトリー家もまた娘の恩人の為と上奏してくれたようで。

 アトリー家の話を聞き、先日訪れてきたクラリスが言いかけてたのはコレの事だったのかと。

 さらにはユリウスまでも自分を諫めてくれた忠義者を処罰など有り得ないと庇い立てしてくれたそうなのだ。

 結果処罰無しどころか王子の愚行を諫めた騎士としての評価からの昇進。

 処罰無しには喜ぶべきなのだろうが出世に伴う重い責任等負いたくなかったリオンはこの結果に気落ちする。

 だがアンジェは満更でもないようである。

 

「全く、昇進したのに気落ちするなんて。でもリオンらしいと言えばリオンらしいな。だが私は正直嬉しさの方が大きいんだ。だってこれでリオンは退学せずに済んでまた一緒に通えるんだろ? それに何より、公爵様や伯爵様と言った偉い人たちがリオンの凄さを認めてくれると思うと素直に嬉しいんだ」

 

 そう言ってアンジェが嬉しそうに微笑むと、リオンは溜息一つ吐きつつも微笑みで返す。

 

「そうだな。ここは素直にアンジェとの学園生活を引き続き楽しめることを喜んでおこうか」




コレにて夏季休暇編はおしまいです。

次回からは二学期編です。

今回は投稿が少し遅れてしまって申し訳ありませんでした。
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