チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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34、依頼受領

「その空賊討伐。私も、我がレッドグレイブ家も合力いたしましょう」

「オリヴィア様……!?」

 

 立ち去ろうとするカーラの前に扉を開け姿を現したのはオリヴィアだった。即座にカーラは半ば条件反射の様に片膝を着きこうべを垂れる。

 学園に在籍する生徒の中で最上位の爵位である公爵家の令嬢と、平民特待生という例外を除けば最下級貴族である準男爵の令嬢、その身分差を思えば当然の行動で。

 だがそれだけではないのかもしれない。先ほど迄泣き腫らした顔を見られたくないという思いもあったのだろうか。

 そんなカーラのもとにオリヴィアは歩み寄り手を取り引き立たせる。

 

「カ-ラさん。お久しぶりです。あの日ダンジョンでお会いして以来ですね」

「お、覚えていてくださったんですか……!? そ、その節は大変お世話になりました」

「良いのですよ。そんなに畏まらなくても。それより改めて申しましょう。その空賊討伐、我がレッドグレイブ家も合力いたしましょう」

「で、ですがオリヴィア様。相手はこの国でも最凶とも言われる空賊……。その様な危険にオリヴィア様を巻き込む訳には……」

「我がレッドグレイブ家の力では頼りになりませんか?」

「い、いえそんな滅相も……!」

「何もたった今ここで思い立っての申し出ではありませんよ? 空賊はこの国を蝕む病巣。そしてそんな空賊と手を組む貴族の風上にも置けぬ者もまた然り。オフリー伯爵家と空賊との繋がりは以前から噂されており、何れ向き合わねばならぬ問題でした。討伐も不正貴族の断罪も貴族として課された責務でもありますから。更に言えばこの討伐により見込める利なども含まれてのものです。だから貴女の為だけという訳ではないのですよ。むしろ私からカーラさんに協力をお願いしたい事があるくらいです」

 

 オリヴィアの言葉にカーラはその言葉に確認求めるように視線を返す。

 

「オフリー伯爵家と空賊を討伐する為には現状幾つかピースが足りない状態なのです。その欠けたピースを埋めるための協力をお願いしたいのです」

「公爵令嬢様の願いとあらば私にお断りする理由はございません。ですが、私如きに務まるものなのでしょうか?」

「ええ、むしろ貴女にしか、カーラさんにしかできない事です。オフリー伯爵令嬢の傍らで取り巻きを務めてきた貴女にしか」

 

 オリヴィアの言葉にカーラは息を飲む。

 

「それは、内部告発……という事、でしょうか?」

 

 カーラの問いにオリヴィアは真剣な面持ちで頷く。

 

「言ってしまえば主に対する反逆、裏切りです。例えどんな悪しき主であろうとそれ相応の覚悟が求められるもの。それでも受けていただきたいのです。この国の為に。そして何より……」

 

 言いながらオリヴィアは視線を動かす。カーラもつられる様にオリヴィアの向けた先――アンジェに視線を向ける。

 

「カーラさん、貴女と貴女を思ってくれるアンジェの為にも」

 

 オリヴィアの言葉に、アンジェの尚も祈るような願うような眼差しに、応える様にカーラは頷く。

 

「分かりました。公爵令嬢様たっての願い、このカーラ・フォウ・ウェイン謹んで承ります。そして――」

 

 カーラはアンジェとリオンの方に向き直る。

 

「先程は折角差し伸べてくれた手を振り払ってしまい、好意を無碍にするような物言いしてしまって申し訳ありませんでした。一度お断りしておきながら手前勝手で恐縮ではありますが改めてお願い申し上げます。どうか、私を、オフリー伯爵家の呪縛から救ってください」

 

 カーラが言い終わるや否やアンジェは駆け出しカーラを抱きしめる。

 

「良かった! よく言ってくれた! よくぞ決心してくれた!」

 

 アンジェの眼からは涙が再び溢れ出し、そしてそれはカーラも同様だった。

 二人して固く抱き合い涙を流すのだった。

 

 抱き合う二人を見詰めながらリオンは安堵した様に優しい笑みを浮かべる。

 そんなリオンに向かいオリヴィアが語り掛ける。

 

「バルトファルト男爵。改めてお願いします。此度の空賊討伐、共に力を合わせ必ずや成し遂げましょう」

「ありがとうございますオリヴィア様。公爵家に合力頂けるのであればこれほど心強い事はありません」

 

 オリヴィアとリオンの互いの意思確認と決意を耳にしアンジェが呟く。

 

「やっぱり凄いなリビアは。公爵令嬢の名に恥じない正に貴族の鑑だ。それに比べ私は情けないな。結局リオンに頼る事しか出来ずそれでもカーラの心に届かなかった……」

「そんなことない!」

 

 アンジェの自嘲気味な呟きを遮るように声を上げたのはカーラだった。

 

「私! アンジェリカさんが手を差し伸べてくれてなければあの性悪女に言われるがままだった……! 今私がここに居るのはアンジェリカさんのお陰よ! 勿論、空賊相手に事に当たられるオリヴィア様とバルトファルト男爵には言葉で言い表せないほど感謝してるわ! でもアンジェリカさんにもお二人に負けないくらい感謝してるの! ありがとう、アンジェリカさん……」

「カーラ……」

「それで、あの……」

「うん? 何だ? 何でも言ってくれ」

「さっき……私のこと友達って……」

 

 カーラの言葉にアンジェは得心がいき、笑顔を見せる。

 

「ああ! カーラは友達だ! 少なくとも私はそう望んでるし思ってる! 願わくばカーラ、君も私のことを友達と思ってくれると嬉しい。私のことをアンジェと呼んでくれないか」

 

 笑顔を見せるアンジェにカーラも笑顔で答える。

 

「ありがとう、アンジェ……。これからもよろしくね」

「ああ! こちらこそよろしく頼む! カーラ!」

 

 

 

 

 

 夜、リオンの自室。

 ベッドで仰向けになりながら学園祭初日の今日のことを思い返していた。

 リオン達のグループで企画した喫茶店はクラリス達の思わぬ助っ人のお陰もあり大盛況。

 そんな中、迎えた客に予期せぬ大物である王妃のお忍びの来店に戸惑いつつもアンジェのことを思いの外気を掛けてくれたことに安堵したこと。

 更にはダンジョン実技授業で知り合った少女――カーラの来店により空賊の征伐を図らずもオリヴィアの公爵家の艦隊とともに受けることになったこと。

 それに当たり討伐に向けて、扉には【closed】の札も掲げ打ち合わせをも行った。

 想像以上に濃い一日だったな、と。

 

『何を考え込んでおられるのですか。それともお悩みですか?』

「ルクシオン……」

 

 リオンの考えを見透かすかのように語り掛けてきたルクシオン。

 

「別に悩みってほどのことじゃねぇよ。チョット思い出してたんだよ前世の事……」

『また前世ですか。正直未だ疑わしい話と思ってますが』

「未だ信じようとせず疑ってるお前も大概だけどな」

『それで、この空賊討伐の件もゲームに有ったイベントなのですか?』

「まあな。だけどもう現時点でゲームの空賊イベントとは大分別物の印象だな」

『と、仰られますと?』

「ゲームのカーラは本当あの性悪の手下って印象しかなかった。まぁそっちの方でも無理矢理従わされてたって感じではあったが。でも現実のカーラさんに会うまであそこまで重い背景があると思わなかったからさ……。何よりアンジェのことをとても気遣ってくれて。それはアンジェの方も同じで……」

『気になるのですか?』

「そりゃそうさ。アンジェには心許せる友人は一人でも多い方が望ましいし」

『そう言う意味で申したのではないのですが……。それよりご覧いただきたい映像があります』

 

 言ってルクシオンは中央のレンズから映像を投射する。

 映されたのは学園のティールームの一室、それも最上位クラスの一室で上位貴族でもなければ使用の許可も貰えない場所、そこにカーラは居た。とても緊張した面持ちで。

 それと言うのも共に部屋に居た相手を思えば無理も無い事であったが、その事にリオンも驚きの声を上げる。

 

「ギルバート・ラファ・レッドグレイブ!? オリヴィア様の兄で公爵家の次期当主の!? いや、状況考えれば有り得るのか……」

 

 リオンの元を訪ねてきたカーラに端を発した空賊及びその背後にいるオフリーの討伐。そこにオリヴィアの実家であるレッドグレイブの艦隊も加わるのである。公爵家の次期当主が出てきても何ら不思議ではないだろう。

 

 

「……っと、それよりどういう事だこの映像?」

『私がドローンに命じ撮らせましたが何か?』

「いや、何か?じゃねぇだろ。お前これ盗撮じゃねぇのかよ?」

『それは公爵家もお互いさまでは? 後ろ暗い事でも無ければマスターやオリヴィアに内密でカーラと出会ったりはしないでしょう』

「どういう事だ?」

 

 

 ルクシオンからの返事はない。

 代わりとばかりに映像に合わせ音声が再生される。

 

 

《急な呼び立てしまって申し訳ない、ウェイン嬢》

《い、いえ……公爵家の次期当主様の御用命とあらば……》

 

 気さくに話しかけるギルバートに対し固く緊張を滲ませるカーラ。彼女にしてみれば圧倒的な身分差も相まって審問や尋問を受けてるかのようなプレッシャーを感じてるのだろうか。

 そして始まった話し合い。続けられていく中、やがて話題はリオンのことに。

 

 

《バルトファルト男爵とは親しいのかい?》

《いえ、男爵とはそれほど親しいわけでは……》

《だが彼の恋人であるアンジェリカ嬢とは親密な仲だと聞いたが?》

《そう……ですね。アンジェは私のこと友達だと言ってくれました。だから私もその思いに応えたいと思ってます》

《それで十分だよ。バルトファルト男爵の恋人のアンジェリカ嬢と親しいのなら彼も君に十分心を許しているだろう》

《そう、かも知れませんね》

 

 カーラの声色にはギルバートの真意を計りかねてるかのように戸惑いの色が感じられる。

 

 

《バルトファルト男爵についてだが、ウェイン嬢。彼の強さについてはどう見るかね?》

《男爵の強さですか? 強いと思います。決闘で殿下たち五人相手に打ち勝った武勇伝はこの学園で知らぬものは居ない程ですし》

《そうだね。学園では敵なしと言える程に強いのは周知の事実だね。それ以上の相手、例えば空賊相手にどの程度戦えると思うかい?》

《私では測りかねます。ただ、男爵自身は大艦隊相手でも恐れるに足らないと自信を持って豪語されてました。御本人は百の船、千の鎧相手でも後れを取らないと仰ってましたが流石に大言壮語が過ぎるかとも思いますが》

 

 カーラの返答にギルバートの顔色が変わる。

 

《ウェイン嬢は……それが本当に大言壮語だと? 若しそれが大言壮語でないとしたら、バルトファルト男爵の持つロストアイテムこそ空賊などよりはるかに恐ろしい脅威だと、そう思わないかね?》

 

 言いながらギルバートは懐に手を入れる。そして取り出されテーブルに置かれたのは掌に収まるほどの小型の拳銃――所謂デリンジャーと呼ばれるもの。

 

《この銃は見ての通り掌に収まるほど小さく、それ故隠し持つにも最適で暗殺にも用いられてる。反面威力も低いが、それを補う為に弾丸には毒と呪術による二重の工夫も凝らしてある。密接状態の超至近距離から撃てば急所でなくとも確実に相手の命を奪える様に》

 

 目の前に差し出された命を奪う為の鉄の塊にカーラは思わず息を飲む。

 

《ウェイン嬢、若しこの先バルトファルト男爵が王国にとって脅威たりえる危険な存在だと公爵家が判断した場合、この銃爪を引く役目を受けて貰いたい。男爵の恋人のアンジェリカ嬢に友人と認められた君にしか頼めない事だ》

 

 ギルバートの言葉に驚き暫し押し黙っていたカーラはやがて意を決したようにデリンジャーに手を伸ばす。

 

 

《公爵家の命に準男爵家の娘に過ぎない私にそれを拒絶する選択など選べましょうか……。ですが……》

 

 カーラは差し出されたデリンジャーを手に取るとその銃口を自分自身の胸に押し付ける。そして通常とは異なる持ち方にその銃爪には人差し指ではなく親指を掛け。

 

《ウェイン嬢!?》

《男爵は……アンジェにとって誰よりも大切な恋人なんです。彼をアンジェから奪いアンジェを悲しませるような命令には従えません……! 例えその事で公爵家に背いた責を咎められ、その代価に命を差し出すことになろうとも……!》

 

 言い放ったカーラは恐怖に耐えるかのように瞼を固く閉じ全身をも震わせていた。

 震えながら尚も銃口を自身の胸元に突き付ける姿は今にも何かの拍子に銃爪を引いてしまいそうな危うさで――

 

《そこまで! 君を試させてもらったんだ!》

《試し……ですか?》

《ああ……此度の空賊討伐、君の素性を思えば申し訳ないが慎重な対応も必要なの分かってもらえるね? あと、先ずは銃を胸元から放してもらえるかな……》

 

 ギルバートの言葉にカーラは自身の胸元に突き付けた銃をゆっくりと放しテーブルに置く。その銃口はカーラ自身を向いたまま。

 

《アンジェリカ嬢は妹のリビアにとっても大事な友人だ。妹の友人を悲しませるようなことは本意ではないのは此方としても同じだ》

 

 先ほど迄の余裕があった表情とは打って変わり今は逆にギルバートのほうが緊張した面持ちでカーラの返答を待ってるかのよう。

 

《閣下の真意を見抜けず御無礼致しました》

 

 カーラの言葉にギルバートは胸を撫で下ろす様に安堵の表情を見せる。

 

 

《ウェイン嬢にとってアンジェリカ嬢は大切な存在なのだな》

《ハイ。彼女は私にとっての太陽です。アンジェが手を差し伸べてくれなければ今も私は闇を彷徨うかの如き人生を歩み続けてたでしょう》

《そうか……。時間を取らせてしまったね。分かった。もう退出しても、下がってもいいよ》

 

 ギルバートの言葉にカーラは立ち上がると深く一礼し「失礼します」と告げ部屋を後にしたのだった。

 そしてルクシオンにより投射された映像もそこで終わる。

 

 映像を見終わった後もリオンは考え込むように暫く黙っていたがやがて口を開く。

 

「ルクシオン。この空賊討伐、必ず成功させるぞ」

 

 言い放ったリオンの目には強い決意が宿っていた。

 




中々書き上がらず投稿遅れてしまって申し訳ありませんでした。
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