チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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35、港

 数日間にわたって行われた学園祭も無事幕となった最終日の夜、リオン達のグループはクラリス達も招き共に打ち上げを行っていた。

 初日にクラリス達が手伝ってくれた礼と言うのは勿論、クラリスの取り巻きの一人であるダン・フィア・エルガーのエアバイクレースの優勝祝いも兼ねて。

 様々なイベントが目白押しの学園祭で最も注目を集めてたのがエアバイクレースであり、ダンはそのレースで見事優勝を決めていたのであった。

 

「優勝おめでとうございます先輩」

「流石は姉御の取り巻きだ! 兄さんの走りっぷり実に見事だったぞ!」

 

 リオンとアンジェの祝辞にダンもその主であるクラリスもとても満足気な笑みで返す。

 

「ありがとう男爵、アンジェリカ嬢。お嬢様と共に応援してくれた声援、正に百人力だった!」

「二人とも一緒に応援してくれてありがとうね」

「何の。私達こそ姉御に特等の観客席に招待して貰えたからな。迫力満点で一緒に観戦しながらの応援、実に楽しかった!」

「アンジェったら前のめりで夢中になって応援してたモノね」

 

 アンジェがレースの様子を思い出しながらその顔に興奮の思いを浮かべ、クラリスもその時を思い出しながら楽しそうに笑みを浮かべる。

 

 

「まぁジルクの野郎を叩き伏せられなかったのは心残りですがね」

 

 クラリスの元婚約者で婚約破棄となったジルクはエアバイクの操縦に長けてて、一学期の頃からその名声は轟いており学園祭での出場活躍も期待されてたのだが――

 

「いいじゃないの。その分こってり絞られてるみたいだから。夏季休暇どころか二学期始まっても引き続きしごかれてて、お陰で学園祭にも参加出来ず。正直いい気味って一寸思っちゃうわね」

 

 言いながらクラリスは少々意地の悪い笑みを浮かべる。

 ジルクはクラリスへの婚約破棄に加え王子を諫めなかったこと、決闘の内容も騎士道にあるまじき内容だったこと等から、罰として性根を叩き直すためと新兵しごきの教練合宿に放り込まれ徹底的にしごかれたのだった。

 しかも教練中の模擬戦でジルクはチーム参謀を務めたのだが、そこでまた手段を択ばぬ戦いぶりで勝つには勝ったがド顰蹙を買い、本来夏季休暇のみだったのが延長を言い渡され結果学園祭に参加できず。

 

「そ、そうですね。お嬢様がそれで良いのなら取り巻きの自分が口出すことではありませんね」

 

 ジルクの件は一通り手打ちでケリは付いてるがそれでもやはりまだ色々思う所はあるのだろう。

 特にエアバイクはジルクがそれほどまでの腕を磨けたのも婚約者時代クラリスがエアバイクの提供もメンテも練習コースの使用申請もあらゆる面で協力を惜しまなかった。

 ジルクの卓越したエアバイクの腕はクラリスの献身抜きには語れないものだった。

 それだけに裏切りにも等しい婚約破棄は取り巻きのダンには許せず、ジルクが得意とする土俵であるエアバイクで鼻っ柱を叩き折ってやりたかったのであろう。

 とは言え主であるクラリスが納得してるし、何より皆して自分を祝ってくれてるのでこれ以上は野暮であろうと腹に収めるのであった。

 

 

「しかしエアバイクと言うのは良いものだな! 風を切って疾走する姿は本当に格好良かった!」

 

 レースを思い出しながら興奮気味に話すアンジェを見詰めるクラリスは微笑みながら口を開く。

 

「アンジェは随分気に入ったみたいね」

「ああ! 叶うなら自分でも運転してみたいぐらいだ!」

「うふふ、相変わらずお転婆さんなんだから。でもエアバイクの運転って結構難しいのよ? それにアンジェだったら自分で運転するより……」

 

 言いながらクラリスは視線を移し、釣られてアンジェも移した先に居たのはリオン。

 クラリスの意図を察した様にアンジェが声を上げる。

 

「リオンもエアバイク運転出来るのか!?」

「勿論さ。そうだな、二人してエアバイクでドライブってのも楽しそうだな」

 

 リオンの答えにアンジェはその顔に喜び一杯の満面の笑みを浮かべる。

 

「二人でドライブか! 確かにそれは凄く楽しそうだな!」

「相変わらずお熱いわねお二人さん。じゃぁそのエアバイクは私からプレゼントするわ」

「え? そんな申し訳ないです。いつもお世話になってるのに……」

「何言ってるの。男爵、あの決闘でアンジェが私の為に怒ってくれて男爵が戦ってくれた恩は、私から言わせれば未だ全然返し切れてないくらいなのよ。何より私の可愛い妹分のドライブデートなんだから最高のエアバイクで楽しんで欲しいのよ」

 

 言いながら優しい笑顔を浮かべるクラリスに、リオンはここで断って好意を無碍にするものではないと思い素直に受け入れる。

 

「ありがとうございます。御好意遠慮なく受け取らせていただきます」

「ハイどういたしまして。それじゃぁ数日中には届くと思うから楽しみに待っててね」

「ありがとう姉御。いつもいつも何から何まで」

「いいのよ。エアバイクが届いたら二人で目一杯楽しんできてね」

 

 言ってクラリスはウインクしてみせるのだった。

 そうして学園祭を締めくくる打ち上げの晩は楽しく過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 夜が明け、学園祭も終わり迎えた連休初日の朝。

 アンジェとカーラは二人、リオンの待つ港へと向かっていた。

 

「ね、ねぇアンジェ。やっぱり貴女は船に乗らない方が……」

「何を言う。リオンとカーラが赴くのに私だけ一人待ってなどいられるものか。それに自分だけ安全な場所と言うのは性に合わんからな」

「でもバルトファルト男爵は実際船と鎧で戦う訳だし、私は罠に嵌った様に装うために必要だし、でもアンジェは――」

「だけどあの性悪から私も船に乗せるよう言われてるんだろ? その私が学園に残ったりしたら疑われるだろ」

 

 オフリーの令嬢はリオンにもクラリスにも逆恨み染みた思いを募らせていたので、その悪意は二人が大事にしてるアンジェにも向けられていた。故に空賊を使った罠にも共に嵌めようとしていた。

 

 

「確かにそうだけど、学園の寮には残れないけど……。でもそれならアトリー家のお嬢様にお願いして屋敷にかくまってもらうとか……」

「そうだな、クラリスの姉御なら喜んで協力してくれるだろう。と言うかむしろ乗り気で受け入れてくれて、はしゃぎそうだな」

 

 言いながらアンジェが苦笑いを浮かべるとカーラも釣られて苦笑を浮かべる。

 

「まぁそんな構いたがりなとこも今では姉御の好きな部分でもあるが……っと話が逸れたな。君が私のことが気がかりなように私だって君が、カーラが気がかりなんだ。顔色だって……ほら、昨晩も心配であまり寝られなかったんじゃないか?」

 

 言いながらアンジェはカーラの頬に手を伸ばす。

 

 

「……ありがとう気遣ってくれて。でもなら尚更分かって欲しいの。万が一にも男爵の鎧を抜けて空賊の鎧が船に迫りアンジェの身に何かあったらと思うと……」

「大丈夫だ! リオンなら万が一も無いって私は信じてる!」

 

 アンジェは自信一杯とばかりに自分の胸を叩いて見せる。

 そんな自信一杯のアンジェにカーラは一瞬瞠目しそして覚悟を決めた表情を見せる。

 

「強いのねアンジェは……。そんなにも強い信頼を男爵に寄せて信頼して任せられるなんて……。それでも若しもの為に渡したいものがあるの」

 

 言いながらカーラはあるものをアンジェに手渡す。

 それはハンカチより一回り大きめの布。

 

「コレは……バンダナ? 広げてみても?」

 

 カーラがその問いに頷くとアンジェは広げて見せる。そこには鮫と翼をあしらったデザインのマークが描かれていた。

 

 

「それは空賊団ウイングシャークの団員の証のバンダナ。奴らは内通者と思い込んでいる私の顔も名前も知らないわ。万が一奴らに鎧で乗り込まれたらそれを見せて。そうすれば奴らはアンジェが内通者だと思い込んで手出しはしないわ」

「成程な。ところでコレ一枚だけなのか?」

 

 アンジェの問いにカーラは頷く。

 

「待て、それじゃ君はどうなる?」

「アンジェ。私のことは良いの。大事なのは何よりも貴女の安全。アンジェにだけは万が一もあってはならないの!」

「カーラ……。ありがとう気持ちは受け取った。だがコレは受け取れない」

「アンジェ!?」

「言ったろう。私はリオンを信じてる。だから万が一も無いと。それに万が一、いや億が一があったとしても、それで私一人助かろうなどとは思わない」

 

 言ってアンジェはバンダナを突き返すが、その顔にはカーラを安心させようと自信に満ち溢れた笑みを浮かべて。

 

「アンジェ……。分かったわ。なら私も今度こそ本当に覚悟決めるわ」

 

 そして返されたバンダナを受け取ると、勢いよく引き裂いた。

 

「カーラ!?」

「アンジェが男爵を信じるように私も信じる! この引き裂かれたバンダナの様に、男爵が空賊団を破ってくれると信じるわ!」

 

 アンジェは一瞬呆気にとられたかの様に目を見開いていたが直後声を上げて笑う。

 

「ハハッ! カーラ、君も中々豪気だな! うむ! リオンを信じろ! 私が愛し信頼する私の最強最愛の騎士は必ずややってくれると!」

 

 アンジェが快活に笑うとカ-ラも微笑みで返すのであった。

 

 

 

 

 

「アンジェ~、カーラさ~ん」

 

 港で待っていたリオンはアンジェとカーラの姿を見つけると声をかける。

 

「おお、リオン。出迎えありがとう。待たせてしまったか?」

「いや、ほぼ時間通りだから気にしなくて良いよ。アンジェの方は体調万全そうだな」

「うむ、昨晩の打ち上げの後直ぐにベッドに入ってしっかり寝たからな」

 

 アンジェの元気良い答えにリオンは満足げに微笑み頷くと視線を隣のカーラに移す。

 

「カーラさんの方は大丈夫?」

 

 アンジェの体調万全に比べるとカーラの方は少々顔色も悪く見える。

 

「お気遣いありがとうございます」

 

 礼の言葉を述べ頭を下げるカーラ。確かに顔色に少々不安が伺えるがその瞳には生気が感じられ覚悟が垣間見えた。

 隣に立つアンジェも励ます様にカーラの肩を抱く。

 

「それにしても男爵の船、改めて目の当たりにすると大きいですし立派ですね……」

 

 カーラがリオンの船――パルトナーを見上げ呟くとリオンと、そしてアンジェも満足げに頷く。

 そして引き続き視線を港に巡らせながら呟く。

 

「やはりまだここにはレッドグレイブ家の艦隊は……」

「まぁここで一緒だと気付いてるってバレかねないからね。大丈夫討伐時には合流できるはずだから」

 

 リオンの言葉にカーラはあらためて頭を深く下げる。

 

「此度の討伐、改めてよろしくお願いします」

「うん。文字通り大船に乗ったつもりで任せてくれればいいよ。コレで後は……」

「あ、ハイ。ええっと、あ、いらっしゃいました」

 

 リオンが視線を巡らせるとカーラも視線を巡らせるとある人物を発見する。

 それは先日の決闘騒ぎでリオンに叩き伏せられた五人のうちの一人であるブラッドだった。

 此度の空賊の罠の黒幕のオフリーの令嬢の元婚約者。オフリーの令嬢は婚約破棄の腹いせに纏めて罠に嵌めて潰すつもりなので。

 リオンとしては決闘の因縁から顔を合わせたくないし、戦闘でも別に当てになるわけでもないのだが、罠に嵌っているように見せるため企みに乗ってやることに。

 ブラッドはリオン達の一団にアンジェの姿を見つけると、やはりまだ未練があるのか一瞬顔に笑みを浮かべる。

 だが直後隣にリオンの顔を見つけ、更にリオンが煽る様に肩を抱いて見せたのであからさまな不機嫌顔に。

 それでも完膚なきまでに叩きのめされ、更には残る王子達も完敗しリオンとアンジェの絆も見せつけられてるので一応頭では納得してる。尤も心までそうとは言い切れないようだが。

 ブラッドはそんな苛立ちをぶつける様に視線をカーラに向け睨み付けると、すぐさまリオンとアンジェが庇うように立ち塞がる。

 自分を打ち負かした相手と自分を振った相手に同時に睨まれブラッドは思わず尻込みする。

 

「オイ、アンジェの友人に向かって何だその目つきは」

「私の大切な親友に失礼な視線向けるな! 大体さっきのも何だ! 未だ私に未練があるのかこのナスビ野郎!」

 

 リオンとアンジェが牽制の言葉を投げかけるとブラッドの顔に何故か笑みが浮かぶ。そしてその反応に二人は困惑の相を浮かべる。

 

 

「アンジェリカさん、また僕をナスビと呼んでくれるんだね。最初呼ばれた時はショックを受けたりもしたけど改めて思い返すとステキなあだ名をいただけたと気付いたんだ」

 

 言いながらブラッドは荷物からタッパーを取り出し、蓋を開けるとそこには綺麗にスライスされたナスビの漬物が。

 

「実はあの後夏季休暇中漬物作りにハマってしまってこれが中々に奥深い! 最近コツが分かってきて美味しく漬けられるようになってきたんだ。見てくれたまえ色も僕の髪の様に綺麗な紫色に!」

 

 そして茄子漬にピックを刺すと片膝を着き献上する様にアンジェに差し出す。

 アンジェはあまりの予想外の展開に困惑しつつも食べ物を無碍には出来ず「い、頂こう……」と手を伸ばす。

 そして口にして思わず呟く。

 

「……美味いな」

 

 アンジェの言葉にブラッドは満面の笑みを浮かべる。

 

「おお! 嬉しいお言葉! ささっ! 折角だからバルトファルトも味見してくれないか」

 

 勧められリオンも口にする。

 

「……イケるな」

 

 二人困惑しながらも素直にその味を褒める。

 

「カーラさんも食べてくれないか。さっきは失礼な視線送ってしまって申し訳なかったね。よく考えれば再会の機会作ってくれたようなものだからむしろ礼を言わなきゃいけないくらいだったのに」

「い、いえお気になさらないでください。では、いただきます。……美味しいですね」

 

 ブラッドに漬物を勧められるという予想外過ぎる展開に皆困惑の色を隠せなかった。

 

 

「え、えっと……一応確認しておきたいんだが、私への未練はもう振り切ってくれたんだよな?」

 

 アンジェが恐る恐る聞くとブラッドは切なげな表情を浮かべつつその眼差しはどこか遠い目で。その一連の仕草にナルシスト特有の自己陶酔感が滲み出ていてアンジェは顔を顰めかける。

 だが顰めかけで済んだのはブラッドもそれに気付き自分の世界に入るのを止めたからだろうか。

 

「殿下達と共に誰がアンジェリカさんを振り向かせられるか競い合ったのも今では遠い記憶……。結局アンジェリカさんを射止めたのは僕たちの誰でもないバルトファルトだったけどそれも当然だったと、やっと最近になって受け入れられるようになったんだ。完膚なきまで叩き伏せられ格の違いを見せつけられ殿下も認めたんだから僕も何時までも引きずっていられないよね。この失恋も良い思い出だったと言えるように前に進んでいくよ」

 

 言いながらブラッドはアンジェに向けていた視線を手元のタッパーに移すのだった。

 

「そ、そうか……? そうか……」

 

 そう呟いたアンジェはどういう顔をしていいか分からないと困惑した表情だった。

 

「え、ええっと、とりあえずこれで面子は揃ったみたいだし船に乗ろうか?」

 

 リオンが微妙な場の空気を換えるのも兼ね声を上げるとブラッドが待ったをかける様に声を上げる。

 

「待ってくれ。実はあともう一人来るんだ」

 

 丁度その時、此方に向かい駆け寄ってくる靴音と声が。

 

「悪りぃ、遅れちまったみたいだな」

 

 声の主はグレッグだった。




学園祭の終了と空賊編の本格スタートです。
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