チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり 作:julas
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空賊討伐に向けてのメンバーも揃ったので、リオン達はいざ乗船しようとしたところ、意外な声が掛かった。
それは追加の乗員として名乗りを上げた者がいたからで、その顔にアンジェは不満の滲む声を漏らす。
「何で脳筋赤毛がここに……?」
名乗りを上げたのはグレッグ。
過去に一方的に想いを寄せられ付きまとわれてたアンジェが顔を顰めると、即座にリオンが庇うように前に出、カーラも怯えを滲ませながらもアンジェを護るように前に出る。
その様子にグレッグは気まずそうな表情を浮かべる。
「あー、そうだよな先ずは詫び入れんのが筋だよな……。すまなかった! 一方的に想いぶつけて付きまとったりして!」
グレッグが勢い良く頭を下げると一同呆気にとられた表情を浮かべる。そしてアンジェが軽く溜息をつきながらリオンとカーラの肩に手をやると察した二人が横にずれる。
「それは私への未練は断ち切り、リオンと私の仲も認めるという解釈で相違ないな?」
「ああ、それで合ってる。本当に申し訳なかった」
「……そっちが素直に詫びるのなら此方もこれ以上とやかく言うつもりはないが……」
言いながらアンジェは視線をリオンに向ける。
「アンジェが許すってんなら俺がとやかく言う筋合いじゃねぇからな」
アンジェからもリオンからも許しが得られるとグレッグは「恩に着る」と改めて頭を下げる。
「ここに来たって事は空賊討伐の助太刀って事で良いんだよな? で、鎧は?」
相手は多数の鎧を有する空賊である。並の破落戸やモンスターを相手にするのとは訳が違う。
更に言えば学園での決闘では見せる事が無かったが鎧の本領は人の数倍の巨体がもたらす人知を超えたパワー以上に、空を自在に駆ける力。
空を舞台の戦いを得意とする空賊が当然のように用い、対抗するためにはこちらも鎧は必須。
だがリオンが鎧を口にすると気まずそうにグレッグは視線を逸らす。
「無いのかよ!?」
「し、仕方ねぇだろ! 俺の鎧はお前に完膚なきまで叩き壊されちまったんだし!」
言われてリオンは決闘でバックブリーカーで真っ二つに叩き折ったのを思い出し若干気まずそうな表情に。
「悪い、言い方が悪かったな。鎧が壊されたのは勝負の結果だ。お前を責めるようなこと言えるような筋合いじゃねぇな。それに俺のこと助けてくれたんだろ? あの槍」
グレッグの言葉にリオンは一瞬目を見開き、暫し思いを巡らせる。
「あの槍の事……ジルクの事恨んでるか?」
「いや、悪いのは俺だ。俺が弱かったからだ。むしろ俺が不甲斐無いせいでジルクにあんな選択させちまって申し訳ないぐらいだ」
グレッグの返答にリオンの表情が若干和らぐ。そしてあの仕打ちを受けてそんなセリフ中々言えるものではないなと感心する。
「一応聞く。どういうつもりで空賊討伐に名乗りを上げた?」
「一つは言ってしまえば金だ。悪名高き空賊団で高額な賞金首も名を連ねていると聞く。あと、認めてもらいたい女が居るんだ。今の俺じゃ全然釣り合わなくて歯牙にもかけてもらえねぇ。だからその為にも」
「念のために聞くがアンジェじゃねぇよな?」
「ああ、違う。アンジェリカじゃない」
「ふむ……」
グレッグの顔を見ながらリオンは記憶を辿る。
それは二学期が始まった直後の事――
「久しぶりね。あと、私の言う通りになっちゃったわね」
「おう、久しぶり。全く、学園退学で悠々自適なスローライフ送れるかと思ってたんだがな……」
「若い癖に枯れたこと言ってるわね」
溜め息交じりのリオンの言葉に、呆れた口調で笑いながら答えるのはマリエ。
学園の外の大衆食堂で一学期同様、転生者仲間同士で席に着き会話を交わしていた。
「俺への報復とか家族に類が及ばないようにって公爵様に宮廷工作お願いするべく渡した金がデカすぎたのかな。それに加えクラリス先輩の実家と殿下迄も庇いだてて上奏してくれてさ」
「へぇ、殿下がね。良いとこあるじゃないあの王子様」
「そうだな。ぶっ飛ばした相手にそこまで持ち上げられるのも妙な気分だが。ま、世界の命運を握る主人公様のお相手としちゃ喜ばしい限りかな」
「それにアンタの恋人の悪役令嬢だって喜んでんじゃない?」
「まあな。コレに関しちゃ俺も嬉しいかな。折角彼女付きのバラ色の学園生活だ。こうなりゃとことん楽しませてもらうわ」
言いながら開き直ったように笑みを浮かべるリオン。
「恋人に喜んでもらえて良かったじゃない。私だって嬉しいわよ? 貴重な転生者仲間だからね」
「金蔓の間違いじゃねぇのか?」
「失敬なこと言わないでよ!」
「ハハッ、悪い悪い。冗談だ」
「全くもう……!」
言いながら頬を膨らませるが本気で怒ってるわけではなさそうである。
「それにお金に関してはアンタに頼りっぱなしでい続けるつもりも無いわよ。一応アンタが居なくなるの想定して今後のプランも建て直してたからね。その一環であの日以来夏季休暇中、私もダンジョンで稼がせてもらってるからね。アトリー先輩とその取り巻きさん達が広めてくれたおかげでヒーラーとして結構人気なのよ私」
夏季休暇中、リオンとアンジェが実家に帰省する前リオンとアンジェがクラリス達と合同パーティでダンジョンに潜った際、マリエも同行しその回復魔法を披露して見せ、それが切っ掛けでダンジョンでの良い資金稼ぎになってるらしい。
「へぇ、頑張ってるんだな。グレッグともそれで、ダンジョンで知り合ったのか?」
リオンの言葉にマリエは驚きの表情を見せるが直後リオンの右肩上――ルクシオンが姿を隠し浮かんでるであろう空間を見ながら納得いったように溜息をつく。
「別に責めちゃいねぇよ。さっきも言ったが主人公のオリヴィア様は順当にユリウスルート進んでくれてるし……いや、順当と言うとちょっと違うか? 何せゲームとは大分立場違うし。けどいい傾向ではあるよな。そんな訳だから他の攻略キャラに手を出しても今ならもう何の問題も無いからな。むしろルクシオンがスマンな。人のプライベートは尊重しろって言ってあるんだが……」
『不測の事態に備えて情報収集は欠かさないだけですが何か? それに集めた情報も必要がない限り他には漏らしません例えマスターにも』
ルクシオンの返答にリオンは呆れたように溜息をつくとマリエも乾いた笑みを漏らす。
「いいわよ私もそんなに気にしちゃいないから。何より一学期の頃、アンタが用意してくれたお金もルクシオンが用立ててくれたものでしょ。前にも言ったけどそれについては感謝してるんだから、それを思えば多少のことには目を瞑れるわよ」
『寛大な御対応痛み入ります。マスターもマリエを見習ってもっと私に感謝の意を表しても良いのでは?」
「お前こそその尊大な態度改めてマスターである俺を敬わんか」
軽口を叩き合う二人を見ながらマリエは苦笑を漏らす。
「で、グレッグとは上手く行ってんのか?」
話を戻すようにリオンが口を開くとマリエからは冷めた返事。
「上手く行ってるも何も別に付き合っちゃいなし今後も付き合うつもりもないわよ」
「え? 何だよ狙ってた攻略キャラとお近づきになれたのに付き合わないのかよ?」
「そうねぇ……入学直後の頃だったら諸手を上げて喜んでいたかもだけど……アンタにフルボッコにされた姿見ちゃったからねぇ……」
言いながらマリエはジト目気味の視線をリオンに送ると、リオンは気まずそうに頬を掻く。
「おまけにアイツ、勝手に決闘に乗っかってボロ負けしたもんだから実家から勘当、は免れたみたいだけど代わりに仕送りとか大幅に減らされちゃってね。とてもじゃないけど付き合ったって夢に見た貴族の御曹司の彼女の贅沢なお付き合いなんて、てんで見込めない状態だからね。だからそういうのは一切期待してないわよ。期待してないんだけどねぇ……」
言いながらため息を吐くマリエ。
「随分詳しいな? アイツから直接聞いたのか?」
「まあね」
「そんな事まで話したって事はアイツの方はお前に気を許してるって事なんか?」
「かもね。ダンジョンでモンスター相手に大怪我してたんで回復魔法掛けてあげたら懐かれちゃってね。それでその日お礼にご飯奢るから遠慮なく食えって言うから……」
溜息をつきながら語るマリエにリオンが察しがついたような表情を浮かべる。
「言われるまま本気出して食ったら、足が出ちまった、ってか?」
「アンタ相手に食べてたときと同じ感覚で食べた私も迂闊だったんだけどね。まぁ私が食べた分を私が払うみたいなものだったからいいんだけどさ。でもアイツは奢ると言った手前払えなかったから相当落ち込んでたけどね。まあ、そんな感じでそれっきりの縁だと思ってたんだけど……」
「その後も付きまとわれてるわけか」
「付きまとわれてるって程じゃないけど、ダンジョンではよく一緒になるし、学園内でも顔合わせる度に声かけては来るわね……」
マリエからの話を一通り聞きリオンは「成程な」と呟く。
「でもお前の方も満更でもないんじゃないのか?」
だがリオンの声にマリエは腕を組み難しそうな表情を浮かべる。
「そもそもアイツ、私のこと女の子扱いしてるのかも怪しいのよね。珍獣か何かと勘違いしてるんじゃないのかしら。人のことおもしれ―女呼ばわりしてたし」
その話を聞きながらリオンの脳裏に思い出されたのは、あの日ルクシオンから聞かされたアンジェが望まずして攻略キャラ五人とフラグを立ててしまった時の再生音声。
「そういや、あのヤロー前にアンジェに対してもそんなこと言ってたな……。でも、そう言う意味で言えば十分本気なんじゃねーのか?」
「かもしれないけど、まあ暫くは様子見ね。一旗揚げて惚れさせてみせるとか言ってたから、期待してないわって伝えといたんだけどね」
呆れ交じりに呟くマリエ。だが期待してないと言いつつもその瞳には何処か期待も滲んでるようにも見え、コイツも満更でもないのかなとリオンは思うのであった。
そんな事を思い出しながらリオンは改めて目の前のグレッグの顔を見詰める。
「動機理由は分かった。それでも鎧無しでどうするつもりだ?」
リオンの問いにグレッグは気まずそうに黙り込むも重い口を開く。
「その……他力本願でカッコ悪りいが、バルトファルトがデカい船持ってるって噂は聞いてたし、実際こんなデカい船持ってるくらいだから鎧も余計に持ってねぇかな、って……。た、確かに人頼みとかカッコ悪りいよ! だけど、はなっから諦めて動かないより人頼みでも何でも一歩踏み出さなきゃ何もならない! そうだろ!?」
少々楽観的なきらいはあるが、その一方で見栄や外聞をかなぐり捨ててでもやろうとする気概は感じる。
「分かったよ。とりあえず乗せてやるよ。何が出来るかはとりあえず出航してから考えるか」
リオンの言葉にグレッグは「恩に着る」と頭を下げる。
「一応聞くがブラッドお前の鎧は……って、オイ!? お前も無いのかよ!? お前の鎧はそこまでダメ-ジ負ってなかったろ!?」
「い、いやその……僕も決闘のことで父上に叱られて鎧も取り上げられて……」
ブラッドの返事にリオンはその顔に呆れを露に片手で顔を覆う。
「あーっ! もういいから二人とも船に乗れ! ったく……」
リオンが呆れ交じりに溜息をつきながら言うと、二人もバツが悪そうな表情に。
直後リオンはアンジェとカーラの方に視線を向けると、アンジェはその顔に呆れの色を、カーラは戸惑いの色を示していた。
そんな二人の顔にリオンが申し訳なさそうな顔を見せるとカーラが慌てて口を開く。
「だ、男爵そんな顔しないでください! 元より男爵と公……男爵の力、信じてますから!」
公爵家の名を出しかけ言い直したのは公爵艦隊との合流は伏せてるからだろうか。そして続ける。
「だから其方のおふた方が鎧も持たずの参戦に対しても元から当てにしてませんから別にガッカリもしてませんから! あ……」
リオンへのフォローのつもりで一気にまくし立ててしまったが、その一方でブラッドとグレッグをまるで当てにしてないという発言に申し訳なさそうな顔に。
「プッ……アハハハッ! 言うじゃないかカーラ! そうだ! 私のリオンにさえ任せておけば問題ない!」
アンジェは高らかに笑いながら安心させるようにカーラの肩を抱いてみせる。
そしてリオンも自身に満ち溢れた笑顔を見せる。
「カーラさん、アンタと、そしてアンジェの言う通りだ。アイツラが当てにならなくても俺に任せてくれりゃ何の問題もない」
カーラはブラッドとグレッグの不機嫌な顔に申し訳なさそうにしながらも、自分を元気づけようとしてくれるリオンとアンジェに微笑みを浮かべ応えるのだった。
丁度一年前の今日がカーラifの第一話の投稿日でした。
一月に本作に執筆をバトンタッチして、二つの作品を跨いでではありますが一年間書き続けて来れました。
今後も書き続けられるよう頑張りますのでよろしくお願いします