チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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38、公爵艦隊合流

「おつかれ、リオン! 見事な勝利だったぞ!」

 

 パルトナーに帰還したリオンに向かいアンジェが右手を掲げて見せるとリオンも手を掲げハイタッチで応じる。

 

「出迎えありがとうアンジェ。見ててくれたみたいだな。俺の戦い振り」

「ああ! 実に見事な戦い振りだった! 流石我が最愛の騎士だ!」

 

 アンジェは親愛の情を込めながらリオンの肩を叩いてみせる。

 

 

「カーラさんも見てくれたよな?」

 

 リオンが視線を送るとカーラは笑顔を浮かべ答える。

 

「はい! 実に見事な戦い振りでした。空賊団の全戦力ではないとは言え、それでも圧倒的な数の不利をものともしない見事な戦い振りに感服いたしました。今となっては男爵の力量を見抜けなかった自分の見る目の無さを恥じ入るばかりです」

 

 カーラの浮かべる笑みはこれまでの緊張や恐れから解放された様な晴れやかなものだった。

 その笑顔にリオンもアンジェも嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「いい笑顔だカーラ。やはり君の不安を吹き飛ばすのにはリオンの強さを直に見て感じてもらうのが一番だと思ったんだ」

 

 アンジェの言葉にカーラはその意図を察する。リオンの戦い振りを見ることをあんなにも一生懸命に勧めてくれた理由を。そしてその心遣いに胸が熱くなる。

 

「ありがとう……アンジェ。ええ、今なら自信を持って言えるわ。バルトファルト男爵はアンジェの最強の騎士様だって」

「そうとも! あと、言ったろ? 此度の戦いに限ればリオンは私と、そして君にとっても騎士だと!」

 

 アンジェが力強く言葉を告げるとリオンも優しく頷いてみせる。

 

 

「ありがとうございます。誰よりも強くて立派なアンジェと……私の騎士様」

 

 体を張って戦い勝利をもぎ取ってくれたリオンに、力強く励まし続けてくれたアンジェにカーラはありったけの感謝を込めて言葉を紡ぐのだった。

 

 

「さて、この調子で空賊どもの本隊の方もぶっ潰してやるか。そっちは今度こそ公爵家の艦隊と合流してからだな。あと次こそはアイツラにも頑張ってもらうか」

「アイツ等? ああ、あの二人か。そう言えばどうしてる?」

「戦いに参加できなかったこと一応申し訳なく思ってるみたいだからな。捉えた空賊の捕縛やら何やらの雑事やらせてくれって言うから任せてるよ。あと、鹵獲した鎧の品定めな。損壊がマシそうなの見繕って次の本隊との戦いには役に立ってみせると息巻いてたよ」

 

 正直なところリオンは二人の戦力は当てにはしてないが、だが空賊戦以降も戦闘系イベントは控えているのでそれを見据えたレベルアップの為にも戦いの機会は用意してやるべき。

 またグレッグに関してはマリエとのこともあるので。

 何かと縁のある同じ転生者の少女。良い縁があれば世話してやるのもやぶさかではない。

 そうして空賊討伐の緒戦は危なげなく終わりを迎えた。

 この後にもまだ空賊本体との戦いが控えている。リオンに惨敗した借りを返さんと奇襲をかけてくるかもしれないが、ルクシオンの哨戒があれば大丈夫だろう。

 だが多数の敵相手に見事戦い勝利を勝ち取ってみせてくれたリオンの為、そしてリオンの勝利によってやっとオフリーの恐怖の呪縛から解き放たれ始めたカーラの為と、その日は祝勝ムードで盛り上がったのだった。

 

 

 

 

 

 明けて翌日。雑談をしたり遊戯室のゲームに興じてる中、ルクシオンから声がかかる。

 

『公爵家の艦隊が到着したようです。とは言えパルトナーとは大分距離を置いて停泊しました』

 

 空賊の裏をかくためには直前までは公爵家の艦隊の存在は秘匿しておきたい故の事前の取り決め通り。

 

『艦隊は停泊しましたが、そこから鎧が数機飛び立ち此方に向かって来ます』

「空賊と戦うに当たっての打ち合わせのため、公爵家の武官や騎士の方々かな? 映像映せるか?」

 

 リオンの求めに応じルクシオンのレンズから映像が投影される。

 公爵家の抱える騎士の鎧だけあり歴戦の猛者と言った出で立ち。その先頭に立つ鎧は純白。その姿にリオンは既視感を覚える。

 既視感の正体を気にしつつも出迎えるべくリオンは甲板に向かい、アンジェとカーラも一緒についてくる。

 

 甲板に降り立った鎧達。

 白い鎧が降り立つと、それに続きそれ以外の鎧達は付き従う従者のように周囲に降り立ち片膝を着く。

 その様子から白い鎧の操手が代表か指揮官なのが伺える。

 歴戦の鎧達に傅かれ白い鎧も片膝を着く。操手を下ろすため。乗降の為片掌を差し入れコックピットハッチが開かれる。

 そして現れた人物にリオン達は驚きの表情を浮かべる。

 それはオリヴィアを横向きに膝に乗せたユリウスだった。

 だが同時に白い鎧に対する既視感にも納得がいく。

 

 

「本来一人乗りの席に一緒に乗って窮屈じゃなかったか? リビア」

「ありがとうございます。ユリウスがずっと気遣っててくれたおかげでむしろ快適でした」

 

 操縦席から降りる際もユリウスが先に降り、オリヴィアをエスコートするようにその手を優しく引き降りるのを手伝う。その姿はまるで騎士と姫君――いやまさに王子と姫君で実に様になっていた。

 それはまるで前世の乙女ゲーのユリウスルートの再現、いやそれ以上に見えリオンはちょっとした感動を覚えるほど。

 苦労させられた乙女ゲーであったがその再現ともいえる場面をこうして目の前にするとやはり感慨深いもの。

 

 

「久しいな、バルトファルト。アンジェリカも元気そうだな」

「お出迎えありがとうございます、バルトファルト男爵。そしてアンジェとカーラさんも」

「ユリウス殿下もオリヴィア様もご健勝そうで何よりです」

「歓迎するぞリビア。そして殿下もリビアと仲睦まじいようで何よりだ」

「ユリウス殿下、オリヴィア様。お目にかかれて恐悦至極にございます」

 

 顔を合わせた一同は互いに挨拶を交わす。

 特にリオンはユリウスとオリヴィアの仲睦まじい様子に感慨に耽っていた。

 だが、傍と気付く。王子自ら空賊討伐に出向くなどいいのだろうか、と。

 そのリオンの表情にユリウスは察したように笑みを浮かべ懐に手を入れる。

 

「貴公の言いたいことは分かる。王族の身である俺が戦場に降り立つような危険な真似周りが許すのだろうかというのだろう? だが今の俺は義によって助太刀に馳せ参じた仮面の騎士と言う事にしてもらおう」

 

 言いながら顔の上半分を覆うマスクを取り出しそれを装着して見せる。

 その様子にリオンは驚きやら呆れやらの入り混じった何とも言えない表情を浮かべオリヴィアに視線を向けると、微妙に視線を逸らされる。

 

「え、えっとですね……殿下が仰られた通りでして……」

 

 言いながらもオリヴィアの視線は逸らされたままで――いや視線の先を見るように促されてるのかとリオンは気付き視線を追った先にはユリウスの鎧に傅く鎧達。

 

「でも見たところ、と言うか当然ですけど公爵家の騎士の方々は皆ご存知ですよね?」

 

 表面上は正体を隠すという体裁を取り繕ってはいるが、共に参戦する公爵家の騎士たちは周知のことなのは伺える。意思疎通認識共有は十分なのだろう。

 しかし船に乗って指揮する時は周りは事情を通達済みの公爵家の騎士たち、戦場に出るのなら鎧に乗るのだからそもそも顔を晒すことも無いので。いやそもそも王子が鎧を駆るなど以ての外なのだが。

 リオンの表情にそんな考えが出てたのかオリヴィアが口を開く。

 

「形式だけでも参戦してるのは殿下ではないという体裁が必要でして……」

 

 苦笑と困惑の混じった顔で話すオリヴィアにこれ以上弁明させるのも心苦しいとリオンは「分かりました」と答えると、オリヴィアはホッとした表情で「お気遣い痛み入ります」と。

 

 

「なんだ? 若しかして俺のこの仮面は似合ってないのか?」

「そんな事ないですユリウス! 私は好きですよ!」

「そうか。思えば仮面の発案もリビアだったしな」

 

 ユリウスとオリヴィアの会話にリオンは「えっ?」と驚きの声を上げる。

 

「実はリビアが昔夢中になって読んでた物語があってな。そこで活躍するのが仮面で身分を隠し人知れず悪を裁く王子の物語だったのだ! それを聞いて閃いたのだ」

 

 そう語るユリウスは誇らしげで、本人はアイデアを出してくれた自分の恋人の素晴らしさを語ってるつもりなのだろう。だが当のオリヴィアは何処か恥ずかし気で、いい年して創作の物語に夢中など恥ずかしいとでも思ってるのであろうか。

 意図を察しリオンが何処となくいたたまれない気分だったが、そんな気分を吹き飛ばす様な声が上がる。

 

「その物語なら私も読んだことあるし好きだぞ」 

「私も読んだことあります」

 

 声を上げたのはアンジェとカーラ。

 単純に共通の話題に声を上げただけかもしれないが、その声にオリヴィアは救われたような形に。

 そして少女たち三人、かって夢中になった物語に話に花が咲く。

 

 

「それでオリヴィア様の話にアイデアを得て仮面を用意されたわけですか?」

「ああ。だがこの仮面と、更に言えば鎧も父上が貸してくれたのだ」

「父上って陛下ですか? あっ……!」

「どうした?」

「いえ、その……そう、鎧! 以前決闘で戦った鎧と似てるなと思ったので、陛下所有なら同じ王家の鎧なのでと納得した次第です」

 

 リオンの言葉は決して偽りではない。だが実際のリオンの思いは少々異なっており、それは仮面も鎧も何処か見た覚えがると思ったのだがそれは前世のゲームの記憶。

 突然現れ助けてくれる謎のNPC的存在でゲーム中は終ぞその正体が分からず仕舞いだったのが、まさか転生した今世で知ることになるのは予想外過ぎたので。

 しかし仮面も鎧も王太子を――いや降格して王子だが、それでも王族を戦場に立たせるとか万が一があったらどうするつもりかと。

 そんな心配が顔に出てしまったのか察した様にオリヴィアが話しかけてくる。

 

「陛下も殿下を信じ意気込みを買って下さったからこそ鎧を預けて下さったのです。どうかバルトファルト男爵も信じてください。何より殿下はあの決闘で敗北を喫して以来御自身を見つめ直されとても頑張られたんです。是非その成長ぶりを男爵自身の目で確認していただきたいのです」

「ありがとうリビア。俺が頑張れたのもお前が励まし支えてくれたからだ」

「ユリウス……そのお言葉だけで私も胸が一杯です」

 

 互いに見つめ合う二人には確かな信頼が見て取れるようだった。

 

 

「バルトファルト男爵。男爵も殿下がどなたに師事されたのか伺えばきっと納得して下さると思いますよ。先の国王陛下の王弟、ルーカス・ラファ・ホルファート様です」

「ルーカス様? 王弟でホルファート姓という事はユリウス殿下からすれば大叔父に当たるお方ですか?」

「はい。バルトファルト男爵にはお茶のお師匠様と言った方が分かりやすいでしょうか?」

「師匠が!?」

 

 オリヴィアの言葉にリオンは思わず驚きの声を上げる。リオンにとってこの学園においては最も信頼し尊敬する人物。ただものではない一角の人物だとは思ってたがまさかそれほどまでとは予想外だったのだろう。

 驚きを隠し切れないリオンにオリヴィアは微笑みながら一通の手紙を渡す。

 

「どうぞ、ルーカス様からの手紙です」

 

 リオンは受け取ると丁寧に開封し読み進める。

 そこにはリオンが師匠と崇める人物ルーカスが自身がかって次なる王に望まれながらも辞退したこと。王の座から逃げた自分よりユリウスの方が王の器であるという所見。未来の王としての期待を込め自身のあらゆる知識と経験をユリウスに託し教え、ユリウス自身もそれに応えるべく真剣に励んでること等が書かれていた。

 最後には自分を師と思ってくれるのなら、そんな自分が信じたユリウスも同様に信じ、願わくば支えてあげて欲しいと綴られていた。

 リオンは自身が師と崇める人物が想像を超えた大物であったこと。そんな師匠がユリウスの為にと自分に手紙を送ってくれた事。それらを噛みしめるように暫し瞼を閉じ、やがて眼を見開き口を開く。

 

「分かりました。師匠の言葉を信じ俺も殿下を信じます。ともに空賊を討ち果たしましょうユリウス殿下」

 

 言ってリオンが手を差し出すとユリウスもその手を握り返す。

 

「ありがとうバルトファルト。だが、今の俺はユリウス殿下ではなく仮面の騎士だ」

 

 そう言ったユリウスが笑って見せるとその歯が白く光ったような気がした。

 その仕草にどこか肩の力が抜ける思いをしつつも、固くなり畏縮するよりはマシかと思う。

 

 そうして話もひと段落した頃慌ただしく駆け寄ってくる足音が。

 

「見慣れない鎧の一団が降り立って来たみたいだったけど!?」

「もう次の空賊が来やがったのか!?」

 

 駆けつけてきたのはブラッドとグレッグだった。

 彼等には鹵獲にした鎧の整備をやらせていた。整備に集中してたのと広い艦なのとで遅れて到着。

 何よりリオンがその存在を忘れてたため。

 

「そういやお前らのこと忘れてたわ」

「酷いな君は!?」

「それより誰なんだ!? 特にそこの怪しい仮面野郎は!?」

 

 その言葉にリオンは何でユリウスと気付かないんだ?と怪訝な顔に。

 一方ユリウスは仮面の変装が功を奏してると思ってか笑顔で高らかに声を上げる。

 

「誰だと問われたのなら答えねばなるまい。俺は空賊討伐という大義に、その気概に呼応し馳せ参じた者だ! 故あって名は明かせぬが仮面の騎士と名乗らせてもらおう!」

 

 そしてマントを翻して見せる。その様子にリオンは思わず頭を押さえながら視界を巡らせオリヴィアに視線を向けると。

 

(えっ!? 何!? オリヴィア様、その顔、満更でもないの!?)

 

 頬を染めつつ口元に手を当ててる様子は、ユリウスの挙動に恥ずかしさや呆れではなく見惚れてるようで。

 

(う~ん? まぁコレはコレで良いのかな?)

 

 そんな事を考えてるとオリヴィアがブラッドとグレッグに向かい口を開く。

 

「御無沙汰しております。ブラッド殿、グレッグ殿」

 

 その声に途端に二人は畏まり頭を下げる。

 

「これは公爵令嬢様!」「先日の決闘では短慮に走り申し訳ありませんでした!」

 

 先の決闘、二人は場の雰囲気に当てられてか、本来なら諫めるべきユリウスに同調し共に決闘に加わるという愚行を犯してしまったことも今では十分反省してるのを伺える。

 それを分かってかオリヴィアも優しく微笑む。

 

 

「良いのです。それよりお二方も空賊討伐に馳せ参じていただけたのでしょう。我が公爵家の艦隊も此度の討伐には参戦すべく参上いたしました」

 

 その言葉に二人は居並ぶ鎧達が公爵家の騎士たちだと察する。その様子にオリヴィアは頷き言葉を続ける。

 

「共に戦って下さることとても心強く思います。そして――」

 

 言いながら視線をユリウス、もとい仮面の騎士に移す。

 

「此方の方は故あって名前を明かせませんが、同様に此度の空賊討伐に名乗りをあげて下さった方。共に戦って下さる心強いお方です」

 

 オリヴィアの言葉に二人は最初怪しんだ仮面の騎士であったが素直に受け入れる気持ちになったようだった。

 そうして場を纏め上げて見せたオリヴィアにリオンは改めて主人公としてのポテンシャルに感じ入るのであった。

 




先日発売されたエイジ本誌にて王国編完結と共にコミカライズは新たなスタッフにバトンタッチ。
潮里先生の作画私も大好きだったのでこれまで描いてくださったことに感謝。
王国編最終話で一コマだけとはいえカーラの出番があったのも嬉しかった。困り顔だったけどw
そして新スタッフによる共和国留学編に期待大。なんてったってカーラの出番増えますからね。今から楽しみです。
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