チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり 作:julas
『新人類が……空賊風情が……!』
「落ち着けルクシオン。奴らが調子に乗ってるって事は作戦が順調って事だ」
『分かってます。分かってますが――おのれ、よくも私のパルトナーに疵を――』
「ついてねぇだろ。しっかりバリアでガードしてるんだからよ」
苛立ちを隠そうともしないルクシオンの声とそれを宥めるかのようなリオン。ここはアロガンツのコックピット内。そしてアロガンツの周囲には数十にも上る空賊の鎧達と多くの空賊船が。
そして空賊船から放たれる大砲が時折パルトナーに着弾するもバリアに阻まれダメージは皆無。
『そういうマスターもアンジェリカとカーラをパルトナーから退避させたではありませんか。パルトナーの堅牢な防御とバリアを持ってすれば心配ないのはマスターも十分承知でしょうに』
「それでも自分の乗ってる船に大砲撃ち込まれるとか女の子には怖すぎるだろ。幾らバリアで平気だって言っても多少の振動はあるし万が一考えたら乗せられないだろ」
前回先遣隊とやり合った時は撃たれる前に決着着けるつもりで実際それをやってのけたが、今回はこの数の空賊船には流石に躱し切れないだろうとバリアで防ぐ前提。
『アンジェリカの方は全然恐れてる様子ありませんでしたけどね』
「アイツは肝っ玉座ってるからな。カーラさんも残るって言ってたけどこっちは怖いの無理してる感じだったし。まぁ普通の女の子なら当然の反応だよな。それでもアンジェ置いて自分だけ退去出来ないって言うし健気だよな。でもそのお陰でアンジェも二人揃って退去に応じてくれたわけだけど」
そう言ったリオンの口調は溜息混じりながらも安堵の色が垣間見えるようだった。
一人にしておくと無鉄砲に突っ走りがちなアンジェだったがそこに他人を大切な友人を巻き込むほど無神経ではない。結果カーラのお陰でアンジェも退去に応じる形に。
「まぁでもおかげで助かったよ。無鉄砲なアンジェだけど側に大事に想える友人がいるお陰でセーブが効いてくれる。そういう意味でもカーラさんには感謝だよ」
『友人として感謝、ですか』
「ああ、あんないい子がアンジェの友人になってくれて良かったよ本当に」
『本当にそれだけですか?』
「何だよ、この間っからいちいち含みある言い方してくるな」
『いえ、別に。それよりまだるっこしくもどかしいですね……」
ルクシオン曰く、彼の制御下にあるパルトナーが全力を出せば目の前の空賊団程度十分蹴散らせるとの事。
『私が本気を出せばこの程度の敵、此方から砲撃でものの数十秒で全て沈めて御覧に入れますのに』
だがそれをしてしまえば合力を申し出てくれた公爵艦隊の顔を潰しかねず、更に言えば強大過ぎる力を披露することは周囲に無用の警戒を与え危険を招くことに。
そんな思いを込めながらうんざりしたようにリオンは口を開く。
「だからそれじゃ駄目なんだって言ってるだろ」
言いながらリオン駆るアロガンツは斜め後方から襲い掛かってきた空賊の鎧を振り向きもせず裏拳を放つと当たり所が良かったのか――いや悪かったのかまともに吹っ飛び、その先にあった鎧を巻き込み一緒に墜落していく。
「あ、しまった。弱い相手に手加減てのも難しいもんだな」
先の空賊先遣隊と戦った時でさえ相手は二十近い鎧を擁していたのに今対峙してる数はその数倍。傍から見れば圧倒的に劣勢の筈なのだがリオンには全く焦りは見られない。
「パルトナーの進行は予定通りか? 空賊に気付かれてる様子はないか?」
『ハイ。予定のポイントに向け進んでます』
「速度にも気を付けろよ。出し過ぎて引き離し過ぎるのもダメだが、前に回り込まれるのも避けないとな」
その会話からパルトナーは明確な意思の元にあるポイントを目指し進んでる様に見える。だが空賊たちには逃げ惑うように映ってるだろう。何せ数の上では圧倒的に空賊達の方が上なのだから。
空賊たちの会話を傍受すると、逃げるパルトナーを追い回し得意げになってるような下卑た会話が聞こえる。聞くに堪えない会話だがお陰で此方の意図には気付かれてないのが分かる。
「ブラッドとグレッグの方も頑張ってくれてるしな」
『中々やりますね彼らも。鹵獲した鎧で良く戦ってくれてます。武器は此方で用意したもので機体の方も幾分かチューニングしたとはいえこの物量相手に大したものです』
リオンはコックピット内のサブモニターに視線を向け鹵獲機で戦うブラッドとグレッグの姿を眺める。
中遠距離の相手にはブラッドの魔力で操作する飛槍――スピアで、近距離の相手はグレッグの槍で互いに背中を預け合って圧倒的多数の敵相手にもうまく渡り合ってる。
リオン駆るアロガンツ相手には為す術なく敗れた二人だったが決して弱いわけではなく、むしろ強い。伊達に攻略キャラと言う訳ではない。
流石にリオンのアロガンツの様に余裕であしらうとはいかないが、逆に必死で戦う様子は良い"目くらまし"になっている。
そうして多数の空賊船と鎧達から"逃走"し続けるリオン達とパルトナー。
「そろそろか……?」
群がってくる鎧達をいなしながら時折周囲の空域マップと時計に目を配っていたリオンが呟いたその時だった。
空賊船の一隻が轟音を立てて黒煙を上げる。その様子に空賊の鎧達は黒煙を上げる自分たちの船に驚きとともに首を向ける。傍受した空賊船からの声は驚き戸惑いに満ちたもの。
反対にリオンは極めて落ち着いた調子で呟く。
「時間ピッタリ。流石は師匠に師事しただけあるな。やるじゃねぇか王子様」
パルトナーを圧倒的多数の船で囲い込み追い立て得意気になってた空賊たち。だがそんな空賊たちが気付かぬうちに逆に艦隊に包囲される立場に。
包囲する艦隊は公爵家の艦隊。そしてそれを指揮するのはユリウス。
リオン達とパルトナーが囮となりユリウス達が陣を敷くこの場に空賊を誘い込む策を講じて、見事それは為ったのだった。
敵も名うての賞金首が多数名を連ねる歴戦の空賊。すぐさま反撃に転ずる。だが包囲陣形を取るユリウス指揮する公爵家艦隊の優位は揺るがない。
「後は殿下達にお任せして俺たちは離脱させてもらうか。そういう訳だから、ルクシオン。パルトナーももう全速出して良いぞ」
『そのお言葉お待ちしておりました』
次の瞬間パルトナーが一気に速力を上げる。今まで空賊を誘い出すために連中に合わせ速度を落としていたが、最早その擬態も不要とばかりに本来の性能を発揮し一気に囲いから離脱してみせる。
「さてと、あとは殿下達に任せて俺たちも離脱させてもらうかね」
この度の戦い、リオンがその気ならばアロガンツとパルトナーだけでも空賊全てを掃討するのも十分に可能であった。
だが本来表舞台に必要以上に目立つのを良しとしなかったリオン。公爵家とユリウスとで共闘してる今、残りは彼らに任せることに。
「と、ついでだから離脱ついでにアイツ等も拾ってってやるか。ブラッド! グレッグ!」
リオンはアロガンツを両機に向けバーニアを吹かす。
通信を受けブラッド機はグレッグ機の腕を掴み、もう片方の手を伸ばすとアロガンツが掴む。鎧二機を掴んだままでアロガンツの速度は衰えることなく、むしろ更に加速を伸ばす。
猛スピードで空を駆けるアロガンツ。それを阻もうと立ち塞がった空賊の鎧もショルダータックルで弾き飛ばしながら易々と戦場を離脱する。
「ちぇっ、未だ未だやれたのによ」
「そう言うなよ。何より無理は禁物だよ」
不満気に呟くグレッグとそれを宥めるブラッド。
強がるグレッグであったがあれだけの数の空賊鎧を相手にし続けてきたのだ。機体のダメージも精神的疲労も相当なもの。
「そういう事だ。ま、二人とも良くやってくれたよ。俺からも報酬弾むし、二人の働きぶりは共闘してくれた公爵艦隊にも伝えておくよ」
グレッグとブラッドに向けねぎらいの言葉をかけるリオン。
リオン達が離脱した後は戦場公爵艦隊と空賊の艦隊との戦闘に。数では互角に見えるが陣形の優位さも相まって公爵家が圧倒してる。勝利を収めるのを時間の問題と危なげなく見守れるだろう。
そう思ってたが戦況が僅かに動く。
それは空賊戦から出撃した一際大きな鎧。サイズボリュームだけならアロガンツに迫るほど。
勿論性能迄アロガンツに迫るものではなかいが、それでも大型では不利と言われるこの時代の鎧にあっては例外的ともいえる体格に見合った圧倒的なパワーを誇っていた。
この時代の鎧は本来大型化するとデッドウェイトにしかならない筈なのに、どんなチューニングしてるのか。
「出て来やがったな。空賊のボスのお出ましか」
『敵の首魁ですか。ですが戦う気はないように見えます』
「トカゲの尻尾どころか足も胴体も切り捨てて頭だけ逃げるつもりか?」
現れた大型鎧はリオンの前世知識によると空賊ボスが乗る鎧とのこと。手にするのは通常の鎧用の剣と比べ厚みも重量も倍以上あろうかという鉈の様な巨大な鉄塊。通常の鎧の剣や槍など打ち合えばたちどころにへし折ってしまう威力は容易に想像できる。
だがそんな凶悪な武器を振り回し立ち塞がる公爵家の鎧を蹴散らしつつも公爵家旗艦に向かうつもりはないらしい。
「あのヤロー。ボスの癖に戦わず逃げるつもりとか、それじゃ困るんだよ」
『対処しますか?』
「そうだな……」
ここで空賊の首魁に逃げられでもして、下手をすればそれで空賊とオフリーとの繋がりも暴き損ねては元も子もない。
並の鎧より強力なボス鎧には公爵家の鎧も手を焼いてる様だ。正面切って戦うのならやりようはあるのだが逃げるつもりの相手では取逃す可能性も。
ここは再び戦場に戻るべきかとリオンが思案した時だった。
「部下を見捨てて逃げるなど所詮は誇りも矜持も持たぬ賊の首魁よ! だが、俺の目の届く範囲で逃げおおせると思うなよ!」
高らかな声と共に公爵艦隊の旗艦から飛び立つ白い機影。その姿を見ながらリオンは笑みを零す。
「ハハッ。自分の役どころをちゃんと抑えてくるとは。やっぱさすがだな王子様」
ボスに挑む純白の機体は言うまでもなくユリウス。本来なら艦隊指揮だけで十分で危険な戦場に降り立つ必要など無いのだが。
『マスターはこうなることを予想してたのですか?』
「予想と言うか期待していたのかもな。あの乙女ゲーの攻略キャラ筆頭としての、そして主人公オリヴィア様が選んだパートナーとの絆の力を」
リオンの見詰める先に映るユリウスが駆る純白の鎧。だがその手に握られたのは黒色のブレード。
それはあの決闘の時、その威容を見せながらもアロガンツの手に取られなかった武器。
戦いの前、作戦会議の時、リオンはアロガンツの得物の中でも特に威力の高いブレードの貸与を勧めたのだった。
かって決闘の時も勧めたがあれは煽りの意味合いが大きかった。それだけに受け取ってくれるか若干の不安があったが、ユリウスは素直にリオンの好意を受け取ってくれた。
アロガンツの強さから当然の様に専用武器からも推測される強力さを信じて。何より下手な意地や見栄に囚われ突っぱねるでなく、ことの重要性、優先順位と実利を重んじ受け取ってくれた視野の広さ、懐の深さには深く感じ入るのであった。
王家の力の証たる純白の鎧。
手に握られるのはロストテクノロジーの結晶たるルクシオンによって作られたアロガンツのブレード。
それを駆るのはこの世界の主人公であるオリヴィアにパートナーとして選ばれたユリウス。
鎧に乗り空を駆け抜けるユリウスに向けリオンは万感の思いを込め呟く。
「行け、王子様」
鎧を駆るユリウスが雄叫びを上げる。
「うおおぉぉぉぉっっ!」
そしてボス鎧の大鉈と打ち合い火花を散らす。甲高い金属音が響き渡り、砕け散るボス鎧の大鉈。
おそらく今まで数多の賞金稼ぎや討伐軍の鎧や武器を打ち砕き返り討ちして来たであろう大鉈。それを砕かれた空賊の首魁の狼狽振りが鎧越しにも見て取れる。
その隙をユリウスは逃さない。
続け様に放たれる連撃によりボス鎧の手足が次々と破壊されダルマになり残された頭部に向けユリウスは渾身の突きを放つと、そのままバーニアを吹かし空賊旗艦の甲板に磔にするのだった。
鎧の武器も手足も破壊され頭部を貫かれた空賊のボスは戦意を完全に喪失しコックピット内で震えながら降伏を宣言した。
ユリウスの――リオン達の完全勝利である。
「お見事です。ユリ……仮面の騎士殿」
ユリウス機が降り立った甲板にアロガンツも降り立ちねぎらいの言葉をかける。
「バルトファルト男爵。これも貴公の働きあればこそだ。いや、むしろ本当は貴公一人いれば空賊を全て打ち果たせたのでは?」
「買い被りですよ。とても俺一人でなんて。ユリウ……じゃなくて仮面の……。もうユリウス殿下でいいですか? 戦いも無事終わりましたし、どうせ公爵家の方々も皆さんご存知ですし、知らないのあの二人だけで、その二人も今ここに居ませんし」
リオンがそう言うとユリウスは少々残念そうに「う、うむ……そうだな」と渋々ながら了承する。
「では話、戻しますね。俺一人の力じゃとてもこの数の空賊団には勝てませんでしたよ。俺と俺のロストアイテム、公爵艦隊、そしてユリウス殿下。どれ一つが欠けてもこの戦い勝てませんでしたよ」
謙遜と言うより何処かひょうげたリオンの物言いだがユリウスもそれに応える様に小さく笑みを漏らす。
「分かった貴公がそう言うのならそういう事にしておこう。だが大いに助けられたのは事実だ」
掲げて見せるは託されたアロガンツのブレード。ユリウスが空賊のボス鎧を下すのに大いに貢献を果たしてくれた業物。そしてそれを託してくれた事への感謝の意が見て取れる。
「ありがとうございます殿下。ですがそれも殿下の実力があればこそです誇ってください。そして強敵を打倒してのけた殿下には受け取るに相応しい報酬が宝があります」
リオンはアロガンツの歩を甲板に転がっているボス鎧の下へと進める。
手足を破壊され完全に戦闘不能な鎧のコックピットハッチを無理やりこじ開け中に居る空賊の首魁を引きずり出す。コンテナに格納してあったドローンに捕縛させると甲板に転がす。
そしてコックピット内をまさぐり目当てのものを見つけるとユリウスを呼ぶ。
駆け寄ってきたユリウスが覗き込み見たもの、それは――
「どうぞ、殿下の手からオリヴィア様に――未来の聖女様に渡してあげてください」
――聖女の為の神器、聖なる首飾りであった。
空賊討伐完了。そして最重要アイテムゲット。
次回更新ですが申し訳ありません。
少々お休みいただきまして10月9日の水曜日の更新とさせていただきます。
私用が立て込んで書き溜めのストックも無い状態なので。
そんな訳で次回はいつもより間が空いてしまいますが、お待ちいただきたくお願いします。
ps:月末に発売されるマリエルートの新巻。前巻では音沙汰無しだったカーラもメロンの特典SSのタイトル見るに登場あるようで。ただ安心できる登場なのか不安が残りますが。