チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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40,聖女への道

「随分嬉しそうですね、殿下」

「ああ。リビアには今までずっと俺を支え尽くそうと頑張ってくれてたのにその思いに応えてやれなかったからな。いや応えるどころか無碍にして来てしまってたからな……」

 

 そう言ったユリウスの顔には申し訳なさが滲みだしてた。

 ここはリオンの船パルトナーのある一室。戦いが終わった後、ユリウスは自身が乗ってきた公爵家の船に戻らずパルトナーに立ち寄ったのだった。

 リオンの所有する船を見学したいというユリウスの願いもあって。

 

 

「だからその思いに応えるべくまずは王太子に返り咲きたい、そう思ってたところでまさかこのような機会に巡り合えるとはな」

 

 呟いたユリウスが視線を落とした先にあるのは自身の掌の上に乗せられた聖なる首飾り。

 

「俺の為に立派な王太子妃になってみせると言ってくれたリビア……。そんなアイツのもう一つの目標が聖女として認められることだから……いや違うな、聖女になるという目標もまた俺の伴侶として俺に箔をつけたいと、そういう思いもあったんだろな……」

 

 言いながら瞼を閉じるユリウスの横顔にリオンも感慨深げに「殿下……」と呟く。

 

「だからな、こうして目に見える形でアイツの夢の手助けをしてやれると思うと嬉しいんだ」

 

 そうして掌の上の首飾りをもう片方の手で、指先で愛おし気に撫でる。

 

 

「殿下、その気持ちきっとオリヴィア様に届きますよ」

「ありがとうバルトファルト。ところで未だなのか?」

 

 空賊討伐で手に入れた聖女の為の神器の一つ、聖なる首飾り。

 空賊の頭がどのような経緯で手に入れたのか迄は不明だが、入手時のそれは聖女の為の至宝としてはあまりにも無造作に鎧のコクピット内に放り込まれていた。

 剝き身のままというのもあまり体裁が良くないので急遽ルクシオンに見合った箱を作らせていた。

 

「焦らずもう暫しお待ちを。オリヴィア様もアンジェとカーラさんと一緒に今は歓談で寛いでるでしょうから」

「そうだな。いろいろ気を遣ってくれてすまんな」

 

 そうして二人、その後もルクシオンに任せてる箱が完成するのを待ちながら歓談を続けるのだった。

 

 

 

 その頃別室では、アンジェ、オリヴィア、カーラがパルトナーの別の部屋で歓談を楽しんでいた。

 巨大飛行船パルトナーには大小合わせて様々な部屋が存在する。その中でも最も広く豪勢な部屋。

 リオンの恋人であるアンジェやその友人であるカーラは兎も角、公爵家の令嬢であるオリヴィアを遇するのに半端な部屋は用意できない。

 そうして用意された部屋でアンジェ、オリヴィア、カーラの三人は寛いでいた。

 そうして話に花を咲かせているとドアをノックする音が。

 その音に対しオリヴィアは座したまま視線だけをドアに向け、アンジェとカーラは立ち上がりドアに向かおうとする。

 今は伴ってる侍女や取り巻きは居ないが、高位貴族の令嬢としてこうした応対は先ず側回りのものが務めるので。

 対してアンジェはこの船の主であるリオンのパートナーとしての自覚もあり、もてなす側の自覚の下、動いたのであろう。

 そしてカーラもまた下級貴族として上位貴族に仕えてきた習慣が身についての結果の応対とでも言おうか。

 アンジェはカーラにも客人として寛いでいて欲しいとの思いを込めてカーラを見詰めるが、それに対しカーラは微笑みを浮かべたまま首を振る。

 アンジェがカーラを客人としてもてなしたいという思いを抱いてるの同様、カーラも恩人として尽くしたいとの思いがあるのだろう。

 何よりカーラに浮かぶ表情はとても晴れやかで生き生きとしたもの。

 仕えるものとしての慣習が身に着いての行動とは言え、不本意で仕えさせられてるのと、敬意を持って仕えたいと思うのでは雲泥の差である。

 アンジェもカーラのそんな思いを感じ取ってか座り直し笑顔を向けると、カーラも笑顔で返しドアへ向かう。

 

 

「これはバルトファルト男爵。ユリウス殿下も。ようこそおいで下さいました。そして空賊討伐、まことにお疲れさまでした」

 

 空賊本隊との交戦勝利後、これが初めての顔合わせなので、カーラはその感謝の旨を心を込め丁寧に頭を下げるのだった。

 

「労いの言葉ありがとう、カーラさん。アンジェも、オリヴィア様もいらっしゃるよね。今良いかな? 殿下もいらっしゃってるし」

 

 カーラはドアを開けた先に立ってたリオンとユリウスから、部屋のアンジェとオリヴィアに首の向きを変え声をかける。

 

「オリヴィア様、アンジェ。殿下と男爵がおいでです」

「分かりました。お通ししてください」

 

 カーラの声にオリヴィアは立ち上がりながら返事をし、アンジェも続いて立ち上がる。

 そしてカーラの「どうぞ」との声に促されリオンとユリウスが入室する。

 

 

「ユリウス、バルトファルト男爵。空賊本隊との交戦お疲れさまでした。そして空賊討伐成功による勝利、実に見事な手前でした」

「見事な勝利! 流石リオンだったぞ! ユリウス殿下も見事だったぞ」

「ありがとうリビア。これも公爵家の面々とバルトファルトの助けあればこそだ」

「ありがとなアンジェ」

 

 激闘を終えたリオンとユリウス、そしてその戦いを労う其々のパートナーであるアンジェとオリヴィア。

 そうして語り合っているとユリウスが真顔になりオリヴィアに向き直る。

 その顔からユリウスから何か大事な話があるのだろうかと察しオリヴィアもまた表情を引き締める。

 オリヴィアと向き合うユリウスは傍らに立つリオンに目配せをすると、リオンは片膝を着き脇に抱えてた箱を掲げる。芝居掛かってるがリオン本人は何処か楽しんでるようにも見える。

 箱が開けられると中から取り出されたのは豪華な首飾り。見た瞬間オリヴィアの眼が見開かれる。

 

 

「ユリウス、これは……!」

 

 現物を目の当たりにするのは当然これが初めてであるが、神殿に掲げられた聖女の肖像画などで見知っていた。

 この国の至宝の一つとも言われる聖なる首飾り。

 歴代の聖女が身に付け、聖女だけが身に付けることを許された神器。

 

「空賊の首魁を討伐した時ヤツの鎧の中に隠されていたんだ。長らく行方不明になってた神殿の至宝が、よもやこの国の無辜の民を恐怖で脅かしてきた悪の首領の手に奪われてたとはな。だがこうして奪い返し手にし、そして聖女を目指すお前に手渡す機会に巡りあえるとは、コレも天の配剤なのかもしれんな」

 

 言いながらユリウスはオリヴィアに歩み寄り距離を詰める。 

 

「リビア。思えばお前にはいつも支えられ助けられてきたな。そうしたお前の思いに今まで何も返せて来れなかった。だから、コレからは一つ一つ返していきたい。その最初の一つとして受け取ってもらえるか?」

「ユリウス……」

 

 愛しき人の名を口にするオリヴィアの顔には幸せと喜びで溢れんばかりの表情だった。

 

「ユリウス、お願いしてもよろしいでしょうか。出来ましたら、その……ユリウスの手で掛けていただけませんか?」

「勿論だ」

 

 ユリウスは笑顔で答えると首飾りをオリヴィアに掛けながら背後に回り、その留め具を首の後ろで留めると、再びオリヴィアの正面に立ちその姿を瞳に映す。

 

 

「どうですか? ユリウス」

「ああ、とてもよく似合ってる。綺麗だリビア」

 

 想い合う互いの姿を見つめ合う二人。その姿をリオンとアンジェ、そしてカーラは微笑ましく見守っていた。

 特にリオンは、自分の望んだゲームの路線を順当に進んでくれてるかのような展開にとても満足で感慨深げだった。

 

 

 

 首飾りを贈られたオリヴィアの気持ちは幸せに満たされていた。

 自分の最愛の相手であり自分を愛してくれるユリウスが自分の夢の将来の為にと未来の聖女の為にと首飾りを贈ってくれたのだ。

 そんなオリヴィアの頭に突如不気味な声が響く。

 

『……ヨコセ』

 

 耳鳴りの様に突如頭に響いたその声にオリヴィアは頭痛に耐えるかのように頭に手を当てよろめく。

 

「リビア!?」

 

 突如よろめいたオリヴィアに、ユリウスは驚きの声を上げながらその身を支える。

 オリヴィアの顔を見れば顔色は青く額には脂汗が滲み出していた。

 

「どうしたリビア!? 一体何が――」

「危ない! 下がってユリウス!」

 

 次の瞬間ユリウスが突き飛ばされる。突き飛ばしたのはオリヴィア。その手に彼女の白い魔力を発現させ女性とは思えぬ強い力でユリウスを突き飛ばしたのだ。

 直後、先程迄ユリウスが立っていた床が抉れていた。オリヴィアが突き飛ばさねばそこに立っていたユリウスが大怪我を負っていただろうか。

 そして床を抉ったのはまるで獣の爪の如く形作られた黒いオーラ。それは首飾りから溢れるように発生しオリヴィアの右腕――ユリウスを突き飛ばした左腕とは逆の腕に絡みついていた。

 それは黒いオーラが絡みついた右腕がユリウスに危害を加えようとしたのを、左腕が護ったかのよう。

 オリヴィアは白き光を纏った左腕を黒いオーラの発生元である首飾りに伸ばそうとする。だが――

 

『ムダナアガキヲ! ソノカラダヲヨコセ!』

 

 "声"と共に首飾りが黒い光を放ち妖しく輝き始める。

 その光景にリオンは呆然とし、目の前の事象に理解が追いつかなかった。

 先程迄、攻略対象筆頭のユリウスから主人公オリヴィアに向けて聖なる首飾りが贈られるというゲームのイベントで見たそれの再現とも言える光景が繰り広げられ感慨に耽っていた。

 それが一転してまるで呪いのアイテムの様な首飾りの暴走。

 あまりにも予想外過ぎる事態にリオンは混乱し硬直していた。

 だがそんな状況下でも動く者もいた。

 

「「リビア!」」「オリヴィア様!」

 

 オリヴィアの異常事態にアンジェとカーラ、そして先ほど突き飛ばされたユリウスは駆け出していた。

 

 

『ジャマヲスルナ!』

 

 オリヴィアの掛けた首飾りから暴風の様な黒いオーラが迸る。

 瞬間、アンジェは掌を突き出し深紅のオーラを発現させる。オ-ラは盾のように広がり黒いオーラからアンジェの身を護る。

 だがカーラとユリウスはまともに黒いオーラの波動を喰らう。

 

「キャアァァッッ!?」

 

 そしてカーラは吹き飛ばされ壁に叩きつけられてしまう。ユリウスの方はかろうじて踏みとどまり激突は免れる。

 

「カーラ!?」

 

 壁に叩きつけられたカーラにアンジェは思わず声を上げる。

 そして迷いが生じる。首飾りに捉われてるオリヴィアと壁に叩きつけられたカーラと一体どちらに向かうべきか。

 

 

「わ、私は大丈夫……。だから、オリヴィア様を……」

 

 痛みを堪えながらも言葉を紡いだカーラであったがそこで意識は途絶え気を失ってしまう。

 

 そんなアンジェの耳にユリウスの声が。

 

「リビア……!」

 

 見ればユリウスが黒いオーラに抗いながらオリヴィアのもとに向かっていた。

 

「だ、駄目です殿下……。来てはいけません……」

 

 心が通い合ってからは二人切りやリオンやアンジェなど心許せる者の前ではユリウスと呼んでいたのを殿下と呼んだのは、王族であるユリウスの身の安全を案じてのもの。自分の身の危険を置いておいても護らねばならぬという思い。それ程迄に危険な状況という判断。

 

「断る……!」

「殿下!?」

「俺は……何があっても見捨てはしない……! もう二度とリビアを傷つけたりしないと誓ったんだ!」

 

 そして暴風の様な黒いオーラの波動に抗いながらも一歩一歩オリヴィアに近づいて行く。

 

 

『オノレ! イマイマシイ!』

 

 次の瞬間黒いオーラに包まれたオリヴィアの右腕が振りかぶられる。

 

「ダメッッ!」

 

 黒いオーラに包まれたその腕が振り切られる事は無かった。振り切る寸前でオリヴィアの左腕が止めたのだ。

 それでも完全には抑えられず黒い波動がユリウスを襲う。

 だがその波動がユリウスに届くことは無かった。

 

「リオン!」「バルトファルト!」

 

 リオンが身を挺して守ったのだ。そしてリオンが身に包んでるのはルクシオン謹製のパイロットスーツ。頑丈さにおいてはこの時代の防具より数段上で戦い終わった後未だ着替えを後回しにしてたのが幸いしてた。

 とは言え何発も耐えられるものでもない。今とてオリヴィアが抑えようとし本来の威力出なかったから。それに防御は出来ても攻撃の手はなかった。

 

 

「俺なら大丈夫だ! それよりもア……」

 

 リオンは言葉に詰まる。現在この状況自分でもどうにかできる自信はない。そして若しどうにか出来る可能性があるとしたらおそらくアンジェ。

 深紅のオーラによりこの場で唯一無傷で立っている彼女を置いて他に無いだろう。

 だが明らかに異常で危険なこの状況を自分の愛する恋人に託すなどと言う選択リオンは選びたくなかった。

 例えそれしか可能性が無かったとしても。

 

 

「リオン、私に任せてくれ」

「アンジェ!」

「殿下もカーラもリオンも、皆が傷つきながらもリビアを助けようと体を張ってくれたんだ。それに、理屈じゃないんだ。本能的に分かるんだ。あれをどうにかしてリビアを助けられるのは私しかいない、って」

「だ、だけど……!」

「リオン。思えば私はいつもリオンに助けられてばっかりだったな。そしてそれにはいつも感謝してる。だからな、一度ぐらい、いやこれから先もっと、私にも助けさせてくれ! お前が選んだ恋人たるこの私を信じてくれ!」

 

 アンジェの言葉にリオンは観念し頷く。

 

「アンジェ……、オリヴィア様を頼む……!」

「任せろ!」

 

 アンジェは力強く答えると一気にオーラの出力を上げる。

 盾のように広がった深紅のオーラは益々その輝きを増す。

 そして一歩一歩オリヴィアに、彼女の身に付けた首飾りに近づく。

 

 

『クルナ! クルナァァッッ! コノカラダハワタシノモノダ!』

 

 首飾りもアンジェを本能的に危険と悟ってか益々抵抗を強める。

 

「ふざけるな! リビアの体はリビアのものだ!」

 

 だが首飾りと黒いオーラの抵抗にも怯むことなくアンジェは着実に距離を詰めていく。

 

 

「リビア! 手を伸ばせ!」

「アン……ジェ……」

 

 アンジェの声にオリヴィアは残った力を振り絞るように左手に白い光の魔力を発現させ伸ばす。

 深紅の光を放つアンジェの右手と、白き輝きを放つオリヴィアの左手。二つの手が触れ合うとその指を絡ませしっかりと握りあう。

 次の瞬間、それぞれの放つ光が更に輝きを増しやがて一つになり、それは白く光り輝く炎と化した。

 それはさながら邪悪を焼き尽くす白き浄化の炎。

 

 

「邪悪な闇よ! リビアから出ていけ! 私とリビアの前から永遠に消え去れッッ!」

 

 アンジェが吠えると白く輝く炎がその勢いと輝きは最高潮に達し、黒いオーラを焼く尽くさんと包み込む。

 

『ギャアアアァァァァッッ!』

 

 そして轟く断末魔の声。

 やがて白き炎が霧散すると黒きオーラは一遍も残らず消え去っていた。

 

 

 

「ありがとうアンジェ……」

「私だけの力じゃない。リビアもよく頑張ったな。リビアの魔力と私の魔力が合わさったから勝てたんだ」

 

 そうして二人微笑みを交わす。

 

「それよりも、それは大丈夫なのか?」

 

 アンジェが首飾りを指さすとオリヴィアは微笑んで答える。

 

「ええ。もうこの中に邪悪な力は残っていないみたいです」

 

 そう答えたオリヴィアの首元にはその名が示す様に首飾りは聖なる清らかな輝きを放っていた。




あのせかのメロン特典読んで泣いて打ちひしがれてます。
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