チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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41、食堂にて

「あっ……ぶなかったぁ~。ってか何だよアレ!? 聖女のアイテムにあんなの憑いてるなんて聞いてねぇぞ!?」

『マスター御得意の前世の知識に無かったのですか?』

「無かったよ! ってか、ふわっとした乙女ゲームに呪いとかマジ何なんだよ!? 有り得ねぇって!」

 

 ここはパルトナーのリオンの部屋。

 攻略キャラから主人公への重要アイテムの譲渡献上と言う一大イベントの筈が、アイテムに宿ってた悪霊(?)とのバトルと言う完全に予想の斜め上展開にリオンはキャパオーバー寸前であった。

 

 

『思ったより当てになりませんね。マスターの言う前世の記憶とやらも。そんなものに頼り切ってるからいざという時に対応が遅れるんです。オリヴィアの危機にも皆率先して動いたというのにマスターだけ出遅れてましたし』

 

 ルクシオンの言葉にリオンは目を逸らす。

 

「返す言葉もねぇ……。本当今回のアレは我ながら自分が情けなくて仕方がねぇ」

『とは言えアンジェリカのお陰で大事に至らずに済んだのですし、そう気を落とさずとも良いでしょう』

「そうだな。何時もアイツの行動力に驚かされたりその心意気に胸打たれたりもしたが、今回ぐらい頼もしいと思えたことは無かったな。出会ったばかりの頃は危なっかしいところも多かったけど、こんな風に頼る日が来るなんてな」

 

 ルクシオンの言葉にリオンはその時のアンジェの様子に思いを馳せる。

 深紅のオーラを盾の様に展開し悪霊の攻撃を防いで見せただけでなく、更にはその力でオリヴィアを救ってみせた。

 そんな姿にリオンは惚れ直す思いであった。

 

「アンジェだけじゃねぇ。そんな悪霊に必死で抗って見せたオリヴィア様も、そんなオリヴィア様を絶対助けるんだっていう殿下の意気込みも……。やっぱ何だかんだ言ってもあの二人、流石は主人公様と王子様だよな。あと……」

『カーラですか?』

「ああ。俺やアンジェに比べればそうした荒事には慣れてないだろうに、それなのに首飾りの悪霊にも怯むことなく向かって行って。あの子も学園に通う生徒だからダンジョン経験とかもあるけど、でもどっちかって言うと全然普通の女の子なのに。それなのに臆することなくオリヴィア様の危機に向かって行って大したもんだったよ。それなのに俺ときたら……。彼女に比べれば武の心得も場慣れもしてる筈の俺がただ見てただけなんて自分が恥ずかしいよ……」

 

 リオンは自己嫌悪に苛まれるように顔面を片手で覆い項垂れる。

 

『そう悲観なさるものでもないですよ。確かにあの時マスターは出遅れてしまいました。ですがあの時マスターも一緒に駆け出してた場合マスターも共に負傷を負ってた可能性もあります。その場合今回の様にユリウスを庇えたでしょうか? 結果的にはそれが功を奏したともいえるのです。あまり気を落とさないでください』

 

 言いながらルクシオンは視線を――レンズの向きを変える。釣られるようにリオンもその視線を追うように首を向けるとその先に有ったのは、その時リオンが身にまとっていたパイロットスーツ。

 リオンは今はもう私服に着替えている。そして改めてその時纏っていたパイロットスーツに付けられた傷を見ると身震いせずにいられなかった。

 

『まさかこのパイロットスーツをここまで損壊させられるとは思いもよりませんでした』

 

 だがあの時リオンが出遅れたからこそ、その後の首飾りの悪霊の攻撃からユリウスを護れたとも言える。

「本当このパイロットスーツじゃなきゃ……。いやその後もアンジェがどうにかしてくれなきゃどうなってたことやら……」

 

 リオンは大きく溜息を吐く。

 アンジェの活躍を頼もしく思う一方で、今回自分が役に立てなかったことにやはり相当落ち込んでるのだろうか。

 

 

『マスターもここで一度自分を振り返り行動を改めてみても良いかもしれませんね』

「改める?」

『マスターは何でも一人で請け負おうとし過ぎるきらいがあります。アンジェリカも自分を頼ってくれと言ってたではありませんか。彼女たちも成長してるんです。もっと彼女ら彼らを信じ頼りましょう』

 

 言われてリオンが思い出すのは最初アンジェに頼ろうとしつつも、彼女を心配するあまりその事を口にするのを躊躇ったこと。

 最終的には彼女を信じて託したが、思い返せば少々過保護すぎたかもしれないと思う。

 

「そうだな。みんな成長してるんだ。もっと信じて頼ってみてもいいかもな」

 

 顔を上げたリオンの表情は先ほどまでに比べ幾分か晴れやかに見えた。そしてルクシオンも満足そうに頷く様にその球体ボディを縦に振る。

 

 

「さて、と。反省会はこの辺にしといて……」

 

 リオンは腰を上げるとルクシオンが問いかける。

 

『どちらへ向かわれますか?』

「オリヴィア様と殿下は自分達の船に戻って公爵家の方々と話し合い中だっけ?」

 

 今回降した空賊団がオフリー伯爵家と繋がりがあるのは以前から噂されてたがそれは噂どまりだった。

 だがオフリー家の令嬢の取り巻きを務めていたカーラからの告発と共に提示された数々の証言により、リオンと公爵家により決行された空賊団討伐。

 そして空賊船から押収された証拠の数々により詳らかになった今、その処分を巡っての話し合いが行われてる。

 

 

『マスターも話し合いに参加されますか?』

「いや、遠慮させてもらうわ。そういう難しい話は全部殿下達にお任せするよ。必要なことも伝えてあるし。そもそも手柄が欲しくて戦った訳じゃねぇし」

 

 思い出されるのはオフリー家とその令嬢の酷さを語りながらも、巻き込めないと涙を流すカーラの姿と、そんな彼女を助けてくれと自分に訴えかけてきたアンジェの姿。

 

『カ-ラの為、と言うよりアンジェリカの為、でしょうか?』

「両方……かな。そりゃアンジェに、助けてあげてくれって頼まれたのも大きいけど。でもそれ抜きにしてもカーラさんを助けてあげられて良かったと思うよ」

『マスターとご自身の家族に重ねられましたか?」

「かもな……」

 

 この国に蔓延る女尊男卑の悪習。その犠牲者は男性だけではない。女性であっても準男爵家など低い階位であれば、上位の階位の女性に虐げられる例も少なくない。

 父の妾であるリオンの母の実家も、カーラも、そうした下位貴族の準男爵家と言う家格の低さを理由に見下されなじられ酷い仕打ちを受けてきていた。

 それに気付いてしまえば他人事として流せるものでもなかった。

 

 

「カーラさん、未だ目を覚ましてないのか?」

 

 首飾りの悪霊の暴走によりその場にいた者たちは負傷を負った者もいた。

 とくに壁に叩きつけられ意識を失ったカーラが一番重かった。オリヴィアの回復魔法により傷の手当は済んでも未だ目を覚まさない。

 

『ご心配なさらずとも呼吸も脈拍も安定してます。その内目を覚ますでしょう』

 

 この船――パルトナーの運航全般を司っているルクシオンはその乗員のメディカルチェックにも余念が無い。

 

「アンジェが付き添ってくれてたよな。今も一緒の部屋に?」

『ハイ』

 

 リオンはルクシオンの返事を聞くとそれに応える様に扉を開け部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「ん……」

「カーラ? 目が覚めたのか? どうだ体の具合は?」

「アンジェ? あれ? 私……」

 

 ここはパルトナーのカーラに宛がわれた部屋。

 首飾りの暴走により壁に叩きつけられ気を失っていた彼女は部屋に運ばれベッドに横たえられていた。そして今しがた目が覚めたのだった。

 安心したように自分を見詰めてくるアンジェの顔を見ながら少しづつ記憶がよみがえってくる。

 

「!? そうだオリヴィア様は!? オリヴィア様は御無事なの!?」

 

 気を失う直前に目の当たりにした光景。それは首飾りから黒いオーラが溢れだし身に付けていたオリヴィアに危害を加えようとしてたかに見えた光景。

 あまりの異常事態に思わず駆けつけようとするも黒いオーラに吹き飛ばされ壁に打ち付けられ気を失ってしまった記憶がよみがえる。

 

「落ち着けカーラ。大丈夫安心してくれ。リビアなら無事だ」

「そう……。良かったぁ……」

 

 アンジェが優しく微笑みながら諭すように教えると、カーラは安堵の息を吐く。そして思いを巡らせる。

 

「ねぇ、あの後一体どうなったの?」

「そうだな。あの場に居合わせてたんだ。当然気になるし、知る権利はあるよな。分かった順を追って話すよ」

 

 そうしてアンジェはカーラが気を失った後の顛末を話すのだった。

 

 

 

 

 

「そんな事になってたのね……」

 

 アンジェから事のあらましを聞き終えたカーラはその顔に驚きを浮かべながら呟きを漏らす。

 そして記憶の最後に見たアンジェの姿、深紅のオーラを迸らせ黒いオーラに一歩も屈しなかった勇姿。そして初めて出会った時の手強いモンスター相手にもまるで怯むこと無く立ち向かった姿が思い出される。

 

「やっぱ凄いなぁアンジェは。ダンジョンの時も今回も……。バルトファルト男爵も凄いけど、アンジェの方もまるで英雄譚の勇者様みたい。それに比べると私は駄目ね……。何も出来ず下手をすれば足手まといになってたかもしれなくて。本当我ながら情けない……」

「それは違う!」

 

 自嘲気味に呟くカーラの言葉を遮るようにアンジェが声を上げる。

 

「カーラだって臆することなくあの悪霊の黒いオーラに立ち向かって行ったじゃないか! それに壁に叩きつけられて酷い怪我まで負ったのに自分のことよりもリビアのことを案じてくれた! その心意気があの時私の心にどれだけ勇気を与えてくれたか!」

「アンジェ……」

「世の中腕っぷしが強くたって自分の事しか考えない身勝手な奴らだって居る。そんな奴らより人の為に我が身の危険も顧みず立ち向かったカーラの方がずっと立派だ! そしてそんな君の友人でいられることに私は誇りに思う!」

「わ、私も! アンジェみたいに強くて優しくて素敵な人が友達でいてくれて嬉しい……!」

 

 感極まった様に涙を滲ませるカーラに、アンジェは微笑みで返し身を乗り出し優しくその肩を抱くのだった。

 

 

「それより体調はどうだ? 体は痛くないか?」

「そういえば……。あの時壁に叩きつけられ気を失うぐらい痛かったのに今は全然平気……」

「良かった。リビアの回復魔法が効いたみたいだな。やっぱり流石だな」

「オリヴィア様が……! お、お礼申し上げないと……」

 

 話を聞いたカーラがベッドから下りようとするのをアンジェが押しとどめる。

 

「落ち着けって。リビアの方も自分のせいで怪我させてしまったって気にしてたんだ」

「で、でも……」

「焦らずとも後で会えるから。リビアのことを思うのなら元気な姿を見せてやることを考えればいい」

「そう、ね。ありがとう」

 

 その時、仔犬の鳴き声のような音が部屋に響く。

 そして恥ずかしそうに腹を押さえるカーラ。

 

「プッ……アハハッ」

「ア、アンジェ~」

「スマンスマン。だが腹が減るのは健康な証拠だ。回復魔法で怪我が治っても体力も消耗したろうからな。このまま食堂に行くか?」

 

 アンジェが笑いながら言うとカーラも頬を赤らめながらもはにかんで頷くのだった。

 

 その時部屋をノックする音が。

 ノックに対しカーラが「ハイ」と答える。

 

「その声、カーラさん? もう起きてるの? 大丈夫? アンジェもいるよね?」

 

 扉の外からの声にアンジェも答えながら扉に向かう。

 

「ああ、リオン。私も居るぞ。カーラも今しがた起きたところなんだ。それで私達、食堂へ行こうかって話してたところなんだがリオンも一緒に来るか?」

 

 アンジェが扉を開けるとリオンは「そうだな。そうするか」と答え、そして三人で食堂へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 食堂。

 ルクシオンにより運航されるパルトナーにおいて、食堂でもルクシオンの管理下の調理ロボットらにより温かい食事が提供される。

 そうして各々腹を満たし、今は食後の茶を嗜んでる。

 お茶もロボット任せでも出来るのだが、そこは茶に傾倒してるリオンの趣味も兼ねて手ずから淹れたのだった。

 

「とってもいい香りで美味しい……。学園祭の喫茶店でも御馳走になりましたが、やっぱり男爵、お茶淹れるのお上手ですよね」

「ありがとう。そう言ってくれると淹れた甲斐があって嬉しいよ」

 

 カーラの感想にリオンは上機嫌で答えた。

 

「アンジェは果報者ね。恋人が手づからいつも美味しいお茶を振舞ってくれて」

 

 だがカーラのその言葉にアンジェは何処と無く気まずそうに視線を泳がせる。

 

「なのに勿体ないわね。折角美味しいお茶を淹れてくれてるのに味の良さが分からないなんて」

「し、仕方ないだろ。私が育った院ではご飯はお腹一派食べさせてもらってたがその分お茶までは気が回らなかったから……」

 

 拗ねたような態度を見せるアンジェにリオンとカーラは苦笑を浮かべる。

 贅沢品の部類に入る紅茶は貴族と平民とではやはり馴染み方が違う。平民として育ったアンジェには味の違いはそこまで楽しめないと言ったところ。

 そんなアンジェを見ながらリオンは前世での乙女ゲ-ムを思い出す。

 ゲームでのアンジェ――公爵令嬢アンジェリカは当然の様にお茶に関しても流石上級貴族ならではと言わんばかりに精通してた。尤もそのお茶が振舞われるお茶会で主人公と衝突するイベントなどもあったのだが。

 そうこう物思いに耽りながら茶を嗜みカップの茶も空になったころアンジェが口を開く。

 

「ところでこの後はどうするんだ? 無事空賊は全滅させてあとは公爵家に任せればいいんだろ?」

「そうだな。俺たちが残ってもやる事ないし……残りの連休は実家で過ごすかな。アンジェも来るだろ?」

「リオンの実家か! いいな夏季休暇の時同様またお世話にならせてもらう」

 

 リオンの提案に上機嫌で答えるアンジェ。

 

「アンジェ、向こうの御家族とも既に仲良しなのね。良いわね。嫁ぎ先の御家族と結婚前からもう良好な関係築けてるなんて」

「そうなんだ! 向こうのおふくろ様も親父様もリオンの兄弟たちも皆私のこと歓迎してくれてな! あ、でもリオンの姉上とは少し気まずくてな……」

「だからそこは気にしなくて良いって。コレに関しちゃウチの姉貴が悪いんであってアンジェの気に病むことじゃねぇから」

 

 カーラはそんな二人の会話を、アンジェも全く順風満帆なわけでもないんだなと同情の念を抱きながら聞いてるのであった。

 

 

「で、私はリオンと共にリオンの実家に行くのだがカーラはどうする? 何なら君も一緒に来ないか?」

「え? わ、私?」

 

 突然話を振られたカーラは驚きの声を上げる。

 

「ああ。リオンの実家は良いところだぞ。何より温泉があるんだ。その時はクラリスの姉御も一緒でな。女同士裸の付き合いで一緒に堪能したんだ。良いお湯だったな~」

「温泉……」

「ああ温泉だ! カーラもその顔、興味沸いて来たか!? 良し、なら決まりだ!」

 

 そして半ば押し切られる形で連休の残りはカーラもアンジェと共にリオンの実家へ向かう事になったのだった。




三嶋先生の新作フェアリー・バレット面白かった。
そのうち活動報告に感想書くかもです。
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