チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり 作:julas
「どうだった温泉? しっかり温まってきた?」
「ああ、いい湯だった。リオンの浮島のとまた一味違った温泉で存分に堪能させてもらったぞ」
ここは修学旅行先の旅館のロビー。リオン達は今、学校の秋季イベントの一つ修学旅行に来ていた。
そして旅館をはじめとした浮島全体の雰囲気は一言で言ってしまえば和風な趣。
折よく祭が催されてたが、吊るされた提灯や居並ぶ出店の数々はリオンにとって懐かしい前世を思い起こさせ、アンジェ達にとって異国情緒感じさせるものだった。
そうして祭りや出店巡りを堪能した後、旅館に戻り温泉に浸かって一日の旅行疲れを流して来たとこだった。
「それより待たせてしまったのではないか?」
「気にしなくて良いよ。ダニエルやレイモンドたちと駄弁ってたから。それに女性は髪も長いし入浴時間長くなるのも仕方ないからね」
アンジェ達がやってくるとダニエルとレイモンドは気を遣ってか会釈をし席を立つと、アンジェも手を振って見送る。
ロビーのソファーで寛ぐリオンのその隣にアンジェは腰かけると、一緒に連れ立ってたオリヴィアとカーラもローテーブルを挟んだ対面側に腰かける。
リオンはアンジェの風呂あがり姿も浴衣姿も実家や自分の浮島で見慣れていたが、旅行先という解放感からかまた違った趣を感じる。
「お。その御守り早速身に付けてるんだな」
アンジェが声を上げたのはリオンの首元にネックレスの様に下げられた盾と剣をあしらった御守り。
「ああ、折角アンジェが引き当ててくれたからな」
「なに、それはお互い様さ」
言いながらアンジェが浴衣の袖を捲ってみせると、その手首には赤い玉に金属による装飾と赤い紐があしらわれた御守りが。
二人が身に付けてる御守りは、リオンがフィジカル系のブースト効果のある【武運のお守り】、アンジェが炎系のブースト効果の【属性の加護・赤】。
それは祭りの縁日で居並ぶ屋台から少し離れたこじんまりとした神社にいた御守り売りから買った物。
この修学旅行、本来なら行先はランダム運任せだったのだが、リオンが賄賂――もとい多額の寄付金でこの場所になるように働きかけたのだった。勿論アンジェ達と行先同じ様になるのも含めて。
それと言うのも前世のゲームでも修学旅行イベントは有ったのだがそこで手に入った御守りが効果が高かったので、今世でも手に入れるべく画策したのだった。
「あのお守り売り、頑として一個しか売ってくれなかったからよ」
「だからと言って金にものを言わせて買い占めようとしてたのは頂けなかったがな」
アンジェがややジト目気味な目でリオンに視線を送ると、リオンは気まずそうに誤魔化し笑いを浮かべながら視線を逸らす。
この御守り、ゲームでは効能が高いのが魅力だったが、ランダム運任せなので狙ったのが出るとは限らないのに一個しか買えない。
何が何でも相性が良い効果が高い御守りを確実に手に入れたかったリオンは金にものを言わせ買い占めようとしたが結局アンジェ達に窘められ一個限定に従ったのだった。
その時アンジェの説得の言葉が「そんな金にものを言わせて無茶を通そうとするような姿、私の弟妹達が見たら幻滅するぞ」と。
アンジェの孤児院の弟分妹分たちと仲良しになってたリオンにこの言葉は効いたのか、泣く泣く受け入れたのだった。
「いや~、でも本当アンジェが引いてくれて良かったよ。正に俺の運命の女神!」
「何時もリオンには貰いっぱなしだからな。リオンが欲しかったのを引けて私も嬉しいよ。リオンも私向けのを引いてくれたし」
今二人が身に付けてるのは、それぞれ自身が引いたものではなく、互いが引いたものを交換したものだった。
「アンジェもバルトファルト男爵も、お二人とも相手にぴったりのお守り引くなんてまさに理想のパートナー同士って感じで流石ですね」
互いに身に付けた御守りに満足気な二人に声を掛けたのはオリヴィア。その声に二人とも照れくさそうに、そして若干の気まずさを含んだ笑みを浮かべる。
「あ、そのスマン。殿下と来れなかったリビアの前で少々無神経だったかな?」
「気にしないでアンジェ。確かにユリウスと来れなかったの心残りですが、でもそれも将来を見据えて政務に取り組んでくれてのことですから」
今回の修学旅行、折り悪く国営に係わる会議と重なりユリウスにも王族として参加を求められ、結果修学旅行には不参加となってしまった。
オリヴィアにとってユリウスと来れなかったのは残念ではあったが、だが会議への参加を求められたという事は王族としての期待が回復してることの証でもあり、再び婚約を結ぶ事を願う二人にとっては望ましい展開でもあった。
「それに会えない時間に愛しい人に想いを募らせるのも、それはそれで良いものですよ」
言いながらオリヴィアが視線を向けたのはカーラ。
「ハイ。私もコリン君へのお土産や土産話出来るの楽しみですから」
オリヴィアもカーラも、それぞれ厳密には状況が異なるが想い合う相手が居ながらもこの旅行に共に来れなかったという点では共通してたので通じるものがあったのだろうか。
そしてカーラは胸元からあるものを取り出す。それは首に掛けられた盾の形をした御守りで、そこにはコバルトブルーの飛竜が刻まれてた。
「カーラさん、折角イイの引いたのに本当にコリンへの土産にしちゃっていいのかい? いや確かに俺も年頃の男の子が喜びそうなデザインって言ったけど」
精緻に刻まれた飛竜のレリーフの雄々しい姿はリオンの目にも魅力的に映ってた。
「女性向けアクセサーと言うより男の子が好みそうなデザインですからね」
リオンの問いにカーラは笑顔で答え、続ける。
「私も未来の旦那様に素敵なプレゼントが贈れて嬉しいです。コリン君、喜んでくれるといいなぁ」
掌に載せた御守りを見詰めるカーラの瞳は優しく表情は幸せそうで、それはコリンに手渡す時のことを思い浮かべてだろうか。
微笑むカーラに向かいアンジェが口を開く。
「きっとコリンの奴も喜んでくれるさ、デザインがカッコイイのもそうだが何より色もいい。カーラの髪色とよく似た綺麗な色をしてる」
「ありがとうアンジェ」
空賊討伐後、連休の残りをバルトファルト邸で共に過ごす中、決まったカーラとコリンの婚約。
当初齢が離れすぎてるのではとの思いもあったが、決まってしまえば互いの気持ちはより惹かれ合ってるようだった。
「しかしこの御守り、最初はちゃんと欲しいの引けるか不安だったけど、開けてみればみんな理想的な引きだったかな」
言いながらリオンが視線ぐるりと視線を巡らし最後に視線を送ったのはオリヴィアの手首。
そこに巻かれてたのは【属性の加護・白】でオリヴィアの得意とする回復魔法を始めとした聖属性の魔法に対しブースト効果があり正にうってつけの御守り。
こういう所でしっかり当たりを引いてくるのは流石主人公の器かなとリオンは密に感心するのであった。
だが、当のオリヴィアは何処と無く浮かない表情。
「どうしました? 湯あたりでもされましたか?」
「いえ、そういう訳ではありませんが……私も出来たらユリウスと共に来てそしてプレゼントして欲しかったかな……って」
思い返してみればリオンとアンジェは元より、カーラの引いた御守りも自分の親しい相手に贈るのに適した御守り。
それは自分で欲しいものを引くよりも意義ある事のようにも思えて。
「――なんて、そんなこと言ったら罰が当たりますよね。それに、私たちの旅の無事を祈ってくれてるユリウスの想いが引かせてくれたのかも知れませんしね」
そう言ってオリヴィアが笑顔を浮かべるとリオン達も笑顔で応えるのだった。
そうして修学旅行の楽しい夜は更けていったのだった。
翌日、リオン達は浮島を後にし学園の用意した豪華客船で学園への帰路についていた。
『旅行は存分に楽しまれましたかな』
豪華客船の甲板で景色を眺めながら寛ぐリオンに姿を隠したルクシオンが話しかける。
「ああ、十分にな。旅行も楽しかったしお目当てのアイテムも手に入ったし言う事なしさ」
今、アンジェはオリヴィアとカーラと女性同士で歓談を楽しんでるのでリオンはルクシオンと共に時間を潰していた。
『お目当てのアイテムも無事手に入ったことですし、これで心置きなくダンジョンに向かえますね』
「聖なる腕輪だろ? 分かってるって」
聖女の為のアイテム。三つのうちの一つ聖なる首飾りを空賊を降し手に入れたはいいが、怨霊の呪いと言う望んでもいないオマケが憑いてた。
その怨霊自体はアンジェによって無事調伏出来たが、ルクシオンはどういう訳か祓われたその怨霊に多大な関心を持ってしまった。
なので怨霊が祓われる前の聖女アイテムをルクシオンは望み、リオンも応じることに。
リオンとしてもオリヴィアには無事聖女になってもらいたいのでアイテム入手自体には異論はない。言われるまでもなく元から入手、或いはオリヴィア達が入手に動く時には手助けするつもりだったから。
また、腕輪にも憑いてると思しき怨霊も首飾り同様にアンジェが祓えるかもしれないが、なるべくなら危ない真似はさせたくない。
ルクシオンの調査の過程で安全に祓う方法が見つかるのならそれも探りたいので。
そんな事を話し合ってると見知った顔が。クリスだった。
あの決闘騒ぎで対決した相手の一人。
目線が合うとクリスは気まずそうな顔を浮かべるも直後頭を下げる。
「その節はすまなかった。殿下を諫めるどころか、人の女を力づくで横取りする行為に手を貸す様な真似、本当に申し訳なかった」
開口一番謝罪を述べたクリスにリオンは一瞬面喰うも気を取り直し語り掛ける。
「そういうことは俺より先にアンジェに謝罪しろ」
「勿論だ。だからアンジェリカにも既に謝罪を済ませてきたが、そこでバルトファルトへの謝罪は済んでるか問われたのでこうして来た次第だ」
クリスの言葉にリオンがちらりと姿を消したルクシオンが居る右肩に視線を送ると、リオンにだけ聞こえる小さな声で『私の方でも確認してます』と。
この豪華客船でも、学園同様とまではいかないがドローンなどのルクシオンの"目"と"耳"は幅広く散っていた。もっとも学園ほどすべてを網羅してる訳ではないが。
「だったらいい。もうこの話はそれで手打ちだ」
リオンがため息交じりに赦すとクリスも「寛大な対応に感謝する」、と。
リオンは話は終わりかと船内に戻ろうとするとクリスは尚も話を続ける。
「思えば私は慢心してたのかもな。剣聖である父からは才能が無いと叱責され続け、その言葉に諦めに近い思いを抱いていた。その一方で父以外になら誰にも負けないと、王国最強の父に次ぐ実力という立場に慢心し父を超えることを諦めかけてた。お前に打ちのめされて気付いた」
クリスは真っすぐな目でリオンを見詰める。
「だからバルトファルト、お前には感謝してる。そして可能ならいつかまた立ち会ってくれ。そしてお前も、父も超え諦めかけていた剣聖になるという思いを成し遂げて見せる!」
クリスの言葉にリオンは、聞いてもいないのによく喋るな、と若干呆れ顔。クールに孤高ぶってる割に根は構って貰いたがりの面倒な奴だな、と。
だが剣士としてのポテンシャルの高さは折り紙付き。この先も更なる高みを目指してもらうには良い傾向なのかなと思う。
「そうか。まぁ頑張れよ」
言ってクリスの肩を叩くとクリスは嬉しそうな表情を浮かべる。
「ああ! 期待に応えてみせよう! そしていつか、また私と手合わせしてもらえないかバルトファルト」
熱っぽく語り掛けてくるクリスだったがリオンは「まぁ、気が向いたらな」と、冷めた返事。
だがクリスは生返事にもどこか嬉しそうにも見える表情を浮かべるのだった。
そんな暢気な空気を壊す様に突如警報が鳴り響く。
何事かと視線を巡らせれば何時の間にか周囲には夥しい数のモンスターが集まって来ていた。そしてその数は今なお増え続ける。
白い雲を突き破って次々現れるモンスター達。海洋生物の様な姿のモンスター達は空を泳ぐように周囲を漂う。
突如現れたモンスター達に生徒たちの中にはパニックに陥るものも。
だが豪華客船を取り囲むも襲ってくる気配は無い。襲って来られるよりかはマシだがモンスターらしからぬ行動は不気味であった。
『統率が取れていますね。データには無い行動です』
リオンは声のした方を振り向き驚きの表情を浮かべる。それはルクシオンが普段はリオンと彼の親しい者達以外の前には姿を隠すのを常としてたから。
そのルクシオンが、光学迷彩を解きその姿を現してた。
それほど危険な状態なのだろうかとリオンは気を引き締める。
そして周囲のモンスター達を観察するとあることに気付く。
「何だ? 紋章?」
リオンの問いに応える様にルクシオンが映像を映し出す。拡大し映し出されたモンスターの映像。その額の辺りには紋章が浮かんでた。
「どこかで見た事があるな」
『ファンオース公国の紋章です』
「嘘だろ!?」
思わず驚きの声を上げたリオン。
ファンオース公国。それはかつて王国の大公の地位にあった貴族が独立して興した国。リオン達が生まれるよりもはるかに前の事である。
何よりゲーム終盤で戦うことになる相手。
「ゲームラスボスの所属陣営の国じゃねぇか……」
何れ戦うことになる国。だがラスボスの国と言うだけありゲームでは終盤の三年生に進級後に相まみえる。
こんな未だ一年生の内に遭遇するなど想定外にも程がある。
だが思い返せば空賊イベントもゲームでは二年に起きる筈だったのに一年の時起きた。
それを思えば有り得ない話ではなかった。
リオンの脳裏にかってルクシオンに言われた言葉【思ったより当てになりませんね。マスターの言う前世の記憶とやらも。そんなものに頼り切ってるからいざという時に対応が遅れるんです】と言われたのが蘇る。
「クソッ! 完全に俺の見通しが甘かった!」
取り囲むモンスターを前にリオンは歯噛みをするのだった。
連載始めてから一周年です。
開始当初の毎週連載は維持できませんでしたが何とか続けてます。
原作でいう所の王国編のラストまで漕ぎ付ければそこでピリオド打ちたいと思います。
完結できるよう頑張りますので今後ともよろしくお願いいたします。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします。