チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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44、人質

『ファンオース公国、第一王女ヘルトルーデ・セラ・ファンオースが告げる。我らはホルファート王国に宣戦布告する。愚かなる王国貴族の子弟たちよ。覚悟を決める時間をやろう。降伏か、それとも死か。一時間だけ待つ』

 

 公国の紋章を額に頂いた夥しい数のモンスター達。その後に現れたのは予想通り公国の艦隊。そしてその指揮官は公国の第一王女。

 公国王女の口から発せられたのは宣戦布告。

 

 現在、リオン達の命運は公国軍に握られている。

 公国から告げられ与えられた猶予は一時間あまり。

 今、リオン、アンジェ、オリヴィア、カーラは船室で今後の事について話し合っている。

 場所はオリヴィアに宛がわれた部屋。公爵令嬢たる彼女に宛がわれた部屋はひと際広くそれ故リオン達は話し合いの為に集まったのだった。

 

「ルクシオン、お前の……いや、パルトナーとアロガンツ、それまでに間に合うか?」

 

 リオンが言いかけて伏せたのはルクシオンの本体たる航空戦艦。あまりにも絶大過ぎる力の為現状その存在は伏せてる。

 だが直後誰にも聞こえない小声で「勿論お前の本体も」と付け加える。

 相手は一国の艦隊に加え夥しい数のモンスターまで。いざとなればルクシオン本体の航空戦艦の力も頼らざるを得ない。

 公国軍の存在を確認するやルクシオンは本体とパルトナーの出撃許可を求めリオンも直ちに許可してた。

 

『急いでおりますが現状厳しいと言わざるを得ません』

 

 その強大過ぎる力故リオンがチート級と称する程絶大な力を誇るルクシオン本体。それに及ばぬまでも現行のあらゆる飛行船を上回るパルトナー。

 だがそんな絶大な力を持ちながらもこの場に居なければ意味がない。

 この一時間でルクシオン本体とパルトナーが到着できるか否かが命運に大きく関わっている。

 いや、それ以前に公国が一時間を待たずに攻撃してくる可能性も。

 

 

「生徒たちの様子はどうだ?」

 

 公国軍は男爵家以上の生徒達に人質として降るよう求めてきた。捕虜として待遇すると。

 公国の使者の言葉を額面通り受け取るのなら人質として降った方が生存率は高いのかもしれない。

 その一方で相手は王国とは因縁深い相手。かつて戦火を交えた時は王国公国双方に多大な犠牲者を出し、互いに対する憎しみは深いと聞く。

 そんな公国に降って果たして無事に済むのか。そして船に残った方が、人質確保と言う目的を果たした公国から見逃してもらえるのではという楽観的観測を抱く者まで。

 

 結果、未だ誰も人質に身柄を差し出す生徒は居らず、最悪このままでは業を煮やした公国が一時間を待たず攻撃してくるのではと言う懸念すら。

 リオンはルクシオン本体とパルトナー、自身の愛用の鎧アロガンツが到着さえすれば切り抜けられる自信はあった。

 だが裏を返せば到着前に攻撃されれば空の藻屑と化す最悪な結末の可能性も。

 

 

「私が人質として身柄を差し出しましょう。そしてこの船と他の生徒達を見逃す様掛け合います」

「リビア!?」

「「オリヴィア様!?」」

 

 声を上げたオリヴィアに一同驚きの声を上げる。

 

「待ってくれ! どうしてリビアが!?」

「それが貴族としての務めだからです。このような時こそ貴族としての範を示す時なのです」

 

 実際の所、公国軍に差し出す人質として爵位の最上位である公爵家の令嬢であるオリヴィアは適役と言えよう。

 

「だからって黙って見過ごせるか! リビア一人にそんな危ない真似! どうしてもと言うのなら私も共に――」

「アンジェ、気持ちは嬉しいですが平民の貴女では向こうは取り合ってくれません」

 

 オリヴィアの言葉にアンジェは言葉を詰まらせる。公国が人質として求めてきたのは男爵家以上の令息令嬢で、平民のアンジェでは取り合ってもらえない。

 

「でしたら俺が代わりに出向きます」

 

 声を上げたのはリオン。彼の肩書は男爵位。男爵家の令息ではなく男爵そのものである。公爵令嬢ほどではないが人質としての価値はあるだろう。

 何よりリオンにとってオリヴィアは【ゲームの主人公】である。危険に晒すぐらいなら自らが買って出ようというのだろう。

 

 

『賛同できかねます』

 

 だがリオンの声にルクシオンが異を唱えた。その声にリオンはルクシオンを睨み付けるとオリヴィアも異を挟む。

 

「ルクシオン殿の仰るとおりです。バルトファルト男爵が降ってしまっては交渉不成立の場合には船を護るものが居なくなります。男爵の船が到着しても抗戦が叶わなくては本末転倒です。違いますか?」

 

 ルクシオンとオリヴィアの言葉にリオンは返す言葉が見つからなかった。

 実際にはリオン不在でルクシオン任せでもパルトナーは戦闘可能である。

 だが自身が人質となり船を離れ、完全にルクシオン任せにした場合、自分たちの船と学園の生徒たちは十分守ってくれるだろうが、敵である公国軍の兵士には容赦せず犠牲者が出るのもいとわないだろう。

 前世の平和な日本での価値観を引きずるリオンにとって、敵とは言え人死にを出すのは精神的に堪えがたいもの。

 自分の甘さ不甲斐無さに、リオンが悔し気に下唇を噛み場に沈黙が降りる。

 

 

「バルトファルト男爵。私の代わりに人質を買って出ようと申し出てくれたこと感謝します。ですがここは私任せてくだ――」

「オリヴィア様!」

 オリヴィアの声を遮る様に声を上げたのはカーラだった。

「ひ、人質には、私が代わりに参ります!」

 

 かつてのカーラの実家は準男爵家であったが、空賊討伐を契機に男爵家に陞爵してた為、人質としての条件には適っていた。

 カーラのその顔は強張り浮かべた表情も酷く思いつめた様に見え、その様子にアンジェは声を上げる。

 

「待てカーラ! そんな思い詰めた顔した君を人質になんて……いや、そうじゃない! リビアにもリオンにもカーラにも! そんな誰かを人質にしてこの場を乗り切ろうなんてのが賛同できるか!」

「アンジェ……。貴女のそのいつでも真っ直ぐなところ私好きよ。でもね冷静に考えて。今は差し迫ってる公国の脅威を乗り切らなければいけないの。その為には時間が大事なの。誰かが人質に名乗り出なければいけないの」

「だからってその人質にどうして君が……」

 

 アンジェの言葉にカーラは微笑みで応える。そしてその顔から先ほど迄のこわばりは消えていた。

 自分を真剣に案じてくれる大切な親友を――アンジェを護りたいと覚悟が決まったのか瞳に力が宿る。

 そして視線をオリヴィアに向ける。

 

「オリヴィア様、誰よりも率先して人質になろうとされた気高い御姿、公爵令嬢様の名に恥じない御決断。そんな貴女を私は尊敬します。ですが、貴女は王国の未来に無くてはならない大切なお方。ここで犠牲になるなどあってはならないのです」

 

 次に視線をリオンに向ける。

 

「リオンさん。リオンさんの船と鎧さえ到着すればこの状況も切り抜けられるんですよね?」

 

 カーラの問いにリオンは力強く頷く。次に視線はルクシオンと彼の投影した映像に。

 

「ルクシオンさん。この船に乗った他の生徒たちに現状人質として名乗り出ようとする生徒は居ないんですよね?」

『誠に遺憾ながら』

 

 ルクシオンの答えにカーラは頷くと視線をアンジェに戻す。

 

「分かるでしょ? 冷静に状況分析するならば、これしか手は無いんだって」

「でもそんな……! その為にカーラが犠牲になろうだなんて、それじゃまるであの時と……!」

 

 それは学園祭でリオンやアンジェ達が催した喫茶店に訪れたカーラが自分一人で犠牲を引き受けようとした時の事。

 

「そうね。あの時と似てるかもね。あの時は諦めてそれしか選べないって思ってた。リオンさんの力を信じる事が出来なかったから。でも今は違うわ」

 

 カーラは強い意志を宿した瞳でアンジェを見詰める。

 

「今はリオンさんの力を信じてるから! 時間さえ稼げればリオンさんがどうにかしてくれるって!」

「カーラ……。分かった君の意思を尊重しよう。なら私からもお願いがある。君と、そしてリオンに!」

 

 アンジェはリオンの方を振り向き声を発する。

 

「リオン! パルトナーとアロガンツが到着したのなら必ずカーラを公国の手から取り戻し救い出してくれ!」

「勿論だ!」

 

 アンジェの声にリオンは即答する。最初からアンジェがそう言うと分かってたかのように。

 

「待ってくださいリオンさん! リオンさんにそんな危険な真似――」

「何言ってる。人質になろうというカーラさんに比べればこんなの危険の内に入るもんか。それに、君に若しもの事があったらアンジェは勿論、弟のコリンにも、お袋にだって合わせる顔が無い。君はコリンの婚約者なんだ。だったら俺は君の義理の兄も同然。だから遠慮なく頼れ」

 

 リオンは力強く自分の胸を叩いてみせる。

 

「リオンさん……。ありがとうございます。分かりました貴方のお言葉に甘えさせていただきます」

「リオン! 私からも礼を言う! ありがとう。そして頼んだぞ。必ずやカーラを救いだしてくれ」

 

 カーラとアンジェに向かいリオンは「任せろ!」と力強く答えた。

 

 

「カーラさん、申し訳ありません。本来なら私が請け負うべきなのに貴女に重荷を背負わせてしまって」

「お気になさらないでくださいオリヴィア様。こんなこと言うのも何ですが、むしろ少し嬉しいんです。皆さんには返し切れないほどの御恩があり、少しでもその御恩が返せるかと思うと」

 

 カーラがオリヴィアに会釈をすると、アンジェが声を上げる。

 

「カーラ。君にこんな危険な役目を負わせてしまってすまない。だから、せめて公国に降るその時まで一緒に――」

 

 アンジェの言葉を遮るようにカーラが手をかざす。

 

「ありがとう。だけどアンジェ。優しくて、でも激情家な貴女が、私が人質として引き渡されるの黙って見ていられる?」

 

 その言葉にアンジェは言葉に詰まる。

 

「別に責めてるんじゃないのよ。だって私アンジェのそんなところが大好きなんだから。でも今は私の言う通りここでじっとしてて? 貴方が私を想ってくれてる様に私も貴女を護りたいの。大丈夫。リオンさんが、アンジェの騎士様が私のことも後で必ず助けるって言ってくれたんだから」

 

 カーラはアンジェに微笑みかける。それはかつてのような悲壮な覚悟の微笑ではない。希望を信じてる前向きな微笑み。

 リオンが二人の側に歩み寄る。アンジェの肩を抱きながらカーラを見詰める。

 

「絶対に助けるから」

『私も全力でマスターをサポートしお助けします』

 

 リオンに次いで言葉を発したルクシオンは掌に収まるほどの薄く小さな箱のような機械をカーラに渡す。

 

『発信機です。貴女を助け出すのに必要なので持っておいてください』

 

 カーラは受け取ると微笑み会釈し扉へ向かう。そして皆に見守られ部屋を後にし、公国の使者が居る甲板へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「未だ一人も人質に名乗り出ないとは何と情けない。このように不甲斐無い者達しかいないとは、これが王国の学園の生徒ですか!?」

 

 呆れを含んだ声で嘲る様に言い放ったのは公国の使者としてこの船に降り立った男。名をゲラット伯爵と名乗っていた。

 上等な衣服に身を包み無駄に立派な口髭を蓄え、横柄で尊大な態度に学園の生徒たちは怯えていた。

 そんな怯える生徒達をゲラットは最初、嗜虐的な笑みを浮かべながら見下し楽しんでた風であったが、今は埒が明かないと苛立ち始めていた。

 そんな生徒達の人垣から声が上がる。

 

「男爵家以上の子弟を御所望と仰られてましたね?」

 

 人垣をかき分けカーラがその姿を現す。

 

「ほう? やっと一人ですか? 名を伺いましょう」

「ウェイン男爵家が息女、カーラ・フォウ・ウェインと申します。人質を所望とあらば公国軍に降りましょう」

 

 カーラの答えにゲラットは不服そうな声を上げる。

 

「男爵家、ですか。確かに男爵家以上とは言いましたが……それでも男爵家とは。子爵家や伯爵家の子弟は居なかったのですか」

 

 言いながらぐるりと視線を巡らせるが他の生徒たちは相変わらず怯えている。

 

「しかもウェイン家などと聞いたこともない……いや、その名前どこかで?」

「公国の方には以前の名を名乗った方がお分かり頂けるかもしれませんね。旧オフリー伯爵家の元寄子、その頃の位は準男爵――ウェイン準男爵家、と」

 

 カーラにとって忌々しいオフリーの名など本来口に出したくなかった。だがあえて口にした。

 それはかって仕えさせられていたオフリーの令嬢が口にしてたから。

 オフリー家は公国との伝手がコネクションがあると。

 この先王国と公国が再び戦火を交えることになってもオフリー家は安泰だと。

 そして公国が勝ったのなら今まで見下してきた王国の貴族どもを見返してやるのだと。

 オフリーが空賊と手を組むという王家にとって背信的行動をとっていたのも公国と通じ王国の国力を削ぐため。

 

 公国にとってそんなオフリーは大事な協力者であったのにお家お取り潰しに。原因は寄子の準男爵家の造反と聞く。

 ゲラットは目を見開きカーラを睨み付ける。

 

「オフリー家の元寄子? まさか!」

 

 カーラは男爵令嬢と言う肩書だけでは不十分と解っていた。オリヴィアの公爵令嬢やリオンの男爵位と比べれば。

 だから忌まわしいオフリーの名を出した。自分に関心を向けるために。

 その関心が決して良くないものであることも、それがどれほど危険な事かも理解した上で。 

 ゲラットの顔色が変わる様を確認しながらカーラは口角を上げてみせる。挑発する様に。

 

「この小娘がァッッ!」

 

 ゲラットは激昂して手の甲でカーラを叩いた。

 公国にとってオフリー家と空賊による暗躍は王国侵行計画の一端であり、その取り潰しは計画修正を余儀なくさせるものであった。

 そこに係わってたとされる元寄子の準男爵家――陞爵して男爵家となったウェイン家、その令嬢であるカーラを目の当たりにして思わず頭に血が上ったのだった。

 叩かれ吹き飛ばされたカーラは倒れ伏している。叩かれた際に口の中を切ったのか唇の端から血が滲んでいる。

 そんなカーラに向かい腹の虫が収まらぬゲラットは更に手を上げようとするも周りの部下達が止めに入る。

 

「伯爵! 落ち着いてください! それ以上は流石に公国の品位に関わります! それに他の生徒達を余計に怯えさせます!」

 

 その言葉にゲラットは周りに視線を巡らせる。

 生徒たちは先ほど迄よりさらに怯えの色を濃くしてる。これでは最早完全にこれ以上の人質に名乗り出るものは期待出来なさそう。

 目の前で人質として降ったカーラがこのような目に遭ったのを見た後では。

 ゲラットは忌々し気にカーラを睨む。そして記憶を巡らせる。

 オフリー家の取り潰し。その切っ掛けは寄子の造反と聞くが、最終的に取り潰しに至った空賊征伐には公爵家とその令嬢が関わったと聞く。

 ウェイン家が準男爵から男爵家に陞爵したのも公爵家による計らいとも聞くし、そこから目の前の男爵令嬢と公爵令嬢の繋がりも推察できる。

 ならば彼女を餌に公爵令嬢を引っ張り出せないだろうか。それが出来なかったとしてもその時は男爵令嬢を見捨てる非情を責め立てる口実に出来る。

 

「いいでしょう。これ以上ここに留まっても腰抜けの王国生徒達には何も期待できそうもありませんしね。お前達、その小娘を引っ立て連行しなさい」

 

 怯える生徒たちに見送られながら、公国の兵士たちに腕を掴まれ連行されていくカーラ。

 頬の痛みと周囲を敵兵に囲まれる恐怖に耐えながら心の中で呟く。

 

(リオンさん。あとはよろしくお願いします……)




引き続き、対公国戦です。

ps:ガンダム映画観て来ました面白かったです。活動報告にネタバレ感想載せました。
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