チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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46、奪還

「バルトファルト男爵!」

 

 公国旗艦に向けアロガンツを発進させようとするリオンの耳に飛び込んできたのはオリヴィアの声。

 声のした方に首を向ければオリヴィアと、隣にはアンジェが。

 

「私"達"が血路を開きます。アンジェ、拳を」

 

 オリヴィアの言葉にアンジェは力強く頷くと拳を突き出す。リオンがこれから飛び立とうとする空域を埋め尽くすモンスターの群れに向かって。

 突き出されたアンジェの拳にオリヴィアが手を添わす。

 アンジェの体から深紅のオーラが発現し、オリヴィアからも清らかな白い光が溢れ出す。彼女らが身に付けた首飾りや属性の加護も輝きだす。

 アンジェとオリヴィアのオーラと光が融け合い、やがて白く輝く炎となる。

 それはかつて首飾りの怨霊を調伏した時見せた白き浄化の炎。

 

「トリガーは貴女です。撃ってください! アンジェ!」

 

 オリヴィアの声に応えアンジェが眼前の敵を見据え吠える。

 

「灼き滅ぼせ! リオンの行く手を遮るモンスターどもを!」

 

 次の瞬間、アンジェとオリヴィアの白き炎がアンジェの拳を発火点として、まるでカノン砲の様に撃ち出された。

 純白の炎は瞬く間に夥しい数のモンスターの群れを射線上から灼き滅ぼし、そしてモンスターで埋め尽くされてた空に一本の道の様に空白の空間が生まれる。

 

「行ってくれリオン! 私の騎士よ! カーラを取り戻しに!」「男爵! 行って下さい!」

「ああ! 行ってくる!」

 

 アロガンツは眼前に開けた空間に飛び込むとブースターを吹かす。そして公国旗艦へと全速力で突き進むのだった。

 

 

 

 

 

 公国艦隊旗艦。

 艦内に鳴り響く警報が戦端が開かれたのを告げる。そしてそれは貴賓室に居る艦隊の指揮官ヘルトルーデや人質として捉われたカーラにも伝わる。

 

「始まったわね。王国の終わりの始まりが」

 

 ヘルトルーデは冷たい笑みを浮かべながらカーラを見詰める。

 

「この貴賓室の窓からもよく見えるわよ。カーラ、貴女も見たら? 貴女を見捨てた情けない王国貴族の生徒たちが散る様を」

 

 ヘルトルーデの言葉にカーラは一瞬だけヘルトルーデを睨むも直ぐ俯き視線を床に落とす。

 

 

「本当に気に食わない目ね。この期に及んでも未だ何かを信じてるかのような目。まあいいわ。王国の船が沈み生徒達の命が全て散ったその時、貴女の瞳が絶望に染まるのが見ものだわ」

 

 ヘルトルーデが冷たく笑いながら嘲りの言葉を発した次の瞬間、王国の船から砲撃の様な鮮烈な光が放たれ一瞬で数多くのモンスターの群れを灼き尽くした。

 一体何事が起ったのかとヘルトルーデが眼を剥くとドアが開け放たれ公国の騎士が駆け込み報告してくる。王国の船から攻撃魔法と思しき強烈な一撃が撃ち出され、直後一機の鎧が飛び立ちこの旗艦めがけて突き進んでくると。

 ヘルトルーデは窓の外を眺め、報告に有った鎧を見つけると呟く。

 

「アレが報告にあった鎧かしら。武骨で大柄な型落ちに見えるわね。あんなもので突撃とは正気を疑うわ。しかもたった一機で」

 

 その声にカーラは顔を上げ窓に駆け寄る。窓の外の鎧――アロガンツを見つけたカーラの顔に安堵と希望の色が浮かぶ。

 ヘルトルーデはそんなカーラの顔に苛立ちを感じながら言葉を紡ぐ。

 

「さっきまで怯え俯いていたくせに。そう。あれが貴女の希望なのね? お笑い種ねあんな型落ちに期待し託してたなんて」

「公国の王女殿下も存外見る目が無いんですね」

「なんですって!?」

「リオン・フォウ・バルトファルト男爵」

「バルト……ファルト?」

「あの鎧を駆るお方の名です。私の知る限り王国最強の騎士様です」

 

 先程迄語り掛けても震えロクに受け答えも出来なかったカーラは今、臆することなく堂々と受け応えた。

 

「強がりを! あんな鎧一機でこのモンスターの群れで埋め尽くされた空を……え?」

 

 ヘルトルーデが言葉に詰まったのは、その眼にした光景に驚きを禁じ得なかったから。モンスターの群れ相手に圧倒的パワーで次々斬り伏せ進むアロガンツの姿に。

 

「なるほど。確かに多少はやるようですね。でもそれもここまでよ。魔笛を!」

 

 ヘルトルーデが命じると侍女の一人が妖しげな横笛を恭しく差し出す。

 

「これは魔笛。光栄に思いなさい。本来なら男爵令嬢如きが目にすることも叶わない公国の至宝。モンスターを自在に操るその力を見せてあげるわ」

 

 ヘルトルーデは手にした横笛――魔笛を吹き始める。

 妖しげなメロディーが流れるとモンスター達の動きが一気に活性化し狂暴化する。

 

「多少はやるようですがコレであの鎧もおしまいね。魔笛の力により凶暴さと力を増したモンスターに食い尽くされてしまうがいいわ!」

 

 だがヘルトルーデの言葉にもカーラの顔は些かも陰らない。その眼に宿した希望の光は消えずアロガンツを見つめ続けてる。

 そんなカーラの様子をヘルトルーデは睨み付け、そして窓の外のアロガンツに視線を移すとその顔に驚愕の色を浮かべる。

 

「嘘!? 何で!? 凶暴化したこの数のモンスター相手にものともしないなんて!?」

 

 魔笛の力によりモンスターの動きは活性化凶暴化し、更には離れた場所からも押し寄せ、それは鎧一体に対し過剰ともいえる数。並の鎧なら瞬く間に食い尽くされてもおかしくない様に見えた。

 だがアロガンツと、更にはそのコンテナから現れたドローンの射撃により襲い掛かる側から片っ端から撃ち落され蹴散らされていく。

 

 

「い、一体何者なのよ!? あの鎧とそれを操ってる騎士は!?」

 

 リオンの――アロガンツの圧倒的強さに言葉を失うヘルトルーデは、忌々し気にアロガンツを睨みながらも目が離せずにいた。

 逆にカーラは全幅の信頼を寄せた表情で静かに見守っていた。

 そんなカーラはふと呼ばれたような気がした。その声は自分の制服のポケットから聞こえたように感じ手を入れると、それは投降前にルクシオンから持たされた発信機。

 

『カーラ、聞こえますか? 救出の段取りが整いました。危険なので窓から離れてください』

 

 カーラは一度窓の外の、船まで数十メートルの所まで近づいて来たアロガンツに視線を向けると、再び発信機に視線を戻し「分かりました」と小さく答え頷くと窓から離れる。その際ヘルトルーデに向かい声をかける。

 

「王女殿下も窓から離れた方が良いですよ」

「何ですって? 一体どういうことよ!?」

 

 ヘルトルーデはカーラの背を追うように窓から離れ、その瞬間窓ガラスを破り鉄球の様なものが飛び込んでくる。それはいつもリオンに付き従ってるルクシオンの姿。

 

「ルクシオンさん!」

『カーラ、手を伸ばしてください』

 

 カーラは真っすぐ自分に向かってくるルクシオンに手を伸ばすと抱きしめるように受け止める。

 

「人質が勝手な行動取るな!」

「何だその鉄球は!? 魔道具の類か!? よこせ!」

 

 突然飛び込んできた謎の鉄球――ルクシオンとそれを受け止めたカーラに対し公国の騎士や侍従が手を伸ばす。

 

『私とカーラに触れるな!』

 

 瞬間ルクシオンを抱いたカーラを護るべく電磁バリアが発生し騎士たちを弾き飛ばした。

 

 

 

 そのころアロガンツのコクピット内のスピーカーからルクシオンの電子音声が響く。

 

『カーラの安全を確保しました。アロガンツを突入させても大丈夫です』

「よくやった!」

 

 ルクシオンの声に応じリオンはアロガンツを公国旗艦に突撃させる。

 立ちはだかるモンスター達を蹴散らし数十メートルの距離を一気に駆け抜けると、壁も窓ガラスもぶち破る。

 貴賓室を破壊しアロガンツの上半身が姿を現す。コクピットハッチを開けリオンが叫ぶ。

 

「無事か!? カーラ!」

「はい! 私なら大丈夫です! ありがとうございます! ルクシオンさんのお陰もあって!」

 

 その声にリオンはカーラを安堵させるように微笑みかけると、次の瞬間公国の侍従や騎士たちを睨みショットガンを発砲する。

 リオンの銃弾を受け倒れる公国の騎士たち。だが血は流れておらず転がる弾丸も金属ではなく非殺傷ゴム弾。それでも公国の騎士たちはある者は気を失い、ある者は意識はあっても痛みの為に蹲る。その様子から暫くは身動きを取れないだろう。

 

「カーラは返してもらうぞ! それと――」

 

 アロガンツの巨大な左手がヘルトルーデに伸び、捕まえる。

 

「お前は来い! 今度はこっちが人質にしてやる!」

「おのれ! 姫様を放――ぐぁっ!?」

 

 アロガンツの手に捕まったヘルトルーデを助けようと動いた騎士たちだったがリオンの発砲により倒れる。

 未だ残ってる侍従や騎士は居ないか、と周囲に視線を巡らせるとコソコソと逃げ出す人影が。ゲラットだった。

 リオンは逃げる背中に向け容赦なく発砲すると、ゲラットは潰れたヒキガエルの様な声を出して倒れ伏す。

 コクピットから下りて近づけばその手から魔笛が零れ落ちていた。それはまるで自国の王女より魔笛の方が大事だと言わんばかりの行動に見えた。

 

「コイツも頂いていくぞ。カーラ、持っといてくれ。それと――」

 

 リオンは魔笛を拾いあげ駆けよって来るカーラに手渡すと倒れてるゲラットの顔に手を伸ばす。

 

「お前にはカーラに手を上げてくれた礼もしとかないとな!」

 

 言ってゲラットの髭を力づくでむしり取ると痛みで意識が戻ったのか、のたうち回ったので再度ショットガンをお見舞いし沈黙させる。

 ルクシオンも『残りの髭も完全に除去しますね。永久脱毛ON』と言いながら残った髭もレーザーで焼いていくのだった。

 

 

「さて、それじゃぁ帰るぞ。アンジェ達が待ってる」

「はい。あ、でも……」

 

 カーラはアロガンツのコクピットを見ながら言葉に詰まる。それと言うのも幾ら通常より大きめの鎧とは言え一人乗り。自分は何処に乗ればいいのだろう、と。

 リオンもカーラの意図を察し、直後気まずそうに視線を上に逸らし、やがて観念した様に頷くと「ゴメン、カーラ」と言って背中と膝裏に手を回し抱きかかえてコクピットシートに着座し、カーラを自身の膝の上に横向きに乗せる。

 

「リ、リ、リオンさんん!?」

「うん、だからゴメン。でも緊急事態だから」

「い、いえ別に全然嫌じゃないです……。で、でもこの距離感は……アンジェに申し訳が……」

「大丈夫だろ。アイツはそんなの気にするような奴じゃないし。何よりそのアンジェにも絶対カーラを無事救い出してくれって頼まれてるし」

 

 リオンがその眼に気まずさや照れくささの色を滲ませながらも逸らさずにカーラを見詰め言葉を紡ぐと、カーラも観念したように頷く。

 

「分かり……ました。ではよろしくお願いします」

「うん……しっかり捕まってて」

 

 カーラがリオンの首に手を回ししっかりしがみつくと、アロガンツのハッチが閉じられる。そして公国旗艦から飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

 公国旗艦を後にしアロガンツが飛び立つと、来た時はモンスターだけだったが今度は鎧までも出てきてた。

 自軍の総司令である王女が攫われたのだ。鎧が出撃して来るのも当然というもの。

 

「王女殿下を返せ!」

 

 鎧の一体が叫びながら向かってくると、リオンはアロガンツの、王女を掴んだ手を掲げる。

 アロガンツに握られた王女の姿に襲い掛かってきた鎧の動きが止まると、その隙を逃さずアロガンツの蹴りが飛ぶ。

 蹴りを受けた鎧は吹き飛ばされそのまま墜落していく。

 

「おのれ! 王女殿下を! 人質を盾にするとは汚いぞ!」

「馬鹿が! 鏡見て発言しろよ! 先に正規軍で民間船を襲ったくせしてどの口が言いやがる! おまけによくもウチの、バルトファルト家の、弟の未来の嫁を人質にしてくれやがって!」

「だまれ! 騎士道の風上にも置けぬ奴め!」

 

 そうしてまた一体の鎧が斬りかかって来る。

 左側面から斬りかかってきた鎧の狙いはアロガンツの左腕の肘関節。アロガンツの腕を斬り落とし王女を取り返そうという肚だろう。

 見せつける様に王女を握った手を高く掲げ伸びた腕。その腕を斬り落としさえすれば王女は奪い返せる。

 そう相手鎧が意図してるであろうことはリオンも容易に察することが出来た。だがリオンの表情に焦りはない。

 リオンは「ルクシオン」と語り掛けると『大丈夫です』と返事が返ってくる。

 ルクシオンの返事にリオンは口角を上げると、敵鎧の剣を躱さず敢えて受ける。

 直後響き渡る固い金属音と敵鎧に乗った敵騎士の発する驚きと動揺の声。

 

「バ、バカな……!? あ、ありえん!?」

 

 関節と言うのは鎧のウィークポイントの一つ。それはどんなに防御力に優れた鎧であっても例外ない。少なくともこの世界の鎧であれば。

 だがロストテクノロジーの粋を凝らして作られたアロガンツの前にその定石は通じなかった。

 全力の一撃が通じなったことに驚き硬直した鎧はアロガンツの蹴りを受け、先程の鎧同様墜落していく。

 

 

「関節を狙った判断も正確に狙った剣の腕も悪くなかったぜ。だが、鎧の性能差の前には通じなかったな」

 

 アロガンツは睨むように公国の鎧群に向け首を巡らせ、あらためて手にした王女を掲げて見せる。

 

「状況理解出来たか? 出来たんなら引け! 前を開けろ! お姫様の身が大事ならな!」

 

 リオンの気迫、王女を人質に取られてるという状況に公国の鎧達は悔しさを滲ませながらも前を開ける。

 コレで後は船に帰るだけだとリオンは安堵の息を吐く。

 直後ルクシオンからアラートと共に緊迫感を滲ませた声が発せられる。

 

「マスター。上空から急接近してくる機影が――避けてください!」

 

 いつになく切迫したルクシオンの声にリオンは慌てて回避行動に移す。瞬間先ほどまでアロガンツが居た空間を、上空の死角から襲い掛かってきた鎧の剣が斬り裂いた。

そして――

 

「なっ!? アロガンツの装甲を斬り裂いただと!?」

 

 今までどんな攻撃にもビクともしなかったアロガンツが、肩の装甲の一部が斬り裂かれていた。

 ルクシオンの気付きに、声に直ぐ様反応し躱したから斬り裂かれたのが肩だったが、その声が無ければ今頃斬り落とされてたのは王女を握っていた左腕だったろう。そう、先程の鎧の様に躱さず受ける様な真似をしていたのならば――

 リオンはたった今自分がいた空間を通り過ぎて行き、そして今ゆっくりと距離を詰めてくる鎧に向かい眼を剥く。

 

「黒に染め上げた鎧に、アロガンツの装甲をも斬り裂く剣――コイツ、黒騎士か!?」

 

 脳裏に、記憶に蘇るのは前世のゲームでも散々苦汁を舐めさせられた最強の敵鎧。

 目の前の黒い鎧――黒騎士が剣を構え声を発する。

 

「王国の騎士よ。姫様は返してもらうぞ」




髭毟りはノルマw
そして黒騎士とエンカウント
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