チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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48、剣豪 vs 黒騎士

 リオンが黒騎士との戦いをクリスに任せ飛び立った頃。王国の船でも、残った生徒達によりモンスター達から船を護る戦いが繰り広げられていた。

 ウツボの様な姿をしながらも、胴回りの太さが大木ほどもある巨体のモンスターが牙がずらりと並んだ大口を開け船の生徒達目掛けて上空から襲い掛かる。

 モンスターの視界の先、臆することなく迎え撃たんと仁王立ちで待ち構えるはアンジェ。全身に漲らせた深紅のオーラがミスリルフィストが嵌められた拳に収束され炎に転化する。

 

「燃え尽きろ! モンスターども!」

 

 そして勢いよくアッパーカットの様に拳を上空のモンスターに向け繰り出すと巨大な火柱が立ち上り、襲い掛かってきたウツボの様なモンスターだけでなく、他のモンスター達をも呑み込み焼き尽くした。

【ピラー オブ ブレイズ】――アンジェの持つ火炎魔法の中でも最大級の火力を誇る対空魔法。

 かつての決闘騒ぎの時、アンジェが鎧相手だろうと退くつもりは無いと威嚇で放ったことがあった。

 今、モンスター相手に放たれたその威力は凄まじく、あの時は如何に火炎魔法が得意で強力でも鎧相手には無茶が過ぎると言われてたが、鎧相手でも十分通用しそうに見えた。

 そんなアンジェの強力な火炎魔法を目の当たりにした生徒の一人がぽつりと呟く。

 

「とんでもねぇ威力だな……。マジで平民なのかよあの特待生」

「バカッ! 見とれてる場合か!」

 

 思わずアンジェの魔法に目を奪われた生徒だったが船の上には他にも数多くのモンスター達が生徒達に牙をむき暴れまわっており、そんな中の一匹が襲い掛かって来ていた。

 

「うわわわッッ……! って、えっ?」

 

 食われると思って観念しかけた生徒だったが、直後目の前に光るシールドが現れモンスターの攻撃を防いでくれていた。それはオリヴィアの放った防御魔法だった。

 シ-ルドによりモンスターの動きが止まったその隙を逃さず剣を振り抜くと、モンスターは力尽き黒い煙に姿を変え消え去る。

 

「ありがとうございます! 助かりました!」

 

 生徒の声にオリヴィアは微笑みで答えると、すぐさま他の生徒達も支援魔法で助ける。そして戦う生徒達に支援魔法を使いながらも自身の身も護り、更にはモンスター達への攻撃魔法の手も緩めない。

 

「公爵令嬢様も凄ぇな……。これならマジで凌ぎ切れんじゃねか?」

 

 襲い来るモンスター相手に獅子奮迅の活躍を見せる生徒達。日頃からダンジョンで切磋琢磨してるのは伊達ではない。

 そうした生徒達が目を見張るほどの活躍を見せてるのがアンジェとオリヴィアだった。

 

「みんな踏ん張れッッ! リオンがカーラを取り返し戻ってくるまでの辛抱だ!」

 

 拳を振るい、火炎魔法を撃ちながらも生徒たちを鼓舞し続けるアンジェ。

 アンジェに負けるなとばかりに生徒達は奮戦する。その中の一人が上空を見上げながら声を上げる。

 

「アレ、バルトファルトの鎧じゃないか!?」

 

 釣られてアンジェも見上げる。未だ距離もあるが、目に映る機影はダークグレーの見慣れた特徴的なシルエット。

 

「リオン!」

 

 その姿にアンジェは声を上げた。だが近づくにつれアロガンツが無数の傷を負ってるのに気付く。

 

「リオン!?」

 

 アンジェにとって最愛の騎士たるリオンが駆るアロガンツは無敵の存在だった。それが今まで見たこともない傷だらけの姿に悲鳴の様に声を上げた。

 アンジェが声を上げながらアロガンツに駆け寄ると、それを追うようにオリヴィアも他の生徒達も駆け寄って来る。

 着艦したアロガンツの周りに生徒達が皆集まる形になったので、オリヴィアは魔力のシールドを展開する。アロガンツと生徒達を纏めて半球状のシールドが包み込む。

 防御に特化した術で、高い守備力を誇るが発動すれば此方の攻撃も相手に届かなくなる為モンスター掃討時には選択肢には入らなかったが、帰投したリオンとアロガンツを中心に集まってる今はおあつらえ向きの魔法だった。

 

 アロガンツが片膝を着きコクピットハッチが開かれる。リオンとカーラが姿を現すとアンジェが駆け寄る。

 

「リオンもカーラも良く戻って来てくれた! 二人とも無事か!?」

「俺は大丈夫だ! カーラは大きな怪我とかは無いが、疲労し憔悴しきってるから直ぐ休ませてあげてくれ」

「分かった!」

 

 アンジェは答えるとカーラを受け取る。リオンが抱きかかえてたのと同様に背中と膝裏に手を回し抱きかかえる。

 アンジェが女性ながら男子顔負けに鍛え抜かれた肉体の賜物だろうか。カーラが細身で軽めとは言え女性一人、それを軽々抱きかかえてみせたのだった。

 

「人質、大変だったろ? よく頑張ってくれた。そして無事に戻って来てくれて良かったカーラ。リオン、カーラを無事連れ帰ってくれてありがとう」

「ありがとうアンジェ。ありがとうございましたリオンさん」

 

 カーラはアンジェに抱きかかえられたまま、その首に腕を回し感謝の想いと親愛の情を示す様に抱き付く。

 リオン達の元に駆け寄ってきたオリヴィアが、リオン達とアロガンツの手に握られた公国王女ヘルトルーデを交互に見ながら声をかける。

 

「ご苦労様でしたバルトファルト男爵。それと、どうやら公国の総司令である王女殿下まで捕縛して下さったようですね」

「ええ、オリヴィア様。仰るとおりです。それで彼女の扱いなんですが……」

「そうですね。公爵令嬢である私が応対すべきなんでしょうが――」

「私が受け持ちましょう」

 

 声を上げたのはディアドリーだった。

 

「未だモンスター達が多数残存してる状況下で、現状護りの要である公爵令嬢様のお手を煩わせるわけにもいきますまい。さりとていかに敵国とは言え王女殿下の応対に生半可な者に対応を任せるわけにも参りますまい。ここは私がロ-ズブレイド伯爵家の名に懸けて承りましょう」

 

 その声にオリヴィアは「助かります」と会釈する。

 

「俺からもお願いします。俺は未だやらなきゃならない事があるので。黒騎士が出撃してきてるんです。クリスが抑えててくれてますがいつまでもアイツ一人に任せるわけには――」

「今更戻っても手遅れかも知れないわね」

 

 リオンの言葉を遮り挑発的な声を上げたのはヘルトルーデ。

 その声にリオンが睨み付けるもヘルトルーデは意に介することなく言い続ける。

 

「クリスと言ったかしら? 鎧から発せられた声はまだ若く、あなた達同様の学生でしょう? その様な未熟者――」

「お前少し黙ってろ!」

 

 言いかけたヘルトルーデの声をリオンの怒鳴り声が遮った。

 

「クリスは俺が戻るまで凌ぎ切ると言ったんだ! そんなアイツが簡単にやられてたまるか!」

 

 発せられたリオンの声に含まれる怒気のあまりの強さに圧されヘルトルーデはそれ以上の言葉を継げず黙り込む。

 リオンは黙り込んだヘルトルーデからアンジェに視線を移す。

 

「アンジェ!」

「任せろリオン! 戻ってくるまで凌ぎ切ってみせる!」

「頼んだぞ! あと、無茶しすぎるなよ!」

 

 そしてアロガンツを空へと飛び立たせる。

 今なお死闘を繰り広げてるであろうクリスと黒騎士の元へ。

 

 

 

 

 

「邪魔だ! 退けえぇぇぇっっ!」

 

 立ち塞がる公国の騎士たちが駆る鎧たち相手にリオンが吠える。

 アロガンツがバーニアを全開にし突っ込むと広げた両腕がラリアットの様に公国の鎧達を次々と叩き落していく。

 

『マスター、あまり無茶をなさらないでください』

 

 限界まで出力を上げたブースターにより発生するGはパイロットであるリオンの体にも負担をかける。

 

「こんなの無茶の内に入るかよ! 黒騎士相手に圧倒的に不利な条件で挑んだクリスに比べれば!」

 

 クリスはこの若さで、剣聖に次ぐ剣豪の称号を賜る程の剣の達人。とは言え相手の黒騎士は剣聖をも超えた強さ。

 しかも用いてる鎧も武器も相手の黒騎士の方が性能が上。全てにおいて不利な状況の中、リオン達を船に届けるため踏みとどまってくれたのだ。

 そんなクリスを死なせてなるものかとリオンは限界一杯までブースターを吹かすのだった。

 群がる鎧もモンスターも蹴散らし突き進むアロガンツ。やがて斬り結ぶクリスと黒騎士の姿を捕らえる。

 クリスと黒騎士。二機の鎧の様相は正反対。黒騎士の駆る鎧がほぼ無傷なのに対し、クリスの駆る鎧は傷だらけで装甲も所々破壊され欠落しボロボロの満身創痍で、振るうブレードも傷だらけ。

 そんな姿にリオンの口から悲鳴のように声が上がる。

 

「クリス!」

「来てくれたかバルトファルト。やはり私では黒騎士に届かなかった。しかし、私もこのままでは終わらん! これから残った力を振り絞り最後の攻撃に賭ける! だから……後を頼むぞ!」

 

 クリス機はブレードを大上段に構える。そして残る力全てを振り絞るかの如き渾身の一撃を繰り出す。

 黒騎士もそれに応じる様に下段からの斬り上げを放つ。

 クリス機のブレードと黒騎士のアダマンティアスの剣が激突し火花を散らし――クリス機のブレードが折れ砕ける。

 ブレードを破壊した黒騎士の剣が勢いそのままクリス機の胸部装甲を斬り裂く。斬り裂かれる寸前、クリス機は僅かにスウェーバックしたため、中に乗るクリスにはギリギリ刃は届いていない様。

 だがコックピットを護る胸部装甲を大きく破壊され武器も破壊されたクリスの状況は正に絶体絶命。

 

「クリス!」

 

 この状況で攻撃を喰らえばクリスの命は無い。そんな事させるかとばかりにリオンはアロガンツのブースターを吹かす。

 だが無情にも黒騎士から繰り出される攻撃がクリスを襲う。

 

「よくぞここまで凌いだ! だがコレで終わりだ!」

 

 黒騎士が斬り上げた剣を上段に構え直し、そして振り下ろす。

 

(間に合わないのかッッ!?)

 

 リオンの胸中に絶望的観測がよぎる。

 だが次の瞬間その眼に飛び込んできたもの。それは――

 

「真剣白刃取り!?」

 

 黒騎士の放った絶体絶命と思われたその一撃を、クリス機は合掌の形で捕えていた。

 必殺の筈の一撃を止められた黒騎士は驚きの声を上げる。

 

「なっ!? 貴様! まさかこれを狙ってたというのか!?」

 

 黒騎士は驚愕しつつも直ぐに思考を切り替える。

 

「ならばこのまま圧し斬って――」

「させるかッッ!」

 

 発した声の主はリオン。その声は黒騎士の背後から。

 アロガンツはクリス機と黒騎士の鎧の頭上を飛び越え、天地逆の姿勢で黒騎士の背後に回ってた。そして横薙ぎにバトルアックスを振り抜く。

 黒騎士の鎧の首――いやそれより下、人間で言えば鎖骨や僧帽筋に当たる場所が切り裂かれ、中に搭乗する黒騎士の姿が露になる。

 驚愕で目を見開く黒騎士にアロガンツの巨大な鉄の腕が伸び捉え引きずり出す。

 

「黒騎士! お前の敗けだ!」

 

 リオンの声に黒騎士が歯噛みし悔し気に表情を顰める。鎧から引きずり出され巨大な鉄の手に捕らわれては勝敗が決したのを認めざるをえなかった。

 アロガンツの手に握られた黒騎士の姿を見詰めながらリオンは大きく安堵のため息を吐く。

 結果的には一撃で仕留めたものの、この恐ろしい強敵によく勝てたものだと冷や汗が流れ続けてる。

 そして未だ合掌の形で黒騎士の剣を捕らえてるクリス機に視線を移す。リオンはクリスの力量に驚嘆を禁じ得なかった。

 その腕前に素直に称賛を贈ろうと思ったリオンの耳に、クリスからの通信が届く。

 

「黒騎士を一撃とは。流石だなバルトファルト。お前の真似をして白刃取りを試してみたが捕らえるだけで精一杯だった。やはり未だ私では及ばないようだな」

 

 クリスの言葉にリオンは驚き以上に呆れを感じる。

 リオンの白刃取りとクリスの白刃取りとは全てにおいて状況が違い過ぎた。

 リオンの鎧アロガンツは現行のあらゆる鎧を凌駕する高性能機で、しかもルクシオンによるアシストサポートまであり、だからこそ本来なら高度な技量が必要とされる白刃取りも発動できたのだ。

 対してクリスが今用いてるのは量産型の性能も並の鎧で、しかも相手の黒騎士は鎧の性能も操手の腕も全てが格上。

 その様な圧倒的に不利な条件下で成功させた白刃取り。

 

 アロガンツの圧倒的な性能とルクシオンのサポートありきだったリオンに対し、完全に純粋な実力のみで成し遂げたクリス。

 それがどれだけ凄いことを成し遂げたのかをまるで自覚がないクリスに対しリオンは称賛と呆れの入り混じった複雑な気持ちに。

 決闘の敗北で謙虚になったようだが、それにしたって針が振り切れ過ぎだろうと。そんなクリスに対し認識の齟齬を正す言葉を掛けようとした時だった。

 

「――殺せ」

 

 悔しさを滲ませた低く凄みのある声が響いた。

 見ればアロガンツの手に握られた黒騎士がリオン達を睨み付けてきていた。

 黒騎士の怒りと悔しさに染まった眼にリオンは背筋に冷たいものを感じる。

 鎧に――アロガンツに乗ってるのでリオンの、此方の顔は向こうに見えないのだが思わずモニターに映る黒騎士の顔を睨み返し口を開こうとした時だった。

 

「待ってくれバルトファルト! 黒騎士の命は私の預かりとさせてもらえないだろうか! そして、黒騎士殿も簡単に命を投げ出さないでくれ!」 

 

 それはクリスの声。

 元よりリオンに黒騎士の命を奪うつもりなど毛頭ない。だが、あえてその事を口にするよりクリスに託してみようと思い、マイクを介して「任せる」と呟くと「かたじけない」と返事が返ってきた。

 

 

「貴様……敵の首を取らぬなど、俺を愚弄する気か!?」

「黒騎士殿! 確かに貴方と私は敵同士だ! だが、剣の先達として一人の武人として、最強の名を冠する貴方に尊敬の念を抱いているのもまた事実だ! そんな貴方に死んでほしくはない!」

 

 クリスは鎧のコックピットハッチを開き、眼鏡も外し真っ直ぐな瞳を黒騎士に向ける。

 

「それに、何より私は貴方に勝っていない! 確かに私は貴方の剣は止めてみせたろう。だがあのまま続けてればそのまま圧し斬られてたろう。勝者に敗者の生殺与奪の権があると言うのなら私にはそれは無い。それでも納得がいかないのならいつか私と、再び立ち会っていただきたい!」

「甘い戯言を……」

 

 黒騎士はクリスの顔を見る。見ればまだあどけなさが残る学生。その瞳は真っすぐで、ただひたすら剣の頂を目指す純真さが見て取れた。

 かっては自分もこの少年の様に純粋に剣の道を志し極めんとしてた時があったのだろう。だが、憎しみで濁ってしまった今の自分は失ってしまった真っ直ぐさ。

 戦争で最愛の妻と娘を喪った時、そうして気持ちは全て捨て去り復讐に全てを捧げたつもりだった。

 だが、若し喪っていなければ。

 娘が無事成長していたのなら、この様に剣の道を志す若者が娘の良き人として現れたのだろうか。或いは孫が誕生したのならこの様に剣の道を志してくれたのだろうか。

 そんな考えが頭をよぎった自分に対し、何を莫迦なことをと自嘲する。永劫に訪れることもない若しもを、有り得たかもしれぬ未来などと夢想するなど。

 そしてそんな妄想に一時でも思いを馳せるなど自分も老いたのだな、と。

 

「……好きにしろ」

 

 そう発した黒騎士の声は疲れ果てたようでもあり、憑き物が落ち解放されたかのようでもあったのだった。

 




ピラー オブ ブレイズ や 白刃取りなど、個人的に回収したかった決闘の時の伏線を回収。
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