チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり 作:julas
前回まで
修学旅行中に起きた公国軍の襲来。
リオン達の奮戦により、黒騎士を倒し、モンスターの群れも打ち払い、艦隊も退け、公国軍の切り札の魔道具によるモンスター召喚も阻止し、辛くも公国軍を退けた。
戦いを終えたリオンがアンジェ達の待つ船に帰って来る、所までが前回でした。
「おかえりリオン! よくぞ無事に戻ってきてくれた! 何処も怪我とかしてないよな!?」
全ての戦いを終え帰投し船の甲板に着艦したアロガンツから降り立ったリオンにアンジェは感情のままに飛び付き抱き付く。
「ただいまアンジェ。ああ、何処も怪我してない。代わりにアロガンツの方はボロボロだけどな」
「そうだな。リオンの鎧として共に戦い護ってくれたんだな。ありがとうアロガンツ」
言いながらアンジェはアロガンツの傷だらけの装甲を慈しむ様に労う様にそっと撫でる。
「それより、ボロボロと言うのならアンジェの方がよっぽどボロボロじゃないか……」
戦いの危険さと言う意味でなら、リオンは大きな怪我こそ負ってないが公国最強と謳われた黒騎士と刃を交えたそれは正に命がけだった。
だからと言ってアンジェ達の戦いも軽いものではない。此方もまかり間違えばどうなっていたか。
モンスター達から船を護るべく大立ち回りを演じたアンジェの制服はその戦いの苛烈さを伺わせる様に傷と綻びだらけだった。
そんなアンジェの姿にリオンは顔に心配の色を浮かばせる。
「スマン、アンジェ。お前にこんな無理させるつもりなかったんだが――」
「リオンさん。アンジェのことが心配だった気持ちも分かりますが、それ以上に労ってあげてください。リオンさんの婚約者として恥じない戦い振りをと頑張ってくれたんです」
声を上げたのはカーラだった。リオンが視線を向けるとアンジェほどではないがカーラの制服もまたモンスターとの戦闘による綻びが見て取れる。
だが彼女の浮かべる微笑から、気にしないでくれと言う意図が読み取れたので必要以上の気遣いは野暮と飲み込む。
「俺の婚約者のアンジェも、コリンの婚約者のカーラも、どっちも立派なバルトファルト家の嫁だ。良く戦い、よく無事でいてくれた」
そう言いながらもリオンの顔からは心配の色は消えない。
「だから大丈夫だって。それにこんなの以前ダンジョンに潜った時だって似た様なものだったろ?」
「手が届く範囲で無茶されるのと手が届かない範囲で無茶されるのは違うだろ……まぁ大きな怪我とかも無いようで良かったよ」
「大きなダメージとか負っても直ぐリビアが治してくれたからな」
「そうか、オリヴィア様が……。戦闘中、一際デカい純白の火柱が見えたけど、あれアンジェとの合体魔法だよな? あの数のモンスターの群れを蹴散らすなんて流石未来の聖女様だけあるな。ってオリヴィア様は?」
リオンは自分を出迎えてくれた人たちの中にオリヴィアの姿が無いのに気付くと、その疑問に答えるべくアンジェとカーラが事の顛末を伝える。
「鼻血吹いて倒れた!? だ、大丈夫なのか!?」
「落ち着けリオン。今は大事を取って安静にしているし大丈夫だ」
「そうか? それならいいんだけど……ってアンジェの方も大丈夫なのか!? 一緒に魔法放ったんだろ!? あのデカいの!」
「リビアはあの魔法の前から皆への強化魔法やら支援魔法に回復魔法まで相当無理してたからな。その分負担も大きかったんだろう。だから私の方なら大丈夫だ」
アンジェはリオンを安心させようと笑って見せたが、リオンの顔には心配の色が浮かんだまま。
「でもオリヴィア様が倒れたってんなら一緒に放ったアンジェだって相当消耗して疲れてる筈だろ? 休んだ方が良いんじゃないか?」
「リオン、心配してくれるのは嬉しいがそれを言うならリオンだってヘトヘトの筈だろ。リオンなら必ず勝って生きて戻ってくると信じてたが、それでもアロガンツの傷だらけの様子や、噂に聞いた黒騎士とも激闘を繰り広げてたんだ。休むべきと言うのならリオンの方こそ直ぐにでも休むべきなんじゃないのか?」
そうして二人は互いが互いに休むべきと主張する。互いを気遣う様子は微笑ましくもあるが埒が明かない、とでもいうように乾いた軽い音が響く。
音がした方を見れば合掌の様に両手を合わせた姿のカーラが。
「どっちが、じゃなくてどちらも休むべきです。アンジェもリオンさんも。それとも二人一緒にベッドで休まれますか? お二人とも恋人同士、婚約者同士なんですから同衾しても何の問題も無いですし?」
その言葉に二人は同時に顔を赤くする。
「と、冗談はさておき、お二人ともお疲れなんですから休んでください」
「いや、だから休むのなら先ずリオンから……いやリオンだけじゃない。カーラ、君だって公国に人質にされたり色々疲れてる筈だろ」
「そうね、正直疲れてるわ。今も気を抜くと倒れちゃいそうなくらい。でもね、だからこそアンジェが先に休んでくれないと私も安心して休めないのよ? そしてそれはリオンさんもなのよ? アンジェが休んでくれないとリオンさんも安心して休めないわよ?」
カーラの手が伸び肩をガッシリ掴まれると、アンジェは思わず気圧される。
その言葉にリオンが腕を組みながら、ウンウンと頷いてるとカーラが首をぐるりと向け視線をリオンに移してきた。
「リオンさん貴方もそうですよ? リオンさんが休んでくれないとアンジェも安心して休めないんですからね? それともやっぱり二人一緒に休まれます?」
カーラの言葉に二人は先ほどまでより更に顔を赤くしブンブンと首を横に振る。
「では、それぞれの部屋に戻って休んでください。ね?」
『カーラの言う通りです。マスターもアンジェリカも直ぐ休息を取るべきです』
「ほら、ルクシオンさんも言ってますし。と言う訳でアンジェは私が責任を持って部屋に連れて行きますから、ルクシオンさんはリオンさんの方よろしくお願いしますね」
『お任せを。そういう訳ですからマスターは私が責任をもって部屋にお連れします』
そして二人は、アンジェはカーラに手を引かれ、リオンはルクシオンに背中を押され、それぞれの部屋に向かって行ったのだった。
アンジェに宛てがわれた部屋。そのベッドでアンジェは安らかな寝息を立ててる。
カーラはベッドの傍らで椅子に腰かけ見守っている。アンジェの若干はだけた布団を掛け直し、髪をそっと撫でる。見詰めるその顔に優しい微笑みが浮かべながら。
アンジェがすっかり寝入って熟睡したのを見届けたカーラはドアを静かに開け閉めし、部屋を後にする。
廊下に出ると気付いたようにポケットから通信機を取り出す。
「ルクシオンさん、アンジェは無事眠りについてくれました」
『こちらも無事マスターはお休みになられました。ご苦労様ですカーラ。貴女だってお疲れでしょうに』
「そうね。正直私もへとへとです。でも大切な人達が出来て、その人達の為にこんなにくたくたになるまで頑張れるのはとっても嬉しいし幸せなんです」
そう言ったカーラの顔は疲れを滲ませながらもとても満ち足りた笑顔だった。
そうして通信機を介しルクシオンと他愛無い会話をしながら自分に宛てがわれた部屋に辿り着く。
ベッドを前にすると限界を迎えていた疲れと眠気が一気に押し寄せてくる。
「私も流石にもう限界みたいです。ルクシオンさんの方は?」
『私は人間ではないので疲れも眠気も無いので心配ご無用です。後のことは任せてゆっくりお休みください』
「ありがとう、ルクシオンさん。お休みなさい」
『お休みなさい、カーラ。良い夢を』
公国襲来と言う思わぬ危機に見舞われるも、辛くも乗り越えたリオンたち。
この後、戦後処理や王国と公国の交渉なども残っているが、それでも今は戦いに疲れた心と体を癒すべく暫しの休息に身を委ねるのだった。
公国を撃退したリオンたちが王国に帰りつく迄にはまだ日時を要するが、襲来と撃退の報は王国に届いていた。
「公国軍による王国の学園の子弟たちの乗る船襲撃が失敗しただと!? それだけではなく返り討ちに合い完膚なきまで叩き伏せられたというのか!? 生徒達しか乗ってない船に!?」
「はい。中でも入学前にダンジョン踏破の実績により学生の身ながら陞爵された男爵の生徒と、そしてレッドグレイブ公爵令嬢――」
「またしてもレッドグレイブか! ヴィンスだけでなくその小娘までも! 親子揃って忌々しい!」
驚きと怒りの声を上げたのは、貴族然とした上等な衣服に身を包んだ初老の――いや実年齢は中年ぐらいであろう男性、マルコム・フォウ・フランプトン侯爵。
ホルファート王国の直臣の一人。顔に刻まれた深い皺と、目の下のクマ、大きな鉤鼻と長い髭が実年齢以上に老けた印象を与えてる。
驚きの声を上げた理由は王国の直臣らしからぬもの。王国の未来を担う生徒が公国を退けた事に対する喝采ではなく、公国の失敗に対する困惑と怒り。
「これでは私の今後の計画が台無しではないか! 何のために公国に情報を流したというのだ! この襲撃でレッドグレイブの小娘を公国の人質に、或いは亡き者になってくれれば、そこからヴィンスめに一泡吹かせられたものを! あの小娘! 決闘の時のみならず今回迄も!」
野心を抱くフランプトン侯爵にとって公爵たるレッドグレイブ家とその当主であるヴィンスは目の上の瘤であった。なので以前もユリウスの引き起こした決闘とそれに伴う婚約破棄は公爵家を引きずり下ろす絶好の機会と捉えていた。
「ユリウス殿下の引き起こした決闘! そしてそれが切っ掛けの王家と公爵家との婚約解消! あんなことがあれば本来なら両家に深い溝が出来ててもおかしくなかったはずなのにむしろ以前より親交を深めるなど! それに加え今回の公国撃退! おのれレッドグレイブの小娘め!」
婚約解消により、公爵家の求心力低下を期待し、そこに取って代わるつもりだった目論見は見事外された。ユリウスの再び王太子に返り咲こうと真摯な取り組みぶり、そして此度の公国撃退。どちらも公爵令嬢が深く関わっていた。
荒れる侯爵に向かい、その場に同席する同派閥の同志の中から宥めるように語り掛ける声が響く。侯爵のしわがれた声とは対照的に瑞々しい若者の声。
「落ち着いてくださいフランプトン侯爵。予定外の事に困惑されるのは分かりますが、それならまた新たに計画を建て直せばよいではありませんか。それより今回、公国軍を返り討ちにした件、事態の深刻さはそれにとどまらないかもしれません」
「どういう意味だ?」
「此度の襲撃と返り撃ち。報告によれば公爵令嬢以上に活躍された男爵のたった一隻の船により公国艦隊を退けたとのことですが、果たしてそのような事が可能なのでしょうか? 若しそれが事実なら恐ろしい事だと思いませんか?」
その話に侯爵は顎髭を撫でながら思案し「続けたまえ」と促す。
「此度の件、事情を良く知らぬ者達からすれば公爵令嬢と男爵達による、生徒達を救った英雄的行動に見えるでしょう。ですが実態は公国以上の脅威たりえる力の存在が明らかになったとすべきでは? あの飛行船の持ち主の男爵は成り上がり者の若輩者です。その様な者が此度の勝利に慢心し増長しないと言い切れるでしょうか? そうなってしまってはそれこそ公国以上の脅威。そうなってしまってからでは遅いのです。そうなる前に取り上げてしまう事こそ最善なのでは?」
「確かに……捨て置けぬな。とは言え公爵令嬢は王妃のお気に入りだ。ユリウス殿下との婚約が破談になったにも関わらず……いや、再婚約に向け話が進んでるとも聞く。そして此度の立役者でその船の持ち主の成り上がり男爵もまた公爵令嬢を通じて王妃の覚えめでたいとも」
フランプトンの言葉が示す通り、リオンを取り巻く環境は公爵家と更には王妃までもが後ろ盾についてることを示している。侯爵とはいえ迂闊には手を出せないのも仕方なき事。
「おや? まさか王妃様を相手に怖じ気づかれましたか?」
「小僧……口の利き方に気を付けろ?」
「これは失礼いたしました。いかに王妃様が政治的手腕に優れてるとは言え、彼女が輿入れする前より長年に渡りこの国を支えてきた侯爵様と比べるべくもありませんでしたね」
その言葉にフランプトンは「フン」と鼻を鳴らす。
「とは言え、彼の者の周りに有力なものが多く、迂闊に手を出せぬのもまた事実。だからこそ今なのです。今回の功績の後、更に手が出しにくくなるでしょう。ですが今なら……いえ、今を逃せばもう機会は訪れぬでしょう。未熟な若輩者から過ぎたる力を取り上げる機会は。強大なる力はそれに相応しい人物が持つべきなのです! そう、フランプトン侯爵、閣下の様なお方が」
「ふむ、確かに強大な力はそれに相応しい者が持つべきだな。とは言え例のロストアイテムはその若輩者が実力でダンジョンを踏破し手に入れたものなのだろう? 軽々に取り上げるわけには……」
「ええ、大義名分が必要になります。そこで今一度今回の公国撃退を振り返りましょう。公爵令嬢はじめとした生徒たちの協力もあったとは言えほとんど彼一人の功績と言われてます。彼だけで公国艦隊を返り討ちにする。その様な話、人々は信じるでしょうか? いっそ公国と手を組んでの狂言と言われた方が未だ信憑性があります。いえ、狂言に決まってるという前提で話を進めるべきなのです。公国と手を組んだ壮大な狂言と」
言われてフランプトンは考え込む。
「侯爵様。話を整理し直しましょう。今回の公国軍襲撃によりあの成り上がり男爵の持つロストアイテムが恐るべき力を持つ事が明らかになりました。その様な危険な力を未熟な若輩者に持たせておくのはあまりにも危ううございます。若し、かの飛行船の持ち主が王国に牙をむけば王国は対抗出来るのでしょうか。国の未来を思うのなら取り上げてしまう事こそが最良なのでは?」
「言いたいことは分かった。だがそのように強大な力と言うのなら尚更どのようにして取り上げる?」
「ええ、普通に正面から取り組んでは難しいでしょう。だからこそ今なのです。公国と言う強敵を打ち払い疲弊し、更に申せば揚々と帰国してくる今なら気も緩んでるでしょう。また王妃様達も我々がこのように危機感を抱いてるとは思っておらず此方を警戒してはいないでしょう。逆に今を逃せばもうこの先彼の者を制することが出来る機会は訪れないでしょう。今しかないのです! それに今なら我がフランプトン派の全戦力がここに結集しております」
裏で内通してた公国とフランプトン派。予定ではこの後公国がこのまま王国に攻め入り、そしてそれをどの貴族よりも先んじてフランプトン派が迎え撃つ算段であった。
勿論裏で通じてる者同士の戦い。対外的に戦ってるように見せるだけの狂言。
それでも真っ先に迎え撃った者として戦後処理を取り仕切れる。その為の派閥の全戦力がここに結集してた。
「本来なら公国軍を迎え撃つために集ったこの戦力を以って奴を捕縛しロストアイテムを取り上げます! 理由など後で幾らでも付けられます。先ほど申した様に公国と繋がってた証拠も急ぎ捏造しましょう。そして侯爵様! 閣下がロストアイテムの新たなる所有者となるのです! 閣下をおいて強大なロストアイテムの所有するに相応しい方などおりません! そしてこの先この国を支える柱となるのです!」
その言葉に、侯爵の顔に恍惚とした笑みが浮かぶ。
恐るべき脅威たり得るロストアイテムの船。だがそれが自分の手元に転がり込んでくる。ほくそ笑まずにはいられない。
そして動き出す。公国を撃ち破り、何も知らず帰ってくるリオン達からその全てを奪い手にするべく。
「……何故だ。私は新たな力を手にし、この国の全てを握るはずだったのに……」
リオンから彼の所有する船を奪い我が物とする事を目論んだフランプトン。だが彼の眼前に広がる光景は壊滅した自分の派閥の軍の成れの果てだった。
大変お待たせして申し訳ありませんでした。
今回のお話、一部を意図的に不明瞭に曖昧に書いてます。勘の良い方なら気付かれたかもしれませんが、そこは次話までのみ込んでくださりますよう。
来月にはいよいよコミカライズも再始動。共和国編、物ッッッ凄く楽しみです!
公式が盛り上がる中、私もファンの端くれとして二次創作などファン活動にこれからも邁進していきたく思います。