チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり 作:julas
修学旅行からの帰途で公国軍の襲来に遭うも辛くも撃退したリオン達。
公国軍を手引きしたのは王国の侯爵フランプトンだった。
策が失敗した侯爵は更なる奸計を巡らし、リオンを下し彼の所有するロストアイテムを奪わんとす。
公国との戦いで疲弊し気も緩んでるであろうリオンに不意打ちを仕掛ければ難なく下せるだろうとほくそ笑む。
だがリオンはそんな侯爵をも返り討ちにし王国への帰還を果たすのだった。
「アンジェ~ッ! 貴女の旅行先が公国軍の襲撃に遭ったって聞いて心配してたのよ!? ヤダ制服ボロボロじゃない!? 怪我とかも負ってない!? 大丈夫なの!?」
「あ、姉御! 落ち着いて! 私なら大丈夫だから! 怪我とかも負わなかったわけじゃないけど全部リビアが治してくれてピンピンしてるから!」
修学旅行中公国艦隊の襲来に遭いながらも撃退し学園に戻ってきたリオン達。そんな彼らの元にアンジェのことを心配したクラリスが駆け寄り抱き付いてきたのだった。
公国率いるモンスターの群れに臆することなく果敢に立ち向かって行ったアンジェの制服は、クラリスの言葉が示す通り戦いの激しさを物語る様に傷や綻びだらけだった。
「オリヴィア様も同じ旅行先だったのね。そうか彼女回復魔法の使い手だから……あの方が一緒で良かったわ」
「ああ。私もリビアも、そしてリオンもカーラも。あの場に居た皆が力を合わせたから切り抜けられたんだ。特にリオンは凄かったんだぞ。出撃した鎧が、アロガンツがボロボロになる程の激戦で」
「そう……バルトファルト男爵が。さすがね見事にアンジェを護り切ったのね。ありがとう男爵。アンジェは貴方にとって勿論大切な恋人だけど、私にとっても大事な妹分。よくぞ護り抜いてくれました」
「恐縮です。俺のやるべきことを全うしたまでです」
クラリスの感謝の言葉にリオンも微笑みで応えるのだった。
「ああ、でも本当に無事に帰って来てくれて良かったわ」
「心配かけてすまなかった姉御。にしても抱き付き過ぎじゃないか? いや別に嫌ではないのだが」
情の深いクラリスは抱き付いて親愛の情を表すのは今に始まったことではない。だが今回は公国襲来と言う今までにない危難に遭ってたと聞き、より募る心配の想いも大きかったのだろう。
「だって本当に心配だったんだもん。それになんだか物凄く久しぶりみたいで。変よねほんの数日会ってなかっただけなのに」
余程心配だったのかクラリスは益々抱きしめる腕に力を込める。アンジェもそんなクラリスの思いに応える様に優しく抱き返しなだめるように背中を撫でてあげるのだった。
「でも本当心配だったのよ。行き先が一緒じゃなかったことにこんなにも歯がゆい思いさせられるなんて。あ~あ、行き先が自由に選べられたらアンジェ達と同じ所に行きたかったのにな~」
「確かに私もそれは残念だったが、でも今となっては姉御まで危険な目に遭わずに済んで良かったと思うよ。結果的には誰一人欠けることなく全員無事に戻って来れたが、まかり間違えばどうなるか分からないぐらい危険な状況だったんだ。そんな危険な場所に姉御だけでも巻き込まずに済んだのは不幸中の幸いだったと思うよ」
アンジェの言葉にリオンは何か気付いたような表情そぶりを見せる。だがその事にアンジェもクラリスも話に夢中で気付くことは無かった。
「ねぇ、アンジェ。このあと私の部屋に来ない? 今回の旅行の事色々聞きたいし」
「ん? ああ、姉御が聞きたいというのならやぶさかではないし全然構わないぞ。そうだな折角だし、じっくり話に花咲かせるのも悪くないな」
アンジェが返事をするとリオンも次いで口を開く。
「そうですね。折角ですしクラリス先輩、アンジェのことお願いしますね」
「あら? 男爵は一緒に来ないの?」
「なんだ? リオンは来ないのか?」
クラリスはリオンも招くつもりであったので、その口ぶりに二人は疑問の声を上げた。
「そうしたいのは山々なんですが少々野暮用がありまして」
リオンの表情に真剣なものを感じ取ったクラリスは頷き口を開く。
「用事があるのなら仕方ないわね。分かったわ。男爵の口からも今回の話聞きたかったんだけど」
「申し訳ありません。そうだ、俺は御一緒出来ませんが……カーラ。代わりにアンジェに付き添ってあげてくれるか?」
それまでリオンとアンジェ達の側で黙って見護っていたカーラは突然話を振られ「わ、私ですか!?」と戸惑いの声を上げる。
「そうだな。此度の戦い、カーラも凄く頑張ってくれたもんな。その奮戦ぶり一緒に姉御に聞いてもらうといい。姉御、カーラも誘っていいだろ?」
アンジェはカーラの肩を抱きよせながら共に来るよう誘う。
「そ、そんな私なんかあの場で自分の身を護るだけで手一杯で、とても活躍とか奮戦なんて呼べたものじゃ……」
「何を言う。君が人質に名乗り出てくれたからこそ公国が攻めて来る前に防戦の備えも準備できたんだ。船に戻ってきた後も疲弊してるだろうに頑張ってくれたじゃないか。私の背中も護ってくれてとても頼りになったんだぞ。堂々と胸を張ってイイんだ」
親し気にカーラと会話を交わすアンジェの姿をクラリスは微笑ましげに見守りながら思いを巡らす。学園祭前日、カーラからリオン達のクラスの喫茶店のチラシを受け取った時の事。
その後連休中に空賊討伐などがあったことを、明けてからリオン達からかいつまんで話を聞いた事。
何よりアンジェに同い年の気の置けない同性の友人が出来たことを嬉しく思ってた。
「そうね。私もアンジェ以外の口からもアンジェの活躍聞きたいし、カーラ、貴女もいらっしゃい。アンジェの親友なんだし歓迎するわ」
クラリスが二人に笑顔を向けるとアンジェは笑顔で応え、カーラは恐縮しながら頭を下げ応じる。
リオンも「二人の事よろしくお願いします」と頭を下げその場を後にするのだった。
アンジェとカーラをクラリスに任せて見送った後、リオンが訪れたのは王宮。だが綺羅びやかな宮殿ではなくその地下。
石造りで頑強な造りは護りの為だけではなく捕え逃さぬ為でもある。
そこには罪人を収監するための薄暗く澱んだ空気の立ち込める地下牢も備わってた。
その一方で複数人の囚人を押し込める造りではなく個室の造りなのは曲がりなりにも貴族を収監対象としてるため。
リオンの目的は、そんな地下牢に収監されたある囚人への面会。
リオンの来訪に気付いた囚人は顔を上げおどけた声で応じる。
「コレはバルトファルト君。態々こんなところにお越しとは」
「こんな場所に収監されてる割には随分余裕の表情じゃねぇかジルク」
牢を訪れたリオンが面会を望んだ相手。それはジルクであった。
「決闘に続き、またしてもしてやられるとは。つくづくあなたは恐ろしい人だ」
「俺から言わせりゃお前の方がよっぽど怖ええわ。侯爵派を焚きつけて俺のこと襲ってきやがって……いや、俺を使って侯爵派を一網打尽にするとかとんでもねぇ事考えやがって……」
ドン引きした表情で見下ろすリオンに対し、ジルクはとぼけた表情で「何の事やら」と。
「とぼけんでいい。ここでの会話は他の誰にも聞かれないようにしてある」
リオンはルクシオンに命じ消音の結界を張らせていた。
だがリオンの言葉にジルクは尚も腹の底の見えない笑顔を返すだけ。そんなジルクにリオンは溜息を一つ吐く。
「この陰険緑が……。人を巻き込んでいいように使ってくれやがって。王国への帰路につく俺んとこに入って来た秘匿回線の通信による侯爵派による襲撃のタレコミ、アレお前だろ。まぁおかげで難なく返り討ちに出来たんだけどよ。オマケに侯爵と公国のやり取りの文書。侯爵は焼却処分命じたはずなのに何で残ってるんだって真っ青な顔してたが、あれを保管しといたのもお前だな? 侯爵派に取り入った振りして獅子身中の虫とか……。ユリウス殿下とオリヴィア様へのケジメのつもりか?」
今回返り討ちにしたフランプトン派は、レッドグレイブ家を筆頭とした公爵派とは敵対関係。ユリウスが再び王太子に返り咲きオリヴィアと再婚約を結べたのなら再び彼の後ろ盾となってくれるであろう公爵家と。言わばユリウスとオリヴィアの未来の政敵の排除。
そんな事を考えながら視線を向けた先のジルクの顔に浮かぶは、リオンの洞察力に対し関心するかのような笑み。
「……はぁ。だがそんなお前でもクラリス先輩だけは巻き込みたくなかった、か」
リオンがクラリスの名を出したことにジルクの表情が僅かに動く。その表情の変化にリオンは「やっぱりか……」と呟く。
「この修学旅行建前上は行き先の振り分けはランダムだが寄付金次第じゃ幾らでも融通が利いた。それで俺と俺の恋人のアンジェとその親友のカーラは同じ行先にしてもらって。それだけじゃなくてクラリス先輩たちの分の寄付金も収めたはずなのに先輩たちは一緒じゃなかった。逆に根回ししなかったオリヴィア様は一緒の班だったのによ」
リオンの言葉にジルクは口元には笑みを浮かべつつも目は笑っていなかった。
「公国軍の標的は公爵令嬢様のオリヴィア様。彼女が何処の旅行先に振り分けられようとそこが公国軍の襲撃の標的。だから俺達の旅行先に彼女が一緒になる様に工作したな。俺と一緒ならオリヴィア様を護れると踏んでくれた訳か。それでも万が一にもクラリス先輩だけは危険に巻き込みたくなかったって訳か」
リオンの言葉に対しジルクは尚も微笑みをたたえたままだがその表情は何処か申し訳なさそうにも。
それはクラリスへの婚約破棄という不義理に対し遅まきながらの反省の表れだろうか。
ジルクにとって一番傷つけてはいけない相手であり、一番傷つけてしまった相手であることに今更ながら気付いての贖いのつもりだろうか。
勿論今更よりを戻したいとも復縁を許されるとも思っていない。断たれた絆が再び紡がれることは無い。
それでも彼なりの償いなのであろうか。
「思えば修学旅行が始まった時からお前の掌の上……いやその前からか。二学期になってから学園に顔見せなかったのは引き続きの新兵しごきを一緒に受けさせられて、って話だったがそれも嘘だろ? 夏季休暇中に侯爵に接触してそのまま取り入ってたな?」
ジルクからは相も変わらず返事は無い。だがその顔に浮かんだ笑みは「御名答です」とでも言わんばかり。
「公国艦隊による王国の修学旅行船襲撃と公爵令嬢確保。更にはそれが失敗した後の侯爵派による襲撃。そんな侯爵派の企みを俺を使って潰した訳だ。お前の思い通りに踊らされたみたいで癪だがそのお陰で公国からオリヴィア様を護れたのは事実みてぇだからな。で、お前はこの後どうするつもりだ?」
リオンにとって予想外の公国襲来。特に黒騎士の振るう剣の凄まじさ。それは死を意識させられるほどの苛烈なものだった。
だが結果的には勝利を収める事が出来た。
総司令の公国王女を捕え、公国の神器である魔笛も押収。王女と魔笛。それはゲームに置いてはラスボスの召喚者とキーアイテム。
その両方がリオンの所属する王国の手の内にあるという事は、ラスボス登場条件も潰しコレはもうゲームクリアも同然ではないのか、との考えがよぎり気持ちが緩む。
「ジルク、お前が望むんなら釈放してもらえるよう話を通してやってもいいぞ」
そんなリオンの考えが気持ちの緩みに、表情に現れたのだろうか。だが――
「バルトファルト君。君は公国がこのまま引くとお思いですか?」
ジルクの言い放った声は静かで、だが何処か凄みを帯びてた。表情も先程迄の薄ら笑いではなく真剣さを感じさせるもの。
「未だ公国は諦めてないってのか……?」
ジルクからの返事はなく尚も真剣な眼差しをリオンに向け続けてる。
公国は此度の襲撃の失敗敗戦で艦隊に大打撃を負い、旗頭である王女と魔笛を奪われとても戦闘を、更なる侵攻を継続できるとは――
そう考えたリオンの脳裏にあることが思い出される。
「第二王女と二本目の魔笛……」
リオンが思わず漏らした呟きにジルクは目を見開く。驚いたように感心した様に。
そんなジルクの表情にリオンもまたその顔に驚きの色を見せる。
リオンは前世のゲーム知識のお陰でこの世界の事は、特にイベントとして起こる事件などに関しては把握してるつもりだった。
そんなリオンでさえ知らなかったこと。それがマリエから聞かされた公国第二王女と彼女が呼び出す続編のラスボス。ゲーム第一作しかクリアしてなかったリオンが知らなかった情報。
そしてジルクの表情は彼もまたそれを知ってるかのよう。自分でさえマリエの前世知識が無ければ知りえなかった情報を。
公国に通じてた侯爵から得たのだろうか、或いは独自の情報網を持ってたのだろうか。
「だったら尚更こんなところに閉じ込もってる場合じゃねぇだろ。さっさとこんなところから出て……いや、お前にはお前の考えがあるって事か?」
返事はない。だがその顔に浮かぶははぐらかすような笑みではなく真剣な表情。
「分かった。俺からは何も……いや一つだけ言っておく。命を粗末にだけはするな。お前みたいなのでも死ねばユリウス殿下を悲しませる。今あの方は本当に真剣に国やオリヴィア様のために頑張ってるんだ」
リオンの言葉にジルクは一瞬顔を綻ばせ、そして申し訳なさそうな微笑みを浮かべると「殿下を頼みます」と小さく呟いた。
短い言葉ではあるがそこにはジルクのユリウスに対する真摯な想いが感じ取れた。
リオンはその想いに応える様に小さく頷き「任せろ」と言うと地下牢を後にするのだった。
と、言う訳で前回フランプトン侯爵と会話し焚きつけていた若い貴族の正体はジルクでした。
勘の良い方なら気付いてらっしゃったかもしれませんが。
クラリス先輩もお久しぶりでした。