チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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7、子爵令嬢

 アンジェがオリヴィアの元へ向かうのを見送った後、リオンもまた学園の中庭の片隅である人物と接触していた。

 

「よう、調子はどうだ?」

「……良い様に見える?」

 

 やさぐれた眼差しを返しながら答えたのはマリエだった。

 フルネームはマリエ・フォウ・ラーファン。実家の爵位は子爵とリオンより格上だが借金と醜聞まみれの落ち目の酷い家。

 そしてリオンと同じ転生者の少女。

 

「アンタはいいわよね。悪役令嬢と毎日仲良くイチャイチャしてて」

「バッ……! お前、イチャイチャなんか……!」

 

 マリエの言う悪役令嬢とは勿論アンジェの事で、またそれを否定しきれないのはリオン本人にも少なからぬ自覚があるからだろうか。

 口籠りながらも頬を赤らめるリオンにマリエは「リア充爆発しろ」と怨嗟の込もった言葉を吐く。

 

 

「ま、まあ俺のことは置いておいて、一応確認だがお前はあの五人に粉掛けたりとか……」

「するわけないでしょ。アイツ等アンジェリカに首ったけで周りの事全く見えてないのに、そんなのに関わったって時間の無駄なの分かり切ってるじゃない」

「そうか? でも一人ぐらい」

「何よアンタ。最初はアイツ等に私が近づくの止めようとしたくせに……若しかしてアンジェリカから興味逸らせようと私の事利用しようって?」

 

 その言葉にリオンが視線を逸らすとマリエは怒声を発する。

 

「バカにすんじゃないわよ! それに大体アイツ等攻略キャラたちにちょっかい掛けたりしたら女子達の嫉妬が面倒なことこの上ないじゃない!? そんな厄モノ押し付けんじゃないわよ!」

 

 マリエの怒りの言葉にリオンは「それを狙ってたんだろお前は……」と小声で呟くとマリエに「あぁん!?」と返されたので黙り込む。

 

 

「はぁ……。話は終わり? じゃあ行かせてもらうわ」

「いや待て、むしろ本題はこれからで――」

 

 リオンがそう言いかけた時、獣の唸り声の様な凄まじい音が鳴り響いた。

 一体何事かと首を巡らせるとマリエが顔を真っ赤にして腹を押さえ俯いている。

 そして未だ耳に届く唸り声はマリエの腹から聞こえてくる。

 

「今の音。まさかお前の腹の――」

「言うな! そうよ! この体メチャクチャ燃費悪いのよ! 文句ある!?」

「いや、無いが……こっちは未だ話したいこともあるから、とりあえず外の大衆食堂でも行くか?」

 

 リオンの顔をマリエはしばらく睨んでいたが「奢ってくれるなら……」とぼそりと呟くと、リオンは「分かった」と了承する。

 

 

 

 そして大衆食堂。

 

「相変わらず見事な喰いっぷりだな。見てて胸焼けしそうだ……」

「そういうのは見てるだけでお腹一杯って言いうもんじゃない!?」

 

 物凄い勢いで出された料理を次々掻っ込んでいくマリエにリオンが呆れを含んだ声で言うとマリエが文句で返す。

 すでにテーブルに空になった皿が積み上がり、次の料理を持ってきたウェイトレスが入れ替わりで皿を下げていく。

 そのさいウェイトレスが珍獣でも見るような眼をマリエに向けたが当の本人はお構いなしに目の前の料理を平らげ続けてる。

 本人曰く食えるとき食っとく、そうしないと生き残ってこれないのだと。

 家族から碌に衣食を与えられなかった為、野生の獣を狩って飢えをしのいできたと言うマリエ。

 リオンは凄まじい勢いで食事に没頭するマリエを見ながら、そんな彼女自身が最早野生の獣の様だと思う。

 

 

「で? 何よ話って?」

 

 尚も料理を掻っ込み続けながらマリエが聞いてきたので、リオンはその喰いっぷりに気圧されながら返事を返す。

 

「あ、ああ。そのアンジェの事だけど割とマジで嫁に迎えること視野に入れてる。勿論貴族と平民じゃ本来なら結婚できない。だからクラスメイトに実家で養子縁組組んでくれそうな奴いないか当たってみたんだが――」

「色よい返事くれるとこ無かった、ってとこでしょ?」

「まあな」

 

 リオンが気落ちした声で返事すると、マリエは口の中の料理をグラスの水で一気に胃に流し込むと口を開く。

 

「ま、仕方ないんじゃない? 自分たちが婚約者探しに躍起になってる中、ちゃっかり可愛い平民のコ見つけて裏技紛いで迎えようとしてるの見せつけられて面白いわけないでしょうからね」

「ああ、概ねそんな感じだ。それでだ。お前貴族女子の伝手とか無いか?」

 

 

 リオンの交友範囲に女生徒の知り合いは少ない。

 アンジェは言わずもがな孤立してて、そもそも男女問わず友人がリオンしか居ない。

 姉が居るが姉弟仲があまり良くないので紹介してくれるか怪しく、仮に紹介してくれても性格に難ありの姉の類友で性格悪い女子紹介されては敵わない。

 クラリスとはアンジェ共々最近親しくさせて貰ってるが、先輩に知り合いの女子の紹介を頼むのは流石に図々しい気がする。

 そうして消去方で辿り着いた結果がマリエである。

 親しいかと言うと微妙な距離感だが、一応転生者仲間と言う繋がりを頼りにダメモトで頼んだわけである。

 

 

「伝手ってことは女の子紹介しろって事? 婚約相手探し手伝って恩売ってご機嫌取ろうって算段? ふ~ん? 因みに条件は?」

「専属使用人とか奴隷とか愛人とか囲っていなくて、子爵家か男爵家の令嬢ってとこかな」

 

 

 この学園の女子達は女尊男卑の風潮が蔓延ってるせいで兎に角酷いのが多い。

 伯爵家以上になれば一部の例外除いてまともなの多いらしいが、生憎とリオンの友人たちは男爵家の令息たちで伯爵家とは釣り合わない。

 彼らが婚約相手として許されるのは子爵家と男爵家なのだがこの層が一番酷く、先に述べた専属使用人、奴隷、愛人などを囲ってる者ばかり。

 そういう女子は願い下げで、中にはそんな女子でも仕方ないと妥協する男子もいるが、それでも尚女子の方が居丈高に振舞ってくるのだからやり切れない。

 

 

「使用人奴隷愛人NGか……。その条件で良ければ紹介できそうよ?」

「マジか!?」

 

 ダメモトと思ってたリオンにとって、あっさり返事が返ってきたのは嬉しい誤算。

 

「代わりに引き籠りとかコミュ障とかオタクとかそんな感じのコになるけどOK?」

「おう! 全然イケるわ! って、なんだその手?」

「報酬に決まってるでしょ。まさかタダ働きさせるつもり?」

「ああ、報酬か。勿論払うさ。にしても本当良かったよ」

 

 言ってリオンは心底安堵した顔を見せる。

 

 

「相当惚れ込んでるみたいね、あの悪役令嬢に」

「おう」

 

 今度はリオンは照れもせず真っすぐに答える。

 あまりに清々しい態度にマリエは今度は食って掛からず「ハイハイ、ゴチソウサマ」と呆れたように溜息をつく。

 

 

「まぁいいんじゃないの? チート戦艦手に入れた奴が大切な人が誰も居ない自分の事しか考えないような奴だったら怖くて何やらかすか堪ったもんじゃないけど。

でもアンタみたいにちゃんと大切な人がいる奴ならその人と、延いてはその人の暮らす世界の為にもラスボス相手にも戦ってくれそうだし」

「いや、ラスボスは主人公のオリヴィアが――」

「でも必要とあれば手助けぐらいはするでしょ?」

「そりゃ、まぁ……」

 

 言いながらリオンは右肩の上の空間に視線を送る。そこには今も姿を消した彼の相棒ルクシオンが浮かんでいる。

 

『そうですね。マスターの身を護るためとあらば、この私の本体、航空戦艦の力を出し惜しむ理由はありません』

 

 リオンの意を汲む様に答えたルクシオン。

 先程マリエが口にしたチート戦艦こそルクシオンの正体にして本体。

 リオンが入学前に前世のゲーム知識頼りにダンジョン探索の末入手した正にチート級ロストアイテム、人工知能を搭載した航空戦艦ルクシオン。

 何時もリオンに付き従う球体は言わば端末で子機。

 

 

「それでいいと思うわよ。あんたもチート戦艦入手したり悪役令嬢とかメインキャラと関わる道選んだ以上はボス攻略まで、少なくとも主人公様手伝う覚悟あるみたいだし。

公国軍の超大型、合計三体居るけど頑張ってやっつけてね」

「三体!? いや公国王女のヘルトルーデが呼び出す超大型は一体だけだろ!?」

 

 リオンはマリエの言ったボス三体と言う言葉に驚きの声を上げた。

 

「何言ってんのそれは一作目の話でしょ? 三作目で再び公国が戦争吹っ掛けてきて、それでヘルトルーデの妹のヘルトラウダが今度は超大型を二体も呼び出すんじゃない」

「さ、三作目!? 待てあの乙女ゲー続編出てたのか!? バランス最悪でユーザーから不評出まくりのあのゲームに!?」

「何、アンタ偉そうなこと言っときながらシリーズ最初のしかプレイしてないの?」

 

 マリエはクリアしてないことを散々言われてたのでここぞとばかりに意趣返しにマウント取ってくる。

 

「しょ、しょうがねぇだろ! 前世ではあのゲーム徹夜でクリアした直後に階段から足踏み外して転落死しちまったんだから……」

 

 マリエはリオンの、クリア直後に死亡、と言う言葉に何かに気づいたような顔になる。

 

 

「何だよ間抜けな死に様だとでも笑うつもりか?」

「そ、そんなんじゃないわよ! それに私は人の死で笑うようなそこまで人でなしじゃないわよ!」

「そ、そうか悪りい。つい喧嘩腰で」

 

 リオンの謝罪をよそにマリエは考え込み思い出してた。自分がゲームクリアを押し付けた兄もクリア後階段から転落死してたのだと。

 そして、まさか目の前のリオンが兄の生まれ変わりでは、と思うもすぐに否定するように頭を振る。そんな馬鹿な偶然の一致、兄妹揃って転生などあるわけない、と。

 そうしてマリエはこのことについてこれ以上考えるのをやめ、引き続き食事に没頭するのだった。

 




何か私がマリエ書くとリオンと一対一での会話ばかりになっちゃいますね。
「カーラ if」の時もそうでしたし。

珍しくアンジェの出番のない回になりました。
前回6話とは同じ時間の別の場所、コインの裏表の様な感じになります。

次回は「いざダンジョンへ」
楽しい(?)実技授業の始りです
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