チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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8、いざダンジョンへ

「ダン!ジョン!探索! ついに来たぞ! 待ちに待ったこの日がー!」

 

 今日はダンジョン探索の実技授業。

 幼い頃から冒険者に強い憧れを持ってたアンジェにとっては楽しみにしてた日。

 この上ないほどに昂った気持ちを隠すことなく高らかにアンジェは声を上げた。

 そんなアンジェの肩を軽く叩きながら呆れと苦笑交じりにリオンが声をかける。

 

「うん、分かってるから少し落ち着こうな? それより昨晩はちゃんと寝れたか?」

「ああ! 言われた通りサンドバッグ叩いて、かいた汗流しにひとっ風呂浴びて、晩飯平らげて直ぐベッドイン! お陰で朝までぐっすり爆睡快眠で体調万全だ!」

 

 そう言ったアンジェの瞳はらんらんと輝き顔は期待に満ち溢れていた。

 アンジェの答えにリオンは安心しホッとしたように微笑みで返す。

 昨日のアンジェがまるで遠足前日の子供の様で、楽しみ過ぎて寝付けないなんてなってないか密かに心配してたので。

 

 

『恋人と言うより親友と言うより、まるで保護者ですね』

「言うな。複雑な気持ちになるだろうが」

 

 リオンの心中を察してかのように、姿を隠したルクシオンがリオンにだけ聞こえる小声の囁きにリオンも小声で返した。

 そしてリオン自身も思い出していたのは幼い弟を世話してた事。

 彼には妹もいるのだが此方は姉にべったりで、また兄妹仲もあまり良好でなかったので、思い出されるのは兄弟仲良好な弟の方。

 更に言えばアンジェの腕白ぶりも拍車をかけてるのだろうか。

 そして思わず呟く。

 

「……悪役令嬢とは一体」

 

 本来のゲームの"運命"ならばアンジェは公爵令嬢として平民主人公の前に悪役令嬢として立ち塞がるはずだった。

 それが赤子の頃誘拐されたせいで平民として育ってしまい、そのあまりのゲームとの乖離。

 だがそんな風に平民になってしまった目の前のアンジェだがとても楽しそうに笑っており、その笑顔を見てるとこの大幅に違う道を辿ってしまった運命も悪くは無いのかなと思うのであった。

 その一方で冒険者の装備で身を包んだ姿が妙に堂に入って様になってるのは優秀な冒険者を先祖に持つ公爵家の血なればこそだろうか。

 そんなことを考えながら思い起こすのは装備品を買い揃えに出かけた日の事。

 

 

 

 ――それは数日前に遡る。

 

 

「防護服とかの装備品、無事買い揃えられたか? ってちょっと疲れてないか?」

「いや、大丈夫だ。クラリス先輩のお陰で必要なものは全て購入できた……」

 

 冒険者用の装備品は普段の服よりも頑丈な素材が用いられてたり特殊な織られ方をしてたり、またプロテクターなども含まれてるが基本は服の延長。

 その為、購入の付き添いアドバイスには異性であるリオンより同性の方が適任だろうとクラリスがアンジェの買い物に付き合ってくれた。

 ちなみにリオンは入学前のダンジョン探索に使った装備品が既にあるので今回買い物の必要は無かった。

 

「クラリス先輩、アンジェの買い物に付き合ってくれてありがとうございました」

「良いのよ、私も楽しかったし」

 

 そう答えたクラリスはご機嫌な顔だった。

 

「色々見立ててくれたのは助かったが私は着せ替え人形じゃないんだぞ……」

 

 アンジェの言葉にリオンは色々状況を察し、慰めるようになだめる様にアンジェの肩をポンポンと優しく叩く。

 

「うん、まぁ、お疲れ様。ちゃんと先輩にお礼言ったか?」

 

 リオンの声にアンジェは少々渋い顔をしながらもクラリスに向き直り頭を下げる。

 

「……ありがとうございました」

「はい、どういたしまして。あとは武器の方だけど、そっちは男爵の方にお任せで大丈夫ね。それじゃあダンジョン探索の方も頑張ってね」

 

 クラリスはそう言って手をひらひらさせながら笑顔で立ち去ると、リオンは感謝の意を込め頭を下げ見送る。隣に立つアンジェもそれに倣い頭を下げた。

 

 

 

「アンジェ、クラリス先輩と大分打ち解けてきた?」

 

 リオンは先ほどアンジェがクラリスに向けた表情も礼も以前に比べ大分柔らかくなってたように感じ、それを確認するかのように尋ねた。

 

「そうか? いや確かにそうかもしれないな」

 

 言いながらアンジェは何か考え込むような思い出す様なそぶりを見せ、そんなアンジェにリオンが声をかける。

 

「アンジェ?」

「ん? ああ、ちょっと院の姉御を思い出していた」

「姉御?」

「ああ。私とはそれなりに年が離れてたので随分前に、今の私たちぐらいの年の頃に院を出て巣立って行ってな。その後引き継ぐように私が院の纏め役になったんだが。まぁ面倒見も良いが構いたがりのお節介な人だったな。ウザいと思う時もあったが、振り返ってみると優しくて頼りになる良い姉貴分だったよ。巣立った後もちょくちょく面倒見に来てくれたりして。

クラリス先輩と一緒に買い物して構われて久しぶりに思い出した。元気にやってるかな」

 

 言いながらアンジェは懐かしげに遠い目をする。

 アンジェの話を聞きながらリオンは成程と思う。

 年上風先輩風吹かせるクラリスであったが、アンジェがそれに対し姉貴分を重ねて見てるのなら、それを切っ掛けに親しくなってくれるのなら良い事。

 友達や頼りになる人間は多いに越したことはないから。

 

 

「さてと、じゃぁ次は武器の方見に行くか。あ、あと荷物持つよ」

「いいのか? そんなわざわざ」

「いいのいいの。こういうのはエスコートする男子のたしなみだから」

「そうか、ありがとう。では頼む」

 

 そうしてアンジェは感謝の言葉と共に紙袋を手渡す。

 受け取りながらリオンは内心ささやかな感動を噛みしめる。男子が女子の荷物を持ってあげるの自体は女性上位思想が蔓延ってるこの世界でも常識。

 だがその際こんな風に素直に礼を言う女子生徒がどれだけいるだろうか。

 以前姉に買い物付き合わされた時など持って当たり前と感謝のかの字も無かった。

 それを思うとアンジェの素直な感謝の言葉一つとってもたまらなく嬉しかった。

 

 

 

「え、えっと……アンジェは本当にそれで良いの?」

 

 武器屋にやってきて、武器を見繕ってたアンジェが選んだその武器に、リオンは若干顔を引きつらせながら問いかけた。

 それは分類的には打撃武器で、指輪よりやや大きめの四つのリングが若干弧を描いて連なり、そこに向かい合うように緩やかな曲線のバーが配された拳に嵌める武器。

 ナックルダスターと呼ばれるが、人によってはメリケンサックの呼び名の方が耳に馴染んでるだろうか。

 果たして公爵家の血を引く娘に持たせて良いものだろうかとリオンは頭が痛くなる思いを抱きつつも、悪役令嬢の武器としては満更でもないのかな等とも思う。

 

 

「その……アンジェはそれが何か分かってる?」

「ああ! 拳に嵌めて使う武器だろ!?」

 

 言ってアンジェは拳に嵌めジャブの様に軽く振って見せる。

 それほど広くない店内を意識したコンパクトな振りだが軽快な風切音を響かせた。

 

 

「おお! イイ感じで手に馴染むな! よしこれに決め……」

 

 言いながらアンジェはその値段に表情が固まる。

 リオンも値段を見て軽く驚く。

 それは業物の両手剣などよりも更に高く、アンジェの手持ち予算ではオーバーしてるがリオンなら手が出なくもない値段。

 とは言え手の内に収まるナイフほどの大きさの武器にしては高すぎると思い店主に尋ねる。

 

「親父さん。コレ、値段合ってる?」

 

 リオンの呼びかけに店主がカウンターから腰を上げ此方へ向かってくる。

 

 

「ああコレかい? 間違っていないよ。コイツはただのナックルダスターじゃない。ミスリルで作られ炎や氷、電撃など攻撃魔法の使用にも対応してる代物さ。

加えてお嬢さんの手にぴったりなのからも分かると思うが女性用サイズだ。攻撃魔法と徒手格闘両方こなせる女冒険者なんてそうそう居ないうえ値段も張るからな。

そんな癖の強い品なものだから長いこと売れ残ってたさね」

 

 店主の言葉を聞きアンジェは改めて手に嵌められたナックルダスターに目をやり呟く。

 

「攻撃魔法に対応……」

 

 手に嵌めた武器を見詰めるアンジェの横顔を眺めながらリオンは店主に声をかける。

 

「親父さん、この店武器の試用、試し振りとか出来る場所ある?」

「店の裏庭で良ければ案内するよ」

「お願いします」

 

 リオンが答えると店主が手招きしながら歩きだしたので、リオンはアンジェの手を引きついて行く。

 

 

 

「アンジェ、そいつを嵌めた状態で火炎魔法発現させられるか?」

 

 案内された裏庭で、リオンの語り掛けにアンジェはリオンの顔を、次に店主の顔に目をやる。

 店主はアンジェに関心を抱いてるかのような表情を浮かべながら頷いてみせる。

 許可を貰えたと判断したアンジェは再びリオンの顔を見詰め頷くと、両手とその手に握り締めたナックルダスターに意識を込め魔力による炎を発現させる。

 両の拳に炎を発現させ纏って見せたアンジェの姿にリオンも店主も感嘆の声を漏らす。

 

 

「アンジェ、その状態で軽くシャドーやってみ」

 

 リオンの声にアンジェは頷くとその場でパンチを繰り出してみせる。ジャブ、ストレート、フック、アッパー、バックブロー……。

 一通りのパンチを繰り出した後、尚もファイティングポーズを崩さぬアンジェに対しリオンが笑顔で拍手お送るとアンジェも笑顔で応え、魔力を収め拳の炎を消すとファイティングポーズも解く。

 

「イイ感じみたいだな」

「ああ! 最高だコレに決めた! そういう訳だから親父さんお会計を……」

 

 言いながらアンジェが固まったのは値段を思い出したからだ。自分の予算をオーバーしてたのを。

 折角相性最高の武器を見つけたのに諦めねばならないのかと残念そうな表情を浮かべる。

 

 

「いいよ、俺が出すから。そういう訳だから親父さん支払いを」

 

 言いながらリオンは店主に代金を支払う。

 

「ま、待てリオン! いつも世話になってるのにそんな……!」

「楽しみにしてたダンジョンデビューなんだろ。折角いい武器が見つかったのに我慢しちゃ勿体ないよ。それに武器に妥協してそれで大怪我でも負っちゃ元も子もないだろ?」

「で、でも……」

「俺が嫌なんだよアンジェが怪我を負うの。だからこれは俺の我が儘。あと、ま、ダンジョンデビューのプレゼントってことで」

 

 そう言ってリオンが微笑みかけるとアンジェは両手を胸に当て、感謝一杯の表情を表しリオンに感謝の言葉を紡ぐ。

 

「ありがとうリオン。最高のプレゼントだ!」

 

 そんなアンジェに向かい店主が声をかける。

 

「良かったなお嬢さん。理解のある素敵な彼氏で」

 

 その言葉にアンジェは思わず赤くなる。

 

「兄ちゃんも、可愛い彼女しっかり守ってやんなよ。あと、尻に敷かれないようにな」

 

 店主の人当たりの良い笑顔で向けられた言葉にリオンは照れ笑いで返す。

 

(プレゼント、か。将来婚姻も視野に考えてる相手に贈るものとしてメリケンサックって……)

 

 エアサンドバッグに続き、いやそれ以上に女の子に贈るには疑問を抱かずにいられない選択。

 

(恋人……の関係には未だなっていないけど、でも将来それを望んでる相手なら普通指輪だろ。いやまぁ確かに指にはめるけど……)

 

 そこまで考えてリオンは頭を振りこれ以上考えるのやめようと思った。

 ダンジョンに挑むアンジェの為に最高の武器を見繕ってあげた。それで良いではないかと。

 そして笑顔の店主に見送られながら二人店を後にしたのであった。




初っ端からアンジェめっちゃ楽しそうな様子での幕開けとなりました(笑

次回「探索開始」
本格的にダンジョンでの行動開始です。
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