チェンジリング・悪役令嬢と平民主人公の入れ替わり   作:julas

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9、探索開始

 そうして無事装備を整え万全の準備を済ませて迎えたダンジョン探索の実技授業。

 アンジェは昂る気持ちのままリオンと共に、班の中では最も早くダンジョン入り口に集合して他の生徒たちが来るのを待っていた。

 やがて靴音や話し声と共に多くの生徒たちがやってくる。

 その中に見知った顔、公爵令嬢オリヴィアの顔を見つけたアンジェは笑顔で手を振ると向こうも笑顔で応えてくれる。

 だが隣に立つリオンは貴族の慣わしに従った畏まった礼をとる。

 その仕草にアンジェも自分をきちんとした礼をとるべきだったかと顔に焦りを見せるが、オリヴィアは手の平をかざし笑顔で押しとどめた。

 そして視線をアンジェからリオンに移す。

 

 

「お初にお目にかかりますバルトファルト男爵。この度は私の求めに応じてくださったこと感謝します」

「此方こそ公爵令嬢直々にお声をかけていただき恐悦至極にございます」

 

 オリヴィアに限らず学園の生徒たちは大なり小なりリオンには注目していた。

 先日アンジェからリオンにまつわる話を耳にしたオリヴィアは丁度良い機会とこのダンジョン実技でリオンの実力を直接確認するべくアンジェにとりなしてもらったのだ。

 アンジェも自分の親友であるリオンが注目され関心を持ってもらうことを嬉しく思い快諾した。

 リオンもまた乙女ゲーの主人公であるオリヴィアが実際いかなる人物かこの目で確認する良い機会と捉えた。

 なにせゲームとは違い公爵令嬢となってる今、ゲームの知識先入観はあまり当てにならないので。

 そうして三人和やかに対面の挨拶を済ませていたが、他の生徒たちの話し声にアンジェが首元のフードのケープを被りリオンの背後に隠れる。

 それと言うのもその話し声の中にユリウス王子はじめ乙女ゲーの攻略キャラ達、アンジェにとっては付きまとい執拗に口説いてくる例の五人の声が混ざってたからに他ならなかったから。

 

 

「大丈夫ですよアンジェリカさん。そのお渡ししたケープの認識阻害があればユリウス殿下達には気付かれないはずですから」

 

 アンジェが被ってるケープはオリヴィアから事前に渡されたもので今言ったように認識阻害の魔法を公爵家お抱えの魔導士に付与して貰ったもの。

 アンジェから話しかけたり事前に事情を知ってる相手には効かないがそれ以外の相手には効果は御覧の通り。

 

 

 オリヴィアが公爵令嬢にしてユリウスの婚約者である以上、このような場では彼とともに行動するのもセオリーなので彼が居るのも必然。

 それも含め本来であればオリヴィアはユリウスにも将来有望視されてるリオンの実力と人となりを見て欲しかったのだが、アンジェの事を配慮してのもの。

 オリヴィアはユリウスと共に行動しなければならず、アンジェもリオンと共に行動する以上、このような魔法を付与したアイテムに頼った苦肉の決断。

 リオンの事、ユリウスに見て貰うのは今回見送るにしても自分だけでもしっかり見極めねばとオリヴィアは思ったのだった。

 

 

「アンジェ、耳澄ませてみ」

 

 リオンの声にアンジェはユリウスたちの話に聞き耳を立てる。聞こえてくる内容はこの班にアンジェが居ないことに対する不満と落胆の声だった。

 さしずめ今回のダンジョン実技でユリウスたちは、アンジェにここぞとばかりに勇ましい姿を見せつけアピールしたかったのだろう。

 話の内容から自分の存在を気付かれていないことを確認したアンジェの顔に安堵の色が浮かぶ。

 

「とは言えアイツ等が視界に居るうちはフード被っておいた方がいいな」

 

 リオンの言葉にアンジェはリオンの服の裾を掴んだまま頷くのだった。

 

 

 

 

 その後パーティ編成が行われ、リオンとアンジェが第一組として先行。それより少し離れた位置に第二組としてオリヴィア達が中間位置に。最後にユリウスたちのパーティが最後尾に。

 オリヴィア達中間組は最初はリオン達の組の側で戦い振りを眺め、その後ユリウスたちの後列に合流することになった。

 

 

「お二人だけで大丈夫ですか?」

 

 リオンとアンジェが二人だけで先行組を務める事にオリヴィアが心配の声をかける。

 

「大丈夫ですよ。事前にいただいた資料拝見した限り俺が以前探索したダンジョンほど危険な魔物は居なさそうですから。それにアンジェの方も心配いらないですし」

 

 言ってリオンが軽くアンジェの肩を叩くと、アンジェも問題ないと言わんばかりに笑顔で構えを取って見せる。

 リオンの言葉は楽観的観測でも親友の欲目でもない。

 先日ルクシオンにアンジェのサンドバッグの様子を尋ねたところ、最初の状態では持たないレベルまでアンジェのパンチが上がってたのでそれに合わせてアップデートを済ませておいたとの事。

 取りも直さずそれはアンジェのパンチ力がリオンのそれをも上回ってるという事に他ならず、聞いたときはリオンは一瞬目眩を覚えたのだった。

 エアーサンドバッグをプレゼントした一番の理由はストレス解消の為だったが、最近ではクラリスのお陰もあって女子からの嫌がらせは無くなっていた。

 それでも毎日のように叩き続けてたのはもう一方のストレスの原因、王子たち五人が執拗に口説いてくることへのストレス故だろうか。

 或いは腕白でお転婆なアンジェにとって体を動かす毎日の日課として余程肌に合ったのだろうか。

 リオンの前世でもボクササイズを嗜む女性は珍しくなかったが、そこまでパンチ力アップしてるとかフィットネスやダイエットの範疇越えてるだろう、と聞いたときは頭を抱えたものだった。

 だが、ダンジョン探索に当たっては良い傾向だと前向きに捉え直していた。

 それに加えて先日武器屋で購入したミスリル性のナックルダスター――ミスリルフィストを装備したアンジェの攻撃力はリオンをして計り知れない程。

 後は初めての実戦で緊張してないかが心配ではあるのだが。

 

 

「さぁ! パーティ編成も済んだことだし早く行こう! オリヴィア様もリオンと私の勇姿しっかり見届けてくれ!」

 

 緊張のきの字も感じさせないほどアンジェは昂る気持ちを押さえられないといった風である。

 緊張しすぎでも駄目だが全く無いのもどうだろうかとリオンは思わず苦笑を浮かべる。

 アンジェが笑顔でリオンの腕を引き急かすので、リオンはオリヴィアに軽く会釈し共にダンジョンの奥へと歩を進めるのだった。

 

 

「では私たちも向かいましょう。のんびりしてると殿下達も追いついてきてしまいますしね」

 

 オリヴィアの声に彼女の取り巻き達は頷き彼女を護るように周囲に位置取り付き従うのだった。

 

 

 

 リオンとアンジェの二人と、オリヴィア達は数メートルの距離を保ちながら進んでるとやや開けた場所に出、モンスターの姿を確認する。

 

 

「お? 早速お出ましか?」

 

 アンジェが瞳を輝かせながら前に出ようとするのをリオンが肩を掴んで押しとどめる。

 

「落ち着けアンジェ。先ずは俺がお手本で戦ってみせるよ。ジャイアントアントか。ひい、ふう……五体。俺が四体仕留めるからアンジェは残る一体相手にしてみようか。

とは言え四体倒す前に俺が抜けられちまう可能性もゼロじゃないからな。念の為に最初から構えてもらった方がいいな」

「心得た!」

 

 言ってアンジェは両手のナックルを胸の前で当てると硬質な金属音が鳴り響く。

 アンジェの方に油断は無く万全でむしろ抜けてくるなら望むところと言った風ですらある。

 リオンはアンジェに笑顔を向けると直ぐモンスターの方に向き直り抜刀する。

 得物は日本刀、の様な片刃の武器。ルクシオンがリオンの前世が日本人と知って気を利かせて(?)作ってくれたもの。刀と言うよりブレードとでも呼ぶべき業物。

 別に前世で剣道や剣術やってたわけでもないが、今世では剣の扱いに関しては幼い頃から手ほどきを受けていたし、ルクシオン謹製ともなればそこら辺の武器より性能には信頼がおける。

 相対するジャイアントアントは名前の通り蟻のモンスター。普通の蟻とは比べ物にならない大きさの中型犬ほどのモンスター。

 モンスタ-全体で見れば低位だが金属並みに固い表皮と力強い大顎は油断ならない。

 だがリオンは臆することなく向かっていき得物を振るう。狙うのは首や胸、胴体の間などを繋ぐ細い部分。

 ルクシオン謹製の武器ならば金属並みの表皮だろうと切り裂けるだろうが弱点を狙い堅実に屠っていく。

 一体二体と倒されたモンスター達が黒い煙に変わっていき、リオンが最初に言った通り一体を残すのみ。

 

 

「アンジェ!」

 

 リオンがアンジェの方を振り向き声をかけるとアンジェはすかさず「任せろ!」と勢いよく飛び出す。

 そして向かってくるジャイアントアントに向かってミスリルフィストを嵌めた拳を打ち込む。

 アンジェのミスリルフィストを受け、金属並みに固いジャイアントアントの頭部がひび割れひしゃげ、そして拳を振りぬいた勢いに飛ばされ地面に叩きつけられる。

 地面に叩きつけられたジャイアントアントは僅かに痙攣したのち息絶え黒い煙に変わって消えていった。

 

 

「記念すべき初討伐だな」

 

 リオンが右手の平をかざすとアンジェは右手のミスリルフィストをはずしハイタッチで喜びを伝える。

 

「ありがとうリオン! そして、やはりリオンは凄いな! 宣言通り四体倒して私に一体回してくれて流石だ!」

「アンジェも物怖じせず大したものだったよ」

 

 ジャイアントアントの群れを倒した二人は上機嫌で互いを称え合う。

 そんな二人の耳に拍手の音が届く。

 音の方向に首を巡らせればそこには笑顔で拍手を送るオリヴィアの姿が。

 

 

「お見事ですバルトファルト男爵もアンジェリカさんも」

「いえいえ、これぐらいのモンスター大したことないですよ」

「それでも冷静沈着に対処してみせた胆力、流れるような剣捌き、見事なお手並みでした。そしてアンジェリカさんも初めてとは思えないほど堂々としてましたよ」

「いや、これもリオンのお膳立てのお陰だ。最初から群れ五匹相手にしろと言われたら対処出来てたか分からん。こうした気配りが出来るのも含めて、本当大したやつでしょう私のリオンは」

 

 言って誇らしげに胸を張るアンジェ。

 直後オリヴィアの自分を微笑みと共に暖かく見守る視線と、僅かに頬を染めたリオンの顔に首を傾げる。そしてそれが自分の言い放った"私のリオン"に起因してると気付く。

 

「い、いや今のは言葉のあやで……! いや、あやでもないか? そ、それより未だ探索は始まったばかりだし!」

 

 言ってアンジェは照れ隠しの様にリオンの袖を引き奥へ進もうとする。

 

「そんなに急がなくてもダンジョンは逃げないぞ」

 

 リオンはアンジェと共に歩を進めながらなだめる。そしてオリヴィアの方に視線を向け、苦笑を浮かべながら会釈するとオリヴィアも微笑みと共に手を振るのだった。

 

 

 

 その後も順当にダンジョン探索を進めていく。

 出てくるモンスターもジャイアントアントと似たり寄ったりの強さでリオンとアンジェであれば何れも苦も無く対処できる。

 どのモンスターもアンジェの腕前を持ってすれば普通の拳打で事足りるが、折角のミスリルフィスト。時折火炎魔法併用の拳打も織り交ぜるがハッキリ言ってオーバーキル。

 無駄に魔力を消耗することもあるまいと結局殆ど普通の拳打で済ませている。

 とは言えアンジェは率先してモンスターに戦いを挑んでるので細かい掠り傷や装備のほつれなども出始める。

 

 

「やる気があるのはいいがあまり前に出過ぎるなよ。ほらまた掠り傷出来てる」

「ん? ああ、問題ない。こんなのツバでもつけとけば治るだろう」

 

 言いながらアンジェはたった今できた前腕の掠り傷をペロッと舐めて見せる。

 

「この程度の傷、子供の頃野山を駆けずり回ったり悪ガキどもと喧嘩した時などしょっちゅうだったからな」

 

 そう言って屈託のない笑顔を見せるアンジェ。

 その笑顔にやれやれと苦笑を見せるリオン。

 嫁入り前の娘なんだからもう少し気にしろよと思いつつ、自分が娶る分には問題無いかなどとリオンは思い巡らせるのだった。

 

 

 その後もダンジョンの壁面や地表から顔を覗かせる鉱石や魔石の収集にも励む。

 ダンジョンに潜り宝の入手は正に冒険者の醍醐味とこれまたアンジェは目を輝かせる。

 換金すれば100ディア――日本円で言えば一万相当にもなるものもあり、ここ最近出費が多かったアンジェにとっては有り難い臨時収入でそういう意味でも励みになった。

 

 

 そうして意気揚々とダンジョンを奥へと進んで行き、ふと後ろを気にするとオリヴィア達の姿が見えない。

 アンジェがテンションに身を任せ大分ハイペースで突き進んでいたので置き去りにしてしまった形。

 だが当初よりオリヴィア達は最後列のユリウス達のパーティーに合流予定だったので問題ない。

 だが気にすべき点は他にあった。

 今日このダンジョンに実技授業として探索してるのは、リオンとアンジェ、オリヴィアやユリウス達の取り巻き達を含んだ班だけではない。

 彼等より大分時間を空けて先立って探索してた生徒達もいたのだ。

 とは言え其々の班の間には大分時間が空いており、滅多なことで鉢合わせる懸念はない。

 先行班が余程もたついて、後発班が余程ハイペースで進まない限り鉢合わせる事は無い筈。

 だがその滅多にないことが起きようとしていた。




前回に続き、というより本格的にダンジョン探索始まりました。


次回「鉢合わせ」
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