特別特級ドブカス転生無双   作:ToZooNo

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ごぶさたやで


人の心のある反転術式

「依頼ぃ?俺がもう受けてねえの知ってるだろ」

 

競馬場で煙草を吸うガタイのいい男、禪院改め伏黒甚爾は煙たそうに顔をしかめた。

待ち受けていた旧知の男、腐れ縁の仲介屋が持ってきた話は、以前受けていた類の仕事の話だった。

 

「そう言うなって。俺の見たところ、これがやれるのはオマエくらいのモンだぜ」

 

くたびれたスーツ男が持ってきた資料にはある人物の事が記されていた。

呪術界の要である天元が500年に一度行う儀式の、その生贄。

 

「星漿体、天内理子ねぇ。ガキじゃねぇの。趣味じゃねぇ」

 

「続きを読めよ、護衛につくのは、あの五条悟と夏油傑だぞ」

 

資料をめくった先には、地雷が二つも埋まっていた。それも特大の。

甚爾はそれをみてフンと鼻で嗤う。

 

「ハ、特級二人かよ。つーか、なんで護衛がついてから狙うんだよ。やるなら、つく前にやっとけよ」

 

甚爾の横に腰を降ろした黒服はタバコを取り出して火を付け、煙を吸い込んで、ふーーっと溜息のように吐き出した。

この男も特級の意味は理解している。だからこそこの男が入りびたる競馬場にまで来たんだが。

 

「情報が出てきたのが護衛が手配されてからだ。それまでは表でも裏でも秘匿されたんだよ」

 

「ふーん、ま、そりゃ有象無象じゃ、どーにもならんな」

 

甚爾はどこか愉快そうにそういった。古傷のある口元が笑みに歪んでいるのを隠せていない。

 

「だが、オマエなら別だ。だろ?術師殺し」

 

「だから…」

 

「この子は、どうせ天元とやらの人柱にされて死ぬ。なら俺らが報酬貰ったっていいだろ?」

 

発言を遮って畳みかけてきた仲介屋の男を、甚爾は首に手をあてて、傾げるように見返す。

真っ黒で、空っぽな目だ。

間違っても家庭を持ってる男がする目じゃない。

 

「…じゃあ、賭けるか?このレース」

 

「乗った」

 

仲介屋の男は即答した。その首筋には冷たい汗が垂れていた。

だが、最大の賭けにはすでに勝っていた。

 

 

 

レースの結果が出ると、くしゃりと馬券を丸めて捨てたのは、甚爾の方だった。

賭けに勝った仲介屋は競馬場の席を立って、甚爾に告げる。

 

「大穴狙い過ぎだろ。じゃ、手付は振り込んどくから」

 

立ち去ろうとした男の背に、甚爾が声をかけた。

 

「…いや、振り込まなくていい。その代わり、賞金かけろ」

 

「は?」

 

思わず振り返った仲介屋が目にしたのは、既に獲物を見据える目をした獣だった。

 

 

 

 

 

 

 

思えば違和感はその時からあった。

 

 

 

 

 

 

 

「虚式「茈」」

 

 

 

反転術式を使って復活した五条悟の一撃で、伏黒甚爾は腕とわき腹をごっそりと持っていかれた。

 

受け止めることはもちろん、躱すことも出来なかった。

 

そんな中で、益体もない事に思考を奪われている事に自嘲せざるをえなかった。

 

 

 

 

「足はきっぱり洗った」

 

そう言って断る事も出来たはずだ。

 

 

 

「特級2人に手付が3000万?桁が二つ違うだろ」

 

金額を言い訳にする事だって出来た。

実際、アイツが金額を聞いたら鼻で笑うだろう。

 

 

「タダ働きなんてゴメンだね」

 

いつもの俺ならそう言ってトンズラこくこともできた。

 

だが、目の前には覚醒した無下限呪術の使い手。

恐らく、現代最強と成った術師。

 

 

 

 

否定したくなった。

 

 

ねじ伏せてみたくなった。

 

 

 

俺を否定した禪院家、呪術界、その頂点を

 

 

 

自分を肯定するために、自分を曲げちまった。

 

 

妻と子供の顔が脳裏をよぎる。

だが、そこにアイツの言いそうな言葉が割って入ってくる。

 

 

 

 

 

「だから言うたやろ、足洗った方がええでて」

 

 

 

 

「悪ぃ」

 

「謝るんなら奥さんに謝りぃ」

 

現れた青年が甚爾の肩を叩くと、パシュンと音を立てて、その血まみれの身体は一枚のカードになってその手に納まっていた。

 

 

不良のような金髪をしながら、仕立ての良い和服を纏い、腰には一振りの刀。

 

 

ちぐはぐな見た目と、存在を見逃しそうな気配の薄さ。にも関わらず、纏う呪力は濃い。

接近に気づかなかったというのは、いくら戦いのさなかといえど不可解。

 

「変わった拡張術式だけど、それ、投射呪法か」

 

血まみれの五条悟の六眼が蒼く煌めいて、不埒な闖入者を睨みつける。

その眼は先ほどの現象のカラクリを余すところなく捉えていた。

 

「オマエ、禪院?…なんのつもり?」

 

「本来身内でケジメ付けるべき所を、えらい迷惑かけてもうて申し訳ない。まあ知らん仲やないし、遺言くらいは家族に聞かせたろ思うて」

 

青年の声には気負いがなく、その言葉にはどこか軽薄さと同時に一抹の誠意が感じられた。しかし、その態度は五条を一層苛立たせた。

 

「それで、俺が『はい、そうですか、どうぞ』って言うとでも思ってるの?」

 

五条の眼は青く光り、まっすぐに青年を見据えている。その瞳には怒りと警戒心が宿っており、一瞬たりとも油断を許さない。

 

 

「あーこっそり治療したりはせえへんよ。なんなら、葬式出すとこまで見張ってもろてもええよ。縛りでも結ぶ?」

 

並みの術師ではあらがう事すらできない五条の気迫を前にしても、どこ吹く風だ。

青年は微笑を浮かべ、その言葉には挑発的な響きがあったが、同時に騙すまでもないというあけすけな正直さもあった。

 

そこに、もう一人、ようやく事態に追いついた人物がやって来た。

 

「悟!」

 

「傑…?その様子じゃ硝子には会えたんだな」

 

「いや、私は、そこの彼に治療して貰った。」

 

そう傑が言うと、親友の無事を確認し、五条悟の纏っていた尋常ではない圧が僅かにゆるんだ。

 

「もう、問題ない…いや、私に問題が無くても仕方ないな」

 

そう説明した夏油傑の声と仕草には、これまでのような正しさに対する自信は無くなっていた。罪悪感を抱えて苦しんでいるのは明らかだった。

 

「俺がしくった。オマエは悪くない」

 

五条悟といえど、それは同じだった。

しかし、そんな重く犯しがたい空気の中に、またもや無神経で無遠慮な声が割り込んだ。

 

「そうそう、その話もせんとな。さっき()()回収してきてんけど」

 

取り出された一枚の呪符。

それを六眼で視た五条の髪の毛がぶわりと逆巻く。

 

「オマエ()()

 

そのカードを手に還元(ゲイン)、と唱えると、ぱしゅっと軽い音とともに、少女の死体が現れた。

頭部を凶弾に穿たれた、天内理子の遺体だ。

最強の二人の目の前にあるのは、かつて自分たちが守ろうとした少女の無惨な姿だった。

 

「縁者が任務の邪魔したお詫びと言ってはなんやけど、()()治しとこか」

 

あまりに軽く、老獪な狐のような目の青年はそう言い放った。

まるで事故車の軽い損傷を診た保険屋のような口ぶりだ。

 

「あ?」

 

五条の圧が再び周囲を威圧する。覚醒した呪力の纏う圧力は以前の比ではない。

呪力を見通し、そして制御するその瞳が、発言をした禪院の男へと焦点を結ぶ。

 

「ジョーダン聞きたい気分じゃねーんだけど」

 

「もう、死んでる。いくら反転術式でも死人は生き返らない」

 

頭蓋骨を穿って脳漿をぶちまけているのだ。五条と夏油、特級の呪術師二人の目から見ても、完膚なきまでに死んでいる。

貴重な反転術式のアウトプットが出来る人間が居ようと、それでどうこうなるレベルではない。

 

 

「反転術式で死者は蘇らん」

 

青年は事実の確認をするように改めて口に出す。

 

「それはその通りや。でも、なぁ、僕から言わしたら、それは死体が治らんのとは意味がちゃう」

 

死を受け入れる。死んだらしゃーない。

 

それは人間がはるか昔から積み重ねてきた祈り。

 

それは同時に呪いや。

 

「天内理子を治そうとするから治らんねん。天内理子(ソレ)はもう、治らん」

 

と和服の青年は先ほどの言葉とは裏腹な事実を冷徹に宣言した。

 

「脳みそぶちまけとるねんからな」

 

続けるその言葉には聞く二人にとって無情な現実が重くのしかかっていた。

 

「とはいえ」と彼の声が少しだけ高くなり、口元に笑みをかみ殺したような歪みが加わる。

 

「目の前の肉の塊(コレ)はまだ使える」

 

肉体の遺伝子は丸ごと残っとるねんから、そっから足りん部分を作るんは、腕生やしたり腹直したりするんと、いっしょや。いっしょ。

なんでもない事かのように青年はそう言ってのけた。

呪術の常識から言っても、歴史から言っても、矛盾だらけ。

 

だが、彼女の死体に触れた青年が練り上げた呪力によって齎される、目の前の現実に裏切られる。

さほど大きくない頭部の損傷がみるみる塞がってゆく。

それに従って、少女の身体に血の気が戻っていくのが分かる。

 

「バカな」

 

天内理子を救いたい者にはその手立てがなく、たかが死体一つと割り切る者には、現実が反転させられる皮肉。

夏油は目を見張り、歯を食いしばるようにしながら、その光景に魅入っていた。

 

「あ、ぇ」

 

ぐりぐりと焦点が合っていない、瞳孔が開いた目が動きはじめ、だらりと開いた口から、よだれと共に呻きがあがる。

 

「…マジかよ」

 

「当然、中身は空っぽやけどな。とりあえずコレでええかどうか天元のとこ行って聞いてこよやッと、おっ」

 

言葉を遮ったのは、呪力がしっかり籠った拳と蹴りだった。

しかし特級二人の攻撃を受け止めても胡散臭い笑みの張り付いた表情は崩れない。

 

「理子ちゃんは、天元の所にはいかせない」

 

「さっきから一々、コレ呼ばわりすんじゃねぇよ」

 

「あー…話聞いとった?」

 

溜息と共に、聞き分けのない子供に道理を説くかのように言い聞かせる。

 

「いっぺん、天元に見せて相手から「もういらん」て言わせればええねん。そしたら、面倒ないやろ。大丈夫や、コレは天内理子ちゃうからな」

 

再びコレと言った所で、ギリっと、五条悟の拳が重みを増す。

だが驚くべきことに、拮抗は破れない。

 

 

「天元の所に持って行って星漿体にされない、保障あんの?」

 

「コレ治療したんは僕の呪力や。その僕が、コレは天内理子やのうて別モンやと認識しとる。呪術的にはそれで十分やと思うで。それに、天元の所に連れて行って確認して改めて匿っても、今から匿っても、結局いっしょやろ?」

 

なら、天元にチェックさせるのはタダ。無料のオプション取引だ。ならとりあえず試してみて結果を確認してから次のアクションに移ればいい。

 

「ああ、万全にしときたいなら、名前付けとく?」

 

「あ?」

 

「名づけが持つ呪術的な意味合いは分かっとるやろ。特級が二人も立ち会う名づけは効果高いで?()()ちゃんとか、()()ちゃんとか、どう?」

 

「てめっ」

 

五条の怒りが爆発寸前に達し、彼の手は拳を握りしめていた。

その怒りは呪力となって周囲に広がり、空間そのものが圧力を生み出しそうなほどだった。

 

 

「悟っ。キミも、煽るのは止めてもらえないか。」

 

冷静な声が響き渡り、一触即発の緊張感を和らげた。

その声の主、夏油は、余裕のない表情で五条と青年の間に立った。

 

 

結局、名前を付けることはできなかった。しかし、結果として、かつて天内理子だった者は、星漿体として抹消されることはなかった。

少女が消え去る運命から逃れられたのは、天元の気まぐれか、あるいは本当に適性が無くなったのか、それとも特級二人の心情を考慮しての事なのか。

それは今となっては分からない。だが、その理由はもはや重要ではなかった。

身柄の扱いは悟たちに一任されることとなった。

 

「傑のところは一般家庭だからな、五条で面倒見るよ」

 

そう悟が静かに決意を込めて言う。その蒼い瞳には、彼女を守り抜くという強い決意が宿っていた。

「そうだな」と傑がその意見に同意し、静かに頷く。

その表情からは、変わらない信頼が見て取れる。

 

「僕んところでもええんやで?」

 

「ふざけんな」「ふざけないでくれるか」

 

狐目の青年がまぜっかえすようにニヤリと冗談半分に言うが、その言葉が終わる前に、二人からの冷たく鋭い拒絶の声が重なる。

その声には、誰にも譲らないという強い意志が感じられた。

 

「信用ないなあ」

 

 

禪院の青年は肩をすくめて苦笑する。

その笑顔には、どこか諦めと共に、彼自身の孤独が滲んでいるようでもあったし、同時にそれすら薄っぺらい作り物のようでもあった。

 

「ほな、お二人さん。()()な」

 

そう言って青年は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、五条の家に運ばれた少女を診るために、硝子が訪れていた。少女はうつろな表情で宙を見つめ、何も感じていないようだった。

その様子を、五条と夏油は黙って見守っていた。

 

「うーん、精神以外はフツー。アタシにできることはないね」

 

と少女を診察し終わった硝子は処置なしと肩をすくめた。

 

 

「あっそ」

 

 

五条はぶっきらぼうに短く応じるが、その声には微かな失望が感じられた。

 

「しかし、脳みそぶち撒けた死体に反転術式って、マジかぁ。。。関西に反転術式で荒稼ぎしてる奴がいるのは一部じゃ有名だったけど」

 

硝子は頭をガシガシかいて唸るように吐き捨てた。

 

「呪術規定違反じゃないのか、それは」

 

そう夏油が眉をひそめて問いかける。

 

「つーか悟の方が詳しーんじゃないの?そこら辺の話」

 

そう硝子が五条に目を向けて問いかけた。

 

「しらね。興味ねーし」と五条はそっけなく答えた。

 

「うわ、使えねー」

 

硝子はため息をついて、処置なしと手を上げた。

 

「反転術式のアウトプットができるキミでも、やはり難しい事か」

 

 

そう夏油が改めて尋ねる。聞くまでもない事ではあるが、聞かずにはいられないだろう。

 

「いや、反転術式は脳で回すって言うでしょ。自分でかける場合でも脳は起点なんだし、アウトプットするときに、脳も無けりゃ心臓も止まってるって、さすがにね。。。」

 

硝子は説明しながらも、「やってらんないねー」と呟き、呆けたままの少女の前で煙草を取り出し口に咥えた。

が、夏油が素早く煙草を奪い取って首を振った。

 

硝子はチッと舌打ちした。しかし、その目には真剣な鋭さが宿っていた。

 

「激ヤバサイコパス。人のことをマジで人間だと思ってないよ、ソイツ」

 

その言葉には、彼女が感じた危機感と警戒心が滲み出ていた。

 

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