特別特級ドブカス転生無双   作:ToZooNo

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「炳」筆頭の心とかないんか?

反転術式によって正のエネルギーをアウトプットし治療が出来る身内がいるという事の利益は、計り知れないものがある。特にそれが身体欠損を治療出来る水準ともなれば。

禪院家の神童が怪我人を鼻歌交じりで治癒して見せた時には、御三家の一角と言えど、あるいはだからこそ、驚きと喜びが関係者に広がった事は当然だった。

 

人間というのは、皆自分の利益には敏感で、その利益の果実、利権が外に漏れる事にはもっと敏感である。

病院に出入りして高額の謝礼を貰って治療を施すというのは、呪術規定違反にもなりかねない行為だ。

当初は明るみに出ていなかったが、御三家に数えられる程の古い名家と、地方のお金を持った有力者のコミュニティには、当然重なりや繋がりがべったりとあるわけで、噂が届くのは時間の問題だった。

 

 

そして実態が知れてしまえば禪院家の首脳陣の間で、やり玉にあげられるのもある意味しかたのない事であった。

 

「術師が非術師から金を受け取って術を施すというのは、呪詛師のやる事。何の相談もなく独断でこんな事をしでかすのは言語道断」

 

議題を持ち上げたのは現当主の弟、禪院扇。

特別一級術師にして、禪院家の精鋭術師集団炳に属する剣士。

 

「なにか申し開きはあるのか?」

 

 

睨みを利かせる扇の鋭い眼光を受ける金髪の青年の態度は、ひょうひょうとしていてどこ吹く風。

 

「呪霊も呪詛師も人並み以上には狩っとるし、家のケガ人も治療したっとるやろ。何が不満やねん」

 

太々しい事この上ない態度だが、それだけの実績があるのも事実だった。

現状すでに特別準一級、それも、一級昇格も認定が遅いか早いかだけの話と噂されている。

禪院家の特別一級術師の3人、当主直毘人、扇、甚一のうち誰かが認めればすぐにも一級だろうと目されていた。

なにしろ、反転術式のアウトプットが出来るというだけで、今のところ日本の呪術界には二人しかいない。

その上で歴史が浅いとはいえ、相伝の投射呪法の使い手で、呪霊だろうと呪詛師だろうと、苦もなく祓い、下して来ている。

もはや誰かと組ませる必要もなく、一人で動く事の方が多い。

当主直毘人は内心で認めては居ても身内びいきと見られぬように様子見に回っているが、残る二人が認めるのがあまりにも遅ければその限りではないだろう。

 

 

 

 

だん、と禪院扇が強く机を叩いた。

 

「それとこれとは話が別だ! 御三家の一角、禪院の家門に泥を塗るような真似をして、どう責任を取るのだ」

 

扇にとって兄が目の上のたんこぶなら、この青年は目の下のできもの。

申し分ない実力を持った現当主の後継者候補筆頭を追及できるまたとない機会に固執するのは分かり切っていた事だった。

 

だからこそ、当主直毘人は面倒そうに頬杖をついて、昼間かつ会議中でありながら瓢箪から酒を飲んでいる。

器が大きいと言えばよく聞こえるが、良くも悪くも他人の事に大して興味がないのがこのジジイである。

とはいえ、今気炎を上げている器の小さい弟、扇よりはずっと人望があるのだが。

 

そして名は体を現すジジイを超えた爺、禪院家の長老こと長寿郎はいつも通り笑顔なのかどうかわからないしわくちゃの顔で、無言のまま座って茶を飲んでいる。

 

「チッ」

 

腕組みをしながら様子見をしていた毛深い大柄の男、特別一級術師、禪院甚壱からしてみれば、舌打ちしたくもなる、いい迷惑な流れである。

彼とて、生意気な年下が好き勝手な事をやっていてカンに触らない訳ではない。それで金を儲けているとなるとイラつく。

しかし、責め立てまくった所で適当な手打ちになるのは目に見えているから、当の本人は太々しいし、他の面子はやる気がない。

 

かといって生意気な奴に手打ちを仲介してやる義理もないから放置すると、聞きたくもない扇の口うるさい話を延々と聞く羽目になる。

 

 

「受け取ったカネは没収、以降外部での治療は原則禁止、例外の場合は禪院家を窓口にする。そんな所か?」

 

これくらいが、落としどころだろう。そう甚壱は口にした。

反転術式を使った治療の利権が禪院家のモノになるなら悪い事ではない。

 

「手温いッ」

 

「いや、普通にお断りやけど?なんで妥協したるみたいな言い草やねん」

 

だが、扇はおろか、当人まであっさりとソレを断った。当然、甚壱は顔をしかめる。

総監部に睨まれるリスクを考えれば、金のやり取りの責任を禪院家が負う形になるというのは、けして悪いだけの話では無いはずだった。

 

「そもそも僕が代表しとる法人への寄付ちゅう形になっとるから」

 

「なら、なおさら役員に家の人間を入れれば済む話だろう」

 

「お断りや」

 

「じゃあ、どう落とし前を付けるんだ?」

 

甚壱はもはや場を収める気が失せていた。

それに、扇と甚壱が一致するなら、直毘人といえど無視はしない。

どうするんだ?という視線を相変わらず手酌で飲んでいる直毘人に送る。

 

「フム」

 

直毘人は髭を弄って思案顔をするが、その実、このジジイに腹案などない。

 

 

「なら、修練場、いこうや。術師やろ?」

 

生意気な男は不敵に笑って立ち上がった。

 

 

 

 

「怪我したら治療したるから、真剣でやろうや。術式は無しでええで」

 

修練場に立った金髪の青年が向ける、明らかかつあからさまな喧嘩ごしの挑発。

向けた先は先ほど舌鋒鋭く追及してきた扇である。

 

とはいえ、術式無し呪力有りの剣技を競うなら、流石に扇に一日の長があるだろうというのが、衆目の一致するところだった。

扇とて特別一級術師であり、剣技も呪力も相応の水準であるし、何より呪力を使った剣術においてはシン陰流にも引けを取らないだけの積み重ねがある。

 

 

「いいだろう、達磨になって転がされても文句はいえぬぞ」

 

そう言って扇が応じると、二人は舌戦は仕舞いとばかりにお互いに抜刀の構えを構え合う。

扇は落花の情を放つための呪力を身にまとう。

落花の情を剣技に応用したソレはシン陰流の簡易領域を用いた抜刀に近いが、シン陰流の未熟な術者が用いるような領域を成立させるための縛りは扇には必要ない。

 

抜刀勝負。

 

じりじりと間合いを詰める二人の一足一刀の間合いが、重なったその瞬間。

 

二人の抜刀が重なった。

 

肩から血が噴き出したのは禪院扇の方だった。

 

「…今、扇さんの方が先だったよな?」

 

「どうなった?」

 

見る者が見れば、今の抜刀勝負は扇の方が一枚上手だった。

抜刀の途中で体を捌いて、剣の軌道を相手の腕へと変えて手首を半ば切り落として返す刀で足を薙ぐ。

 

その流れが出来上がっていた。それを覆したのは。

 

「反転術式だ」

 

刃物という武器の特性上、腕が良ければなおさら、断面は損傷が少ない。

動きをほとんど損なう事がないレベルの再生速度があるのなら、骨を断たせて骨を断てば、理屈の上では一方的な展開にできる。

 

「いくら反転術式のレベルが高いつったって、骨ごと切られて、なんで動きが鈍らねえ?」

 

先の攻防で不思議なのはそこだった。

百歩譲って治癒は出来たとしても、治癒している間に、普通は動きが固まる。

その隙があれば追撃を入れるなり身を躱すなりが出来ない禪院扇ではない。

逆に扇に一太刀入ったのは、切り飛ばされるはずの腕で一切止まらずにそのまま踏み込んで切りに行ったからこそだ。

 

 

「きぇえええぃ」

 

扇が気合の声をあげて呪力で血を止血し、刀を構えなおした。その刀の刀身自体が呪力を帯びている。

 

今度は扇の方から仕掛けた。

 

剣の届かないはずの遠い間合いからの素早い二連撃。

だが呪力による剣身の延長によって、その刃は相手に届く。

 

受け止める事が出来たのは頭を狙った一撃のみで、腹にはモロに一撃入った。

だが、やはり何事もなかったかのように、剣の間合いを体で押しつぶすようにして前に出る。

 

「舐めるなっ」

 

流石に隙だらけ、とその動きを咎めるように剣身を戻して切り返した扇に対して、青年は不敵に笑う。

 

「そっちがな」

 

扇の剣が纏った呪力に触れるや、身を躱しての一撃。

落花の情を応用した返し技、扇が最初に見せた技でもある。

反転術式ごり押しを二度繰り返してからの意表を突く返し技。

 

まず、腕、次に足、素早い2連撃が入って扇の体勢が完全に崩れる。

 

そして襟首を掴むと引き付けて刃を扇の首に押し当てる。

 

完全に勝負あった、と見えた次の瞬間。

 

「ぎぃやぁああぁぁ」

 

扇が顔を抑えて蹲って叫び声をあげた。

その顔からは湯気が立ち上っているが、一見、無傷だ。

 

 

「しわがのうなって男前になったんとちゃう?眉毛焦げたらまたやったろか?ん?」

 

 

そう言い放った青年の手には、()()()()()()が握られていた。

信じがたい事に反転術式を回しながら切る事で、扇は()()()顔を削ぎ落とされていた。

 

息を呑むもの、吐き気を抑えるもの、思わず立ち上がるもの。

見守る観衆の反応はまちまちだったが、声をあげる事が出来たのは当主直毘人と甚壱だけだった。

 

 

「それまで。治療してやれ」

 

その言葉に従った青年の手が扇の肩に触れると、扇はびくりと体を震わせたが、怪我はすぐに治った。

こんな状況で見るのでなければ相変わらず惚れ惚れする腕前である。

 

 

「さすがにやり過ぎだ」

 

 

苦言を呈したこの顔と毛の濃い男が下の者からも漢として慕われている事があるのは、理由無きものではない。

少なくとも、この場にいた大勢は、その日の彼らの雄姿には後光がさして見えたと語る。

 

 

 

「ほな、次」

 

悪い狐の目をした青年は手にしていた顔をカードに変えて懐にしまうと、修練場の中央に戻って手招きをして言い放った。

 

流れから言っても実力から言っても、次の相手は立ち上がっていた甚壱以外にはいないだろう。直毘人は立ち合い人のような位置に収まっている。

しかし、彼の腰には先ほど残酷な拷問器具と化していた刀が相変わらず握られている。

 

「あー俺はどっちみち素手なんだが?」

 

((日和った))

 

 

修練場に集まっていた面々全てが内心で思ってしまったが、同時に、これは仕方ないとむしろ誰もが甚壱に同情した。

何しろ相打ち上等の反転術式使い相手に、素手と刃物でダメージレースなど、いくら体格差があっても最初から勝負になっていない。

次の相手として指名された禪院甚壱が挑戦に二の足を踏んでしまった事で、完全にこの場での格付けが済んでしまった。

 

 

「なら、3、4人がかりでええわ。ええ練習になるやろ?」

 

 

ニヤリと笑って、親指で首を掻き切るジェスチャー。先ほどの出来事の前で冗談だと思える者はこの場にいない。

 

「安心せえや。首から上が吹っ飛ぶか首から下が吹っ飛ばん限りは治したるわ」

 

 

ひっと誰かが息を呑む声が静まり返った修練場に大きく響いてしまった。

しかし、青年は容赦なくその面々を睥睨して、どう猛な視線を投げつける。

 

 

「呪霊との戦いはこんな優しないぞ? 治る怪我ごときに何びびっとんねん。さっさとかかってこいやカス」

 

 

再びの手招き。

 

 

 

 

 

その日、修練に参加していた禪院家の者たちは文字通り精神も身体もボロ雑巾のようにズタズタにされ、身体だけは宣言通りに治療された。

 

 

 

 

「ほな、()()()()

 

 

 

 

 

青年が最後に発したこのセリフで、修練場は阿鼻叫喚に包まれた。

 

せめて3カ月に一度、いや年に一度にして、という大勢の真剣な嘆願によって、真剣をつかった()()()に関しては「()()()()()()()()()」という留保を引き出すことに成功した。

 

脱落者を考慮しなければ極めて実戦的で効果的な訓練方法だ、と評価する事が出来る者もごくわずかにはいたが、そう評した人間ですら毎日やられたら正気でいられないという叫びを否定する事は出来なかった。

 

 

結局その日を境にして、名実ともに筆頭となった青年のバイトを咎めだてする事が出来る者は誰もいなくなった。

むしろ、金のためとはいえ「あの悪魔が慈善事業してるのを邪魔するなんて正気じゃない」という意見が暗黙のうちに大勢となったという。

 

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