特別特級ドブカス転生無双   作:ToZooNo

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月が綺麗ですね

2人の術式の激突。

 

 

呪い合いの、その結果は。

 

 

…何も、起こらなかった。

 

 

帳が晴れた空は青く拓けて、海の潮風は先ほどまでと変わらずに穏やかにたなびいている。

 

五条の目が、同じく蒼く輝く六眼が大きく、見開かれていた。

 

 

 

「月、ちゅうんはな」

 

 

天に立つ彼が静かに開示を始めた。

彼我の距離は相当に離れているにも関わらず。

張り上げたわけでもないその声は地上に立つ二人の耳に響いている。

先ほど彼が放った術式の余波が未だ、あたりを漂っているからだ。

 

「時間を測る単位であり、女陰の月の巡りや肉月が表すように体と結びついてもいて、そして、遥か彼方に実在する場所でもある。つまり、投射呪法が扱う時空間と肉体の象徴やねん」

 

地上のいかなる山よりもなお高く、あるいはあらゆる深海よりもなお深く。

 

「だから、行って、この手で触れて来た」

 

月への旅路は、ひたすら宙を蹴って前へ前へと加速した後は、ひたすらに減速し続ける必要がある。

 

星々が輝き銀河の流れる星海を、足を月に向けて、下へ下へと下りながら減速していく。

一段一段、階段を降るように。

 

深く深く深く。

 

()()()へと。

 

 

「人類初、とちゃうのはちょっと残念やし、星海(うみ)の底って言うには浅瀬も浅瀬やけどね」

 

呪力がなければ夢にも届かなかったであろう場所。

 

「僕の手は、月まで届く」

 

その言葉の意味するところ、儀式としての意味と格は極めて高い。

 

 

立直(リーチ)一発(イッパツ)海底撈月(ハイテイ)

 

 

無下限呪術の秘奥義、触れ得ざる理不尽な仮想の質量。

そこにあってなお触れ得ぬと人類が見上げ続けた月ならば、見立てるのに不足はない。

 

(むらさき)()()や」

 

一枚のカードが天に直立する彼の掲げる手に、収まっていた。

 

()()()

 

 

三日月の如く細長い笑みを浮かべて、ふらりと彼は足場が消えると同時に後ろに身を倒れこませて…

宙を横に蹴って、弾かれた弾丸のように空を駆け出した。

捨て台詞とともに。

 

 

「ほな、バイバイキーン!」

 

 

自由自在な軌道ながら、投射呪法で加速されたその速度は、空気を震わせながら一瞬で亜音速に到達する。

 

 

「…逃がすと思ってんのか!傑、俺が追う!後、頼んだ」

 

「ああ...!」

 

 

障害物の多くて制約が付きまとう地上ならいざ知らず。

被害を気にせず良くて、遮るものが何もない上空ならば。

 

最速の術式は投射呪法ではなく、最速の術師は五条悟である。

 

 

六眼で捉えている相手の位置と速度、その数瞬先へと。

 

「ドンピシャ」

 

構えた状態の五条が、空をかける男の目の前へとまるで雷鳴のような速さで移動し、現れた。

急加速、急制動、可能にする術式出力も凄まじいが、真に恐るべきはその精度。

投射呪法は術式の切れ目でしか動きを変更できない。

よっていくら速くても、反応できる瞬間は1秒ごとにしかない。

五条はその反応できない瞬間、位置と速度、そしてタイミングを完璧に読み切り、「ここしかない」という一瞬を見逃さなかった。

 

そして繰り出したのは、拳。

 

投射呪法相手に徒手格闘を挑むことは、大きなリスクを伴う。

しかし、五条には確信があった。

移動してから蒼や赫を放つ場合、どうしても一瞬のラグが生じるし、術式が盗まれる可能性もある。

だからこそ、高速で突っ込んでくる相手に対するカウンター気味の一撃なら、無下限術式の壁を一時的に取り払ってでも、拳が一番早くて確実だと確信。

 

 

 

緊急回避(エバキュエイト)

 

拳が彼の腹に炸裂する瞬間。

ボン、と彼が爆散した。

 

 

威力はさほどないが、大量の爆風を生み出す爆発と共に、多数のカードが空へとぶちまけられていた。

 

その中の一枚が恐らくアイツ。

投射呪法のペナルティを逆用した、行動の強制キャンセル。

それに加えてデコイとなるカードとそれが散らばる為の爆発物を還元。動作ではなく呪力や声だけをトリガーにして発動する事で投射呪法の制約を回避。

 

細やかな工夫が凝らされた、投射呪法の弱点を補う有効な手段ではある。

 

だが、

 

「そりゃ悪手じゃねーの?」

 

 

出力最大「蒼」

 

 

空中にバラ撒かれたカード達を出力を上げた蒼で掃除機のように吸い込みながら振り回す。

近接攻撃に対しては有効な緊急回避方法だが、逆に術式の範囲攻撃に対しては弱い。

一秒間の拘束は、術師同士の戦いにおいては、あまりにも致命的な代償だ

 

カードは軽い。ゆえに、出力を上げた蒼にあっさりとチリのように吸い集められ、その中央の圧力でバキバキと音を立てて潰されていく。蒼の力は無慈悲で、まるで破砕機のようにカードを一瞬で粉砕してしまった。

しかし、次の瞬間、ボボンと鈍い音を立てて再びカードの中身が還元され、膨れ上がった。それは大量の土石だった。まるでぼこぼこと泡のように膨れ上がりながらも圧力を受けて球形にまとまっていく。

「チッ」

機が逸らされた五条は舌打ちしたが、口は楽しげに歪んでいる。

ビタビタと土石の塊の表面にカードが張り付くが、潰れることはなかった。

なぜなら、それらの岩塊が邪魔をして圧力のより高い中央部まで届いていなかったからだ。土石の質量と体積が蒼を完全に埋め尽くしていた。

 

 

そして時間切れ。

 

 

「撈月」

 

その岩石の塊が蒼を巻き込んでまるごと収納された。

制約から解き放たれて土石の塊に手を当てた男の掌にカードが納まる。

 

「一回感覚掴んだし、開示もしたし、呪詞なしでもこれくらいは出来るわな」

 

 

「言ってろ。対策必死過ぎてウケる」

 

 

どんなに積み重ねられた対策だろうと、パンチ一発に対してあの回避法は割に合っていない。

だが、青年はその答えに笑って、投射呪法を使って再び弾かれたように加速して、逃げの一手。

 

 

このまま押せば勝てる。

 

 

だが、飛び去る相手に更に一気に畳み掛ける事に、五条悟の本能が盛大に警鐘を鳴らしていた。

 

相手が相当に準備をしている事を流石に認めざるを得ない。

本来ほとんど知る者がいなかったはずの(むらさき)も、恐らく前回見られていた。

さっきのも状況を踏まえればほぼ最善の一手だったが、そこに対策が張られていた。

 

初見でなければやりようがあるのは五条だけではない。

無下限の防御を切っての打撃戦の選択にもリスクがあった。一撃で()()()と思ったからこその選択。

繰り返し無防備になるのは得策ではない。

 

あの呪霊を殺した技。空間ごと格納されたとしても、無下限の防御があれば恐らく復元過程で圧殺されることはない。

 

だが、無下限の防御無しで喰らえば…

 

 

「チッ、うぜっ」

 

五条と青年は高速で自由自在に空を駆けながら、決定打にかける空中戦を繰り広げた。

ニュートラルな無下限での高速の体当たりは、同じく緊急回避(エバキュエイト)とやらで逃げられる。

回避した後にバラまかれるデコイはカードに加えて呪霊だったり煙幕だったりオプション多彩だ。

デコイを一網打尽にするには、やはり出力を上げた蒼が適しているのだが、埋められるせいで決定打にならない。

赫で弾き飛ばすのは、空中で衝撃を殺されると大して有効打にならない。

 

とはいえ、いくら投射呪法で速度を上げても五条を振り切る事は出来ない。

五条を攻撃する手段も、奪われた(むらさき)一発以外は恐らくない。

そこさえ気をつけておけば負けはない。

同じことを繰り返して削り合いになれば、五条有利になっていく。

反転術式を使えるのは同じとしても、消耗する道具を使って回避している点でも。六眼を持ち呪力効率がいい点でも、長期戦は有利。

 

 

そして、緊急回避(エバキュエイト)もいくつかバリエーションがあるとはいえ、もう何度か視た。

 

 

 

もうすぐ詰みだ

 

 

 

 

その時、ふと彼が空中で足を止めて振り返った。

空も海も、そしてその中に独り立つ彼を見つめる六眼も、全てが蒼い世界。

 

 

「キミとのゲームは、もうおしまいや」

 

そう、彼は宣言した。

 

「あ?」

 

気勢を外された五条が首を捻って相手を睨みつける。

ひょうひょうとしながら青年は携帯を取り出してそれを指さして強調した。

 

「ご苦労さん。ボクは今から上と交渉」

 

「ハァー? んなもん最初からしとけよ。まだやれるだろ?それともビビった?」

 

五条が不満げに唇を尖らせる。

圧倒的な戦闘力に似合わない、小学生のような稚気。

 

 

「挑発が安っぽいで。上と話した後でアッチがまだやる気なら。いくらでも遊んだるわ。逃げんとな。()()()()()()()

 

さらりと口にした強気な交渉材料。

逃げずに足を止めてやり合うなら、相手に勝ち目はない。今のところ視得ているものが全てなら、だが。

 

「チッ好きにすれば。ってか、そもそも身内からも、そんな庇われてねーみたいだケド、総監部と話付くの?」

 

 

「総監部?僕が交渉するんはもっと上や。僕との敵対は、アイツらに責任とれる話とちゃうからな」

 

 

電話をかけ始めた彼の、総監部の上というセリフに五条悟は怪訝な顔で首を傾げる。

呪術協会において、そんな立場はないはずだ。

政府の事を言っているのだとしても、呪術師の懲罰は協会の役割で基本的にも現実的にも政府が横やりを入れられる話ではない。

 

 

「あーもしもし、夜蛾学長?」

 

『っオマエは…』

 

「今すぐ政府に連絡付けて、総理大臣から折り返し電話させてや」

 

『…まるで話がわからん。一体、何を言ってる?』

 

いきなり告げられた要求に対する反応は、戸惑い。

 

「状況説明してもええけど、絶対後悔するからな? これ一般回線やで?」

 

『いきなり政府、それも総理と話せる訳がないだろう。状況だの回線だの、何を言ってる』

 

「じゃあ、深呼吸してから、よーーーく聞けや。呪詛師扱いするんやったら、呪詛の使い方教えたるわ。総監部ごときが責任とれる話とちゃうぞ」

 

青年の口元は、手の込んだいたずらを仕掛ける子供の様に笑っている。

 

 

その時、彼は視線を落として下を指差した。

当然電話相手には見えないだろう。その先は、はるか下の海だ

 

二人は空中戦のさなかに海上をかなりの速度で移動した。

たった数分で、東京湾からその出口に差し掛かるほどに。

 

「12時間以内に連絡が無い場合、および僕がなんらかの攻撃を受けた場合、交渉決裂と見なす。その時は…」

 

五条が海の上、その指の先を蒼い目で追う。

ここ横須賀の海に、彼の指の先に、ひときわ大きい船影がある。

 

 

()()()()()()()()()()()五条悟がぶっ放した(むらさき)で、()()()()()()()が撃沈される」

 

そして、呪詛は放たれた。

 

()()()()()()

 

 

 




前回結構匂わせたつもりやってんけど、海底やなくて月の方でした。
宇宙では上下左右感覚は定義次第、減速中は月は下にあるっていう感覚やね。

ドブカス手「月まで届く!」
ドブカス足「解せぬ」
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