特別特級ドブカス転生無双   作:ToZooNo

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クミヤのアトリエ〜樹海の人体錬金術師〜

ふわり、と意識が水底から引き上げられるような感覚があった。重く沈んでいた思考が、不快な浮力で現実へと押し戻される。瞼の裏で、チカチカと白い光が神経を焼くように点滅する。

次に感じたのは、背中に当たる硬質な感触。

冷たく、身体の熱を容赦なく奪っていくような無機質な寝台だ。

そして、薄い、ごわついた布が肌に触れる感触。

 

(…どこ…ここ…?)

 

薬品と鉄錆、そして埃の混じったような臭い。

それだけではない。微かに、けれど確実に鼻腔の奥を刺激する、甘ったるいような、それでいて腐敗を思わせる不快な臭気。それは禪院の家で嗅いだどの匂いとも違っていた。そこは清浄さとは無縁だが、もっと違う種類の淀みがあった。ここは、もっと生々しく、原始的な「何か」の気配が満ちている。

 

重い、まるで鉛でも仕込まれたかのような瞼を、力を込めてゆっくりと持ち上げる。

最初に視界に飛び込んできたのは、高く、薄汚れたコンクリートの天井だった。そこから裸の蛍光灯が数本ぶら下がり、頼りなく、ちらちらと瞬きながら弱々しい光を投げかけている。光の届かない隅は深い闇に沈み、空間の広さを際立たせていた。

 

(知らない…場所…)

 

最後に覚えているのは、燃えるような胸の痛み。己の身体を貫いた硬い感触と、急速に遠のいていく意識。そして、どうしようもない絶望感。

 

(刺された…? どうして? 私が…弱かったから? それとも、お父さんがいつも悪口ばかり言っていたから…?)

 

思考がそこまで至った時、真衣ははっとして自分の胸に手を当てた。

服の上からでも分かる、確かな傷跡。だが、それは瘡蓋のように固く盛り上がってはいたものの、綺麗に塞がっていた。激痛を伴ったはずの傷は、鈍い違和感だけを残して、まるで最初からそうであったかのように存在している。

 

(治ってる…? )

 

なぜ、誰が?

治療を他人に施すのは物凄く難しい高等技術のはず。

 

混乱した頭で、ゆっくりと身体を起こす。視界がぐらりと揺れ、眩暈を覚えたが、すぐに慣れた。改めて周囲を見渡す。

そこは、薄暗く、だだっ広い倉庫、あるいは工場のようだった。壁際には、用途も判然としない大型の機械や、錆びついた工具類が雑然と、しかしある種の秩序を持って並べられている。

中央付近には、異様に生々しい裸婦の彫像が作りかけのまま放置され、薄闇の中で不気味な存在感を放っていた。金属を加工するためのものだろうか、部屋の隅には古めかしい炉と、使い込まれた金床が鎮座している。空間全体が、油と鉄と、そしてあの奇妙な臭いに満たされていた。

 

そして、真衣の視線はある一点で凍り付いた。恐怖で呼吸が止まる。

天井から、太い鎖で、逆さまに吊るされた「何か」。

それは、かろうじて人型を保ってはいたが、およそ人間と呼べる状態ではなかった。

全身の皮膚が丁寧に剥ぎ取られ、赤黒い筋肉組織が剥き出しになっている。時折、ぴく、ぴくと何かの拍子に痙攣し、その度にじゅくり、と生々しい音を立てて体液が滴り落ちた。床にはその液体を集めるための漏斗と、汚れた瓶が置かれているのが見えた。

 

「あべっ…こべっ…」

意味をなさない、くぐもった呻き声が、その「何か」から漏れ聞こえてくる。

 

「ひっ…!」

 

声にならない悲鳴が喉の奥で詰まった。全身の血の気がさあっと引いていくのを感じる。手足が震え、心臓が警鐘のように激しく脈打つ。ここは、人の理性が通用する場所ではない。

悪夢だ。

いや、悪夢の方がまだましだ。

ひょっとして、自分はもう死んでいて、地獄に落ちたのだろうか。

 

なら、ここからは死んでももう逃げられない。

 

「…起きたか、ガキ」

 

その声は、すぐ側から、何の気配もなく降ってきた。

低い、嗄れた、抑揚のない声。

びくりと全身を強張らせ、真衣は恐る恐る声のした方へ顔を向けた。

 

そこに立っていたのは、黒い、油の染みた作業着を着た、スキンヘッドの男だった。

年の頃は判然としない。鋭い、感情の読めない目が、まるで品定めでもするかのように真衣をじっと見下ろしている。その瞳は、先ほど見た逆さ吊りの男の空虚さとどこか通じるものがあり、真衣の背筋を再び冷たいものが走り抜けた。

 

声が出ない。喉がからからに渇き、ただ恐怖に縛り付けられたように男を見つめ返すことしかできなかった。禪院家の人間としての、わずかばかりの矜持など、この圧倒的な異常性と暴力性の気配の前では、塵芥のように吹き飛んでしまった。

 

「ここは俺の、組屋鞣造のアトリエだ。どうだ?()()()()()()()()()溢れるいい所だろう」

 

鞣造と名乗ったその男は、真衣の怯えなど歯牙にもかけない様子で、無造作に言葉を続けた。

 

「死にかけてたところを、俺が治してやったんだぞ。ありがたく思え」

ぶっきらぼうな口調。そこには、親切心や憐憫といった感情の色は欠片も感じられない。ただ、事実を述べているだけ、というような響きがあった。

 

「…はん、てん…じゅつ、しき…?」

かろうじて、掠れた声を絞り出す。息をするのも苦しい。

 

「なんで…」

 

なぜ、こんな男がそんな術式を使えるのか。

なぜ、自分を助けたのか。疑問が次々と湧き上がるが、それを口にする力もなかった。

 

()()じゃねぇぞ」

鞣造は、まるで真衣の心の声を聞いたかのように、口の端を歪めてニヤリと笑った。その表情は、親しみとは程遠い、何か別の種類の満足感を湛えているように見えた。

 

「お前にはここで働いてもらう。なんと俺様の弟子だ。下働きからだがな」

 

「…でし…?」

鸚鵡返しに呟くのが精一杯だった。弟子? この男の?

 

「ああ」と鞣造は頷く。

 

「アトリエの掃除、道具の手入れ、材料の準備に、家畜の世話しねぇとな。…やることはいくらでもある。俺の仕事が捗るよう、せいぜい役に立て」

家畜、という言葉に、真衣の視線は無意識に天井の「何か」へと向いた。鞣造はそれに気づいたのか、ふん、と鼻を鳴らした。

 

それは命令だった。

有無を言わさぬ響きがあった。拒否すればどうなるか、想像するまでもない。

暗さに目が慣れてくると、逆さ吊りの男以外にも、この広大な空間には様々な「何か」が転がっていたり、壁に掛けられていたりするのが見えた。どれもこれも、まともな神経では作り出せないような、歪で、禍々しい異彩を放っている。

この男は、躊躇なく自分をこれらの「家畜」と同じようにするだろう。

真衣は悟った。

自分は、とんでもない場所に迷い込んでしまったのだと。

禪院家という名の、陰湿で息苦しい檻から逃げ出した先に待っていたのは、別の、もっと直接的で、濃厚で、剥き出しの狂気に満ちた場所だった。

 

だが、同時に、心のどこかで冷徹な部分が囁いていた。

生きている。自分は、まだ。

そして、ここで生き延びるためには、この男に従うしかないのだ、と。

恐怖に全身が震えていた。歯の根が合わないほどに。それでも、真衣は小さく、しかしはっきりと頷いた。視線を鞣造の足元に落としたまま。

 

「…わかり、ました…」

 

「ほう。物分かりがいいじゃねぇか」

鞣造の声には、わずかに意外そうな響きが混じった。だが、それも一瞬のこと。すぐに興味を失ったように、彼は踵を返した。

「なら、さっそく仕事だ。そこの床、汚ぇだろ。掃除しとけ。道具はそっちの棚にある」

男が無造作に指差した先には、壁際に立てかけられた、埃をかぶった古いバケツと、固く絞られたような雑巾が見えた。

 

真衣は、まだ少し覚束ない足取りで、ゆっくりと寝台から降り立った。床に足をつけると、ひやりとしたコンクリートの感触が、足の裏からじわりと全身に伝わってくる。まるで、この場所の冷たさが身体に染み込んでくるようだ。

貸し与えられたらしい、ぶかぶかの作業着の裾を引きずりながら、言われた通りに掃除道具を取りに行く。バケツは重く、雑巾は乾いてごわごわしていた。床には、黒ずんだシミがいくつもこびりついている。それがただの汚れなのか、油なのか、あるいはもっと別の…想像したくない液体なのか、判別はつかなかった。

 

これからここで、この地獄の下で生きていく。

禪院真衣の、組屋鞣造のアトリエでの下働きとしての生活は、こうして始まった。異臭と、機械油の匂いと、そして得体の知れない恐怖が充満するこの場所で、彼女の新たな日々が始まった。

希望など欠片も見えない。ただ、生きるためだけに。




じゅうぞー「ガキのお守り?ミミナナのとこでいいだろ」

ドブカス「あっちはアメモードで緊張感ないからなぁ。それに構築術式持ちやで」

じゅうぞー「便利じゃねーか。なんでも作り放題か?」

ドブカス「呪力ミジンコやけどな」

じゅうぞー「なら使い方工夫しねーとだな。たっぷりインスピレーション与えて…」ぶつぶつ…

ドブカス「ほな、よろしくー」

ドブカス、じゅうぞー「「評価、感想よろしくね♥」」
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