それは子供どうしの他愛もないやりとり。
公園の一隅で、春の日差しが優しく木々を照らしている。
花々が咲き乱れる中、二人の子供が木の下の砂場でこそこそと話している。
周りは子供たちの歓声や親たちの笑い声で賑わっているが、彼らにはそれが遠く感じられる。
「誕生日おめでとう」
と少女は、小さな手で丁寧に包まれた箱を差し出す。
少年の目は期待で輝き、手の中で箱が軽く震える。
「やったぁ!!開けていい?」
彼は、無邪気で満面の笑顔で訊く。
声は興奮で少しだけ高くなっている。
「いいよ」
と少女は、慈愛に満ちた目で彼を見つめる。
彼女の手は彼の手を温かく包み込む。
「開けていい??」
彼はまだ半信半疑で、目を輝かせながら再確認する。
「いいってば」と彼女は、小さくても愛情のこもった笑顔で頷く。
彼は慎重にリボンを解き、箱の蓋を開ける。
中には、金色に輝くプラスチックの指輪が。
「ゆびわ?」
彼は目を丸くし、その指輪を光にかざす。
そこには嬉しさと少しの戸惑いがある。
まだ、少年にはその意味を深く理解するほど、そういったこと、に興味や関心が高くはなかったのだろう。
「婚約指輪」
と彼女は、自信に満ちた表情で誇らしげに、はっきりと言う。
これ以上ない意思表示。
にも関わらず少年はいまだにピンとこない。
「こんにゃく?」
彼は首を傾げ言葉の意味を重ねて問いかける。
「約束だよ。大人になったら、結婚するの」
と彼女は、懇切丁寧に、少年でも意味をきっちりと理解できるように説明する。
指輪を持った手に小指を差し出して、将来の約束を求める。
無邪気な笑顔で未来を夢見る二人の子供。
叶う事もあれば、叶わない事もある、他愛のない、しかしその時の当人にとっては、重大な、若い約束。
少年は、その瞬間を見てしまった。
横断歩道を渡ろうとする少女に向かって、信号も速度制限も無視した大きなダンプカーが突っ込んでいくのを。
世界がその瞬間凍ったように、全身に寒気が走った。
叫び声すらも、間に合わない。
その瞬間を引き延ばすように見ていたからこそ、分かる。
その瞬間まで、そこには少女しか居なかった。
ところが、少年と少女より少し年上の和装の少年が、突然そこに割り込んで現れた。
そして、次の瞬間に暴走していた車が消え失せた。
ぺいっとその和装金髪の少年が何かを放り投げる。
「リカちゃん!!!!!」
少年の叫び声が、周囲の時間が、ようやくその事態に追いついた。
「へっ、あっあれ!?」
リカと呼ばれた少女は、狐につままれたような顔で辺りを見回した。
その時、パリンと、どこかで現実が割れる音がして、暴走していたダンプカーが再び現れた。
少女と、人を化かしそうな狐の目をした少年を通り越した場所で。
その車はブレーキを踏んではいたようで、キィーーっと耳障りな音を立てて、盛大にオーバーランしながら減速していた。
止まったのは交差点から何十メートルも先だ。
道路脇からは危険な運転に対するヤジが飛んでいる。
「だいじょうぶ!?ケガは?」
駆け寄った少年は、まだ信じられないように少女の身体を触って無事を確かめる。
「う、うん大丈夫よ。憂太」
少女は、少し顔を赤らめながら、嬉しそうにそれに答えた。
「感動もええけど、さっさと渡った方がええで。もうすぐ信号変わるから」
街中の横断歩道で幼いラブコメを繰り広げる二人を見かねた様子の、狐目の少年が声をかけた。
この辺りでは少し珍しい、癖の強い関西弁だった。
「あ、は、はい」
憂太はリカちゃんの手を握って引くと、横断歩道を足早に渡り切った。
そして振り返ると、深々と頭を下げた。
「あの、ありがとうございます!!」
少年は、見たことがまだ全ては理解できていなかった。
それでも、この人が彼の幼馴染、兼婚約者を救ってくれた事は間違い無さそうだった。
「どういたしまして。かわりに、君の中に眠るすごいパワーが欲しいっていったらどないする?」
金髪狐目の少年はお代を要求するように、手を差し出した。
「すごいパワーって、さっき、お兄さんがいきなり現れて車を消しちゃったみたいな?僕にもあるんですか?」
憂太が尋ねると、少年は強く頷いた。
「せやで。凄い力がある。僕以上かもな」
唐突な事を言い出した少年に対してやや警戒の色を浮かべ始める少女とは裏腹に、少年は唐突に明かされ始めた謎のパワーに対する興味を隠せない。
しかし、少年は何も迷うことなく、その手を握り返した。ぎゅっと強く。
「もちろん、どうぞ!そんなことでお礼になるなら!」
「っ」
びくり、と握った手が震えると、確かに、なにか、熱いような冷たいような、先ほど事故を目撃した瞬間に世界をみたしていたような何か、が、流れ出すのを感じた。
狐目の少年も、憂太少年も、己の手を思わずと言った感じで見つめていた。
「アカンなぁ」
「え、だめでしたか!?」
ちいさく呟かれた否定の言葉に、動揺する憂太に対して、返答は真逆のものだった。
「いや、こら貰い過ぎて悪い詐欺師になった気分や」
「ねえ、憂太、この人大丈夫!?」
自分の事を詐欺師呼ばわりし始めた狐目の、怪しげな風体の少年に、黙って流れを見守っていたリカちゃんが、とうとう口を出さずには居られなくなった。
「だ、大丈夫だよ。僕はなんともないし」
「わいの好きな医者の漫画でな、腕利きの主人公陣営に、めちゃめちゃ難しくて失敗の可能性が高い患者を紹介する謀略好きのオッサンが出てくるねん」
そして狐目の少年はまた唐突によくわからない話を始めた。
ふつうの小さい子供は医療漫画を読まない。
「は、はあ」
「でもな、そのオッサンがこう言うねん。確かに失敗したらしたでそのオッサンは得する。でもワンチャンその患者が助かる見込みを見出してるから紹介したし、だから、主人公陣営もそれを受けざるを得ん。成功するならするでそれでもええ。謀略家である事と、まっとうな医者である事は、矛盾せえへんってな」
「嫌な人なんだか、いい人なんだか」
年のわりには少しませたリカちゃんはそういう駆け引きの話に多少はついていける。
「僕はまっとうで狡いこのオッサン好きやねん。ま、なんの話やって顔してるな」
はは、と少年は嗤って、
「君は舞台に上がらんでも良くなった。でも、舞台に上がる力は持っとる。どうするかは、将来君が決めたらええよ。乙骨憂太クン」
教えていないはずのフルネームを口にして、現れた時と同じく煙の様に消え去った。
一人の命助ける対価の最大化が出来そうなシチュ
わいの心の日下部さんが「旨すぎる!!」って叫び声挙げながらタップダンス踊ってまうで。