女エルフに異世界転生して親友(勇者候補)と再会する話   作:エイジアモン

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12.宿泊

 

 5日振りに宿に戻ってきた。

 

 カズヤと一緒に部屋に入り、荷物なんかはその辺に置いてリビングのソファーに座る、やはり高級宿だけあってソファーの座り心地も良い。

 柔らかいソファーに身体が沈み込み、そのまま身体を全部預けたい欲求に私は負け、ソファーに身を委ねた。

 

 

 

「おいミキ、そろそろ晩飯行くぞ、起きろ」

 

「ん……?」

 

 身体を揺すられて目が覚める。

 どうやらソファーの心地良さに負けてそのまま眠ってしまったみたいだ。

 そして、ソファーとは別に横の何かに寄りかかって寝ていたようだった。

 

 まさか!?

 

 パチッと目を開けて右隣を見ると程近い距離にカズヤの顔があって、いつもの微笑みを向けている。

 ソファーに座りながら、カズヤに身体を、頭を預けて眠っている態勢だった。

 更に右手はカズヤの手を握っていた。

 パッと手を放し、距離を離した。

 

「カズヤお前!なんでそこに居るんだ!そっちのソファーだっただろ!」

 

 正面のソファーを指差す、そうだ、私が寝る前まではそっちに座っていたはずだった。

 

「ミキがソファーに座ってすぐ寝ちゃったからな、隣に座ったら俺の方に身体を預けてきてくれて嬉しかったなあ。それに寝ているミキは金髪が少し乱れてて、いつにも増して綺麗で凄く可愛かったぞ!」

 

 なんで隣に移動してんだ!それに私から身体を預けただって!?

 い、いや、仮にそうだとしてもだ、手を握ってた!何かしてるんじゃないのか!?

 

「お、お前まさか!何かしてないだろうな!……勝手に手を握りやがって!」

 

「おいおい、俺を信用してくれよ、俺は隣に座っただけで一切手は出してないぞ。それに手はミキから握ってきたんだ、俺からじゃない。寝てるミキに俺がそんな事をするような人間に見えるか?もしそうならとっくに朝寝てるところを襲ってるよ」

 

 う、……うん、確かに。

 カズヤはいつも朝は眺めるだけで手を出しては来なかった。

 それに思い返すとカズヤが手を握っているんじゃなくて、私がカズヤの手を握っていた。

 という事は本当に寝てる私がカズヤの手を握ったのか?……寝てる時だし、それくらいはある……かも?

 

「俺は寝てるミキに勝手に手を出したりはしない!」

 

 そう宣言した。

 そうだな、そう言うならカズヤを信じよう、寝てる時は手は出さない、うん。

 

「……分かった、カズヤを信じる」

 

 そう言った直後、疑問が。

 あれ?わざわざ寝てる時と言うって事は

 

「起きてる時は?」

 

「そこ気付いちゃったか~」

 

 カズヤは立ち上がり腕を組み

 

「手を出す!」

 

 堂々と言い放った。

 

「おい!」

 

 思わずツッコミを入れる、堂々と言う事か!

 

「待て忘れるな、ミキが"嫌"といえば止めるって、前にそう言っただろ?」

 

 言われて思い出す、そういえばそんな約束だった、"嫌"だと言えば良いんだ。

 

「あー、そうだった、そういえばそうだったな」

 

「そういう事、じゃあ飯行こうか」

 

 そう言って、さり気なく私の手を取り、引っ張り起こした。

 そこまでは良い、だけどそのまま手を繋ぎっぱなしになっている。

 

「い、嫌だ」

 

 手を離す。

 

「え?ダメ?そっかあ残念、さっきまで握っててくれたのになあ」

 

 あっさりとカズヤは手を引っ込め、残念そうに呟いた。

 手を繋ぐってのはこう……家族であったり恋人であったり、そういう人とするもんだろ。

 

◇◆◇

 

 というわけで宿を出て晩飯を済ませる。

 宿も事前に話しておけばご飯が準備されるらしいけど、高いので頼む気はない。

 

 そして宿に戻ってきて、さてそろそろ風呂に入ろうかという話になった。

 

「先入ってて良いぞ、俺は武具のメンテナンスがあるから後で良い」

 

 カズヤは剣や軽装の装備を取り出し、メンテナンスを始めた。

 

「じゃあ久しぶりの風呂に入ろうかな~、カズヤ、お先に!」

 

 一般的な冒険者が泊まる宿や一般の人は風呂は無く、お湯で濡らした布で身体を拭くのが一般的だ。

 エルフの里では自宅にも、さらに公共風呂があり、常に暖かいお湯で満たされ、いつでも入る事が出来た、魔導具の力だ。

 そしてこの宿も前世のように暖かい風呂に入る事が出来る。

 多分何処かに魔導具があって、そこからお湯を供給しているのだろう。

 

 髪をまとめ、湯船に浸かり、身体を伸ばす。

 広い湯船だった、大人2人が入ってもまだ余裕がありそうなくらいだ、さすが高級宿。

 ゆったりと湯船に浸かり、久しぶりに身体の芯から温まる感覚に浸った。

 

 

 風呂を上がり、備え付けのバスローブを着る。

 うん、ゆったりしてて着心地は悪くない、それにこれならすぐに脱げるだろうし。

 

「おーい、風呂上がったぞー。広くてゆったり出来て最高だった、カズヤも早く入れよ」

 

 カズヤは丁度メンテナンスが終わったのか装備を片付けている最中だった。

 

「おう、って湯上がりバスローブ姿も色っぽくて良いな」

 

「いらん事言ってないではよ入れ」

 

 そういうとカズヤはやれやれと手を広げた。

 

「いーや、これは大事な事だぞ、ミキの艶姿を俺の網膜と脳に焼き付ける、というな」

 

 と言って私に近づいた、腰と顎に手を当て、身を乗り出して足元から舐めるように頭の先までじっくりと観察している。

 

「それがいらん事だ。はよ行け」

 

 カズヤの頭をぽこんとはたき、早く風呂に行く様に促す。

 

 

 暫くして、カズヤも風呂から上がって来た。

 結構な長風呂で、その身体からは湯気が立ち昇っていてホカホカしている様が見えた。

 そして私はバスローブ一枚で少し湯冷めしていた。

 

「久々の風呂は最高だな、でも身体が温まり過ぎてアチィ」

 

「随分と長風呂だったな、そんなに気持ち良かったか?」

 

「ああ、俺が大の字になっても狭く感じない風呂なんて中々ないからな、広い風呂を1人で独占出来るのは初めてかもしれん。至福の時間だった」

 

「湯船広くて良いよなあ」

 

「ああ、次は一緒に入ろうな」

 

 少し考える、里では公共風呂が混浴でみんな裸で入っていた。

 でもだからと言って。

 

「いや入らないからな?」

 

「残念、でも諦めないからな」

 

「ねーよ、それじゃ寝るぞ」

 

 寝るように促す、するとカズヤが両手を合わせてごめん、とジェスチャーした。

 

「すまん、まだ身体が熱すぎて、少し冷ましてからで良い?」

 

 それだけホカホカしてればそうだろうな、でも私はずっと待ってて少し湯冷めしている。

 もうこれ以上は待てないから先にベッドに入って寝る事にしよう。

 

「もう湯冷めしてるから先に寝る、……約束はちゃんと守れよ」

 

 そう念押しだけして、1人で寝室へと向かった。

 

◇◆◇

 

 寝室に入り、念の為に結界を張る、カズヤだけを通す結界だ。

 そしてバスローブを脱ぎ、寝間着に着替える。

 これからまた、半年前の様にカズヤと一緒にベッドで寝るのだ。

 そう考えると、段々と恥ずかしさが湧き上がってくる。

 

 待て待て、別に一緒に寝るからと言って何かをするわけじゃない、ただ単に、一緒のベッドで寝るだけなんだ。

 何もしない。カズヤもそう言ってくれたじゃ無いか。

 私はカズヤを信じてる、……だけど、だけど!

 

 ……うん、考えても仕方がない、一緒に寝る事は受け入れたんだ、覚悟を決めよう。

 キングサイズのベッドに潜り込み、少し端のほうに寄って身体を伸ばした。

 

 ベッドは程よい柔らかさと硬さ、それにシーツの質感も良く、掛け布団も手触りが良かった。

 ああ、これで裸で寝られればどんなに気持ち良い事か、一人用の寝室だったら良かったのに。

 

 そんな事を考えながらも、私はすぐにすうすうと寝息を立てて眠りについた。

 

◇◆◇

 

 翌朝、カズヤに起こされる。

 起きた位置はベッドの中央、寝る時は端に寄っていたはずだけど、まあ私の寝相は余り良くないし、こんなものだろう。

 

「カズヤ、おはよう。何もしてないだろうな?」

 

 それを聞いたカズヤは呆れたように首に手を当て返事をした。

 

「開口一番それかよ……あのな、俺からは何もしてねーよ。むしろ………………いや、何でもない」

 

 その後半の声は小さく、よく聞き取れなかった。

 まだ寝ぼけていて頭が回っていないようだ。

 

「なんだよ~、やっぱり何かあったのか~?」

 

「いや、何にもない、俺は何もしていない。分かったらさっさと起きて着替えろ、飯行くぞ」

 

 そう言ってカズヤは手を差し出す。

 その手を取り、ベッドからふらふらと立ち上がって手を放すとカズヤはそのまま私を優しく抱きしめてきた。

 寝起きという事もあり反応出来ず、カズヤに包まれ、その心地良く安心出来る場所に私はそのまま抱きついてしまった。

 

 数瞬の後、自分が何をしているか、何をされているかを遅れて認識し、慌てて手を放し、両手でカズヤを押し返そうとする。

 しかしカズヤはビクともしない、……なんで放してくれないのか、そう思った。

 

 カズヤは小さな声で呟く。

 

「……ミキが悪いんだからな」

 

 一体私が何をしたと言うのだろうか、何を言っているのか。

 寝起きといきなり抱きしめられて軽くパニックになっている頭がようやく回り始めた。

 そうだった、あの言葉を発しなければ!そこにやっと辿り着いた。

 

「い、嫌だ!放して!」

 

 やっとそう言うとカズヤは、いともあっさりと手放してくれた。

 そして私が文句を言う前にカズヤは言った。

 

「ふらふらしてたからな、危ないと思って抱きしめた。もう大丈夫か?」

 

 あ、そうか、確かに少しふらふらしていた、だけど、それは、口実だろ?……でもまあ良いや。

 昨日カズヤは手を出すと言った、その通りにしてるだけだ。

 

 それに本当に嫌ならそういう事も行為も含めて全て止めてくれと言えば良いはず。

 だけどそれは言わない、それを言ったら完全な拒絶となり、私たちの関係は終わる。

 だけど果たして……本当にそれだけが理由だろうか?

 

 心の何処かにカズヤの抱擁を受け入れたい自分もいる。

 あの心地良い場所に収まりたい、その気持ちはつまり、少しはそういう感情が湧いたという事なのだろうか。

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