女エルフに異世界転生して親友(勇者候補)と再会する話   作:エイジアモン

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8.勇者カズヤの誕生

 

 ギルドの広間を見下ろす場所に、ギルド長とカズヤ、そして私が並ぶ。

 

 そして、ギルド長がギルドのフロアに向けて、勇者マーシュが誕生した事を告げられた。

 

 ──トルク村出身のシリンダールの勇者マーシュ

 

 それがカズヤの看板だった。

 これで今後のカズヤの活躍によって、トルク村の誇りとシリンダールの名誉となり、この冒険者ギルドもカズヤを輩出したギルドとして名をあげる事になるだろう。

 

 冒険者たちの歓声が上がる、勇者でなくてもBランク冒険者ともなれば他の冒険者から一目置かれる存在となる。

 そしてそれが若き勇者ともなれば嫉妬するより期待が上回る。

 それにカズヤは人付き合いが上手く、冒険者連中とも良い距離感を保っている。

 

「みんな!ありがとう!俺は勇者として、──」

 

 カズヤに突然引き寄せられる。

 急な事に抵抗出来ず、そのままカズヤの胸元へと抱き寄せられた。

 

「俺のミキと共に魔王を倒して見せる!!」

 

「ッ!?」

 

 いつもなら"俺のミキ"なんて言われたら反論をしているのだけど、この場でそれを言うのは憚られた。

 おめでたい場なのだ、それに水を差すような事はせず、今回だけは見逃してやろうと思う。

 

 それはそれとして、抱き寄せられた身体を解こうと力を入れたけど、カズヤはビクともしなかった。

 力強く、私の腕力なんかでは抵抗出来ない、岩のような硬さと厚みを感じた。

 だけど何も抵抗しないのはしゃくなので顔だけ上げてカズヤをキッ!と睨みつけた。

 

 カズヤはそれに対し、いつもの人懐っこい笑顔で返すだけだった。

 

 くっそ、こいつ……、と思ったけど、どうしようもないので諦めて大人しくする事にした。

 

 私が抵抗する力を抜くと、カズヤも身体から力を抜くのを感じる。

 するとさっきまでの硬くて厚い岩のような筋肉の塊が、質の違う筋肉へと変わったのだ。

 まるで違う感触に私は驚いた。

 そしてそれは芯のある柔らかく暖かいものに包まれているように感じ、心休まる居心地の良さを感じてしまった。

 

 カズヤの心臓の鼓動が伝わってきて、それは早く鳴り打ち、カズヤが緊張している事が分かった。

 カズヤの胸の内でそれを感じていると、"俺の"と言ったことも、抱き寄せられた事も、今回だけは許してやるか、という気になった。

 

 しかし──

 

「おいおい!"俺の"なんて言うとまたクレールにどやされるぞ!!」

 

 冒険者からそんな声が上がり、ドッと笑いが起きる。

 

 ……余計な事を言うんじゃない。

 折角許してやろうと思っていたのに、ここで胸に抱かれたままだと本当に"俺の"になったと思われかねないじゃないか。

 

 私はその居心地の良い場所から、後ろ髪引かれながらも無言で両手で押し返すように身体を放した。

 その時はカズヤも力を込めたりはせず、そのまま放してくれた。

 

「ほらみろ!調子に乗るからだ!」

 

 そんな声が聞こえてくる。

 いやお前らがそうさせたんだからな?

 

「クレールがムクレてるじゃないか!」

「あ~あ、また後で怒られるぞ!」

 

 え?

 その声で気付いたけど、どうやら私は不機嫌な顔だったらしい。

 自分では全く分からなかった。そしてその不機嫌な原因は多分、カズヤじゃなくて──。

 

「カズヤには後でちゃんと言っとくから!みんなも協力頼む!」

 

 この場ではそうするのが良いと判断した。

 みんなも悪気があったわけじゃない、むしろいつもそう対応している私の問題だ。

 

「任しとけ!」「協力出来る事があったら何でも言ってくれよ!」「クレール!俺と付き合ってくれ!」

 

 そんな感じの反応を貰い、極上のスマイルで返した。

 さらに歓声が上がる。私の人気も中々のものじゃないか。

 

 横でカズヤが「誰がお前にやるか!」「お前には言ってねえ!」とやりあっている。

 

 少しして、ギルド長がゴホンと咳払いした。

 

「そういうわけで、この街から勇者が誕生した。ギルドも街も、勇者マーシュに協力体制を敷くから、お前らも頼むぜ、ちゃんと褒美は弾むからな!」

 

 そう言って、最後に大盛りあがりをみせて勇者のお披露目は終わった。

 

◇◆◇

 

 その日の晩は街の大食堂で大宴会となった。

 どうやら街から勇者が出た、という事で街の領主からギルドに報酬が出たらしい。

 

 いやしかし……勇者が出ただけだと言うのにこんなに大騒ぎになるもんだったのか……。

 まあ確かに、この国で数人しかいないとなれば、それだけでも凄い事ではあるのか。

 それに活躍でもしようものなら国からだって何かあるだろうし、そういうものなんだろう。

 

 それにしてもカズヤが勇者かあ、前世では異世界転生したら冒険者やってハーレムパーティでスローライフが良いよな、なんて言っていたのに、それが勇者になっちゃって、ハーレムどころか私一途とか言ってるし、スローライフから真逆の魔王討伐なんて責任重大な事を任されて、随分と違う事になってるじゃないか。

 漫画やアニメみたいなチート能力があるわけでもないし、大変だぞ。

 

 カズヤの方を見ると領主との挨拶がやっと終わり、今は他の偉い人たちに挨拶回りをしている。

 

 その日の夜、主役であるカズヤは忙しそうに各テーブルを回って挨拶したり、仲間と飲んだり、お偉いさんと飲んだり、女性陣の愚痴に付き合わされたり、私に言い寄ってくる男を払い除けたり、本当に忙しそうだった。

 

 そして酒が全く効かない私はというと、シラフでここに居るのも飽きてきた。

 

 カズヤに声を掛けるとどうやら2次会があるらしく、悪いけど先に帰っててくれと言われる。

 そういう事ならと、先に帰る事をカズヤに告げると、やっぱり宿まで送る、と言われたけど主役が抜けるわけにいかないだろうと押し返し、1人で宿に戻った。

 

 

 この宿も今日が最後だ。

 明日からはもっといい宿を準備してくれるらしい、勇者様御一行だからと。

 正直ここはお世辞にも良い宿ではないし、後で観光客なんかが、勇者が泊まった宿はここかあ……となるよりは、良い宿に泊まってもらったほうが街としても箔が付く、という事なのだろう。

 あのカズ……マーシュ勇者が拠点として泊まった宿! てな具合にだ。

 

 

 さて、私はある事を考えていた。

 カズヤは久しぶりに飲み明かしていて、きっと明日は二日酔いでまともに朝は起きられないだろう。

 となるとだ、私のほうが早く起きるはずだ、間違い無く。

 

 つまり何が言いたいかというと、今日は久しぶりに裸で寝られるんじゃないかという事だ。

 いそいそと服を脱ぎ、全裸になってお気に入りの掛け布団を魔法袋から取り出し、横になる。

 

 ああ、約半年ぶりの開放感だ、身体を締め付けるものが何もなく、布団のぬくもりや感触を肌で直接感じられるのは最高だ。

 やっぱり寝る時は裸が一番!基本に帰ろう裸に返ろう、Back to Basics ってやつだ。

 

 その日の夜、久しぶりにすっきり気持ち良く、ぐっすりと快眠が出来た。

 

◇◆◇

 

 朝、パチッと目が覚める。

 すこぶる体調が良い、いつものまどろみに浸りたくなるような眠気は無く、頭がスッキリしている。

 こんな朝を迎えられるなら、これからも時々は裸で寝ようと誓ったのだった。

 

 ふと、視線を感じた。

 ……カズヤはまだ眠っているはずだ、二日酔いのはずだ。そう思った。

 

 そおっと視線の元を辿ると、そこにカズヤが仁王立ちして、じっと私の身体に見っていた。

 私の掛け布団はいつもの様に私の寝相で剥がしていて、カズヤの眼には私の全裸が映っているだろう。

 

「おはよう、カズヤ」

 

「……」

 

「おい、返事くらいしろ」

 

「……」

 

「おい!」

 

 そう言って、枕をカズヤに投げる。

 だが、それを避けようともせず、ぶつけられてもカズヤは微動だにしなかった。

 そしてやっと一言。

 

「綺麗だ……」

 

「カズヤお前な」

 

「本当だ、本当に凄く綺麗だ。半年ぶりに見てあらためて分かった。俺はこれでも結構な数の女の裸を見てきたけどここまで綺麗で整っている裸体は見た事が無い!人間の女じゃ絶対に勝てないって分かる。ミキの裸体の価値は数多の宝石を超える!まずその曲線美!曲線の美しさだけでも宝石を超えるのに様々な曲線が合わさり少し身じろぎするだけでも曲線美の変化を楽しめさらにそれを見ただけで張りと柔らかさが伝わってくる!そして白い肌艶のきめ細かさと輝き!これも宝石の輝きを超えている!さらにその希少性はエルフでそのスタイルで肌艶でどれだけの宝石が集まってもミキを超える事は出来ない!それぐらい至高の綺麗さだ!いや綺麗という言葉では言い表わせない!他にも比較するなら──」

 

 めっちゃ早口になるじゃん。

 私への好意による贔屓目があるとしても、とにかくめっちゃ褒めてくれてるのは分かる。

 そしてそれだけの熱弁で勢いよく早口で喋っているのに視線は私の身体から離さない。

 

 まだ熱弁は続くがもう良いだろう。

 両手をパチンと叩き合わせて目を覚まさせる。

 

「はいそこまで!カズヤ、おはよう」

 

 ハッと我に返ったカズヤは、恥ずかしそうにやっと挨拶を返した。

 

「あ、ミキ、……おはよう」

 

「久しぶりの私の裸、堪能したか?」

 

 少し意地悪のつもりで聞いてみた。

 

「いや凄いよ、全然見足りない、完全に魅入られたよ、もっと、ずっと見ていたい。それに──」

 

 熱弁が再開された。

 しまった、悪手じゃったか。

 慌ててカズヤを止めた。

 

「ストップストップ!ごめんごめん、もう分かったから、な?」

 

「え?そう?もっといくらでもミキの身体を褒め称える事は出来るけど、聞かない?」

 

 おいおい、勘弁してくれよ。

 

「うん、もう大丈夫、伝わった、伝わったから、もう良いから」

 

「そっか、分かった、じゃあ続きはそのうちな」

 

 いや、もう良いです、お腹一杯です。

 

「ところで、昨日あんだけ飲んだのに平気なんだな、そんなに酒に強かったっけ?」

 

 想定では二日酔いのはずだ、そうじゃなくても昨日は遅かっただろうからこんなに朝が早いはずがない。

 

「いや、実際さっきまでは頭ガンガンだったんだけど、ミキの裸みたら全部吹っ飛んだ。回復魔法かな?」

 

「なわけねーだろ!降りてくから下で待ってろ」

 

「おう、先行ってるわ」

 

 折角の良い目覚めだったのに……。

 まあいいや、相変わらず体調はすこぶる良いし、服を着るとしよう。

 

 そして私とカズヤは朝食を済ませて宿のチェックアウトをすませた。

 約半年の間、お世話になりました。

 

 それから私たちはその足で新しい宿へと向かうのだった。 

 

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