―アラガミ…「神」の名を冠する人類の天敵。
2060年代、世界に突如として発生した「オラクル細胞」。それは地球上のありとあらゆる対象を「捕食」しながら急激な変化を遂げ、多様な生物体として分化し、成長を続けながら人類を追いやり、やがて大部分の都市文明は短期間のうちに崩壊していった。
通常兵器の全く通用しないこの強力な力を前に、いつしか人々は極東に伝わる八百万の神々になぞらえて、「アラガミ」と呼ぶようになった。
…………
………
……
…2074年、フェンリル極東支部。
エントランスの一角にあるソファーの上に横たわる一人の男が居た。
照明の光を遮るように顔を腕で覆いながら、仰向けで寝そべる彼の鼻と口からは盛大なイビキが鳴り響いていた。
そこへ、一人の少女が呆れた表情を浮かべながら、ソファーで眠る彼に近づいた。
「ハァ…いつまでも来ないと思ったらやっぱり。真嶌さん!起きてください!任務の時間です!」
少女に声を掛けられながら揺さぶられ、彼はようやく身を起こした。
露わになった左目には眼帯が装着されていた。
「…ぁン?どないしたんやエリナちゃん?」
「どないした、じゃ無くて!今日は午後から
「あぁ…せや。すっかり忘れとったわ」
「もう!」
悪びれる様子も無い態度に憤るエリナの頭にポンと手を乗せ真嶌は立ち上がった。
「まぁまぁ、そない怒りなや。まだ一時前や、焦る必要はあらへんで」
「むぅ…もうみんな待ってますから、早く準備して来てくださいね」
そう言ってエリナは真嶌の手を払いのけると、駆け足で出撃ゲートの方へと去って行った。
「はぁ…つれないなぁ、最近の若い娘は」
ソファーに掛けてあった蛇柄のジャケットを羽織り、立ち上がった彼は階段をゆっくりと上がる。
「しゃーない…徹マン明けやけど、いっちょやったろやないかい」
寝ぼけ
………
……
…贖罪の街。
そう呼ばれるこの地は、かつて人々が身を寄せ合っていた都市の一角。
今となっては見る影も無い廃都と化し、穴だらけとなった建造物だけが墓標のように佇んでいた。
人かげなどあろうはずも無いこの地に、どこからともなく爆音が響いた。
「醜いアラガミめ!我がポラーシュターンの餌食に―ぐぁああ!?」
愛用の神機を振りかぶった直後、エミールは放たれた真空波の衝撃で返り討ちに遭った。
「エミール!前に出過ぎだって!無闇に懐に入ろうとするな!」
自重を覚えない部下を叱咤しながら、藤木コウタは猿のような見た目をしたアラガミ、コンゴウに向かって自らの神機を撃ちつづける。
顔にアサルト弾が直撃したコンゴウは怯みはするも大ダメージには至らず、反撃を試みようとコウタに向かって飛びかかった。
それを間一髪で回避したコータと入れ替わるように割って入ったエリナが、一瞬の隙を突いてコンゴウの顔面にスピアの一撃を食らわせた。
『グォオオオオオオ!?』
顔に風穴が空きそうな強烈な一撃に、コンゴウは傷口を抑えながら蹲った。
「フッ、やるじゃないか。ならば今度は僕が―」
「あ!バカ!今近づいたら…」
エリナの制止も間に合わず、再び真正面から近づいたエミールはコンゴウの太い腕で殴り飛ばされた。
「ぐっはぁあ!?」
「なんでアンタは、そう学ばないのよ!!」
悪態をつきながらエリナは神機をショットガン状態に変形させ、コンゴウに向かって散弾を撃ちこんだ。
身体に突き刺さる小さな弾丸の雨に唸りながら、コンゴウは背中のパイプを彼女の方へと向けた。
「っ!ヤバ…」
「させるかよ!!」
真空波が放たれる寸前、至近距離までコンゴウに近づいたコウタは、撃ち放ったアサルト弾を全てコンゴウの顔面に叩き込んだ。
それにより顔を結合崩壊させたコンゴウは、痛みのあまりに大きく仰け反り、地面でのたうち回る。
その隙にコウタは一旦コンゴウから距離を置き、エリナの元へ駆け寄った。
「大丈夫か!」
「ハイ!って言うかコータ隊長!共同任務の筈なのに真嶌さんは何処にいったんですか!?」
「ああ、あの人なら今もう一体の奴を相手にしてくれてるよ!」
「もう一体を一人でですか!?」
「心配要らないって、だってあの人は無茶苦茶―」
言いかけたその瞬間、二人の背後の建物の壁がけたたましい音を立てて爆発した。
何事かと振り返った二人の目の前には、全身の至る所で結合崩壊を起こしたコンゴウの堕天種が、土煙の中で力なく横たわっていた。
突然の事態に唖然とする二人。
「おうおう…エライ派手に吹き飛びよったなぁ」
そんな声が耳に飛び込んできた。
視線を向けると、崩壊した壁の中からブレード型の神機を担いだ真嶌が力尽きたコンゴウを見下ろしながら現れた。
まるで戦いに臨むものとは思えぬ気の抜けた調子で現れた真嶌を見て、引き攣ったような笑みを浮かべながらコウタは先ほどの言葉を続けた。
「無茶苦茶…ムチャクチャなんだ…」
ハハハと渇いた笑いを浮かべるコウタに対し、驚いていいのか呆れていいのか分からないエレナは未だに茫然とその様子を眺めていた。
まだ、戦いの最中である事も忘れて。
『グォオオオオ!!』
雄叫びを上げたコンゴウの咆哮に、ようやく我に返った二人は視線を戻す。
するとそこには、怒りによって活性化したコンゴウが二人に向かって真空波を放っていた。
「しまっ―ぐぉあ!?」
「きゃあ!?」
目に見ない衝撃が直撃した二人は、そのまま真後ろへと吹き飛ばされ真島の足もとへと倒れ込んだ。
それを目にしたエミールは、
「おのれ!よくも二人を!」
と憤りに任せて突撃するも、
「食らうが良い、我が至高―のぁああああ!?」
再び返り討ちに遭っていた。
「なーんや、まーだやってるんかいな」
呆れたように肩を竦め、真嶌は他人事のように呟いた。
「く…だったら手伝ってくれれば良いじゃないですか!」
「ワシが手伝ったら、おのれらの為にならへんやろが」
「こ、これは訓練じゃなくて任務―」
やる気を見せない真嶌に食って掛かろうとするエリナをスッと手で制して、コウタが代わりに続けた。
「お願いしますよ真嶌さん。ちょっと俺ら、まだ成長途中で…」
「む…せやけどなぁ」
顎に手をあてて悩む素振りをしながら、真嶌は一瞬黙った。
だが今は戦いの途中。そんなこちらの都合など気遣う訳も無く、三人に向かってコンゴウは空中回転しながら猛スピードで突進を仕掛けてきた。
それに気づいたコウタとエリナは、咄嗟に盾を構えて防御しようとした。
が、この男は違った。
防御姿勢に移った二人の間をすり抜け、神機をバットのように構えると、
「まだ話しとる途中やろがぁボケぇ!!」
そう怒鳴りながら飛んで来たコンゴウをボールのように打ち返した。
打ち返されたコンゴウは放物線を描いて10メートル近く吹っ飛んだ。
神機で攻撃を打ち返すなどと言う出鱈目な出来事に、エミールは目を輝かせて感嘆の声を漏らし、コウタはまたまた呆れた笑みを浮かべ、エリナは再び開いた口が塞がらない状態になっていた。
三者三様のリアクションに満足したのか、口元をにやつかせた真嶌が振り返りながら言った。
「しゃーないなぁ…せやけど自分らもキッチリ働きや」
小馬鹿にしたような言い方にカチンときたのか、にやつく真嶌を睨みながらエリナは言った。
「と、当然です!これは元々、私たちの任務なんですから!」
呆けた顔をキッと引き締め、エリナはその場から立ち上がり神機を構えた。
それを見たコウタとエミールも、呼応するように神機を構える。
一層気を引き締めた若者たちを瞥見して、真嶌は嬉しそうにしながらコンゴウへと向き直る。
「ええのぉ…これやから辞められへんねん、この仕事は…よっしゃ!ちゃっちゃと片付けるでぇ!」
真嶌の一声を合図に、第一部隊の三人は一斉に駆け出す。
狙いを定め、得物を手に敵へと向かう。
まだ青くも勇ましいその背中を見ながら、彼も追うように駆け出した。
…歴戦の古兵、
如何でしたでしょうか?
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作者のハートがブレイクしてしまうので…