「…ハイ、分かりました。すぐに出動している方々にも連絡します」
そう言ってヒバリは通信を切った。
そしてため息を吐きながら浮かない顔で現在出撃しているメンバーを確認する。
「…また、赤い雨」
思わずそう呟いた。
赤い雨…ここ最近、極東地方で確認されるようになった異常現象。降る直前には「赤乱雲」と呼ばれる雲が発生し、それが確認されると30分以内にその雨が降り始めるという。
今の通信は、その赤乱雲が発生したとの連絡だった。
ヒバリはメンバーの確認を急ぐ。
幸い現在出撃している神機使いは一組だけで、しかも既に任務を終えて帰投中との事だった。
その事に安心していると、
「やれやれ、やっと帰って来れたわ」
そんな声がエントランスに響いた。
目を向けると、丁度彼女が確認していたメンバーがゲートから帰って来たところだった。
「おかえりなさい、みなさん!」
「おうヒバリちゃん!ただいまっと…」
笑顔で出迎えてくれたヒバリに、真嶌も笑顔で返す。
すると真嶌はそのままソファーにドカッと座り、身体をほぐすように大きく伸びをした。
「いやーホンマ、ただの付き添いのつもりがエライ時間掛かってしもたわ」
「真嶌さん、今日はすいません」
「かまへんかまへん、新しいチームで初めての中型やろ?俺かて若い子らの背中見て、初心思い出さしてもろたさかいな」
礼を言うコータにそう返すと、真嶌はコウタの後ろに立つエミールとエリナに目を向けた。
「せやけどエミールちゃんは頭使わななぁ…何でもかんでも真正面から行くだけやったらイノシシと一緒やで」
「クッ…ですが騎士を目指す者として、背後を狙うなどと言う卑怯な真似は僕には出来ない!」
「その根性は嫌いやないねんけどなぁ…で、エリナちゃん」
「ハイ?」
「初めての中型で気が逸るんも分かるけど、もうちょい落ち着かなアカンで」
「な!私はいつも通りでした!確かに初めての中型種で少し緊張はしてましたけど…って言うかそれを言うなら真嶌さん!戦闘中に変なこと言うのやめてもらえませんか!」
「変なことて何がや?俺はただ自分らにアドバイスをやな…」
「相手を引きつけるのに“おいでおいでせぇ”って何なんですか!?具体的に何したらいいか全く分からないんですけど」
「むぅ…若い子らにも分かりやすう言うたつもりやねんけどなぁ」
「あと仲間の射線上には気を付けるのが当然なのに、なんで撃ってる人の前に平気で来るんですか!撃たれるとか思わないんですか!?」
「俺は斬り込むしか出来ひんさかいな。チャンスがあったら飛び込むンは当たり前やろ」
「当たったらどうするんですか!?」
「そこは自分らの腕の見せ所やないかい」
「真正面に立たれて撃てるわけ無いじゃない!」
「まあ落ち着くんだエリナ。アドバイスとは受け取る者の解釈次第。彼の言う通り実際においでおいでと相手を手招きするのもまた…」
「あんたは黙ってて!!」
「え、エリナ落ち着けって。どうどう…」
今度はエミールに怒鳴り始めたエリナをコウタは何とか宥めようと割って入る。
そんな光景を、原因であるはずの真嶌はまるで他人事のように見つめながら、ポケットから煙草を取り出し、無造作にそれを吸い始めた。
「…フゥー…何や最近の若い子は難しいなぁ…」
我関せずとでも言った調子で三人の喧騒からふと目を離すと、浮かない表情をしているヒバリが目に入った。
「ん?どないしたんやヒバリちゃん、そないな暗い顔して」
「え…私そんな顔してましたか?」
「一人だけ葬式みたいな雰囲気やったで。何や?どっか調子でも悪いんか?」
「いえ、そう言うのじゃ無くて…先ほど皆さんが帰って来る前に、赤乱雲が出たと連絡があったものですから…」
「ああ…そう言うことか…」
彼女の言葉に納得した真嶌は、再び煙草に口をつける。
気付けば落ち着きを取り戻していたコータやエリナたちも、赤乱雲という単語に反応し、ヒバリの方へ向き直っていた。
「また…赤い雨が降るのか…」
コウタが呟くと、エリナとエミールは忌々しげに顔を顰めた。
「また…“黒蛛病”患者が増えるんですかね…」
エリナが誰かに訊ねるように漏らす。だがその質問に答えようとする者は居なかった。
黒蛛病…赤い雨に触れると高確率で発症すると言われている病気で、発症すると体の表面に黒い蜘蛛の模様が浮かび上がることからこの名が付けられた。
発症した場合の致死率は100%とされ、現在有効な治療法は確立されておらず、空気感染や飛沫感染はしないものの、接触による感染はするため発症した患者は隔離される以外対処法は無いとされている。
「クッ…アラガミならともかく、病には手も足も出ないとは…この身の無力さを呪わずにはいられない!」
大袈裟な身振り手振りでまるで舞台役者のような言い回しでエミールは嘆く。
「どうしようも無いとは言え…もどかしいよな」
やり切れない表情で、コウタはエミールの言葉に同意する。
どうしようもない事と言えばそれで終わりなのかも知れない。
だがそれでも、多くの人がアラガミに怯えるなか、さらに赤い雨とそれによって起きる黒蛛病の恐怖にさらされなければならないこの現状に、それに対し何もできない自分たちの無力さに、三人はただ耐えることしか出来なかった。
「…まぁなんぼ言うたところで俺らに出来ることは決まっとんのや。病気や何やは医者や榊はんに任しといたらええ。俺らはどうせ…戦うしか出来ひんのやからなぁ」
そう言うと真嶌は煙草を灰皿に押し付け、ソファーから立ち上がり三人に背を向けた。
分かりきった事だった。ならば自分たちは精一杯出来ることをやるだけ、そう告げると真嶌はその場を後にしようとエレベーターに向かった。
「あ、真嶌さん!」
と、乗り込む寸前で後ろからヒバリに呼び止められた。
「榊支部長が、帰ったらすぐ支部長室に来るようにと」
「あぁ?榊はんが?」
「ハイ、何でも急ぎの用事があるって言ってましたけど」
そう言われ、真嶌はいかにも面倒臭そうに項垂れた。
「ハァー…せっかくゆっくりしよ思てたのに…しゃーない、行ってくるわ」
渋々承諾した真嶌はエレベーターに乗ると、支部長室のある階のボタンを押した。
………
……
…
「榊はーん。邪魔するでぇ」
真嶌は支部長室の扉を乱暴に開ける。
するとそこにはデスクワークに勤しむペイラー・榊の姿があった。
「やれやれ、ノックくらいはしても良いんじゃないかな?」
呆れたように榊は言う。そんな物言いに対し真嶌は、
「急ぎの用事やて聞いたから来たんや。ノックくらい省いてもええやろ」
さも当然の如く返答した。
「相変わらずだね君は」
「で、何やねん?急ぎの用事っちゅうんは」
要件を急かされると榊は一旦作業の手を休め、改まった様子で真嶌に切り出した。
「君は回りくどいのは嫌いだろうからね、まずは単刀直入に言おう。君にはフライアに行ってほしい」
「了解でっす、ほなお疲れさん」
「待ちたまえ」
榊はさっさと部屋を出ようとした真島を慌てて呼び止める。
「理由を聞こうとは思わないのかね?」
「あのなぁ榊はん、俺がこないだまでいろーんな支部をたらい回しにされとったん知っとるやろ。今さら異動くらいなーんとも思わへんがな」
「…まぁ聞いてくれないか。今回に関しては、私にも説明しなくてはいけない義務があるのでね」
神妙な顔つきでそう話す榊の雰囲気に異質さを感じたのか、真嶌はドアノブから手を離して榊に向き直った。
「…で?理由ってなんやねん?」
「その前に、君はフライアについてどのくらい知っている?」
「あー…そない詳しくは知らん。知っとるっちゅうたら移動要塞の研究所っちゅう事くらいやろか」
「正しくは、フェンリル極致化技術開発局の略称であり、開発局そのものだね。勿論、君の認識も概ね間違ってはいない」
「それで、そのフライアがどないしたんや?」
「…実は現在フライアではある研究が行われていてね」
「例の神機兵っちゅうやつの事かいな?」
「それとはまた別件でね。現在フライアでは新たに設立された特殊部隊があって、君はそこに配属される事となった」
淡々と続ける榊の話に、真嶌は首を傾げて言った。
「話がみえへんなぁ…その特殊部隊と俺が何の関係があるっちゅうんや?」
怪訝な表情で訊ねる真嶌を眼鏡越しに見据えながら、榊は話を続けた。
「その特殊部隊になる為にはある特別な素質が必要らしくてね…君にはその素質がある事が判明した」
「特別な…素質?」
「そう。ゴッドイーターの中でもさらに限られた者だけが持つ特別な力…向こうはそれを、“血の力”と呼んでいるそうだよ」
「…具体的にはどういうのや?その“血の力”ちゅうんは?」
「詳しくは私も教えては貰っていなくてね…知りたいのなら、向こうで直接聞くといい」
その言葉を最後に、二人の会話は一旦途切れた。
部屋の中を静寂が包み、何とも言えない空気が二人の間を流れる。
「ふん…確かに今までの異動とは少しちゃうなぁ」
不敵な笑みを浮かべ、真嶌は一歩前に出た。
「面白そうやないかい。ちなみにその部隊に名前はあるんかいな?」
そう訊くと榊は一枚の書類を取り出し、真嶌に手渡した。
渡された書類は転属指令の辞令だった。
「フェンリル極致化技術開発局直属特殊部隊。名は…“ブラッド”」
「ブラッド…血の力を使う部隊の名前が“
書類を見つめる真島の口元がますます吊り上がった。
「よっしゃ!真嶌吾朗……いっちょやったろやないかい!」
如何でしたでしょうか?
キャラに違和感などが感じられた方は教えてください