GOD EATER 2-隻眼の古兵-   作:魔黒丼

4 / 4
新たなる巣にて

 

目を覚ますと、真嶌は馴染みのない部屋に居た。

 

「…あ?」

 

いまだに寝ぼけているのか、はっきりとしない意識を何とか覚醒させながら真嶌はとりあえず時計を探し、時間を確認しようとした。

ようやく見つけた自前の腕時計を見ると、針は八時を過ぎたところだった。

 

おもむろにベッドから身を起こしながら、真嶌は大きな欠伸をしてから一言呟いた。

 

「…腹ぁ…減ったのぅ」

 

新しい巣であろうと、この男は通常運行だった。

 

 

それから時間は少し進み、フライアの食堂。

朝食をとりながら真嶌は昨日の適合試験。その後の出来事を思い返していた。

 

…昨日のラケルの研究室にて。

 

「ああん?まだ目覚めてへんて、どういう事やねん!」

 

威圧するような(本人にその気はないが)真島の声が研究室に響いた。

ラケルはそれを涼しい笑顔で受け流しながら彼の問いに答える。

 

「ですから、貴方は確かに血の力を得ました。ですがそれはまだ眠ったまま…貴方の力はまだ発揮することは出来ないのです」

 

「…説明してもらおか」

 

ぐいと詰め寄る真嶌に対し、ラケルは変わらぬ態度のままゆっくりと口を開いた。

 

「血の力は意志の力…目覚めさせるには貴方の強い思いが必要なのです」

 

「…?」

 

「焦る必要はありません。貴方の思いの強さは遠からず…その力を目覚めさせるでしょう」

 

「…つまり、それまでは今まで通りっちゅう事かいな」

 

「それは貴方次第ですわ…フフフ」

 

………

……

 

記憶を辿る真嶌の脳裏に、彼女が最後に見せた意味深な含み笑いがこびり付いていた。

 

「結局…血の力ちゅうやつの事はよぉ聞けへんかった…」

 

朝食を箸で突きながら独り言ちる。

落ち込むというより、どこかつまらなそうにする真島の表情からは前日のような覇気は消え去っていた。

 

血の力と言う未知なる魅力に惹かれてやって来たものの、適性試験を経て得たものと言えば現状では眠ったままと言う力と新しく支給された神機の二点のみ。

期待していたモノよりも予想を下回る現状に、肩透かしを食らったような気分だった。

 

「…ま、グチグチ言うとってもしゃーない。気晴らしにいっちょ狩りでも行ったろか」

 

そう言って気分を切り替えた真嶌は朝食を一瞬で食べ終えると、すぐさまミッションカウンターへと向かって歩き出した。

 

…が、

 

「あぁん?ミッションが受けられへんやて!?」

 

閑静としたフライアのラウンジに突然響いた声に思わず職員たちが振り向く。するとその先にはミッションカウンターに身を乗り出して受付のフランに食って掛かる真島の姿があった。

 

「はい。偏食因子が定着するまでの間は任務を受けることは出来ません」

 

「因子の定着ぅ?」

 

「はい、真嶌さんは昨日適合試験を受けられたばかりですよね?ですので最低でもあと10時間は経過を見る不必要があります」

 

強面で迫る真嶌に物怖じする事無く、フランはあくまで静粛とした態度で質問に応じた。

すると真嶌は荒げていた声を抑え、それでも引くことなく彼女に食らいつく。

 

「…10時間もか?」

 

「正確には9時間48分です」

 

「…3時間じゃアカンのか?」

 

「駄目です」

 

「どうしてもか?」

 

「規則ですので」

 

「…ワシごっつ強いで」

 

「駄目です」

 

「最悪、神機無しでもエエんやで」

 

「駄目です」

 

「……」

 

「駄目です」

 

まさに駄目押しとも言えるフランの一言にようやく折れたのか、真嶌はシュンと項垂れてミッションカウンターから離れ、その場を後にした。

 

「なんやワシ、最近若い()に弱いなぁ…」

 

年のせいか、などと柄にも無い事と思いながら、真嶌はラウンジのソファーに腰かけ煙草を口にくわえる。

 

「おいおい、フライア(ここ)じゃあ自室と一部の部屋以外禁煙だぜ」

 

不意に背後からそんな声が掛けられた。

真嶌は座ったまま振り向く。するとそこには額にヘアバンドを巻いた長髪の大男が腕を組んで真嶌を見下ろしていた。

 

「久しぶりだな、真嶌」

 

「なんや、こないな所で何をしとるねん…ダミアン」

 

煙草を口にしたまま、真嶌は言った。

 

「なんだよ久しぶりだっつってるのに随分だなオイ」

 

「ハン、再会のハグでも欲しかったんかいな?男同士でそない喜び合う事でもあらへんやろ」

 

そう言って真嶌は素っ気なく背を向ける。

 

「何だよ、えらく機嫌が悪いじゃねぇか。さっきもカウンターで揉めてたみたいだしな」

 

「別に大したことや無い…ただここに来てから退屈やったさかい、ちょっと気晴らしでもしたいて思てただけや」

 

「あぁ…気晴らしなぁ」

 

「で、お前はなんでここに居るねん。まさか冷やかしっちゅう訳でもあらへんやろ」

 

「な訳あるかよ。ここに出来た新興部隊の指導員みたいなモンだ」

 

「…っちゅうことは俺の指導員ってことかいな」

 

あからさまに嫌そうな表情で真嶌はダミアンを睨む。

 

「何だよその面は?指導員って言ったって、軽いアドバイザーみたいなモンだ。お前以外の神機使いは経験がゼロの部隊だからな。少なくとも、お前よりかは的確なアドバイスが出来るぜ」

 

「はぁーあ、これやから引退した年寄りは…口ばっかり達者やな」

 

「いつまでも若手の上で威張り倒してる年寄りよりかはマシだと思うがな」

 

「何やワレ?喧嘩売っとるんか?」

 

「いい加減引退しろって言ってるんだよ」

 

そう言ってダミアンはまだ火が点いていない煙草を取り上げる。

一瞬返せと言おうとした真嶌を制して、ダミアンは言った。

 

「お前もいい年だろ?そろそろ後進に道を譲ってやったらどうだ」

 

「アホか!ワシは生涯現役や」

 

「だったら、煙草はやめろ」

 

とダミアンは取り上げた煙草をゴミ箱に捨てた。

 

「あっ…なんちゅうことするねん!勿体ない…」

 

「真嶌」

 

未練がましく煙草を見る真嶌に、ダミアンは真剣な表情で語り掛ける。

 

「俺より若いとは言え、お前もゴッドイーターとしてはもうかなりの歳だ。あのツバキや他の連中でさえ、もうほとんど引退してるんだ。お前もそろそろ…身を退いたって良いんじゃないか?」

 

「フン…新しい巣で頑張ろっちゅう時に、なにを寝ぼけたこと言うとんねん」

 

苛立ちを露わにしながら、真嶌はソファーから立ち上がる。

 

「おい、何処に行くんだ?」

 

「さっきから気晴らししたいて言うとったやろ。お前みたいなむさ苦しいのと居っても加齢臭が増すだけやさかいな」

 

そう吐き捨てて真嶌はその場から逃れるようにエレベーターに乗り込んだ。

取り残されたダミアンは、閉ざされてゆくエレベーターの扉を寂しげに見つめていた。

 

……

…そんな捨て台詞を残したものの、これと言って行く宛ての無い真嶌はフライアの中を彷徨っていた。

 

普段と変わらぬ表情。

だがその胸の内には何とも言えぬ感情が渦巻いていた。

 

―お前ももう歳だ。

 

先ほどのダミアンの言葉が、真島の頭に何度も響いた。

2058年に入隊してから16年。現在、真嶌は37歳になっていた。

 

神機使いとしてはとっくに引退している年齢。にもかかわらず、自分はいまだに第一線で働いている。

 

「もう歳…ハン、なにがもう歳や…」

 

強がるように真嶌は呟いた。

気分が晴れない。自分にはらしくない感情にもどかしさを感じ、真嶌は舌打ちをする。

 

そんな時、たまたま通りがかった職員を捕まえて真嶌は訊ねた。

 

「おう、ちょっとええか?」

 

「はい?」

 

「ここでどこでもええさかい、どっか気晴らし出来るとこあらへんか?」

 

「気晴らしですか…ああ、でしたら庭園に行かれてはどうですか?」

 

「庭園?」

 

「ええ、緑と水に囲まれた凝った造りの庭園です。私たちも休憩なんかに利用してまして。エレベーターで行けばすぐですよ」

 

―では、と職員は自身の職務に戻っていく。

それを聞いた真嶌はとりあえずと言った調子で庭園を目指した。

 

言われた通り、エレベーターに乗って表示された階に行くと、そこは草木と水に囲まれた穏やかな庭だった。

 

フライアの凝りすぎた貴族趣味な造りには終始嫌気がさしていた真嶌も、小鳥の囀りさえ聞こえるこの場所には思わず感嘆の声を漏らしていた。

 

「ほぉ…悪ぅ無いやないかい」

 

あまり自身に穏やかな場所は似合わないと少し思いつつも、真嶌はどこか嬉しそうに庭園に足を踏み入れた。

すると少し先にある木の下に、誰かが腰を下ろしているのが目に留まった。

 

真嶌はゆっくりと近づきながらその人物を観察する。

 

金色の髪、整った顔立ちはまだ少し幼さも見え隠れするほど若かった。

 

その青年は真嶌に気付くと、すぐさま立ち上がり真島の方へと向き直った。

 

「適合試験お疲れ様です。昨夜はゆっくり休めましたか?」

 

「おかげさんでな。ところで、どちらさんやったかいの?」

 

「ああ、自己紹介がまだでしたね。自分はジュリウス・ヴィスコンティ。貴方が入隊するブラッドの隊長を務めさせてもらっています」

 

隊長と言われ、思わず目を見開く。

 

「隊長…なんや、ワシの上官かいな」

 

「ハイ。ですが、まだまだ若輩者です故、任務の際には色々とご教授願いたいと思います。どうかよろしくお願いします」

 

そう言ってジュリウスは頭を下げる。

先ほど旧友とあんなやり取りがあったせいか、いざ教えてくれと頼まれた真島の表情はまんざらでも無さそうだった。

 

「じきに多忙な日々になると思いますが、今日のところはゆっくりしていて下さい。では自分はこれで」

 

そう言ってジュリウスは真島の横を通り抜け、庭園を後にしようとした。

しかし、エレベーターに乗る寸前で、

 

「ジュリウスちゃ()()やったなぁ」

 

「ハイ?」

 

真嶌に呼び止められ、ジュリウスはふり返る。

 

「ワシの上官やったら一個だけ注意しとくわ」

 

「…なんでしょうか」

 

「ワシが大先輩やからって敬語はやめとき。部下に向かってそない畏まっとったら他の部下の前で示しがつかへんで」

 

ニヤッと笑って、真嶌はジュリウスに言った。

対するジュリウスは、納得したように頷きながら真嶌に返す。

 

「確かに…では改めて、これからよろしく頼む真嶌()()()

 

「おう、任しとけ」

 

そう言って今度こそジュリウスは庭園から出て行った。

見送った真嶌は気分よく背を向け、庭の一角に寝転んだ。

 

(なかなか見どころのある奴やな…歳は二十歳くらいか?こういうのがあるから辞められへんねや)

 

―お前もいい歳だ。身を退いたって良いんじゃないか。

 

喜ぶ真島の脳裏に再びあの言葉が響いた。

瞬間、真島の表情が固まった。

 

笑顔が消え、再び不機嫌そうに顰めた表情で、真嶌は庭園の周りを覆うガラス張りの天井を睨んだ。

 

「ハン…なにがええ歳や…そないな事、自分が一番よぉ分かっとるっちゅうねん」

 

寂しげに呟いた一言は、虚空に消えていった。

目を閉じ、陰鬱になりそうな気分を振り払いながら、真嶌は今後のことを考えた。

 

(…にしても新興部隊とは聞いとったが、隊長があないに若い奴とはのぉ。こらぁ他の面子も相当若い奴らばっかりやろうなぁ。とは言え、ジュリウスやったか、あの若さであの落ち着きよう…何や、腹に深いもん抱えてそうやなぁ)

 

最後に向き合った時のジュリウスの姿が、真島の頭に鮮明に思い出される。

 

『…では改めて、これからよろしく頼む真嶌()()()

 

「……ん?」

 

去り際に放った最後の言葉。

 

『これからよろしく頼む真嶌()()()

 

『真嶌()()()

 

()()()

 

「………ン!?」

 




如何でしたでしょうか?

兄さん確定事項です。
ちょっと苦労人になりがちですが、本家主人公もそんな感じだったんで…兄さんなら乗り越えれるでしょう。うん。

ご感想、ご指摘などお待ちしています。

――――

追記

9月23日まで第五話を投稿していましたが、個人的に内容や話の展開に得心のいかない点が多々ありましたので、誠に勝手ながら第五話を削除させて頂きました。

既に閲覧や、しおりを挟んでいただいた方々には大変申し訳ありませんが、投稿した内容を新たに修正を加えて近日中に投稿するつもりですので、もうしばらくお待ちください。

作者の身勝手な振る舞いに、重ねてお詫び申し上げます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。