甘ったるいシンジ君は、CV鞍馬さんでお願いします。
《シンジが作ったご飯とかケーキ食べるのなんて何回もしてるから、チョコレートなんかいらないわよ。そうね、もしシンジの方からキスしてくれたら及第点かな。好きだよ、とかささやきながらさ。ま、あの意気地なしには無理だと思うけど》
ーん……?
アスカからスマホのメッセージアプリに送られてきた文章に、シンジは眉をひそめた。
アスカとスマートフォンでやりとりをしていたわけではなかった。
委員長だろうか……。誰か別の人に、僕のことを話しているような……。
もしかして、誤送信?
「バカあァァーッ!」
アスカの平手打ちがほっぺたに炸裂した瞬間、シンジは「やっぱりね……」と心の中で嘆いた。
アスカは、今朝は家まで自分を迎えに来ずに一人で登校したし、教室でもずっと僕を「ガルルルル!」と音が鳴りそうなくらい歯を剥き出しにして睨みつけていた。
で、プンスカ怒って先に帰るものだから、慌てて追いかけてなんとか部屋に上げてもらい、ホワイトデーのチョコを手渡した途端、この仕打ちだ。
しかし平手打ちまでお見舞いされるとは思わなかった。チョコだってがんばって手作りしたのに、あんまりじゃないか。
「見たのね!?」
おでこがくっつきそうな距離で、アスカはシンジを睨みつけた。
「見たっていうか、見ないようにするのが無理っていうか……」
アスカの顔が、首から頭へ向かって迫り上がるように真っ赤に染まる。
「エッチ! バカっ! 変態ッ! 彼女のプライベート覗き見るなんて、信じらんないッ!」
「えぇ……」
僕が悪いのかなぁ。
シンジは拗ねたように顔を伏せる。
アスカの真っ赤な吊り目はしばらく続いたが、やがて俯きがちに視線をシンジから逸らした。
「……で? ……どうすんのよ? お返しのチョコ渡して終わりなわけ?」
シンジはおずおずと顔を上げて、アスカを見た。
彼女の顔は、怒ったまま赤くなるという器用な状態を維持していた。
「アスカ……」
シンジはアスカの両肩に手を添えた。
ピクリーと、アスカの身体が小さく震える。
「なんか、言われたから仕方なくキスしますって感じ……」
皮肉を無視して、シンジはアスカをそっと抱き寄せた。
「好きだよ、アスカ」
耳元でささやく。普段は聞かせたことがないくらいに、甘い声で。
アスカは、沸点を超えた蒸気を頭から立ち昇らせた。
「そ、そんなんで……」
「かわいい、アスカ」
「ひゃぅ……っ!」
シンジの口調のあまりの甘ったるさに、アスカはシンジを突き飛ばそうとしたが、その両手にはまるで力がこもっていなかった。
抱き寄せたまま、シンジがアスカの唇を奪う。
「ん……」
く、ちゅ……と。
舌が絡み合う音がして、シンジはアスカをそのままカーペットの上へ組み敷いた。
アスカはもう、抵抗しなかった。
「アスカ……」
「は……ん……」
シンジは、むしろアスカに感謝していた。
今日は最初から、アスカとこうしたかったのだ。彼女からメッセージの誤送信があったことで、「してもいいのだ」という確証が持てた。
アスカのうなじへ舌先でキスを這わせ、制服の裾野から指先を侵入させる。
胸元をまさぐり、夢中になっていくシンジの頭を、アスカはなでた。甘い吐息を漏らしながら、アスカは目を細めてうれしそうな笑みを浮かべていた。
※
「昨日は大丈夫だったの?」
昼休み。
洞木ヒカリは声を潜めながら、心配そうにシンジへ声をかけた。
「え?」
「ホワイトデーだったのに、アスカとケンカしてるみたいだったから」
「あー、それは、あの……大丈夫だったっていうか、なんというか」
元はと言えば、アスカがヒカリ宛てのメッセージを自分に誤送信したことが原因だったので、シンジは苦笑しながら頭をかいた。
「ホワイトデーの前日に委員長宛のメールが僕のところに来てさ、色々大変だったんだけど。お返しのチョコは、ちゃんとアスカに渡せたから」
それ以上のこともたくさんしたけれども。
顔に出ないように、シンジは努めて平静を装った。
「?」
ヒカリは頭にクエスチョンマークを浮かべて小首を傾げた。
「それって二日前の話?」
「うん、そうだけど……」
「二日前って、アスカと学校では話したけど、携帯でやりとりはしてないんだけどな。晩御飯の当番だったから、忙しくて」
「え……?」
「まぁでも、仲直りできたんならよかったね」
件のアスカが廊下から手招きして、ヒカリはじゃあねと教室を出ていってしまった。
アスカはこちらに気づいて、小さく手を振った。無邪気で不敵な、シンジが大好きな笑顔を見せてー。
シンジは狐につままれたような表情で、アスカに向かって手を振り返した。
了