ねぇ、シンジ。キスしようか?
え、何?
キスよ、キス。したことないでしょ? こういうところで。
うん。
じゃあ、しよう。
え? どうして?
退屈だからよ。
退屈だからって……そんな……。
それとも、怖い?
怖かないよっ。キスくらい……。
歯、磨いてるわよね?
うん。
じゃあ、いくわよ。
◯
壁に押しつけられ、目も閉じずに唇を押し当てられたことに、アスカは驚いた。薄く開いた口元からシンジの吐息が流れ込み、思わずふるっと身震いする。
「あ……ん……」
「アスカ……」
修学旅行の間は、できないと思っていた。
何度も角度を変えながら、吸いつくようにシンジが口内を味わってくる。肩とお尻に添えられた手つきがいやらしい。
「ん……シン、ジ……人、来ちゃう……」
「角になってるから……ん……大丈夫……」
熱い……。
シンジに唇を奪われる度、何も考えられなくなる。
アスカが弱々しく両手をシンジの胸元へ添えて、シンジは名残惜しそうにくちづけを中断した。
「はぁ……はぁ……」
ちょうどそのタイミングで後ろを人が通り過ぎ、二人は反射的に密着させていた体を離した。
「ごめん……やりすぎたね」
慈愛に満ちたシンジの表情。それが二人で果てた時に見せるやわらかさと同じだったことが気に入らなくて、アスカは体を入れ替えてシンジを壁に押しつけた。
「アスカ? ダメだよ、そろそろ、戻らないと……」
親指と人差し指で耳たぶをなでてやりながら、舐めるように唇を塞ぎ、舌を差し込む。それだけで、シンジは大人しくなった。
「みん、なが……ふ、ぁ……アスカ……」
「ん……ふ……」
舌先で、シンジの口内を大胆にかき回す。混ざり合った唾液が唇の端から溢れたが、アスカはシンジの頬をなでながら手の平でそれをすくい取った。
「ぁ……ん……」
薄く開いた瞳で見つめあったまま、二人は互いのリップを存分に弄んだ。
「ん……好き……シンジ」
「僕も……アスカ……」
もっと、もっと……と、せがんでしまう。
「アスカぁ〜、どこ〜?」
「どこやぁ〜、センセ〜? 惣流も〜、バス出てしまうぞぉ〜」
表からヒカリとトウジの声が響いて、アスカとシンジはようやくそれ以上の逢瀬を諦めた。
「ごめん、ヒカリ」
「お待たせ、トウジ」
時間差で、パーキングエリアの方へ顔を出す。火照った頬は、初冬の風が隠してくれた。
「よかった、遠くのトイレまで行ってたのかと思った」
「何しとったんや、二人とも」
えへへ、と笑って誤魔化したが、ヒカリとトウジの表情がどこかぎこちないのが気になった。心なしか、周囲からの視線も痛く感じる。
(ん……?)
(バレてない……よね?)
アスカとシンジは二人に続いて観光バスへと戻ったが、車内のクラスメイトたちも妙な雰囲気でアスカとシンジへチラチラと視線を送っていた。ケンスケは「いやーんな感じ」を連呼し、ミサトに至っては、眉を八の字にして額へ指を当てている。
なんだか、おかしい。
「いやぁ〜、広くて迷子になっちゃったわね、シンジ?」
「そ、そうだね、アスカ」
二人の愛想笑いに誰も反応しない。
トウジとヒカリは通路を挟んで目を合わせた後、顔を赤くしながら互いに窓の外へ視線をやった。
(バレとんねん。お前らインフォメーションとこで流されとった外の景色映しとるカメラの端っこにばっちり映っとったねん。クラスどころかパーキング利用しとる客ら全員に目撃されとんねん)
(碇君って、あんなに積極的なキスするんだ……)
「お団子でも買えばよかったかなぁ〜、ねぇ、シンジ?」
「そうだね、アスカ。あ、あはは……」
ピンクのムードが漂う車内に、アスカとシンジの乾いた笑い声がこだました。
了