シンジとアスカの短編集   作:アキみかん

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外は寒いから

 真っ白な湯気が、浴室を覆い尽くしている。

 入浴してからも、シンジの胸の鼓動は一向におさまらなかった。

ーどういうつもりなんだよ、アスカ……。

 年末に差し掛かり、外はすっかり寒くなった冬の夜。

 人恋しい季節。

 事の発端は、先日お裾分けしたポタージュスープのお返しに、キョウコがアスカにビーフシチューを持たせて寄越したことだった。例によってシンジの両親の帰りは遅く、一人で留守番をしているシンジを見兼ねて、この日もアスカはシンジの夕食につきあうことになっていたのだ。

「……くちゅんっ!」

 テーブルにビーフシチューとフランスパンを並べ終えた時、シンジは可愛らしいくしゃみをした。

「大丈夫なの、シンジ? 熱、ない?」

 お箸とスプーンを並べていたアスカが、シンジの額に手を伸ばす。

 顔に触れるアスカの指先と、胸まで密着する彼女の身体のやわらかな感触に、シンジは思わず息を呑んだ。体調とは別の理由で、体温が急上昇する。

「風邪のひき始めかな? お風呂でよくあったまるようにするから」

「……………」

「どうしたの、アスカ?」

 この時アスカは、シンジを下から覗き込むように言ったのだ。

「……お風呂、一緒に入ってあげよっか?」

ーいや……そりゃあね、幼なじみとはいえちゃんとつきあい始めてそこそこ経つし、そろそろ次のステップに行ってもいいのかなぁ〜なんて考えたことがないわけじゃないよ。でもほら、一緒にお風呂に入るなんて幼稚園くらいの頃に何回かしてるわけだし、アスカからしたら親切で言っただけなのかもしれないし、泊まっていくわけじゃないんだからこの後妙なことが起こるなんてことがあるわけないんだし。

 妙なことって、なんだ?

 なむなむ……と読経のような呪文を唱えながら、シンジは耳の位置まで顔を湯船に沈み込ませた。

 もしかしたらというわけではないが、一応、念のため、万が一に備えて、そんなことあるわけないと思いながら、間違いが起こらないともいえないので……頭の先から足の爪の先まで、どちらかといえば下半身を中心に、いつもの倍の時間をかけてシンジは身体中を入念にボディソープで洗ったが、雑念を洗い流すことはできず、バスタブの中で前屈みになっている。

「そろそろ、入っていい?」

 脱衣所から聞こえたアスカの声に、シンジはその場で背筋を伸ばして起立しかけた。

「う、うん。大丈夫」

 すりガラス越しにアスカの華奢なシルエットが見えて、シンジはゴクリと喉を鳴らした。それがあまりに大きな音に思えて、アスカに聞かれたのではないかと気が気ではなかった。

 腕を伸ばして、上着を脱いでいるらしい。セーターからインナー、スカート、それからあの動きは……ブラジャーと、ショーツ、だろうか……?

 脱衣所の折戸を開く音がした瞬間、シンジは固く両目を閉ざした。

「シンジ?」

「な、なに?」

「……なんでもない」

 呆れたような口調だったが、アスカがどういう表情をしているのかはわからない。

 アスカが湯船の縁に腰掛ける気配がした。

 心臓の鼓動が耳の奥で暴れ狂っている。

「ねぇ、シンジ」

「っ! ななに⁉︎ 先にかかかからだ、洗わないの? ホント僕そんな変なことなんて考えてないからあったまったし先に出るからごゆっくりどうぞ!」

「もぅ……。からかってごめん。水着着てるから、そんなに怖がらなくて大丈夫よ」

「え? ほ、ホント?」

 安堵のため息と共に開いたシンジの両目が、瞬間さらに限界まで大きく見開かれた。

 アスカは、水着どころか何も身につけていなかった。

「なーんてね♪」

 そりゃそうだ。お風呂なんだから、裸で入るのが当たり前に決まってる。

「う……あ……っ」

 目の前の光景をちゃっかり脳裏に焼きつけた後、シンジの視界は湯気と共にホワイトアウトした。

 

「今日は碇シンジ君は体調不良でお休みです」

 朝のホームルーム。

 葛城ミサトは教壇に両手を添えて言った。

「シンジ君、大丈夫そうなの、アスカ?」

 ミサトの視線に、アスカは悟られないように仏教面で頷いて返す。

「風邪気味でお風呂に浸かりすぎてのぼせ過ぎただけって言ってたんで、大丈夫だと思いまーす」

 ミサトが連絡事項を続ける中、アスカは埴輪のように目を細めて内省していた。

 ……やりすぎた。元々熱が出ていたのかもしれないが、まさか鼻血を撒き散らして倒れるとは。おかげで脱衣所まで運ぶのに苦労した。服を着せて寝室のベッドに放り込んでおいたが、おばさんとおじさんに何か気づかれただろうか。

 一方で、シンジの反応に満足している自分もいた。

 レイはまだシンジを諦めていないようだし、最近は霧島マナもシンジを狙っているのではないかとヒカリから聞いた。いい機会だったので、誰が飼い主なのか、シンジにしっかりわからせておくことも重要だと思ったのだ。

 とはいえ……。

 アスカは思う。

ーホント、シンジのいくじなし……。とうへんぼく……。

 そんな悪態をつきながら、しかしアスカは、気絶したシンジの裸を思い出して口元をへなへなとわななかせた。

 ためつすがめつ、という言葉があるがー。

「ねぇねぇアスカ。碇クン、ホントに大丈夫なの?」

「え⁉︎ だ、だいじょうぶ大丈夫! そんなにまじまじ見たりしてないし、触ったりなんかしてないからっ!」

「? えっと、なんの話?」

 あはは、とヒカリに愛想笑いを送って、アスカは頬杖をつきながら窓側に顔を向けた。

 今日も相変わらず外は寒いが、アスカは顔中がホットである。

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