その生徒は今日も眠りについていた。
初夏を感じる六月後半……その生徒は相変わらず授業中眠っていた。
眠りの深さから今を昼休みと勘違いしてしまう程に……。
「このようにXに5を代入して〜」
「グー……スピー……」
「つまるところ!こうなるわけだ!」
「ンゴー!」
「これ!長谷!起きんか!」
赤山高校一年二組の教師、蜷川大吉は老教師ならではの洗練たる大声をあげた。
この声は隣のクラスはおろか二階の二年生の教室にまで届くので蜷川は人間スピーカーの異名を持つ。
「また人間スピーカーが起動したぜ…」
「彰がどやされんぞ」
一年生活が始まってから幾度となく繰り広げられた光景だ。
いわば一年二組にとっては風物詩。
周囲の生徒は殆ど好奇の目でその経緯を見守っている。
「長谷!貴様私の授業をいつも眠って聞くとは何事か!」
「……せんせー。体罰っすよ。体罰」
顔をキスしそうなぐらい近づける蜷川に半目開きながら彰は……凄くめんどくさそうに答える。
「喧しい!これは愛だ!」
昭和のガンコジジイとクラスから声が上がり笑いに包まれる。
だが別に彰は蜷川に対しそこまで嫌悪感は抱いていなかった。この世には
老人であれ、若者であれ、子供であれ……たとえそれが非難をかってもだ。
そう意味では蜷川の頑固一徹さは見習わなければならないぐらいである。
彼は非難すら浴びる覚悟を戻って教鞭を執っているのだから。
「蜷川先生。答えは120っす」
「正解だ!後はその態度さえ治せばよし!」
ワッハッハ!と笑いながら蜷川は卓上に戻った。
彰も
「ケェッ…気にいらねーな。彰のヤロー」
「ああ。あのイキッた態度マジでぶちのめしたくならぁ」
彰から向かいの前後の席の前田裕太と畑見翔一は眉を顰めながら彼を見ていた。
十人十色と言うことわざがあるように誰もが彰に肯定的なわけではない……当然反感を買う者もいるのだ。
「裕太よ。これで脅しでも掛けっか?」
翔一は机の下でカッターナイフを動かす。
「指の一本も斬ってやろうぜ。まだ大した罪にはならねぇし」
「いいねぇ」
クックックと笑う二人の視界は突然反転した。
椅子から突然転げ落ちたのだ。
「な、なんだぁ!?」
「いってぇなぁ!畜生!」
「せ、先生!。前田君と畑見君の近くからカッターナイフが!」
「「ゲッ!?」」
「本当か!南!」
斯くして二人が行おうとした悪行は潰えた。
クラス中にカッターナイフだってよ……。マジかよ……等不安な声が広がり騒然となる。
「グー…グー……グー…」
そんな事が起きても彰は相変わらず眠っているが。