ブランドの指揮する分隊の二つが壊滅したあの日の戦い以降、俺たちは暇を持て余した。
基本的には定時の巡回や歩哨。ある程度の戦闘訓練などだ。
しかし、ただでさえベテランが欠如しているレユニオンの戦闘訓練は実質それぞれが個々で行う自主練習のような物で、戦闘経験のある熟練兵がつく訓練があるとすれば、それはアーツや戦闘の才能がある一部の兵士に対してのみだ。
例外があるとすれば、ウルサス軍から鹵獲した兵器や特殊装備の取り扱いに捕虜を教師に用いることがあった。
捕虜軍人の多くは初めは素っ気ない態度で此方の都合も知らず専門用語や知識を使った喋り方で、ある意味協力的ではなかった。
しかし一定の食料の分配を上官が約束すると、すぐに協力的になった。
他にも兵器工廠に勤めていたエンジニアや工兵などが教導するなど、俺や俺以外にとっても非常に興味深い訓練になった。
中でも特に興味を惹かれたのは「対装甲ライフル」と呼ばれる長銃身を有する狙撃銃だった。
木製の銃床から箱形に形成された大型なマズルブレーキまで含めると全長は2m近くあり、重量は15kg以上と、人間が1名で射撃する「銃」としては非常に長大かつ重量のある物だった。
父がよく連れて行ってくれた祖国戦争博物館にもいくつか戦利品として珍しいラテラーノ銃や極東の大砲等の武器は目にしてきたことはあるが、ここまで大型のライフルは初めて見た。
銃弾そのものもかなり大型な物で、直径14.5mm 全長114mmもあり、発射薬の役割を果たすアーツユニットもかなり大型なものだった。
捕虜のエンジニアに問いただすと、この銃器は先月兵器廠に持ち込まれた試作品であり、試験名称は「PTRD」という。
軽装部隊や比較的機動力に優れる突撃隊の陣地浸透を容易にし得るよう、敵重装兵や火点を遠距離から撃破できる火力を持たせることにコンセプトを置いたもので、理想としては軽量化と重火力に眼点を置いた設計となっているそうだ。
ただ、それでも正式採用されなかった経緯としては、ウルサス軍そのものの規模に合わせた大量配備にかかるコスト、弾丸や本体の製造コスト、新たに掛かる訓練費用等など……正式採用するには費用対効果が薄い物だとして兵器庫の奥に押し込まれていた物らしい。
だがどういうわけか、先日の重装兵との戦闘を経験した俺にとって、銃と呼ぶにはあまりにも長大なこの代物がどうしようもなく魅力的に思えた!
あの時、あの戦闘でコイツがあれば完勝とまではいかずも戦死者の数を少しだけでも減らせたのではないか?死というにはあまりにも穏やかでない最後を迎えてしまった戦友も、まだ俺の隣に立ってくれていたのではないか?
そう思えて仕方がなかった。
この勇ましい長口径のライフルで、あの忌々しい重装を撃ち抜いてやればさぞ爽快に違いないだろう。
そう思った俺はすぐさまブランドに直談した。
「あの試験兵器を俺にくれ!」
珍しく感情を荒立てた俺を見て、ブランドは最初目を見開いた。
理由を一通り並べ立てて言うと、彼も思うところがあったのだろう。
暫く眉間に手をやり此方を見上げた時には何処か申し訳ないような、悲壮な表情で快諾してくれた。
彼は長い月日をレユニオンで過ごしているため、人脈もあるようだ。
取り扱い説明書に弾薬、予備部品一式に、設計エンジニアを揃えて用意してくれると約束してくれた。
それから4日後、本部から通達があった。ブランドの小隊は損害甚大なため現在チェルノボーグ首都にて活動中の各分隊に吸収されるのだそうだ。
詳細は3日後の解隊当日に現地で知らされる。
それまでにブランドが約束を果たしてくれることを切に願ったが、思いの外それは早く果たされた。
〜解隊まで2日〜
ブランドに連れてこられたエンジニアは驚いたことに感染者だった!
訳を聞くと、試験兵器の実験や弾薬の開発・調整は特に源石を取り扱いに慎重が求められる分野であり、ましてや今回のような大型のアーツユニットを取り扱うものとなると政府は既存の非感染者エンジニアの保護のためや防護上の理由で強制労働所より適当な人材を寄せ集めて研究に取り組ませることがあると言う。
最もこのようなケースは例外であり、実施対象となるのは予算や人員の少ない研究のみに対象が限られ、特に感染リスクの高いものが当てはまるだそうだ。
そういった意味では確かに合理的だ。
政府にとっては感染者は絶対的に排除すべき対象であり、それは軍人であれ、エンジニアであれ例外はない。
であれば、ただの肉体労働で使い潰すよりも少しでも利用できる分野で利用し尽くす方が都合がいいだろう。
となると皮肉なものだ。
帝国のために開発された秘密兵器は、他でもない感染者によって改良され実用化され、俺の手に渡って銃口を自らに向けられようとしているのだから。
「これまで銃を扱ったことは?」
「10歳の頃、父に誘われて射撃場に行ったことがある。」
「なるほど。では弾丸と銃本体に及ぶ源石回路の基礎的な知識は学習済みと言うわけかな?」
「ある程度は……だが、これだけ大型なアーツユニットを用いるとなると当然アーツ操作や銃そのもの扱いも複雑になっているんだろ?」
「……10歳の頃、どんな種類の銃を撃ったんだ?」
「ウルサス軍標準拳銃のトカレフ、APS、あとレア物のPPS短機関銃。」
「うお……随分と父親は銃マニアだったみたいだな。それで、射撃自体は満足のいくものだったのか?」
「まあ、拳銃型は父がよく指導してくれたこともあって難なく扱えたさ。だが機関銃の方は射撃レートが高過ぎてアーツ操作が追いつかなくてね。弾倉の半分の弾も使い切らずにジャムったよ。」
「なるほどよく分かったよ。少し安心してくれ、このPTRDはボルトアクションを用いた単発式だからアーツ操作自体は寧ろ単純で済むんだ。」
「問題なのは射撃に耐えうる姿勢制御とアーツユニットの起動法だ。」
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「いいか?反動を逃すマズルブレーキが装着されているとはいえ口径がかなりのものだから雑な姿勢で撃つと肩が外れると思っていい。」
二脚を立てて射撃体勢をとっている俺の横で、同じく寝そべって各種機構の操作や注意点を教えていく。
アーツ操作自体は(比較的)単純であり、発射レート自体も単発式なため安定した状態で射撃ができる。
「肩に当てる銃床はしっかり右肩にあてる。空いた左手は銃床の固定に使う。でもそこまで力を込めなくていい、あくまで肩にきちんと当たるよう固定するだけだから。」
「さっきも言ったけどもアーツユニットの起動は慎重に。と言うのも、アーツユニットが大型なせいでかえって過敏な作動をしやすいんだ。」
「そのせいで、発射自体はできるんだが使用者のアーツ習熟度によって有効射程距離に長短が極端に生じやすく、カタログスペックに応じた運用に難があるんだ。」
エンジニアというだけあってかなり噛み砕いて説明してくれる。これらの説明を経て漸く射撃を執り行えるようになる。
「それじゃあ、撃ってみようか」
合図とともに銃床を右肩に当てて、左手で軽く固定する。
ハンドルを起こし、遊底を後部に移動させて弾丸を指込めで装填する。
装填が完了されれば遊底を初期位置に戻してハンドルを下げる。
これによって弾丸を発射できる状態になった。
照準器は銃左側に飛び出した状態となっており、銃口の照星、薬室の照門をそれぞれ正面の的に合わせる。
続いてはアーツユニットの操作だ。トリガーにかける人差し指に向けて意識が流れるように、集中する。
アーツというのは体内のエネルギーであり、物質的でもあれば精神的でもあり、両方の特質を兼ね備えている。
故にその操作は個々人の練習度合いや勘の良し悪しに左右されるとも言われている。
指先に向けられたアーツはトリガーを伝って内部機構に伝播し、弾薬の働きをするアーツユニットに接続される。
あとは引き金を引けばいい。
撃鉄の起こすわずかな衝撃は過敏なアーツユニットを容易に爆発させ、長大な銃弾の推進力となる。
ズダァン!
左右へ開けたマズルブレーキから逃された衝撃は砂埃を上げさせ、視界を一時的に遮らせた。
起き上がってみると、70mほど離された的の中心的よりやや上に命中していた。
続いて100mの距離の的に照準合わせ、同様に射撃を行う。
アーツユニットの調整、的への照準位置は70m射撃時と同じであるが、30mもの距離差で照準の誤差が埋まり、中心に僅か下(中心)に命中したということはこのライフルの優れた低伸弾道性を示している。
注意を払うよう言われた射撃時の反動も、思いの外小さなものだった。確かに体が一瞬揺れる程度には振動がくるが、マズルブレーキのおかげ想定よりかなり低振動で済んだ。
「ほお〜なかなか筋がいいねえ。もしかして将来の夢は狙撃兵だったりする?」
「いい質問だな。雇い先がまだ生きてくれていればの話だがな。」
「ははは!そりゃそうだ。」