レユニオン(対物ライフル兵)の戦闘録   作:シニゴ

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世間話

 

 

それから更に数時間、射撃訓練は手元の訓練弾を打ち尽くすまで続けた。気がつけば日が地平線の向こうへ沈みかけていて、相当な時間が経ったようだ。

 

 

「ここに居たのか!」

 

 

振り返ってみるとそこには同じ分隊員の一人が立っていた。戦闘時に着用している白い仮面を外している男の顔は記憶に新しい。

 

 

恐らく補充されたての新人だろう。

 

 

「やたらめったらに銃声だけは聞こえると思ったら……なんだよそれ?」

 

 

「お前には関係ないさ。それよりなんか用か?特にないなら続けていたいんだが。」

 

 

 

 

 

「……いいこと教えてやる。俺はな、午前中みっちり隊長達の近接戦闘訓練でしごかれて、喉も空っから。腹もスッカスカ。かといって此処に十分な食料があるわけでもないし、運良くあるとしても風味も味わいもないレーションや携帯食ぐれぇだし。というわけで、兵舎に戻ってベッドでゆっくり寝てしまおうと考えたわけだ。」

 

「ところがだ……枕に頭を預けて、瞼が閉じ切ろうとした次の瞬間!何処からともなくズダーンズダーンと耳障りな音が鳴り響いてきやがった!お陰様で俺は寝起きに用を足そうとしたら先客がいてトイレの前で立ち往生しなきゃならない時の次ぐらいに不機嫌だ!!」

 

「だから教えてくれ、俺の睡眠を邪魔してまでやらなきゃならないお前のそれは!なんだ!」

 

 

 

 

かの新米の話を間に受けると、どうやら俺は睡眠の邪魔をしてしまったようだ。

 

確かに俺自身、食事の時はテレビは見たくないしなるべく騒がしくない時間が好きだ。

 

それに彼の言う立ち往生の不快さたるものもよく理解している。

それは実にもどかしいものだ。

 

 

「よく分かったよ。これで切りやめとする。それでいいかな?」

 

「……理解が早くて助かる。」

 

 

そう言い終えると彼は踵を返して兵舎の方へ戻って行った。

その足取りがとてもおぼつかないところを見るに、相当疲れ果てているようだった。

 

 

後日あたりに掃討作戦で拾い集めたフルーツ缶でもやるとしよう。

 

 

 

 

 

 

〜解隊まで1日〜

先日迷惑をかけた新米の部屋へ赴くと彼は二階建てベッドの上でひどく憂鬱そうだった。

 

念の為、入室の際は3回ノックをして確認を取ったのだが、返事が来なかったのは不在以外の理由だったらしい。

 

 

相手もこちらの存在に気づくと少し驚いたような顔をして、すぐ目を細めた。

 

「何のようだよ。」

 

「昨日は迷惑をかけた。お詫びと言っては何だが、要るか?」

 

俺は右手に、指で挟まれた缶詰めを彼の顎下にくるよう掲げて反応を待った。

するとかの新米君は目を再び開いて、不快じゃない返事を返した。

 

 

「当然!」

 

 

この新米は、どうやらチェルノボークの下水道で暮らしてきたホームレスらしい。

レユニオンが蜂起したのを皮切りに同じ感染者同士差別や偏見のないレユニオンへ入隊したそうだ。

 

しかし特にアーツ適性や際立った戦闘力もないため後方で予備として留め置かれていたらしい。その後は補給部隊の護衛だとか、連絡兵だとか地味な役回りをこなしてきそうだ。

 

 

 

「レユニオンに入れば……何か変わると思ってたんだよ。分かるだろ?みんなそう思っただろうさ。でもよ…現実はいつだって同じだ。これなら地下でネズミでも焼いて暮らしてきた過去の方がマシだって思うようになったよ。最近はな。」

 

 

 

彼の独白は実に興味深いものだった。

俺自身は父という権力者が金とコネを使い、可能な限りの保護を俺に施してくれた。

 

だが、皆が皆同じというわけではない。

 

彼の両親は中級階層の非感染者だったのがそれを如実に示している。

 

どのような経緯で源石に侵されたのか?それは知る由もないが、感染者となり社会から隔絶されたかの新米が下水道でどれほど過酷な日々を送ってきたのかは想像もつかない。

 

地下暮らしとなってからは色々な悪事に手を染めたそうだ。

 

かといって、彼自身の精神までもは悪に染まりきらなかったようだ。できることなら償いをしたい。最も、迫害さえなければそのような非道に走ることもなかった。

 

彼の願いはただ一つ。普通こ暮らしだ。玄関を開けると両親が「おかえり」と声をかけてくれて、リビングから旨そうな夜食の香りが漂う。

 

そんな環境でのんびり過ごすこと。

 

ただそれだけなのだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「聞いた話によると、チェルノボークでやばいことが起きてるそうだ。」

 

「というと?」

 

「……これはあくまで噂程度の話だしあまり上官や古参の連中に知られたくないんだが、缶詰めの礼に教えてやる。レユニオンの幹部の一人に、俺たちよりもずっと幼いガキがいるらしい。」

 

「何でもそのガキがな、都市内のすべての学生生徒を平民、貴族問わず捕らえて、とある一つの校舎に閉じ込めたそうだ。たしかペテ……ペテル何ちゃら

 

「ペテルヘイム高校か⁉︎」

 

「ああ、たしかそんな校名だったな。」

 

 

 

話の内容は俺を困惑させるのに十分なものだった。

ソニア達が通っている学校、それこそチェルノボーク北部に位置するペテルヘイム高校であったからだ!

 

 

「チェルノボークは他都市の連結中心地でもあり、この移動首都の人口増加率は他の移動都市と比べて爆発的だ。」

 

 

「そんな中、突如蜂起したレユニオンが授業中だった多くの学校から生徒を掻っ攫って、分散させずに一箇所に寿司詰めにしたんだ。すると一つの問題が起こる。何だと思う?」

 

 

彼の話ぶりからは実に恐ろしく、悍ましい光景が思い浮かんだ。

 

俺の知る限り、ペテルヘイム高校は9年制であり登校生徒の膨大さからも同制度の他学校と比べてかなり規模の大きい校舎を構えてはいる……が、それでも同都市に居る全学校生徒を全て収容できるようには設計されてはいない。

 

 

余裕のない過密な空間や監禁下という劣悪な環境は必然的に衛生観点的に望ましいものではない。

 

 

シラミ、ダニ、埃、病気の感染率の増加。目には見えないであろう要素の全てが彼らの精神的余裕を削り取っていくだろう。

 

しかも、それだけではない。

 

最も生存の原則において重要なもの。それは…………

 

「…食料か?」

 

「御名答。俺は当時、収容された生徒に配給する食糧庫の番兵を務めてた。当然配給時に分配する食糧を積んだカートを見たことだってある……が、あれはどう考えても食糧不足だったな。」

 

 

 

「何でそう思う?」

 

 

 

「食糧庫から出てくるカートに乗ってる鍋の中を覗きゃよくわかるさ。日を追うごとに少なくなっていきやがったんだからな……しかも、俺が此処へ移ってくる前は初日に覗いた頃の半分くらいしか入ってなかった。」

 

「しかも驚いたことに、移動を命令されたのは俺だけじゃなかったんだよ!校門に泊まったバスの中に入ると、全席が埋まってやがった……停まってた他2両のバスもおんなじだった!」

 

「俺はとうとう幹部連中はイかれたんじゃないかって思ったよ!ただでさえ生徒間のいがみ合いや食糧の奪い合いがあった校内の統治をガキどもに任せたらどうなるんだってな!」

 

 

 

確かに彼の言い分は的を射ていた。

 

 

 

特に気にかかるのが、貴族と平民をごっちゃにして収容したという点だ。

生まれが違えば価値観は違う。価値観が違えば、貴族階級と平民階級の生徒達……誰かの起こす行動が容易にそれら双方の関係に軋轢を生むのは想像に難くない。

 

 

 

特に貴族と庶民との感覚は乖離が激しいのだと、過去に父が愚痴っていたことがある。

 

それが一体どれほどのものなのか分からないが、あまり家庭の中で文句を垂らさなかった父が言ったのだから相当なものだろう。

 

 

 

 

となると考えられるのは二分化だ。庶民派と貴族派。貴族側に扮して庶民派に与する勢力と、庶民側に扮して貴族派に与する勢力……限りある食糧庫や必需品という存在が、さらにこれらの構図を激化させていくだろう。

 

 

 

 

そして行き着く果てに待つのは闘争だ。

 

俺とそう年齢の変わらない生徒同士が、互いに食糧や、身の安全を求めて狭い校内で争い合うだろう。

 

それぞれのグループに、統率力のある人物がいてくれればある程度双方の秩序は守られるだろうが、果たしてそれが何処まで効果を発するものだろうか?

 

単に説得や口約束で人々の安心や信頼を勝ち得て、彼ら一人一人の心体に安らぎを与えられるのならば、警察や軍隊、ましてデモなどは存在し得ないだろう。

 

それ程までに人というのは各々のフラストレーションが限界に達した時、大凡普段の振る舞いからは想像もつかない行動に躍り出るのだ。

 

 

 

 

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