今回の戦闘シーンは基としてアニメの方を基準にしてます。……本家シナリオよりも映像化されたアニメシナリオの方が明言化しやすいと考えてのことです。
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先日の噂話の夜が明けて、俺たちは再び出発した。手慣れた動きで荷物を纏め、行軍のための隊形へ移行する。
これらの動作に限れば、俺たちはもう十分なベテラン部隊に見えるかもしれないな、という自虐じみた感情を抱きながら俺は隊長に指示されたがままに、数名の仲間を引き連れて大通りへ向かった。
何故大通りなのかというと先日、付近で起こった戦闘で逃げ遅れた市民の多数が、身を隠せる家屋のあるこの地域へ逃げ込んだという知らせがあったのだ。
そして怒りのままに、避難民達を追って担当地域を飛び越えてきてしまったよその分隊が迷い込んでしまったのだそうだ。
まだウルサス軍警の残党が居残っている可能性のある市街地で、後方経路を確保できない部隊を孤立させるのはリスクがあるとして、部隊内で最も体力のある俺と他多数の人員を斥候として遣わせたというわけだ。
この時、斥候隊を率いる臨時隊長に俺は命じられたのである程度の裁量権を小隊長は与えてくれた。
偵察地点の選出と、それに必要な人員の抽出だ。
俺自身、戦闘経験はあれど偵察という隠密行動自体は初めてだ。これが威力偵察ならば俺の誇る対装甲ライフルの真価が発されるであろうが今回の任務では精々自衛用の拳銃程度の利用価値しかないだろう。
早朝に地図を確認し、位置を見失ってしまったであろう小隊と自身の、彼我の相互位置関係を確認した。
昨夜の通信によると、どうやら例の小隊は大通りへ繋がるT字路に沿う民家や施設を捜索しているらしい。
そこに件の避難民が逃げ込んだそうだが、話を聞く限りその部隊の小隊長はひどく直情径行な人物に思えた。
事前に上層部が緻密に計画したであろう地域分担を無視し、自らの担当地域を放り捨ててまで避難民というものは排除しなくてはならないのだろうか?
確かに、防諜や機密保持という観点から敵方に組みする可能性のある非協力者を、なるべく減らすに越したことはないだろう。
事実、俺はブランドに率いられていた掃討戦で、民間人の協力によって高い稼働率を有していた機動部隊によって仲間の殆どを失った。
戦友のペッローの男も、死なせてしまったのは紛れもない事実だ。
だがしかし、何の軍事的知識も地理的理解もない民間人を刺激して何の意味がある?
むしろ彼らを何らかの方法で調略して、支配地域の治安維持や末端協力者として、地域住民の変化や状況を知らせてくれる「害のない密偵」として利用した方が圧倒的に意味のある行為だと思える。
尤も、そのような思想や行動は典型的なレユニオンの兵士にとっては唾棄すべきものだと捉えられているだろうが。
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斥候としての作戦行動をとってから十数分後、小隊本部から俺宛に連絡が入った。
端末の画面を上へスライドし、通信を受諾した……がそこから流れた内容はあまり心持ちの良いものではなかった。
「通信が切れただって?」
『ああ、捜索対象の小隊 から発せられていた10分前の定時連絡を境に音沙汰ないらしい。こっちの小隊長殿は件の小隊が、通信機の故障か何らかの戦闘行為によるものだと考えている。だから一層注意を払っての行動を心掛けて欲しいとの要望だ』
「……分かった。だが、一つだけそちらに質問したいことがある」
『何だ?』
「付近で他部隊からの戦闘報告などはないか? 俺たちがいる地域ではなく、付近の他地域からのものでだ」
『確認したところ、そのような通信記録はないな』
「そうか、幸運を祈っててくれ」
『ああ、頼むぞ』
通信後であっても、心の中に渦巻いている不安は消えることはなかった。
偵察行為に伴う隠密行動の基本というものはなるべく多くの遮蔽物や隠蔽物を利用しきることだ。敵からの発見を免れ、此方に利する情報のみを持ち帰る。それこそが最上だろう。
が、偵察行動にはそれと同時に迅速な移動と時として思い切った行動にも出る必要がある。先ほどの小隊長からの要望ーより一層の警戒を厳とするーは今状況下にある偵察行動には適切ではない。
寧ろ、何らかのトラブルが発生していると分かった以上は、迅速な移動と対応が俺たちには求められていると考えて良いだろう。
「急ぐぞ! しっかりついてこい!」
先程の通信内容とは真逆な行動に出た俺に隊の数名は怪訝な視線を向けてはきたが、そのようなものに気を遣う余裕はなかった。
偵察ではなく攻撃に適した目標地点を地図上から新たに選定し、俺たちは移動を再開した。
隠密移動を切り捨てて疾走している以上、偵察行動というよりも陣地転換のように思えてしまう態勢だった。
事実、目標地点や周囲を見渡せるビルの屋上から、T字路の突き当たりにある事務所の屋上に選定し直したのも、件の小隊が攻撃を受けていることを前提したもので、現地に到着した際迅速な攻撃態勢に移れるように考えた末のものである。
戦闘は此方の手数の少ない故に避けたいものではあるが背中のライフルが自衛拳銃以上の価値を発揮する時が来たようで、俺自身は心のどこかで手頃な獲物がいることに期待し切っていた。
迅速な移動のおかげで目標地点を捉えることができた。目標の事務所は三階建ての無機質なコンクリート色の外見で、静かなところを見るに無人に思えた。部下の全員に隠密行動を取るよう指示し、裏口から正面(T字路側)の方角に姿を晒さぬよう内部へ侵入した。
裏口は鍵をかけられていたが、数人掛かりで容易に突破できた。クロスボウを構えた二人が最初に突入し、2階、3階のクリアリングを済ませると俺も含む3人が屋上へ出た。
屋上には視界を遮るものがほとんどなく、強いて言えば落下防止用の柵が設けられているだけだった。
天候はやや曇りながらも、周囲の視界はクリアであり、理想的な偵察位置だった。
「おい、見てみろ!」
クリアリングを済ませたクロスボウ隊が上がってくるのと同時に、隊員がある方角を指差した。
北側へ商店街へと延びる大通りのど真ん中に、白い集団が見えた。
双眼鏡で観察してみると俺たちと同じレユニオンであり、捜索を頼まれた件の小隊であることは誰の目にも明らかだった。
何故なら彼らはすでに廃墟とかしているであろう商店街の様々な家屋に押し入り、こちらから相当な距離があるであろうにも関わらず非感染者に対する罵詈雑言が木霊となって届いてくる程に、凶暴とかしていたのだから。
「定時連絡も忘れて好き勝手に暴れてくれる……」
どうやら連絡が切れたのは敵の襲撃でも、通信機の故障でもないようだ。
単に眼前の怨敵に目を取られて、連絡し忘れたのだろう。
眼前でご熱心にも任務に勤しむ同志達には一言も二言も皮肉を存分に言ってやりたい気分だった。
スピーカーでも使って、自分たちの軽率さと単純さのなんたるかを諭してられれば何と晴れやかなことだろうか!
そんな卑屈な感情で口元を歪ませ、手元の端末で本部へ通信しようとすると事態は一変した。
先程まで続いていた喧騒は混乱と、悲鳴とを混じらせた叫びへと変わった。
小隊長と思しき人物が廃墟に逃げ込んだのであろうウルサス人の母子を斬り殺そうとしたのと同時にすぐ側で爆発が起こった。
それに巻き込まれた隊員に駆けつけたものが三人いた。が、すぐさま屋上よりロープで降下した見慣れぬ部隊の者達により無力化された。
混乱はこちらにも届いていた。
同じく双眼鏡或いは肉眼を細めてその場を観察していた者は突然現れた謎の部隊に釘付けとなり、放たれる声色からは困惑と驚愕が見て取れた。
小隊長の男はすぐさま母子を人質に取り、屋上からアーツを展開したコータスの少女に向けて攻撃を止めるよう促した。
その隙に部隊を左右に展開して、少女を捕えようとしたらしいがそれがいけなかった。
二手に分かれたことで数が裂かれ、それぞれの通路に隠れていた伏兵に容易に取り押さえられたのだ。
双眼鏡の倍率を最大限にして、そのうちの一人ペッロ──の女性──を観察すると左手首に源石が露出しているのが確認できた。
そして何より……彼等の肩には『RHODES ISLAND』と刻まれたロゴが入っていた。
驚いた。
俺たちと同じ感染者であるにも関わらず、敵対的行動をとるとは!
他の隊員達を同じくじっくり観察すると、先日の通信手の話と全く同じだった。皆それぞれ肩や右胸に統一されたチェスのコマを模したようなマークの下に『RHODES ISLAND』と、ロゴがそれぞれ刻まれている。