な、何を言ってるか分からねえと思うが、俺も何が起こったのか分からねえ。リゼロ、この素晴、シンフォギア、そして気づけば長年愛読してきたヒロアカの最終巻が本屋に並んでたんだぜ?
時間の流れってはやいよなぁ(前話の投稿日から目逸らし)
「お……おい、どうするんだよ?」
隊員の一人が問いかけた。
「なんか……やばそうだぜ? 助けるべきなんじゃないのか?」
「冗談だろ?! あいつらほんの数秒であそこの連中全員を無力化しちまったんだ。俺たちが加勢したところでどうにかなる相手じゃないって!」
複数人がどうすべきかで騒ぎ出した。既に小隊は小隊長含めた四人を除いて無力化されていた。しかも、彼らの背後に位置する建物の屋上へと少数の別動隊が接近している。
このまま立ち尽くすだけでは彼等の身が危うい。此方の屋上から向こうの屋上まで直線距離にして600m近くは離れている。並の武器では遠すぎ、かといって走って間に合う距離でもない。
しかしだ、今の俺は幸運なことに眼前全ての敵を射程に捉えうる、唯一攻撃を可能とする武器がある。
背負うばかりだった秘密兵器を素早く組み立て、リュックに納めていた徹甲弾と焼夷弾を複数取り出し、落下防止の鉄柵が邪魔だったので、隙間に銃身を通して射撃すべきだ。
長方形型のマズルブレーキを傷つけぬよう、重量20kg近くある銃身をやや傾けて通す。間違っても地上へ落としてしまわないよう二脚架を立てて安定させる。丁度銃身の1/2くらいの長さが柵より突き出したぐらいで寝そべる。射撃体制に入った。
「お、おい何してんだよ?」
「黙っててくれ」
一連の作業を素早く終えたユーゴでも、仲間の危機を目の前に内心冷静ではなかった。
心地の良くない肩当てを当てて、銃身から横に突き出たリアサイトと、直角三角形型の鋭いフロントサイトで目標を捉えると、彼らはもう目標地点に辿り着いていた!
「クソッタレが」
直後に発砲。
装薬が激鉄の衝撃によっては爆発し、爆轟現象 によって14.5mmの弾丸を外へと押し出すガスの衝撃が、肩から体全体へ伝播した。
ユーゴは当初、髭の濃い隊長と思しき人物に発砲しようと考えていた。が、純粋な目測で遠距離の人間に当てるには、数回の試射が必要だったがそれを実行する為の余裕は最早なかった。
ではどうすべきか?
幸いにもユーゴはその答えを、この状況下ですぐに見つけ出せた。
(殺す必要はない、
「スウゥゥゥ…」
息を吸って体のぶれを抑える。
20kg近くあるこのライフルを構えるのは中々堪える。
這い蹲ってのオーソドックスな伏射姿勢で、照星と照門の先にいる目標を攻撃するためにはライフルそのものを体に密着させて射撃前のふるえと体の振動を最大限抑える必要がある。
照準上の数ミリのズレが、目標へ届く頃には数センチ或いは数十センチとなって現れるのだ。
彼等の移動は迅速で、手早い。
小隊の生き残りが背にする建造物の屋上に移るよりも早く釘を刺す必要がある。
地上の方は無視だ。
彼等は人質をとっている。レユニオンと相対する組織である以上、関係のない民間人を危険に晒すような行動を軽率には取らないだろう。
今俺が注力すべきは、屋上つたいに彼等の頭上へ迫る別働隊の阻止だ。
「スウゥゥゥッ……ッ!」
空気を吸い込み、口を噤むと同時に引き金を引く。グリップを握る右手に意識されたアーツは、引き金に掛けられた人差し指を通して電流のようにライフル内部の機構を迸り、装填された14.5x114mm徹甲弾の弾底に内包されたアーツユニットを刺激し、爆発。
暴力的な圧力に晒された弾は、1.4m近くある銃身により推力を得て、マズルブレーキを備えた銃口より
600m以上離れた目標──別働隊の先陣をきる男──の近くめがけて飛翔した。
激しいマズルフラッシュと銃声。ほんの一瞬してから、金属同士がぶつかり合う、耳障りな甲高い衝撃音が聞こえた。
此方の隣で、腹這で双眼鏡を覗いていた隊員から歓声が上がった。
「当たったのか?」
「そこまでは見てなかった! だがお前が撃った奴らは近場の遮蔽物に身を隠した。下にいる連中もこれで暫くは安全ってわけだ!」
「下の方はどうなってる?あそこの味方も、突然の銃声で混乱しているだろうが…」
「いや、そうでもないらしい。どうやらあの四人は敵さんの動揺ぶりを見て、俺たちが味方だと思ったようだ!」
「そうか、無線で呼びかけてくれ。援護してやるから足手まといな人質なんぞ捨てて撤退しろと」
発射の反動を利用して解放された薬室から、薬莢を取り除き、装填。
再び狙いをつける。
本来狙撃手に求められるのは敵やドローンを用いた索敵から逃れる「隠蔽」と発見された際に陣地転換を行える「機動」が重要となる。
が、この状況下においてそれらは唾棄すべきものだ。
とにかく撃って撃って撃ち続ける。そうすることで敵の注意と思考を此方に逸らし、味方の逃走を容易なものにする。
次に狙うのは地上にいる目標だ。
味方を取り囲んでいたロドスの戦闘員は先程の銃声を聞き、乗り捨てられた自動車や破られた窓を乗り越え建物内に退避したようだ。
包囲を脱した隊員達は無線を通じて此方へ逃れてきている。が、それでも追撃の心配がある以上は射撃を継続すべきだろう。次の目標は、ロドスが仕組んだ爆発によって横転し、今や彼らの盾として利用されているワゴン車だ。
弾種は徹甲弾。初段とは違い敵はアルミと鉄で作られた車を盾にしている。それも屋上から屋上への射撃と違い相手は地上目標。射線の角度がつく分、見かけ上の射距離は延びる。それに伴う貫徹力の減衰効果や照準の修正を考慮して、理想とする弾着点より拳2つ分上方を狙って発砲。
再び鮮烈なマズルフラッシュと銃声が五感を叩き、不覚にも目を瞑ってしまった。
それでも隣の隊員達から鳴る歓声はやまない。
対装甲ライフルの威力は絶大なものであり、隣の隊員からは、命中してできた貫通痕から、反対側に隠れているロドスの兵士が蹲っているのをちらっと見えたそうな。
恐らく、その兵士は弾丸の貫通によって引き裂かれた車体の破片を食らってしまったのだろう。
そう判断した俺は射撃を継続した。そこから更に2発を、蹲る兵士の隠れたワゴン車に向けて。仕上げに4発を、ロドスを束ねる指揮官と思しきフード男のいる屋上を狙って発砲した。後者に関しては彼らが何処に隠れているのか、何人いるのか見当がつかなかったため全く無差別的で、我ながら出鱈目な射撃だった。
それでも強烈な被弾音と発砲音を伴う以上、敵の頭を押さえつけ、こちら側へ逃れるみかたの撤退を難なきものにできた。
──────────
「まだ、助けられる」
記憶喪失と思われたドクターのその一声が鍵となりアーミヤ、ドーベルマン、ACE、以下ロドスの隊員はレユニオンに捕えられたウルサス人母子の救出のため行動に出た。
ドクターと呼ばれる男が立案した作戦は実に効率的で、敵味方の被害を最小にするべくものだった。アーミヤを軸に敵を誘引し、数が裂かれることで生じる戦力の低下を機に左右の伏兵が急襲し、これを鎮圧。
レユニオンが正面の攻撃に気を取られている隙にACE率いる別働隊が背後の屋上から降下。残存兵を奇襲奇襲する事で、人質を無傷で救出するというものだった。
ミーティング通り、付近で爆発を起こし、敵を引き寄せ鎮圧。それに釣られた複数人もアーミヤのアーツによって制圧し、左右に展開した伏兵も速やかに仕事をこなしてくれた。
アーミヤの背後で指揮に専念し、ことの成り行きを見守っていたドクターは自身の身に起きた事故や過去そして現在の状況等の不明瞭な要素に精神を圧迫されそうになりながらも、ロドスの指導者として求められる責任を果たそうと尽力した。
アーミヤも、ACEも、記憶喪失にあるドクターに懐疑的であったドーベルマンですらも上手く行っていると、そう思った。
このままイレギュラーもなければ、死者も出さずに非力な親子を救い出せるのだと。
しかしそれは、何処からともなく飛翔した銃弾がなければ、の話であった。
「隠れてくださいドクター! 狙撃手です!」
ドクターが動くよりも速く、付近に護衛として侍らせていたオペレーターがドクターを退避させる。屋上ということで、ダクトや室外機などの遮蔽物に恵まれているのは幸運だった。
アーミヤは縁に沿ったダクト、ドクターと護衛のオペレーター達は南側に位置する機械室の影にそれぞれ隠れた。
ドクターは銃声ののちに響いた衝撃音から敵の目標はACE達だと判断する。
手元の端末:PRTSを通じて別働隊及び地上のドーベルマン率いる伏兵隊に連絡を取り、何とか皆の生存を確認することができたことに安堵した。しかし当の狙撃手は未だに此方を見据えて射撃を繰り返している。
車を盾にした地上部隊からは悲鳴混じりの報告が届いてくる。無線は、負傷した隊員の呻き声で溢れている。自身の未熟な指揮のせいで、彼らがどれ程の恐怖と苦痛に晒されているのか、考えれば考えるほど、自責の念が込み上げてくる。
度重なるレユニオンの襲撃、爆発、悲鳴、そして見えぬ敵からの銃撃。どれもこれも、記憶を失ったドクター本人にとっては耐え難い、惨憺たる光景と現実の連続だった。
「ドクター!」と名を呼ばれて、漸く彼は意識を現実に引き戻した。
「ドローンで上空から索敵してください。狙撃手が近くにいるはずです!」
彼女の言う通りだ。PRTSの端末を介して操作できる2機のドローンを使えば、狙撃手の大まかな発砲位置くらいは推定できる。何故そんな簡単なことに気が付かなかったのだろう、自身の愚鈍さが恨めしい。こうしている間にも、仲間が一人また一人と傷ついていっていると言うのに。
すぐさま左手のそれを操作して、上空を旋回するドローン達に命令を送る。
すると、それらはなにも遮るものがない、曇天模様の空へと上昇しながら、指示した空域へと移動しだした。
これでいい。これで敵の位置が分かる。後はそれを元に作戦を練り直せば……と、考えている時だった。
ビチャ、と視界に赤が入った。そしてそれは、人の体温に近しい温かみがあると、瞼で感じ取れた。
「があああ‼︎」
次に襲ってきたのは、人か獣かすらも判別できない誰かの声。
ドクターは何が起こったのか分からなかった。いやただ理解したくないだけだったのかもしれない。赤が飛び込んで来なかった、クリアな視界を保てている左目で声の元を辿り見ると、自身の護衛を買って出てくれたオペレーターが蹲っていた。激痛に悶え、
何が起きたのか理解してしまったドクターの手元からは、一種のアラームが鳴り続けていていた。それはドローンからの偵察結果だ。抑揚のない無機質な音質で、こう言い続けている。
『真南へおよそ620mの地点にて、激しい発砲炎を確認。現在沈黙中』
と。