Fate/DisspectOrder 作:一般デーモンコマンド
「過去を観測する電脳魔、ラプラス。地球環境モデル、カルデアス。近未来観測レンズ、シバに英霊召喚システム、フェイトの構築。そして霊子演算機、トリスメギストスの起動。...成る程、よく分からんことをしているのが分かった」
「訳が分からないのはこっちも何だけど?
何、歴史をディスペクトして新世界を創ろうとしたって。それが本当なら、あんた無茶苦茶わたしたちの敵すぎるんだけど」
龍魂珠とカルデアが出会って数分後。軽く自己紹介をしたのだが...両者共々情報の内容が濃すぎるため、ちょっとした混乱が起こっていた。
『まぁまぁ...確かによく分からないですけども。取り敢えず、彼...彼?の状況を整理しましょうか』
『まず、名前はアントマ・タン・ゲンド。漢字で書くと龍魂珠。目的は、古い歴史を滅ぼし新たな新世界を創ること...や、整理すればするほど悪役感半端ないね』
ロマニの声は何処か疲れていた。
「我的にはそっちのほうがとんでもないが。何さらっと未来観測してるのだ。しかもタイムスリップて。我の世界でも出来るの一部のヤツだけだったぞ」
「逆に出来るやつがいるのが怖いわね」
なんやかんやと話は続く。そして、龍魂珠は一つ気になっていたことを質問した。
「そうだ、さっきから妙な気配を感じるその女は何だ?いやに歴史の匂いがする」
「マシュのこと?」
立香はマシュを見る。マシュは少し恥ずかしそうにした。
質問に所長が答える。
「歴史の匂い...多分マシュと融合したサーヴァントの事ね」
「サーヴァント?」
龍魂珠が尋ねる。
それに所長は立香の方を向いて答えた。
「そうね...丁度いいわ、藤丸立香、貴女も聞いておきなさい。
...サーヴァントというのは魔術世界における最上級の使い魔。人類史に残った様々な英雄、偉業、概念。そういったものを霊体として召喚したもの。それが実在した英雄であったとしても、実在しなかった英雄であったとしても、彼等が『地球上で発生した情報』である事は変わらない。
つまり人類がこの星の上で活動した結果、星の記録に銘記された超常の存在というのがサーヴァントってワケ」
「超獣王来烈伝のクリーチャーのようなものか」
「言われても分からないから、なんとも言えないけど。そう思えば良いんじゃない?」
『所長、何か適当になってません?』
「とにかく、英霊とはつまり地球に記録された過去の遺産。英霊召喚とはこの星に記録された情報を人類の利益となるカタチに変換し、運用すること。彼らはこの星という場所で共有される、人類史における財産なの。
現代の人間が未来のために役立てるのは当然の権利でしょう?」
ふん、とそれを当然のように胸を張る所長。
「そういう事だから。それと、藤丸立香。
あなたが契約した存在はそういう、人間以上の存在であるけれど人間に仕える道具なの。
だからその呼称をサーヴァントというのよ」
「所長。所長の考えは極端ではないか、とわたしの中の英霊の残滓が抗議している気がします」
マシュからの抗議に鼻を鳴らしてそっぽを向くオルガマリー。
そのまま彼女は足早に先行していってしまう。
マシュは慌て、先行する所長と立香の中間を位置取る事で対応した。
「あの女の言う通りだな。使える道具は使わなければ意味がない」
そんな事を言う龍魂珠に立香は少し嫌な気分になった。すると、立香のもとに音声通信がつながってロマニの声が届いた。
『―――彼女がいちいち和を乱すような行動をとってすまない。ボクの口からでなんだけど、言い訳と擁護をさせてくれ。
所長...オルガマリーも複雑な立場でね。もともとマリーはキミ同様、マスター候補のひとり、という立ち位置だったんだよ』
所長に届かないように、との配慮か。ロマニは小さな声で彼女の来歴を語る。
『だが三年前に前所長...つまり彼女のお父さんが亡くなって、まだ学生だったのにカルデアを引き継ぐ事になった。そこから毎日が緊張の連続だったろう。時計塔の
時計塔のロード、という存在を出されて首を傾げる立香。それを察したのか説明しようとして、どう言ったものか、と少し悩む様子を挟んでから、ロマニは適当な例えでそこを流した。
『
マリーには才覚はあった。だが才覚だけで押し通れるほど、軽い立場ではなかった。彼女は本来父親から継ぐはずの経験も、言葉も、なにもかにもが足りない状態だったんだ。その状況ではカルデアの維持だけで精一杯。いや、通常ならそれだけで十分な成果だと言える。
だがそんな時に、カルデアスに異常が発見された。今まで百年先まで保証されていた未来が突然視えなくなったんだ。いわんや協会やスポンサーからの非難の声は積みあがって山の如し、だ。
何よりも一刻も早い事態の収束を。それが彼女に課せられたオーダーになった』
あまりにも重い責任。それがどのようなものなのか。立香には想像もつかなかった。
真っ当な感覚ならば、耐え切れるものではないだろう。
しかし、彼女はその声に正しく応えようとした。
少なくとも逃げるようなことはせず、全身全霊で事態解決に立ち向かった事は想像に難くなかった。
『だがその上、ついていない事に彼女にこの計画の要となるマスター適性がない事が判明した。
名門中の名門、時計塔を支配する十二の君主のひとつ。魔術協会・天体学科を司るアニムスフィア家の当主。よりにもよってカルデアのトップでもある家の当主がマスターになれないなんて、スキャンダルもいいとこだ。
どれだけ陰口を囁かれたか想像に難くない。その声はマリー本人の耳にも入っていただろう』
こんな何でもない、そんな事態に何ら関わりのなかった一般人。
そんな彼女は持っているのに、オルガマリーには備わらなかった。いわば天性の才能。
彼女の苦悩はとてつもないものだった筈だ。
『そんな状況でも彼女は所長として最善を尽くしている。この半年間、ギリギリで踏みとどまっている。実際、辛いだろうなんて事は彼女の事を知っている人間なら誰でも知っている』
そこで自分の非力を嘆くように息を吐くロマニ。
『こんなんでもボクは医者だからね。メンタルケアをしてあげたいけれど、その都合さえつける事ができない有様だ。そんなワケで彼女は心身ともに張り詰めている。
キミに辛く当たるのは、何もキミが嫌いな訳じゃないんだ』
「悪い人じゃないのはわかるよね」
立香が率直な感想を伝えると、ロマニは嬉しそうに笑った。
一方、横からこっそり聞いていた龍魂珠は無駄な話を聞いたなと思っていたが。
『ははは。そう言ってもらえるとボクも嬉しいよ。あ、でも所長は悪人だよ? というか、魔術師という人種に真っ当な人間がいると思わない方がいい。
ただ所長は外道だとか残忍だとか、そういうクズやゲスと呼ばれるタイプじゃないのは保証できる。根がどこまでも真面目なんだ、彼女は。だから抱えすぎてしまうんだけれどね』
そこまで語ったロマニの声が、そこで途切れた。通信ごとではなくて、何かに驚いて息を呑んだような様子に聞こえる。
『...これは!全員すぐにそこから逃げるんだ!』
突然、ロマニの言葉に焦燥が混じった。前を歩いていた所長にさえ届く大音量。
それを耳に入れて、ぎょっとした顔で振り返る所長。
「え、なんで...!?」
『こちらに向かって高速で移動する反応がある。サーヴァントの反応だ!』
「フォーウ!」
立香の肩の上。そこに乗り合わせたフォウが、威嚇するように遠吠えした。
龍魂珠はフォウに今更気づいたのかそれに驚いていた。
炎の壁の中から黒い影が跳び上がる。
その場にいた全員がみな、姿を現した漆黒の人形に視線を奪われた。
黒く染まった体は影絵のようで、しかしそれが放つ威圧感によって肉体を持った存在であると思い知らされる。
「ほう、これが本物のサーヴァント。ディスタス如きでは苦戦しそうだな」
そんな中、龍魂珠は冷静に分析していた。
こちらの状況を嘲笑うように、ゆっくりと姿勢を低くしていくサーヴァント。
その体勢からなにか恐ろしい事が起きる、そう感じる。こちらに逃げる方法は存在しないだろう。今この状況で言える事はただ一つ。
ここから彼女たちが生き残るためには...マシュがサーヴァントとして戦わなければならない、と言う事だ。
超常存在、サーヴァント。
そんな怪物を前に、恐怖を噛み殺してマシュが背中に守る立香に声をかける。
「マスター、指示を。マシュ・キリエライト、戦闘を開始します!」
黒いサーヴァントは驚異のスピードでマシュに近づく。マシュは盾を構え、押し込む...が、妙に抵抗がない。
あたりを見渡す。が、姿が見えない。
「マシュ、上っ!!」
立香が叫ぶ。
あっさりと、マシュの上に現れる影の狩人。
呆然としてそれを見上げるままのマシュ。
獲物の無防備な姿を見下ろしながら、サーヴァントは嘲笑を浮かべた。
頭上から迫る鈍く輝く銀色の凶器。それがマシュの目前に迫り...
「ブロックしろ、腐聖ブラッドウ−2」
間に挟まる骸騎士。黒いサーヴァントは身を翻し距離を取る。
「あれは...」
「ディスタス。さっき説明しただろう」
『成る程、あれが...』
骸騎士はどこからかやって来た馬に乗り、腕につけた盾をを構える。が、しかし。
(不味い)
龍魂珠はサーヴァントの力を侮っていた。いくら強いと言っても敵ではないと。しかし、実際にはなんとかまだ行動できるものの、かなりギリギリだった。後一撃喰らえばやられてしまうだろう。
(おのれ!あんな人間モドキのくせに!いっちょ前にディスタスと張り合いおって!)
睨み合いが続く。先に動いたのは黒いサーヴァントの方であった。
「おいそこのオレンジ人間!我で気を引く!お前はそのサーヴァントに何とかさせろ!」
立香に叫んで指示する龍魂珠。そして、サーヴァントの前に回り込み、高らかに叫んだ。
「ディスタスとは張り合えても、これには敵うまい!行け!我のディスペクター達よ!」
黒いサーヴァントが警戒する。
そして、龍魂珠が輝き...何も起こらなかった。
「...?」
「何も起こってないけど...」
それに対し、龍魂珠は...
「し」
「し?」
「しまったぁーーーー!!!ディスペクター全員やられてたんだったーーー!!!」
そう、かつての王来大戦の時に全てのディスペクターはレクスターズ達に全て倒されていたのだ。残るディスペクターは、もういない。
ニヤリ、と黒いサーヴァントは笑う。ハッタリか、ならば警戒する必要はない。そうして龍魂珠へと突撃する。
...おかげで、隙ができたのだが。
「やぁぁぁぁっ!!」
マシュの盾が迫る。
身を翻し、避けようとするが...
「えぇい!ブラッドウ−2!そいつを動かさせるな!」
骸騎士が馬と共に黒いサーヴァントを拘束する。そして、ブラッドウ−2ごと黒いサーヴァントにマシュの盾が叩き込まれるのだった。
キャスターの出番どこ...?ここ...?