Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

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SONG7 ヒカリの戦士

 

 

「とにかく、こうしていても仕方ないね。何か無いか探しに行こうか」

 

 

拠点、つまり学校が無い為に夏美達に帰る場所は無い。

このままだと野宿と言う可能性高しである。気温的には暑くも無く寒くも無くと言った所。男子連中は別に公園でもとは思うのだが、流石に年頃の女の子達がいる事を考えると屋根のある場所は確保したかった。

一応学校が遅れてこの場に現れる可能性もある為、翼と鏡治、後は美歩が町の見回りと宿の確保を請け負う事に。

 

 

「しかし宿と言ってもこの人数だからね、最悪女子の分だけでも確保してくるよ」

 

「お願いします先生」

 

「………」

 

 

ふと、ココで手を上げたのは椿だ。

彼はジットリとした目で翼を見ながらメガネを整えている。

 

 

「どうしたんだい、椿くん?」

 

「先生、その件については僕もとやかく言うつもりは無いんですが、もしも雨が降ったらどうするんですか?」

 

 

上を見上げる椿。晴れている筈の空、しかし何故か天気が悪い様な気がする。

やはりそれは空全体に黄色いフィルターが掛かっている様に見えるのが理由であり、そもそも空そのものが淀んでいる気がする。

太陽もある、黄色い太陽が。しかし光もあまり感じないのがより一層曇天のイメージをつけているのだろう。

その件については翼をはじめとして全員が分かる話だった。要は天気が悪い気がするのだ、このままだと雨が降るのではないかと言う考えは当然だ。

そうなると、もしも宿を取れなかった場合、野宿をする男子はどうなる? 屋根があればいいが、無ければ?

 

 

「先生、僕はね、別に女性を優遇するのは良いと思うんですよ。レディファースト、ああ結構でございますな」

 

「う、うん」

 

「でもね先生、気づいてます? 今一人だけ女性陣の中にゴリラが混じってるんですよ。見える? 見えるかな? そう、そうだよお前だ咲夜。あの子は別に宿じゃなくても良いと思うんですよ。だってゴリラだもん、洋服着てるだけでメスゴリラだもん。でもね先生、僕は繊細だよ? 椿君寝るときはフカフカのベッドじゃなきゃ嫌だもん。だから先生、もしも宿が取れたらあいつの部屋を俺に譲っ――」

 

 

そこまでだった。

後は椿がきりもみ状に吹き飛んで終わりである。

一方で見事なハイキックを決めた咲夜は乱れた髪を整えて鼻をフンと鳴らした。

 

 

「そぉお言う所が気にいらねーんだよクソ女! 何でお前が屋根有りで俺が野宿しねーといけねーんだ!!」

 

「いちいちうるさいヤツだな! 男らしく無い!」

 

「はい出た! 出ましたよ皆さん! こういう男はこうでくちゃいけないとか勝手なものさしの押し付けが出ましたね! セクハラですよセクハラ! そんなんだからテメェは乳しか育たねーんだよ!」

 

「お前の発言は何なんだ!」

 

「け、喧嘩は駄目ですよ二人とも!」

 

「いいんですよ、ほっとけば。はぁ……」

 

 

アワアワと慌てるミライだが、夏美達は皆またかと呆れ顔である。

椿と咲夜の喧嘩は今に始まった事ではないし。

ある意味緊張していなくて結構なのか? もう何度目か分からない尻への蹴りを受けて椿は動かなくなった。

この光景もよく見るもの。あんぐりと口をあけたままのミライは驚くかもしれないが。

 

 

「と、とにかく皆が泊まれる場所を探すから。同じ宿じゃないと駄目な訳じゃないし、部屋もなるべく一緒にしてもらったりするから」

 

「お、お願いします先生」

 

「フン!」

 

 

ケツを抑えて蹲る椿と腕を組んでそっぽを向く咲夜。

なんともまあ間抜けな対比ではないか。こうしている間にも時間は過ぎていく訳で。

翼達はさっそく町を探索しに向う事に。公園を出てしばらく石畳の道を歩く事数分、商店街にやってきた。

 

 

「?」

 

 

しかし、やはりと言うか人の影は無い。

もちろん一人も人がいない訳ではないが、それでもメインストリートと言うには少なすぎるし、道を歩いている人の表情は何とも言えない程暗かった。

皆下を向いている様な。これには翼達は強烈な違和感を覚えた。

 

 

「なんだか皆元気ねーな。ああそうだ、こっちまで暗くなっちまうぜ」

 

「ミホリンこういうの苦手だわ。暗いっつーか重いつーか」

 

「どうしたんだろうね? ちょっと聞いてみようか」

 

 

果物を並べてある屋台が近くにあったので、翼は店主に声をかけてみる。

ちなみに店主のおじさんの表情も例外ではなく、暗いと言うか重いと言うか。

こう言っては失礼かもしれないが全く輝きが無い。つまらなさそうな、と言うべきなのか、笑顔は無いし目も死んでいる様だった。

 

 

「いらっしゃい」

 

「あの、少しお聞きしたいのですが」

 

(うぉ、偏ってるなぁ……)

 

 

会話は翼に任せて美歩と鏡治は、ふと売っている青果が気になった。

この世界の特徴かもしれないが、ミカンが大量にある。後はバナナ、ナス、にんじんで終わりである。

まあ他世界故、こちら側の常識は通用しないが、それにしたって偏っている気がする。きゅうりだのトマトだの、メジャーな野菜が全く無いじゃないか。他にも青果店があるのだろうか?

そうしていると翼と店主の会話が耳に入る。翼はお得意のパターンを使って、この世界の情報を聞き出そうと。

 

 

「実は私たち、旅行でこの町に来たんですが、ここら辺の特徴等を教えて頂ければなと」

 

「旅行? おいおい、冗談だろ?」

 

「え?」

 

 

信じられないと言った表情の店主。何かおかしな事を言っただろうか? そんなつもりは無かったが――?

そうしていると周りをキョロキョロと確認する店主。誰もいない事を確認すると、彼は口を翼の耳に近づけ、できる限り声の音量を落として言葉を放つ。

 

 

「悪い事はいわねぇ、今すぐこの国を出て行ったほうが良い」

 

「ッ、それはどういう……?」

 

「それは言えない。ただ気になるなら北の広場に行ってみろ。それでこの国がどう言う国なのか、アンタらにも分かる筈だ」

 

 

そこで終わりだった。

店主もそれだけだと念を押し、何も買わないのならさっさと消えてくれと。

翼としてもそこまで言われては深く食い込む事はできない、結果として話を切り上げる事に。

 

 

「サンキューおじさん。ああそうだ、お礼にバナナ買ってくぜ」

 

「ああ。一房1500円だ」

 

「………」

 

(たっか!)

 

 

ニッコリと笑みを浮かべたまま汗を浮かべる鏡治、美歩も思わず声に出しそうになった程。

とは言え言い出した手前引く事もできず、情報を教えてもらった事は事実なのだから鏡治は仕方なく言われた値段でバナナを購入した。

 

 

「うぃ、ゴチです」

 

「……ああ、そう、味わって食ってくれよ」

 

 

もむもむと、美歩と鏡治はバナナを食べながら翼について行く事に。

まあ、美味しいは美味しいがあの値段で買う程なのかと言われれば微妙と言うところだ。

この世界はもしかしたらお金持ちが多いのかもしれない。一瞬そうは思ったが、その割には皆あの表情だし、店主の男性が言っていた言葉も気になる。

北の広場に行けば分かると言うが……?

 

 

「そこに行けばどういう国か分かるって言ってたね、あのオジサン」

 

「みたいだね。けれど、あまり良い意味では無さそうだったけど……」

 

 

若干嫌な予感を覚える翼。

巻き込まれたのは確か、だからこそただで済むとは思っていなかったが、いよいよと雲行きが怪しくなってきた様な。

そうやって歩いていく三人、その道中もあまり人には会わず、そして鏡治が買ったバナナがあらかた彼と美歩の腹に収まった時、その広場とやらが見つかった。

もちろん地図が無いゆえ、そこが言われた広場だったのか確証は無い。しかし翼たちがそこと決めたのは、今の今まで人の気配が薄かった町が嘘の様に思えたからだ。

 

 

「凄い人だ……」

 

「何、やってんだ? アレ」

 

 

広場には人、人、人。祭りか何かをやっているのかと思った程の人がいた。

いや、正確にはそこまで多い訳では無い。言うて二十人、多く見積もっても三十人と言った所か。そして若干の兵士、鎧を着込んだ者達が見えた。

何だあれは? 再び強烈な違和感。人が多いだけでも面食らったと言うのに、見える違和感はそれだけには収まらない。むしろ避けては通れない一番大きな存在がすぐに目についた。

それは地面に突き刺さった三つの十字架。そして、そこに磔になっている三人の人間だった。手足を縛られ、身動きを封じられている。

右には男性、中央には少女、左には女性、それぞれ苦悶の表情を浮かべて何かを叫んでいる。

 

 

「お願いです! せめて娘だけでも助けてください!」

 

 

磔にされているのはどうやら親子らしい。父親を見ると、鬼気迫る表情で懇願を。

そしてそれを聞いているのか、前にいる無数の人間達。きている服の差を見るに、どうやら貴族達と言った所か。

そして磔にされている者達はあまり裕福ではない様な印象を受けた。

 

 

「なんつうか……祭りって訳じゃなさそうだね」

 

「ああ、そうだな。センセー!」

 

「うん。急ごう」

 

 

地面を蹴って走り出す三人。

すぐにギャラリー達の人ごみにたどり着き、翼は急いで事情を聞く。あれはなんなのか? 少なくとも娯楽関係ではなさそうだ。

 

 

「娯楽だよ、アレは……」

 

 

しかし、返ってきたのは予想外の言葉だった。

娯楽ではないと思っていたのに娯楽、つまり楽しむイベントと言う事だ。

磔にされている人たちの表情からはとてもじゃないがそうは思えない。

だとすればと、一瞬演技をしているのかと思ったが、先程の店主の言葉を思い出し、それは無いと決め付ける。

そして理解した。娯楽、ああ間違いじゃない。しかしそれは”誰が楽しむか”と言う話である。

 

 

「きゃぁああああ!!」

 

「ッ!」

 

 

少女の悲鳴が聞こえる。赤褐色の綺麗な髪はドリル状のツインテール。

可愛らしい顔立ちではあるが、今は涙を溜めて苦悶に表情を歪めていた。無理も無い、彼女の脚、そのすぐ隣を矢が掠めたのだ。

 

 

「テトラ!」

 

「あぁ神様……!」

 

 

両親は必死に暴れてはみるが拘束は解けない。

矢先の刃は少女の肌に傷を付け、赤い筋を目立たせていた。それは矢が玩具ではないと言う事、そして矢を放った者がいると言う事だ。

それは彼女達の前にいる貴族達。彼らは一人一人が弓を手にしており、今起こった事を見てケラケラと笑い合っている。

 

 

「おや! 外してしまいました」

 

「またまた、わざとお外しになられたクセに!」

 

「いやいや何を仰います。意外と難しい物ですぞ。ホホホ」

 

 

そう言いつつ次の矢を用意する貴族。

翼達の背に、ゾッと冷たい物が走った。的に矢を当てるゲーム、成る程それは確かに娯楽と言うに相応しいだろう。

しかして、それを受ける側はどうだ? コレは決して娯楽等ではない。今から始まるのはただの殺人ではないか!

 

 

「鏡治君!」

 

「ああ、任せろ! 来い、ガタックゼクター!!」

 

 

空中を飛来し、鏡治の手に収まるガタックゼクター。同じくして鏡治の腰にはベルトが巻かれていた。

 

 

『気をつけろ鏡治、何かこの世界、違和感がある』

 

「ッ、ああ。変身!」『HENSHIN』

 

 

鏡治の体に六角形のエネルギーが纏わりつき、彼にガタックの装甲を与える。

彼はすぐにゼクターを操作、角を移動させて纏わり付いていた硬い装甲を地面に落とした。

そしてベルト横のボタンを弾き、超高速の世界に足を踏み入れる。

 

 

「クロックアップ!」『Clock Up』

 

 

一瞬にして消えるガタック。すると貴族が次に放った矢も、ほぼ同時に消え去った。

何だ? ザワつく貴族達、すると若干のタイムラグの後にギャラリー達も同じくザワつき始めた。

それはきっとテトラと言う少女達が十字架から解放されたから。そして何より、それを行ったガタックが皆の前に姿を晒したからだろう。

彼は掴んだ矢を握りつぶすと、貴族達を睨みつける。

 

 

「お前ら、何をしてるのか分かってんのか!」

 

「な、なんだあの化け物は!」

 

 

驚き、引いていく貴族達。

代わりにガシャガシャと音を鳴らしながら鎧に包まれた兵士達が前に出る。

槍をガタックに向け、動きを止める様に警告を告げていく。しかしそれに従う訳にもいくまい。

続いて動いたのは美歩だ、ファムに変身した彼女はアドベントを発動、ブランウイングは倒れているテトラたちを背に乗せると、そのまま飛翔する。

 

 

「先生! 私、元の場所に戻るわ!」

 

「ああ、お願いするよ!」

 

 

ファムはブランウイングの足を掴むと、そのまま飛び去っていく。

コレでテトラ達は守られた訳だが、そうなると娯楽を邪魔されたと言う側がある訳で。

的当てゲームをしていたと言うのに的を奪われた貴族達はご立腹だ。事情が全く分からぬ故、もしかしたら自分達がした事が世界視点で間違っている可能性もある、だから翼は一同の前に出て説明を。

 

 

「突然の無礼を申し訳ありません。私達は通りすがりの旅人ゆえ、この催しの意図を理解しないまま邪魔をしました。しかし人権を無視したあの行為を見逃す訳には行かなかったのです!」

 

 

とは言ってみたものの、貴族達の怒りが収まる事は無いようで。絶対の言葉がどこからか告げられてしまった。

 

 

「ええい黙れ! 兵、あれを殺せぇえッ!!」

 

「ッ!」

 

 

息を呑む翼とガタック。

それは兵士達が一勢にある物を取り出したからだ。それは彼らもよくしっているUSBメモリ。

この中世の世界とは不釣合いな近代的なアイテムだった。尤も、それはただのメモリと言う訳ではないが。

 

 

『『『『『『ソルジャー』』』』』』

 

 

重なる音声。

そして兵士達は次々にガイアメモリを己の身に装填、肉体はより一層強固な鎧に包まれ、ソルジャードーパントが翼たちの前に並ぶ。

 

 

「センセー、これって……」

 

「ああ、どうやら私たちがこの世界にきたのは、意味があっての事らしいね」

 

 

メガネを整える翼、彼は容赦なく迫る槍を体を僅かにズラす事で紙一重で回避。

さらに体の横にある槍を掴み、手を腰部分に添える。すると光が発生、それが晴れると翼の腰にはベルトが。

彼はそのまま兵士の脚を払った。強固な肉体に包まれているが脚の装甲は薄い、さらに翼自身ゼノン達が施した肉体強化の恩恵を受けて身体能力が上昇している。

結果、襲い掛かった来た兵士は地面に倒される事に。翼は足を振り上げると、その兵士を踏みつけて動きを抑える。

 

 

「変身!」

 

 

そして言葉を放ちながら両手をベルト、オルタリングの左右にあるボタンへ。

カチッと音がして彼の体は一瞬でアギトに変身する。再びザワザワと聞こえる声、アギトはその中で兵士を蹴り飛ばすと、深く息を吐いて構えを取る。

 

 

「何者だ、貴様ら!」

 

 

兵士の一人が問う。その質問に、同じく質問で返したのはアギトだった。

 

 

「そのメモリ、どこで手に入れたのかを教えて頂ければ、私たちも質問に答えましょう」

 

 

その問いかけに対する返事は無かった。

兵士達は一勢に槍を構え、アギトとガタックを刺し貫こうと走り出す。

しかしてソルジャーは見た所量産型の下級メモリ、アギトもガタックもそれなりに場数は踏んでいる。

早い話が相手では無い。アギトは迫る槍を的確に弾き、カウンターを叩き込んでいく。ガタックは二対の刃を存分に振るって迫る兵士達をなぎ倒していった。

 

 

「フッ! ハァァァ……!」

 

 

拳を握り締めて姿勢を低くするアギト。

するとクロスホーンが展開、アギトの紋章が地面に現れ、大地のエネルギーが握り締めた右の拳に吸収されていく。

 

 

「タァアッ!」

 

 

そのまま思い切り地面を殴りつけるアギト。

ライダーパンチ、地面から衝撃波が発生し、倒れていた兵士達を宙に浮かせる程の威力を見せた。

ボトボトと再び地面に墜落していく兵下達、ソルジャーとしての限界が来たのか、次々に爆発を起こしていき、中身を露出させていく。

余裕の勝利だ、一見すれば。だが一点を睨みつけるアギト。その先に一人、他の者とは雰囲気の違う少年がやって来た。黒を基調としたスーツの様な服装、執事服だろうか? 髪を一つ結びにし、冷たい表情の少年だった。

 

 

「れ、レオン様……!」

 

「お前達は戻れ。王女に報告を忘れるな」

 

 

レオンと呼ばれた黄色い髪の少年はアギトとガタックを青い瞳で睨んだまま淡々と呟いた。

声色に焦りは無い。それに兵士の態度を見るに、彼がワンランク上の存在である事が分かった。

立ち構えるアギトとガタック、少しは話の分かる相手が来てくれたのかと期待したが、どうやら無駄だった様だ。

 

レオンは二人に告げる。今日は素晴らしいイベントだった筈だ。

罪人を捕らえ、貴族達が命を奪い楽しむ。そこにマイナスは無い、損益は無い。罪人が減り、貴族達の心は豊かになる。それが国にとって一番の事になる。

それなのに、その流れをアギト達が邪魔してくれた。それだけには留まらず、事もあろうに罪人を逃亡させてしまった。

 

 

「ッ、その事については謝罪します。しかしあの方法はあまりにも!」

 

 

それにテトラ達が死刑になる程の罪を犯した様にも見えなかった。

いや、これはもちろんアギトの主観ゆえ、確証は無いが、少なくともあんなゲームじみた方法の処刑は間違っていると説く。

罪を犯したならば相応の罰は仕方ない、しかしそれは決して娯楽には昇華させてはならない筈だ。

 

 

「黙れ。お前の意見は聞いていない」

 

 

大切なのは今言った事が事実であると言う事だ。アギト達は罪人を逃がした、催しを邪魔した、それはもはや原罪だろう。

 

 

「今ココで、反逆者としてお前達を――」

 

「!!」

 

「処刑する」

 

 

それは一瞬だった。

姿勢を低くして地面を蹴ったレオン、一歩、二歩、三歩目で彼は跳躍。一気にアギトの眼前に迫る。

速い、人間にしてはあまりにも。アギトが反応した時には、彼の腹部にレオンのこぶしがめり込んでいる所だった。

 

 

「ガハッ!!」

 

 

強い。おかしい、アギトは肺にあった空気をぶちまけながら違和感を覚える。

ただの人間にしては拳の威力がおかしい。アギトの装甲を無視する様にして与えられたダメージ、さらにレオンは怯んだアギトへ追撃を。

 

 

「いつの時代も、いつの世も、(せいぎ)に歯向かう馬鹿がいる」

 

 

右足が繰り出す跳び回し蹴りがアギトの頭部を捉えた。

さらにその勢いのまま、左足もアギトの首を捉え、フックの様に引っ掛けながら地面に引き倒した。

レオンは素早く立ち上がるとアギトの頭部を掴み強制的に引き立たせ、胸の部分に踏み込んだ蹴りを浴びせた。

 

 

「ぐはっ!」

 

「己の正義が正しいと、愚かな夢を見る」

 

 

進むレオン。アギトは素早く立ち上がると彼と肉弾戦を。

はじめはアギトの力を生身の人間に使うわけにはいかないと思っていたのだが、すぐにそんな考えが吹き飛ぶ程、レオンの身体能力はアギトに均衡していた。

 

 

「君は、何者なんだ!?」

 

「コレから死ぬヤツに、ましてや罪人に答える義理は無い」

 

 

大地を踏み込みストレートパンチを繰り出すレオン。しかしその時、その手は青い閃光に阻まれる。

 

 

「!」

 

「センセー! 大丈夫か!?」

 

「ッ、すまない鏡治君!」

 

 

クロックアップを発動してレオンを止めるガタック。

彼はそのスピードのままレオンに打撃を連続で浴びせていく。

しかし彼もまた違和感を感じた。手加減をしているとは言え、まるで硬いゴムを殴っている様な感触。

何だこれは? 彼は本当に人間なのか? 違和感を覚えたまま、ガタックは彼を押し出していくが――

 

 

「!」

 

 

その時、レオンの目が確かにガタックを捉えていた。

本能的な危機を感じ、ガタックは攻撃を中断しバックステップで距離を取る。するとつい先程まで自分が立っていた場所にレオンの拳があった。

 

 

(クロックアップを見切った!?)

 

 

人間業じゃない。何か秘密があるのか? しかし見た目はどう考えても人間そのものではないか。

 

 

「センセー!」

 

「ああ、一旦引こう!」

 

 

一応マシントルネイダーとガタックエクステンダーを呼んでみるが反応は無い。

どうやらバイクは学校にあるままで、呼び寄せる補正は切れているのか。

仕方なくガタックとアギトはそのままレオンに背を向けて走り出した。当のレオンもわざわざ追いかける程の興味は無いのか、走り去る彼らをジッと見ているだけだった。

 

 

「レオン様」

 

「ああ。すぐに預言者に連絡を入れろ。見つけ次第、一人残らず殺せ」

 

「分かりました」

 

 

残っていた兵士にそれを告げると、レオンもまた背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、これで良し」

 

「ありがとう……ございます」

 

 

大きな川に掛かっている橋の下。

そこに夏美達は移動していた。戻った翼たちから事情を聞いた一同は、テトラ達を目立たない場所に移動させる為にこの場を選んだのだ。

河原には数名の男子たちが見張りに回っており、橋の下では夏美がテトラに簡単な手当てを行った。

包帯はなかったので自分の服をちぎって使用した夏美、テトラは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

「本当にありがとうございます。ああ、何とお礼を言ったらいいのか」

 

「でもごめんなさい。貧しい家の為、お礼らしいお礼はできませんが……」

 

「いいんですよ。それより、少し聞きにくいんですが……」

 

 

翼はテトラ達に何が起こっているのかを問いかけた。

彼女達は何をしたのか、そしてあの光景は何だったのか。

すると複雑な表情をして言葉を詰まらせるテトラの両親、明らかに動揺している。

言いにくい事であると言うのがすぐに分かった。しかしこうしている事の意味の無さを知っているか、テトラが初めに口を開く。

 

 

「全部、あの王女が悪いんだ」

 

「こ、こらテトラ……」

 

「いいよ、もう、どうせ私達は狙われてるんだから」

 

「………」

 

 

俯く両親。

テトラの言葉を止めるものは誰もいなかった。だから分かる、この国がどういう国なのかが。

この『黄の国』は、昔はそれはそれは豊かな国であったらしい。しかし国を支える王と王妃が不幸な事故で命を落としてしまった。

するとその一人娘が跡継ぎとして国を治める王女となった。今にして思えば、ココからすべてが狂って行ったと。

 

 

「アイツ……リンネは最低よ」

 

 

リンネと言う名の王女は、豊かだった黄の国を悪逆非道の国に変えてしまった。

王女と言う権力を使い、豊かな者はより豊かへ、貧しい者はより貧しくと言う形態を作ってしまったのだ。

それだけではなく、国民の多くが貧しさを口にしている中で王女はと言うと新しい装飾品を取り寄せたり、乗馬を楽しんだり、各国の菓子を国民の税金で取り寄せたりと自由の限りである。

そして何よりも国を衰退させたのは、王女が行っている絶対的な王族への忠誠である。少しでも国に対する不満を口にしよう物ならば罪人となり、罰せられる。

それが先程テトラ達が磔にされていた理由であった。テトラの家族は貧困に苦しむ民を代表して、王女に謁見を申し込んだ。そこでこの国の現状を伝えたつもりだったのだが、結果として待っていたのは国のやり方に納得していない反逆者と言うレッテル。結果、待っていたのが処刑と言うやり方だった。

 

 

「そんな、酷い……!」

 

「あいつ等は邪魔な者は全て殺せばいいと思ってる。国民なんて、どうでも良いって思ってる!」

 

 

拳を握り締めて地面を叩くテトラ。

堪えようとしても涙が溢れ、相当悔しい思いを今までしてきたのだろうと言うのが分かった。

国民の多くが理不尽な怒りを買う事を恐れ、外出を控えていると。だからこそ町で見る人が少なかった訳だ。

 

 

「お願いします!」

 

「ッ」

 

 

テトラは見ていた。ガタックの姿、ファムの力、アギトの存在。

これは人を超えた力だ、彼らが何者かでどんな事があって力を手に入れたのかは関係ない。

自分には無い力を持っている事、彼らは自分を助けてくれたこと、その点だけに注目したい。

だからテトラは頭を下げた。彼女には力が無いから。

 

 

「お願いだから、この国を助けて!」

 

 

顔を見合わせる夏美達。

確かに話を聞く限りこの国は滅茶苦茶だ。それにガイアメモリがある以上、向こうが大ショッカーと関わっている可能性は高かった。

であるならば、答えは一つだった。

 

 

「分かりました。テトラちゃんを苦しめる悪い奴らは、私達が倒しちゃいます!」

 

「ほ、本当!? ありがとう夏美さん!」

 

 

笑顔に変わるテトラ、夏美も同じく笑顔を返す。

テトラの両親は部外者である夏美達を巻き込むのは申し訳ないと言っていたが、夏美たちからしてみれば巻き込まれるのはいつもの事だ。

それにリンネの悪行を知ってしまった今、目を逸らして行く事は彼らの正義が許さない。

 

 

「リンネ王女を殺しましょう!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

「よっしゃ! 任せて!」

 

 

次々に言葉になっていく賛同の言葉。

しかしその中で、慌てる様な声が割り入る。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「どうしたんですか、ミライ君」

 

 

手を上げたのはミライだった。

彼は目を見開き、汗を浮かべていた。首を傾げる夏美、どうしたのだろうか?

 

 

「いくらなんでも、殺さなくてもいいんじゃないですか?」

 

「え? あ……、でもリンネ王女は止めないと!」

 

「だったら話し合いとか、力を使うにしても何も殺さなくてもいいじゃないですか!」

 

「それは――」

 

 

うろたえる夏美、困っていると思ったか、咲夜が代わりに返事を返した。

 

 

「確かに気持ちは分かるが、王女には当然協力者もいる。王女と言う存在が生きている限り、利用しようとする者も出て来る筈だ」

 

 

王族の血が流れている。

その事実は何よりも大きいはず。自分達がこれから目指すのは新しい黄の国の確立、それにはリンネと言う存在は邪魔でしかない。

 

 

「でも! それでも殺すのは間違っています!」

 

「……ッ」

 

 

少し声を荒げるミライ。

夏美も咲夜も怯んでしまい、言葉を失う。

そこに助け船を出したのは翼だ。彼はメガネを整えると笑みをうかべ、まあまあと両者を諭す。

 

 

「確かに殺すは言い過ぎかもね。私たちはあくまでもこの国の問題を少しでも良くしようと言うだけなんだから」

 

「そ、そうですね。確かに言い過ぎました。ごめんなさいミライ君」

 

「ワタシも謝ろう。すまない、少し慣れない環境に怯んでしまった」

 

「いやっ! 俺もごめんなさい!」

 

 

笑みを浮かべ合う三人。とりあえず場が丸く収まって何よりだ。

翼は話題を変える為にテトラへ、先程戦った黄色い髪の少年の事を問うた。

 

 

「それは王女直属の護衛兵よ」

 

 

国民たちが揃いも揃ってこの国に従っている一番の理由かもしれない。

簡単に言えば、王女に仕える兵が強すぎるのだ。反逆をしようとする気を失せさせる程の力がそこにはある。

 

 

「話を聞くに貴方が戦ったのは三人いる護衛兵の一人、閃光のレオンよ」

 

「閃光のレオン……」

 

「ええ。一番強いって有名なんだから」

 

「成る程、一筋縄とはいかないか」

 

 

だがとにかく今、自分達がやるべき事はこの国に起こっている問題を一番良い形で解決する事ではないだろうか。

そしてその裏にいるであろう破壊の意思(大ショッカー)を砕く事だ。等と考えたは良いが、そう思っているのはどうやら向こうも同じ様で。

 

 

「おい! なんかゾロゾロ来たぞ!」

 

「!」

 

 

見張りをしていた椿が声を荒げる。

テトラ達を夏美に任せ、河原の坂を上げる翼、すると言葉通り、無数の兵士がコチラに向っているのが見えた。

既にソルジャーのメモリは使用しており、大層な鎧をガシャガシャと鳴らしている。

気になるのは何故この場所が分かったのかと言う事。尾行をされていた気配は無かったが――?

 

 

「先生、危ない!」

 

「ッッ!」

 

 

椿の言葉を受け、翼は咄嗟に体を捻る。すると足元に火花が散った。

なんだ? 素早く周りを確認すると、兵士達とは違う方向に一人の少女が立っていた。

先程のレオン同じく黒を基調にした服に身を包んでおり、黄緑色の髪が目立つ。服は臍の部分が空いていた。

 

 

「へぇー、凄いね、予言の通り本当に橋の下にいた」

 

 

言葉は淡々と放ち、トーンが一定で抑揚は少ない。

棒読みと言うのか、見れば目に光も無く、機械的な印象を受ける少女だった。

 

 

「あの人も護衛兵ですか?」

 

 

様子を確認し、戻った夏美の言葉に頷くテトラ。

黄緑色の髪、噂には聞いている。

 

 

「絶影のアグミ。銃を使うって聞いてる」

 

 

その言葉通り、アグミと言う少女は両手に銃を持っていた。

先程はそれが火を噴いたと言う事だ。

一応、翼は声を掛けてみるが――

 

 

「リンネ王女と話がしたい。テトラちゃんたちの件について、大きな誤解がある様だ」

 

「だめー、だってアンタ等悪いヤツでしょ。悪いヤツは殺さなきゃ」

 

 

眉一つ動かさないアグミ。

代わりに彼女は二丁拳銃を構え、容赦なく引き金を引いた。

何とか地面を転がる事で回避して見せた翼と椿。話し合いはどうやら期待できそうに無い。

仕方ないがテトラ達もいる以上戦うしかない。二人は立ち上がり様にベルトを構え、変身、ブレイドは迫る銃弾を剣で斬り弾き、アギトは跳躍でアグミの背後に着地する。

 

 

「おいクソ女、今すぐその銃を捨てろ!」

 

「お願いだ、どうか分かってほしい。私達も乱暴な事はしたく無いんだ」

 

「んー、無理」

 

「む、無理って……!」

 

 

アグミはどこからかメモリを取り出すと、それを素早く自らの銃に押し当てた。

すると『ガン』の音声と共にアグミが持っていた銃が二つとも近未来な兵器の様なデザインに変わる。

肉体ではなく(モノ)にガイアメモリを使用できるのかと驚く二人。だが驚いている暇は無いとはこの事、アグミは両手を広げ、強化された銃から弾丸を発射する。

反応する事ができず胴から大きな火花を散らすブレイド。そもそも銃から放たれたのは弾丸と言うよりは球体のビームだ。彼は威力の高さに踏ん張る事ができず地面へ倒れる事に。

一方で体を捻る事で何とか回避に成功したアギト。しかしまだ攻撃は終わっていなかった。アグミが指を鳴らすとアギトの背後に魔法陣が出現、するとそこへ光球が命中し反射、アギトの背に着弾する。

 

 

「グッ!」

 

「やったー、命中ぅ」

 

 

全く嬉しそうではないが、アグミは再び指を鳴らす。

すると橋の周りに無数の魔法陣が出現、意味を察したアギトは声を荒げ注意を叫ぶ。

 

 

「もう遅いよ」

 

 

引き金を引くアグミ。すると彼女の銃からではなく、魔法陣から光弾が発射されていった。

 

 

「ババババババババババババババババババババ」

 

 

アグミの言葉に合わせるようにテトラ達がいるだろう場所に銃弾が次々に飛来していく。

すぐにアギトはアグミを止めようとするが、彼女は華麗に宙を舞い、アギト達から距離を取っていた。

アグミはすぐに橋の下を確認、テトラ達が蜂の巣になっているのを期待したが――

 

 

「あれ?」

 

 

そこには彼女が期待した光景はなかった。

見えたのは巨大な龍がテトラ達を守っている所。さらにその前には数人の戦士が煙を上げているではないか。

アギト達が変身したのと同じく、橋の下でも他のメンバーがちゃんと変身していたのだ。

龍騎はドラグレッダーを呼び寄せテトラ達の周りに体を置くように命じ、自らは二つのドラグシールドで光弾を受け止めた。

さらにドッガフォームのキバ、タイタンフォームのクウガが並び、テトラ達を守っていた。

 

 

「あー、むかつく。殺っちゃってよ皆」

 

 

アグミの命令で丁度到着した兵士が入れ替わるようにテトラ達を目指す。

当然止める為に構えるライダー達。ミライは攻撃を止めてくれと兵士達を一応止めて見せるが、そんな物は無意味だ。結局とすぐに乱闘が始まる。

 

 

「皆さんコッチに! 逃げましょう!」

 

 

夏美はテトラ達を連れて乱戦状態の戦場から逃げ出そうと試みる。

しかし当然、それをアグミが許すわけは無い。彼女は空中を回転しながら夏美たちの前に着地、相変わらず無表情で銃口を彼女達へ向けた。

 

 

「逃げないでよー、殺せないじゃん」

 

「ッ、どうしてこんな酷いことを!」

 

「んー? 酷い? 何が? どこが?」

 

「て、テトラちゃん達は悪いことなんて何もして無いじゃないですか!」

 

 

ただ暮らしが厳しいから王女に今の政治形態を何とかしてもらいたかっただけだ。

それを反逆だ何て、それも家族まとめてあんな形で処刑させようなんてどう考えても間違っている。

夏美は必死にそう語りかけてみるが、アグミの心には全く引っかからない様で。

 

 

「どうでもいいよ」

 

「どうでもいいってッ!」

 

「だって、王女様が殺せって言うんだから、私はそれに従うだけ」

 

 

引き金に指をかけるアグミ。すると銃声。

尤も、それはアグミが放った音ではない。何故ならば今の銃声はアグミの銃を弾く為に放たれた物だからだ。夏美達の視線がその銃弾を撃った者に向けられる。

それは明日乃ミライであった。彼はトライガーショットと言う光線銃を構えている。先程はコレでアグミの銃を弾いたのだ。

 

 

「皆さん、今の内に逃げてください!」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 

夏美は頭を下げると予定通りテトラ達を連れて逃げる事に。

アグミはすぐに逸れた射線を元に戻すが、そこには既に移動していたミライが立ちふさがる。

 

 

「んー? 邪魔」

 

 

とは言えどすぐにミライを撃ち殺そうと引き金を引くアグミ。

しかし同時にミライも引き金を引いて光線を発射、二人が放つ弾丸は互いにぶつかり合い、接触点で爆発し消え去る。

 

 

「結構狙い上手だね、君」

 

「お願いです、もう止めてください」

 

「ヤダ」

 

「……ッ」

 

 

次は容赦なく連射を行うアグミ。人間が防げる技ではなかった。

そう、普通の人間なら。

 

 

「あれ?」

 

 

ミライは左腕を曲げて前にかざす。

そこにあるブレスレットが光を放ち、何とバリアを形成、襲い掛かる光弾を全て無効化していく。

無駄だと分かったのか動きを止めるアグミ。しかし気になるのは彼女はアギトを見ても今のミライを見てもまだ表情を一つも変化させていないと言う事だ。何故なのか?

一方でチャンスが出来たと踏んだミライ。彼はポーチから緑色のボールを取り出すと、それをモバイルパッド・エルピスに装填して引き金を引いた。

 

 

「頼むよ! アギラ!」『REALIZE』

 

 

電子音と共に光の輪が幾重も出現。

その中央に具現するのはカプセル怪獣アギラ。

赤い襟巻きを持った恐竜の様な怪獣であり、頭部には湾曲した一本角が見える。。瞼を半分閉じており、眠そうな表情である。

 

 

「キュオォォン!」

 

「うぉ」

 

 

しかし人は見かけによらぬ物と言うが、それはまさに怪獣も同じなもので、アグミから少し離れた場所に実体化したアギラは一度の跳躍でアグミの眼前にまで迫る事に成功した。

速い、彼女がそう思った時にはアギラの尻尾がアグミの腰を打つ。呻き、よろける彼女へアギラは追撃を行った。

彼は襟巻きを展開するとそこから強力な冷気を発射。強力なブリザードがアグミに襲い掛かり、彼女の体を氷の膜で覆っていった。

文字通り氷の檻。アギラが手加減をしている為アグミに与えられるダメージは少ないが、身動きは当然制限される。

言うなればアグミの形をした氷を被せている様な物、彼女は抵抗を示すが体はピクリとも動かない。

 

 

「よしよし、良くやってくれたねアギラ。戻っていいよ」

 

「キュウ!」『VARNISH』

 

 

役目を終えたアギラは消滅。彼は強力な氷の力を操る事ができる。

ただの冷気ではなく、アギラの力で生み出された冷気のため、威力の強弱も設定できる。

おかげで対象を傷つけずに動きを封じる事が可能なのだ。とにかくアギラのおかげでアグミの動きが止まった。この隙に逃げられる筈だ。そう、ミライは思っていた。

 

だがその時、彼の考えを乱す因子が。

と言うのも踵を返した彼の前に次々と振ってくる兵士達が見えた。

文字通り空からボトボトと落下していく兵士、彼らは叫びながら地面に叩きつけられ、絶命。

ドーパントの鎧があったからこそ一度目の死は無効化されるが、致死量のダメージを受けたのは間違いない。降ってきて死ぬ、それはそれだけ落下のエネルギーが大きかったからだ。

つまり、死ぬほどの高さから落ちたと言う事。ありえるのか? そんな事。

ミライが息を呑むと、落下する兵士に紛れてゆっくりと空中を浮遊し地面へ向う異形の姿が見えた。

 

 

「あれは――ッ!」

 

 

一言で言うなればコブラ男とでも言えばいいのか。

キングコブラを人型にした様な姿で、装飾品のイメージはエジプトを強く思わせる。

鳥が翼を広げたようなデザインの杖を持っており、彼はそのまま地面に降り立った。

 

 

「ジィィィィ……!」

 

 

低い唸り声を上げて辺りを見回すコブラ。

その時、どこからかミライ同じく状況を確認した者が言葉を放つ。

 

 

「大ショッカーか!」

 

「ッ、あれが!」

 

 

コブラ男のベルト中央には金色の大鷲のエンブレムが見える。これは夏美達がずっと戦ってきた敵、大ショッカーの一員である証だ。

神使アンノウン。その名はスネークロード・マスクルス。彼は殺害の構えを取ると、杖を兵士達に向けてかざす。

すると兵士の背後に巨大な光のトンネルが出現、同時にマスクルスが突風を放ち、兵士達を次々にそのトンネルの中へと押し込んでいく。

 

 

「うわぁあああああああ!!」

 

 

光のトンネルに押し込まれた兵士はどうなるか?

それは押し込まれたトンネルは入り口であり、そうなると必然的に出口が存在する事になる。

それが上空なのだ。トンネルに飲み込まれた兵士は一般的な建物の約20階程の高さから落とされる。元々ダメージを受けていた兵士は耐えられず、何とか耐え切った兵士もマスクルスが止めを刺す形で次々に爆発、破壊されたメモリを排出して気を失っていく。

 

 

「大ショッカーが兵士を攻撃しているのか……?」

 

 

おかしい。

ガイアメモリを持っていると言う事は、当然大ショッカーの手が掛かっていると思っていたが、何故同じ大ショッカーのマスクルスが仲間である筈の兵士達を攻撃するのか。

とは言えコチラの味方と言う訳でもなく、マスクルスは近くにいたキバやクウガにも等しく杖で攻撃を仕掛けていった。

無差別攻撃、向こうの知識が足りないのか? それとも何か別の理由があるのか。

ブレイド、アギト、ミライは集まって素早く作戦を立てる事に。このまま戦いを続けるのはいいが、行動理由が分からないマスクルス、凍っているアグミもその内に拘束が解除されるだろう。夏美とテトラ達は一応少し離れた場所にいるが、戦いが長引けば他の護衛兵がやって来る可能性もある。

 

 

「ここは逃げよう。まずはアンノウンの動きを止めるんだ」

 

「それは俺に任せてください!」

 

 

怪獣ボールを取り出すミライ。

彼はエルピスにそれを装填し、マスクルスの方に向けて引き金を引く。

 

 

「行け、ウインダム!!」『REALIZE』

 

 

光の輪が出現し、そこから現れたのは大きなトサカを持ったメカメカしい怪獣だ。

ウインダム、彼は咆哮を上げて発光している額部分からレーザー発射、乱戦に参加していたマスクルスの肩を撃つ。

 

 

「シィイイ!」

 

「グワァァアン!」

 

 

肩を押さえ膝を付くマスクルス。

しかしすぐに立ち上がり杖を振るってウインダムに狙いを変更する。

一方でウインダムも左腕に火炎放射機を装備し、炎弾を発射しながらマスクルスに距離を詰める。マスクルスもまた杖で炎弾をかき消しながら距離を詰める。結果、ウインダムとマスクルスは互いの武器をぶつけ合い、接近戦を開始した。

 

 

「よし、コレで向こうの気は引けた。私達は兵士を蹴散らしてこの場を離れよう!」

 

「おっけ、任せてくれ先生!」

 

 

そう言って走り出すブレイド、彼は龍騎の名を叫びながらブレイラウザーを展開、中から一枚のカードをを抜き取り、ラウザーに読み込ませる。

 

 

「真志! 俺使え!」『メタル』

 

「え? お、おう!」

 

 

ブレイドは契約したアンデッドをカードに封印し、その力を使うライダー。

今発動したメタルのカードの力によって、彼の体は文字通り鋼に変わる。

硬質化による防御力の上昇、鉄の塊になった事による重量増加。彼は自分自身の意思では移動する事はできても、せいぜいゆっくりと歩くくらいしかできなくなった。

しかし龍騎は彼の意図を察し、近くで一緒に戦っていたドラグレッダーに命令を告げる。

 

 

「グオオオオオオオオ!!」

 

 

ドラグレッダーはその大きな口でブレイドを噛んだ。

と言っても、何も彼を攻撃した訳では無い。正確には咥えたのだ。

メタルを発動したブレイドは確かに硬く、重い。しかしドラグレッダーの力があれば持ち上げる事は容易だった。

真紅の龍はブレイドを持ち上げ、その巨体を大いに振るってチェーンアレイと化す。

ブレイドの身を武器として次々に兵士をなぎ払っていくドラグレッダー、兵士達がどこに逃げようともドラグレッダーのリーチが逃がさない。

すぐにブレイドが飛んできて、その威力に吹き飛んでいった。

 

 

「よし、もういいね。皆ココを離れよう!」

 

 

頷く一同。テトラが良い場所を知っていると言うのでソコを目指す事に。

 

 

「ミライ君!」

 

「はい、分かりました!」

 

 

ウインダムを戻すミライ。

丁度彼の炎がマスクルスを吹き飛ばした所。

大きな隙を作ったところでミライもアギト達に続いて場を離れる事に。

そこでアグミも氷を吹き飛ばし状況を確認。周りには倒れている兵士達、そして至る所から煙を上げ、膝を付いているマスクルス。

正体不明の敵に加えて翼たちの実力も何となくだが把握できた。兵士が居ない以上、ここで向こうを追ったとして人数的な差もある。

アグミとて、この雰囲気ながらにして頭ではよく考えている方だ。引き際と言う物は熟知している。

 

 

「かえろー」

 

 

後ろへ飛ぶアグミ。気絶した兵士は放置して、彼女は一目散へ城へと舞い戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのヘソだし女は!?」

 

「……ッ、追ってきて無いと思う」

 

 

翼達は橋から離れ、とりあえずテトラの知っている隠れられる場所を目指す事に。

はじめは彼女達の家を目指す事も考えたが、そこは確実に敵にバレている場所。

しかも彼女の家がある方向から黒煙が上がっているのが見えた。あまり考えたくは無いが、おそらく追っ手が逃げ場所を奪う為に火を放ったと考えるのが妥当だろう。

テトラ達は死刑囚、容赦はあるまいて。

 

 

「酷い……!」

 

「テトラちゃん」

 

 

走る中、テトラは悔しさに歯を食いしばり涙を流していた。

無理も無い、幼い少女が受けるにはあまりにも酷い仕打ちだ。貧しいとは言えど、自分の家には色々と楽しい思い出もあったろう。

それを容赦なく奪うリンネ達に、夏美もまた言い様の無い恐怖を感じた。

一同は空に上がる黒い煙を見つめながらしばらく足を進めた。だからだろうか、やはり空には黒いフィルターが掛かっている様に思えた。

気分がせいなのか、世界が薄暗く感じる。道に咲く花々も元気が無いようだ。そして辺りを飛びまわるのが蝶ではなく蛾だと言うのもネガティブな雰囲気を加速させる。

 

 

「よし、一旦変身を解除しよう」

 

 

変身中はエネルギーを使う。翼の言葉で変身していた者達は一勢に変身を解除する。

歩く速さも緩め、一同は先程の光景を振り返ってみる。色々と気になる部分はあったが、何よりもまず印象に残っているのは現れた大ショッカーだ。

 

 

「大ショッカー、あれが翼さん達が戦っている敵、ですか」

 

「うん。奴らは世界を破壊する為に手段を選ばない、外道だ」

 

 

一番初めに巻き込まれた時から翼達は大ショッカーの悪事をよく見てきた。

奴らは人を人とは思っていない。悪意の具現、殺意の集合体だ。

多くの罪の無い命が奴らに奪われただろう。翼達は一刻も早く奴等を倒し、元の世界に戻るのが目的なのだ。

 

 

「気になるのは、どうしてヤツはアグミ達を襲ったんだろう?」

 

 

何か意味がある筈だ。尤も、その意味はまだ翼達には分かる物ではないが。

 

 

「リンネ側が大ショッカーを裏切ってメモリだけ奪った、とかでしょうか?」

 

「うーん……」

 

「シャアア!!」

 

「!!」

 

 

上空から蛇の鳴き声が。足を止める一同の前に杖を持ったマスクルスが跳びかかってきた。

どうやら空間を繋ぐトンネルを使ってコチラ側を追って来たらしい。

それは最後に戦ったのがウインダム、つまり翼の仲間であるミライだったからか? それともやはり大ショッカーの狙いはコチラ側なのか?

話を聞こうにもマスクルスは言葉を話せぬ様子、ここは戦うしかない。

 

 

「くそッ! タイミング悪いな!」

 

 

とは言えつい先程皆は変身を解除したところ。

再び変身してもいいが、無駄なエネルギーを使ってしまうのは避けたい所だった。

とは言え戦わなければどうしようもない、ココはと翼が前に出るが、それを制した者が一人。

 

 

「俺に任せてください。あいつは俺が止める筈でした。責任は取ります」

 

 

前に出たのはミライ。彼はビリビリと感じる殺意を前に、大ショッカーがどんな存在なのかを改めて理解する。

確かに肌を刺すような悪意だ。大きな闇がミライを包み込もうとする。しかし負ける訳にはいかない、何故ならば彼の存在する意味があるからだ。

そう、人を守ると言う意味が。

 

 

「ジィイイイ!!」

 

 

低い唸り声を上げて迫るマスクルス。

一方でミライは左腕にメビウスブレスを出現させ、右手でブレスにあった赤い宝石を回転させる。

舞い散る光の火花。翼達もその変化を確認、息を呑んでミライを見る。

 

 

「メビウスッ!!」

 

「!!」

 

 

左腕を突き上げるミライ。すると眩い光がブレスから放たれた。

光は彼だけを包むに留まらず、辺り一面に輝きを満たしていく。

思わず目を覆うマスクルス、夏美たちも薄目で状況を確認していた。

 

 

「眩しい……!」

 

 

そして何より、暖かいその光。

それが晴れたとき、ミライが立っている場所には――

 

 

「そうか、やはり彼は――!」

 

 

翼はミライがライダーの姿を見てもそれほど驚かなかった理由を予想していた。

それは正解、やはり彼もただの人間では無い。コチラ側の人間だったと言う事だ。

異形、そしてそれはライダーではない筈。彼が語っていた希望。

 

 

「彼が、メビウスなのか!」

 

「凄い……! 綺麗」

 

 

思わずテトラはその神々しさに目を奪われる。

ウルトラマンメビウス・スペランツァー。右腕の肘を曲げ、拳は握り締めて掲げるように上へ。左腕は伸ばし、拳は開き前へ突き出す。

いつもの構えを取り、彼は立ちはだかるマスクルスを睨みつけた。

 

 

「ヘァア!」

 

「ジィイ!」

 

 

光の戦士と死の従者は同時に地面を蹴って走り出す。

先に動いたのはマスクルス、彼は大きく杖を横に振るってメビウスの首を切断しようと目を光らせる。

しかし瞬間、マスクルスの視界からメビウスが消えた。それはメビウスが攻撃を見切り地面を転がったからだ。

マスクルスの杖は空を切り、メビウスは回転しながらも手をブレスに掛けていた。添えた右手を平行に切ると、その軌跡をなぞる様に光が伸び、それが剣へと姿を変えた。

メビュームブレード。ブレスから伸びた刃を振るい、メビウスは立ち上がり様にマスクルスを背を切り裂いていく。

 

 

「ジィィイッッ!!」

 

 

ダメージを受けたマスクルスもすぐに体勢を立て直し、杖を剣へと打ち付けていく。

しばらくは互いの武器がぶつかり合う音が続くが、そこに打撃音が混じった時、状況は一気に変化を遂げる。

そう、メビウスは剣を使えるが、あくまでもメインは徒手空拳。拳や蹴りを交えた動きにマスクルスはペースを乱され、一気に流れを掴まれてしまう。

腹部に蹴りを受け怯んだところへ剣の一閃。杖を突き出せばそれを掴まれ、受け流された所で剣の一閃。

 

 

「強い!」

 

「ああ、それだけミライ君も経験をつんできたと言う事なんだろうね」

 

 

つくづく思う。

世界は広いのだと。翼達の全く知らぬ所でミライの様な戦士が戦っていたのかと思うと、何やら感慨深い物があった。

 

 

「テェヤァア!」

 

「グジィィッッ!」

 

 

メビウスの斬り払いがマスクルスにクリーンヒット、彼は呻き声を上げながら地面を転がっていく。

チャンスだ、追撃に走るメビウス、しかし好機と見ていたのはマスクルスも同じだった様だ。

勝利を確信するその時に大きな油断が生まれる。マスクルスはそれを知っていたのだから。

 

 

「ジィアッ!」

 

「!!」

 

 

メビウスが止めを刺そうとした所でマスクルスは杖を前にかざした。

すると彼の前方に光のトンネルが出現、勢いをつけて進んでいたメビウスは突如現れたソレを確認はするものの対処が出来ず、引力もあって完全に吸い込まれてしまう。

アッと声を上げる夏美。大丈夫なのか!? 一同が視線を上に上げると、そこには空高い場所に現れる出口が。

そしてそこから強制的に排出されるメビウス。目もくらむような高さ、今から彼はそこから地面に落下していくのだ。

 

 

「ミライくん!」

 

「ジシシシシ」

 

 

対比。

不安に叫ぶ夏美と、勝利を確信し笑みを浮かべるマスクルス。

しかし彼が先程思い浮かんだ事。それは人間だけではない、アンノウンとてまた勝利への魅力は大きな油断を生み出すのだ。

 

 

「ジィイ!!」

 

 

マスクルスの肩が、胸が、頭部に小さな爆発が起きる。

舞い散る火花、彼は全く予想もしていなかったダメージに脳を揺らせて、思考がビタリと停止する。

一方で意味を理解した夏美達。ライダー達の中にもその状況に適応できる者がいる様に、メビウスもまた――、と言う事なのだろう。

そう、空中には確かに浮遊しているメビウスの姿があった。翼なき者は必ずしも飛べぬ訳ではない。

メビウスには飛行能力が備わっており、彼は上空から光弾・メビュームスラッシュを発射、三発全てを命中させる事に成功した。

 

 

「フッ!」

 

 

マスクルスの動きが完全に停止した。

メビウスはブレスにある球体、クリスタルサークルを回転させる。

するとエネルギーが溢れ、メビュームブレードが巨大化、大きく『しなる』ソレを振り下ろしながらメビウスは一気に急降下を行った。

 

 

「タァアア!」

 

 

ややエコー掛かった声が響く。光の刃はマスクルスの脳天から一直線に進入。

そして――

 

 

「ヘァアアッッ!!」

 

 

ブレードを振るうメビウス。

するとマスクルスの体にメビウスの紋章である無限のマークが刻みつけられた。

強化したメビュームブレードで無限の軌跡を描く。コレが彼の必殺技、ブレードオーバーロードであった。

 

 

「ガッッ! ジガァッ!」

 

 

杖を落とし後退していくマスクルス。その頭部上部に光の円が出現する。

 

 

「ガアアアアアアアアアアア!!」

 

 

そして倒れ、爆発。

メビウスは着地すると、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

「すごいですミライくん!」

 

「ああ、滅茶苦茶強いじゃねーか!」

 

「あはは、皆さん程じゃないですよ」

 

 

変身を解除するミライ。そこに夏美達が駆け寄りわちゃわちゃと。

 

 

「それがメビウスなんだね」

 

「はい、ウルトラマンメビウス。俺の誇りです!」

 

 

そう言って笑うミライの表情は、確かに輝いていた。

それだけ彼にとってメビウスと言う存在、ウルトラマンと言う存在は大きいものなのだろう。

夏美は彼の笑顔を見て、なんだか無性に嬉しくなった。似ているのだ、ミライは、彼に。

 

 

(無事ですよね……? 司くん)

 

 

そこで首を振る夏美。

ネガティブな考えは良くない。

とにかく仮面ライダーと言う存在意外に共に戦えるヒーローが居たことは嬉しい。

色々と話し合いたいところだが、今はテトラ達の安全が優先だ。一同は頷き合うと、テトラが言う安全な場所を目指すのだった。

 

 

「シィィィィイ」

 

 

そして、その光景を遠くから見つめる者が。

蛇で出来た髪を持ち、マスクルス同じくエジプトを思わせる服装、そして腰には大鷲の紋章。

蛇女と言えば分かりやすいか。スネークロード・アングィス・フェミネウスはその様子を観察し、妖艶な笑みを浮かべている。

そして別の場所でも、二つの人影がその様子を観察していた。

 

 

「ウフフ! 凄いわね、ウルトラマンメビウスだって!」

 

「ちょっと強いみたいだけど、例外は無いよ。全てぶっ潰してやるだけさ」

 

 

三日月の様に口を釣り上げた二つの影は、ミライを目に映したまま消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テトラちゃん。ここが?」

 

「うん。教会、いつもお祈りしてるんだ」

 

 

テトラが安全な場所と言ったのは、一つの教会だった。

それほど大きな物ではないが、翼達が隠れる分には十分であろう。彼らは裏に回り戸を叩く、すると中から姿を見せたのは一人のシスターだった。

綺麗な人だ。そして見るからに優しそうな雰囲気を持っている。彼女はテトラを見るやいなや身を乗り出さんとの勢いでテトラを抱きしめた。

 

 

「ああ、テトラ。無事で本当に良かった! 捕まったと聞いて心配したんですよ」

 

「ごめんねシスター。ちょっと隠れさせてもらって良い?」

 

「ええ、もちろん。さあどうぞ皆さん。暖かい紅茶を入れますわ」

 

「どうも、ありがとうございます」

 

「すみませんシスター、私達のような者を」

 

 

テトラの両親はやはり教会を、他人を巻き込む事に後ろめたさを感じている様だ。

無理も無い、しかし当の彼女は慈愛に満ちた笑みを浮かべ、気にしないでほしいとテトラの頭を撫でた。

 

 

「困った時は助け合うのが当然です。それに私は知っています、テトラちゃん達が罪を犯す人間ではないと」

 

「シスター……!」

 

「私はテトラちゃんの事を小さい時から知っているんですよ? 王女様よりもね」

 

 

素晴らしい人だ、翼達は嬉しく思う。

リンネ王女の恐怖政治の中で確かな良心を持っている人間がまだまだいるのだと。

シスターは翼達が寝泊りできる部屋を一つ用意してくれた。コレで拠点は確保できた、一同はホッと胸をなでおろす。

少し話を聞いてみればシスターとテトラ家は昔からの顔なじみらしい。テトラもシスターが好きで、よく教会に遊びに来ていたと。

 

 

「すみません、狭い所で」

 

「いえ、助かります」

 

「何か困った事があったらいつでも言ってくださいね。あ、そうだ、テトラちゃん達怪我は?」

 

 

シスターは看護の心得が少しあり、簡単な応急手当くらいはできると。

テトラも彼女の両親も少し怪我をしている。一番酷かったテトラは一応夏美が既に応急処置を施しているが、ここはお言葉に甘える事になり、シスターに手当てをお願いする事に。

テトラはシスターに連れられ、薬や包帯が置いてある部屋でちゃんとした手当てを受ける事に。

 

 

「シスター」

 

「はい?」

 

「私、どうなるんだろう?」

 

「大丈夫ですよ。テトラちゃんは私が守ります」

 

「でもッ、リンネに見つかったらシスターも」

 

「見つからなければいいのです。信じましょう、世界は希望に溢れているのですから」

 

 

テトラを励ましながら手当てを行うシスター。

彼女は常に笑顔を浮かべ、テトラを不安にさせない様に声を掛け続ける。

先程も言ったとおり、シスターは昔からテトラを知っている。勉強も教えたし、一緒にお菓子を食べたりもした。

だからシスターは知っているのだ、今不安に怯えているテトラが本当の彼女ではない事を。

 

 

「本当の貴女はもっと明るくて素敵な人。リンネ王女も分かってくださるわ」

 

「そう、かな?」

 

「ええ。貴女を助けてくれたあの人たちも大きな希望を感じます。きっと、この国を良くしてくれる光になりますよ」

 

「そう、だね。そうだよねシスター」

 

 

パァと笑顔に変わるテトラ。やはりシスターの言葉は彼女の心に響くらしい。

そうしていると手当てを完了させるシスター。弓矢が掠ったものの、傷は浅く、夏美が応急処置を施した為、化膿もしておらず、特に大事にはならなかった。

 

 

「さあ終わりましたよ。お父さんとお母さんを呼んできて」

 

「うん、ありがとうシスター」

 

 

テトラはお礼を言うと次に手当てを行う父と母を呼んでくる。

翼達はこれからどうするのかを話し合っている様で、何やら真剣な表情で意見を交差させていた。

彼らの正体はテトラは詳しくと聞いていないが、自分達を助けてくれたからこそ悪い人ではないと言う事が分かる。

きっと、彼らはこの世界をよくしてくれる筈だ。テトラは笑顔をありったけの期待を目に宿して夏美達を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「本当にありがとうございますシスター。私達のような者をかくまって下さり……」

 

「もう、よしてください。これは私の意志で行っている事なのですから」

 

 

聖堂に呼ばれたテトラの父と母はシスターに怪我を見せていた。

きつく縄で縛られ粗暴に扱われたからか至る所に擦り傷や切り傷が見られるものの、テトラ程の傷は負っていない。これならば軽い消毒だけで済むだろう。

 

 

「先程も言いましたが、私は貴方達とは長い付き合いではありませんか。王女様は何か大きな誤解をしているのです。それが解けるまで、どうかこの教会をお使いください」

 

「本当に感謝しています」

 

「いえいえ。神は、誰にでも等しく慈悲の心を与えてくださる物です」

 

 

しかし何だ、テトラの両親はこれからの不安が幼いテトラよりも大きいだろう。

表情を見ればヤツれている様に感じる。これからどうなるのかと言う不安、死刑囚として追われている恐怖が原因か。

この教会も絶対に安心と言う訳ではない筈、先の見えない現状は辛いものだろう。

それはテトラ本人や翼達も同じはず。

 

 

「そうだ、友人に教わった良いリラックス方法があるんです。良ければいかがですか?」

 

「え? ですが――」

 

「気にしないでください。お二人が笑顔の方が、テトラちゃんも喜びます」

 

 

そう言われては断る理由も無い。

テトラの両親はシスターの好意を受け入れる事に。

シスターは笑顔に変わると、早速そのリラックス方法を二人に試してあげる事に。

 

 

「マリリヤ、フィーネ、用意をお願い」

 

「はい、シスター」

 

「わかりましたわ」

 

 

聖堂の中に入って来るのは、同じく修道服に身を包んだ二人の女性。

水色の髪をしたマリリヤと言う女性、フィーネと言う女性は白いスカーフを巻いていた。

シスターもそうだが、この二人の女性もとても美しい。思わず目を奪われる二人、修道服が良く似合っている。まさに天使の様だ。

 

 

「お二人を楽にしてあげて」

 

 

頷く二人のシスター。彼女達はテトラの両親の背後に回ると、マッサージを始める。

成る程、確かにこれは気分が楽になる。心地良さに笑みを浮かべる二人と、ステンドグラスを見つめるシスター。

 

 

「懐かしいですわ。昔はよく、私がテトラちゃんにマッサージをしてもらっていたんです」

 

「ああ、そうでしたか」

 

「ええ、本当に、懐かしい」

 

 

その時、テトラの父親が冷たい物を感じた。

え? 驚いて目を開けると、ダラリと頬を伝う液体が。

上を見ると、自分の肩に手を置いているフィーネが大量の唾液を垂れ流している所だった。

 

 

「え? え? あ――」

 

 

思考が停止する。白い髪、白いスカーフ、上品で美しい顔立ちからは想像もつかない行為に考える力が削がれていく。

何故こんな事を? 彼がそれを聞こうとした時、もう一つの明確な変化が訪れた。

 

 

「――ぁああああああ!!」

 

 

叫びが、しかしそれは本当の声に出ていたのだろうか? それは今となっては分からない。

聞こえるのは、轟々と燃える炎の音、テトラの父は声帯ももう既に焼け爛れている事だろう。

それは突然だった。フィーネの唾液が発火、テトラの父を包み込むと、抵抗を許さぬ程の火力を見せ付ける。

すぐに全身に燃え移る赤い炎、呻き声を上げてもがいていた彼も、やがては地面に倒れて動かなくなった。

 

 

「な、なんで――」

 

 

呆然とした様子でテトラの母は呟いた。

仕方あるまい、先程まで確かに生きていた筈の夫が一瞬で灰になった。

もう顔も分からぬ程に燃え尽きてしまった人生の伴侶、死刑を免れ、これから生を掴もうと思っていたのに。

 

 

「―――」

 

 

彼女に関しては、声はなかった。

ただ体をブルブルと大きく動かし、焦点の合わない黒目を縦横無尽に動かすだけ。

椅子から転げ落ち、しばらく痙攣を繰り返した後、テトラの母は動かなくなった。

首には何かが刺さった痕、そして彼女をマッサージしていたマリリヤの指にはテトラの母の血が。

 

 

「………」

 

 

静寂が聖堂を包む。

ステンドグラスからは神秘的な光が漏れ、室内を包み込んでいた。部屋の中にいるのは三人のシスターと二つの死体だ。

 

 

「あぁ、神よ――」

 

 

シスターは祈るようなポーズを取り、ゆっくりと目を閉じた。

そして、叫ぶ。

 

 

「誰か! 誰かぁ!!」

 

 

悲痛な叫びは無音の教会によく響き、翼達がいる部屋に情報が伝わるまでそう時間は掛からなかった。多くの足音が聞こえる。

そして扉を開く音。聖堂に夏美や翼達がやって来る。そして声が、テトラは地面に転がっている母親に必死に声を掛けていた。

しかし無駄。当然だ、もう死んでいる。父に関しては父と確認する事もできない状態になっているのだから。

 

 

「いやぁあああああああ!!」

 

 

泣き崩れるテトラ。それを悲痛な表情で夏美達はただ見ているだけしかできない。

かろうじて翼が状況を把握し、シスター達に何があったのかを問う気力を持てた。

一同が放心しているのはテトラの両親が死んでいるのを見つけた、だけではない。

この聖堂に来るまでも、教会には多くの修道女の死体があった。いずれも死因は焼死か感電死。そしてテトラの父もまた焼死、母は感電死、コレが意味するのは――?

 

 

「リンネ王女の暗殺部隊が!」

 

「ッ、そんな物が!?」

 

「ええ! 私も詳しくは知りませんが、話だけは聞いた事があるのです」

 

 

シスターは翼達に語る。テトラの父と母を殺したのはリンネ王女が向わせた者達だと。

自分達は何もできず、ただ殺される者を前に震えるしかできなかったと。

 

 

「申し訳ありません……! 本当に、本当に!」

 

「いえッ! 貴女達だけでも無事で良かった……」

 

 

とは言え、拳を握り締める翼。

怒りに震えるのは彼だけではない。チラホラと夏美たちの中から王女に対する声が上がってきた。

 

 

「リンネ! 許せねぇ!」

 

「これはあまりにも酷すぎるぞ!」

 

「――ッ」

 

 

ミライもまた母親の死体にすがりついて泣きじゃくるテトラを見て複雑な表情を浮かべていた。

強く拳を握り締め、歯を食いしばり、守れぬ辛さを実感している。

ここで口を挟むマリリヤ、彼女はリンネの兵士達が話しているのを聞いたと。

 

 

「リンネ王女は次はテトラちゃんを狙うつもりです」

 

「ッ、本当ですか?」

 

「ええ。どんな手を使っても、むごたらしく殺すと、そう言っていました。ああ恐ろしい!」

 

 

その言葉を聞いて夏美は居ても立ってもいられず、けれどもできる事と言えばただテトラを抱きしめる事しかできなかった。

このまま守っているだけでは、やはり隙を突かれてテトラが殺されてしまうかもしれない。

だから、翼はメガネを整える。その先にある瞳には確かな決意があった。できるならばこの選択は取りたくはなかった。しかしもう、あまりにも、彼らは見てしまったから。

このまま無関係の人間が殺され続ける前に、止めなければならない。

 

 

「リンネ王女を殺そう。今から城に乗り込むんだ」

 

「ッ!」

 

 

息を呑むミライ。

彼もまた拳を握り締め、表情を複雑に歪ませる。

 

 

「……ちょっと待ってください! 殺すのは間違っています!」

 

「けどよミライ、このままじゃどうにもならないだろ!」

 

 

真志の言葉にチラホラと賛同する声が聞こえてくる。

しかしそれでもミライは引かなかった。確かに、それはミライにも分かる話だ。

後手後手に回っていてはテトラもいつか殺されてしまう。だが、だからと言って王女を殺せば済む話でも無いだろう。

事態の根本が解決しなければ、負の連鎖は起こり続ける。憎しみで憎しみを断つのではなく、全ての憎しみを少しでも消せる様にしなければと説く。

 

 

「もちろん私達もそのつもりだよ。けれど、最悪の結末も考えていてほしいんだ」

 

「……俺は、それでも、分かり合える道を探したいです」

 

「ッ」

 

 

翼は少しの間沈黙し、メガネを整えた後、ゆっくりと頷く。

 

 

「分かった。だけど城には攻め込むよ。このままだと、多くの命が奪われる」

 

「それは――、分かりました。俺も王女は止めたいです」

 

「よし、決まりだね」

 

 

これからの方針を固める一同。

一方で、シスターはステンドグラスを無言で見つめていた。色とりどりの光に引かれたのか、何匹かの蛾がそこには張り付いている。

 

 

空は、今も暗い。

 

 

「……フフ」

 

 

誰にも聞こえない程の音量で、彼女は笑う。

 

 

 

 





☆エピナビ☆

・アンノウン

仮面ライダーアギトに登場する敵の総称だ。
この作品ではグロンギを配下に持ち、神使(しんし)と言う集団を作っていた所を大ショッカーに引き抜かれたぞ。
人間を生きる価値の無い生き物と見なし、容赦なく殺そうと襲ってくる。恐ろしい連中だ。



………

フェス。やっとホタルちゃんが勝ってくれて僕は満足です。
次回は未定、なるべく早くしたいとは思っていますが、気長にお待ちください。
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