Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫 作:ホシボシ
「我夢くん……ッ!」
「………」
一方城の前ではディケイドを追わなかった響鬼が立っていた。
それはアキラが彼を呼び止めたからだ。アキラの目の前で響鬼はただ無言で立ち尽くしている。
アキラは肩を震わせ、取り合えず笑顔を浮かべてみた。もちろん今の状況、そんな物はただ虚構で塗り固められた作り笑顔だ。
冷静なアキラでさえ、頭がおかしくなりそうだった。今まで自分達はいろんなピンチを乗り越えてきた。
それこそ死を身近に感じたことも何度かある。しかしその度に助け合い、乗り越えてきたのも事実。だが今、簡単に死んでしまった。咲夜も、美歩も、真志も、椿も。
「我夢君、何があったのか、教えてください。私が助けるから、私が力になるから!」
操られているなら何が何でも元に戻すから、彼女は音笛を構えてニコリと深い笑みを響鬼に向ける。
なるほど、それは確かに言葉通り全てを受け入れてくれそうな笑顔だった。
おかしくなりそうな心を押さえ込んで浮かべた本当の笑みだろう。
「アキラ! 離れて! 今の我夢は普通じゃないから!!」
ユウスケを抱き寄せながら薫は少しでも我夢から離れようとしている。
確かにそう思われても仕方ない。自分達は仲間を殺した、それは事実だ。
しかし彼女達はそれを頑なにディケイド達自身の意思で行った事を認めようとはしない。響鬼はその事に大きなため息をつく、やれやれと言った様子で両手を広げた。
「安心してください薫先輩、アキラさん。僕は正常ですよ」
「なら、何があったのか、教えて我夢くん!」
「………」
薫の制止を振り切りアキラはフラフラと響鬼の前にやって来る。響鬼はと言うと、そんな彼女の肩に優しく手を置いた。
「覚えていますか、僕が貴女に告白した時の事」
「は、はい! 今も鮮明に」
アキラは語る。アレはまだ自分達が仮面ライダーの事件に巻き込まれる前の事、文化祭の準備で学校に残っていた時だ。
彼は亘や里奈達のアシストを受けてすごく緊張しながらもアキラに思いを伝えた。
真っ赤に顔を染めて、言葉も噛み噛みではあったが、しっかりとアキラが好きだと伝えたのだ。アキラも元々我夢が気になっていた為、二人の想いは見事に成就したのである。
「……そうですね、アキラさんは僕の大切な人です。それは今も」
「我夢君……! だったら――」
ドンッとアキラの腹部に衝撃が走る。
彼女が其方に視線を向けると、響鬼が音撃鼓を自分の腹部に押し当てている所だった。
展開していく音撃鼓、その意味、アキラならばよく分かっているだろうて。
「我夢君、何で――ッ!」
ボロボロと涙が零れていく。愛していた、ずっと好きだったのに。
「知ってますか、アキラさん」
響鬼は音撃棒を構えると、コチラに手を伸ばしているアキラを睨みつけた。
そして大地を踏み締め、音撃棒を思い切り振りかざす。
「死が、愛を永遠にしてくれるんですよ」
音撃打、爆裂強打の型。
音撃のエネルギーが生身のアキラに注ぎ込まれ、彼女は衝撃で遥か後方に吹き飛んでいった。
おそらくその一撃でアキラは即死していただろう。何故ならばそれだけの力を響鬼が込めたからだ。
そして彼女は二回程地面をバウンドし、直後体内に増幅していくエネルギーがせいで、爆発を起こして完全に粉々になる。
「……鬼、鬼――ッッ!!」
絶望の表情だ、涙を流しながら薫は目を見開いて響鬼を見ていた。
薫は我夢がどれだけアキラを想っていたのかを知っている。しかし今、その恋人さえ彼は簡単に殺してみせた。その姿は、紛れも無い外道の姿ではないか。
すると響鬼は敬礼に似たポーズを薫に向ける。シュッと一声告げた後、彼は淡々と良い放った。
「ええ、鬼ですから、僕」
変身を解除した我夢。彼は大きな着物を翻しながらディケイドの後を追うのだった。
残された薫は呼吸を荒げ心臓の鼓動を少しでも抑えるしかない。
アキラが死んだ、仲間がまた減った。いつかはこうなる可能性もあるとは覚悟していたが、それがこんな形で、しかも多数やってくるとは。
「うグッ! ひっく!」
泣きたい、泣いて泣いて叫びたい。
しかしやらなければならない事がある。何故か分からないが、幸い我夢は自分達は見逃した。
薫は今の内にユウスケを安全な所へ運ばなければならない。それだけではなく、彼女は一旦ユウスケから離れて倒れているガタックに声をかけた。
「鏡治! 起きて、お願い!」
「――ッ! うぅ!」
変身が解除されえ鏡治はゆっくりと目を開けた。
全身に弾丸受けたからか、少し体を動かす度に骨が軋んで痛みが走る。
「ぐッ! ど、どうなったんだ……?」
「それは――、その」
口にして良いのか迷ってしまう。と言うよりも言葉にできなかった。
司達が仲間を殺した等と、頭では分かっているのに心が言葉を遮る。
だから取り合えず今はユウスケを連れてこの場を離れる、それだけしか言えなかった。鏡治も何となく察してくれたのか、特に何を言うでもなく強く頷く。
「ああ、そうだ、取り合えずユウスケを運ぼう」
鏡治がユウスケをおぶろうと手を伸ばす。
その時、ハッと薫が表情を変えた。それは先程攻め込もうとしていた王城から一人の人間がやってきたからだ。
おそらく少女だろうが、よく分からないのは帽子にあるベールで顔がよく分からないからだ。黒い喪服に身を包んだ少女はフラフラと戸惑う鏡治達に近づいてくる。
「ヒヒッ! ギヒッ! ぐぴぴぴ! きゃははははは!」
「!?」
少女は笑っていた。そして自分からベールを外して素顔を鏡治達へ見せる。
思わず言葉を失う一同、やはり少女だったのだが、彼女の目の黒目はそれぞれ違う方を向いており、三日月の様に釣り上がった口からはダラダラと涎が垂れていた。
その雰囲気に少し怯んだのも束の間、彼女の体が音を立てて変化していく。
「ッ! ワーム!?」
鮮やかなセルリアンブルーの海老が一同の前に。
ワームだと確信したのは彼女の腰に巻かれたベルト中央に金色の大鷲が刻まれていたからだろう。
キャマラスワーム、彼女は右腕にある巨大なかぎ爪を構えて鏡治のほうを目指す。
「ポルルルルルルルルル、ポワッ! ポワッ!」
「ぐっ! コイツ……! 変身!!」『HENSHIN』
見た目に似合わず可愛らしい声を放ち歩いてくるキャマラス。
しかし敵である以上容赦はできない、鏡治はガタックに変身すると、戦闘を行う事に。
角を弾いてキャストオフを行うガタック、しかしキャマラスは当然と言うべきかクロックアップを発動して高速の世界へ。
「クロックアップ!」『Clock Up』
同じく高速移動を発動させるガタック。
カリバーを両手に構えキャマラスを止めようと試みる。
今の薫達は抵抗できない状況にある、しかも相手はワーム、絶対に自分が止めなければと。
「なっ! んな馬鹿なッ!!」
ガタックはクロックアップを発動している。
にも関わらず、キャマラスの動きを捉える事ができなかった。
捉えたのはすぐに消える残像。そう、つまりキャマラスのクロックアップはガタックのスピードを遥かに超越していた。
「ぐあぁああぁぁああぁああ!!」
すぐに衝撃、気づけばガタックは空中に打ち上げられ、頭は地面の方を向いていた。
反転する世界、元々ダメージが蓄積されていた体に凄まじい衝撃の連撃が刻まれていく。
抵抗を許さない猛攻、何が起こっているのか理解する前にガタックは頭部を掴まれ、何度も何度も地面に頭を叩きつけられていた。
そしてキャマラスが飽きたのか、彼女は思い切りガタックを蹴り上げると、その巨大な爪に光を宿す。
「ポルルルルルルルルルルルルルルルル!!」
「ご――ッ! ガハッ!!」
脳が揺れる、視界がぶれる。内臓が口の中から飛び出したのではないかと鏡治は一瞬想ってしまう。
それだけの痛みと衝撃が腹部に走ったのは事実であり、キャマラスの爪はガタックの腹部を的確に捉えていた。
ベルトはある意味でライダーの命、そこを攻撃されたのだから反動はそれ相応の物が待っている。
地面を転がるガタック、その回転の途中で衝撃の影響かガタックゼクターがベルトから分離し、彼の変身が解除されてしまった。
『ぐっ! 鏡治、大丈夫か!』
「ガタックゼクター……!」
すぐに手を伸ばす鏡治。
ワームを前に生身を晒す事の意味、いつも自信に満ち満ちていた鏡治の表情が青ざめ、恐怖に歪む。
大丈夫、すぐに変身すればまだ間に合う。全身に響く痛みを堪えながら鏡治は全身を前に押し出してゼクターを掴もうと――
「あ」
グシャリと音。鏡治の目の前で、キャマラスは地面に転がっていたガタックゼクターを爪で押し潰した。
機械の彼は断末魔さえ上げる事無く粉々に破壊され機能を停止する。
強力な攻撃に耐えられる彼が簡単に破壊されたのは、キャマラスがゼクターを簡単に破壊できる程の実力者だったと言うだけ。
彼女は目を見開いている鏡治の顔をまじまじと見た。既に思考は停止しているらしい。当然か、戦う力を目の前で砕かれては、どうしようもないと言うもの。
「プワワッ! プルルル!」
「―――」
シュオン! と、勢い良く風を切る音が聞こえた。
あれ? と鏡治は思っただろう。何故ならクロックアップを使っていないのに世界がスローモーションになったのだから。
そして目の前にある景色への矛盾。だって自分は自分を客観視している。鏡治は今、鏡治を見ていた。
どういう事だ? あれ? 冷静になる鏡治、考えろ、考えれば分かる。
「あ」
分かった。鏡治は見ていた自分の首が無い事に気づいた。
簡単な事だった。目は首の上にある。頭についている。だから自分は自分を見る事ができたん――
「―――」
ブツリと、鏡治の意識が停止した。
バタリと、鏡治の体がうつ伏せに倒れた。
「――ぅッ! うぇええぇえッ!」
思わず、薫は地面に向って胃液を吐き出した。
胃の中には何も入っていなかったので、出てくるのは僅かな胃液と空気だけ。
しかし彼女の疲労と精神は想像を絶するほどにダメージを受けていた。
キャマラスは切り取った鏡治の頭部をしばらくボール遊びの様に投げてキャッチしてと言う風に遊んでいた。
しかしすぐに飽きてしまったのか、彼女は鏡治の首を草の茂みの中に投げ捨ててしまった。そして踵を返し、今度は薫とユウスケを瞳に映した。
「ひッ!」
目を閉じる薫。終わった。死んだ。
クロックアップを使えるワームからは絶対に逃げられない。
彼女は絶望に打ちのめされ、呆然とただユウスケを抱きしめる力を強めるだけ。
しかし、一歩キャマラスが薫に近づいた時、キャマラスの全身から無数の火花が散った。
「!」
「ポルッ! プポポポポポポ!!」
衝撃から地面に倒れたキャマラス。彼女はすぐに立ち上がるが、その時既に目の前に薫とユウスケの姿は無かった。
首を傾げるキャマラス、姿が少しでも見えればクロックアップで追いつけるのだが周りを見ても薫達の姿は影も形も無い。
こうなってしまえばもう追う事は無理か、キャマラスはつまらなさそうに呻くと踵を返して歩き去っていくのだった。
「「ォオオオオオオオオオオオオ!」」
噴水広場、その上空でディケイドの拳とメビウスの拳がぶつかり合った。
二つの力は激しいエネルギーを放出、近くの草木をザワザワと靡かせる風が吹いた。
二人は反動で後方へ移動、それぞれ空中で回転しながら地面に着地する。
ディケイドはその途中、ブッカーからカードを抜き取っており、着地と同時にカードをバックルに装填していた。
「ハァッ!」『アタックライド』『ブラスト!』
「!」
マゼンダの弾丸が噴水に直撃。瓦礫や水しぶきが爆風でメビウスの方へと向っていった。
その中には噴水に着弾しなかった弾丸もあり、メビウスは円形のシールドを張る事でそれらを防いでいった。
しかしそれはフェイク、狙いは瓦礫に紛れて距離を詰める事であり、既にディケイドは剣の範囲にメビウスを捉えていた。
「フンッ!」『アタックライド』『スラッシュ!』
「ウッ!」
重なり合う剣は爪の様にメビウスのシールドを削っていく。
ガシガシと豪快に剣を振り回し、ディケイドは剣を次々にシールドへ打ち込んでいった。
メビウスも抵抗はしようとするが激しい猛攻に隙を見出せない。結果、最後はディケイドの上段蹴りでシールドが粉々に粉砕される事に。
「ウアッ!」
吹き飛び仰向けに倒れるメビウス。
そこへディケイドは容赦なく剣を振り上げて、彼の頭部を粉砕しようと振り下ろす。
しかしメビウスも多くの修羅場を潜ってきた猛者が一人、彼は腕を横にし、メビウスブレスから剣を生やす事でディケイドの剣を受け止めて見せた。
「ほう」
突如現れたメビュームブレードに驚くディケイド。
隙が出来た、メビウスは足を振り上げてディケイドの背中を蹴り上げる。
「ヘアッ!」
「うぉッ!」
よろけて地面を転がるディケイド、その隙にメビウスは立ち上がり、今度は両者剣を構えて睨み合う事に。
『一つ……! 聞かせてください!』
「なんだ?」
接触の無い競り合いがしばらく続く。
二人は並行に走りチャンスを伺った。その途中でメビウスは疑問をディケイドにぶつける。
彼は夏美達が邪魔だと言い捨てた。納得はできないが百歩譲ってそこは理解しよう。しかし、かつての友を殺すに至ったのには決して小さくない理由がある筈なんだと、メビウスは信じたい。
つまりメビウスが気になるのは、何故ディケイドは夏美達が邪魔になったのかだ。
彼に何か為しえたい目的があるのなら、夏美たちに協力してもらえば良い筈。
「俺には強さが必要だった。だが夏美達は弱い!」
ディケイドが動き出す。
彼は弧を描く様に移動、一気にメビウスへ剣を振るう。
それを受け止めるメビウス、ぶつけた刃から火花が散り、二人はしばらく剣を打ち付けあう事に。
次々と散る火花の中で、二人の視線が三度とぶつかり合う。
「俺は強さを手に入れる必要があった。俺はその為に夏美たちを、かつての友を殺す決意を固めた。甘えは要らない、俺は孤高の存在でなければならない!」
『そうやって手に入れた力に、価値があると思っているんですか!!』
「俺は少なくとも価値があると確信している」
ディケイドは切り捨てる勇気を持たなければならなかった。
夏美達は大切だ、しかしその大切な者を壊さなければ得られない強さが、境地があると気づいた。
だからディケイドは選択した、他者がそれを悪と言うのであれば否定はしない。否定は出来ない。
しかし、それでもディケイドはその強さを手に入れなければならなかった。
「それが、俺の正義だ!」
「!」
ディケイドは剣を振るって旋回させる。
メビウスの剣を絡める様にし、動きを一瞬封じる事に成功。
その隙にディケイドはいつの間にか手に持っていたカードを片手でバックルに放り投げる。
「この世には――」『カメンライド』
ディケイドは剣を弾き、直後蹴りでメビウスの腹部を打った。
衝撃に怯み少し後退するメビウス、その隙にディケイドは展開していたバックルを閉じる。
「大切な者を壊してでも、守らなければならない物がある」『ブレイド!』
長方形のエレメントがディケイドライバーから発射、それはメビウスに直撃すると、彼をさらに後方へ吹き飛ばす。
エレメントは自動でディケイドの方へ移動、それを通過すると彼の体がブレイドに変身した。
すぐに立ち上がるメビウスだが、その時間にディケイドは次のカードを装填していた。
「メビウス。お前に理解できるか、俺の正義が!」『アタックライド』『マッハ!』
「――ッ!」
既にディケイドはメビウスのすぐ前に立っていた。
そして左手に持ったブレイラウザーでメビウスの腹部を切りつけると、すぐに旋回し、今度は右手に持っていたライドブッカーで背中を切り裂く。
「ウッ! アァ!」
よろけながらもメビウスは剣を振るった。
しかし捉えたのは残像、ディケイドは既に空中に飛び上がっており、両方の剣でメビウスの肩を切り裂く。
速い、このままでは――!
『司、俺にはよく分からないけど、貴方が何かをしようとしている事は分かった!』
しかし、だからと言って素直に応援は出来ない。
自分は夏美達と関わった時間は本当に短い。それこそ彼とは比べ物にならないだろう。
しかし、だからと言って友を傷つけて得る未来が正しいとは絶対に思えない。
たとえ神がそれを正しい道なのだと示そうが、世界中の人間が正しいと叫ぼうがだ。
何があるのか、どんな事情があるのかは知らない、しかしそれでもメビウスは誰も傷つかない道を、皆が悲しまない道を選びたい。
その思いは、間違いでは無い筈だ。彼はメビウスブレスにあるクリスタルサークルを弾くように触れて高速回転させる。
すると青い光が発生、ディケイドは何かを仕掛けるのかと一旦動きを止めて様子を伺うことに。
一方でメビウス。彼は腕を交差させて額の方へと持っていく。そしてそのままXの文字を描く様に両腕を斜めにしたにそれぞれ移動させる。すると光が溢れ、彼の体が一つの変化を遂げる。
「色が……!」
青い光がメビウスを包むと、彼の体の色が銀をベースに青と紫に変化する。
彼もまたフォームチェンジを行える様だ。青いメビウス、この名は『スカイミラクル』。
彼は再びクリスタルサークルを回転させる。眩く放たれる紫の光、すると文字通りメビウスの体が消えた。
「!」
そして気づけばディケイドの体から火花。
よろける彼が周囲をみると、背後にて剣をかざしているメビウスの背が見えた。
そうか、彼もまた。ディケイドはすぐに二つの剣を構えて走り出す。まだマッハの効果は継続中だ、しかれどもメビウスの姿を捉える事は難しい。
残像が各地でぶつかり合う。そう、メビウスもまた高速移動を発動しディケイドのスピードにしっかりとついて来ていた。
いやむしろディケイドの体に入るダメージが増えていく、ディケイドの体から出る火花が多くなっていく。
つまりスピードはメビウスのほうが速い。
「ヘアァッッ!」
「グッ!」
左腕を突き出すメビウス、メビュームブレードの剣先がディケイドの胴を突いた。
火花と呻き声を上げて後退するディケイド、そこで彼のマッハが解除、メビウスも高速移動を解除して次の攻めに転じる。
「ハァア!」
「!」
再びクリスタルサークルを回転させるメビウス。すると銀色の光が迸り、彼の体が三つに分身した。
ウルトラマジック、ディケイドも面白いとイリュージョンのカードを発動、同じく三人になって走り出す。
「「「ォオオオオオオオオ!!」」」
「「「ハァアアアアアアア!!」」」
広場ではしばらくの間六人の戦士がぶつかり合う事に。
剣と剣の応酬が続き、二人は一歩も引かぬ剣劇を繰り広げた。現在のメビウス、スカイミラクルはスピードと超能力に特化した形態の様だ。
豊富な飛び道具や特殊能力、素早い動きで相手を翻弄していく。一方で同じく豊富な特殊能力を持つブレイドの力を使って食い下がるディケイド。
両者少しでも油断すれば危険だと分かっている様だ。
「!」
双方、分身の二人が超過ダメージにより消滅する。
一旦地面を転がり距離を取る二人、ディケイドは次のカメンライド、アギトを使用して立ち上がった。
さらにもう一枚、フォームライドによって彼はフレイムフォームへ。フレイムセイバーを構えてディケイドは停止する。
一方で動きを止めた事が隙と見たメビウス、彼は飛翔して剣をディケイドヘ――
「ハァッ!」
「ウアァッ!」
しかし先に刃が届いたのはディケイドの方だった。
フレイムフォームが持つ超感覚を使用して放つ居合い切り。
それはもはや予見に近い物、いくらメビウスのスピードが速くとも速度の次元を超越した攻撃に、彼は打ち落ちされる様に地面を滑った。
ディケイドはすぐに跳躍、グランドフォームに戻ると倒れたメビウスに殴りかかっていく。
メビウスもすぐに反撃に転じるが、スカイミラクルには一つ弱点が存在しており、それはパワーが弱いと言う事。
ディケイドはアギトの戦い方をコピーしており、相手の攻撃を利用して放つカウンターを主体にどっしりとした拳を打ち込んでくる。
これは不利か。メビウスは簡単な飛び道具、メビュームスラッシュを発動してディケイドを怯ませると一気に後方へ飛んでいく。
そしてクリスタルサークルを回転させると、彼は赤い光を纏って再びフォームチェンジを行った。
「シュアッ!」
「チッ! 面倒な!」
現れたのは銀色の体に赤とオレンジの色が入ったメビウス。
ストロングパワーは、文字通り攻撃力に特化した形態。
機動力の低下、飛び道具の種類はワンパターンではあるが、攻撃力と防御力の上昇により肉弾戦が得意となるのだ。
すぐにディケイドへ跳びかかるメビウス。二人は互いの拳を掴み合い、硬直状態を続ける。ギリギリと互いの腕を掴む力が強くなっていく。
その中でメビウスはディケイドから放たれる凄まじい感情の奔流を感じ取った。
「――ッ!」
なんと言う憎悪と悲しみなのか。
ただの人間がココまで強大な感情を内包できる物なのだろうか?
メビウスにはそれが引っかかり、同時に恐怖に近い大きな感情が湧き上がるのを感じる。
なにがディケイドの身に起こったのか? 今はそれが気になって仕方ない。とは言えそれを聞いた所で返ってくる返事は同じだった。
「お前が知る必要は無い!」
「ウ――ッ」
まただ、また彼の中にある感情が大きくなった。
しかしこれはなんだ? 絶望や憎悪の中に希望に似た感情が膨れ上がったような気がする。
分からない、こんな心の波長は感じたことが無い。メビウスは本能的な恐怖を感じ、思い切り力を込めてディケイドを投げ飛ばした。
しかし空中に投げ出されたディケイドはカードを抜き取りドライバーへ装填、すると空中からスライダーモードに変わったマシントルネイダーが飛来してディケイドを背に乗せる。
どうやらアタックライド、マシントルネイダーでマシンディケイダーが変身した姿らしい。彼はそのまま空中を旋回し、加速をつける。
「消えろ」『ファイナルアタックライド』『アアアアギト!』
「クッ! ハァァ……ッ!!」
クロスホーンが展開し、エネルギーが右手に宿っていく。
一方でクリスタルサークルを弾くメビウス、彼を表す無限のマークが浮かび上がり、光の力が彼の左手に宿っていく。
風を切り裂いて加速するディケイド、そして地面を蹴って飛翔するメビウス。
「「ハァアアアアアアアアアアア!!」」
二人の咆哮が重なり合い、それぞれの必殺技が発動された。
バイクから飛び上がり拳を突き出すディケイド。マシントルネイダーの加速力を得て放つ貫通力を高めたパンチ、"ライダーブレイク"。
そしてメビウスもまた左腕にプラズマエネルギーを宿して拳を突き出した。"ライトニングカウンターゼロ"、ディケイドの右拳とメビウスの左拳が互いの想いと共にぶつかり合った。
「砕けろ! ウルトラマン!!」
「仮面ライダー、貴方には負けない――ッッ!」
凄まじいエネルギーが放たれ、周囲には衝撃波が発生していく。
噴水の破片や草木を吹き飛ばしながら地形が次々に変化していく。
抉れる地面、震える空気、風は吹きすさび近くにいた鳥や虫達は本能で危険を察知して二人から離れていった。
その中で尚も咆哮をあげて衝突する二人、拳が砕けそうになるがディケイドの殺意は減少するどころか増していくばかり。まさに悪魔、まさに世界の破壊者と言うに相応しい。
恐怖が無いのか。メビウスにはある。拳がきしむ、ウルトラマンと言う鎧があったとしても痛みは心に容赦なく突き刺さっていく。しかしディケイドは逆だ、むしろ痛みや苦痛がより彼の心を爆発させていく。
「消えろォオオオ!!」
「グッ!」
そこで互いの力が暴走し爆発を起こす。
衝撃に揉まれ両者は離れる様に吹き飛んだ。地面を擦り、摩擦熱で煙を上げてディケイドは停止する。
少し離れたところには同じ様にして立ち上がったメビウス。二人は煙の中でそれぞれの目を光らせた。
「ォオオオオオオオオオオオオ!!」
苛立ちなのか、焦燥なのか、多くの感情を込めてディケイドは叫び、天を仰いだ。
彼はライドブッカーから金色の紋章が描かれたカードを抜き取り、直後ライドブッカーを投げ捨てる。
それはもうカードを使う必要が無いと言うことであり、武器を振るう必要が無いと言う事である。
同じ種類のファイナルアタックライドはディケイド本人の精神力を消費して具現させる事ができ、当然複数枚を用意すればそれだけ彼の疲労も大きくなっていく。
しかしむしろディケイドは戦えば戦う程内に秘めた力が大きくなっていく様に見えた。
「メビウス、一つ聞かせろ――ッ!」
「!」
「お前の正義とは何なんだ」『ファイナルアタックライド』
感情を込め、声を震わせてディケイドは決着のカードを使用する。
彼の前に出現する十枚のホログラムカード、それらは一直線にメビウスの方へ伸びていった。
ディケイドが何を考えているのかは分からない。分からないが、今も尚メビウスの心は一つだ。ディケイドを止め、なにがあったのか、何故こんな事になってしまったのかを解き明かす。
メビウスはディケイドの想いを受け止める為に自らも全てのエネルギーを乗せる事に。クリスタルサークルを力強く回転させ、彼は両手を左右に広げる。すると彼の頭上に巨大な無限のマークが出現、光を纏い、周囲を光で満たした。
『俺の正義はウルトラマンが教えてくれました』
地球を守り、人々の笑顔や幸福を守る。
誰もが涙を流さぬ様に。誰もが希望を抱ける様に。彼の胸に燃える愛と勇気がそれを教えてくれる。
『それが俺の、ウルトラマンです!』
「……そうか、だったら――」
地面を蹴って飛び上がるディケイド。彼に合わせる様にカード達も斜めに並びを変えた。
「俺の為に! 今ココで死ねェエッッ!!」『ディディディディケイド!』
「ッ!」
メビウスは左腕を横にして前に、右腕を縦にして後ろへ組んだ。
十字状になる手、それは彼の必殺技が放たれる合図。
「ヤァアアアアアアアアアアアアアア!!」
「シュアアアアアアアアアアアアアア!!」
エネルギーカードを通り抜けて放たれるディメンションキック、光の力を解放して放つ光線技、メビュームシュート。
二人の必殺技がぶつかり合う。ディケイドがキックを放つ為の右脚にメビウスの光線が直撃。
凄まじい抵抗感の中でディケイドは進撃し、メビウスは彼を止める為に光線の威力を上げていく。
「壊れろメビウス! 世界の選択は、お前の死だッッ!!」
「クッ! ウゥゥ!」
ディケイドが少しずつメビウスを蹴り殺そうと迫ってくる。
彼にはそれだけ強い力と信念が感じられた。歪ではあるが、成る程、夏美達を殺してでも為しえようとする『何か』が彼を突き進めていた。
一方で劣勢のメビウス、このままでは負ける、とは言えど力を込めてもディケイドの勢いは止められない。
負ける、のか?
「……ッ!」
そこでメビウスの脳にフラッシュバックする光景。
夏美達は泣いていた。そうだ、当たり前だ。友達が友達を殺す。そんな馬鹿な事があってたまるか。
駄目だ、駄目なんだ、負けられない。それは悲しみの連鎖を増やすだけだ。このままもしも自分が負ければ彼女達はどうなる?
決まっている。ココでディケイドを止めなければ、必ず彼は再び夏美達の前に現れるのだろう。そうすれば必ず戦いが起きる、最悪またも死人が出てしまう。
駄目だ、駄目なんだ。もうあの光景は絶対に繰り返してはならない。たとえディケイドにどんな事情があろうとも、アレは紛れも無い、『涙』だったではないか。
そうだ、夏美達は、悲しいから涙を流したんだ。
「シャアアアアアアアアアア!!」
「ッ! 何!」
ウルトラマンの力は平和の為に。
メビウスの想いが彼の光を高めていく。彼が司るのは無限、それは進化の可能性を指し示す物。
メビウスの想いが、彼の光を高めていく。思わずその輝きに声を漏らすディケイド、視界が光に埋め尽くされていく。
「ハァアアアアアアアアア!!」
「グッ! 馬鹿な! コイツ……!」
光が溢れた。震える足、それを感じた時、ディケイドの勢いは完全にゼロに変わった。
メビュームシュートがディメンションキックを打ち破ったのだ。地面に落ちたディケイド、光線が胸に当たったのか、煙を上げる装甲を抑えて呻き声を漏らしていた。
一方で同じく膝を地面につけて呼吸を荒げるメビウス。打ち合いには勝ったものの、力を込めすぎた為に彼もまた戦闘不能に陥っていた。
気を抜けば今にも気絶してしまいそうだ、しかしココで倒れる訳にはいかない。メビウスは全身に力を込めて立ち上がると、ディケイドと話をする為に足を進めた。
「はい、そこまでぇー」
「!」
『ウフフフフ!』
そこで火花。メビウスの足元から散ったそれは上に移動し、メビウスの体に衝撃を与える。
堪らず倒れたメビウス、彼を見て笑うのはダブルだ。忘れてはいけない、ディケイドには仲間がいると言う事を。
傍観者から参戦者へと身を移したダブル達、さらにそこへ遅れていた響鬼も姿を見せ、合流を果たす。
「すいません、遅くなりました」
「ああ、響鬼。何か収穫は?」
「ええ。アキラさんは始末しておきましたよ。簡単でした」
「!」
まあ随分と軽々と口にした響鬼。
メビウスは言葉の意味を察し、拳を握り締めて彼等の話を聞いていた。
直後轟音、メビウスとディケイドの間に地面を突き破って巨大な車が姿を見せた。リボルギャリー、まずはダブルが飛び乗り、次いでカブトと響鬼がディケイドを抱えて乗車していく。
『ま、待て!』
追おうとするメビウスではあるが、既に立ち上がる事すら難しい状態。
しかも彼の足にダブルが放った銃弾が命中し、彼は再び地面に伏せる。
その隙にリボルギャリーは轟々とエンジン音を鳴らして再び地中に消えていった。
「クッ!」
変身を解除するメビウス。
とは言え蓄積されたダメージは確かな物、ミライは結局地面に膝をつき、悔しげな表情を浮かべる事しかできなかった。
だが、こうなってしまった以上、ココでへたり込んでいる訳にはいかない。ミライはエルピスを取り出すと音声認識で翼達に連絡を入れる。
あれから時間も経った、皆それぞれ逃げている筈だろうから。
すると彼の予想通り、数回のコール音の後に翼の声が返って来た。同時発信していた為、同じく電話を取った亘達とも会話が可能状態に。
『大丈夫だったかい、ミライ君!』
「は、はい。でも――ッ」
話を聞くにアキラが死んでしまった。響鬼に殺されてしまった様だと。
それを聞くと亘が大きな声を上げた。信じられないのも無理はない。亘は我夢の親友故に、我夢がどれだけアキラを愛していたのかを知っている。
そんな彼がアキラを殺す等と、悪い冗談としか思えない。しかし事実は事実、翼はミライの話を簡単に信じた。そして未だに事情が分からない亘達へ簡潔に今までの流れを話していく。
司達と再会できたと思えば、彼等は世界を破壊すると言い、襲い掛かってきた。そして仲間たちが次々に倒されたと。
いや、殺されたのだと。
『し、信じられない! 兄さんがそんな――ッ!』
『気持ちは分かる。でも、真実なんだ……』
現に仲間が死んだ。その事から自分達は目を背けてはいけない。
翼の重々しい雰囲気を感じたか、もともとの混乱もあって亘や彼の近くにいるだろう拓真達が口を開くことは無かった。
一方でミライ、ディケイドは大きく体力を消耗しているだろうが、それでもカブト達は本調子、彼等を追う可能性もあった。
「皆さんは今どこに?」
『僕は夏美ちゃんとテトラちゃんと緑の国にいるよ』
「緑の国?」
黄の国を超えてしばらく飛行していたアギトは、となりの国に降り立ったと。
話を聞くとそこは緑の国らしい。治安云々は分からないが、少なくともあのまま黄の国にいるよりはマシだろうと。
一方で亘達はまだ黄の国にいるらしい。これから大切となるのは、それぞれがどう動くかだ。
ミライは元の世界には帰れない、翼達はかつての仲間がおかしくなってしまった状態。はっきり言って絶望的な状況と言っても良い。
だが何か活路を見出さなければ。仲間の死を悲しんでいる暇も無い。まあそれはまだ実感が湧いていないと言うのもあるのだが。
「これから、どうしましょう……?」
『そうだね、どうしようか……』
いつもは皆を引っ張っていく翼ではあるが、今は流石の彼も途方にくれている状況らしい。
ユウスケ達や鏡治とも連絡がつかず、それも彼の不安を煽るのだろう。しかしその中で口を開いた者が。それは拓真だった。
彼は亘から携帯を受け取り、自分達は黄の国に残ると告げた。
『どうして司くん達がおかしくなったのか、そのヒントがココにあるかもしれない。それにリンネ王女の行動も気になるし』
「そう言えば……」
ミライは、司の肩に黒い球体が浮かんでいたのを覚えている。
確かディケイドはそれをカラスと呼んでいたが、もしかしたら何か関係があるのかもと。
それにディケイドは『カナリア』と言う物を追っているらしい。それも何か関係はしているだろうて。
『だったら尚更だね。もしもそのカラスって言うのが司くん達を操っていたのなら――』
その時、拓真の声がどっと冷たくなった。
『絶対に許せない』
『そう、だね。なら申し訳ないけれど拓真君たちには調査を頼みたい』
一方で翼はミライには緑の国に来て欲しいと提案を。
と言うのも今現在彼のところに居るのは戦う力の無いテトラと、完全に傷心しきっている夏美しかいない。
この状態でもし再びディケイド達が襲ってきたら守りきれる自信は無かった。話を聞くにミライはディケイドにほぼほぼ勝利に近い形で引き分けている。
彼がいれば少しは安心できるだろうからと。
「分かりました。では、俺も其方に向います」
『ありがとう、助かるよミライ君』
「いえ、いいんです」
テトラの話では黄の国から出るのは本来かなり難しい事らしいが、空を飛べれば問題は無くなる。
ミライの力ならば簡単に黄色の国を脱出できるのだ。問題は今は立ち上がる事すら難しいほど疲労している事。
ミライは少し休んでから其方に向うと告げ、一同はそれで話し合いを終わりにした。
とにかくこれからは二手に別れる事になる。拓真、友里、亘の三人は黄の国でリンネ王女達がどう動くのか、そして何故司達がああなってしまったのかを調べる事に。
そして翼、夏美、テトラは一旦コチラで態勢を整え、ディケイドが狙っているカナリア&ユウスケ達の捜索を行う事に。
「ッ!!」
ミライが何とか体を叱咤し、フラフラと歩いていると、そこには首の無い死体が転がっていた。
この服装には見覚えがある、鏡治だ、ミライは歯をグッと噛み締めて拳を振るわせる。
なんだ? なにがあったんだ? どうして司達はこれほどまでに変わってしまったんだ。
なにが彼を悪魔に変えてしまったんだ。彼等は大切な者を守る為に夏美を殺す決意を固めたと言っていた。
仮面ライダーの力を仲間を殺す事に使ってまで守りたい物とはなんなんだ?
ミライはそれが分からず、ただ怒りに肩を震わせる事しかできなかった。
一方、本当ならば今頃ライダー達が侵入していた筈の黄の城。
その中にある最も広い王座の間では幹部達が集まり先程の状況を説明していた。
部屋の隅には先程ガタックの命を奪った喪服の少女があぐらをかいて座っており、先程から夢中で指をしゃぶっている。
同じく部屋の隅々には彼女の様に変わった格好をしている者が多い。中にはライダースジャケットを着ている女や、パンク衣装でサングラスをしている男も。
そして王座の前には三人の護衛兵が先程の報告を行っていた。仮面ライダーと名乗る戦士達がやって来たが、同じく仲間だったろうライダーによって半壊させられたと。
「ふぅん……そうなの」
宝石が散りばめられた王座にて、煌びやかなドレスを着ている少女は完全に興味が無いと言った素振りで話を聞いていた。
どうやら侵入者よりもネイルや髪の調子が気になる様だ。王女リンネ、彼女は護衛兵達の話を聞き終えた後、大きなあくびで返した。
「それでぇ? 何か問題あるの?」
レオン同じく黄色の髪、青色の瞳が特徴だった。
「いえ。奴らは逃げましたので」
「じゃあいいわ。また来たら追っ払ってくれるんでしょ」
「もちろんでございます」
深くお辞儀を行うレオン。彼を見て満足そうにリンネは笑みを浮かべた。
「ガーク、死者はどれくらい?」
「出した兵士は全滅故、被害は少なくは無いかと」
「使えないわねぇ本ッ当、代わりはあるの?」
「ええ。まだ兵士達はおります。足りないのであれば街の男を適当に捕まえれば」
「じゃあいいわ。最悪、女も出せばいいものね」
パンと、手を叩いて彼女はニッコリと笑顔を一つ。
どうやら自分のために戦ってくれた兵士の存在など、彼女にとっては何の価値も無い、まさにゴミと同じの様だ。
すると部屋の隅で座り込んでいた男の一人が立ち上がる。歳は司と同じくらいに見えるが、ハットに襟元にファーがついたコートと格好はみるからにマフィアと言ったもの。
ステッキを持ち、葉巻を咥えていた少年は、名をロギーと言う。
「問題ねぇよ王女様。どんな奴らが来たって、俺達ファミリーがいれば、楽勝だぜ」
ロギー一家、彼はリンネから金を貰い、用心棒をしていた様だ。
「そう言えば、ライダーの一人は貴方の部下が殺したんだっけ?」
「おうよ。キャマちゃんだろ? 俺っちのかわいい妹分よ」
ステッキで喪服の少女を指すロギー。
さらに彼が指を鳴らすと、同じく赤を基調としたマフィア風ファッションの男がガラスケースを抱えて前にでる。
その中には一つの首が入っていた。紛れも無く、キャマラスが殺した鏡治の物だ。キャマラスが捨てたものをロギーが拾っていたらしい。
「いるかい? オブジェにどうだ王女様。部屋がこう、明るくなるかもよ?」
「いらないわ、キモイもの」
「そーかい、そりゃ残念。ファイア、いらねぇってよ」
ケースを持っていた男はファイアと言う名前らしい。
彼はロギーの声を受けて力を発動、するとガラスケースの中が炎で埋め尽くされ、中にあった鏡治の首は文字通り炭となって跡形も無く消え去った。
残ったのは骨だけ、ファイアはそれを抱えて再び後ろへ下がっていった。ロギーはやれやれと言ったジェスチャーを取り、話を変える事に。
「しかしあれだね、なんだっけ? 預言者さん? アンタすげーよな」
「あぁ、そうね、そう言えば。さすが変な格好しているだけあるわ」
ロギーとリンネの視線が一点に集中する。椅子に座っているのは金色の着物を纏った小さな男の子だ。
歳はまだ小学生くらいに見えるが、その佇まいからは言い様の無い威圧感を感じる。
彼の名は『預言者ソウ』、自らを神の子と名乗り、ある日リンネの力になりたいと謁見を申し出てきた。
それを面白がったリンネ、予言の力が偽物ならば殺してしまおうと想ったが、これが中々馬鹿にならないので今に至る訳だ。
ライダー達がココに来る事を予言したのも彼である。そして閉じていた目を開く預言者、今、新たなる予言が一つ浮かんだらしい。
「愚かなる意思、緑の地へ逃避する」
「……緑の地、隣国へ逃げたか」
唸るレオン。
しかし黄の国から出るためには門を潜らなければならない。それ以外は外壁で囲まれており逃げられない様になっている。
とは言え向こうの身体能力を考えれば門番を突破する事や、最悪空から逃げる事ができるかもしれない。
「どうしますか、リンネ様」
「んー、別に、あっち行ったらどうでもいいし」
その時だった、鐘の音が城に響き渡る。
すると今までつまらなさそうにしていたリンネの表情がパッと花が咲いたように変わった。
「おやつの時間だわ! レオン!」
「はい、今日はプリオッシュを用意しています」
レオンもまた先程の表情が嘘の様に、にこやかな笑みを浮かべた。
ロギーはその反応に思わず口笛を鳴らした。国民は今も苦しい生活をしているのに、彼女のために多くの兵士が死んだのに、本人はお菓子の時間に夢中の様だ。
いや違う。最早彼女の根本的考え方が違うのだ。
「楽しみだわ! レオンとガーク、アグミも一緒に食べましょう!」
国民は自分の生活を豊かにする道具でしかない。
国民を苦しめているという申し訳なさが一切無い。彼女はまさに自分の事だけを考えている。世界が自分中心に回っていると本気で確信している。
言い訳も無い、罪悪感も無い。彼女は本気で自分が頂点に立っていると思っているのだ。
「わかりました、リンネ様がそういうなら」
「ありがたき幸せです、王女」
「いーよ、たべよー」
そして護衛兵も彼女を諭すつもりが無い。
ココに来る前に出会った大臣だのなんだのも彼女のご機嫌を取るだけで叱る事は一切無い。
まさに独裁、完全なる悪の
「あんた達も勝手にしなさい。何か食べたかったらシェフに言ってね」
そう言ってリンネはロギー達にヒラヒラと手を振って――
「はい、かぁいさーん」
とっとの王座の間を出て行くのだった。
残されたロギー一家もそう言われては仕方ない。この場にいる意味も無いので部屋を出て行くことに。
散り散りになっていく一同、その中でロギーは城の中庭のほうへと足を進める。中庭には黄色い花が美しい輝きを放っている。手入れがよく行き届いているのだ。
ロギーはその中で葉巻をふかし、庭の隅へ足を進めていく。広い庭は、また死角も多い。
「順調かしら?」
すっと、人影がロギーの前に現れる。
柱の影に身を隠す様にして現れたのは長い黒髪の女であった。髪を中央で分け、額を大きく露出させている。彼女の服には金色の大鷲の刺繍が見えた。
ロギーは彼女が現れた事を見ると帽子を取って軽く頭を下げる。その時、彼の帽子の裏に金色の大鷲の刺繍が見えた。
つまり、そう言う事なのだ。
「まあ本当なんつうか王女様はガキんちょだね。この国もよく今まであんなのが王で保ってきたもんだ。俺っちならソッコー暗殺企てるけどねぇ」
「仕方ないわ。それが世界の選択、運命のシナリオと言うものよ」
「ほーん、大変だ」
煙を吐き出しながらロギーはニヤニヤと女の話を聞いている。どうやら二人には腹に抱えている物があるらしい。
とは言え、状況は必ずしも良い物ではないのだが。
「しかしどうするよマヤ姉さん。あんまし良い展開とは言えねぇぜ」
「ええ、そうね」
マヤ。それが黒髪の女性の名前らしい。
彼女は腕を組み、憂いの表情を浮かべている。全てがうまく行く予定だったが、ココに来て軋みが生まれた。
「あいつ等はなんなんだ? 少なくとも人間じゃねぇみたいだが」
「分からないわ。大ショッカーにも対抗できる力の様だし」
そして問題はそれだけではないとマヤは言う。
「私達の動きに、クルスが注目したのよ」
「げっ! あの良い子ちゃんかよ」
「ええ。今はまだ疑われていないけれど、野放しにするのは良くない流れよ」
クルス。シザースジャガーとチェーンソーリザードを部下に持つ大ショッカーの一員である。
彼女の特徴は大ショッカーへの異様なる忠誠心。それはマヤにとしては目障りな事この上ない話なのだ。
そう、どうやらロギーとマヤは大ショッカーの忠実なる番犬とはいかない様だ。大きな組織にはそれだけ多様な考えを持つ者が集まる。
中には離反を考えている者も少なくは無いといった所か。
「どうすんだい、マヤさんよ」
「考えがあるわ。『定期会』にこの世界を指名するの」
「……成る程。全てをさらけ出した上で怪しさを消すわけか。あんたも悪だねぇ」
「フフフ、野心が無ければ怪人とて堕落していくだけだわ」
マヤは既に次の動きを整えるべく、緑の国に使いを出したと。
「あまりのんびりはしていられないわ。今回は忙しくなるわよ」
「やれやれ、ノンビリしてーんだがね俺は。まあいいや」
最後に勝つのは自分達だ。
ロギーはそう告げると葉巻を地面に落として踏みつけた後、踵を返して城の中へと戻っていった。マヤもニヤリと笑みを浮かべると暗闇の中へと消えていく。
彼等はこの話を聞かれないように注意を払っていた。人気の無い中庭を選び、声も小さく、さらには周りに部下を置いておく事で、最善の手を打ったと思っていただろう。
さらにはリンネ達を下に見ている面もあった、どうせあいつ等は今頃菓子でものんきに食っているのだろうと。しかし分かっていない。注意しなければならないのは、リンネ達だけではないと言う事を。
現にロギーたちは気づかなかった。柱の上、城壁の隅に張り付いていた『カエル』の姿に。
「くッだらねぇ、やっぱガバガバだなあいつ等」
リボルギャリー内ではロギーとマヤの会話が響き渡っていた。
既に黄の国の中にはゼノン達が放っていたメモリガジェットが偵察員として情報を集めている。
当然城の中にもそれは潜んでおり、フロッグポッドが今の話をすべて司達に流していたのである。
「ハッ! どうしますディケイド様?」
「面倒な流れだが――」
悪くない、司は手に持っていたダーツを勢い良く投げる。
針は本物であり、それはダンッと大きな音を立てて盤に突き刺さった。
それだけではなく、盤には写真が貼っており、司が投げた矢は椿の眉間を捉えていた。
大きな盤には特別クラス全員の写真があり、現在ダーツが刺さっているのは司達が殺した仲間達である。
「そうだ、鏡治はワームに負けたらしいわよ。ダメダメねー!」
フルーラがヒョイと投げたダーツが鏡治の顔に突き刺さる。
舌打ちを零す司達、間が悪い男だと。特に苛立ちの表情を浮かべていたのは双護、彼は鏡治の写真を鬼気迫る表情で見ている。
「下らない奴だ。やはり、真由の相手には相応しくないな」
「……随分個人的な意見ですね」
我夢は汗を浮かべている、なんだか私念を感じるような。
まあいい、一同は話を進める事に。マヤは定期会と言う単語を持ち出したが、この意味は何となく分かる。
コレは非常に賭けになる。どう動くか、司は指を鳴らしてカラスを呼んだ。出現する黒い球体、それはフワフワと司達の頭上を移動していく。
「カラス、作戦を変更するぞ」
『仕方ないな。やむを得ない』
カラスの声には憂いがあった。それと同じ量の悲しみ、苦しみ、そして憎悪があった。
『鳥カゴの中の鳥でいてもらわなきゃ、困るんだよ』
誰に向けて放った言葉なのか。
それは分からないが、どうやら司達には理解できたものらしい。彼等は虚空を睨んだ、それはその先にある目的のために。
「トリガーを引く。アイツを殺すぞ!」
司の声を合図に再び発進するリボルギャリー。
その先にあるのは破壊か、それとも彼等が目指す未来なのか。それは当然彼等だけにしか分からない事だろう。
「はいどうぞ。部屋が取れたよ。二部屋だから、夏美ちゃんとテトラちゃんは一緒だけど」
「いえ、いいんです。ありがとうございます先生」
「ど、どうも!」
ココアを二人に差し出す翼。
緑の国にやって来た彼はまず夏美達が休める場所を確保した。
夏美は司に特別な想いを抱いているだろう事は翼も知っていた、そんな彼女にとって今の状況は他の誰よりも辛いはずだ。
テトラだって初めて来る他の国に緊張している様だ。それに彼女は両親を失い、家も無い、これから幼い彼女がどうやって生きていくのか、考えると翼は胸をグッとつかまれた様な感覚になる。
もしも自分達がこの世界でやる事を終えて他の世界に行く事があれば彼女は――。
いや、果たして自分達はこの世界を出られるのだろうか?
仲間が減り、司達はどうなる? 分からない、それにユウスケ達が無事なのかも分からない。
翼とて、あまり冷静ではいられなかった。しかし自分はあくまでも保護者として今まで振舞ってきた。
少なくとも今は夏美達の不安を軽減できる様に振舞わなければ。そんな思いもあってか、翼は宿屋の休憩所で軽い世間話を行う事に。
「キバーラちゃんはどうなんだい?」
「あ、はい。いますよ。キバーラ」
夏美は自分の服のポケットに手を入れると、小さな白いコウモリを取り出した。
彼女はキバーラ、夏美の友人なのだが、どうやら眠っているらしい。
なんでもこの世界に来てから非常に心地が良いらしく、かなりリラックスしているのだとか。
だから気を抜くとすぐ眠ってしまうらしい。起こすのもかわいそうなので、夏美は再び彼女をポケットの中にしまいこんだ。
「それにしてもこの国はまさに緑の国と言うに相応しいね」
「そうですね、皆さん髪が緑色でした」
国民性と言うべきなのか、遺伝と言うべきなのか、この国に住んでいる人達は皆髪の毛の色が緑色だった。
黄緑や萌黄色など、いろいろと緑にも種類はあるが、ベースは皆同じくして緑である。翼は茶色、夏美は黒、テトラは赤色なので中々に浮いている。
事実周りの人達も自分達を少し奇異の目で見ていたのは確かだろう。とは言え、ココは黄の国ほど皆が絶望している雰囲気ではない。
どうやら少しは安全のようだった。
「あの、先生」
「うん?」
「少し、一人になってもいいですか?」
「……ああ、いいよ」
「ごめんなさい」
「いいんだ。でも何かあったらすぐに戻って来るんだよ」
「はい」
そう言って夏美は立ち上がると宿屋を出ていった。
いいの? テトラはココアを啜りながら少し不安げな表情で翼に問いかけた。
もちろん状況が状況の為、声を大にして良いとは言えない。しかし、やはり翼は彼女と長くいた為に心境が分かるのだ。
友が死に、ずっと一緒にいた司が変わってしまった。大きなショックを受けてしまっただろう。それは一人になりたい時もある。
「そっか……」
とは言え、テトラはココアを一気に飲み干すと勢い良く立ち上がった。
「私、夏美ちゃんのところに行く!」
「え? でも……」
「私も夏美ちゃんの気持ち、少しは分かってる……つもり」
両親を殺され、家を燃やされ、どうしていいか分からず本当に一人になりたかった。
誰にも話しかけて欲しくなかった。これからの事を一人で考えたかった。
それは悪くない事なのかもしれないけれど、より悩みの深みに嵌っていくのも事実だった。
そんな時、ミライが話しかけてくれた。彼の言葉は最初受け入れられなかったけど、今となっては感謝している。彼が自分の悩みを共有してくれたから、少しは楽になれた。
今もそうじゃないのか? テトラは思うのだ。夏美の苦しみを少しでも分かって上げられたら、きっと彼女の苦しみは少しは減るだろうから。
「私も、ミライくんみたいになりたいから」
「そっか、そうだね。だったらお願いして良いかい?」
「うん!」
テトラは笑顔を浮かべると宿屋を出て夏美を追いかけていった。
それほどタイムラグも無い事に加え、緑の髪に混じる黒はよく映えている。
結果としてすぐにテトラは夏美に追いつく事ができた。夏美はテトラに気づくと初めは驚いたような顔をしていたが、彼女の気遣いを察したのか、すぐに笑顔で手を繋いだ。
二人は町の人から話を聞いて、人の少ない公園を聞き出した。橋を渡って少し歩くと、少し広めの公園にやって来る。
そこのベンチに二人は座り、夏美は空を見上げてしばらく沈黙を保った。
「……大丈夫?」
テトラは不安げに彼女を見る。夏美は笑顔を返すが、大丈夫だとは言わなかった。
むしろ、大丈夫じゃないかもと弱音を見せる。
「司くんは、私の従兄弟なんです」
「へぇ」
幼い頃、両親が蒸発してから司と亘は夏美の家に預けられた。
それからと言うもの、彼等三人はいつも一緒だった。どんな時もだ、悲しい時も嬉しい時も、多くの感情を共有し、それだけ絆もできたと夏美は思っていた。
司に至ってはクラスも同じになれたし、だからどこかで思っていた。
「ちょっと重いかもですけど、司くんの事ならなんだって知ってるって……」
だが、あの司は夏美が全く知らない司だった。
彼のあんな表情は初めて見る。殺意で塗り固められ、恨みのオーラが体からにじみ出ていた。今もすぐ思い出せる、あの殺意の光を放つ眼光が。
「はじめてです。彼の事、怖いって思っちゃった」
彼だけではない。双護も、我夢も、今までは本当に信頼できる仲間だった。友達だった。
なのに再会した時の彼等はまるで別人で、そして皆を――
「私これから、どうしたら良いのか……」
「元気出して、夏美ちゃん。きっと何か事情があるんだよ!」
夏美の背をさするテトラ、夏美はハッとした表情を浮かべると、彼女にお礼を言って微笑んだ。
とは言え、その笑顔の裏にはやはりまだ寂しさがあった。
テトラはウロウロと周りを確認、何か夏美を元気付ける物が無いかと探して見る。
しかし周りは何も無い公園。簡単な遊具はチラホラとあるのだが、テトラも流石に夏美の年齢になればそんな物で遊ばない事は知っている。
「――♪」
「!」
その時だった。耳にかすかに聞こえる音。
テトラが耳を澄ませるとリズムの良いメロディが聞こえる。これは間違いなく歌だ、誰かが公園で歌っている?
丁度良い、コレで気分を変えられるかもしれない。テトラは夏美の手を引くと、歌声が聞こえる場所へと足を進める事に。
「ついて来て、夏美ちゃん!」
「あ、ちょ、ちょっとテトラちゃん!」
ずんずんとテトラが前に進み、夏美はそれに引っ張られる形に。
やはりと言うべきなのか一歩足を進めるごとに聞こえる声は大きくなっていく。そして公園の広場に出た時だった。二人は思わず目を奪われることに。
広場の中央、盛り上がった部分に一本大きな木が生えている。この公園のシンボルなのだろうが、そこに持たれかかって一人の少女が歌を歌っていた。
なんとも可愛らしい少女だ、緑の髪をツインテールにしているのがよく似合っている。そして何より、二人の心を奪ったのはその声である。
「――綺麗」
思わず夏美は呟いた。それだけの力が彼女の歌声にはあった。
澄んでいて一切の穢れが無い様な凛とした声である。発声に関しても文句はなく、それぞれの言葉もはっきりと聞こえて高音のパートでも声が裏返る事はない。
まあ色々とは言ったが、何の事はなく、彼女はつまりの所かなり歌が上手いのだ。思わず心奪われてしまう程に。
それは夏美達だけではなく、鳥や犬や猫も集まってくるという、本当に御伽噺の様な光景が広がっていた。
なんの歌かは知らないがしばらく夏美とテトラは彼女の側でその歌を聞き入っていた。少女も目を閉じて歌っているので、夏美達には気づかない。どこかの国の民謡のような歌、数分後、少女の歌はクライマックスを向かえ、終了した。
「!」
少女が目を開けるとパチパチパチと拍手の音。見れば目を輝かせながら笑みを浮かべて手を叩いている夏美達が。
何事かと思ったが、すぐに彼女は意味を察し、ウインクを二人に向ける。
「聞かれちゃったかな、フフフ」
「凄いです! 感動です!」
「うん! お姉ちゃんお歌上手だね!」
「やあやあ! ありがとう、ありがとう。照れちゃうね!」
少し頬を赤くしてはにかむ少女、彼女は膝に寄って来た猫を抱きかかえると、やさしく撫で始めた。
先程は沈んでいた夏美も、今は目をキラキラと輝かせている。それだけの衝撃が彼女の歌にはあったのだ。
間違いなく、今まで聞いてきた歌声の中で一番上手いと思える物だったから。
「二人は旅人さん?」
「あ、はい! 分かるんですか?」
「まあ、この国で生まれる人は遺伝からなのか、髪が緑色になっちゃうからね」
そう言って自分の髪を指す少女。赤い夕焼けをバックに彼女の髪の毛は輝いている様に見えた。
そこで再びハッとする少女、これはいけない、自己紹介を忘れていたと。
「私はミーク。よろしくね」
「あ、はい! 私は夏美です!」
「テトラよ、よろしくね!」
ミークはポンポンと自分の左右の地面を叩く、どうやらココに座ってくれと言うジェスチャーらしい。
夏美は右へ、テトラは左に座ってそれぞれリスや犬など近寄ってきた動物を撫で始めた。
「二人はどうしてこの国に? 観光? それともお引越し?」
「あ……! そ、それは」
いけないと言う表情を浮かべるテトラ、するとやはり夏美はシュンと笑顔を寂しげなそれに変える。
まあミークが事情を知っている訳がないので、これは仕方ない。だから夏美は少しオブラートに包んで今の状況を軽く説明して見せた。
とても辛い事があった。その場所にいるのは耐えられないからココに来たと。声を震わせながらゆっくりと言葉を紡ぐ夏美に、ミークはしばらく黙って話を聞いていたが、しばらくすると手を叩いて急に立ち上がった。
「よし! 歌おう!」
「え? えぇ!?」
「辛い時は大きな声で歌うのが一番! スッキリするよ!」
「で、でも!」
「いいからいいから、さんはい!」
「あ、あわわわ」
取り合えず上下に震える声で夏美はキバのオープニングを歌ってみる。
記憶に新しい歌、一番だけだが取り合えずはスムーズに歌う事ができた。すると今度はミークが目を輝かせて拍手を行う事に。
どうやら彼女は歌うのはもちろん、他人の歌を聴くのも好きらしい。
「いいね、いい歌だね! 夏美ちゃん、もう一回歌って! 私も覚えるから!」
「え! も、もう一回ですか?」
「そうそう、お腹から声を出して歌えばモヤモヤなんてぶっ飛んじゃうよ! はい、さんはい!」
言われたとおり今度は熱唱である。
しかし不思議な事に、彼女の言う通り全力で歌っている間は心にあったモヤモヤが消えた気がした。
意識の全ての歌の世界に乗せ、夏美は必死に叫ぶ様に歌った。そして再度リピート、何とミクも完全に歌詞を記憶したのか、夏美の歌声に自分の声を合わせてきた。
しかもハモる所はしっかりとハモっており、思わず夏美達は驚いた表情でミークを見る。
「凄いですねミークちゃん! もう覚えたんですか?」
「うん、私の唯一の特技」
ピースをしながらニッコリと微笑むミーク。一番だけならば二回程聞いただけで完全に覚えられるという。
もちろんそれは歌だけだとミークは少し自虐的に笑った。どうやら興味がある事はすぐに覚えられるものの、普段のお勉強は厳しい様だ。
その後も三人は色んな歌を一緒に歌った。夏美とテトラもミークからお気に入りの歌を教えてもらい、セッションを。
楽しい歌だった、彼女が始めに歌っていた民謡とは違い、随分とポップな雰囲気でイメージとしてはネギを必死に振り回している様な。
ああいや、かなり滅茶苦茶な例えかもしれないが、事実夏美にはそんな世界が見えたのだ。夏美もミークに知っている歌を告げ、空が夕方と夜の境界線を作るまでコンサートは続く。
「ハァハァ! も、もう駄目です! もう疲れました!」
「えへへ、楽しかったね。テトラちゃんも大丈夫」
「こんなに歌ったの初めて……!」
再び木に寄りかかって座る三人。
確かに、こんなに歌ったのは何年ぶりだろうか? 夏美は喉を押さえて呼吸を整えていた。
でも正直言えば楽しかった、歌を口にしている間は辛い事を全て忘れられた。事実自分は笑顔で歌っていただろう、夏美はチラリとミークを見る。
すると彼女は視線に気づいたのか、にっこりと笑って夏美の目を見てくれた。
「ほら、笑顔になったね」
「……そうですね、ありがとうございます。ミークちゃん」
微笑む夏美を見てテトラも安堵の表情を浮かべた。
もちろん悲しみが消えたわけではないが、それでも重く沈んでいく心は少し楽になっただろう。少なくとも冷静でいられるだけの心は持てた。
「ミークちゃんは、どうしてお歌が好きなんですか?」
「歌ってる時は気持ち良いからね。あとは、そうだね……」
世界が見えるとミークは言った。歌にはそれぞれ一曲ずつに込められた想いがある。
そしてそれを歌えば、ミークには世界が見えると。無限の世界を声を通して束ねる事、それが堪らなく気持ち良いらしい。
まあ色々とは言ったが、つまりの所純粋に歌う事が気持ちいから好きだと、歌が好きだと、そう言う事らしい。
夏美達は日々様々なエンターテイメントや娯楽に溢れている。ネットやゲーム等、しかしこの中世では中々娯楽という物は限られてくる物。
歌と言うのは夏美が思っている以上に尊く、皆が親しみやすい物なのだろう。
「それに歌ってお金掛からないしね。だから私、もっと色んな歌を知って、歌いたいって思ってるの」
「へぇ、そうなんですか」
夏美としてももっと色んな歌を彼女の声で聴きたいと思っていた。
そう思えるだけの歌声が彼女にあったのは事実なのだから。
「あ! いたいたぁ! もー! ミークちゃん!」
「!」
その時だった、別の声が夏美の耳に飛び込んできたのは。
視線を移動させると、そこには慌てた様な表情でコチラを見ているメイド服の少女が三人肩を並べていた。
肩で息をしている所を見ると相当疲れている様だ。どうやら彼女達はミークを探して町中を駆け回っていたらしい。
夏美達から見て右にいるのは黄色いリボンで緑髪をポニーテールに結んでいる少女だ、夏美よりも少し年下に見えるが、凛々しい顔立ちで腕を組んでいる様からはある種男らしさの様な物も感じる。
左の少女はオレンジ色の髪をゴムで一つ結びにし、前髪にはX型の髪留めをつけている。
髪を結んだ為にショートカットに見える風貌からは元気さと活発さが滲み出ていた。少女達三人はおそらく同じ歳だろう。
とは言えメイドとして働いている様だ、これはこの世界の常識なのだろうか? それとも――?
「心配したよぅミークちゃん!」
そして中央にいた少女がミークに向って走り出した。
マゼンダ色の髪を黄色いリボンで結んでいるが、その形が特徴的で、まるでチョココロネを二つぶら下げている様にも見えなくない。
彼女はスカートの両端を掴んでドタドタと慌しくミークの前にやって来た。続いて同じくミークの下へやってくるメイド達。
「駄目だろー、勝手にお屋敷を抜け出して来ちゃ」
「むっちゃ焦ったわ、おてんばなお嬢様やで」
「あはは、ごめんごめん」
ミークは立ち上がると服についた埃を払って意地悪な笑みをメイド達に向ける。
お嬢様、その言葉を聞いて夏美達は改めてミークを見てみる。
確かにふんわりとした髪は手入れが良く行き届いている、そして服装は綺麗なドレス、そう言われればそうである。
周りの人達とは何かが違うとは思っていたが、たった今その謎が解けた。
「紹介します。私の可愛いメイド達!」
ミークはウインクを行い三人を手で示す。
メイド達はそこで夏美達の存在に気づいたのか、笑顔を浮かべてペコリと頭を下げた。
「緑川なおだよ、よろしくお願いします」
緑のポニーテールの少女はウインクを一つ。
「日野あかねや、よろしく!」
朱色のショートカット風の少女がニカッと笑って手を上げた。
「私、星空みゆき! よろしくね!!」
チョココロネ型の髪の少女は、ニッコリと眩しい程のスマイルを夏美達に向けた。
「へぇ、結構変わった名前だね……」
「そうだね、ここら辺じゃ珍しいかも――って」
「「あ」」
テトラはそこである事に気づく。
同じくミークもそこでハッと表情を変えた。彼女もテトラと同じことに気づいたのだろう。
それは名前の法則だ、テトラやミークとは違った名前の法則。
そして一番大きな反応を示したのは夏美だった。彼女は勢い良く立ち上がると、ブンブンと手を振り回すようにしながら、直後自分自身を指差した。
「あ、あの! 私、光夏美って言います!」
「「「え!?」」」
見事に重なる驚きの声、みゆき達も夏美の名の法則性に気づいたようだ。
そうだ、自分達と同じなのだ。苗字と名前はまさに日本の物。
みゆき達は既にミークから話を聞いており、この世界に日本と言う国がない事を知らされている。つまり――
「もしかして、時空の歪みにっ?」
「あ、あのゴゴゴってする奴!?」
双方軽いパニックになっているのか身振り手振りを大げさに途切れ途切れの言葉をぶつけ合っていく。
夏美達にとっては一大事なのだろうが、傍から見れば少し間抜けな姿に見えて、思わずミークはプッと吹き出してしまった。
「何か、訳ありみたいだし、夏美ちゃん達も私の屋敷においでよ」
「え? えぇ? お屋敷ですか?」
「そう、私のお屋敷」
ミークはエッヘンと胸を張ると、得意げな笑みを夏美とテトラに向けた。
髪に手入れがよく行き届いているのも、煌びやかな衣装を着ているのも、全ては理由あっての事だ。当然みゆき達がメイドになっているのも、である。
そこでミークは自分からネタバラシを。
「実はね、私、この緑の国で一番偉い人なんだよ」
緑の国、領主であるミークは自分の胸を押さえ、もう一度自慢げに鼻を鳴らしたのだった。
☆エピナビ☆
・ウルトラマンメビウス
2006年4月8日から2007年3月31日にかけて放送された巨大特撮ヒーロー、ウルトラマンシリーズの一つだ!
ウルトラマンシリーズ誕生40周年記念作品として作られたメビウスには、過去作から多くの怪獣が登場し、また歴代ウルトラマンも同じく登場するなど、一つのお祭り作品として高い完成度を見せたぞ。
この作品ではオリジナルキャラクターの明日乃ミライがメビウスに変身するんだ。
彼が変身したメビウスは、ウルトラマンメビウス・スペランツァー。原作のメビウスに比べ、金色や青色が混じっているオリジナルの形態なんだ。
それは彼の中に三つのウルトラパワーが宿っているからであり、その力を使ってスピード特化の『スカイミラクル』、パワー特化の『ストロングパワー』にそれぞれフォームチェンジできるぞ。
さらに『ガイアエネルギー』により、本来は三分しか活動時間がないメビウスを、無限に使用できる様になっているんだ!
主な必殺技は剣で無限のマークを相手を刻み込むブレードオーバーロード。
そして十字に組んだ腕からビームを発射する、メビュームシュートだ。