Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

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SONG10 ヨルの向こう

 

 

「お嬢様! だいたいですね! 貴女は一つの国を治めると言う責任が――!」

 

「もう、あんまり怒らないでよ爺や。私も反省してますから」

 

「昨日もその言葉を聞きましたぞ!」

 

 

耳を塞いで目を逸らすミーク。

彼女を叱っているのは『爺や』、使用人の中でも一番偉い執事長だ。

今夏美達がいる世界は大きく分けて三つのエリアとなっている。

リンネ王女が治める最も大きな黄の国、そしてカイ王子が治める青の国、そしてミークが治める緑の国だ。

緑の国は三国で最も小さく、城と言うたいそうな物もない。とは言えミークが住んでいる屋敷とて、かなり大きな物ではあるが。

 

 

「だいたいミーク様はいつもいつも――!」

 

 

ヒートアップしてきたのか爺やの口からはマシンガンの様に言葉が溢れていく。

まあそれだけミークが領主としての仕事をサボっていたのが悪いのだろうが、部屋の隅に並んでいるみゆき達も困り顔である。

ココで一つ、空気を呼んだ男が声を上げた。

 

 

「そ、それにしても、本当にありがとうございます。こんな豪華なお屋敷に招待してもらえるなんて。あはは」

 

「む、おお申し訳ない翼殿。ついヒートアップしてしまいまして」

 

 

翼と夏美、テトラは一度ペコリと頭を下げる。

ミークに今日はお屋敷に泊まっていく様にと誘われ、宿屋の方にも爺やがキャンセルの連絡を入れておいてくれた様だ。

さらには食事まで用意してもらい、テーブルの上にはパンやスープ、肉料理等が並んでいる。

 

 

「それでは、何かありましたら何なりとお申し付けくださいませ」

 

「どうも」

 

 

部屋を出て行く爺や。それを合図にみゆき達もそれぞれテーブルについた。

どうやら一応メイドとして働いているが、あくまでもミークの友人と言う扱いになっており、食事もそれなりの物を用意してくれる様だ。

ミークと共に食事をする事も許されており、今では直属の使用人として働いている。

そもそも、彼女達がこうなったのは理由がある訳で。何も初めからミークのメイドであった訳じゃない。一同は爺やが完全に退出したのを確認すると、早速本題へと入った。

 

 

「みゆきちゃん達は時空の歪みに巻き込まれたとみて、間違いないだろうね」

 

「時空の歪み……!」

 

 

みゆき達はその日、学校の帰りにいつも遊んでいる友人達で遊びに行こうと約束をしていた。

待ち合わせに到着したみゆき、あかね、なおの三人は残る二人を何の事はなく待っていた。すると声が聞こえたのだと言う。

 

 

「助けてって声が聞こえたの」

 

 

みゆき達三人は声の主を探す為にしばらく辺りを歩いていたが、すると直後空間が振るえ、大きな闇のトンネルが現れた。

三人はあっと言う間にトンネルの中に吸い込まれ、気がついたらこの世界に来ていたのだと言う。

はじめは海外にでも飛ばされたのかと思っていたが、事態はそんなに甘いものではないと言うのが街を歩く毎に分かってきたと。

まず話が通じるのがおかしいと思えば、電話は三人以外に繋がらず、日本と言う国を誰も知らない状況であった。いよいよと不安になって来た三人、その後も必死に変える方法を探すが、世界地図を見てみれば全ての場所が知らない形になっている。

お金も無いし宿屋にも泊まれない、そろそろ泣きそうになって来た所で三人は散歩をしていたミークと出会い、お屋敷に泊めてもらったのだと。

そこで簡単な事情を話した(トンネルに云々は頭がおかしいと思われかねない為、ただ単に行く宛てがないと言う風に)。

するとミークは何を疑うわけでもなく、それならば自分屋敷に住むと良いと提案を。みゆき達はそれに甘え、さすがに何もしないと言うのは申し訳ないので、メイドになったと言う訳だった。

 

 

「実は私達も同じでね」

 

 

翼はライダーである事は伏せ、自分達も同じ様な状況なのだとみゆき達に告げた。

さらに時空の歪みの事も説明、パラレルワールドと言う物が存在する事を告げる。

一つ、翼はみゆき達に質問を。それは仮面ライダーと言うものを知っているかどうかだ。

答えは『知らない』であった。それは見ていないではなく知らない、つまり存在そのものが分からないのだ。

とはいえ女の子ならばありえない話ではない、翼はその後も国民的キャラクターをいくつか上げていった。とは言え、みゆき達がそれを知る事はなかった。

つまり――

 

 

「じゃあなんや。ウチらと翼さんの世界も違うっちゅう事か?」

 

「だろうね。私達はどうやらこの世界に引き寄せられた様だ」

 

 

何の為かは分からない、しかし確かに歪みはこの世界に繋がっている。

 

 

「へぇ、他世界かぁ、夢があるね!」

 

 

深刻な翼達とは違って、ミークはニコニコしながらパンを頬張っていた。

確かに世界が無数に存在しているのは悪い事ではない。

みゆき達も状況が状況ゆえか、それとも何か心当たりがあるのか、翼の話をあっさりと信じて会話を続けた。

巻き込まれたのは分かったが、双方帰り方が分からない。結局手詰まりな状況であった。

 

 

「じゃあ家にいてもいいよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「うん。部屋に空きはいっぱいあるし」

 

 

ウインクを行うミーク。正直、これはありがたい話であった。

安全な緑の国に拠点が持てると言う事、いつ帰れるか分からない状況では持ち合わせの金では宿屋に泊まれなくなる可能性もあった。

だからこそ、翼達はミークの提案に甘える事に。

 

 

「よっし! じゃあパーティねパーティ、待ってて、私お菓子持ってくるから!」

 

「あ! み、ミークちゃん!」

 

 

仮にもメイドであるみゆき達よりも先に、パッパとミークは厨房からお菓子を取りに走って戻ってきた。

異世界のお菓子、夏美もテトラも甘い物は大好きだ、少し期待は持ってしまうのだが――

 

 

「はい! ネギケーキとネギクッキー! ネギジュースもあるよ!!」

 

「「―――」」

 

 

目を輝かせて満面の笑みを浮かべているミーク、誰もが白目を剥いている中で、あかねだけが冷静に虚空を手で叩く。

 

 

「なんでやねん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外とおいしい!」

 

「た、確かに。びっくりです!」

 

「でしょ! 私のお気に入りなんだ!」

 

 

わいのわいのと笑顔を浮かべている一同。

と言うのも、ミークが持ってきたお菓子はどれもゲテモノばかりかと思いきや、意外や意外、食べてみると中々悪くないのである。

いやむしろ美味しいと言ってもいいかもしれない。ネギと言う言葉に騙されたが、香りはそこまで強くなく、むしろ草もちの様にほのかに香る部分が良いアクセントになっている様な。ネギジュースに関しても他に入っている柑橘系の方が強く、ネギがそれを引き立たせる具合である。

さてさて、お菓子にジュースが女の子の前に揃ってしまったら、始まるのはお喋りタイムである。

慣れと言うヤツは凄い物で、みゆき達は多少の不安はあるもののホームシック等は通り越してしまった様だ。今は他世界についての興味の方が勝っているらしい。夏美の世界がどんなものだったのか質問攻めである。

まあすぐに夏美達の世界とみゆき達の世界はそれほど違いは無い事が分かったのだが、それを皮切りに女性陣は尽きることの無いトークを。

一応夏美の方がみゆき達よりも年上なのだが、夏美が敬語を使って欲しくないと言う提案でみゆき達もフラットに接する事ができた。

話をしていると色々な事が分かってくるもので、気づけば夏美の表情には笑顔が戻る様になっていた。

 

 

「じゃあ、なおちゃんのお家は大家族なんですね!」

 

「そうなんだ。いざとなったら皆しっかりしてるから、アタシが居なくても大丈夫だよ」

 

 

なおは一直線な性格で、まさに曲がった事が大嫌いな少女であった。

男勝りな面が強いが、兄妹達を纏める姉として、料理を初めとした家事等もお手の物である。サッカー部に所属しており、女子からの人気も高いのだとか何とか。

 

 

「ウチの家、お好み焼き屋やってんねん。むっちゃ美味いから、夏美達にも来てほしいわ」

 

「本当ですか! お好み焼き大好きです!」

 

 

あかねは大阪出身と言う事もあり、義理と人情に厚い少女であった。

バレーボール部に入っており、元気で活発な明るい女の子である。

 

 

「みゆきはね、凄く色々なお話を知ってるんだよ。毎晩眠る前に一つ聞かせてもらってるんだ」

 

 

ミークが最後に示したのは星空みゆき。

少し間の抜けた所はあるものの、いつも笑顔で明るく、優しい少女であった。

彼女は絵本が好きで、数々の童話を記憶している。桃太郎や白雪姫など夏美達にとっては常識とも思える話とて、ミークには珍しいのか、彼女はいつもみゆきから聞かされる話を楽しみにしている様だ。

 

 

「絵本はね、いつもハッピーエンドでしょ。だから幸せな気持ちになれるの!」

 

 

そう言って笑うみゆき。幸せな物語は笑顔になれる。

彼女は笑顔が大好きだ、だから絵本の世界がお気に入りなのだろう。何か夢中になれる物があるのは良い事だ。

夏美の脳裏に司の顔が思い浮かぶ。彼はよく自分に色々な仮面ライダーの話をしてくれた。

好きだから、その時の彼の表情は常にキラキラとしていたのを夏美はすぐに思い出せる。

 

 

「夏美ちゃんは高校生なんでしょ! 凄いね、お姉さんだね!」

 

「あはは、みゆきちゃんも時間が経てば私と同じになれますよ」

 

「あぁそっか! そうだね! 高校生かー、楽しみだなぁ!」

 

 

そこからは夏美は自分の高校生活を皆に話した。

普段の授業、そして友達との思い出、尽きる事の無い話に時間もそれだけ過ぎていく。

夏美としてもそれは希望だった、沈黙があると如何しても嫌な事を思い出してしまう。だからとにかく笑顔が欲しかった、話題が欲しかった。

それにみゆき達には何か不思議な魅力があった、特にみゆき、コロコロと表情が変わる彼女は見ていて飽きない。だからこそミークも彼女達を気に入っているのだろう、夏美は身近に接してみてマジマジと理解した。

しかし時間は有限だ。気づけば外は闇で覆いつくされ、時計の針も頂点を誘うとしていた。どうやら話が盛り上がってしまったらしい、爺やが再び部屋の中へ。

 

 

「夏美様、翼様、テトラ様、ベッドの用意ができました」

 

「あぁ、どうもありがとうございます」

 

「いえいえ。さて、お嬢様も明日に備えてお休みに「えー、まだ眠くないよう」お嬢様ッ!!」

 

 

怒声に渋々返事を行ミーク。正直翼とテトラとしてはありがたい提案であった。

幼いテトラは普段ならばもうとっくに眠っている時間だ。翼も変身を数回行い、力を使った為に疲労は凄まじかった。

と言うより既に何度か意識を失いかけている程だ。翼達は爺やの案内で客室に案内される事に。翼に一室、テトラと夏美達に一室、それぞれは自室に戻っていき、夏美はミークやみゆき達と別れる事に。

 

 

「じゃあ、おやすみなさい」

 

「うん、おやすみね」

 

「おやすみ、夏美ちゃん!」

 

「暖かくして寝るんやで」

 

「おやすみ」

 

 

夏美が扉を閉めようとした時、ミークやみゆきの笑顔が目に飛び込んできた。

思わず釣られて笑みを返す夏美、なんだかとても安心した。この世界に来てなんだかとても寂しくなって、怖くなって、悲しくなって。

けれども今、少しは以前の感覚を思い出せた気がする。大丈夫、きっと大丈夫、夏美はもう一度笑みを浮かべて扉を閉めた。

 

 

「………」

 

 

一方で客間に通された翼は、椅子に座ると大きなため息をついた。

取り合えず夏美が少し元気になってくれて良かったと言うべきだろうか。まだまだ問題はあるが、とりあえずは今はそれを喜びたいと。

 

 

「……葵」

 

 

最愛の人がココにいないのは喜ぶべき事なのだろうか?

それとも彼女達もまた今頃は何か問題に巻き込まれているのだろうか。

心配は尽きない、けれども反対に気を抜けば今にも寝オチしてしまいそうな自分に少しだけ腹が立つ。

いや、仕方ないと言えばそうなのだが。とにかく今は司の問題を片付け、何はともあれユウスケ達を見つけたい。

しかし身近なところに一つ大きな心配が。と言うのも本来ココに来るはずのミライから未だに連絡が無いのだ。彼もまた疲労を癒してからと言う事だったので、杞憂に終わる可能性はあるが、彼のエルピスに連絡を入れても帰ってこないと言う現状があった。

まさか何者かに襲われたのか? しかし彼は強い、問題は無いと信じたいが――。

 

 

(考えていても仕方ないか)

 

 

今はとにかく休める内に休んでおきたい、現状戦えるのは翼だけなのだから。

彼はその事を思いながらベッドに横たわる。するとすぐに意識は闇の中へと消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

 

夢を見た。いつもの様に学校に行く夢だ。

けれども登校するメンバーはいつもとは少し違う。友里と、鈴と言う少女だった。

鈴の従兄弟がレオンに似ていたから、きっと彼女はリンネ王女なのだろうと思う。

ガークも、アグミもみんな友達だった。他にも知らない人はいたけど、その人も友達だった。そしてそこにはミークもいた。

もちろん特別クラスメンバーも同じだ。皆揃って、皆笑っていた。けれども『彼ら』の姿は無くて。

どこに行ったんだろう? 夏美がそれを思えば、彼等は自分達の前にやって来た。

 

 

『トリガー!』『マキシマムドライブ!!』

 

 

音が聞こえた。そしたら校舎が吹き飛んだ。

教室にいた皆が浮き上がり、吹き飛んでいく。自分達だけじゃない、至る所から悲鳴が聞こえた。

痛い、助けて、怖い、お母さん、そんな命乞いや未練の言葉が耳に張り付いてくる。

その中で笑い声、弾丸を撃った人が笑ってる。助けて、助けて、怖いよ。夏美だって普通の女の子だ、恐怖に心は食われてしまう。

だから求めた、誰かが助けに来てくれるビジョンを。思い浮かべたのは誰? 決まっている、ずっと自分と一緒に居て、いつも自分を助けてくれた『彼』だ。

 

 

「俺は、この世界を壊す……破壊者だ」

 

 

その彼が、自分を殺した。

剣で心臓を貫いたのだ。

 

 

「!!」

 

 

バッと、反射の様に体が跳ね上がった。夏美は呼吸を荒げて自分の胸を強く押さえつける。

手を通して激しい心臓の鼓動が伝わり、それが夏美を疲労させると共に、大きな安心を覚えさせた。

胸にはまだ剣が刺さった時の感覚が残っている、けれども当然本当に刺された訳ではなく初めて見る夢に脅かされただけだ。

 

 

「――ッ」

 

 

苦悶の表情を浮かべる夏美。間違いない、ディケイドに殺された。

彼女は隣でスヤスヤと眠っているテトラを起こさない様に立ち上がり、部屋の隅に移動すると窓を開けた。涼しい夜風が髪を揺らし、少しは嫌な汗が引いていく。

空を見上げると、朧月がぼんやりと光を放っている。するとまた風が吹いた。

 

 

「!」

 

 

その風に乗って、音が聞こえてきた。

間違いない、夏美は窓を閉めると、携帯の明かりを頼りに部屋を出て行くのだった。

目指すのは食事をした食堂、そこから出られるバルコニーだ。

 

 

「ミークちゃん!」

 

「お!」

 

 

バルコニーから梯子を上るとそこは屋上だ。まあ屋上と言っても普通に屋根が広がっているだけなのだが、そこにミークが腰掛けて歌を歌っていた。

屋敷にある外灯が出す僅かな光がミークと夏美を照らしていた。

 

 

「見つかっちゃった。爺やには内緒にしておいてね」

 

「は、はい。でもどうして」

 

 

ミークは自分の横を手で叩き、夏美を隣に座らせた。

すると再び物音、一瞬爺やが気づいたのかと二人はギョッとしたが、梯子を上ってきたのは眠そうにしていたみゆき達三人であった。

 

 

「ふぁぁ、どうしたの二人とも、こんな時間にぃ」

 

「また深夜徘徊かいな。メイドの身にもなってほしいわホンマ」

 

「爺やさんに知られたら怒られるよぉ」

 

「んふふ、ごめんごめん」

 

 

食堂から一番近い部屋にみゆき達は住ませてもらっている。

だからミークの歌声が部屋に聞こえてきたらしい。仮にもみゆき達はメイド、主人が深夜屋上で一人歌を歌っていたら様子を見に来ないわけにはいかないだろうて。

結局五人の少女は再び並んですわり、軽く話をする事に。

 

 

「なんだか眠くなくって。そういう日はココで歌ってるんだ」

 

 

とは言えど、少し声を抑えて歌う事でより彼女の歌声は洗練される様な気がした。

それもまた一つのあり方なのか、夏美はつくづく彼女の才能に驚かされる。

 

 

「すごいですね、本当に、ミークちゃんは」

 

「ありがとう。いつかさ、皆に私の歌を聞いてもらって、笑顔になってもらえればいいなって。漠然とした夢みたいなのがあるんだ」

 

「ええやん、ミークならできるで」

 

 

頭の後ろで腕を組んであくびをしながら寝転ぶあかね、彼女は仰向けになって夜空を見上げた。

とは言えど星は見えない、この世界の特徴なのだろうか? なんだか黒いモヤモヤが張り付いているみたいで、正直あまり良い夜とは言えなかった。

とは言え夜が齎す静けさは心地良い、思わず心の中にある物を吐き出してしまうほどに。ミークは夢を語った事が恥ずかしいのか、体育座りになると顔を埋めるようにしてはにかんだ。

 

 

「やっぱりね、戦いとか差別とか、今の世の中には辛い事が多いから。せめてお歌くらいは楽しく歌いたいじゃない。それにね、私が歌えばみんなは笑ってくれるから……」

 

「ミークちゃんはお歌が上手だもんね」

 

 

みゆきの言葉に皆はウンウンと頷いた。

ミークにはそれだけの説得力がある。彼女の歌は本当に魅力的だ、いつまでも聞いていたいと思う程。

そうだ、彼女の歌を聴いているときは本当に全てを忘れられる。彼女と歌っている時もそう。本当に素敵で、優しくて、温かい。

 

 

「本当に、辛い事とか……忘れられます」

 

「ッ、夏美ちゃん?」

 

 

気づけばボロボロと夏美の目からは涙が零れ落ちていた。そう、そうだ、辛いんだ、今自分はとても辛いんだ。

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

みゆきが慌てて聞いた、そしてそれがスイッチになった。

夏美は次々と彼女達に自分の弱さを吐露して言った。友人が死んだ、そしてずっと一緒だった従兄弟が変わってしまった。

好きだったのに、彼の事を想っていたのにその変化に全く気づけなかった。それが悔しくて、悲しくて、そして失ってしまった物は本物で。

 

 

「私、もう、どうしていいか分からなくて……!」

 

 

これから何をすれば良いのか本当に分からない。

自分達が立てた計画は取り合えず一時的な『しのぎ』でしかない。誰を倒せばいいのか、何を為せば良いのか、司達はどうすれば元に戻ってくれるのか。

そもそも『戻る』と言う事がやはり間違いなのだろうか? 分からない、何も、夏美は本当に先が見えなかった。当然不安も大きく、そしてやはり友が死んだ事実は確かな物。

どれだけ嘘だと思っていても、それは紛れも無い真実なのだ。

 

 

「うぐッ! ひっく!」

 

 

必死に涙を堪えようとしてもとめどなく溢れてきてしまう。

グシグシと拭っても拭っても悲しみの雫は落ちていく。苦しい、悲しい、辛い、怖い、感情の本流が夏美の心を侵食し、心が痛みを放っていく。

 

 

「――ッ!!」

 

 

だがその時だった。フワリと柔らかな感触、全身が温かい物に包まれたような感覚。

夏美が目を開けると、彼女は今自分が置かれている状況を理解する。なおだ、彼女が自分を抱きしめてくれている。

 

 

「よしよし。辛かったんだね、夏美ちゃん」

 

 

流石は長女と言うべきなのか、夏美よりも年下ではあるがその包容力と振る舞いは何と大きなものであろうか。

なおは夏美の頭を優しく撫で、今までで一番優しい声で囁く様に彼女の苦しみを理解しようとする。

そして夏美の問いに一番初めに答えを示したのは、寝転んでいたあかねであった。

 

 

「思いっきり泣いたらええんちゃうか」

 

「あかねちゃん……!」

 

「そうしたらスッキリして気分変わると思うで」

 

 

立ち上がった彼女は太陽の笑顔を浮かべてサムズアップを夏美に向けた。

難しい事や細かな事は分からない。しかし夏美は悲しいんだ、だったら思い切り泣くと言うのも一つの手であろう。

少なくとも悲しみを溜め込むよりは良い筈だから。そして最後に声を掛けたのはみゆきだった。彼女もまた悲しい事があれば泣いてもいいと。でも、泣いて終わるのは良くないとも。

 

 

「絵本の中のお話は最後に皆笑って終わるんだよ。悲しい終わりなんてヤダもんね」

 

 

だからどんな悲しい事があっても、どんな辛い事があっても最後は笑顔でいた方がいいとみゆきは語る。

それを話す時の彼女の目には何か言い様のない強さを感じた。それだけの意思と、説得力があったのだ。

 

 

「そうしたら、ウルトラハッピーになれるよ!」

 

 

だから夏美はもう耐えられなかった、彼女の弱さがみゆき達の優しさに甘えたいと、本能が夏美を動かしたのだ。

 

 

「――ッ」

 

 

夏美は遂に声を上げて泣き出した。

子供のように激しく泣いた。混乱と恐怖が悲しみを封じていたが、それがみゆき達に解きほぐされてスイッチが入ってしまったのだろう。

司が好きだった。しかし同じ様に咲夜たちも好きだった。大切な友達だったのに死んでしまった。その悲しみは余りにも深く、そして何より殺した者達が司だと言う事が堪らなく悲しい。

なおは夏美が泣いている間、背中をポンポンと叩いてくれた。それが落ち着く、安心する、夏美はひとしきり泣き終えると、ゆっくりと体を離した。

 

 

「ご、ごめんなさい。なおちゃん」

 

「いいって、いいって」

 

 

思い切り泣いて落ち着いた後に少し恥ずかしくなったのか夏美は顔を赤くして、なおにペコリと一つ謝罪を。

年下の彼女の胸を借りてしまった。とは言え確かに言われたとおり胸にある悲しみを思い切り吐き出したからか楽になった様な気がする。

 

 

「――♪」

 

「!」

 

 

そしてその時だった。耳に入ってきたのはなんと綺麗な声だろうか。

夏美やみゆき達が視線を一勢にミークへ移動させた。彼女は静かな雰囲気を保って歌を奏でた。

歌詞はなく、口にする言葉はラララと言ったものだが、奏でるメロディはすぐに夏美達の心を虜にしていく。夜の静けさと彼女が歌う美しい音が何よりもマッチしているのだ。

 

 

「綺麗」

 

 

また思わず呟いてしまった。

先程まで自分が泣いていた事を忘れてしまいそうなほど、それだけの衝撃が彼女の歌にはあったのだ。ミークはひとしきり歌を終えると、口を閉じて夏美のほうを見る。

そして満面の笑みを浮かべた。

 

 

「さ、歌おうよ夏美ちゃん。そしたら笑顔になれるよ」

 

「あ……」

 

 

手を差し伸べてくれるミーク。みゆき達も誘い、彼女達は笑顔で強く頷いた。

そして夏美、みゆきの言葉を思い出す。笑顔で居れば、幸せがやってくると。

そうか、そうだな、夏美もまた笑みを浮かべるとミークの手を取った。

 

 

「夏美、なにがあったのか分からないけど、私達がいるからね」

 

「え?」

 

「もう友達だよね、私達」

 

 

ウインクを行うミーク。みゆき達もブンブンと勢い良く首を振って賛同の意を示す。

友達、その言葉が今の夏美には何よりも重く響いて、彼女の瞳からは再び涙が溢れてきた。

けれどもそれは先程流した悲しみの涙ではなく、ミーク達の優しさが齎した喜びの涙であろう。

 

 

「はい!」

 

 

夏美はそこで初めて満面の笑みを浮かべると、ミークに誘われて立ち上がる。

そして静かではあるが、美しいコンサートが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クヒッ! イヒヒヒ!」

 

 

そして、それをカタツムリ型のゴーグルで見ていた女が一人。

ミークの屋敷の周りは何も無い。何も無いが、小高い丘が一つあった。

そこでその女は夏美達の会話を聞いて同じく笑みを浮かべる。けれどもそれは随分と下卑た感情が含まれていた物だが。

 

 

「いいわねぇ、女の子同士の友情ぅって! 感動、感動、泣いちゃうわぁ」

 

 

けれどもけれども?

 

 

「ぶっ壊したくなっちゃうぅう! ギヒヒヒィ!」

 

 

フルーラはデンデンセンサーから視線を外すと、眼帯をつけながらミュージカルの様にに軽く踊り出す。

同じくデンデンセンサーを受け取ったゼノンも彼女達を見て嘲笑を行っていた。緑の国を調査していたが、夏美がココに逃げ込んだのは少し予想外であった。

 

 

「キバーラ泣いちゃったねぇ、お友達が死んじゃって可哀想に、フフフフ!」

 

 

とは言えすぐにゼノンはデンデンセンサーを地面に置いてしまう。

どうやら夏美達に興味は無いらしい。彼は顎を押さえて少し考察を一つ、今のゼノンには何より一つ気になる事があったのだ。

それを確かめる為に、時間を少し巻き戻そう。翼はミライの事を気にかけていたが、そのミライに視点は移る。

彼の体の中にはウルトラマンの力が宿っている。故に、疲労や傷の回復は他の人間よりも比べ物にならない程高い。さらにハネタローが放つ治癒の光を浴びてより回復時間は早まった。

 

 

『大丈夫パムか、ご主人様』

 

「うん、大丈夫だよ。ありがとうハネタロー」

 

 

多少体は重いがそんな事を言っている場合ではない。

ミライはハネタローをボールに戻すと、入れ替わりで一人乗り戦闘機、エスポワールを出現させる。

未知の科学技術(メテオール)を使ったエスポワールはある程度ミライの思考で動かす事が可能だ。さらに乗り込む際も、念じるだけでミライの体はエスポワールのコックピットにワープできる機能があった。

既に黄の国の隣が緑の国である事の調べはついていた。ミライは既に暗くなり始めた空へエスポワールと共に飛び込んでいく。

黄の国は大きな壁に囲まれているが、空を飛べば何の問題も無い。ミライはアッサリと黄の国を越えて緑の国に入る事ができた。

さて、一度着陸させてから翼に連絡を取ろう。彼がそう思った時だ、エスポワールに内蔵されていたセンサーが警告音を鳴らしたのは。

 

 

「!」

 

 

後方に熱エネルギーの反応、ミライがモニターに対象を表示させる。

見えたのは黄色と青の光球、コレには見覚えがあった。ミライはエスポワールを操縦して迫る光球を何とか紙一重で回避していく。

時に機体全体を回転させることで両翼の装甲で光球を弾き飛ばしたり。

すると笑い声、やはりと言うべきなのか、エスポワールを追従する一機のバイクが。

 

 

「クハハハハハ! 遊ぼうよ、メビウス!」

 

「ッ、貴方は!」

 

「ボク等はダブル、実を言うと君に興味があるんだ」

 

 

ハードタービュラーに乗り込んだダブルは空を飛ぶエスポワールを発見、すぐに追跡を開始した次第である。

ダブルはメビウスに興味があると告げる。興味、そうだ、なんだか兄妹のような親近感がある。

とは言え、その興味の先にあるのは結局戦闘なのだが。

 

 

『今コッチに来られると面倒なのよ、貴方。フフフ!』

 

「クッ!」

 

 

考えるミライ。いくら回復はしたからと言ってディケイド戦の後、あまり本調子とは言えない。

エスポワールのスピードならダブルをまけるかもしれない。一瞬そうは思ったのだが、それは向こうも考えていた事らしい。

 

 

「つれない事は言わないでくれよ。ココでフラれちゃ、ボクらにもモヤモヤが残ってしまう」

 

『ワタシ達まだお子様だもの、内に秘めたイライラは物に当たる事で発散しちゃうかも』

 

 

ダブルは眼下に広がる町に銃を向ける。

そしてオブラートに包むわけでもなく、次の言葉を言い放った。

 

 

「ボク等と戦うか、それとも君のせいで町が破壊されるのか、選ばせてあげるよ」

 

「クッ! メビウス!」

 

 

やるしかない。ミライはメビウスブレスを出現させ、クリスタルサークルを弾いた。

エスポワールを消すと同時に飛び出してきたのはメビウスに変身したミライ。

ダブルもそれを確認して鼻を鳴らすと、ハードタービュラーを飛び降りてフォームチェンジを。

 

 

『サイクロン・ジョーカー!』

 

 

マフラーを靡かせて風を発生させるダブル。彼もまた空に浮かび上がり、飛翔するメビウスを追いかけた。

途中何度も激突しあう二人、拳や蹴りを交えながら縦横無尽に空を駆け巡る。

 

 

『貴方も変わってしまった理由を教えてはくれないんですか!』

 

 

なるほど、確かにダブルの言う通りメビウスも少しダブルに言い様の無い親近感を覚えた。

これが何なのかは分からないし、今はそれどころではない。ディケイドは守らなければならない物の為とは言っていたが、具体的な答えが返ってくる事は無かった。

なのでダブルに聞けば或いはと思ったのだが――

 

 

「胡蝶の夢」

 

『?』

 

「理解できないのなら、君が知る事は無いね」

 

 

ダブルの蹴りが眼前に迫る。

腕を盾にしてそれを受け止めるメビウス、さらにもう一方の手でダブルの脚を掴むと、思い切り地面のほうに向って投げ飛ばした。

 

 

「うわッ!」

 

 

呻き声を上げながら地面に猛スピードで向うダブル。

いざ地面にぶつかると言う所で体勢を整えたか地面を転がって勢いを殺す。

一方で同じく地面に着地したメビウス、辺りを見回すとどうやらココは橋の上。下にはそれなりの勢いで川が流れている。

 

 

「クハハッ! ヒャハハハハ!!」

 

「ヘアッ!」

 

 

笑いながら前傾姿勢で走り出すダブルと、構えを取って走り出すメビウス。

先に動いたのはダブルだ、彼は地面を蹴って高く跳ぶと脚をバタつかせて連続蹴りを。

とは言えメビウスは自由に飛べる。彼はダブルと同じ高さに飛ぶと、そのまま後ろへ移動して攻撃を回避する。

さらにその間にメビュームスラッシュを発動、連続で放たれた光刃がダブルを狙う。

 

 

「フッ!」

 

 

しかしダブルは空中で体勢を変えた。体を地面と並行に、頭を前に、後ろに足が来るように一直線に体を伸ばす。

そして体を右に反らし光刃を回避して見せた。ダブルはそのまま加速、後ろへ下がったメビウスに追いつくと、すぐに拳や蹴りで距離を詰める。

対抗するメビウス。再び拳や蹴りの応酬が続いた。ダブルはその身に風を纏わせて、それをスピードに変えている。彼が回し蹴りを行うと、緑のエネルギーが共に付与しているのが見えた。風の力だ、それが早さと威力を増している。メビウスは次第に防御の回数が増えてくる。

だが戦いは攻撃の数ではない。攻撃をすれば当然防御が待っており、それをいかに崩すのか。メビウスは一旦後ろに下がると、メビュームスラッシュを発動する。

 

 

「!」

 

 

それはダブルに向ってではなく地面に向ってだ。

ダブルの足元が爆発し、石の欠片や煙が巻き上がる。それに驚いたか、本当に僅かではあるがダブルの動きが鈍った。

メビウスはそれを逃がさない、力を込めたストレートパンチがダブルの胴にクリーンヒットする。

 

 

「ウッ!」

 

 

後ろへ一歩下がるダブル、メビウスは空中へ飛び上がりながら回し蹴りを行う。

ダブルの頬に衝撃、メビウスの足がしっかりと彼の頭部を捉えていたのだ。

 

 

「ウォオオ!」

 

 

呻き声を上げながら地面を転がるダブル。

メビウスはダブルを追いかける為に走り出すが、その時だった、背中に痛みが走り火花が散ったのは。

 

 

「ぐッ!」

 

『ギャォオン!!』

 

 

メビウスが振り返ると、肩に恐竜の様なメカが乗っているのが見えた。

牙の記憶、ファングメモリ、彼はメビウスの背に牙と爪をつき立てて不意打ちを食らわせると跳躍、空中を回転し変形しながらダブルの下へと飛んでいく。

 

 

「フルーラ、任せるよ」『ファング!』

 

『まかせてゼノン、アイツ、バラバラに引き裂いてあげるから!』

 

 

光が迸りダブルの体の色が緑と黒から、白と黒に変わる。

さらにフォルムは棘棘しくなり、ソリッドなイメージを強調させた。

ファングジョーカー、ダブルはすぐにベルトにあったファングメモリの角を弾いて肩に大きな牙を生やせる。

 

 

『ショルダーファング!』

 

 

ダブルはすぐに肩にあった刃を外すと、それを思い切り投げてメビウスの方へと投擲した。

フォンフォンと音を立てながら回転し、不規則な動きでメビウスの周りを飛行する。

それはもう意思を持ったブーメラン、鋭利な刃でメビウスを体を切り裂きながら尚も飛行を続けていく。

 

 

「ウッ! ウァッ!」

 

 

メビウスも牙を撃ち落そうとするが、牙はそれなりのスピードを持っている為、簡単に捉える事はできない。

そして当然、牙はアシストビットでしかない。本命はと言うと両手を広げ、天を向いて咆哮をあげた。

 

 

「ァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

普段はあくまでも可愛らしく振舞っているフルーラだが、今は雄叫びとも言える程力強く叫んでいた。そこにエレガントや可愛らしさは欠片もない。

ダブルは爪を光らせると、姿勢を低くして地面を蹴った。目を赤く光らせた野獣が解き放たれる。

 

 

「グチャグチャにしてぶっ殺してあげるわ! メビウスゥウッ! ギヒヒャハハハ!!」

 

 

メビウスに跳びかかるダブル、その様はまさに獣のそれである。

メビウスはブレードを出現させて対抗するが、パワーアップしたダブルの猛攻は凄まじい物があった。

先程とは戦い方が全く違う。先ほどは攻撃をどこに当てようか、フェイントを仕掛けて相手を揺さぶろうか、そんな心理戦も肉弾戦の中に織り込まれていた。

しかし今は違う、とにかく相手を引き裂こうとする純粋な殺意、攻撃のルートも滅茶苦茶である。とは言えど力は強くなっている為、それだけの無茶苦茶な攻撃を正当化させる理由があった。

 

 

「グアアッ!」

 

 

そして周りには相変わらず飛び回っているショルダーファング。

ファングは容赦なくメビウスの体を切り裂き、それだけ彼の動きを鈍らせる。

その隙にダブルの爪がメビウスの体を捉えた。呻き声を上げて膝を地面につくメビウス、するとダブルは彼の左腕を掴み、直後目を疑う光景を見せる。

 

 

「!?」

 

 

ダブルの顔がグパァァと割れた。文字通り、パッカリと二つに分かれたのだ。

ファングジョーカーの時はダブルは二本の銀のラインによって左右のサイドが区切られている。その銀の線が一本ずつとなった訳だ。

そして割れた所にあったものは『口』である。銀のラインにはびっしりと牙が並んでおり、仮面の裏には真っ赤な口が存在していた。

ダブルはパックリと別れた顔を移動させ、メビウスのブレードを『噛んだ』。ハエトリ草の様に顔が割れて刃を挟み込む様は完全にホラー、今のダブルは完全なるモンスター。

そしてダブルはメビウスが呆気に捉えている間に力を込め、メビュームブレードを粉々に噛み砕いて見せる。

 

 

「!!」

 

 

マズイ、メビウスはすぐに後ろへ飛んだ。

すぐに彼を追いかけるショルダーファング、メビウスはそこで一つ冷静に考察を。

やはり体は鈍い。ディケイドに使ったエネルギーが完全に回復しきっていないのだ。このまま戦いを続ければ不利なのは明らかだ。

だとすれば短時間で決着をつけるしかない。ダブルには色々と話を聞きたい所であったが、どうやらその考えは捨てなければならないか。

メビウスはクリスタルサークルに手をかざす。するとクリスタルが別の宝石に変わったではないか。怪獣ボール、どうやらメビウスに変身していても使用はできるらしい。

 

 

『来てくれ、ミクラス!!』

 

 

メビウスブレスから光が溢れると、メビウスとダブルの間に大柄な体系の怪獣が現れる。大きな角を持った牛の様な怪獣、ミクラスだ。

 

 

「ガァー! ガラララ!!」

 

「!」

 

 

ダブルは急に現れたミクラスに驚きつつも、構わないと牙を振るって彼を攻撃しようと試みた。

しかし衝撃、ダブルの爪はミクラスの大きな体を前に止められたのだ。どうやらそれなりの防御力らしい。

そうしてみればミクラスが体を思い切り前に突き出して突進を。腕を前にして防御を行ったダブルだが、その衝撃は凄まじく、彼女は思い切り後方へと吹き飛んでいった。

どうやらミクラスは凄まじいパワーが特徴のようだ。

 

 

『ミクラス! 電気攻撃だ!』

 

「ガラララ!!」

 

 

瞬間、迸る雷。ミクラスの角が光ったかと思えばそこから大量の電気が放出されて辺りを駆け巡った。

範囲攻撃、その中にメビウスを狙うショルダーファングを捉えており、激しい電気エネルギーはファングの動きを止めて、直後破壊する。

そしてメビウスは両手を組み、光のエネルギーをクリスタルサークルに収束させる。終わらせるつもりだった、なるべくならばこの手は使いたくなかったのだが。

 

 

「フッ! ハァァァッッ!」

 

 

メビウスは何をするつもりなのか? 決まっている。巨大化だ。

メビウスは通常怪獣と戦う為にそれ相応のサイズに変身している。

今までは相手が等身大であった為、また大きくなる事で人目についてパニックを引き起こすのを防ぐ為に、戦いやすいサイズになっていた。

しかし今この状況では話は変わってくる。大きくなれば必ずしも有利になる訳ではないが、当然小さい相手を攻撃する際は攻撃力が高くなる為、状況がメビウス側に傾く可能性は高い。

今は夜で周りには外灯も少ない、それにダブルを掴んで投げ飛ばすだけで勝負は終わる。短時間で勝利をつければ――!

 

 

「!?」

 

 

だが異変が起こる。どれだけ光のエネルギーを集めても巨大化ができない。

おかしい、普段ならば絶対にこんな事は無い筈なのに。

なんだ? どういう事だ? 混乱するメビウス。しかし現実は現実、彼がどれだけ力を込めようとも巨大化はできなかった。

いや、少し御幣がある。正確にはメビウス元々のサイズに戻る事ができない。

 

 

(なにがどうなって……!)

 

 

そして異変はそれだけではなかった。

羽音が聞こえる。なんだ? メビウスが空を見上げるとそこから無数の黒が迫ってきた。

バタバタと煩い羽音を立てている黒、見ればそれは無数の『蛾』が集まっていた物だった。

なんだこれは、メビウスがその異様な光景に目を奪われているのも束の間、蛾の群れはメビウスを取り囲むと、直後メビウスの体から連続して火花が散った。

 

 

「ウァアアアアア!!」

 

 

衝撃と痛みがメビウスに襲い掛かる。

蛾の羽から鱗粉が散ったかと思えば、それが小さな爆発を起こしたのだ。

一つの痛みはそれ程ではないが、蛾はメビウスの全身を多い尽くすほどの量がある。当然それだけ蓄積ダメージが膨れ上がり、メビウスは悲鳴を上げたのだ。

 

 

「ウッ! うァアッ!」

 

 

蛾に覆われていては前も見えない。

メビウスは必死に蛾を振り払おうとするがとにもかくにも数が多い為にどうしようもならない。

そして、それを見ているダブルもまた動きを止めた。

 

 

『ッ、何だいアレ』

 

「うげー、ワラワラしてるわぁ」

 

 

ドン引きと言った様子でメビウスから後ずさっていくダブル。

どうやら出現した蛾の群れはダブルが差し向けたものではないらしい。

むしろ彼等にとっても全くのイレギュラーだった為、ダブルはしばらく様子を伺うことに。

もがくメビウスに尚も群がっていく蛾達、ただの蛾がウルトラマンである彼を苦しめられるだろうか? いや、そんな訳が無い。と言う事は、蛾の方にそれだけの力があると言う事。

 

 

『ミクラス!』

 

「ガラララ!」

 

 

耐えられなくなったのか、メビウスはミクラスに助けを求めた。

その方法は何ともシンプルな物、ミクラスは電撃攻撃をメビウスに向って放ったのだ。多少はダメージを受けるだろうが、これで蛾達は――

 

 

「!?」

 

 

剥がれなかった。なんと蛾達はミクラスが放った電撃に耐え、尚もメビウスに攻撃を行ったのである。

明らかに普通の蛾ではない、メビウスは何とかしようと思うのだが連続して襲い掛かる痛みと衝撃に動きが完全に封じられてしまう。

だとすればしかたない、奥の手しかない。メビウスは再びミクラスに助けを求める。その方法は先程とはまるで違うもの。

 

 

「ガララララ!!」

 

「ぐっ!」

 

 

ミクラスは思い切りメビウスにタックルを仕掛ける。例外なく吹き飛ぶメビウスの体、彼はそのまま下の川に着水すると、大きな水しぶきを上げて沈んでいった。

鱗粉を洗い流し、流石の蛾達も水の中では何も出来ないと悟ったか次々に水の上へ飛び出していき、そのまま空に昇っていった。同じくしてミクラスも消滅し、あたりは静寂に包まれる。

 

 

「……!」

 

 

水の中に入ったのに何事も無く飛び去っていく蛾が気になったが、メビウスの行方も気になる。

ダブルは橋の下を見下ろしてみるが、大きな波紋は確認出来れどメビウスの姿を捉える事は出来なかった。

デンデンセンサーは蛾の行方を追っている為、メビウス相手には使えない。

 

 

『まあいいか、取り合えず今回は見逃そう』

 

「水落は生存フラグなのかしら! ウフフ!」

 

 

変身を解除するダブル。それにしてもあの蛾は一体? ゼノンはすぐにデンデンセンサーを確認してみる。

すると蛾は上空を一定以上飛んだ所で完全に消滅(ロスト)した。どういう事なのか? ゼノンは顎を押さえながらフムと唸る。

気になったのは何故蛾は現れ、そしてメビウスを攻撃したのかと言う点だ。あの場にはメビウスとダブルがいたが、蛾は迷う事無くメビウスを狙った。それだけではなくミクラスが攻撃を行った際も、蛾はメビウスを狙い続けた。

 

 

(何か、あるのか……?)

 

 

面白い事になってきたかもしれない。

ゼノンはフルーラの手を取ると、ハードボイルダーに跨り、エンジンを強く鳴らした。

その表情は不適な笑みを浮かべている。何か彼には『見えた』物があるらしい。

 

 

「ごほっ! がハッ!」

 

 

一方で川に落ちたメビウス。

変身はいつの間にか解除され、ミライはヨロヨロと川岸に身を放り投げる様にして移動させる。

体を引きずり、ミライは呼吸を荒げながら状況を思い返す。とは言え意識は朦朧としていた。あの蛾の鱗粉が異常なるまでの効力を齎したのだ。

毒なのだろうか? 想像以上のダメージと疲労を彼は受けていた様だ。

 

 

「ハァ、ハァ! グ……ッ!」

 

 

駄目だと、ミライが思った時には既に意識はブラックアウト。彼は川岸にうつ伏せになりそのまま意識を失う。

この夜の静寂の中では聞こえるのは川が緩やかに流れる音だけ。随分と流されたのだろうか? 周りに明かりは『ほぼ』無く、人目につきそうにも無い。

しかし数分後、確かに存在していた微かな光がミライを照らした。足音が聞こえる、一つ、二つ、それは少しずつミライに近づいていった。

 

 

「大変……、すぐに助けないと」

 

 

長身の女性だった。ランタンを持ち、静かな声で隣に居た男性に話しかける。

特徴は少し泣きそうな表情、そして真っ白な髪の毛と赤い瞳であった。ローブを深く被るように着ており、顔は周りからはあまり確認できないだろう。

一方で隣にいた男性は対照的に顔を大きく露出していた。彼もまた髪は白く、目は赤い。少し長めの髪を後ろで結んでおり、火がついたタバコを咥えている。

 

 

「本気かハクア? オレは面倒事はゴメンだぜ」

 

「でも、放っておけないから……」

 

「チッ!」

 

 

ハクアとアデル。白い髪と赤い目の二人は複雑な表情でミライを見ていた。

舌打ちを放つアデル、彼は苛立ちを顔に残しながらも、タバコを川に投げ捨てると、ため息交じりにミライを抱え上げる。

 

 

「ほら、帰るぞ」

 

「ありがとう、アデル」

 

「さっさと帰りたいだけだ。ったく、最近は面倒な事が多いな」

 

 

アデルはミライをおんぶすると、滴る水の感覚に再び表情を顰めて歩き出した。

その後をランタンを抱えながらハクアも追従していった。こうして二人に助けられたミライ。彼がその後どうなったのかは、まだ分からない。

視点は次に黄の国にいた亘達に移る。城から少しだけ離れた住宅街の中、建物の影に隠れて三人と一匹ははこれからの動きについて話し合っていた。

 

 

『信じられないッス、司さんがそんな……』

 

 

唸るキバット、どうやら彼もまた今まで眠りに落ちていたらしい。

と言うよりも今も気を抜いてしまえば眠ってしまいそうだ。なんだかこの世界は異常なまでにリラックスしてしまう、事態が事態だと言うのは分かっているが、なんとも落ち着くというべきなのか。それは少し気になったが、答えの出しようが無い為に一同はその点はスルーする事に。

今はとにかく何を優先させるべきなのか、だ。

 

 

「司くんを止めるのはもちろんだけど、大ショッカーも放っては置けないよ」

 

「うん、って言うか司ももしかしたらそっち関連でおかしくなってるかもだしね!」

 

 

忘れてはいけないのはこの世界には確実に大ショッカーの意思が蠢いていると言う事だ。

レオンやガークにガイアメモリを与えたもの、リンネ側や自分達を無差別に襲ってきたアンノウン、司達が狂ってしまったのも、必ずして大ショッカーが絡んでいると拓真は睨んだ。

そしてやはり何よりもリンネ王女を何とかしなければならない。大ショッカーは直接世界を破壊する者と、破壊の種を世界に蒔いていく者がいる。今回は後者のケースがメインであろう。リンネの恐怖政治は力をバックにさらに巨大な物になっていく。このままであれば司達が手を下さずともこの世界は滅びてしまう。

 

 

「それに――」

 

 

この時間になるまで三人は町で聞き込みを行っていた。

それは最近城周りで何か変な者を見た、または変な噂を聞いたことは無いかと。

すると一人の住人が興味深い事を教えてくれた。なんでも最近城におかしな格好をした連中が出入りしているとの事。

ファミリーと名乗る連中はリンネやその護衛兵とも普通に会話をしていたとか。つまりそれが許される立場にあると言う事だ。情報提供を行ってくれた人はそのリーダーの名前を記憶しており、三人に教えてくれた。

 

 

「ロギー一家。気になるよね」

 

「おそらくソイツ等が大ショッカー、なんすよね?」

 

「ま、そうでしょ、本当ふざけてる」

 

 

三人は取り合えずそのロギー一家の一員を捕まえる計画を立てた。

三人だけではガークたちに勝てるかどうかは分からない。しかしロギー一家の一員くらいならば勝てると踏んだのだ。

そしてその一人を問い詰めることで情報を引き出そうと。そうと決まれば三人の足は速かった。夜の闇に紛れてすぐに城の近くへとやってくる。

草陰に身を潜めながら、一同は城からロギー一家が出てくるのを待つ事に。キバットを上空に待機させ、一同は城を見つめている。

時間は既に夜、誰も出てこない可能性は十分にあったが、どうだろうか?

そして一時間程経った頃だろうか? キバットが怪しい男を発見したと三人に連絡を。なんでも服装が他の者と違っているのだとか。

亘達はすぐにその男の下へ移動する、ものの一分も経たぬ程で亘はキバットと合流を果たす。

 

 

「キバット、ありがとう。アレが?」

 

『はい、そうッス』

 

 

物陰に隠れてキバットが示した男の背を見る三人。

黒いハットとファー付きのコート、葉巻を吸っているのか、煙がモクモクと立ち込めていた。

マフィアか? 漫画やアニメで見た事のある格好に三人は顔を見合わせる。

どちらにせよキバットの話では彼はリンネの城から出てきたとの事、なれば関係者である事は間違いない。

捕まえて話を聞こう、亘達がアイコンタクトを取った時、状況が大きく動く事に。

 

 

「出て来いよ。こそこそ隠れるなんてつまんねぇ事してくれるな」

 

「!」

 

 

その男ロギーは振り返ると杖で亘達が隠れている場所を指し示した。

バレているのか、背中に冷たい物が走った。一瞬ハッタリかとも思ったが、ロギーはご丁寧に亘と拓真、友里の情報を口にしていった。

 

 

「お子様に気の弱そうなガキ、後はツインテールのお嬢ちゃん。お前らの事だよ」

 

「――ッ」

 

 

駄目だ、完全にバレている。

亘達は意を決してロギーの前に姿を見せる。

 

 

「どうした、揃いも揃って俺っちに何か用かい?」

 

「……話が聞きたい」

 

「だったら、聞き出してみろ。仮面ライダー!」

 

「「「!」」」

 

 

光が迸る。するとロギーの体が変身、人を放棄し、彼はアリをベースとした怪人へとステージを変えた。

ロギー、それは人間体の名前である。彼の本当の名前は『アリカポネ』、ハットや葉巻はそのままに、胸部のベストには英語で『シカゴ』の文字が。

息を呑む亘達、もうこちらが仮面ライダーである事もバレているらしい。そして向こうは予想通りと言うべきなのか、大ショッカーの一味、ならば遠慮はいらないか。

 

 

『5』『5』『5』『Standing by』

 

 

ベルトを装着しファイズフォンを展開する拓真、亘と友里も拓真に続いてそれぞれのベルトを装着して変身アイテムを構えた。

キバットに自分を噛ませる亘と、デルタフォンの引き金を引いて音声認識を行う友里。

 

 

「「「変身!」」」

 

 

コンプリートの音声と共にフォトンブラッドが全身を駆け、ファイズとデルタが姿を見せた。

一方魔皇力が全身を駆け巡り、亘にはキバの装甲が装備される。中央をキバにして並び立つ三人のライダー、しかしアリカポネに焦りの様子はなかった。

むしろ余裕綽々と言った様子で彼は歩き出す。

 

 

「来いよ、しばらく暇だったんだ。少しは楽しませてくれよ」

 

「ハァアア!」

 

 

両手を広げる様に構えて走り出すキバ。一方ファイズとデルタはそれぞれ銃を使って後方支援を行う事に。

キバの背中を抜けて二色の光弾がアリカポネに向って飛んでいく。しかし刹那、アリカポネがステッキに手を掛けた後だった、その光弾が消し飛んだのは。

 

 

「!」

 

 

見ればアリカポネの手には細長いレイピアが。どうやらステッキの中に仕込み刀が入っていたらしい。

ヒュンと風がなる音が聞こえると、残像を残してレイピアが移動する。どうやらアリカポネは自分に迫った光線を切り裂いた様だ。

光線を切り裂くのスピードに驚きながらもキバは走るスピードを緩めなかった。そんな彼にアリカポネは杖を向ける。剣を抜いた後もステッキには役割がある様だ。

 

 

「ぐあぁああぁぁッ! グッ! オォオ!」

 

 

ダダダダダダと音がしたかと思えばキバの全身から火花。

何の変哲も無いステッキはどうやらマシンガンになっており、無数の銃弾がキバの体に命中していった。

怯んだ彼に向ってアリカポネは一気に距離を詰めるとレイピアを振るっていく。

 

 

「クッ!」

 

 

しかしすぐに体勢を整えたキバは姿勢を低くして振るわれたレイピアを回避。

地面を転がりアリカポネの背後に回ると、思い切り足を上げて蹴りを繰り出した。

 

 

「うぉ!」

 

 

腕を盾に蹴りを受け止めるアリカポネ、キバもすぐに立ち上がって彼に拳を向ける。

胴体を狙ったボディーブロー、しかしそれをアリカポネはしっかりと受け止め、キバの腕を掴み上げる。

 

 

「ぐッ!」

 

「フフフフ。どうした、その程度か!」

 

 

キバは力を込めて抵抗して見るがアリカポネを振りほどける気がしなかった。

つまりそれだけの力があると言う事、キバは一瞬で察する。この怪人、ただ者ではないと。

 

 

「亘!」

 

「ッ!」

 

 

声が聞こえた。キバは腕を振りほどくのを諦めると、逆に自分もアリカポネの肩を掴んで旋回を行った。

先程まで自分が立っていた位置にアリカポネが来るように移動するキバ、すると直後アリカポネの背中に火花が走る。

どうやら初期位置にいたデルタがもう一度射撃を行った様だ。一方で走り出したファイズ、キバと同時にアリカポネを攻めようと。

 

 

「成る程、中々いい一発だ」

 

 

しかしアリカポネは一瞬怯んだものの何の事はないと言った様子であった。

彼はキバを文字通り持ち上げると、そのまま頭上から振り下ろす様にして投げ飛ばした。

ライダーの体を軽々と持ち上げて投げるとは予想外だった、ファイズは飛んできたキバにぶつかると、衝撃で動きを一瞬止める。

そこへ投げられたハット、つばの部分が刃に変わっており、文字通りブーメランとしてファイズとキバに飛翔していく。

腕をクロスさせてガードの体勢を取るファイズ、当然ブーメランはそこに命中して弾かれる事に。しかしこれは囮、本命は走り出したアリカポネ自身だった。ブーメランに気を取られているファイズは、次に迫った拳に対応が遅れてしまう。

 

 

「うあッッ!」

 

 

凄まじい衝撃が全身に走り、ファイズは大きく後方へ吹き飛んで倒れた。

特筆するべきはやはりその威力であろう。いくら先のブーメランで多少ガードが緩んでいたとは言え、アリカポネの拳にガードは全く意味を為さなかった。

そう言えば先程もキバの腕を掴んで離さなかった。どうやらアリカポネ一番の武器はレイピアでもなければステッキの銃でもなく、持ち前の怪力の様だ。アリは自分の体よりも大きな物を持ち上げる事ができる。それだけのスペックが彼には存在しているのだ。アリカポネはすぐにステッキを倒れているキバ達に向けるが、そこで衝撃、手から火花が散って彼は呻き声を上げながら一歩後ろへ下がった。

 

 

「チッ!」

 

 

見れば後方にいたデルタが銃でステッキを持っていた腕をピンポイントで撃ち抜いていた。

手に衝撃が走りアリカポネは舌打ちを交え、ステッキを地面に落とす。デルタの射撃レベルは馬鹿にはできない、放置しておけば動きにくい事この上なし。

すると彼は息を思い切り吸い込む。葉巻の煙を蓄え、彼はそれを一気に放出する。すると尋常じゃない量の煙があふれた。それは周囲の視界を遮る程の物、どうやら葉巻にも秘密があったようだ。すぐにデルタの視界も煙で覆われ、元々夜と言う事もあってか完全にアリカポネの姿が消えてしまう。

そして銃声、直後キバとファイズの呻き声。

 

 

「亘! 拓真!」

 

 

声を掛けるデルタだが彼女もまた例外ではなかった。

背に衝撃が走ったかと思うと肩が掴まれる感覚、直後平衡感覚がおかしくなった。

地に足がついていない、それもその筈、デルタはアリカポネに掴まれ投げ飛ばされたのだ。

 

 

「ぎゃ!」

 

 

デルタは倒れているファイズとキバの上に着地。

固まった三人にアリカポネはマシンガンを乱射してダメージを与えていった。

呻き声を上げる三人と笑い声を上げるアリカポネ、どうやらそもそもの実力差があるらしい。

とは言え、まだ戦いは始まったばかり、三人には余裕があった。それに現状三対一、キバ達が有利なのは変わりない。しかしてココでキバ達に良くない風が吹く。

 

 

「おーおー、面白い事やってんなァ」

 

「いいねぇ、アタシらも混ぜてくれよ」

 

「シュシュシュ……!」

 

 

騒ぎをかぎつけたか、ロギーファミリーのメンバーが暗闇から姿を見せる。

ライダースジャケットを着た女、パンク風ファッションの男、ローブで体を覆った老人の三人だ。彼らはロギーの仲間、と言う事は当然『人』ではない。

メキメキと音を立てて変質していく体。女はカマキリの化け物に、男はアリジゴクの化け物に、老人はカニの化け物に変わった。

カマキロイド、ジゴクロイド、カニロイド、三人は嬉々とした様子でファイズ達を目指す。

 

 

「ッ! 仕方ない」

 

 

人数不利、であればココは引くのが得策か。

黒いメモリを取り出すファイズ。しかしその時だった、ピクリとアリカポネの眉が動く。

 

 

「させるか。フッ!」

 

「ぐぁッ!」

 

 

葉巻にはまだ秘密があった。それは吹き矢だ。小さな矢がファイズの手に刺さり、彼はその衝撃でメモリを地面に落とす。

どうやら矢には毒が塗ってあり、激しい痺れがファイズの腕を支配する。

 

 

「な――ッ!」

 

「悪いな、させねぇよ」

 

 

さらにステッキから銃を発射、メモリを弾いてファイズから遠ざける。

 

 

「!?」

 

 

馬鹿な、アクセルフォームに変わる事を今の動きだけで分かったと言うのか。

ファイズは息を呑むと一歩ずつ後ろへ下がっていく。アイコンタクトを取る三人、このまま戦っても良いが、正直状況は好ましくない物だ。

四対三、おまけにファイズは腕がしびれて使い物にならない。

であるならば――

 

 

「ッ!」

 

「ん?」

 

 

変身を解除するデルタ。友里はベルトを外すと、直後エンジェルオルフェノクへ変身する。

 

 

「げ」

 

 

驚いたアリカポネを尻目に、彼女は二対の翼を大きく羽ばたかせた。

すると白い羽が舞い散り、アリカポネ達の視界を封じる。

すぐに羽を振り払う彼等ではあるが、クリアになった視界の先にキバ達の姿は無かった。

 

 

「チッ、つまんねぇなぁオイ!」

 

「いや、追うぞ、まだそんなに遠くには行ってない筈だ」

 

 

一旦変身を解除するロギー。

彼等はすぐに拓真達を追いかける。ロギーは一度高く跳躍し周囲を確認、しかし拓真たちの姿は無い。

ふと、ロギーはある場所を一直線に目指す。それはココからすぐにある城の離れの小屋だ。扉をノックすると、そこから姿を見せたのは美しい女性だった。

 

 

「どうも先生。夜分に申し訳ねぇ」

 

「いえ、どうしたのですか?」

 

 

ふんわりとした桃色の髪が特徴的な女性だった。『ルルカ』、彼女はリンネの世話係であり、所謂教師の役割を担っていた。

彼女は城には住んでおらず、代わりに城の敷地内にある小屋を一つまるまま与えられている。

 

 

「いやね、ちぃとばかし侵入者と思われる奴らがいてさ。見なかったかい?」

 

「そう言えば、先程空に大きな鳥の様な物が飛んでいました。夜だったのでよく分からないのですが、何か関係があるのでしょうか?」

 

「なるほど、空か。確かにそりゃそうだ、あんだけデカイ翼持ってんだからな。クソッ、あれは予想外だったぜ……」

 

「?」

 

「ああいや、悪いな先生。邪魔したぜ」

 

 

興味をなくしたロギーは扉を閉めてさっさと城のほうへ戻っていった。

一方でため息をつくルルカ。彼女は振り返ると、ニコリと笑みを浮かべた。

 

 

「もう大丈夫ですよ」

 

「す、すいません」

 

 

部屋の奥から戸惑いがちな表情を浮かべた亘達が姿を見せた。

ロギーから逃げる為に適当に走っていた三人、するとルルカが手招きしてくれたのだ。

焦っていた三人は半ば反射的に彼女の誘いに乗り、小屋の中に入って隠れた訳だ。しかしいざ隠れて見ると『やってしまった』と言う感覚。

それはそうだ、ココはまだ城の範囲内、一瞬完全に罠に引っかかったと思っていたのだが、彼女はロギーの質問に嘘をついてまで自分達を守ってくれた。何か意味があるのだろうか?

 

 

「あの、えっと」

 

「今日、城に進入しようとした方々ですよね?」

 

「うッ、そ、それは……!」

 

「いいんですよ、別に。私はもうリンネ王女側ではありませんから……」

 

「ッ、と言うと?」

 

 

拓真の質問にルルカは答えない。

彼女は少し悲しげな表情を浮かべて三人に座る様に促した。そして彼女はお湯を沸かし始める、どうやらお茶を淹れてくれるらしい。

 

 

「リンネ王女は、変わってしまいましたわ」

 

「……ッ」

 

「少し、お話を聞いてくれませんか? 行く宛てがないのなら、泊まっていってくれても構いませんから」

 

 

ルルカは話したかった。自分がずっと溜め込んでいた『闇』を。

言葉を失う三人。確かに宿を用意してくれるのはありがたかった。ロギーももうここには戻ってこないだろうし、灯台下暗しと言う言葉もある。

ここは一つ賭けてみるのもいいかもしれない。三人は頷き合うと、椅子に座ってルルカの言葉を待った。

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

一方、少し時間を巻き戻す。目を開けた薫はビクンと肩を震わせて飛び起きた。

呼吸を荒くしながら彼女は今までの記憶を必死に思い返してみる。

アキラが殺された。誰に? 我夢に。鏡治が殺された。誰に? ワームに。それから、それから、それから。

それからどうなったんだっけ? 彼女は目を閉じて必死に記憶を思い出す。そう、鏡治が死んで、ワームがこちらに来て――。

まさかココは天国? 薫は半ばパニック状態で周りを確認する。部屋だ、なんの変哲も無い西洋風の部屋、ホテルの一室の様なもので、自分は今現在ベッドの上。

 

 

「わ! って、え? ちょ!」

 

 

ふと隣を見てみると、そこには眠っているユウスケの姿が見えた。

と言う事はつい先程まで同じベッドで眠っていたと言う事、薫は思わず赤くなってモゴモゴと言葉を詰まらせる。

 

 

「ああもう馬鹿!」

 

「おぶぁッ!!」

 

 

なんだかムカついた薫はユウスケのお腹をパンチ。

すると眼球が飛び出すのではないかと錯覚する程カッと目を見開いてユウスケもまた飛び上がる。

 

 

「か、薫!?」

 

「ユウスケ……! 良かった! 無事だったのね!!」

 

「あぶっ!」

 

 

だが、ユウスケが無事だと分かると今度は強く抱きしめた。

なんだか理不尽のような気もするが、それが乙女心なのだと分かって欲しい。

薫は彼が無事だったのが余程嬉しかったのか、抱きしめて頬ずりである。一方でなにがなんだか分からないユウスケは、ただハテナマークを浮かべて薫にされるがまま。

そして二人の騒ぐ声を聞きつけたのか、扉がガチャリと音を立てて開いた。

 

 

「目が覚めたのね」

 

「!」

 

 

部屋に入ってきたのは一人の女性だった。

茶髪のショートカットで凛々しい顔立ちの美しい女性であった。

服装は男性っぽく、どちらかと言えば格好良い印象が強い。彼女はポカンとしている薫達に自己紹介を。

 

 

「私は『メイ』。貴方達を保護したのよ」

 

「保護、ですか?」

 

「ええ。ココは"青の国"。ついて来て、説明するわ」

 

 

青の国、と言う事は最後の記憶からずいぶんと場所を移動したことになる。

二人は取り合えず顔を見合わせ、メイについて行く事を決める。彼女の背中を見ながら移動していると、いくつか分かった事が。

まず窓の外が暗い、つまり今は夜だと言う事だ。そしてもう一つ、今自分が歩いている場所がかなり広いと言う事。

それに歩いているとメイドや執事がメイに挨拶をしてくる。メイドや執事だ、つまりそれを雇えるだけの大きな場所である事。

そしてメイがそれなりの立場にある人間だと言う事だ。そして後をついて行く事数分、大きな扉がユウスケ達の前に。

 

 

「あの、ココは一体どこなんですか?」

 

 

扉を開ける前に薫が一つ質問を。

するとメイは笑みを浮かべて簡潔に答えてくれた。

 

 

「王城よ。ココは青の国の王様がいる場所なの」

 

「えっ! そ、そうなんですか」

 

 

そう言っている間にメイは扉を開いた。すると中には当然と言うべきなのか、王座に座っている一人の男性が。

 

 

「やあ、気づいたんだね。良かった」

 

 

彼はコチラに気づくと、ニコリと柔らかな笑みを浮かべる。

優しそうな人だった。そして青の国を象徴するべく、男性の髪の毛は真っ青であった。

ファッションの一環だろうか? マフラーをしており、それも彼の特徴になっている。

 

 

「はじめまして。僕は『カイ』、青の国の王だ」

 

「お、小野寺ユウスケです」

 

「空野薫です。えぇっと」

 

 

戸惑う薫に気づいたのか、説明はカイから行ってくれた。

実は彼はメイを黄の国に送り込んでおり、彼女は調査を行っていたのだと。

 

 

「調査……」

 

「最近黄の国の政治が酷すぎるとの情報を手に入れたのよ。行ってみればその通りだったんだけれど」

 

 

メイは調査をある程度まとめ、最後にリンネに謁見を求めようと。

しかしその途中、ワームに襲われている二人を発見したのだ。化け物に人が襲われている、となれば助けるのが道理だ。

メイはワームを怯ませ、その隙に二人を連れて逃げたのだと言う。

 

 

「え? め、メイさんが私たちを助けてくれたんですか?」

 

 

それはありえないのでは? 薫は目の前から迫ってくるキャマラスの姿をしっかりと記憶している。

敵はワーム、いくらなんでも生身であろうメイが撃退できるとは思えない。いくら強くてもワームだけは別次元の相手なのだから。

それを話すと、メイはしっかりと頷いた。どうやら話には続きがあったらしい。

 

 

「ええ。もちろん私の仲間がね」

 

「仲間……?」

 

 

メイが視線を移動させる、それを追うユウスケ達。

すると部屋の壁に持たれかかっていた少年がいた。

赤髪でゴーグル状のサングラスを頭にかけており、ポケットに手を突っ込んで目を閉じている。

 

 

「起きたんだな、お前ら」

 

 

少年は目を開けるとニヤリと笑みを浮かべる。

その一つの笑みで少年がどう言う性格なのか何となくだが察する事ができた。

とにもかくにも少年の表情にあるのは自信だ。得体の知れない自信のエネルギーが少年にはある様な気がする。

 

 

「オレは『レイジ』だ。よろしくな」

 

「よ、よろしく……」

 

「よろしく」

 

 

メイは説明する。レイジは元々部外者であった。

なんでも行き場を無くした彼が城の前に空腹で倒れていたと。それをカイが見つけ、食べ物と住む場所を用意してあげた。

するとレイジはそのお礼にとカイの手伝いがしたいと申し出る。カイもそれに甘え、メイの黄の国調査に彼も同行させたのだ。

仮にもただの少年であるレイジを王の力にする事、そして彼がキャマラスから薫達を助け出した事、それらにはちゃんとした意味がある。

 

 

「ねえ! レイジ、だっけ? 一つ聞いても良い?」

 

「あん? なんだ?」

 

「ど、どうやってあの化け物から私たちを守ってくれたの……!?」

 

「ああ、それは――」

 

 

そう言って彼が取り出したのはどう見ても玩具であった。

一見ただの人形、プラモデルであろうか? しかし薫には彼がどう言った存在なのかを理解する事ができた。

もともと玩具の様な機械で変身する者は沢山知っている。それにプラモデルがこの世界にある訳がない。と言う事は――

 

「貴方も、時空の歪みに巻き込まれたのね!」

 

「歪み? ああ、あのブラックホールみたいなヤツか!」

 

 

やはり、彼にも心当たりがあるらしい。

どうやら少し深く話し合う必要がある様だ。薫は今まで起こった事、ココに来た流れ、その一部始終を話し始めた。

 

 

 

 






☆エピナビ☆

・仮面ライダーW

2009年9月から2010年8月にかけて放送されたシリーズ初となる『2人で1人の仮面ライダー』だ。
平成仮面ライダーシリーズでは第11作目だけど、ファンからは平成二期の一作目として数えられる場合もあるぞ。
私立探偵の左翔太郎が相棒のフィリップと共に様々な事件を解決していくストーリーで、王道展開や様々な魅力的なライダーが人気で、本編が終了してからも色々なスピンオフが作られたぞ!

この作品ではオリジナルキャラクターのゼノンとフルーラがダブルに変身する。
観測者の『眼』である二人は見た目は子供だけど、その雰囲気は掴み所の無く、謎に包まれた存在なんだ。
人をおちょくった性格の二人は時にディケイドと対立し、時に協力してくれた。今回はディケイドに味方しているみたいだけど、何か様子がおかしいぞ。
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