Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

15 / 28
どうも、あけましておめでとうございます。

新年初手高熱と言う運が良いのか悪いのか分からない状態ですが、ココで久しぶりの更新を。
最近は色々やる事もあってか、なかなか更新ができず申し訳ないです。
ただこれからもゆるりとやっていけたらと思っていますので、どうかよろしくお願いします。

新年一発目の更新が重い話なんですが、まあそこは気になさらず。



SONG11 変化のキミへ

 

 

「なるほどな、じゃあその、司ってヤツがおかしくなっちまったのか」

 

「……ああ、それは、えっと」

 

 

話を聞いた後、レイジの言葉にユウスケはすぐに頷けなかった。

彼の言っている事は何も間違ってはいない。しかしユウスケもまたそれを認めたくはないのだろう。

当然か、司とは長い付き合いだった、親友と言っても過言ではない。なのにあの時の司の表情をユウスケは見た事が無かった。

普段は鈍いユウスケでも分かる明確な憎悪と殺意、あれはショッカー怪人が放つそれに良く似ている。

あれだけ増幅された殺意は短時間で湧き上がるものではない、だとすればきっとどこかで司には兆候があった筈なんだ。自分はそれに気づけなかった、親友の変化に何も。

 

 

「元々そう言う奴だったんじゃねーのか?」

 

「違う! それは違うんだ……!」

 

 

ユウスケは頭を抱える。この脳には、今も司と共に笑いあった記憶が残っている。

司は正しい男だった、彼の目指す正義は青かったけれど、誰も苦しまない世界を目指す姿は確かに格好良かったんだ。仮面ライダー、ヒーローに憧れていた姿は間違いなく本当だった。

なのに何故? ああ、分からない。

 

 

「きっと司も苦しんだ筈だ、苦しんであの答えを出した筈なんだ」

 

 

そう信じたい。そうでなければならないから。

ユウスケは悲壮感に満ち溢れた声で言い放った。一方で鼻を鳴らすレイジ、甘いヤツだ、少し呆れたような目でユウスケを見る。

既にラインを超えていると分かっていながらも、まだ未練をチラつかせる。戦場では真っ先に死ぬタイプであろう。

 

 

「でも、ダチを信じるってのは嫌いじゃないぜ」

 

「!」

 

「だがよ、司が仲間を殺したのは事実なんだろ。それはどうするんだよ?」

 

「……おれは何があったのかを知りたい。できるなら、司を救いたいと思っている」

 

 

だが、それでも尚彼が止まらず、仲間を傷つけると言うのなら。

 

 

「おれは、司を倒す」

 

「ッ、ユウスケ……」

 

「それが親友として、おれが出来る――、唯一の事だと思うんだ」

 

 

深刻な表情でユウスケは呟くが、対してレイジはニヤリと笑って鼻を鳴らした。

どうやら今の発言が気に入ったらしい。悪くない、戦士の目だ。しかして何も親友同士で殺しあう必要は無い。そんな事、虚しいだけだ。

 

 

「安心しな、もしも司の野郎がおかしくなっちまったんなら、オレがぶん殴って止めてやるよ」

 

「ぅお? お、おお」

 

 

手を出すレイジ、どうやら一緒に司を止めてくれるのを手伝ってくれる様だ。

少し怯んだが、ユウスケも笑みを浮かべてレイジと握手を交わした。

 

 

「ありがとうレイジ、助かるよ」

 

「なぁに、あのブラックホールに巻き込まれた同士、助け合おうぜ!」

 

 

サムズアップを行うレイジ、ユウスケも少し照れた様に笑いながらサムズアップを返した。

一同はココで話の内容をブラックホール、つまり時空の歪みに移す。

特にカイとメイにとっては、とてもではないが信じられない話であった。他世界の存在、無限に広がるパラレルワールド。

しかしやはりどこもそうだが『力』を見せればそれは早い話であった。少し安直かもしれないが、ユウスケはカイとメイ、レイジを完全に仲間と認識した。故に自らの事情と力を打ち明ける事に。アークルを出現させると、直後クウガへ変身、一同にその姿を見せつける。

 

 

「へぇ!」

 

「す、凄いわね」

 

 

百聞は一見にしかず。これほど便利な物はない。

カイとメイも目の前にいる未知なる戦士に他世界の存在を信じざるをえなかった。

それだけではない、クウガはメイから適当な剣を受け取るとハンドコントロールによって何の変哲もない剣をタイタンソードに変えた。

 

 

「ッ、武器が!」

 

「コレがおれの特殊能力です」

 

 

長い物はロッドに、撃つものはボウガンに、斬る物は剣へ。

そしてスピードとジャンプのドラゴンフォーム、超感覚のペガサスフォーム、防御特化のタイタンフォームに変身ができるのだと。

これが仮面ライダークウガ、ユウスケに与えられた力なのだ。

 

 

「なるほど、そっちも色々あるって訳か」

 

 

一方でレイジもまた自分の力についての説明を始めた。

彼が取り出したのは三つのアイテムだ、まずは六角形の台座『Gゲート』だ、厚さは非常に薄く、ボタン一つで展開と縮小行える為、ポケットに入れておけるサイズであった。

そしてもう一つは携帯だ、ただの携帯ではなく『GPベース』と呼ばれるそれは『プレイヤー情報』を内蔵しているのだ。

そう、そして最後に取り出したのはロボットのプラモデルだ。正確にはガンダムのプラモデル、略して『ガンプラ』である。

 

 

「これをこうして――」

 

 

レイジはまずGゲートをGPベースにセットする。

四角い携帯の上に六角形の台座、レイジは次にガンプラを台座(Gゲート)の上に乗せて、台座を捻る。

するとカチッと音がしてガンプラがGゲートに固定される。レイジはその状態でGPベースにあったアプリ、『リアルブート』をタッチ、するとガンプラの瞳がギラリと光った。

 

 

「レイジ、ビギニングガンダム」

 

 

自分の名前とガンプラの名を呼称すると音声認識が発動。

台座からメテオール、プラフスキー粒子が放出され、青白い光がガンプラを覆い尽くした。

同時にGPベースを天に掲げるレイジ、すると光の通路が出現し、なんと玩具である筈のガンプラが動き出して通路を滑っていく。光の滑走路を越えたガンプラは直後プラフスキー粒子の力によってデータの固まりへと変身、ワイヤーフレームに変わり巨大化する。そしてガンプラは自走しレイジに重なる様に立った。するとそこで具現化、あっと言う間にレイジの体は自らのガンプラであった筈のビギニングガンダムへ。

 

 

「お、玩具と合体した!」

 

「リアルブート・アシムレーション……ってヤツらしいぜ。よく分かんないけどよ」

 

 

融合を解除するレイジ。彼はガンプラやGPベースをしまうと腕を組んで自分の世界の事情を話し始めた。

そもそも彼が他世界のことをあっさり信じたのは、信じたというより元々知っていたからである。

レイジもまた世界と世界を行き来した者であると言うことだ。彼はアリアンと言う世界に住んでいたが、ある日秘宝である宝石、アリスタを使用してイオリ・セイと言う少年が住んでいる世界にやって来た。そこでレイジはセイと知り合い、ガンプラを教えてもらったのである。

 

 

「ガンダムっつう、アニメがあったらしくてよ」

 

 

セイの世界では作ったガンプラを操作して戦わせるガンプラバトルが社会的現象を巻き起こしており、レイジもセイと出会った事がきっかけで深く関わる事となった。

そのバトルシステムの構築にはレイジの友人が絡んでおり、今回はより深くガンプラバトルを楽しむと言うコンセプトを元に、新たなるバトルスタイルの開発を目指した。

それがリアルブートアシムレーションである。ガンプラバトルは専用の機器がある場所でしか行えなかったが、どこでも場所を選ばずに遊べる携帯機としてGゲートと、より一層ガンダムに乗っている感覚を再現する為に自らとガンプラが融合するシステムを考えた。しかしそれらは未完成に終り、実用段階とまでは至らなかった。しかしこの世界に来て見ればどうだ? 未完成であった筈のそれ等は見事に形を成しており、さらに言えばリアルブートアシムレーションによる合体は、本当に戦闘を可能にする性能を完成させた。

 

 

「何が起こってんのか。オレにもサッパリだぜ」

 

「それを明らかにする為にも、協力しましょ」

 

 

薫の言葉に皆は頷いた。ふと外を見る。星は見えない、月はぼんやりと朧月。

夜は深く、闇はより深く世界を染めていく。それぞれは、それぞれの夜を迎える。世界が明日と言う未来に移り変わる奇跡に立ち会っているのだ。

例えばココにいるユウスケ達。友を止める事の中に殺意と言う覚悟を込める。そして拓真達は不穏の中に身を置いている。

夏美達は希望に縋り、ミライは無意識に意識をおいている。誰も皆、それぞれの想いを抱えているのだ。

この暗闇の中、全ての思いは濁り染まっていくだろうに。

 

 

 

翌日、小鳥達の鳴き声にリンネは肩を震わせ、薄っすらと目を開く。

ふと気づく、ベッドルームには既にレオンが控えており、リンネが目覚めたのを確認するとペコリと頭を下げた。

 

 

「もう! ずっと居たの?」

 

「はい、おはようございます。リンネ様」

 

「起こしてくれれば良かったのに」

 

「いえ、それはとても。もったいないですから」

 

「?」

 

 

遠慮しがちに、けれども嬉しそうにレオンは呟く。

 

 

「可愛い寝顔をずっと見られるので」

 

「あはは、お上手ね!」

 

「うわッ!」

 

 

リンネはレオンの手を引くとベッドに連れ込んだ。

予想外の不意打ちに思わず間抜けな声をあげて倒れるレオンを見て、無邪気にリンネは笑う。やはりその笑顔は一国を恐怖と力にて支配する者とは思えない。

 

 

「きゃはは! レオン、変な顔!」

 

「もう! からかわないでください!」

 

「駄目よ、貴方はあたしの玩具なんだから!」

 

「やれやれ」

 

 

ベッドの上でじゃれ合いながら笑みを浮かべる二人。青色の瞳が互いを捉え、今にも吸い込まれそうな感覚にもどかしさを覚える。

そこでノック音、ガチャリと扉が開き、アグミが姿を見せる。

 

 

「相変わらず仲がいいねー、お邪魔だった?」

 

「いやッ、そんな事は」

 

「おはようアグミ! 貴女も来る?」

 

 

首を振るアグミ。彼女は一つ大切な伝達があると。

 

 

「預言者くんが、呼んでたよ」

 

「ッ、何かしら?」

 

「さあ、でもお姫様に大切なお話があるって」

 

「???」

 

 

正直面倒だった。リンネはこれよりおいしいパンと、おいしいオレンジジュースを頂きたいところなのだ。

しかし大切な話ともあれば聞かぬ訳にはいかないだろう。あくび交じりにリンネはアグミに預言者を呼ぶように、レオンには退室するように命じる。

するとものの数十秒で預言者ソウが部屋にやって来た。金色の着物を翻し、相変わらず顔色が悪い。

ハッキリ言ってしまえばリンネは彼が好きではなかった。朝から見るには随分と辛気臭くなってしまう。しかしその力は本物であるとも思っている。まどろっこしい話だ、リンネは早く事を済ませる為に、ベッドに寝転びながらソウをせかした。

 

 

「何? 私ご飯食べたいんだけど」

 

「失礼した王女。実は、また一つ先の世界が視えたものでね」

 

「へぇ、未来が見えたの」

 

「そう、そしてその未来。あまり良き物ではないと判断した次第」

 

「ッ、どういう事?」

 

 

ソウが齎した予言は随分と穏やかではない話。それはこの黄の国の未来に関わる話だ。放置すれば、やがては崩壊の運命を辿るかもしれない。

そして何より、それはリンネ王女にとっても。

 

 

「噂に聞けば、王女はレオンとは随分親しくしているとか」

 

「ええ、レオンは最高の執事だわ。強いし、格好いいし、なんでも言う事聞いてくれるし!」

 

「ほう、それは何よりだ。しかし王女、その忠誠心、いつまでも続くとはゆめゆめ忘れる事なかれ」

 

「なによ、どういう事?」

 

 

ムッとした表情でリンネの目が据わる。

何、簡単な事だと預言者ソウは問うた。人間の心は脆く、移ろい易い、その最もたる例はそこに愛が絡む事だ。

 

 

「愛ぃ?」

 

「その通り、人は愛によって簡単に変わってしまう」

 

 

窓の外を見る預言者。

 

 

「緑の国の姫は、随分と可愛らしいと聞く」

 

「ミーク? まあ、歌は上手いけど、可愛さで言ったらあたしの方が上じゃない?」

 

 

ニヤリと意地悪く笑ってみせるリンネだが、すぐにハッとして表情を無に変えた。

そうだ、流石にリンネでも話の流れから察する事ができたらしい。

 

 

「まさか、あの子なの?」

 

「レオンと、会った事は?」

 

「三カ国で対談する機会は何度かあったわ。その時当然顔は合わせてるけど……」

 

 

フムと唸るソウ。預言者であるが故、見える景色もあろうと。

 

 

「私が視た予言は【赤く山が燃える時、緑が災いを齎し、黄の光を飲み込むだろう】と、言うものだ」

 

「ふぅん、緑と黄色ねぇ」

 

「ああ、そして緑の女王が黄の従者を惑わすともあった。コレはもはや確定であろう」

 

「そう言えば、ミークって昔から正義感が強かったわ」

 

 

他人がしようとする事に口を出してきて、自分が提示する『正しさ』に導こうとする。

ああなんて立派、なんて良い子、であるならば他人の政治に首を突っ込んできてもなんらおかしくはない。

爪を噛むリンネ、はっきり言って――

 

 

「ムカつくわ……!」

 

「フフ、しかし王女よ、何を恐れる事があろうか」

 

「え?」

 

「我が国の力は、三国の中で遥かに突飛している。焦る必要は無い、支配者の称号はこの国であっても、国同士であったとしても、ただ一つ我らにある」

 

「そっかぁ。それもそうね」

 

 

ニヤリと笑うリンネ。同じ笑みでも先ほどとは随分と違う下卑た笑顔であった。

これだ、これこそが最も彼女を美しく見せるアクセサリー、化粧であると預言者は確信している。

おお見よ、僅か十四、十五程の少女がみせる純粋な悪意、これこそが支配者としての力だ。

 

 

「今はただ予言が本当にならない事を、祈っているわ」

 

「それがよろしい。では、私は失礼する」

 

 

部屋を出る預言者ソウ。途中見張りをしていたレオンに頭を下げると、城の中を歩く事数分、ソウは自室に戻った。

広くは無い部屋だが、バルコニーがついており、丁度そこにはコーヒーを手にしているロギーが見えた。

 

 

「全く、純粋なお嬢ちゃんをたぶらかすのは心が痛むぜ。そう思わねぇか? 預言者ソウ」

 

「何も間違ってはいない。あの国の放置は我らにとって、障害だ」

 

 

大ショッカー怪人であるロギーが親しげに話すソウ。

と言う事は、もはや説明するまでもないだろう。ソウはバルコニーに足を出すと、両手を天に掲げ、目をカッと見開いた。

 

 

「やぁッたらぁー! だまぁーすゥー!」

 

 

甲高い声で叫ぶと、突如落雷が発生。一筋の光がソウに直撃する。

するとどうだ? 本来であれば落雷を受けた人間は絶命するのが当然だが、ソウはその姿を異形に変えていくではないか。

巨大なドラゴンの頭部、角はコイルになっており、鱗に覆われた身体の腰部分には金色の大鷲が刻まれたベルトが見えた。

預言者ソウ、その正体は大ショッカー怪人、ヤッタラダマス。二本の足で立つドラゴン、その赤い瞳がギラリと光る。

一つ言っておくと、ヤッタラダマスの力に未来予知等と言う物は存在しない。つまり彼の予言は全て、仕組まれた物であったという事だ。

そして今もまた、一つの予言が彼自身の手によって本当になろうとしている。

 

 

「ぎぇァッッ!!」

 

 

その大きな口から放たれたのは赤く光る炎弾である。

巨大なそれは風を切り裂き、一直線に地平線の向こうにある黄の国で一番大きな山に直撃する。

轟音、爆発と共に爆炎の華が萌黄に染まる山を塗りつぶしていく。少し遅れて振動が伝わってきた、ビリビリと震える空気の中、ロギーは何の事は無いと葉巻をふかす。

 

 

「全ては我らの手の中に。支配しているのがどちらなのか。それは、あまりにも分かりきった答え」

 

 

再び人間体に変身するヤッタラダマス。ソウに変わった彼は、着物を翻し、そして先ほど言った言葉をもう一度。

赤く――、山が燃える時。丁度そこでザワザワと廊下の向こうが騒ぎ出した。敵襲か? なんの爆発だ、その喧騒はやがて王女に一つの決断をさせる筈であろう。

 

 

「この世界はやがて、我らが手中に」

 

「ククク! ヒャハハハハ!!」

 

 

身体を震わせながら笑うロギー。

彼もまた、思い通りに進む世界が愉快で仕方ないのだろう。丁度その時、一同に一つの連絡が入った。

リンネ王女が、緑の国を滅ぼす事を決めたらしい、と。

 

 

 

 

一方緑の国、ミークの屋敷では翼が一同に出発の挨拶をしている所だった。

と言うのも先日、ユウスケ達からの連絡が入った。自分達はレイジと青の国の王子、カイに助けられて城において貰っているのだと。

ユウスケ達の無事に安堵した翼。しかしクウガ変身時にエネルギーが暴走したのか、ユウスケの体の動きが鈍いという。

変身はできる物の、この状態で襲われてはまずい。故に翼は一旦ユウスケ達の調子を見る事と、カイとの挨拶を行う為に青の国に向う事を決めた。

 

 

「じゃあ行って来るよ夏美ちゃん」

 

「はい、気をつけてくださいね先生」

 

 

ミークが手配した馬車を使えば青の国には四時間程で着くとか。

しかしこう言う時にマシントルネイダーがあれば便利なのだろうが、あいにくとバイクは学校だ、諦めるしかないだろう。

だが目を細める翼。司はマシンディケイダーに乗っていた。双護達もバイクがあった。それはきっとゼノンがバイクを転送させたのだろう。

やはりまだ幾分かはゼノン達に観測者の眼としての力が残っているという事か。つまり魔女やナルタキも事情は分かっている筈。助けを求めるというのは――、甘えすぎだろうか?

まあ今は考えていても仕方ないか。翼は夏美にもう一度注意を促す。

 

 

「くれぐれも気をつけて」

 

「はい、分かってます……」

 

 

本当なら夏美も共に向いたかったが、大ショッカーがいる以上ミーク達に危険が迫る事もありえる。

そうなった場合、助けられるのは夏美だけだ。彼女もまた仮面ライダー、その力は誰かを守る為に。

翼は屋敷の前に馬車に乗り込むと、早速青の国に向って出発した。別れの挨拶を済ませると、早速ミークが身を乗り出してニヤリと笑う。

 

 

「じゃ、遊びにいこっか」

 

「お嬢様!!」

 

「分かってるって爺や、勉強もちゃんとしますから! じゃあ行こう夏美、テトラ! それに我がメイド達よ!」

 

「わ、わわ! ミークちゃん!」

 

 

ミークは悪戯に笑うと夏美とテトラの手を取って屋敷の扉をタックルで吹き飛ばす。

まあ随分とアグレッシブなお姫様ではないか。みゆき達もアワアワと焦りながらも、ミークにおいて行かれない様に屋敷を飛び出した。

それを訝しげな眼で見ながらも最後には笑みを浮かべる爺や。なんだかんだと緑の国は良好な雰囲気である様だ。

さてそんな一同が目指すのは夏美とミークが初めて会った公園である。そこを目指す中、街の人達はミークを見ると挨拶や手を振っていた。

 

 

「ミークちゃんってやっぱり有名人なんだね」

 

「そうです、凄いですミークちゃん!」

 

「一番偉いからね。えっへん!」

 

 

目を輝かせるみゆきと夏美の視線が気持ち良いのかドヤ顔でミークは胸を張っていた。

やはりその点に関しても黄の国とは大きく違っている部分であった。しかれども、やはり世界のどこかには暗く重々しい雰囲気がある。

それはきっと空がやはり淀んでいるからだろうか。青空ではなく、やや黒み掛かった緑が広がっていた。

 

 

「夏美、昨日は良く眠れた?」

 

「はい、おかげさまで」

 

「そっか……」

 

 

ミークは少し悩んだ様に沈黙したが、やがて一つの質問を投げる。

 

 

「ねえ、もし良かったら、司達がどんな人だったのか聞いても良い?」

 

「え?」

 

「あ、辛かったらいいんだよ。でも、私も夏美の力になりたいからさ。教えてよ。絶対元に戻すから」

 

 

ミークは歌を聞かせれば、あるいは歌を歌えば司達が元に戻るのではないかと考えていた。

昔話で悪意に染まった勇者が姫の歌によって理性を取り戻したと言うものがあるらしい。まあ所詮は言い伝えだが、もしかするとと言う可能性もある。

力になってくれる。夏美はそれが嬉しくてミークやみゆき達に司達の事を話し始めた。

不思議な感覚が夏美を取り巻く。ナイフが心を掠める、それは痛いのに、滲む血は温かくて気持ちが良かった。

 

 

「我夢君は、まだ中等部なんですけどとっても礼儀正しくて、言葉遣いも丁寧な男の子でした」

 

 

相原我夢と言う男を夏美は知っている。

皆の事を考え、大人びた少年だった。ともあれアキラには弱く、そういう歳相応の態度を見せるのも可愛らしいものだった。

あとはそうだな、正義感が強く、心も強かった。アキラを守る為ならばどんな敵にだって立ち向って行ったのを夏美は覚えている。

 

 

「しっかりしとるんやな、ウチも見習わんとあかんわ」

 

 

手を頭の後ろに回しながらフムフムとあかねは頷いていた。

夏美はまた心が少し温かくなって口が軽くなるのを感じた。

 

 

「双護君はとっても格好良い人なんですよ」

 

 

天王路双護と言う男を夏美は知っている。

容姿端麗であるが時折想像も付かない奇抜な行動を起こすのは興味深かった。

後は何より、妹の真由を大切にしていた優しいお兄ちゃんだった。

 

 

「へぇ、なんか親近感湧くな。アタシも兄妹いるからさ」

 

 

柔らかい笑みを浮かべるなお、夏美も釣られて笑みを浮かべた。

 

 

「司くんは……えっと、素敵な人です」

 

 

聖司と言う男を夏美は知っている。

ヒーローに憧れ、信じた正義を貫き通していた。だから惹かれた、司はそう、夏美のヒーローだったのだ。

 

 

「あれぇ、もしかして夏美ちゃんって司さんの事が好きなの?」

 

「え!? あ、そ、それは――ッ!」

 

 

ニヤリとみゆき、夏美もつい顔を赤くして返答に迷ってしまう。

意識した事は無いが、好き――、と言われればきっとそうなのだろうとも思う。だからこそより複雑なのだが。

 

 

「ええやんか別に。ピーターパンに恋する乙女よりはマシやって」

 

「え? ピーター……?」

 

「ちょ、ちょっとあかねちゃん! いいじゃん別にそれは!!」

 

 

今度は逆にみゆきが顔を真っ赤にして汗を浮かべていた。

意味が分からないと言う風な夏美とテトラに、なおが同じく笑みを浮かべながら説明を。

どうやらみゆきは絵本が好きすぎるあまり、その登場人物に惹かれていた様だ。ピーターパン、まあ別に悪い話ではない。

夏美だって空想の存在に目を輝かせる司を見ているのだから。

 

 

「じゃあ大丈夫だね」

 

「え?」

 

「だって、その司って人、私に似てるから」

 

「あ……」

 

 

みゆきの言葉に、あかねとなおも頷いた。目を輝かせていた過去があるなら、憧れた過去があるならそれは簡単には消えない。

きっと司達はよからぬ夢を見ているだけだ。その夢は、もう取り返しの無い所まで来てしまったが、だからと言って修正がきかないわけじゃない。

 

 

「きっと、大丈夫だよ夏美ちゃん」

 

「はい……」

 

 

罪を背負っても、きっと笑い合える日がまた来る。

その言葉と共に夏美達は公園についた。もう待ちきれないとばかりに走り出したミーク、彼女が声を出すと、それを合図に小鳥や小鹿、猫や犬など色々な動物が寄って来た。山が近いからだろうか、その様はまるで御伽噺だ。

 

 

「凄いなぁミークちゃん。本当にお姫様みたい」

 

 

うっとりとミークを見てお姫様と称したみゆき。

いや、正確に言えばミークはお姫様なのだが、みゆきが言うのは本当に絵本の中の登場人物の様――、と言う事だ。

歌声に魅了された動物達に囲まれている様は成る程確かに妖精にも見える。

 

 

「でも分かるなぁ、本当にミークちゃんの歌声、綺麗だもん」

 

 

テトラはリスを抱きかかえながら口にした。

確かにミークの声には言い様の無い魅力を感じる。それだけの才能があると言うことだ。

褒められて悪い気はしない、ミークはまたもドヤ顔を浮べてピースを行った。

 

 

「みゆき、お姫様はハッピーエンドで終わるんだよね」

 

「うん。そうだよ、絵本はいつもハッピーエンドなの」

 

「じゃあ、私も幸せになれるんだよね」

 

「うん!」

 

 

ミークは安堵したように笑顔を浮かべた。

正直、不安なのだろう。ミークも一応は国を治める者。今は多くの助けがあり、支えられている。それは政治的な意味でも精神的な意味でもだ。

だがいずれは独立しなければならない。最も上に立つ者にならなければならない。国を守りきれるだろうか? 他の王達と仲良くやっていけるだろうか? 不安は尽きないのだ。だがみゆきの笑顔を見れば、なんとかなりそうな気がする。それが救いだった。

 

 

「いつか、ね、皆で歌を歌える日が来るといいなって」

 

「素敵な夢ですね」

 

「ありがとう、夏美」

 

 

そこでパチンと頬を叩くミーク。

辛気臭い話はココでお終いだ。これからはもっと明るく、いつかの夢を叶えられる様に歌の腕前を磨いておこうではないか。

 

 

「よし、みんな歌おう!」

 

「えぇ、今日もぉ?」

 

「なお、嫌そうな顔しないで! 私もっと色んな歌を知りたいんだから!」

 

 

楽しい時間が始まる。それはきっとまた、夏美の心を溶かしてくれる筈だった。

筈、だったのだ。

 

 

『はじめろ』

 

 

丁度その時、ロギーが呟いた。

だから、動く。葉巻の煙はドクロの形を作り、死を連想させる。

一歩、女は足を踏み出した。視界に広がる緑が目を刺す。もう一歩足を踏み出した所で広場に出た。だから気づかれた、テトラが声を上げたのだ。

 

 

「フィーネさん!」

 

 

緑の中から現れた女性はテトラが慕っていたシスターの同僚であった。

覚えている、名前はフィーネ。今はシスターの服ではなく、綺麗な洋服を着ていた。白色の髪に白いスカーフ、美しい女性だ。緑の瞳が夏美達を捕らえる。

 

 

「どうしたんですかフィーネさん」

 

「ええ。シスターに皆さんの様子を見に来る様にと言われたので」

 

「夏美、知り合い?」

 

「はい、依然お世話になった教会のシスターさんで――」

 

 

そこで夏美は言葉を止める。

はて? そう言えば黄の国は出国にかなりの制限があると聞いた。

フィーネは大丈夫だったのだろうか? ぼんやりと思考は鈍っていく。一方でフィーネは近寄ってきたリス達を抱きかかえた。

慈悲深い目で動物を見つめる、全ての愛を込めた眼差しであった。

 

 

「この狭い世界で、この子達は必死に生きているのですね」

 

 

声を震わせるフィーネ。ああ、なんて、なんて――

 

 

「なんて、脆いのかしら」

 

「え?」

 

「……心が震えますわ」

 

 

口を開いたフィーネ、ダラリと大量の涎が地に落ちた。

それは手に抱えていたリス達に降り注ぎ、等しく、雫を滴らせる。

何をしているんだ、誰もがそう思った事だろう。そこで夏美が一番先に気づいた。涎だと思っていたのは人の口から大量の液体が流れでたからだ。

しかしそれは涎ではない。唾液ではないのだ。では何か?

 

 

「ュギィィィイ」

 

 

気いた事の無い音がリスから放たれた。

崩壊、いや融解と言う言葉が正しいだろうか。

可愛らしいリスの表情が見るも無残な程焼け爛れていく。毛は抜け落ち、赤黒い素肌はすぐに炎に包まれ、ものの十秒もしないうちにリスは炎に包まれ、その姿を隠す。

 

 

「―――」

 

 

誰もが皆無言だった。ミーク、テトラ、みゆき、あかね、なお、誰もが口を閉じ、目を見開いて目の前にある炎を見ていた。

もはや塵だ、それはリスが元とは誰も思わぬだろう。追いつかぬ思考は動きをも鈍らせる。止まり、呼吸すらも忘れるほどに、世界は無音だった。

その中でただ一人、フィーネだけが動いていた。彼女は燃え尽きるリスを見つめながら、より深い笑みを浮かべる。儚い命が消え行くその瞬間、溢れ出る快楽はすさまじいものがある。人間が語るいかなる快楽をも超越すると誓っても良い。食、睡眠、性、どれもが馬鹿らしい。

 

 

「もっと、私を気持ちよくしてください――ッ」

 

「!!」

 

 

ビキビキと音を立ててフィーネの体が変質していく。

そこにいたのは美しい女性等では無い、なんとも醜い植物の化け物だった。

緑の体に張り巡らされた白い根、頭部からは毒々しい赤色の葉が二枚見える。右手は根がより太くなっており、左手は人間のソレであった。

そして何より、腰には金色の大鷲が刻まれたベルトが。

 

 

「キェキェキェ! 私は大ショッカー怪人トリカブト!」

 

 

トリカブトは真っ直ぐにミークを見る。

 

 

「焼け死ね、ミークッ!!」

 

「ッ、危ない! 逃げてミークちゃん!」

 

 

一瞬だった。それはもはや本能だろう。夏美は地面を蹴ってミークを突き飛ばす。

同時に夏美のすぐ横、まさに紙一重の所を通り抜ける緑の水流。トリカブトの口から勢いよく放たれたそれは発火性の溶解液である。

死の放水は勢いを止めない、地に倒れた夏美とミークを再び狙うトリカブト。しかし刹那、白き閃光が風を切り裂き、トリカブトの体に斬撃を刻み込む。

 

 

『夏美! 大丈夫!?』

 

「は、はい!」

 

 

夏美のポケットから飛び出したキバーラはトリカブトを怯ませると夏美の手に収まる。

強烈な眠気は今も相変わらずの様だが、今は事態が事態、キバーラは目を大きく開けると夏美に変身するように促した。もちろん夏美もそんな事は分かっている。

分かっているのだが――

 

 

「ッ」

 

 

ふと夏美は背後を見る。そこには悲痛な声を上げているみゆき達が見えた。

幸い彼女達は全員無事だ。みゆきもあかねも、なおもテトラも怪我一つ無い。

しかし溶解液は確かに命中していた。それは、みゆき達の前では聞いた事の無い悲鳴を上げながら苦しむ動物たちが証明しているだろう。

 

 

「あ、ぁぁあッ! みんな、しっかりして!!」

 

 

青ざめ、パニックになるみゆきの前で猫はもがき苦しんで呻いていた。

焼けていく皮膚が痛々しくてみゆきは必死に猫を助けようと洋服で溶解液を拭おうと試みていた。しかし悲しいかな、無駄なのだ。

無慈悲にも猫は徐々に溶けていき、その愛らしい顔から眼球が零れ落ちた時、みゆきは言葉を失い涙を流す。

そして猫は炎に包まれ、最早猫ではなくなった。

 

 

「ど、どうすれば!!」

 

「なんやコレ! くそッ! 取れへん! 服の方が溶けてまう!」

 

 

思考が追いつく前に、冷静になる前に動物達はその形を失っていく。

そしてその残虐性の高い光景は容赦なく心を抉っていく。あかねは見た事があろうか? なおは見た事があろうか?

犬が臓物をボロボロと零しながら苦しむ姿を。前足が溶け、それが分からず必死に立とうとする小鹿の姿を。

美しいさえずりを奏でてくれる筈の小鳥達は既に液状化しており、小さな炎を地面に揺らめかせている。

もちろんそれは小鳥達だけではない、トリカブトの溶解液には発火性がある。他の動物たちも次々に炎に包まれ、完全に絶命していった。

地獄だった。草木も、動物も溶け、死だけが残る。

刹那、夏美の脳にフラッシュバックする光景。

 

 

『死ね』

 

 

ディケイドが命を奪う光景。真志を殺し、椿を殺し、咲夜を殺した。

そうだ、殺したんだ。死だ。結論で言えば目の前の景色と何が違う? そして次は誰が死ぬ? もしかして、自分なのか――?

 

 

「う――ッ」

 

 

口を押さえ俯く夏美。吐き気がすさまじい。体は震え、顔は青ざめ、目の前にすら焦点が合わない。

 

 

『夏美ッ!? どうしたの!?』

 

「き、キバーラ……!」

 

 

戦わなければとは思う。思うのだが身体が動かない。

戦う事は死へ近づく事だ。死を間近に視る事だ。当たり前の事だと思っていた、割り切っていると思っていた。

しかしあのディケイドの姿が強く脳に焼きつき、恐怖となって夏美の心を侵食していく。

悪魔、あのディケイドは間違いなく悪魔の姿だった。ああ、なんて恐ろしい。

 

 

「ハァ! ハァ!」

 

 

動機が、呼吸が荒くなる。

駄目だ、怖い、動けない。夏美は首を振ってキバーラに助けを求める。

 

 

『ッ、まさか――』

 

 

簡単に言ってしまえばトラウマと言うものなのだろう。

司が変わってしまった事、司達が仲間を殺したことが思う以上の精神的なショックとなっているのだ。

ああ可哀想に。しかしだからと言って戦わないと言う選択肢が許されるのだろうか?

 

 

「キェキェキェ!」

 

 

立ち上がるトリカブト。彼女は目の前に広がる炎を見て身を大きく震わせた。

おそらく命を奪う快楽に浸りきっているのだろう。悶え、喘ぎ、恍惚の表情を浮べている。

化け物だ、まさに怪人、分かり合える可能性が無いという事を一番分かり易い形で教えてくれる。

戦わなければならない。ミーク達を守らなければならない。それは分かっている。が、しかし体は動いてくれなかった。夏美は尚も吐き気を覚え、ただ地面にへたり込んでうつろな目でトリカブトを睨むだけしかできなかった。

 

 

「次は外しません!」

 

 

再び溶解液をミークに向けて放とうとするトリカブト。

しかしその動きが止まった。何故ならばみゆき達三人がミークと夏美の前に立ったからだ。

危ない、夏美は叫ぼうとしたができなかった。出るのは嗚咽だけ、震えもまだ止まらないから動く事が出来ない。一方で対照的にみゆき達は激しい眼光でトリカブトを睨んでいる。

 

 

「どうして――ッ!」

 

「は?」

 

「どうしてこんな酷い事! みんな、みんな死んじゃった!!」

 

 

涙を流すみゆき、しかしその表情さえトリカブトにとっては快楽のスパイスでしかない。思わずまた快楽に身震いし、大きな笑い声を上げる。

 

 

「気持ちいいからに決まっているでしょう!」

 

「!」

 

 

命を奪うのは極上の快楽だとトリカブトは言う。

 

 

「だいたい、あんなゴミ共が死んだ所で何になると言うんですの!? それよりも、私はもっと大きな命を奪いたい!」

 

 

ココでかろうじて夏美は言葉を振り絞った。

 

 

「逃げて、みんな、ショッカーの怪人に関わっちゃ駄目――ッ!」

 

「知ってるの夏美ちゃん!?」

 

「しょ、ショッカーは悪魔の軍団――ッ! 地獄と恐怖を齎す最悪の連中なん、です……!」

 

「でも、どうして!?」

 

 

テトラは叫ぶ。フィーネはシスターの友達な筈なのに。

そしてフィーネ自身シスターのはずなのに。それを叫ぶと、一番の笑い声をトリカブトは上げる。

 

 

「良い事を教えてあげるわテトラ! 貴女のお父さんを殺したのは、この私よ!」

 

「――え?」

 

「炎に包まれ、醜い叫び声を上げながら死んでいったわ!」

 

「うそ……」

 

「嘘じゃない! そして今、貴女も死ぬの!」

 

 

ショッカー怪人の姿を見た者には――

 

 

「死、あるのみ!!」

 

 

青い溶解液がトリカブトの口から勢い良く発射された。

夏美は目を見開くが、やはり体は動いてくれない。しかしココで全く予想外の事が起こった。夏美、ミーク、テトラの前に立っていたみゆき達に命中するはずの溶解液が阻まれたのだ。

そう、光の壁に。

 

「何ッ!?」

 

 

みゆき達の前にト音記号とハートを組み合わせた紋章が浮かび上がった。

それは結界となり、溶解液を遮断すると打ち消してみせる。あんなものは見た事が無い、思わず身を乗り出して驚くトリカブト。

 

 

「一つだけ、分かった」

 

「ッ! ぐアァ!」

 

 

どこからとも無くピンク、赤、緑色をした光の球体が飛来、それはトリカブトの周りを跳びまわり弾丸となりてぶつかっていく。

火花を上げて後退していくトリカブト、すると光りはそれぞれ対応する色の持ち主の手に。

ピンクはみゆき、赤はあかね、緑はなお。光の球体は発光を止めて姿を晒した、それは結界と同じデザインのブローチ。

三人はトリカブトを睨みながら、何時の間のかに手に持っていたコンパクト、スマイルパクトを構えて地面を蹴った。みゆきは、言葉の続きを言い放ちながら。

 

 

「私は、貴女を許さない!!」『GO!』

 

「!」

 

「スマイルチャージ!」『GO! GO! Let's Go HAPPY!』

 

 

みゆきの体が光に包まれたかと思うと、ハートの紋章が出現。

それが光と共にはじけると中から現れたみゆきは、みゆきでは無かった。別人とまではいかないが、同じ人間とも思いにくい。

そう、変身だ。メイド服ではなくきらびやかな魔法少女の如くドレスを纏っている。髪もチョココロネの様な物から三つ編みのツインテールに。

羽のついたカチューシャが特徴的だった。

 

 

「ゴォオ!!」

 

 

そして変わったのはもちろんみゆきだけではない。

同時に走り出した三人だが、既にトリカブトの頭部になおの膝蹴りが命中していた事がその速さを物語っている。

なおは髪のボリュームが明らかに変わっており、ポニーテールが長くなっているのに加え、ツインテールも追加されていた。

トリプルテールと薄緑色のマントを靡かせ、一瞬で距離を詰めた後の飛び膝蹴り。深い緑色のスパッツから伸びた肌色の素足は人間の時と変わらない筈だが、繰り出された蹴りの威力はすさまじく、トリカブトは悲鳴を上げながら後方へ吹き飛んでいく。

 

 

「ウォオオ!!」

 

 

拳を握り締め地面を殴ったあかねもまた容姿が変わっていた。

髪型はお団子ヘアー。あくまでも容姿は変わっているが人の姿、シルエットは保たれている。

しかし地面を殴った瞬間、地面を伝うようにして炎が噴射、どうやらその力は人間を遥かに超越しているらしい。

 

 

「ぎゃあぁああ!!」

 

 

地面に倒れたトリカブトに命中する炎。

植物の改造人間である身に炎は染みたか、すぐに悲鳴を上げて地面を転がる事で、纏わりつく炎を消化した。

唖然とする夏美達、そしてトリカブト。目の前をゆっくりと歩いてくるみゆき達は人ではなかった。

それもその筈、仮面ライダーと言う存在が他世界が一産物である様に、みゆき達もまた一世界で戦える力を得たと言うだけの話だ。

 

 

「貴様ら、何者!」

 

 

呼吸を荒げるトリカブトの問いに、進む三人は冷静に答える。まずはみゆき。

 

 

「キュアハッピー」

 

 

手にしたのはプリキュアと言う名の戦士の力だ。みゆきが、いや今はハッピーが司るのは光。

 

 

「キュアサニー」

 

 

トリカブトを睨んでいる目が据わっている。あかねが変身するサニーが司るのは炎。

 

 

「キュアマーチ!」

 

 

その目の輝きは恐怖には染まっていない。なおが変身するマーチは風の力を司る。

三人の魔法少女(ヒロイン)はアイコンタクトを取ると再び地面を蹴って加速した。

姿勢を低くしてスピードを上げるサニーと風を纏って一気に加速するマーチは回り込む様にサイドへ移動しトリカブトを包囲する。

そして攻撃の開始、煌びやかで可愛らしい見た目とは違い、彼女達が選択した攻撃方法はなんと肉弾戦である。

 

 

「ハァア!!」

 

 

まずマーチが脚に風を纏わせ蹴りの嵐を繰り出した。

風の力で脚を振り上げるスピードは拳よりも早い。パワーもそこそこ、トリカブトとて猛者ではあるが、すぐに拳と手を打ち合う乾いた音が広場に響いた。

 

 

「ゼイッ!」

 

 

太い根が張り巡らされた右手でマーチの脚を弾くトリカブト。

しかしその眼前にすぐサニーの拳が迫った。炎を纏わせた重い一撃はトリカブトの天敵、弾こうとも着弾時に炎が移り、トリカブトはすぐ苦痛の声を漏らす。

 

 

「あ、熱い! 熱い熱い! 焼ける!!」

 

「何の罪も無い動物に、お前がさっきやった事や!!」

 

 

どうやらトリカブトの行為が相当頭にキテいる様だ。

マーチの蹴りとサニーの拳がトリカブトを打ちのめしていく。

それだけではない、ハッピーもまた手足に光を宿して蹴りと拳を容赦なく叩き込んでいった。

 

 

「貴女は――ッ! 貴女は命をなんだと思ってるの!!」

 

「ヌゥゥウ!!」

 

 

ハッピーは拳がトリカブトの体に命中したのを確認すると光を解放。

拳からレーザーが放たれトリカブトを押し出していく。煙を上げながら地面を転がるトリカブト、引きつった笑みは消えない。

大ショッカーのプライドか、すぐに立ち上がると、体に張り巡らされていた根や蔦を巨大化させ、追撃を行おうとしていた三人の体を打つ。

 

 

「きゃああッ!」

 

「グッ!」

 

「根が鞭に!」

 

 

激しい乱舞がハッピー達の体を打ち、これ以上の進行を拒む。

驚くべきはトリカブトの本気の乱舞を受けてもハッピー達の体は僅かに傷がつく程度。

どうやら防御力も相当上昇している様だ。だがそれでこそ殺す甲斐があると言うもの、トリカブトは臓物を零しながら焼けていくハッピーたちを想像し、再び喘ぎ声を漏らす。

 

 

「命ッ? 決まっています事よ!」

 

「ッ」

 

「そんな物、我らの玩具でしかないのです! ホホホホッ!!」

 

 

当然の様にトリカブトは言い放った。

俯く夏美、そうだ、そんな連中だった。たとえ命乞いをしようが、たとえ相手が子供や女性、老人であろうが容赦なく殺す。それが大ショッカーと言う連中のやり方だ。

そしてその言葉に舌打ちを零すサニー。初めてだ、これほどまでに心を持たぬ敵と出会ったのは。

 

 

「チッ、外道が」

 

「許せないな、絶対――ッ!」

 

「うん。命は玩具なんかじゃない! 絶対粗末にしちゃいけない物なのに」

 

 

手に炎を宿すサニーと腕を組んでトリカブトを睨むマーチ。ハッピーも拳を握り締めて怒りを確かな物と感じた。

一方でトリカブトは両手を天に掲げる。すると根が手の動きに合わせて空中へ。そして次々に毒々しい色の花を咲かせていった。

 

 

「殺人植物から放たれる溶解液は、全ての命を溶かしつくしますわ!」

 

 

ご丁寧にこれから行おうとする攻撃の詳細を語るトリカブト。

それは自信の表れた。これを知った所でハッピーたちにできる事など何も無い。

そして人質の意味もある。これから無差別に放たれる溶解液の噴水は夏美達をも溶かすだろう。ハッピー達は夏美を守りに走らなければならない。

しかしその意図とは違いハッピーは腰にある小さなポーチから一つのブローチを取り出した。彼女はそれを変身道具、スマイルパクトにセットする。

 

 

「遅い! もう無駄ですわ! 全て溶けて無くなれェエ!!」

 

 

トリカブトの叫びと共に、花々から強力な溶解液が放射。

辺りを無差別に溶解させながら、当然ハッピーや夏美達を狙う。だが同じくしてセットしたブローチ、キュアデコルの効果が発動。

 

 

『Let's Go KA・SA!』

 

 

キュアデコルから光が迸ると夏美達を覆う様にして巨大な傘が召喚される。

それだけではなくハッピー達の手にもそれぞれのカラーに対応した傘が。

三人はそれを広げると溶解液を真正面から受け止めてみせる。何を馬鹿な――、とトリカブトは思っただろう。

ただの傘で先程よりも強力な溶解液を防げる筈は無いと。しかし当然、それは普通の傘ではなく魔法の力で作られた物。

広げた傘を前にして突き進むハッピー達、見事に溶解液を防ぎきっていた。

 

 

「なにッ!」

 

 

傘が迫る。焦ったトリカブトは溶解液の噴射を中断し、鞭での攻撃にシフトチェンジしていく。

数々の根と、右手にある大きな短鞭。これがあれば何とかなると思っていた。ヒュンヒュンと風を切り裂く音、それを聞いたハッピー達は傘を閉じてその攻撃に対応を。

 

 

「風よ、切り裂け!!」

 

 

マーチ大地を踏み込んで大きく足を旋回させると鎌鼬が発生。風の刃は迫る根を次々に切り裂いていく。

 

 

「光よ!」

 

一方で手を光らせるハッピー。

すると淡い桃色のレーザーカッターが伸び、腕を振るえば根を一刀両断にしてみせる。

 

 

「グアァア!」

 

 

大きく怯むトリカブト。

さらに地面を転がりサニーは閉じた傘を手に敵との距離を詰める。

立ち上がり様に傘をなぎ払い、石突きの部分でトリカブトを突き怯ませる。傘もサニーにとっては立派な剣の様だ。

 

 

「この動き、この力! イレギュラーですわ!」

 

 

右腕の短鞭を振るうトリカブトだが、サニーはその振るわれた右腕を掴み取ると反対に傘を突き入れる。

そして傘を開くと雨の飛沫が飛ぶ様にして、火の粉が散弾銃としてトリカブトの肉体を焦がす。

 

 

「熱いか? それは、ウチの怒りの炎や」

 

「ちょ、調子に乗るな――ッ!」

 

 

顔を抑え後退するトリカブトだが、瞬時右手の短鞭が一気に伸長した。

そしてサニーの胴体に絡みついたではないか。

 

 

「しま――ッ!」

 

「溶けなさい! お嬢ちゃん!」

 

 

鞭を戻してサニーを引き寄せるトリカブト、彼女はそのまま溶解液を放出してサニーをドロドロにしようと試みる。

が、しかし、そこでサニーの肩に衝撃。見ればハッピーが彼女の肩を蹴って上空に飛んでいるところだった。

 

 

「ごめんサニー!」

 

「うわわ!」

 

「―――ぁ!」

 

 

ハッピーが何か仕掛けてくるのではと一瞬視線を其方に向けるトリカブト。

しかしそれが狙いだった。ハッピーは強力なフラッシュを発動、トリカブトの視界が桃色の閃光にジャックされ、思考と動きが停止する。

ゼロになる視界、その隙にマーチがスライディングでサニーの下へ。蹴りで鞭を切り裂くと、そのままの勢いでトリカブトに回し蹴りを命中させる。

 

 

「ぐァァッ!」

 

 

ダメージと衝撃で後ろに強制的に後ろへと下がっていくトリカブト。

 

 

「サニー!」

 

「任しとき!!」

 

 

走り出したサニーと手をかざすマーチ。突風を発生させ、それを追い風とする事でサニーは一気にスピードを上げる。

指を鳴らすと左腕に炎が発生、サニーはそのまま全力を込めて動きを止めていたトリカブトの腹部ど真ん中に拳を抉り込ませた。

 

 

「ゴオォォッッ!!」

 

 

奇しくもその呻き声は先ほど溶解液をかけられた動物たちとよく似ていた。

サニーの左拳はまさにトリカブトの胴体に『刺さっている』と言える程深く深く進入していた。

そしてそれだけではない。サニーの腰にあったスマイルパクトが朱色に光る。すると左拳を中心に炎が収束し炎の固まりとなっていく。

朱色の輝く左手を引き抜くサニー、トリカブトはヨロヨロと後ろに下がりながら首を振る。

 

 

「わ、私が――ッ! こ、こ、こんな子供に――ッ! ぐッッ!」

 

「もう喋んなや。目ざわりやで、アンタ」

 

 

ギラリと光ったサニーの瞳。

彼女は右手の拳を握り締めると、大地を踏み込んで思い切り手を振りかざす。

 

 

「サニィィイイッッ!!」

 

 

そして、渾身のストレートをトリカブトの腹部にて輝く炎塊にブチ込んだ。

 

 

「ファイヤァアアッッ!!」

 

「グアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

収束させた炎を発射して相手にぶつける必殺技、サニーファイヤー。

その勢いは凄まじく、炎の固まりはトリカブトの腹部を突き破り彼方へと消えていった。腹に風穴を開けたトリカブトは呻き声を上げながら一同を睨みつけた。

 

 

「こ、これがイぃぃいレギュラァあ――ッ! わわ、私が負け――ッ! クハァアァ!!」

 

 

ドシャアっと音を立てて溶解液によってぬかるんだ地面に倒れたトリカブト。

炎が彼女の体を巡り、直後数回朱色に点滅した後爆発を起こした。

戦いの終り、ゆっくりと息をはいてサニーは肩を降ろす。チラリと見ればまだ動物達の死骸が燃えている。炎の力を使うサニーとしては思う所もあるのだろう。

 

 

「凄い……! 凄いね皆!」

 

 

その雰囲気を何となく察したかミークが無理矢理にでも笑顔を浮かべてハッピー達に駆け寄る。

ミークも未だに訳が分かっていない様子、可愛がっていた動物が死に、トリカブトと言う化け物を見た。そのパニックを少しでも落ち着けたいのだろう。

 

 

「いったい、何が、どうなってるの――ッ?」

 

 

だが流石にミークの顔からすぐ笑みが消えた。それはこの広場にいる誰もが同じだったろう。

そして言葉にも詰まる。ハッピー達は自分がなんなのかを説明する事はできる。

ある日、世界を救う為にプリキュアと言うヒーローになった、要はそう言う事だ。しかし何故その自分達がココにいるのか、そしてトリカブトが何なのかは分からない。

 

 

「あの、それは――」

 

 

夏美もまた自分が知っている情報を言うしかない。

そう思った時、ドゥルン! と、鉄の馬が吼える音が聞こえた。

そして、声も。

 

 

「――お前達がそれを知る必要は無い」

 

「!」

 

 

マシンが吼えた。唸るようなエンジン音と共に広場に三台のバイクが飛び出してきた。

放物線を描きながら地面に着地するのは左からカブトエクステンダー、マシンディケイダー、凱火である。

当然それぞれのバイクには持ち主が乗っている訳で。司、双護、我夢はエンジンを吹かし、動物達の死骸を引き抜きながら夏美達の前にやって来た。

停止する三台のバイク。司は大きく脚を上げて颯爽とバイクから降りた。

 

 

「よう、夏美。昨日ぶりだな。元気にしてたか?」

 

「つ、司くん――ッ!」

 

「ッ、あれが司!」

 

 

怯み、思わず後ずさる夏美達。

息を呑むハッピーたち。何か、こう、司と双護は他人の様な気がしないが――? 分からない、不気味だ。

対照的に司はヘラヘラと薄ら笑いを浮べている。それは我夢と双護も同じだ。唇を釣り上げ、ジッとハッピーたちを睨んでいる。

人を馬鹿にした、そして何よりも冷たい目だ。随分と失礼な話だが、サニーやマーチは我夢達の事を好きにはなれそうになかった。だが事情は知っている、コレは変わってしまった姿だと言う事。なるほど、確かに何か言い様の無い気持ち悪さを感じる。今の司だって笑っているが、その奥にある瞳は欠片とて笑っていなかった。

当然か、だってコレは演技、所詮脆いペルソナでしかない。司は一瞬で笑顔を消すと重いトーンで声を出す。

 

 

「昨日からずっと殺せなかった事を悔やんでた」

 

「ッ!」

 

「だがその前に――」

 

 

司は指をさす。

誰に? それは、戸惑いの表情を浮べているミークにだ。

 

 

「え?」

 

「お前だ、ミーク」

 

「な、何を……!」

 

「やれ。双護、我夢」

 

 

司が指を鳴らすと背後にいた我夢と双護がグリップを回し、激しくエンジンを鳴らす。

そして急発進、タイヤが地面を抉り、土片を飛ばしながら二台のマシンは爆発的な発進をみせた。全員が分かった、我夢と双護が何をしようと言うのかを。

だから前に出る。それはほぼ直感的だった。サニーは凱火を、マーチはカブトエクステンダーをそれぞれ真正面から受け止めたのだ。

 

 

「はーん、また変なのがいるな」

 

 

ニヤリと笑う司。悪くない、悪くないが――、気に入らない。

 

 

「何すんねんッ! アンタ我夢やろ! 夏美の友達ちゃうんか!?」

 

「ギャーギャーうるさい女ですね。夏美先輩は敵ですよ、殺すべき相手だ」

 

「なッ!」

 

 

一方マーチも同じ質問をしていた。その返事がこうである。

 

 

「また同じ質問か。うんざりするな」

 

「ッ! 何だって!」

 

「全てどうでもいい。今はただ一つ、ミークを殺す事だ」

 

「双護さん――ッ、アンタって人は!」

 

 

歯を食いしばるマーチ。

そして一つのアクションが起こった。同じく歯を食いしばったサニー、彼女は友情を大切にしている。

だからだろう、今目の前にいる我夢が、夏美を泣かせている我夢が許せなかった。

変わってしまった理由さえ話してくれない。そして今彼等はミークを、友達を殺そうと言っている。だったらもう手は一つしかないだろう。

 

 

「悪く思わんといてや――ッ」

 

「あ?」

 

「ウチが今、アンタの目ぇ覚ましたるッ!」

 

「!!」

 

 

サニーは手を離すと思い切り脚を突き出して凱火を蹴り止める。

そして空いた手を握り締めると、そのまま我夢の顔面にフックを叩き込んだ。

その衝撃に我夢の体は浮き上がり凱火から離れる。そして真横に吹っ飛んだ後、地面に倒れた。

 

 

「コレで……!」

 

 

洗脳されているなら今の一撃で正気に戻ってくれる筈、少なくともサニーはそう確信していたし、夏美達もあわよくばと期待を抱く。

倒れた我夢はしばらく呻き声をあげ、そしてポツリと、小さな声で呟いた。

 

 

「――な」

 

「ッ?」

 

「僕を……、殴ったな」

 

「我夢――ッ?」

 

「僕を――ッッ! 殴ったなァアアアアアアアアア!!」

 

「!?」

 

 

我夢はギラリとした目でサニーを睨みながら立ち上がる。その形相は激しい憎悪に包まれており、醜く歪んでいた。

夏美は思った。思ってしまった。誰だアレは? あんな人は知らない。あんな、怖い人は知らない。

 

 

「いッてぇだろうが糞女アアアァア! 僕は世界を救うヒィイロオォオだぞッ! 何考えてるんだよ屑ッッ!!」

 

「な、な――ッ!」

 

 

その歪んだ迫力に思わずサニーは言葉を失う。

一歩我夢が前に出るとサニーは一歩後ろに下がった。我夢は憎悪の言葉をサニーにぶつけながら懐から音角を取り出す。

そして獣の様に姿勢を低くして凱火のところまで戻ると、展開した音角を凱火に思い切りぶつけた。

澄み渡った音も今は不気味に感じるほど、そして綺麗な音に混じる濁った言葉。

 

 

「司様、双護先輩! アイツ殺しても良いですよねぇえッ!?」

 

「ああ、殺れ我夢。血祭りにしてやるんだ」

 

「やったぁ! くはははは! ヒャハハ! 覚悟しろよお前ぇエエッ! 変身ッッ!!」

 

 

音角を額にかざす我夢。

すると紫炎が彼を包み、それを翻すと炎の中から響鬼が姿を見せる。

 

 

「ォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

吼える響鬼。まさにその姿は理性の欠片も無い鬼であった。

 

 

「ッ! 変身した!」

 

 

驚くサニー達に夏美は全てを打ち明ける。

何、簡単な事だ。自分達もまた、異形の力を手にした『側』であると。その名は――

 

 

「私達は、仮面ライダーなんです!」

 

「仮面、ライダー……!」

 

「そういう事だ」

 

「え」

 

 

しまったとマーチ。

響鬼に気を取られていたからか、目の前にいる双護を見ていなかった。

すぐに視線を移すがそこにあったのは足。シートの上に立った双護は蹴り上げを行い、マーチの顎を打った。

 

 

「うッ!」

 

 

怯み、後ろへ倒れるマーチ。そこで双護はベルトにカブトゼクターをセットする。

 

 

「変身」『HENSHIN』

 

 

マスクドフォームに変わったカブトはクナイガンを手にバイクから飛び降りた。アックスモードの刃が狙うのはマーチの脳天。

しかしマーチの武器はスピード。持ち前の速さと反射神経で素早く地面を転がり、体を移動させる。

そして轟音、見ればつい先ほどマーチの頭があった場所にクナイガンの刃が深く地面を裂いていた。

 

 

「避けたか。動かなければ楽に殺してやったのに」

 

「ゴメンだね――ッ! アタシは、貴方を止めないといけないからさ!」

 

「面白い冗談だ」

 

 

一旦後ろに下がるマーチとサニー。

覚悟はしていたが、嫌な予感ほど現実になるものだ。ハッピーは震える夏美達に柔らかな笑みを向ける。

 

 

「夏美ちゃん達は下がってて」

 

「でも――ッ!」

 

「大丈夫。司さんは私達が元に戻すから」

 

 

その言葉はあまりにも優しく、心に響く物だから、やはり夏美は涙を浮べてしまった。

 

 

「ッ、みゆきちゃん……!」

 

「今はキュアハッピーなんだよ! えっへん!」

 

 

胸を叩くハッピー。力が強かったのか彼女はそのまま咳き込んでしまった。それを見てプッと吹き出すサニーとマーチ。

 

 

「世界が変わっても相変わらずだなぁハッピーは」

 

「ええやん、そっちの方が調子出るわ」

 

「えへへ……!」

 

 

とにかくと、言いたい事はただ一つだ。ハッピーの強い眼差しが夏美を捕らえた。

 

 

「諦めちゃ駄目だよ。どんなときでも笑顔でいれば、ウルトラハッピーがやって来るから」

 

「は、はい! お願いします皆……!」

 

「おい、そろそろその下らない馴れ合いの茶番を終わらせてくれ。ますます殺したくなる」

 

 

美しい女の友情も司にとっては下らないおままごとにしか映らない様だ。

 

 

「ッ、行きましょうミークちゃん、テトラちゃん」

 

 

夏美はテトラとミークの手を取った。

ココにいては戦いに巻き込まれる。それに司達の狙いはあくまでもミーク。

狙いの対象を置いておいては危険極まりない。カブトにはクロックアップがある事だし、夏美はココを離れる事を決める。

 

 

「さあテトラちゃん、ミークちゃん、早く!」

 

「う、うん」

 

「気をつけてね、皆!」

 

 

広場を離れていく夏美達。司達は当然それを追おうとするが、そこに並び立つハッピー達。

司はため息をついてディケイドライバーとディケイドのカードを取り出す。

 

 

「変身」『カメンライド・ディケイド!!』

 

 

変身を完了させたディケイドはライドブッカーを剣に変えて刃をなぞる。

そこへ並び立つ響鬼とカブト。それぞれは、それぞれの前方にいる敵を激しく睨みつけた。

響鬼とサニー、カブトとマーチ、そしてディケイドとハッピー。

 

 

「邪魔な者はどうすればいいか――、分かるな? 我夢、双護」

 

「もちろんです司様! 僕が必ずあの女を殺してみせましょうッ!」

 

「安心しろ司。あんなガキ、俺の敵じゃない」

 

 

一歩ディケイドが前に出る。続いて響鬼とカブトも前に出た。

 

 

「行こうサニー、マーチ! くれぐれも気をつけてね!」

 

「ハッピーもな。アイツら、かなり強いで!」

 

「でも勝つよ。夏美ちゃんやテトラちゃんの為に、ミークの為に!」

 

 

一歩ハッピーが前に出る。続いてサニーとマーチも前に出た。

 

 

「ぶっ壊してやるよ! その下らない笑顔!!」

 

「事情は分からないけど、司さん、私は絶対に貴方を止める! じゃないと皆がハッピーになれないから!」

 

 

同時に走り出す先頭の二人。

ディケイドの剣が振り下ろされ。それを腕で受け止めるハッピー。

激しい視線の刃がぶつかり合い、双方は双方を姿を瞳の中に映した。

 





☆エピナビ☆

・スマイルプリキュア

2012年2月5日から、2013年1月27日にかけて放送された変身ヒロインアニメだ。
絵本が大好きな中学2年生の星空みゆきを中心に、五人の少女たちの戦いと成長の物語だぞ。
笑顔をテーマにしており、明るくコミカルな作風が特徴だ。
シリーズ構成や重要な回の脚本を担当している米村氏はディケイド後半、カブトのメインライターでもあるんだ。

この作品では、みゆき達はどうやら離れ離れになってしまった様だ。また再会はできるんだろうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。