Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

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SONG13 虚構のシズク

 

 

ファイズの変身が解除され、ディケイドは唸り声を上げる。

状況は理解できないが、ファイズが解除された事でオートバジンも消え、トゲアリ獣人は解放される事になる。

 

 

「ヒヒッ! ヒャハハハ!!」

 

「!」

 

 

笑い声に似た鳴き声。ディケイドが視線を移すと金色の大鷲のベルトが見える。

 

 

「大ショッカー!」

 

 

ライドブッカーを構えるディケイド。夏美には背を向けており、それはイコール夏美を守る構図に見えた。

 

 

「戻ったの!? 司さん!!」

 

「え? えぇ? 誰!?」

 

 

パァっと笑顔を浮かべて立ち上がるハッピー。

しかしディケイドからしてみれば突然桃色に発光する少女が現れたのだから驚くのも無理は無い。尻餅をつきそうな勢いで後退し、ディケイドは間抜けな声を上げる。

 

 

「も、戻ったんですか司くん!!」

 

 

夏美もまたボロボロと涙を流しながらディケイドに詰め寄った。

戻った? 何の話だ? ディケイドはうろたえ、首を振る。

 

 

「俺は元々このままだろ? ってかココどこだよ!」

 

 

いや、今はそんな事を話している場合では無いか。

ふと視線を戻せば鳴き声を上げて走ってくるトゲアリ獣人が見えた。

怪人も色々タイプはある。だが大きく分けて二種類だ。話が通じるものと通じないもの、どうやらトゲアリは後者らしい。

 

 

「何が起こってるのかは後で聞かせてもらうからな。皆を避難させて隠れてろ夏美!」

 

「は、はい!!」

 

 

輝く様な笑顔で夏美は頷くとミークとテトラの手を持って後ろに下がる。

どうしていいか分からず混乱したままのテトラと、爺やの死が大きく心に刺さったのか軽く放心状態になっているミーク。そして笑顔の夏美、なんだか気味の悪い対比であった。

 

 

「司さん! 私キュアハッピー!」

 

「え? きゅ、きゅあ?」

 

「うん! 一緒に戦おうね!!」

 

「いやッ、でも、君……、その格好で?」

 

「大丈夫大丈夫! 私これでも結構強いんだよ!!」

 

 

ガッツポーズを浮べるハッピー。すると前方にいたトゲアリ獣人が蟻酸を発射する。

一見すれば白い泡だが、触れた物を破壊する威力を持っている。だがそれが分かっているのかハッピーは手を横に振るった。

カーテンを閉めるようなジェスチャー、すると本当に光のカーテンが出現して蟻酸を遮断する。

 

 

「おお、凄いな!」

 

「えっへん!」

 

 

自慢げに胸を張るハッピー、ティアラモードはより一層属性を強く操る事ができる。

一方感心しながらもカーテンを潜り抜けたディケイド、地面を転がりつつ剣を振るい、トゲアリ怪人の脇腹を切り抜けて背後に回った。

 

 

「ギギギ!!」

 

「言葉が通じないなら、何を企んでるか聞く事もできないな!」

 

 

そのまま剣を斜めに二振り、エックスの残痕がトゲアリ獣人の背に刻まれ、振り返ったときに腹部へ一発蹴りを入れる。

一方でハッピーも背を向けたトゲアリ獣人に光弾を発射して怯ませる。トゲアリの名の通り体には赤い棘が生えているが、剣や光弾ならば問題なく攻撃できる。

 

 

「イハハハハ!!」

 

 

笑いながら地面を転がるトゲアリ獣人。

ディケイドはライドブッカーを銃に変えて跳躍、転がるトゲアリ怪人を飛び越えながら銃弾を浴びせ、ハッピーの隣に着地する。

煙を上げながら立ち上がろうとするトゲアリ怪人、一方ディケイドはバックルを開くとアギトのカードを取り出した。

 

 

「ヒィイハッッ!!」

 

「変身!」『カメンライド』『フォームライド』『アギト・ストーム!』

 

 

トゲアリ獣人は体についていた棘を発射。

しかしストームフォームに変身したディケイドは風を発生させ針を眼前で停止させる。

いや、そればかりかディケイドがライドブッカーを振るうと、さらなる暴風が巻き起こり、空中に留まった針が向きを変えてトゲアリ獣人へと返っていく。

 

 

「ゴガァア!!」

 

 

風の勢いと受けた針のダメージで後ろへ倒れるトゲアリ獣人。

ディケイドとハッピーは頷き合うと止めを刺そうと構えに入る。

 

 

「ッ! ギギギィィ!!」

 

「!!」

 

 

だが危険を察知したのか、トゲアリ獣人は凄まじいスピードで地面を掘ると瞬く間に地中へ消えてしまった。

呆気に取られ、すぐに追おうとするディケイド達だが、盛り上がった地面が移動し、すぐに反応は消えてしまった。

 

 

「なんて――ッ、逃げ足!」

 

 

もう追うのは無駄か。ディケイドは変身を解除して司に戻る。

するとビクッと肩を震わせた。自分の格好に怯んでいるんだろう。

 

 

「なんだこの服?」

 

「司くん!!」

 

 

衝撃が走り、思わず呻き声を上げる司。

見ると凄まじい勢いで夏美が飛びついてきたのだ。

ボロボロと涙を流しながら司を抱き締める夏美。見るからにただ事ではない雰囲気が伝わってきた。

 

 

「夏美? どうしたんだよ――ッ!」

 

「司くんッ! づがざぐぅうん!!」

 

 

最早呂律すらまともに回っていない程夏美は泣いていた。

ただ強く、絶対に離れない様にギュッと夏美は司を抱き締める。困惑する司に、ハッピーが優しげな笑みを浮かべて話しかけた。

 

 

「今はそのままにしておいてあげて。司さん」

 

「え? いやッ、でも動けないしなぁ」

 

 

困ったように笑うと司はハッピーの事を尋ねる。

スマイルプリキュア。仮面ライダーとは違う別世界の戦士であり、なにやら言い様の無い親近感が湧いた。

さらに司の周りに集まるテトラとミーク、初めは状況を理解していなかったが、この今の司が本来の『聖司』なのだと察した様だ。

 

 

「ほら、夏美、お前いつまで泣いてんだよ。俺に事情を教えてくれるって言っただろ?」

 

「は、はい……!」

 

「まずは皆の事を紹介してくれよ」

 

 

司は優しく夏美の頭を撫でると、肩を持って一旦自分から引き剥がす。

ゴシゴシと涙を拭って笑う夏美、その表情はなんとも嬉しそうなものだった。

 

 

「コチラはテトラちゃん」

 

「は、はじめまして」

 

「ああ、はじめまして」

 

 

司はしゃがむとテトラと視線を合わせて握手を行う。

テトラも司の優しい表情に警戒心を解いて笑顔を浮かべた。まさに悪い魔法が解けた様な、そんな表情だったから。

そして次はミークを見る。まだ心の傷は深いものの、夏美が嬉しそうに笑っているのが見えて、ミークも笑みを浮かべる余裕はできた。

 

 

「はじめまして司。私はミーク、この緑の国の領主をしているわ」

 

「ああ。俺は司だ、よろしく」

 

 

笑顔で握手を交わす司とミーク。司はしっかりとミークの手を握ると、挨拶の意味を込めて手を上下に軽く振る。

 

 

「ミークちゃんはとってもお歌がお上手なんですよ!!」

 

「へぇ、それは聞いてみたいな」

 

「ええ、でも今は――」

 

 

周りを見れば黒煙が上がっている。

一体コレは? それに爺やはこの国はもう終わる様な事を言っていた。

心配だ、胸が苦しい、早く何が起こっているのかを確かめたい。すると司は頷いた。

 

 

「その前に少しいいか? ミーク」

 

「うん? 何?」

 

「少し、コレを見て欲しいんだ」

 

 

そう言って司はライドブッカーを取り出した。

 

 

「これ? これがどうしたの?」

 

「ああ」

 

 

何かが、弾ける音がした。

 

 

「――え?」

 

 

誰が、言ったのか。分からない。

ただ答えはそこにある。それは揺るぎ無い事実だ。司は見て欲しいと言った、ライドブッカー、その銃口。

赤い染みが広がる。ミークは呆気に取られた表情を浮かべ、夏美達もまた突然響いた音に肩を震わせる。

 

 

「え?」

 

 

三度目、ハッピーがポツリと呟いた。

誰もが皆真顔だった。テトラも、ミークも、夏美も、ハッピーも、司も。

何も変わらない、つい先ほどと何も変わらなかった。ただ一点、ミークの心臓がある胸のところ、そこに赤い点が浮かび上がった。

 

 

「あ」

 

 

ジワリ、ジワリ、広がる赤。

その中で、また音が。

 

 

「―――」

 

 

今度は二回。思わずミークの体が後ろに下がる。

一歩、二歩、後退していく中でミークは強烈な熱を感じた。そしてふと、視線を下に向ける。

緑色のドレスはミークのお気に入りだった。だからおかしいと思った、ドレスに赤い点があるのは。

赤い、点。広がる、点。ジワリ、ジワリ。胸、脚、肩、広がる点。

 

 

ダンダンダンダンダンダンダン。

 

 

今度は『七発』の音が、銃声が鳴った。

綺麗な赤い華がミークの体に計10輪咲いた。ゆっくりと倒れるミーク、夏美は無表情でミークをジッと見つめていた。

 

 

「ミークちゃん? どうして倒れたの?」

 

 

声が出た。不思議だから声が出た。分からないから声が出た。

ただジッと夏美はミークを見ている、ハッピーもミークを見ている、テトラもミークを見ている。

そしてミークは空を見ていた。仰向けに倒れたから、緑色に濁る空を見上げていた。

 

 

「かは――ッ」

 

 

息を吐く。すると空気と一緒に血が噴き出てきた。

いけない、溺れちゃう。ミークは横を向いて口いっぱいにたまった血を吐き出した。

だがすぐに次の血が込み上げてきて、ミークは困ったなと思う。

何コレ? ミークも分からない。ただ全身が熱かった。だからだろうか? 汗が凄い。もう体がグッショリと濡れている感覚がある。

ああでもミークはこの時、一つ勘違いをしていた。それは全身に絡み付いているのは汗ではなく血であったと言う事だ。美しい肌色の肌からとめどなく溢れる赤い紅い血液。

 

 

「ククク――ッ!」

 

 

静寂があった。でも、笑い声が聞こえた。

 

 

「クヒヒ……! クヒヒハハ……ッ!」

 

 

静かだった。静かだったから耳により響く。

 

 

「クハハハハハハハハハハハ!! ハーッハハハハハハハハ!!」

 

 

どうして?

 

どうして?

 

どうして?

 

どうして、司は笑っているの?

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!」

 

 

何が、そんなにおかしいの? 夏美、テトラ、ハッピーの視線が司に集まる。

司は笑っていた。腹を押さえて笑っていた。

 

 

「お前らに、一つ教えてやるよ――」

 

 

銃口から煙を上げるライドブッカーを持って笑っていた。

司は教えてあげたかった、一つ当たり前で大切な事を。

 

 

「人間はな、嘘がつけるんだ」

 

 

口から、真実じゃない事を言えるんだ。

 

 

「……嘘」

 

 

二つの意味で。夏美がポツリと呟いた。

司は満面の笑みを浮かべて頷いた。最も、目は全く笑っていなかったが。

 

 

「信じてんじゃねぇッよ! ッバァァァアアアァァァァアアッカッ!!」

 

 

銃から剣へ。

司は鬼のような形相を浮べ、ライドブッカーを構えて走り出した。

呆然と立ち尽くす夏美めがけ距離を詰めていく。

だが急ブレーキ、司の前に、ハッピーが立ちはだかった。

 

 

「なんで?」

 

 

ハッピーもまた唖然としていた。

ただ反射的に敵意を感じ、反射的に夏美を守る為に前に立った。

 

 

「なんで? 夏美、喜んでたのに。ミークは、友達なのに……」

 

「言っただろ? 俺の目的は一つ、ミークを殺す事だ!!」

 

 

それを達成する為に司は夏美が言う理想の司様を一つ演じてやっただけだ。司はしっかりと口にしている

 

 

「俺は元々このままだろ? ってな」

 

 

ちゃんと言ってあげた、真実を。

勘違いしたのは夏美の方だ。それにしても少し攻めの角度を変えただけで簡単に達成できた。

これはいけない、司は思わず再び笑みを零す。

 

 

「お前ら、チョロ過ぎだろ」

 

 

その一言で、ハッピーの中にある何かがブチリと切れた音がした。

 

 

「――ッ、司ァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ハッピーもまた鬼気迫る表情で司を睨む。

掴みかかろうと伸ばした腕、しかし司は後ろに跳びながらライドブッカーを連射、迫る手を弾くとディケイドライバーを構えて着地する。

 

 

「どうしてッ! どうして夏美の気持ちを裏切るのッッ!!」

 

 

一歩前に出るハッピー、凄まじい覇気であった。

しかし司は焦らない、怯まない、薄ら笑みを浮かべてディケイドのカードを構えた。

裏切りとは、その定義で文字通り期待や信頼、関係から手のひらを返す事を言う。

しかし何度も言っているだろう。司は夏美を味方とは、仲間とは思っていない。

故に裏切りは成立しない。敵に奇襲をかけただけ、それでハッピーから恨まれるのは――

 

 

「笑えるぜ。変身!」『カメンライド』『ディケイド!!』

 

 

戦士の残像が重なり、エネルギープレートが突き刺さっていく。

変身を完了させた仮面ライダーディケイド。手を叩き合わせ、直後両手を広げてジェスチャーを。伝えたいのは『どうだった? 今の演技は』と、言う言葉。

 

 

「許せないッッ!!」

 

 

掠れた声で叫び、涙を流しながらハッピーは手を上に。

すると天から落雷の様に光が飛来する。ハッピーの右手に直撃した桃色の光は直後すぐに形を変えてペガサスの装飾が施されたキャンドルに変わる。

一方鼻を鳴らすディケイド。ケータッチを取り出し、中に紋章が並んだカードを装填する。

 

 

「やるか?」『クウガ』『アギト』『リュウキ』

 

 

紋章をタッチしていく。しかしふと――、その手を止める。

 

 

「いや」

 

「ッ!」

 

 

指でトントンと数回ケータッチを叩くと、直後地鳴りと振動が。

刹那、轟音がして司の背後から土を巻き上げてリボルギャリーが飛び出してきた。

 

 

「!!」

 

 

土片が落ちる中、リボルギャリーが展開。

左右に装甲が開くと、内部にはゼノン、フルーラ、そして双護と我夢の姿があった。

どうやらバイクを走らせた双護は我夢を回収、そしてその二人をゼノン達が回収したらしい。

リボルギャリー内には回転式のパーツ設置場所があり、そこにはカブトエクステンダーと凱火の姿も見えた。

 

 

「やあやあディケイド様。状況は?」

 

 

ふと、ゼノン達の目に映る倒れているミーク。

今は夏美がその前にへたり込んでおり、放心しきった様子。

それを見てゼノン達は笑い声を上げる。ミークは全身にライドブッカーの銃弾を受けている。大量出血、結末は容易に想像がついた。

 

 

「ギャハハハハ!! やるじゃないかディケイド様! 上出来だよォ! クハハ!」

 

「いいわねぇ。シナリオは常にワタシ達に味方をしている。世界が思い通りに動く様は快感だわ!」

 

 

倒れるミークを見て、ニヤリと笑い合うゼノンとフルーラ。

 

 

「見事です司様! クハハ! 壊れる、また一つこの世界の楔が壊れるんですねッ!」

 

「流石は破壊者と言った所か」

 

 

身を震わせ尊敬の眼差しで司を見る我夢。

顎を触りながら夏美達を見下している双護。それぞれの視線が交差する中、ディケイドは地面を蹴るとリボルギャリーの中にへ着地する。

 

 

「ゼノン、状況は?」

 

「始まったよ。どうする? 選択肢は二つだけど」

 

 

選択肢、ディケイドは内容を察したのか変身を解除して司に戻った。

 

 

「一旦引くぞ。長居するのは面倒だ」

 

「オーケー。じゃ、ま、そういう事で」

 

 

指を鳴らすゼノン。すると一瞬でリボルギャリーが閉まり、その場でターンした後一気に走り出した。

待て――、とも言えず、ハッピーはただ走り去るリボルギャリーの背を見ているだけしかできなかった。その中で、静かな声が聞こえた。

 

 

「ミークちゃん……」

 

「ミークちゃん!! あぁ、どうしよう!!」

 

 

夏美はただ涙を流し、静かに呟くしかできなかった。

隣に居るテトラは必死にミークを助けようとするが、手当ての知識など幼いテトラにある訳がない。

ましてや誰が見ても――、そう、子供のテトラが見ても今のミークがどういう状況にあるのかが容易に想像ついた。

ミークは緑色のドレスを着ていた。しかし、今は赤いドレスを着ている。その重さが目を通して一番に伝わってくる。

 

 

「しっかりしてミークちゃん!!」

 

「――ァ」

 

 

声を出すのも辛いのか、ミークは虚ろな瞳でテトラを見ていた。

そんなミークの前にへたり込む夏美、この景色がどんな風に出来たのか、重く心に刺さる物がある。だから静かに呟くしかできなかった。

 

 

「死なないで……、死なないでくださいミークちゃん」

 

「ゴメン……、無理かも」

 

 

小さく、ミークも言葉を返した。咳き込むとやはり赤黒い血が口から噴き出てきた。

ハッピーは何とかして使えそうなキュアデコルを探すが、どれもが瀕死の人間を救う事には繋がらず、悔しそうにボロボロと涙を流すしか出来なかった。

 

 

「ミークちゃん! あぁ、どうしてこんな――ッ!」

 

 

ハッピーは堪らずミークに駆け寄り強く抱き締める。

呆然と見ているだけの夏美とテトラ、次第にその姿がミークの視界からフェードアウトしていき、もはやその狭く濁る視界にはハッピーしか映らない。

 

 

「みゆ……き、もっと…いろ…い……ろ、皆の…事とか……知り……た…かった…かも」

 

「待って! お願い死なないで! 大丈夫、きっと、きっと何とかなるよ!!」

 

 

ミークを安心させるために笑顔を浮かべるハッピーだが、すぐにその偽りの笑顔は消え去る。

それはきっとミークが弱弱しい力でハッピーの手を握ったからだ。その時、ミークの美しい緑の瞳からボロボロと涙が零れた。

 

 

「やだ……よ」

 

「!」

 

「やだ――ッ、よ。いやだ……よぉ」

 

「ミークちゃん!」

 

「死にたくない、私――ッ、死にたくないよぉ……!」

 

 

もっと色々、したい事があった。

もっと色々な歌を歌いたかった。色々な歌を聴きたかった。

 

 

「どうして? 私、何にも悪い事――ッ、してないのに!!」

 

 

嗚咽と血を吐き出しながらミークは泣きじゃくる。

既に痛みで全身の感覚は無く、意識も遠くなっていく。

もしもココで目を閉じれば自分がどうなるか? ミークとて重々承知の上である。

 

 

「助けて……! お願い――、助けてぇ……みゆき――ッッ!」

 

「待ってて! 今ッ、お医者様を連れてくるから!!」

 

「も――ッう、駄目だよ……!」

 

 

血が詰まっているのか、喉が鳴る。

見ていられなくてハッピーは血だらけのミークを抱き上げた。肌は青白く、体温はゾッとする程冷たかった。

 

 

「待って! 諦めないでミークちゃん!!」

 

「諦め……たく…ない――、けど、どうすれば……いい…の?」

 

 

音が遠くなる。ハッピーの顔がよく見えない。

でも夏美が耳元に口を近づけてくれたから、なんとか言葉は脳に入ってきた。

 

 

「ごめんなさい――」

 

 

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

狂った様に繰り返す言葉。ミークはふと、笑みを浮かべる。

 

 

「気にしないで……悪いのは、貴女……じゃない」

 

 

悪いのは全部――

 

 

「あの……悪魔(つかさ)――ッ」

 

「ッ!!」

 

 

夏美の表情が変わる。同時にミークの表情も変わった。

何か、ハッとした様に目を見開くミーク。呼吸が細くなり、瞳孔が開いていく。

どうやら終わりの時が来た様だ。叫ぶ様にすすり泣くハッピーと、ジッとその表情を見ている夏美。

 

 

「それは――」

 

 

最期にミークが呟いた。

最も、誰も聞こえなかったが。

 

 

「う……そ……」

 

 

もうミークは動かなかった。冷たくなり、呼吸はしていない。

 

 

「ッ」

 

 

絶句するテトラとハッピー。事実は真実であり、確かな物としてそこにはあった。

ミークは、死んだのだ。

 

 

「………」

 

 

風が吹いた。耳を澄ませば悲鳴が聞こえてきた。

どうやら街の中で次々と上がる黒煙や悲鳴がどう言うものなのかを理解した。

また人が死ぬ、時間が経過すればする程血が流れていく。次はどうなる? 誰が死ぬ? ユウスケか? 薫か? それともテトラか? みゆきか?

ああ、違うか。司は言っていたじゃないか『次はお前だと』しっかりその口で。

 

 

「ハッピー!!」

 

 

天使デコルを使ったサニーとマーチがハッピーを発見。

地面に降り立ったはいいが、目の前に広がる光景を理解するのにそれなりの時間を掛けた事は言うまでもない。

誰もが沈黙していた。夏美はただ下を向いてへたり込んだまま、テトラはミークの死が受け入れられないのか呆然と座り込んでいる。

そしてミークの死体を抱き締め、血がつこうとも離そうとしないハッピー。すすり泣く声だけが聞こえていた。

その内動き出す時間。マーチは地面に膝をつき、その手でそっと開いたままの瞳を閉じてあげた。

 

 

「ミーク――ッ! うぅぅッ!」

 

 

震える声ですすり泣くマーチ。

過ごした時間はほんの僅かだ。しかし、確かに友達だったのだ。それは偽りじゃない、なのに、なのに、なのに……。

 

 

「ちッッくしょうがァア!!」

 

 

同じく涙を流し、思い切り地面を殴りつけるサニー。

誰が、なんで、こんな、どうして――ッッ!!

 

 

「聞いてください、皆」

 

 

その中で、ふと、夏美はゆっくりと立ち上がる。

その表情は何一つ曇りの無いものだった。

 

 

「私、決めました」

 

 

夏美はミークの死体を見た。

死んでいた、動いていない、当たり前だ。何故ならばミークはディケイドに、聖司に殺されたからだ。

だから、夏美もまた一つ、答えを出した。

 

 

「私は司くんを、殺します」

 

「!!」

 

 

もはや、迷いは無かった。夏美は信じていた。司が元に戻ってくれる事を。そして元に戻れる可能性がある事を。

後者はまだ消えていない、しかし、だからなんだと言うのだ。今までは甘えがあった、司達だからと言う事で許してしまいそうな自分がいた。

だが考えてみれば、ずっと目を背けていただけだった。考えてみろ、司は仲間を殺したんだぞ。

そして、今、何もしていないミークを殺した。

 

 

「許せない――ッ!」

 

 

愛していた、だからこそ終わらせるべきだ。

 

 

「私が、司くんの罪を終わらせます」

 

 

信じよう、全てを信じよう。司はまともだ、我夢はまともだ、双護はまともだ、ゼノンとフルーラはまともなのだ。

まともであり、今回の行動を起こした。人を殺し、これからも殺すと言っている。

それは友として――、いやそれも違うのか、向こうはもう自分達を友とは思っていないのか。ならそれも信じよう。

 

 

「私は、仮面ライダーとして、彼等を倒す!」

 

 

倒す。それは先の通り、『殺す』と言う事だ。

夏美の目に涙は無かった。もう泣いていられない。確かな決意がココにあるのだから。

 

 

「でも、何も殺さなくても――ッ!」

 

「駄目なんです、司くんは、ヒーローだったから!」

 

 

もしも操られているとした場合、元に戻った司達が自分達のした事を知れば、きっと心が壊れてしまう。

いや、夏美自身、もはや許せなかった。司達がした事をもう受け入れる事ができない。

こんな言葉がある。『百年の恋も冷める』と。恋と言う感情で説明するにはあまりにも御幣があるが、抱いた『愛』は最早なくなってしまった。

操られていたのなら本当に気の毒だと思う。しかしどんなに抗っても、もう司のした事がゼロになる事は無い。

 

 

「だから私が裁きます。司くんを、絶対に倒す!」

 

「駄目だ!! それは絶対に駄目だ!!」

 

 

夏美の肩を掴むマーチ。

どんな理由があるにせよ友を殺してはいけない。それに夏美自身が殺人を犯す事もいけないと諭した。

だが夏美の目はもう曇りの無いもの、それはある種自らの思いを達成する為にはいかなる要因も寄せ付けない意固地な覚悟。つまり、マーチの言葉もまた、届かない。

 

 

「ごめんなさい、なおちゃん。私はもう決めたから」

 

「!」

 

 

マーチの手を払い、後ろに下がる夏美。その気迫と内に秘められた殺意、サニーは何か嫌な予感を感じる。

 

 

「夏美、アンタまさか――ッ」

 

「キバーラ!」

 

「!」

 

 

夏美の呼びかけに反応して姿を見せるキバーラ。

少し複雑そうな表情であったが、夏美の覚悟を読み取ったのか、何も言わずに夏美の手に収まった。

それはキバーラと言うべきか、変身アイテムとしてなのかは分からないが。

 

 

「変身!」

 

 

キバーラから魔皇力を受け取り、夏美は仮面ライダーキバーラへと変身する。

直後広げる光の翼、マーチが伸ばした手をすり抜けるようにキバーラは空に昇っていく。

 

 

「ごめんなさい、もう、私は皆と一緒にはいられない」

 

「夏美ちゃん――ッ!」

 

「ごめんねテトラちゃん。皆と一緒にいれて、楽しかったです」

 

 

それだけを言い残すとキバーラは一気に飛翔してハッピー達の前から消えてしまった。

すぐに追いかけようとする三人だが、直後また悲鳴が聞こえた。

一体今、何が起こっているのか? ハッピーは訳が分からず困惑するだけであった。

だが少し離れたところには首が引きちぎれた爺やの死体、すぐ側にはミークの死体が転がっている。この異常性こそが答えであると、三人はどこか察していたのかもしれない。

そしてそんな三人を空から見つめるのは、ディスクアニマル茜鷹。

 

 

「クヒヒヒ! ヒャハハハハハッ! イヒャハハハハッッ!!」

 

 

メモリガジェットやディスクアニマルが見た映像はリアルタイムでゼノン達に伝えられる。

リボルギャリー車内の壁に映し出された映像に、先ほどのハッピー達の映像があった。

それを見てゲラゲラとゼノンとフルーラは楽しそうに声を出して笑っている。

 

 

「聞いたかい? "私、何にも悪い事――ッ、してないのに!!" だってさぁ! ヒャハハハ! 馬鹿が! どう抗っても死ぬんだよお前はッッ!!」

 

 

司達の手にはミークを殺害した事を祝う為にシャンパンが入ったグラスが握られていた。

ゼノンは興奮を押さえる様にシャンパンを喉に流し込み、尚含み笑いを続ける。

さらにフルーラも同じようで、ミークが事切れる瞬間を思い出して笑っていた。

 

 

「死にたくなーい死にたくなーい! ヒヒヒヒハハ! ざぁんねぇん! 死にまぁす!!」

 

 

そしてギラリとゼノンとフルーラの瞳が司を捉えた。一番笑える台詞が夏美から放たれたのは記憶に新しい。

 

 

「あーあ、ディケイド。君を殺すってさ。嫌われちゃったねぇ」

 

「キバーラは本気よ? うふふ! 可笑しいわね!!」

 

「ハッ! 言ってくれるじゃねぇか、クソ雑魚が」

 

 

司はシャンパンを一気に飲みほすとグラスを放り投げて気だるそうに首を回す。

茜鷹は夏美の意思表明もしっかりと拾っていたようだ。しかし司は夏美の言葉を一蹴、下らないの一言で切り捨てる。

 

 

「上等だ。やれるモンならやってみろ! その前にテメェをブッ壊す!!」

 

 

壁を殴りつける司。笑みを浮かべているが、やはりその瞳の奥には殺意が見えた。

そんな彼等の前に手を振る人間が見える。緑の街を走るリボルギャリー、その中で見えた光景はまさに地獄絵図と言ってもいいかもしれない。

 

 

「助けてぇえ! 助けてくれぇえ!!」

 

「お願い止まって! 誰か助けて!!」

 

 

リボルギャリーに手を振る緑の国の住人達。

皆が皆血に染まっており、鬼気迫る表情はまさに藁をも掴む勢いであった。

リボルギャリーが何かも分からず、ただ希望の使者である事を望んで助けを求めている。

 

 

「どうしますディケイド様。止まってあげます?」

 

「茶番だ。ひき殺せ」

 

「オッケー! クヒヒヒ!!」

 

 

リボルギャリーはゼノンの意思で運転される。

司の命令どおりゼノンは手を振る人々を助ける為に止まるのではなく、終わらせる為に構わず直進を行う。

悲鳴ごと逃げ惑う人々を押し潰しながら、轢き飛ばしながらリボルギャリーは真っ赤な血に染まり緑の国を突き進む。

途中、『大ショッカーの戦闘員』も次々に轢き飛ばしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お逃げくださいカイ様――ッ! こ、この国は、も、もう!!」

 

「しっかりするんだ!!」

 

 

もう一つの惨劇。それは青の国で起こっているものであった。

突如王座の間に青の国の兵士が飛び込んでくる。ただ事ではないと言う事がすぐに分かった。

血まみれになっており、片目は潰されている。カイに伸ばした手、骨折しているのだろう、指はおかしな方向に折れ曲がっていた。

 

 

「どうした! 何があったんだい!?」

 

「ば、化け物――ッ! た、たみ――ッ、が!」

 

 

そこまでだった。糸が切れたように崩れ落ちて絶命する兵士。

見れば体には多くの刺し傷があった。ハッとした様に走り出すユウスケ、薫、化け物と言う事は間違いなく大ショッカーが絡んでいる筈。

故にその詳細を確かめるため、窓の外から街の様子を確認する事に。

 

 

「え?」

 

「……なに、これ」

 

 

予想はついた。大ショッカーの怪人が街の人を襲う。

その光景は以前にも見た事がある。だから覚悟はしていた。

しかしどうだ? いざ窓の外を見れば、そこにあったのはその覚悟を遥かに超える、理解できない景色であった。

 

 

「ァアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ガァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

悲鳴と怒号が交じり合っている。

逃げ惑う人々、そしてそれを追いかけるのは何と同じ人々であった。

槍を持った兵士は逃げる人を追いかけ、掴み上げると容赦なく背中に槍を突き刺していく。

それだけではない逆に包丁や壷を持って兵士に向っていく民達。それだけでも異質なのに、よく見ればそれだけに混乱は収まらない。

 

 

「ウガァア! ガァアア! アァァアア!!!」

 

 

年齢的にその女性が母親だろう事は分かった。

女性は息子であろう男の子の頭を掴み、何度も何度も地面に打ち付けていた。

地面に広がっていく血の痕、その内に男の子の頭蓋骨が崩壊し、脳みそや色々な物が飛び散っていた。

 

 

「ぎぎっぃいぃぃい!!」

 

 

母親の目は血走っていた。もはやそれは人の表情ではない。

母親は息子の眼球を踏み潰しながら走り出し、適当に見つけた他の住人と殴り合いを開始する。

おかしい、異質だ、どうなっている? 見えた景色をありのままに受け入れるならば、青の国の住人同士が殺し合っている。

どこを見ても大ショッカーの姿は全く無かった。

 

 

「な、なんだよコレ!」

 

「メイ……! こ、これは一体!?」

 

「わ、分からないわ。何がどうなって――!」

 

 

レイジ、カイ、メイの三人も窓の外の景色を確認する。考えるのであれば反乱や一揆の類であろうか?

しかし住人達は獣の様な声を上げて無差別に暴れまわっている様にしか見えなかった。

何か主張する訳でもない、それにカイ達は慕われる王であった、何か住人達に不満があったとも思えないのだ。

では何故? 全く意味が分からない。しいて言うならば何か、靄と言うべきなのか、景色が紫に霞んでいる様な?

 

 

「!」

 

 

すると空に稲妻が。そして更なる脅威が一同の前に。

 

 

「なによ……アレ」

 

 

ポツリと、薫が呟いた。

誰もが言葉を失う中、稲妻の中から巨人が現れたのだ。

 

 

「なッッ!!」

 

 

一瞬だった。

稲妻が迸ったかと思うと、巨人、つまり文字通り巨大な人が姿を見せた。

いや人と言うにはその姿は異形が過ぎる。膨らんだ胸、整った顔に青い瞳、女性型の体は一見すれば女神とも言えようか?

だがしかし角ばった鎧、伸びた手足の先、その爪はあまりにも鋭く、さらに両肩には長く反った角が生えていた。その禍々しさ、まさに魔神と言えよう。

パッと見ても40メートル程はあろうか? 巨大な魔神は眼下にて争い合う人々を瞳に映し、直後、ニヤリと歪に笑う。

そして次に目線の先にある窓、王城、そこにいるだろうカイを見た。

 

 

『聴くが良い。脳に刻め、我が名は魔神。魔神・エノメナなり』

 

「エノ……メナ……?」

 

 

その時、エノメナの肩にある角が光、紫色の光が放出された。

霧の様にジワリと広がっていく光の粒子達。するとそれに触れた人々はより叫びをあげて争い合う。

ユウスケ達はすぐに理解できた、この混乱はエノメナが引き起こしているのだと。

 

 

『我が発狂電磁波が齎す光景の美しさ、ご覧にあられたか?』

 

「何……!」

 

『脳内に作り出される恐怖ホルモンが、殺人衝動を引き起こし、脳のあらゆる部分を破壊し尽くす』

 

 

電磁波に触れればたとえ愛に溢れた親子でさえ殺し合う。

それはユウスケ達も見ていた所だ。今もほら、誰かが誰かを殴り、刺し、蹴り殺す。

相手がいなくなれば街の物を少しでも破壊しようと試みる。壁に打ち付ける手、たとえ砕かれようとも傷つける為に手は止めない。

すぐに街の中は血の匂いで埋まっていく。エノメナはその中で深く息を吸い、恍惚の表情を浮べた。

 

 

『素晴らしい。人が人の手で人を殺す。これ程心躍る光景は無い』

 

 

エノメナは笑い声を上げて、直後本題に入った。

何も、用件も無しにココに来たりはしないのだから。

 

 

『我は黄の国の守り神よ』

 

「黄の国――ッ、リンネ王女の!」

 

『その通り。王女は今、支配を望んでいる』

 

 

これは挨拶にしか過ぎないとエノメナは言った。

リンネは欲しいのだ、この国が。そして最も分かり易く国を手に入れる方法は支配だ。

力を見せ付ける事は圧倒的な権力の誇示となる。

 

 

『お前達は最早、リンネ王女の玩具でしかない。これより始まるのは黄の国の独裁。貴様らは王女の言う様に生き、王女の暇を潰す為に死ね』

 

「馬鹿な事を――!!」

 

 

しかし既に賽は投げられた。エノメナもそれは知っている事。

 

 

『既に緑の国は我らが手中に落ちた』

 

「緑の国が?」

 

『その通りだメイ。まもなくミークは死に、あの国は黄の国になる』

 

「なん――ッ、ですって!?」

 

『信じられぬか? ソレも良い。だが見よ、既に貴様らの国はいとも簡単に崩壊の戦慄を奏でている』

 

 

悲鳴が響き、血は溢れ、死体の山が出来上がっている。

既に何人死んだ? 三十、四十? いや、百はある。

 

 

『理解せよ、コレは始まりにしか過ぎない』

 

 

投降もない、降伏もない、何故ならば既に運命が決まっているからだ。

青の国はこれより人が住む場所では無くなる。リンネ王女が遊ぶ、玩具箱になるのだ。

 

 

『抵抗すれば、より滅びが早まるだけだぞ』

 

 

例えばこの様に。

エノメナは額から光弾を発射、眼下にあった民家を一つ消し炭に変えてみせる。

中に人はいただろうか? きっと居ただろう、外の景色が怖くて隠れていたに違いない。しかしもう消し飛んだ、人がいたかは分からない。

 

 

『お前達はこれより、絶望の日々を送るのだ』

 

 

足を踏み出すエノメナ。

巨大な彼女が一歩足を出すと言う事の意味。振動が走り、地面がゆれ、そして多くの悲鳴が聞こえた。

ユウスケ達が引きつった表情を浮べる中、エノメナはゆっくりと足を上げる。すると分かり切っていた事だが、足裏には多くの血がベットリと張り付いている。

 

 

『クハハハハハハ!』

 

「――の野郎! 許せねぇ!!」『Beginning plavsky particle dispersal』

 

 

ガンプラとGPベースを取り出すレイジ。

Gゲートをセットし、アプリ、リアルブートを起動させる。

ベルトにあったホルダーからガンプラを取り出し、ゲートにセット、そして何の躊躇も無く窓を蹴って宙に飛んだ。

 

 

「来い! ビギニングガンダム!!」『BATTELE START』

 

 

メテオール、プラフスキー粒子が齎す奇跡。

飛び出したガンプラはワイヤーフレームとなり巨大化、落下するレイジを包み込むと具現し、文字通り玩具が本物に変わる。

ビギニングは空中で体勢を変えるとそのまま飛行、ビームライフルを抜いて乱射しながらエノメナとの距離を詰める。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

レイジは現在ガンプラと融合しているが、コックピットは従来のガンプラバトルと変わりは無い。

六角形の空間にて丸い球体をコントローラーとして従来の操作方法でガンプラを動かしていく。

玩具とは言えどプラフスキー粒子とガンプラの完成度で強度は決定し、実際のところ現在のビギニングは正真正銘の兵器と変わりなかった。

 

 

『!』

 

 

体から火花が散り、エノメナはそこでビギニングの存在を確認する。

感心した様に笑みを浮かべるエノメナ。距離が近いと言うのにどうやらレイジは発狂電磁波の影響を受けていないらしい。

それはコックピットが電磁波を遮断してくれている事、レイジ自身の意思が強い事、理由は様々だがビギニングはエノメナに対抗できるだけの力はある様だ。

しかし悲しいかな、サイズが全てだった。ビームライフルが与えたダメージはあまりにも微々たる物。エノメナには一切の焦りは浮かばない。

 

 

「くそッ! コレ、サイズは何とかなんねーのかよ!!」

 

 

現在のビギニングのサイズはレイジに合わせてあり、つまりは等身大と言う事だ。

レイジも詳しくは無いが、ガンダムと言うのは個々の差はあれど、ビギニングガンダムに関しては約19メートル程はあったと記憶している。

どうやらサイズに合わせて武器の威力も比例しており、今のままではエノメナに勝つのは難しかった。

 

 

「チッ!!」

 

 

額から発射されていく光弾を次々に交わしながらライフルやバルカンを発射するものの、エノメナは僅かに怯むだけで倒せる見込みは全く無かった。

一方で加勢しようと変身したユウスケもまったく同じだった。クウガの力をどう使えばエノメナを倒せるのかが全く分からない。

とりあえずは超変身、ペガサスフォームになり思い切りボウガンを振り絞る。

 

 

「ブラスト――ッ!」『ペガサス!!』

 

 

窓から放つ必殺技。そう、仮にも多くの怪人を倒してきた必殺技だ。

しかし圧縮された風の矢はエノメナの肩に命中するも、僅かに反応されただけで、浮かび上がった紋章もすぐにかき消された。

 

 

「ッ、駄目だ! レベルが違う!」

 

 

そう、エノメナはもう怪人と言うレベルでは収まらない。文字通り『神』クラスの存在なのだ。

人と同じサイズであるクウガでは太刀打ちができない。それはビギニングも同じであった。

戦えるとは言え、本物とほぼ変わらないとは言え、やはりガンダムではなくガンプラの限界とでも言えばいいのか? エノメナを苦戦させるには至れていない。

そしてそれを一番感じているのはエノメナ自身か、彼女は両手を広げると、大きく唇を釣り上げる。

 

 

『我が力は――、我が黄の国は絶対だ!』

 

 

まもなく世界は絶望と狂気で埋め尽くされる。

それは紛れもない、リンネが望む事であり、世界を揺るがす意思となるだろう。

 

 

『貴様らに希望は無い。これより恐怖の政治が始まる。世界はリンネが望むとおり動き出す、さあまもなくだ、せめてその時が来るまで、震えていろ!』

 

 

右手を上げるエノメナ、電撃が走り一瞬にして彼女の姿は消え去った。

それはあまりにも一瞬。ビギニング達は何が起こったのか分からなかった程だ。

電磁波の影響も消え去ったのか、街の人達は次々に気を失い、あたりには静寂が包まれた。

 

 

「ちくしょうッッ!!」

 

 

ビギニングは地面に着地すると、融合を解除してレイジに戻る。

辺りを確認するとあるのは死体ばかり。レイジは舌打ちを零すと、頭をかいて走り出す。

一方城ではカイが残った兵達に命令を下している所だった。助けられる者は助ける様にとの事だが、おそらく希望は薄いだろう。

そして問題はそこではない。エノメナだ。彼女を言葉を信じるなら、かろうじて均衡を保っていた三国の関係が崩壊を迎える事となる。

王座の間ではメイとカイが慌しく今後の状況を確認しており、その中でユウスケが声を上げる。

 

 

「ッ、カイさん。兄貴がついたんだ」

 

「あぁ、うん。通してもらって!」

 

 

ココで翼が到着。

どうやら馬車の中からエノメナの姿は確認しており、戻ってきたレイジを踏まえて緊急会議が始まった。

時間は丁度正午、太陽が輝く空は尚濁っている。広い王座の間にはレイジ、ユウスケ、薫、翼、メイ、カイの六人だけ。

それは今から始まる話が一国家の問題ではなく、また、常識を激しく逸脱しているからである。ただの国同士が今から戦争を始めると言う単純な話ではないのだから。

 

 

「あの化け物は一体なんなんだ?」

 

 

まず初めに口を開いたのはレイジだった。

エノメナは力を示す事が最も簡単な支配の方法である事を説いた。

つまり以後始まる脅威を退けるにはエノメナを、黄の国を倒す必要があると言う事だ。

エノメナはその力にて話し合いを一切持たず、いきなり青の国の民を殺すと言う手段をとった。

それが答えだった、もう話し合いでは解決しないだろう。であるならば答えは一つだ、今はまだ誰も口にはしていなかったが、少なくともレイジは『戦う』と言う意向だった。

 

 

「僕は、あんな物を見た事は無い」

 

「私もよ」

 

 

カイとメイは口を揃えて答えた。

エノメナは明らかに人間ではなかった、彼女自身も自ら魔神であると、つまりは神の類である事を口にしている。

人ならざる異形、カイは全く心当たりが無かったのだ。

 

 

「となると、やはり、外から来たと考えるのが妥当でしょうか」

 

 

翼がメガネを整えながら意見を挟む。

一通りの事情は既に話したので、翼はそれを踏まえて自らの意見を口にする。

エノメナはおそらく元々この世界にいた者ではないと、ただでさえ大ショッカーの姿が確認されている今、それは想像に難しくは無かった。

ただそうなると気になるのは見たところ、エノメナには金色の大鷲が確認できなかった事だ。もちろん全ての大ショッカー怪人が金色の大鷲を分かり易い所に刻んでいる訳ではないが、その点に関しても翼には引っかかる部分があった。

 

 

「もしかすると、エノメナは大ショッカーではないのかもしれない」

 

「どういう事だよ兄貴」

 

 

今までは何かがあれば大ショッカーと言う明確な敵の形を見る事ができた。

しかし今回、ミライやレイジなど、仮面ライダーと言うカテゴリを超えて多くの戦士が終結している。

つまりそれだけ敵にも同じことが言える筈。おそらくミライが言っていた侵略者か、或いは他の世界からの邪悪なる存在なのか。

いずれにせよ分かっている事は一つ、エノメナは自らが黄の国の使者である事をほのめかしていた。そのままの意味で受け取るなら、エノメナは黄の国側だと言う事だ。

大ショッカーもまた黄の国にて活動を行っていた。つまり向こう側は同盟を組んでいる可能性が高いと言う事。

 

 

「……カイ」

 

 

メイがカイの肩に触れる。

大きくため息をついて頭を抑えるカイ。どうすればいいかは、先ほどレイジが示したとおりだろう。

しかし気が進まないのは事実であった。もちろん自国の民はカイにとって何よりもかけがえの無い宝と言っても良い。

それを悪戯に奪われたのだから許せるわけがない。しかし、だからと言って――

 

 

「黄の国は、いつからおかしくなってしまったのか」

 

 

カイは王座の後ろにあった幕を開く。すると一枚の絵画が姿を見せた。

それは満面の笑みを浮かべているミーク、落ち着いた表情で微笑んでいるカイ、そして無表情のリンネであった。

それぞれ幼少時、時期国王として集まったときに描いて貰ったものだ。それが今となっては、悲しみの産物でしかない。

 

 

「翼さん。大ショッカーがリンネちゃんを操っていると言う可能性は――?」

 

「それはもちろん、可能性としては――」

 

「いえ、初めからよ。分かってるでしょ? 貴方なら……」

 

 

メイは拳を握り締め、悔しげな表情で絵画を睨んでいた。

カイはその言葉を聞いてもう一度ため息をつく。そうだ、分かっていた。黄の国は元々おかしかった。

先代国王でさえ、リンネでさえ、強迫観念の様に自らの邪魔となる者を排除していき、その先に、何を見ようと言うのか。

それはメイも分かっている事だ。

 

 

「私は元々黄の国の生まれだったわ」

 

「え? そうなんですか?」

 

「ええ、でも父は殺された。幼いリンネに反抗的な態度を取ったと言いがかりをつけられ」

 

 

そして家族も連帯責任とされた。悪しき血は絶やさねばならないと言う意味不明なルールに巻き込まれて。

メイの母はそれを知り、幼いメイを連れて逃げようと試みた。しかし失敗し、メイの母はメイの目の前で串刺しにされて死んだ。

そしていざメイが殺されようとした時、たまたま黄の国に来ていたカイが彼女を助けたのだ。そしてメイは青の国に住む事になり、剣士となってカイに仕えていると言う訳だ。

 

 

「生まれ、少し住んでいたからこそ分かるわ」

 

 

メイは目を細め、絵に映っているリンネを激しく睨みつけた。

 

 

「あの国は腐ってるわ。今まではカイやミークが優しかったから何とか均衡は保てたけれど」

 

「……ッ、そう言えばミークは――」

 

 

丁度そこで翼、ユウスケ、薫の携帯が振動した。

この電話と言う概念の無い世界で携帯が振動すると言う事は仲間の中の誰かからの連絡、それも同時に連絡が入ったと言う事は一勢送信のメールであろう。

大事な用件かもしれない。少し申し訳なかったが、翼は断りを入れてメールの内容を確認する事に。

 

 

「え?」

 

 

翼の手が震え始める。

常に冷静であろうとする彼が大きく動揺しているとは、ユウスケ達も良い予感はしなかったが各々で送られたメールを確認した。

するとそこには、ある意味、最も知りたくなかった情報が記載されていた。

 

 

「か、カイさん」

 

「?」

 

「彼女の名は――?」

 

 

翼が指差したのは絵画の中で笑みを浮かべている緑の髪の少女。つまり緑の国のトップだと言う事だ。

 

 

「ミーク、だけど」

 

「ッ! で、では――」

 

 

翼は書かれている事を要約してカイ達に告げる。

まずは最も大きな一点。

 

 

「ミークさんが、死にました」

 

「!!」

 

「そして緑の国も、崩壊の状態であると……!」

 

「そんな!!」

 

 

そして何より――

 

 

「司が、殺した――ッ!?」

 

 

ユウスケの鬼気迫る表情を見て思わずレイジも息を呑む。

変わってしまったユウスケの親友。当たり前だが時間が経てばそれだけ司も行動が出来ると言う事だ。

司が変わってしまった、そのせいで生まれた被害者がまた増えた。薫は信じられないと言った表情で言葉を失い、ユウスケは複雑な表情に体を震わせる。

そして驚くべきは、そのメールの続きである。

 

 

『私は、司くんを殺します。もう決めました、もう迷いません』

 

「夏美ッ」

 

 

メールを出したのは夏美だった。

薫はすぐに真意を確かめるために電話をかけるが、どうやら電源を切っているのか繋がらない状態だった。

書いてあった事を要約すると、司がミークを殺害、夏美は司を殺す事を決意。そしてその途中、夏美は緑の国が混乱に陥れられている事を知る。

民が民を殺す、その様は先ほどの青の国と同じであった。緑の国にもエノメナが? それは分からないが、ユウスケ達からしてみればそれ所では無かった。

 

 

「大変だ! 夏美ちゃんを止めないと!!」

 

「え、ええ! 行きましょうユウスケ!」

 

「ちょ、ちょっと待つんだ二人とも!!」

 

 

夏美が司を殺すなんてあってはならない、ユウスケと薫は夏美を見つける為に走り出すが、それを止めたのは翼だった。

確かに気持ちは分かる、翼とて止めたい所ではあった。しかしだからと言って考えも無しに動くのは賢い判断とは言えない。

 

 

「キバーラは飛べるんだ。バイクの無い今の私達じゃ彼女には追いつけないよ」

 

「だ、だったらどうすれば!!」

 

「………」

 

 

緑の国もまた混乱状態であると。

それはまず間違いなく外的な邪悪、つまり大ショッカーかエノメナの仕業だと言う事だ。

そしてその二組は手を組んでいると思って間違いない。司がミークを殺したのは謎だが。或いは、司たちもまた大ショッカーと手を組んでいる可能性が?

いや、いずれにせよ、全ての答えは黄の国にあると思えば良い。大ショッカーは倒さなければならない相手だ。それに青の国としてもただ滅びを待つだけとは行くまい。

 

 

「我々が一箇所に集まれば、自ずと夏美ちゃん達も引き寄せられるだろう」

 

 

もちろんそれは司達もだ。

翼の視線にカイはいまだに複雑そうな表情であるものの、立ち上がる。

 

 

「仕方ない。できれば、こうなる前にもっと僕が勇気を出すべきだった」

 

 

他国の事情は他国の事情と目を逸らした結果がコレならば、哀れな王であろう。

しかしだからこそ、もう迷って入られないのだ。過去の絆などと言う甘い事を思っているうちにミークが死んだなら、それは他ならぬカイ自身の責任だと。

 

 

「今分かった。いかなる事情があれ、よもやリンネ王女は人にあらず」

 

 

ではどうすればいいのか? 悲しい答えをカイは叫んだ。

 

 

「コチラの国が滅びる前に、黄の国を潰す!」

 

 

つまり戦争だ。暴君を静める為に、死の制裁を。

最も取りたくない選択肢。複雑そうに虚空を睨むレイジと翼、ユウスケと薫も不安げに表情を曇らせる事しかできなかった。

 

 

「メイ、残っている兵を集めてくれ。今から出撃する!」

 

「ええ、分かったわ。ついにこの時が来たのね」

 

「ああ、憎しみ、憎悪、恐怖、全てを終わらせる!」

 

 

コレが司の望んだ事なのだろうか? ユウスケの脳にまた疑問と不和が巻き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハクア、お前、何をジロジロ見てんだ」

 

「死んでないかと思って……」

 

 

緑の国の端の端にある小さな湖畔。

そこにある小屋で、白の娘ハクアはジッとベッドに横たわっているミライを見ていた。川で気絶している彼を自分達住んでいる場所に運んだのだ。

一方で白の男、アデルはタバコをふかしながら、気だるそうな表情で鼻を鳴らす。

 

 

「大丈夫だ。胸が動いてるだろ? 呼吸をしてる証拠だ。顔色も良い、だからジロジロ見るのは止めろ」

 

「うん。分かったわ……」

 

 

離れるハクア、アデルはイライラした様に足を動かしている。

 

 

「どうして怒ってるの……?」

 

「いや、別に――」

 

「……嘘」

 

 

何かを言いたげな表情でチラチラとアデルを見るハクア。

どうやら気が弱い様で、言いたい事が言えない性格らしい。一方でタバコの火を消すアデル、彼はそういうウジウジとしたのが嫌いらしい。

 

 

「言えよ。イラつくぜ」

 

「じゃあ、怒らないって、約束……」

 

「チッ、いちいちお前は――」

 

「嫉妬、とか……」

 

「――は?」

 

 

自分で言って恥ずかしくなったのか、ハクアは頬を紅く染めてミライの額に置いていてた濡れタオルを交換し始める。

やや病的に白い肌だからこそ変化はすぐに分かる。アデルは一瞬ポカンとしていたが、立ち上がると、タオルに手を掛けていたハクアの腕を掴む。

 

 

「そうだ、ムカつくんだよ。あんまり他の男を見るな」

 

「え……!」

 

「お前は、オレだけを見てろ」

 

 

肩を持ち瞳を見つめる。ハクアはますます真っ赤になり、持っていたタオルを床に落とした。

 

 

「依存、してる……」

 

「いいじゃねぇか。それで、お前は嫌か?」

 

「別に、嫌って訳じゃ……」

 

「じゃ、ヤラせろ」

 

「へ?」

 

 

衝撃、ハクアは床に倒れ、アデルは彼女を押し倒す形で床に手をつくと、スカートに手を掛けてめくり上げる形に。

大きく露出されるハクアの美しい脚、比例してトマトの様にハクアの表情は変わっていく。

 

 

「ちょっと、待っ! 人がいるのに、こんな場所で……! しかも、鳥さんだって――!」

 

「いいじゃねぇか、オレはそっちの方が燃えるけど」

 

「そういう問題じゃ――」

 

 

面倒なのでアデルはハクアの口を自分の唇でふさいだ。

驚いた様にしていたハクアも、折れたのかトロンとした目でアデルの目を見ている。赤い瞳が重なり合い、二人はよりその距離を――

 

 

「あの、お邪魔でしたら、俺ぇ外に出てますけど……」

 

「「!!」」

 

 

バッと一瞬で離れるアデルとハクア、二人の視線を受けて気まずそうにミライは頭をかいた。

どうやら騒ぎが脳を覚醒させ、目覚めを促したらしい。ハクアは唇をかんで前髪を整え、スカートを元に戻す。

一方アデルはため息をつくと新しいタバコを取り出して蝋燭で火をつけた。

 

 

「起きたんだな。気分はどうだ?」

 

「ええ、ありがとうございます。だいぶ楽になりました」

 

「なら良い。お前の服とか持ち物はそこに置いておいたから」

 

 

現在ミライはアデルが着せた麻の服に着替えている。

部屋の隅にはエルピスや元々着ていた防衛軍HOPEの制服がある。ミライはお礼を言うと早速オレンジを基調にした制服に着替える事に。

ハクアは後ろを向いて、ふとその制服に触れる。

 

 

「凄いですね、その服、濡れてたのに、すぐに乾いて……」

 

「ええ、特殊な素材なんです」

 

「高いだろうに。お前、貴族か?」

 

「いや――ッ、少し、離れた所から来たんです」

 

 

異世界からの訪問者とは言えまい。

ミライは曖昧に誤魔化すと着替えを終わらせる。取りあえず野犬に襲われて川に落ちてしまったと言う事にしておいた。

ハクア達も特に詮索する気は無いのか、納得してくれたようだ。

 

 

「お二人はご夫婦ですか?」

 

「まあ、そんなモンだ」

 

 

しかし、ふいに煙を吐くアデル。

 

 

「いや、そんな良いもんじゃねぇか」

 

「?」

 

 

視線を下に落として複雑そうな表情を浮べるハクア。

どうやら何か、二人には事情があるらしい。何でも、緑の国に生まれる者は皆緑色の髪をして生まれるとか。

しかし二人はその例ではなかった。白い髪、赤い瞳、それらは過去『亜人』といわれて差別の対象にされてきた。

ハクアとアデルも例外ではなく、親からは忌み子と捨てられ、施設(教会)に入ってからも差別やいじめは受けていた。二人はそこで知り合い、互いを慰めあって来たのだ。

 

 

「白の子は珍しい話じゃないが、最近はオレ達しかいなかったらしい」

 

「私達は奇形児だったのよ……」

 

「そんな事は――」

 

 

まあ、この世界にはこの世界の事情が色々とあるのだろう。

二人にはそれだけの苦労があったに違いない。それを簡単に否定する資格は無いか、ミライは思わず口を閉じる。

いや、しかしだからと言ってだ、塞ぎ込む必要がどこにある。

 

 

「人の価値は心です。そりゃあ見た目も大事かもしれませんが、お二人は俺を助けてくれました」

 

 

その優しさはゆるぎない価値ではないか。少なくともミライにはハクア達を嫌う理由は何一つ無い。

 

 

「むしろ、俺は緑の国で貴方達が一番好きですよ」

 

「フフ、ありがとう……」

 

「そりゃ光栄だね」

 

 

呆れたように笑うハクアたちだが悪い気はしていなかった。

ふと表情を変えるミライ、そう言えばココは緑の国なのだ。彼は今までの事を思い出してフムと唸る。

外を見れば明るい、つまり朝、もしくは昼であると言う事。はやく翼達と合流しなければと思う中で、あの蛾が思い出される。

 

 

(あれは、普通じゃなかった)

 

 

ミライの中にあるウルトラマンの――、光の力がガリガリと削られる感覚。

あれほどの異質なダメージを受けたのは初めてだった。言うなれば天敵とでも言うのか、弱点を突かれた様などうしようもない力。

ミライは光の力が身に宿っている。と言う事は、アレは『闇』。

 

 

(何か、嫌な予感がする……)

 

 

そもそもこの世界自体がミライにはどこか息が詰まる様な感覚があった。

それが関係しているのだろうか? 気になる点は多い。

すると鈍い光が。ミライが視線を反射的に移すと、そこには鳥かごが。

 

 

『光の力を感じるわ』

 

「え!」

 

 

鳥かごの中にぼんやりと浮かび上がる光の球体。

そこには小さな翼があり、ミライの脳にフラッシュバックするのはディケイドの近くにいた『カラス』と呼ばれる存在だった。

 

 

「なッ!」

 

「驚いた? 私達も、初めは凄く、びっくりした……」

 

「聞いた事無いよな喋る鳥なんて。でも安心しろ、無害なモンだ」

 

 

鳥かごの中にいた黄色い球体、それは『カナリア』と言らしい。

再びミライの脳にフラッシュバックする光景。あの時、ディケイドと戦った時、カラスは確かに言っていた気がする。

 

 

『今は捨て置いても構わないだろう。我々にはカナリアを見つけると言う第一目的がある』

 

 

そう、カナリアを見つける。つまり向こうは彼女を知っている?

いやそれが狙いであると言う事はこの一連の事件にカナリアが深く関係していると言う事ではないか。

ミライは前のめりになりながらカナリアの前に行くと、鳥かごを掴んで声を荒げる。

 

 

「お、教えてください! 貴女はなんなんですか!? カラスを知っていますか!?」

 

「おいおい……! どうした?」

 

「あ――、えっと、実は――」

 

 

アデルとハクアにそれとなく今までの事情を説明するミライ。

知り合いがおかしくなってしまい、その周りにはカラスと呼ばれるカナリアに似た鳥が浮遊していたと。

なるほどそれは気になる所だ。アデル達も沈黙し、カナリアの言葉を待った。

そもそもアデル達はミライ同様に家の近くで倒れていたカナリアを保護しただけに過ぎない。カナリアが何者なのかは全く知らなかったのだ。

 

 

『カラス……、覚えています』

 

「!」

 

『私もまだ、記憶がおかしい。けれど、カラスは破壊の使者である事は、覚えているわ』

 

 

どうやらカナリアは記憶の一部が抜け落ちているらしく、自分が何者なのかをハッキリとは説明できないらしい。

 

 

「破壊の使者?」

 

『多くの文明を終焉に導いた悪魔。私は守ろうとした、けれど、できなかった』

 

 

カラスは多くの世界を終わらせてきた。

悲しみを生み、憎しみを生み、恐ろしい存在であるとカナリアは語る。怖い、恐ろしい、けれどもカナリアは使命があると。

 

 

『彼は絶望を謳い。私は希望を謳う』

 

「絶望――ッ。つまり司が変わってしまったのは、カラスが原因ですか?」

 

『おそらくそうでしょう。彼は、悪魔、恐ろしい、悲しい存在』

 

 

なんて事だ、やはり司達は操られていたとでも言うのか?

ミライの中に言い様の怒りが巻き上がる。カラスのせいで、どれだけの人間が悲しんだか。

しかし、であるなら、カナリアが居れば司を元に戻せるのではないだろうか?

 

 

『それは、分からないわ。私ができるのはただ語りかけるだけ。手を握るだけ』

 

「しかし可能性はあるんですよね!?」

 

『ええ、きっと』

 

 

安堵の笑みを浮かべるミライ。泥沼の様な状況から抜け出せる希望が見つかったかもしれない。

 

 

「一緒に来てくれませんか? カナリアさん!」

 

『ええ。カラスがいるのなら、私も、戦わなければならない』

 

「ありがとうございます!! ハクアさん、アデルさん、カナリアさんをお借りしてもいいですか!?」

 

「うん……、なんだかよく分からないけど」

 

「あ、ああ。オレは別に構わないぜ」

 

 

ハクア達もこれほどまで饒舌に話すカナリアは珍しいと。

拾った時は衰弱しており、話こそできたが、ハクア達も踏み込まないスタンスの為、どういう存在であるかは分からなかった。

しかしまさか希望や絶望がどうのこうのと絡んでくるとは。

 

 

「取りあえず、ミークさんには伝える……?」

 

「ああ、それがいいかもな」

 

「ミークさん?」

 

「ええ。この緑の国で一番偉い女の子……」

 

「オレ達の味方だった」

 

 

 

差別で苦しんでいるハクア達に手を差し伸べたのはミークだった。

迫害する民を叱り、ハクア達に洋服や住む場所を与えてくれた。

後者に関してはハクアたちから辞退し、この人の少ない湖の小屋を選んだのだが。

それでも二人はミークには感謝している。この緑の国で唯一の友人と言ってもいいかもしれない。それほどまでに良い娘なのだと、ハクアは少し嬉しそうに語っていた。

 

 

「お歌が、凄く上手なのよ……」

 

「何か力になってくれるかもしれねぇぜ」

 

「そうですか、じゃあミークさんに会いに行き――」

 

 

その時、何か、人の唸り声の様な物が聞こえた。

叫びの様な悲鳴の様な。ミライは沈黙し、耳を澄ませる。アデル達も聞こえたのか? 怪訝そうな表情で虚空を睨んだ。

 

 

「なんだ?」

 

「静かに――ッ!」

 

 

声は次第に大きくなっていく。なんだ? 言い様のない気持ち悪さは。

人が出す声にしては、あまりにも知性を感じない。まるで獣がひり出す様な唸り声。ハクアは不安げな表情を浮かべ、アデルは彼女を庇う様に前に立つ。

そして直後、小屋のドアに響く音。

 

 

「!!」

 

 

ダンッ! と音がしたと思えば、ドアを突き破って刃が姿を見せた。

赤黒く変色したのは血がベットリとこべりついているからだ。その刃の形、間違いなく斧であると言う事が分かる。

なんだ? 目を細める一同。斧は一度ドアから離れたが、直後すぐに再び振り下ろされ、大きくドアを破壊していく。

 

 

「ッ!?」

 

「下がって! 危ない!」

 

 

鳥かごを持って後ろへ下がるハクアとアデル。一方でミライは一歩前に出た。

木製のドアは脆く、斧の攻撃を何度も受ければ当然破壊される。木片が散り、小屋の姿を見せたのは想像を絶する者であった。

 

 

「ヒッ!!」

 

 

思わず、恐怖で引きつるハクア。アデルも呆然と来訪者の姿を見ていた。

異常だ、ミライもまた感じる恐怖。小屋の中に入って来たのは恰幅の良い男性だった。

しかし目の焦点は合っておらず、服は血に塗れている。何より目につくのは片手に持っていた斧と、もう一方の手には人間の生首が三つほど握られていた。

どれも頭部の損壊が酷く、中には顔の半分がそぎ落とされている者や、斧の一撃で脳みそが垂れ流されている物がある。男は髪を掴んで三つの首をぶら下げており、その猟奇性にハクアは思わずへたり込んで嗚咽を漏らす。

 

 

「ぐゅぅぅぅぅうッ! ガァアアァァァ!!」

 

 

泡を吹きながら人の言葉ではない叫びを上げる男。

そしてなんの話し合いも無しに斧を振り上げミライを狙った。

獣だ、殺意しか感じない、ミライはメビウスブレスを出現させると光のシールドを展開、男の斧を受けとめてみせる。

 

 

「なッ!」

 

 

驚くアデルの声を背後に、ミライは男に説得を試みる。

止めてくれ、攻撃をしないでくれ、説得は確かに男の耳に入ったはずだ。

しかし聞こえるのは相変わらず呻き声と叫び声。もはや男が正気では無い事は明白だった。

歯を食いしばるミライ。シールドを展開したまま男に突進。小屋の外に男を押し出すと、怪獣ボールをエルピスに装填して引き金を引いた。

 

 

「来てくれ! ガンQ!」『REALIZE』

 

 

ミライの前に出現したのは巨大な目を持った怪獣ガンQ。

その激しい眼力にてサイコキネシスが発動、男の動きを封じ、かつ解析を開始する。

結果はミライが持っていたエルピスに表示され、そこで何が男に起こっているのかが分かった。

 

 

「脳に異常が出ている……!」

 

 

洗脳ではなく変化か。何か外的な要因が加わり、男を殺人マシーンに変えてしまったのだ。

ミライはガンQに指示を出し、衝撃波を発生させる。吹き飛び気絶する男、これで一応この場は何とかなったか。

 

 

「ありがとうガンQ。助かったよ」

 

「クヒュヒュヒュヒュ!」『VARNISH』

 

 

ガンQを撫でるとニッコリと笑顔を浮かべて消滅した。

小屋から出てきたアデル達はその光景を見て唖然としている。

無理も無い、シールドを張ったミライや、怪獣のガンQは初めて見る物であろうて。

 

 

「オレは夢を見てるのか……?」

 

「この世界は今、未知の脅威に晒されています。俺はきっと、それを止める為にココに来たんでしょう」

 

 

言葉を話す鳥カナリアや、未知の力を操るミライ、アデル達もこの世界に異常事態が起こっている事は理解できた。

しかしそうなると不安が。それはやはりこの世界にいる唯一の友人の事であろう。

 

 

「ミークさん……!」

 

「ッ、そうだ、ミークが危ない!!」

 

 

おかしくなったのがあの男だけと言う可能性は低いか。

なにより、男の髪の色は緑色であった。であるならば緑の国に異常事態が起こっている事は明らかだ。

ミークが危ない、ミライ達は早速ミークの屋敷に向う事に。おそらくは危険が待っている。

本当はハクア達を巻き込む事は避けたかったが、守るならば身近だ。結局ミライは二人を連れて行く事に。エスポワールは一人乗り、であれば――

 

 

「頼む、アギラ!!」『REALIZE』

 

 

アギラの背にカナリアが入った鳥かごを持つハクアとアデルを乗せ、ミライはメビウスに変身。飛行して屋敷を目指す事に。

 

 

「お前は一体……」

 

「俺はウルトラマン。人間の味方です!」

 

 

アデルとハクアは顔を見合わせる。

とんでもない事に巻き込まれてしまったと思う反面、ミライと言う人間をこの短時間ではあるが信じてみようと言う事にした。

アギラは走り出し、メビウスも追従する形で低空飛行を行う。

ハクアの指示でアギラは緑の国を駆けるのだが、街に出ると、そこには地獄が広がっていた。

 

 

『なんて事だ……!!』

 

 

殺人衝動に駆られた人間達が人間を殺す。街には悲鳴が木霊し、道を見ればそこら中に血や死体があった。

駄目だ、こんな事は駄目なんだ。メビウスはアギラに指示を出し、取り合えずは見かけた者は冷気で凍らせて動きを封じる。

フリーズアウト、人体には無害な冷気の為、凍傷や凍死する事は無い。次々に凍らせ、一同は猛スピードでミークの屋敷を目指した。

 

 

「なっ!」

 

 

しかし黒煙。いやな予感はしていたが、近づけば予想通りミークの屋敷は炎に包まれていた。

業火は既に屋敷を包み込んでおり、とてもじゃないが中に生存者がいるとは思えなかった。

屋敷の周りには食い散らかされたように四散している死体が多い。思わず目を背けるハクア。

 

 

「ミークは……?」

 

『も、もしかしたら、既に避難している可能性もあります』

 

 

取りあえず屋敷の付近を散策する事に。

不安だ、どうか無事でいて欲しい。ハクア達はもちろんだが、何よりその緊張はメビウスが持つものだった。

彼は今大きく動揺している。ウルトラマンの力を手にし、彼は人を守る為に戦ってきた。周りの助けもあり、今までは被害も少なく、その目標は達成されてきた。

しかし今はどうだ? 周りを見れば死体、死体、死体。殺しまわる人間も凍らせると言う一時的な方法でしか対処できず、瀕死の状態の人間を助ける事もできない。

ああ、無力。ウルトラマンは必ず勝つと思っていた心が音を立てて崩壊していく。無力だ、自分は無力、何も出来ない、何も救えない。

怖い、悲しい、苦しい。淀む心。しかしだからと言って諦めてはいけない、せめてハクアとアデル達は何が何でも守らなければ。

メビウスは街を進む中でなんとか心が砕けぬ様に希望を光らせ続ける。

 

 

『カラス、貴方は何故傷つけるの? 何故壊すの?』

 

『ッ、コレもカラスさんが関わっていると?』

 

 

カナリアがポツリと呟いた。

分からない、確証は無い。しかしカラスが関わった文明は皆滅びた。

彼がいた世界は皆消えうせた。また滅びを望むのか、ゼロに還して、何を望むのか。

 

 

『私には、理解できない』

 

「……ッ」

 

 

一旦上空高くに上がるメビウス。

するとなにやら明らかに姿が周りと違っている集団を発見。メビウスは地上に戻ると、アギラに指示を出してその場所を目指す事に。

死体の道を走る事すぐ、メビウス達はその少女達に合流する。

 

 

「な、なんやアンタ!」

 

『貴女達は……!』

 

 

呆然と立ち尽くしていたハッピー、サニー、マーチ、テトラの前に現れたメビウス。

双方は双方の異質な姿を見て、すぐに該当する答えを導き出した。

既に仮面ライダーと言う存在、異世界に詳しい夏美達の話を聞いていたのもあったのか。メビウスは変身を解除するとミライになって地面に着地する。

変身を解除する。その一連の流れにもやはり答えを見出す一同。

 

 

「アンタ、まさか時空の歪みに?」

 

 

サニーは変身を解除、あかねになってキーとなる言葉を放つ。

 

 

「ッ、やはり貴方達もですか」

 

「あ、ああ。ウチは日野あかね、キュアサニーっちゅうか、なんちゅうか……」

 

「俺は明日乃ミライ。ウルトラマンメビウスです。一体何がどうなって――」

 

 

そこで悲鳴が聞こえる。

それはすぐ近く、ミライやあかねが視線を移すと、ハクアが涙を流しながらアギラの背から飛び出している所だった。

言葉にならない泣き声を上げつつハクアは、ハッピーに抱き締められていた『死体』に縋りつく。

 

 

「ッ!」

 

 

美しい緑の髪、血に塗れた美しい少女。そして泣きじゃくるハクア。

ミライはそれが誰なのか、分かってしまった。しかし一寸の希望を信じてアデルを見る。

呆然と立ち尽くすアデルはミライの視線を感じたのか、ゆっくりと頷いた。

 

 

「アレが……、ミークだ」

 

「そんな――ッ!」

 

 

拳を握り締めてミライはミークの死体を見つめた。

悲しみに涙を流すハッピー、マーチ、テトラ、ハクア。その中、悲しみが憎悪に変わったのかアデルはあかねに詰め寄り、その肩を掴む。

 

 

「誰だ! 誰がミークを殺した! ソイツはどうなった!!」

 

「う、ウチは……遅れて来たから、それをハッキリと見た訳ちゃう」

 

 

しかし、誰がミークを殺したのかは分かる。

アデルから目を逸らし、あかねは小さく呟いた。

 

 

「司……」

 

「司!?」

 

 

目を見開くミライ。あかねは驚く様子から、彼もまた司や夏美と知り合いなのだと察する。

狭い世界だ、だからこそ感じる物は大きい。ミライは握り締めた拳を地面に叩きつけると、うな垂れ、歯を食いしばる。

 

 

「どうして貴方は――ッッ!!」

 

 

何故狂った? 何故、何故、何故!!

カラスに操られた? だとすれば、絶対に許せない。仮面ライダーは正義の味方なのだろう? ならば何故そんな事をさせる!

何故悲しみを生み出す! 何故命を奪う! 何故、何故ッ! 何故ッッ!!

 

 

「ぐぅぅうッッ!!」

 

 

悔しさに歯を食いしばり、ミライは湧き上がる悲しみを必死に押さえつけた。

淀んだ空の下、ただ悲しみの音だけが聞こえてきた。悲鳴はもう聞こえてこなかった。

それはもう悲鳴を上げる者がいなくなっているからに他ならない。滅びはもう、そこにあったのだ。

 

 

 

 

 

リボルギャリー内。重い音を響かせ、マシンは走り続ける。

 

 

「向こうもいよいよ動き出したか」

 

「間もなく『連中』も来るだろうからね」

 

「おそらく今日中に決着がつくと見て間違いないわ」

 

 

ゼノンとフルーラの言葉に頷く司。我夢と双護もニヤリと笑って鼻を鳴らす。

 

 

「双方イレギュラーがあるな。さて、どうなる?」

 

「状況はコチラ側が有利ですよ。全ての流れは今、僕達に来ています!」

 

 

多くの人間が死ぬ、多くの人間が泣いている。

司はその中で笑みを浮かべて椅子にどっかりと座り込んだ。

脚を組み、世界の絶望を目にしている。

 

 

「面白ぇ。ワールドエンド、結構だね」

 

 

ぼんやりと浮かび上がる黒い点。

カラスだ、羽を広げ、達観したような口ぶりで答える。

 

 

『世界がゼロになれば、悲しみもまたゼロに還る。想像以上だねディケイド、私たちの目指す理想郷が視える』

 

「そう、ゼロになる。それが俺達が目指した唯一無二の破壊だろう」

 

 

まもなくだ、司はディケイドのカードを取り出してまじまじと見つめる。

全てを破壊する為に力になってもらおう。大丈夫、正義は己の心の中にある。

たとえ他者が何を言おうが、目指した正義は確かな物だと信じている。

 

 

「さあ、はじめるぞカラス、我夢、双護、ゼノン、フルーラ。最終決戦と行こうぜ」

 

 

頷く四人と一匹、司は崩壊を始める世界を見下し、今一度笑みを浮かべた。

 

 

「バトライド・ウォーだ! この世界の全てをぶっ壊す。邪魔するヤツは、全員殺せ!!」

 

 

 

 

 






☆エピナビ☆

・HOPEスーツ

ミライが来ている服は防衛軍特注のものなんだ。
これもまたメテオール。激しい炎の中や寒い空間でも装着者を守ってくれる。
水の中にいても体温を一定に保ってくれるし、防弾や防刃性にも優れている便利なスーツだ!
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