Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

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SONG16 始まりのオワリ

 

 

ディケイドがブレーキをかけたのは当然である。

目の前に、見知った顔があったのだから。

 

 

「大切な友達が――、死にました」

 

 

喪に服しているのだろう。

少女の表情にはこの世の全ての悲しみを背負っているような痛々しさがあった。

友人が死んだのだから、それは仕方ないだろう。

 

 

「あなたが、殺しました」

 

 

知り合い――、その言葉を訂正しよう。

たとえ知っていた中であったとしても、既に絆は断ち切った。

ある意味、この二人は今、『はじめまして』と言うべきなのだ。

 

 

「私はあなたを許さない」

 

「だったらどうする、俺を殺すか?」

 

「はい」

 

「――ほう、笑えない冗談だな」

 

「冗談じゃありませんから」

 

 

ディケイドの前にゆっくりと降りて来るキバーラ。地面に降り立つと変身を解除し、夏美の姿に戻る。

ディケイドは足を伸ばしてマシンディケイダーから降りると、同じように変身を解除、司となって夏美の瞳を見つめた。

 

 

「一つだけ聞かせて、私達との日々は、あなたにとって何だったの?」

 

「お前らとの日々? どんな事があったか?」

 

「ショッカーと戦って、みんなで笑って、泣いて、喜んで」

 

「フフフ、知るか知るか! そんなもん、お前らが抱いたお人形遊びなんだよ」

 

「人形――、遊び!」

 

 

拳を握り締める夏美。

彼女の前にキバーラが飛翔する。

 

 

『司、本当に、あなたは……』

 

「キバーラ、お前も兄のところに送ってやるよ」

 

『ッ、やっぱり、お兄ちゃんは――ッッ!!』

 

 

ディケイドライバーを展開し、ディケイドのカードをかざす司。

夏美は怒りに震えながらキバーラに指をかませ、そして前に突き出した。ハート型のエネルギーが湧き上がり、夏美はギロリと司を睨む。

だが、ほんの少し――、また期待をしてしまう。

 

 

「司君、あなたが好きでした」

 

「あ、そう。ぶち壊してやるよ。光夏美!」『カメンライド』『ディケイド!!』

 

「ああ、でも――、もう違う。死ね、司!」

 

 

司の表情は――、夏美の表情は嘘を含んではいなかった。

お互いに変身を完了させ、走り、距離を詰める。まずはキバーラのサーベルが風を切って突き進む。

ディケイドの喉下を貫こうとした一撃、しかしディケイドはそれを見切っており、手でサーベルを掴み取ると、それを引き寄せてキバーラの懐に入った。

 

 

「―――」

 

 

二人は体を密着させる程の近さでにらみ合う。

一瞬、二人の動きが止まった。しかし静寂ではない、ゲラゲラと笑うダブルの声が耳を澄まさずとも聞こえる。

ああ、なんて愚かなんだろうか。かつては恋心を抱いていた筈の男女が今は刃物を交差させて殺しあっている。

今、二人はお互いにどんな感情を抱いているのだろうか? 想像するだけで笑えてくる。

一方、ダブルを黙らせる様にディケイドはキバーラの腹部に蹴りを入れ、距離を離した。

よろけるキバーラにディケイドは剣を振るいながら近づいていく。

 

 

「ハァアアアア!!」

 

「ォオオオオオオ!」

 

 

鬼気迫る声と共に無数の剣閃が飛び交い、次々に火花が散った。

一歩も引かぬ両者、しかしこのままであればスピードが強みのキバーラが勝つ事は明らかだった。

故に、ディケイドは先手を取る。乱舞の中、多少のダメージを覚悟してディケイドは左手を伸ばす。

 

 

「うあぁ!」

 

 

その手でキバーラの顔を鷲掴みにすると、ディケイドはライドブッカーの柄を離して右手の拳を握り締める。

そして思い切り前に踏み込み、キバーラの腹部に右手を叩き込んだ。めり込む拳、キバーラは声にならない悲鳴を上げて後ろに下がる。

 

 

「ゲホッ! ガハッ!」

 

 

腹部を押さえ苦しむキバーラ、当然動きが鈍り、ディケイドはその隙に地面に落ちたライドブッカーを蹴り飛ばして手におさめると、中からカードを取り出してバックルに放り投げる。

 

 

「夏美、俺、亘を殺したんだ」『カメンライド』『キバ!』

 

「――ッ、悪魔。お前は悪魔だ! ディケイド!」

 

 

キバーラの言葉を黙らせる為にディケイドはサマーソルトキックで思い切り彼女の顎を蹴り上げる。

そのあまりの勢いに体が宙に舞い上がるキバーラ、ディケイドはすぐに跳躍でキバーラの頭上を取ると、踵落としで強制的に地面へ叩きつける。

苦痛のうめき声を上げながらも、キバーラはただひたすらに殺意を目に宿してディケイドを睨む。

 

 

「私の知ってる司くんなら――、絶対にお前を許しはしない! だから、必ず殺す!」

 

「力が足りないんだよお前には! 俺を殺す? 笑わせんじゃねぇえぞッッ!」

 

 

ディケイドは倒れたキバーラに馬乗りになると、その顔を潰そうと拳を振り上げた。

しかし既にキバーラはベルトにいた『キバーラ』に指示を出していた。『キバーラ』はベルトからはずれ、腰にあったフエッスルを抜き取ると、力の限り息吹を送り音を鳴らす。

 

 

『ドロロスローブ!!』

 

 

笛の音が鳴り響く中、ディケイドは容赦なく拳を振り下ろした。

しかし抉れるのは地面、キバーラが幽霊の様に消えたのだ。

そして背に衝撃。地面を転がり体勢を立て直すディケイドの前には美しい藍色の羽衣を纏ったキバーラがサーベルを構えている。

キバーラは様々な効果をもつ武器を使って戦うファイターだ。ドロロスローブは幽霊の様に消えたりと幻影を操る力を持つ。

 

現に今、ディケイドがライドブッカーで切りかかっても、捉えたのは空だ。

そして肩に衝撃、キバーラは真上から現れサーベルの突きを繰り出すと、また再び消え去った。

 

 

「ディケイド様ー、手伝いますかー?」

 

「いや、それには及ばない」『フォームライド』『キバ!』『ドッガ!』

 

 

鎖が全身に撒きつき、それが弾けると紫色の重厚な鎧が装備された。

ドッガフォーム、ディケイドはそのまま仁王立ちになるとキバーラの登場を待った。

すると予想通り、背後から現れるキバーラ。しかし渾身の力を込めた突きは、ドッガフォームの鎧を打ち負け、キバーラは背後に倒れた。

 

 

「司――ッ、どうして亘くんを! どうして家族を!!」

 

「……家族だからだ」『アタックライド』『トゥルーアイ!』

 

 

再び消え去るキバーラ。

一方ドッガハンマーがディケイドの右手に現れ、真実の目が消え去ったキバーラの場所をディケイドに教える。

それだけではなく、文字通りキバーラが現実世界に引き出され、物理攻撃が通るように。

ディケイドは左手にライドブッカーを持つと、銃撃をキバーラの体に命中させていく。

 

 

「うあ――ッ!」

 

「お前も、俺の前から消えてくれ」

 

「――だ。イヤだッッ!!」『ヒュースウィップ!』

 

 

蛇腹剣を振り回しディケイドを打つキバーラ。

すばやい連撃に動きが鈍いドッガフォームは対応できないが問題ない、鞭の威力が低いため、ドッガの鎧があればダメージは無かった。

しかしヒュースウィップにはもう一つ特殊能力がある。それは打った所、切った所が凍りつく点だ。

激しい連撃は当然それだけキバの体を凍りつかせる。一度は腕を振るうことで氷を吹き飛ばしたディケイドだが、すぐに襲い掛かる連撃にて再びディケイドは厚い氷に包まれる。

キバーラは飛び上がると、ディケイドを眼下にして新たなフエッスルを使用した。

 

 

「オオオオオオオオ!!」『グオーグアックス!!』

 

 

雄たけびと共に手に現れるのは巨大な斧。

その凄まじい重量が強みでもあり弱点でもあるグオーグアックス。

普通ならば大降りであるため簡単に回避されそうだが、今のディケイドは凍っているために動けない。

 

 

「グアァアッ!」

 

 

凄まじい衝撃とダメージがディケイドを襲い、氷と共に鎧が粉砕される。

地面を転がるディケイド。ドッガフォームが解除され、キバフォームになり地面を滑る。

切断こそされなかったがアックスが当たった右肩が動かない。ディケイドは腕を垂らしながら左腕でカードを装填する。

 

 

『フォームライド』『キバ! バッシャー!』

 

 

緑色に変わるキバの鎧。

追尾する水流弾を放つバッシャーマグナムを連射しながら、負ったダメージを回復させる時間を稼ぐため後退していく。

グオーグアックスを持っていてはキバーラに回避する方法は無い、うめき声を上げながらキバーラは地面を転がり、別のフエッスルを使用する。

 

 

「司ァアアアア!!」『ザッパーヒール!』

 

「チッ!」『アタックライド』『ブラスト』

 

 

ブレードのついたブーツを装備すると、キバーラの下半身が人魚の様に魚のヒレに変わった。

そのまま地面に飛び込むと水中を泳ぐようにしてディケイドへ近づいていく。

一方ブラストの力をバッシャーマグナムに与えるディケイド、引き金を引くと無数の水流弾がキバーラを狙う。

しかし縦横無尽に地中を泳ぐキバーラは器用にそれらを回避、気づけばディケイドのすぐ前にまで迫っていた。

 

だがディケイドに焦りは無い。

再びフォームライドを使用、ガルルフォームに変わったディケイドはガルルセイバーを前に出し、ハウリングショックを使用した。

凄まじい衝撃波は辺りを吹き飛ばす範囲攻撃、地面の中にいたキバーラにもヒットし、地面に引きずり出される。

 

 

「残念だったな、夏――」

 

 

しかし、その時――、空間が割れた。

見えたのは、月。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

キバーラは光の翼を広げ、音波の中をひたすらに突き進んだ。

ココだ。キバーラは悟る。ここが全ての力を出し切るところなんだ。

だから衝撃の中を耐え、歯を食いしばり、ひたすら前を目指した。衝撃が身を削る。

体が悲鳴をあげ、骨にヒビが入る感覚、全身がバラバラになりそうなほど痛い。

 

しかし――、それでも、それでもキバーラは進むことを止めなかった。

脳が振るえ、前がよく見えない。ただそれでもキバーラは今まさに襲い掛かる全ての苦痛を振り払うように叫び声をあげた。

何故、どうして、なんで。そんな事はもうどうでもいい。ただ純粋に、ただひたむきに、ただまっすぐに司の下に行きたい。

なぜか? それさえも意味は捨てよう。穢れの無い白、それは紛れも無い光夏美の全ての心。

愛するあなたへ、送る一撃。

 

 

「ツカッ! サァアアアアアアアアア!!」

 

「ぐああぁああぁッ!!」

 

 

クラッシャーから凄まじい量の血が溢れた。

衝撃波はディケイドに近づくごとにより威力を増し、おかげでいつくかの内臓が体内で破裂する感覚を覚えた。

しかしどうでもいい。インスタントホッパーによって夏美の体は強化されている。いくつかの臓器が機能を停止したところで今すぐにどうなる訳じゃない。

僅かな時間かもしれないが、時間さえあればもうどうでも良かった。

それにキバーラは――、もとより、死ぬつもりは無い。どの内臓が機能を停止したかにもよるが、粉砕されていない限りは修復されるから。

そしてキバーラは確かに刺し込んでいた。全力を込めた一撃、ディケイドはまさかキバーラが衝撃波の中を突き抜けてくるなど夢にも思っていなかった。

 

ディケイドはキバーラを良く知っている。そんなに強くはないと決め付けていたのだろう。

ざまあみろ、キバーラは仮面の裏でニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべる。

正直、賭けではあった。衝撃波の中を突き抜けたとしても不意打ちができるのは一回程度。つまりサーベルの一突きをどこに打ち込むかで未来は大きく変わってくる。

その結果、キバーラは一つの答えを導き出した。装甲も薄く、そこを攻撃されると厄介な場所。

 

 

「テメェエ!!」

 

「クハッ! 司君、どうですか? 痛いでしょうッ!」

 

 

倒れるキバーラと崩れ落ちるディケイド。

全力を込めたサーベルは確かにディケイドの膝に突き刺さっていた。膝蓋骨の部分から刺し入った剣はディケイドの動きを大きく鈍らせる。

それはつまりディケイドのこの先の行動を大きく制限できるという事だ。いたずらに命が奪われるのは夏美も心苦しい。だって、彼女は、仮面ライダーなのだから。

第一、この先などと引き伸ばすつもりはなかった。キバーラはディケイドの膝からサーベルを抜き取ると、再び笑みを浮かべた。

 

 

「終わりにしましょう、司くんッ!」

 

「お前ェエッ! やってくれたなァアッ!」

 

「くひひひぃ! 苦しいですか? 私も苦しいです! お前のせいでいっぱい、友達が死んで――ッ! 司君だって、変わって! もうイヤでしょう? イヤだから、死ね」

 

 

脚を怪我したディケイドは逃げられない筈とキバーラは睨む。

あとは喉を一突きにすれば終わりだ。いや、それじゃ足りない。喉を刺して、次は心臓を刺して、念のために全身を滅多刺しにしよう。

殺したい。必ず殺したい。絶対に殺したい。かつてない程の殺人衝動がキバーラの体を駆け巡り、思わずまた笑みを浮かべる。

まさか、こんな日が来るなんて思っていなかった。どうして、どこで、何が――、色々思うところはあるが、ただ悲しく、ただ苦しく、だから終わらせたいと思うのは普通であるはず。

結局、ゴールにはたどり着けなかった。しかしこれもまた一つのゴールといえばそれまでか。

 

 

「死ねッッ! 司ァアア!」

 

 

サーベルを構えるキバーラ。

しかし――、ディケイドは冷静だった。

 

 

「ゼノン、フルーラ」

 

 

静かに、淡々と、当たり前の様に名前を呼ぶ。

 

 

「キバーラ、よく見てごらん」

 

 

キバーラは名前を呼ばれたので、ついそちらの方を見てしまった。

後悔。ああ後悔。何故見てしまったのか? キバーラは自分を激しく責めた。

このまま何の躊躇も無くディケイドを刺し殺しておけばよかったとつくづく思う。

しかしもう見てしまったものは見てしまったもの、キバーラはサーベルを止め、その場に立ち尽くす事に。

 

 

「夏美おねえちゃん……!」

 

「それは――、幻?」

 

「んな訳ないだろアホが。なんなら確かめてみるかい? またお友達が目の前に死ぬ事になるけどね」

 

 

ダブルの腕に捉えられていたのは怯えた表情でキバーラを見るテトラだった。

そのこめかみにはトリガーマグナムが押し当てられており、ダブルの指は引き金に掛かっている。

本来、テトラは黄の国にはいない。翼達は危険だからとハクア達と共に幼いテトラを戦いに巻き込まぬ様、青の国に残してきた。

 

 

『でもね、夏美? メモリガジェットって知ってるわよね、あの優秀な子たちがね、あなた達の動きを教えてくれてたの』

 

「保険は欲しいだろ? お前らが勝手なことをしない様に、抑止できる道具は欲しかったんだ」

 

 

リボルギャリーを使えば拉致をするのは簡単だった。

それだけだ、それだけで済む説明。それを信じるかどうかはキバーラ次第。

テトラが偽者だと決め付ければディケイドを殺す手は緩めなくて良い。

しかし、キバーラは所詮――、まだディケイドたちのステージには立てていなかった様だ。目の前に敵がいるのに、迷いがその動きを完全に止めてしまった。

 

 

「くだらねぇ、マジで下らねぇな、お前」『アタックライド』『ブラスト!』

 

「!!」

 

 

キバーラの全身にマゼンダの弾丸が着弾していく。

サーベルが地面に落ちる音が聞こえる。うめき声を上げて倒れるキバーラ。対してディケイドとダブルの笑い声が対照的だった。

 

 

「軽いな。軽すぎるぜお前。結局、何もできないんだ」

 

「私は――、がはっ!」

 

 

血が吹き出た。

またダブルとディケイドが笑う。

 

 

「せめて――、本物になるかい? キバーラ」

 

「ッ?」

 

『変身を解除しなさい。そうすればテトラちゃんは助けてあげるわ。これは約束、絶対守るわよ?』

 

「だがまあ、夏美、お前はぶっ壊してやるけどな」

 

 

それは一瞬だった。キバーラはダブルの腕の中で振るえ、青ざめていたテトラを見ると変身を解除し、夏美に戻る。

 

 

「どうして……、なんで」

 

 

テトラは子供だが、物が分からぬ訳ではない。

ココで変身を解除する事がどういう事を意味するのか。

しかし、もちろん夏美だって分かってる。夏美はテトラが怖がらないように、優しい笑顔を向けると、嬉しそうに言葉を並べた。

 

 

「決まってますよ、テトラちゃん」

 

「え……?」

 

「仮面ライダーは、正義の味方――、なんですから」

 

 

ニコリと、満面の笑みがそこにはった。

そんな笑顔を浮かべた夏美の体中に、赤い点々が一瞬で浮かび上がった。

銃声と、共に。

 

 

「黙れ――ッ! 今すぐ俺の前から消えろ」

 

 

テトラの悲鳴が聞こえた――、様な気がした。

耳鳴りが酷い。しかし反対に周囲の音が遠くなっていく。

夏美の世界はスローモーションに変わり、ゆっくりと深淵に意識が落ちていく。

倒れた、気がした。ぼやける視界では、もはや現実は見えない。

だから夏美はひたすらに幻想を見た。でも、記憶は現実があるからこそ形成されるものだ。夏美にはもう、司の顔が思い出せない。

 

 

「司…くん、一緒に……、仮面…ライダー見ま…しょう……」

 

 

血まみれの手を天に向かって伸ばす夏美。

楽しい記憶があった。しかし、あったはずなのに思い出せない。

 

 

「どこに、いるんですかぁ、つかさくぅん。かくれてないで、でてきて、いじわる、しないで、でてきて」

 

 

銃声が聞こえた。何発も聞こえた。夏美の体にできた穴が増えていく。

しかし悲しいかな、肉体強化が故か、死ぬまでのスピードが遅い。

 

 

「わたし……と、いっしょに、また……、いっしょに」

 

「黙れ」『ファイナルアタックライド』

 

「つかさ――、く――」

 

「うるッせぇッんだよッ! 黙れ黙れ黙れェッ! 今すぐ俺の前から消えろ! さっさとゼロに還れェエエッッ!!」『ブラスト!!』

 

 

ディケイドは夏美に今すぐ黙って欲しかった。

だから多少無茶をしても、構わない。おかげで夏美は消し飛び、もはや僅かに飛び散った肉と骨の欠片くらいしか目に付くものは無い。

ディケイドは大きく息を吐くと、両手を大きく広げて仰向けに倒れる。

ダブルも夏美が消し飛んだのを確認すると、鼻を鳴らしてテトラを放り投げる。

地面を転がり、その内にテトラは顔を上げて信じられないといった表情で周囲を確認していた。

 

 

「さあ、どこにでも行きな。ボク等はもうキミには興味がないからね」

 

 

銃弾をテトラの目の前に撃ち込むダブル。

威嚇射撃だ。それが効果をなしたか、テトラは青ざめたままながらもしっかりと立ち上がって、ディケイド達に背を向けて走り出した。

そのまますぐに見えなくなり、それを確認するとディケイドは変身を解除する。

 

 

「大丈夫かいディケイド様。その足」

 

「駄目だ、やられた。ちくしょう――ッ!」

 

 

一応リボルギャリーの内部に簡易的な治療装置はあるものの、そのリボルギャリーをこれから『使う』かもしれないので、司は首を振る。

 

 

「先に行け、ゼノン、フルーラ」

 

「別にいいけど、大丈夫かい?」

 

「ああ、最悪カブトになれば何とかなる」

 

「確かに。じゃあ、お先」『ゆっくり休んでねー』

 

 

そう言ってさっさとダブルはハードボイルダーで走り去る。

だがそれが司の望みだ。時間は有限である。こんなところで無意味な心配ごっこなんてしていても仕方ない。

司は激しく鳴り響く心臓を落ち着け、呼吸を整える。痛みもあるが何より疲労が凄まじい。

一見すればダメージは少ないものの、やはり今までに至るまでに精神力を削って作ってきたファイナルアタックライドのカードの重さは響いている。

ほぼ毎日誰かと戦ってきたのだ、さらに先ほどはアルティメットフォームとの戦いでコンプリートも使用した。それだけ心も体も重く感じている。

少し休まなければ。司は黄色に濁った空を見上げ、目を閉じる。休むと言っても今はこんな状況だ、敵が来たらすぐに対応しなければならない。

 

 

敵。

 

 

はて? 何かを忘れている様な。

なんだ? そういえば何か違和感がある様な。敵、異形の化け物、それは身近に。

 

 

「!!」

 

 

司は跳ね起きるように体を起こすと、すぐにディケイドライバーを構える。

しかし刹那、司の体に熱が走った。

 

 

「しま――ッ!」

 

 

呼吸が止まる。痛みが、激痛が胸を走った。

視線を下に向けると、そこには自分の体を突き破るサーベルが見えた。

やられた、やられた――ッ、やられたッッ!

司は確認を忘れていた。まだ、一人……、ではなく一匹始末しきれていない者がいたのに。だから司が背後を振り向くと、そこには案の定、小柄なキバーラが立っていた。

 

 

「夏美お姉ちゃんの――ッ、みんなの仇だ!!」

 

「テメェエエエエエ!!」

 

『終わりよ! 司!!』

 

 

夏美は死んだ。しかしキバーラはまだ死んでいなかった。だから彼女は逃げたテトラに頼み、ココに来てもらった。

キバーラに変身したテトラは全ての憎しみをサーベルに乗せて、空中からの奇襲を仕掛けた。

結果は成功。後は司を殺すだけでいい。キバーラはサーベルを引き抜き、司の脳天を狙う。

 

 

「アグッッ!!」

 

 

しかし衝撃、キバーラの腹部にライドブッカーの銃撃が襲い掛かる。

司は血を噴出しながらもしっかりと照準を合わせ、キバーラを自分から引き剥がす。

 

 

「キバーラァア! お前――ッ、ああクソっ! ふざけんなよォオッッ!!」

 

 

後退していくキバーラは火花を散らしながら変身を解除する。

無理もない。夏美はゼノンたちが掛けた肉体強化と補正の力で魔皇力に対応できたに過ぎない。

しかしテトラは違う、一般人で子供の彼女が魔皇力の扱いに慣れていないキバーラに力を送り込まれるのは、体の中に猛毒を注入される事と同じなのだから。

見よ、テトラの体がステンドグラスの様に硬質化し、伸ばした手が粉々に砕け散った。しかし、テトラは笑っていた。

 

そうか、はじめから死ぬつもりであったのか。

家族もいない、友達もいない、世界は混沌、なるほど納得できる理由があった。

テトラの体にヒビが入る。終わりが来た、テトラは幸せだった。もうすぐ家族の所に行ける。

あちらには夏美もいるだろうから、みんなもいるだろうから、たっぷり遊んでもらおう。

 

 

「ざまあみろ」

 

「――ッ」

 

 

テトラは笑っていた。

笑ったままで砕け散り、死んだ。

 

 

「ゴホッ! ガハッ!」

 

 

血を吐き、司は地面に崩れ落ちる。

吐血したものがディケイドライバーにかかり、白いドライバーが赤く染まる。

司は叫んだ、叫び、ライドブッカーを剣にして倒れていたキバーラを突き殺す。

 

 

「あんんんんのッッ、クソガキがぁあッッ! 調子に乗りやがって!!」

 

 

再び吐血。まずい、心臓を掠めた。肺も損傷している。司は咳き込み、三度血を吐き出す。

安心しろ、耐えられる。しばらくは動けないが安静にしていれば自己修復が働いて回復するだろう。

やってくれたなテトラ。まさか変身するとは。まさかコチラに歯向かってくるとは。つくづく腹の立つヤツだ。

司は地面を殴りつけ、匍匐前進を始めた。物陰に隠れていなくては死ぬ。

 

 

「まだ、まだだ! まだ死んでたまるか――ッッ!!」

 

 

血の痕を残しながら司は地面を這う。

こんな所で終われるか、まだ、まだだ。血走った目で司は目の前にある光景を睨みつける。

ああ、全てが憎く見える。全部壊して、全部なくして、それでも足りない。

くそ、クソ! クソッ! ああぁあぁああクソクソクソクソッッ!!

 

 

「どこに行く、ディケイド」

 

「!!」

 

 

司は目を見開いたまま停止した。声が聞こえた。

この声は知っている、司が後ろを振り返ると、そこには一人の少年が。

 

 

「お前は――」

 

「まさかとは思ったが、本当に会えるとはな。僕はつくづくお前と縁があるらしい」

 

 

永時(えいじ)秋人(あきと)。いや、その名ではなく――

 

 

「お前、COBRAッッ!!」

 

「見せてもらったよ、君の戦い。しかし――、そのザマはなんだ?」

 

 

秋人は覚えている。ディケイドに負けた時の記憶。なぜ、負けたのか? 秋人にはよく覚えている事だ。

にも関わらず今の司はどうだ? 戦う理由(なつみ)を殺し、そしてそれが司の目指す正義だとすれば――

 

 

「下らないな、お前」

 

「黙れェエエッ! お前も殺すぞォッ!」

 

 

ヨロヨロと立ち上がり、青ざめた顔で司は秋人を睨んでいる。

一方でため息を漏らす秋人。哀れみの目でディケイドを見ている。いやもはや見下していると言えばいいか。

激しい失望があった。同時に怒りがあった。

 

 

「観測者に唆されたか。いずれにせよ、もはやお前に生きている価値はない」

 

「うるせぇえええええッッ!!」『カメンライド』『ディケイド!!』

 

 

痛む足を無視し、全身を叱咤させ、ディケイドに変身した司は容赦なく秋人へ切りかかる。

しかし上から下に振り下ろす単調な攻撃が通用する相手ではない。

秋人はなんの事は無く横に体をそらし、通り過ぎたディケイドの背を裏拳で打つ。

 

 

「あぐあぁ!」

 

「愚かな。闇に沈めてやるよ、ディケイド」

 

 

一瞬だった。一瞬で秋人の服装がバトルスーツに変わる。そして秋人はCOBRAの仮面をかぶり、変身を完了させた。

ディケイドはライドブッカーを銃に変えて乱射するが、COBRAが発生させた闇の暴風に全てかき消され、意味を成さない。

 

 

「何がお前を変えた? ディケイド」

 

「俺は変わってねぇ、俺は俺だ! 邪魔するなら、お前も死ね!」『ファイナルアタックライド』『ディディディケイド!』

 

 

飛び上がるディケイド、ホログラムカードを超えて飛び蹴りをしかける。

ボロボロの状態で打つ攻撃など、COBRAにとっては無意味に等しい。それにもう既にファイナルアタックライドのカードを生み出す力も無かったか、現れたホログラムカードは僅か二枚だった。

現にCOBRAは手の甲を軽く振るうだけでディケイドの蹴りを弾き、真横に吹き飛ばす。地面を転がりうめき声を上げるディケイド。

COBRAはため息をついて歩き出す。途中、剣になったライドブッカーを拾い上げ、剣の部分をへし折った。

COBRAはライドブッカーを放り投げ、倒れているディケイドのそばに立つ。

 

 

「何か言い残す事はあるか?」

 

「俺は必ず蘇る。そして、全てを破壊してやる!!」

 

 

天に向けて手を突き出すディケイド。濁った空にある太陽を掴むように。

しかしその手を取ったのは救いではなく死神だった。

 

 

「言いたい事はそれだけか。なら、さっさと消えろ」

 

 

COBRAはディケイドを引き起こすと、腕と肩をつかんで捻りながら跳躍。

そのままの勢いでディケイドを思い切り投げ飛ばした。

きりもみ状に吹き飛びながら黒い風を纏うディケイド、COBRAは地面を蹴り、無防備な彼に飛び蹴りをしかける。

 

 

「ハァアアアア!!」

 

「グアアアアアアアアアア!!」

 

 

相手の防御力を崩す投げ技、ダークネスストリーム。

そこへCOBRAは必殺キックであるブレイクアウトを追加する。

COBRAの足裏がディケイドライバーを捉え、収束した闇のパワーが一気に流れ込んだ。

火花を散らしていくディケイドライバー、ディケイドが地面に倒れたときだ、丁度ドライバーから爆発が起き、はじけ飛ぶ。

バラバラになった破片はすぐにデータの残骸となり消滅。ディケイドの鎧も消え去り、生身の司が晒される。

 

 

「俺の勝ちだな、ディケイド」

 

「―――」

 

 

うつろな目、青白い顔色。

ああ――、COBRAは嘲笑を浮かべる。既に声は届いていないか。ディケイドは、司はもう死んでいた。

所詮、正義は虚構だったか。COBRAは司に背を向けると歩き出し、その場を去ろうとする。

 

 

「………」

 

 

しかし、ふと、足を止める。

振り返るCOBRA。そこにはだらしなく倒れている司の死体があった。

沈黙するCOBRA。そして、司から目を逸らさず、通信装置を起動させる。

 

 

「俺だ、BAT。少し相談したいことがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

青の国が黄の国を制圧したのはまもなくの事だった。

理由はただ、運が良かったのだろう。あれだけ世界を覆いつくしていた大ショッカーが撤退していったのは何故なのか、誰にも分からない。

しかし結果として残された者たちで続きが行われた。有利不利、大ショッカーが場を乱したおかげなのは、皮肉なものだ。

 

リンネはカイとメイに捕らえられた。

彼女はたった一人で王城から少し離れた場所にあるベンチに座っており、カイ達を見るとニコリと微笑んだ。

まるで待っていたかの様な素振りにつくづく寒気を覚えるというものだ。その表情に恐怖は無い。それがメイにはたまらなく腹立たしく――。

 

だからだろうか? リンネは自らが建設した処刑台に立たされていたのは。

リンネは罪を犯したものをギロチンで処刑するのを見るのが大好きだった。

まさか自分が立たされるとは思っていなかっただろう。それを提案したメイはニヤリと笑みを浮かべ、リンネを睨みつける。

異常な空間だった。ギロチンの周りには青の国の兵士や黄の国の住人が笑顔を浮かべて処刑を観覧しているのだから。

 

 

「ねえ、これでいいのかな」

 

「どうでしょう……」

 

 

王城のバルコニーにて、ミライとみゆきはその光景を見ていた。

戦いは終わったのだ。しかし、ミライ達の気持ちは欠片とて軽くならなかった。

 

 

「夏美ちゃんたち、どこに行ったのかな……」

 

「どうでしょう」

 

 

嘘。本当は知っている。

みゆきは信じたくないだけ、ミライはみゆきに気を遣っているだけ。

知っているけど、それを自覚したところで一層虚しくなるだけだ。

 

 

「アタシ、もう帰りたいよ……!」

 

 

なおは処刑台に背を向けて体育座りをしていた。

震える声、目には涙が。

 

 

「みんなに、会いたい……」

 

「せやけど……、ウチら、どうやって帰ればええの?」

 

 

大ショッカーが撤退した今もミライたちが帰られる気配は無かった。

この先、一体どうすればいいのか? 誰もわからない。

 

 

「ちくしょうが……」

 

 

面白くないといった表情でミライの隣にいたレイジは世界を見下ろしていた。

そうだ、ちくしょうだ。残ったのは、『ちくしょう』なんだ。

そうしていると、リンネがギロチンに固定された。まもなくだ、まもなく、この世界の歴史が一つ終わる。

 

 

「俺は、どうすれば……」

 

 

それを自覚したとき、ミライの心に激しい悲しみの炎が燃え上がった。

歯を食いしばり、拳を手すりに打ちつけ、ミライは後悔に呻く。

 

違う――、違う、違う違う違う!

 

違うだろ、俺!

 

 

「違う……!」

 

「え?」

 

 

夢を見たことがある。アナザージェネシスと名づけたその夢はとても悲しい夢だった。

かつての英雄が悲しみによって姿を変えてしまい、憎み合い、傷つけ、悲しみ、苦しみ、その先にまた苦しんで。

 

 

「優しさを失わないでくれ。弱い者を労わり、互いに助け合い、どこの国の人達とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ――ッ」

 

 

早口に言葉を並べるミライ。それは自分に言い聞かせる様に、世界に言い聞かせる様に。

 

 

「例えその気持ちが何百回裏切られようと! それが、それこそが――ッ」

 

 

まもなく、三時だ。

おやつの時間だ。ミライはこの時間が好きだった。

甘いもの、塩辛いもの、お菓子はいろいろあって、飽きない、楽しい時間なんだ。

 

 

「何をしているんだ」

 

 

目を見開いたミライ。

彼は左手を突き出し、メビウスブレスを出現させる。

 

 

「俺は、何をしているんだ! メビウス、俺は一体……ッ!」

 

 

光が迸った。メビウスは地面を蹴って空に舞い上がる。

分からない。一体どうすれば良かったのか。この先も何をすればいいのか分からない。

それは今も同じだ。ただそれでも、それでも――ッッ。

 

 

「何を!」

 

 

メイは怒りに吼えた。

無理もない、ずっと憎んでいた王女の首が今まさに刎ね飛ばされると言うところでギロチンが破壊されたのだ。

空を見上げれば、光の戦士が振ってきた。

 

 

『ひとつ! 腹ペコのまま学校に行かぬこと!』

 

 

ザワつき始める周りの声に負けぬよう、メビウスはリンネの肩を掴み、声を張り上げる。

 

 

『ひとつ! 天気のいい日に布団を干すこと!』

 

 

突然の事なのでリンネはぽかんとした表情でそれを聞いている。

もちろんそれはみゆき達も同じで、突然アクションを起こしたメビウスの心情が分からなかった。

 

 

『ひとつ! 道を歩く時は車に気を付けること!』

 

 

そして、それはメビウスも同じだ。

自分で自分の行動が分からない。ゴールが見えなかった。

しかしそれでも、動かなければならなかった。

 

 

『ひとつ! 他人の力を頼りにしないこと!』

 

 

ああ、思い出す。

守れなかった人々を。それはきっと守れたはずなんだ。

そうだ、自分にはウルトラマンの力があった。なのに死なせた。なかば見捨てる形で死なせてしまった。

力があったのに。きっとみんなを救えた筈なのに。

 

 

『ひとつ! 土の上を裸足で走り回って遊ぶこと!』

 

 

声が震える。

気づけば、メビウスは泣いていた。泣いて、泣いて、叫んでいた。

守りたかった。救いたかった。救われたから、ヒーローがいたから。

でも駄目だった。何にもなれなかった。きっと何かにはなれたはずなのに。だからせめて、せめて最後だけは。

 

 

「今すぐそこから離れなさい! ミライ!!」

 

 

メイは剣を抜くとリンネの下に向かって走り出した。

こうなったら自らの手でリンネを殺すつもりなんだろう。しかし間に割り入るようにして振ってきたのはキュアハッピー。

彼女はメイの剣を腕を交差させて受け止めると、メビウス同じく涙ながらに訴える。

 

 

「お願い、待って! メイさん!」

 

「ッ、みゆき……!」

 

 

ふと周囲を見回せば、兵士たちを抑える様にサニーとマーチもメビウスを守るように立っている。

バルコニーでその様子を見ていたレイジも、思わず拳を握り締めて息を呑んだ。

メビウスはリンネに今の言葉を伝えたかった。これはウルトラ5つの誓い、メビウスの尊敬する兄がくれた言葉だ。

その内容は、ひとりひとり感じる物があるだろう。しかし今、もっとも伝えたい事はその根本にある。

 

 

「この誓いは、生きていてこそできるものなんだ……!」

 

「ッ」

 

 

生きるために――、皆、戦った。

ミライのはじまり、あの時、怪獣に襲われたとき、きっと多くの人間が死んでいった。

だとすればその人たちは怪獣に潰されるために今までを生きてきたのか。

 

いや、そんな馬鹿な事があってたまるか。

それこそ『ちくしょう』じゃ収まりきれない。それは誰しもがそうなんだ。みんな『ちくしょう』がイヤだから、毎日毎日『何か』を探してる。

それは甲斐であったり、理由であったり、いろいろあるだろうけど、『何も無い』が嫌だから『何か』を探してる。

 

誰もが鍵を握り締め、今日もどこかで何かを探してる。求めている。

いつまで続く? いつまでも続くのかもしれない。しかしそれはチャンスだ。いつかきっとたどり着ける。

もちろん、生きていれば。

 

 

『死んだら、そこで終わりなんです……! そんなの絶対ダメだ!』

 

 

確かに、リンネは大きな、大きすぎる罪を犯した。

たとえ本人が反省していないとしても、その罪から逃げないためには、償うしかない。

その償いは、リンネがいなければできない。

 

 

「生きていなけりゃ、罪も、償えない!」

 

 

メビウスはミライに戻ると、リンネの目を見て強く訴えかけた。

生きろというのだ、ミライは、リンネに。確かに死刑という裁きはミライの世界にもある。

しかし今、この惨劇を見て確信した。リンネは死んではいけない。罪を背負うためにも、これ以上無意味な死を生み出しては絶対にいけないのだ。

友達がいた。ユウスケ、薫、翼、真志、美歩、拓真、友里、椿、咲夜、我夢、アキラ、鏡治、双護、亘、そして司。

きっと、みんな、死んだ。だからもう増やしてはいけない。何故死んだ、何故生きることができなかった。

きっと、生きたかった筈なのに。

 

 

「リンネ、あなたは、死ぬべきじゃない!」

 

「………」

 

「死んだら、終わりなんですッッ!!」

 

 

涙が溢れてくる。

何故、何故――、ああどうして何故ッッ!

 

 

「ダメよ! ソイツは死ななければならない!」

 

 

メイも泣いていた。みんな泣いていた。

 

 

「じゃないと、私が生きられないの!!」

 

 

メイの悲痛な叫びは黄色く濁った空に吸い込まれていく。

その時、音が響いた。

 

 

『ヒート』『マキシマムドライブ!』

 

 

轟音が鳴り響く。

地中が爆発し、多くの人間が空に舞い上がった。そして姿を見せたのは紅蓮の塊。

真っ赤に燃える、リボルギャリーだった。

 

 

「その通り! お前は死なないといけない! 絶対に、必ず!!」

 

 

これは普通の攻撃ではない。ダブルはリボルギャリーを破棄する覚悟で特攻するつもりなのだ。

爆発する車内の中、ゲラゲラと笑いながらダブルはリボルギャリーを発進させる。

すぐにトップスピードになるビークルマシンはうろたえる住人や兵士たちを次々にひき殺しながら加速していく。

 

 

「させない!!」

 

 

止めに入るハッピーだが、ダブルとて止められるつもりは無い。

我夢が死んだ。双護が死んだ。司が死んだ。

ならば最後に残っているのは自分たちだけ、ミスは許されないのだ。

 

 

「全てを賭ける!」『ジョーカー!』『マキシマムドライブ!』

 

 

紅蓮のリボルギャリーを真正面から止めに入ったハッピー。

凄まじい力を感じるものの、すぐにサニーとマーチも加わり、なんと完全にリボルギャリーのタイヤの回転を止める。

まさか本当に止めるとは。しかし分かってはいた事だ、ダブルはリボルギャリーの上部ハッチを蹴破ると空に飛び出す。

両手に炎を宿し、それをバーニアの様にして飛行する。

ハッピーたちの頭上を越えて、狙うはただ一つ。

 

 

「『ジョーカーグレネード!!』」

 

「ダメだ!」

 

 

トライガーショットを取り出し青いシリンダーに設定するミライ。

その状態でリンネを撃つと、青いバリアがリンネを守護する様に出現した。

一方で変身するとダブルに向かって飛び立つメビウス。ダメだ、もうコレ以上は――。

 

 

『ゼノン、行って!!』「了解ハニー!!」

 

(何ッ!)

 

 

メビウスがダブルの眼前に迫り、その体を掴もうとした時だった。ダブルの体が分離し、赤いヒートがメビウスに拳を打ち付ける。

その隙に黒いジョーカーがメビウスを通り抜け、リンネにたどり着く。

 

 

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

全ての感情を込めてゼノンは叫んだ。

それはきっと特別クラスのメンバーが誰も聞いたことの無いような、真面目な雄たけびだった。

真面目な、感情だったのだ。

 

 

「分かるか! 分かるよな! 司が死んだ! 我夢が死んだ! 双護が死んだ!」

 

 

だが――ッ!

 

 

「ボクは生きているぞ! その意味、決して無いわけがない!!」

 

 

拳がシールドを捉えた。

バチバチと激しい音を立てて揺らめくシールド。その向こうにいるリンネは何の感情もない目でダブルを見ている。まるで人形の様だ。

だがお前は人形じゃないだろ。ダブルはもう一度、叫ぶ。何故生き残ったのか、それはただ一つ。

 

 

「ボクが、切り札(ジョーカー)だからだ!!」

 

 

渾身の力を込めてダブルは拳を前に出す。

そしてその想いが通じたのか、シールドに亀裂が走り、直後破裂する音が聞こえた。

しかし、突き入ったのは拳だけ。手首から先はつっかえて侵入できない。シールドを破壊したと言ってもそれは一部だけだった。

ただそれでも、ダブルは、ゼノンは確信した。

 

 

「もらった!!」『トリガー!』

 

『ああ、あなたはやっぱり最高よ! ゼノンッ!』『ルナ!』

 

 

ルナトリガー。ダブルがフォームチェンジを行う。

するとどうだ、青く染まったダブルの手にはトリガーマグナムが出現した。シールドに入ったゼノンの手に、武器が現れたのだ。

その時、リンネは笑みを浮かべた。それが合図、分かっている、分かっているよ。

くだらない紙芝居は終わりにしよう。クソみたいな舞台の幕を今、降ろすから。

いつか、きっと、分かる。リンネはニコリと微笑んだ。

 

 

「―――」

 

 

銃声が聞こえた。

青いバリアの中に、赤が広がった。

紅い華が咲き乱れた。

 

 

「クハゥッ! ヒハッ! ヒハハハハハハハハ! 忘れてた忘れてた!」

 

 

二つあるダブルの体が光となり一つに戻る。

ルナトリガーは笑う。それは何のための笑みなのか、誰もわからない。

 

 

「駄目だろ、こんなシナリオは誰も望んでいない。本来あるべき姿に世界は還るべきだ」

 

 

ダブルはデンデンセンサーを構え、空に向かって銃弾を一発撃った。

黄色の弾丸はダブルの意思で動き回り、一点を貫く。

大勢いる兵士や民たちの中で、一人、ローブで身を隠した者が倒れた。

 

それは少女なのか、少年なのか、わからない。

もっと言えば老人なのか子供なのかさえ。しかし分かっている事は、その人間は心臓を撃ち抜かれて死んだ。

ダブルはこの広い世界で、多くの人間がいるなかで、たった一人を狙撃したのだ。

 

 

「ハハッ! ハハハハハハハ!!」

 

『アハハ! キャハハハハハ!!』

 

 

笑い声が響く。

ダブルは変身を解除し、ゼノンとフルーラは呆然とするメビウスたちの視線を受け、両腕を広げた。

そしてお辞儀を一つ。ミュージカルが終わり、役者たちが再びステージに現れた時の様な光景だ。

 

しかし大切なのは挨拶ではない。

終わりが訪れると言う事だ。気づけば空は真紅に染まっていた。

まるで、泣いている様な気がしてならない。

 

 

「グヒヒヒェッ! ボク達の勝ちだねフルーラァ!!」

 

「ええ、ええ、そうねゼノン! ゲヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 

狂ったように笑いあうゼノンとフルーラ。

刹那、ゼノン持っていたトリガーマグナムでフルーラのこめかみを撃ち抜いた。

 

 

「――お?」

 

 

フルーラの目が上を向いて、そのまま彼女は地面に倒れた。

血が流れ、ゼノンは恍惚の表情を浮かべる。

 

 

「あぁ、やっぱり死んでる君も素敵だよ。君の命を奪う瞬間、ボクの中で快楽が生まれてしまう。いけないねフルーラ。これも全部、君が可愛いからだよ」

 

 

そう言いながらゼノンは自分のこめかみにトリガーマグナムの銃口を押し当てる。

 

 

「クハハハ……! ボクらの勝ちだ」『トリガー!』『マキシマムドライブ』

 

 

そして、引き金を引いた。

最大級の必殺技、ゼノブラストがゼノンの頭部を消し飛ばす。

首が無くなったゼノンはフラフラと移動を行い、その後フルーラの死体の上に倒れた。

 

静寂があった。まだ――、夢を見ているようだった。

ふとメビウスは、ハッピーは、サニーは、マーチは、レイジは見る。

真夏じゃないのに、暑くは無いのに、陽炎が揺らめいていた。

 

 

カゲロウがそこに、あった。

 

 

「え?」

 

 

世界に亀裂が走った。

直後、音を立てて世界が崩れ落ちた。降り注ぐ世界の破片を見つめるメビウス。

その中で、声が聞こえた。

 

 

『たすけて』

 

 

――様な、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

見えたのは天井だった。

ミライは体を起こすと、周囲の景色を確認する。ベッドの上、ココは部屋。

一般的な民家の中、そのベッドの上でミライは目を覚ましたのだ。

どうして眠っていたんだろう? そう、そうだ、眠いから。

いや、違う、何を言っているんだ。

 

 

「俺は、眠くない」

 

 

ミライは民家を飛び出した。

するとそこには目の前に広がる草原が見えた。

上を向くと、青い空が広がっている。優しい風がミライの髪を撫でる。

気持ちがいい。気持ちがいいのだが、何か――、違和感が。

 

 

「なんで……?」

 

 

おかしい。これはおかしいのだ。城は? 国は? 民は?

周りを見る。すると何も無い。

小屋も無かった。あるのは広がる草原と、青い空だけだった。

 

 

「いや、小屋なんて最初から無かった」

 

 

 

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