Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

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SONG18 ゲンジツの檻

 

 

司達が昼食を取っていないと言うと、ルカルカは一緒に食べようとシチューを用意してくれた。

双護もたいした事はなかったので、すぐに回復し、三人はユキミ達とテーブルを囲んで食事をする事に。

寒さと空腹のおかげか、ルカルカのクリームシチューが骨身にしみる。今まで食べたシチューの中で間違いなく一番おいしいものだった。

ユキミ達は司達の食べっぷりを見て笑うが、同時に窓の外を見ると表情を険しいものに変える。

 

 

「だいぶ吹雪いてきたね」

 

「本当だ……、いや、本当に助かったよ。ユキミに会えなかったからと思うと」

 

「ううん。いいよいいよ。えへへ、ねえ、三人とも行く場所はないんでしょ? ココにいてもいいからね」

 

 

それは随分とありがたい提案だった。自分たちから頼もうと思っていた事だから。

こうなるとゼノン達が見つけてくれるまでの間、なんとかなりそうだ。

しかし気になるのは何故この世界に飛ばされたのかと言う点だ。偶然? 当然それもあるかもしれない。

あの助けを求める声の主がココにいる可能性もあった。だが今のところ合致している声は無い。そしてやはり頭によぎるのは世界を破滅に導く悪の存在だ。

 

 

「あの、みなさん――、少し聞きたいんですが、金色の大鷲を身につけた人間や動物を見ませんでしたか? 刺繍とか、ブローチとか、なんでもいいんで」

 

「え? うーん、見たこと無いなぁ。みんなはある?」

 

 

ユキミの言葉に誰もが首を横に振った。どうやら今のところ大ショッカーの影は無いと見ていいのだろうか?

いや、ココは小さい村。もっと大きな場所ならば話は変わってくるかもしれない。

 

 

「すいません、この近くに街とかってありますか?」

 

「え? い、い、一応ある――、けど」

 

「?」

 

 

明らかにユキミ達の雰囲気が変わった。

なにか地雷でも踏んでしまったのだろうか? 司は息を呑んで肩を縮める。

 

 

「ねえ、司達はどこから来たの?」

 

「え、ええっと、それは……」

 

 

困った。他世界からの来訪ゆえ、知識不足が仇となったのか。

すると戸惑う司に気づいたか、双護が助け舟を出してくれる。

 

 

「悪いが俺達はココに来た記憶が曖昧なんだ。飢えをしのぐ為に変なキノコを食ったからだと思うんだが、良ければ状況を軽く説明してほしい。今司は何かおかしな事を言っただろうか?」

 

「……そうなんだ。いいよ気にしないで、それに何も知らない人は珍しくないから」

 

「え?」

 

「コハクちゃんも初めは知らなかったんだよね?」

 

「うん――ッ、そうなの……」

 

 

なんの話をしているのだろう?

司達は困ったように眉をひそめて視線を交わし合う。なにやらこの場所にいる事に意味がある様だが――?

すると同じように視線を交わしてアイコンタクトを取るユキミ達。すると代表して、ルカルカが口を開いた。

 

 

「落ち着いて聞いてください」

 

 

その前置きは、確実に良くない事を意味している。

 

 

「この山に送られると言う事は、司くん達は隔離対象にされたんです」

 

「隔離対象……?」

 

「そう、だから街には戻れないの」

 

「それはどういう……?」

 

「はい! もうこの話はおしまい! ココで暮らそうよ! 楽しいよ! 野菜もお肉も取れるからご飯は心配しなくていいし、支援してくれる人もいるし! なんにも心配しなくていいんだよ!」

 

 

無理をしているのは明らかだった。

ユキミのぎこちない笑顔を見れば、司達はそれより先の情報を求める事ができなかった。

ユキミ以外は誰も笑っていない。つまりそれだけ、重いものを抱えているのだろう。

だから、分かったと言うしかできなかったのだ。それでユキミは安心したように笑う。

 

 

「うん、ずっとココにいていいからね。辛いことは何にも無いからね。楽しい事だけが待ってるからね。本当だからね」

 

 

もちろん、そう言われて従う訳にはいかなかった。

食事が終わり、三人はそれぞれ個室に案内される。

司達は案内してくれたルカルカが離れていくのを確認すると、同じ部屋に集まり、状況を考察することに。

ガタガタと吹雪で揺れる窓の外を見ている我夢。雪がひどくて何も見えない。考えてもみれば、それは自然の牢屋ではないか?

 

 

「隔離――、とはどういう意味でしょうか?」

 

「そのままの意味だろう。ユキミ達は街には戻れないと言っていたが、それは街側が拒んでいると見て間違いない」

 

「つまり、ココはユキミ達を閉じこめる場所って事か……」

 

 

そう言えばルカルカの主人は亡くなったと聞いている。

それに司達にはそれぞれ個室が用意されたが、ココは宿泊施設ではない、つまりこの部屋には元々誰かが住んでいたのではないかと。

そしてユリンの様子を見るに、考えられるのは――

 

 

「おそらく病気の類だろう。結核か、他の伝染病……。最悪この世界だけに存在している病とも考えられる」

 

「ただの隔離じゃないところを見るに、この世界では治せないんじゃないですか?」

 

「なるほどな……。病気か」

 

 

なんとかしてあげたいが、司達は医者ではない。複雑な話である。

 

 

「以前ゼノンと話したことがあるんだが、今の俺達はトリカブトを食っても死なないらしい。おそらくユキミ達が感染している筈の病は、俺たちには大丈夫だろう」

 

 

暖炉の中の火を見ながら双護は淡々とつぶやいた。

彼も少しはやるせなさを感じているのだろう。ユキミ達に身分を隠している事も少し後ろめたさを感じているのかもしれない。

 

 

「……これからどうすればいいんでしょう、僕達」

 

「街に行くべきだろうな。大ショッカーがいないかを確認する事もできるし、ユキミ達の病気を治すヒントを手に入れる事もできるかもしれない」

 

「でも、どうするんです?」

 

「俺に考えがある。でもとにかく明日だな、この吹雪じゃまともに動けない」

 

 

すると部屋をノックする音が。

司が扉を開くと、グルミが姿を見せる。その手にはオセロが。

 

 

「ねー、遊ぼうよ! あたし強いんだよ。みんなじゃもう相手にならなくて!」

 

「あ、ああ。ははは、勝てるかな」

 

「ま、無理だろうけどね。へへへ!」

 

 

しかし数分後、そこには頬を膨らませて悔しそうに震えているグルミがいた。

目の前には余裕の笑みを浮かべている双護が。机の上にあるオセロは駒の全てが双護の色である黒に染まっている。

 

 

「へぇ、強いんですね。双護さん」

 

「きぃぃ! くやじーッ!!」

 

 

それを、車椅子に座っているユリンは微笑んで見ていた。

同じくテーブルに座ってそれを見ているレイン。ふと――、我夢は疑問をつぶやく。

 

 

「お二人は、どういう関係なんですか?」

 

 

黄色い髪に青い瞳。レインとユリンは似ているが――、兄妹ではないと。

 

 

「オレ達は同じ国の生まれなんだ。だから特徴が似ているだけ、よく誤解されるけどね」

 

 

自嘲気味に笑うレイン。

周りにもっと同じ人間がいれば誤解される事はないのだろうが、見ての通り、ユキミ達の髪の色は違う。

 

 

「逃げて――、来たんだ。国から」

 

「え?」

 

「治安が悪くてね。それでも男は国の為に死なないとダメだった」

 

 

しかし逃げた。なぜか? 決まっている。

 

 

「怖かった。死ぬのが。それに離れたくなかったんだ……」

 

 

レインは、双護たちのオセロを見て笑っているユリンを暖かい目で見ていた。

それが二人の関係性を我夢に教えた。怖かった、離れるのが、別れるのが、愛がそこにあったからだ。

 

 

「だから逃げた。それでこの結末さ。随分、皮肉なものだろ?」

 

「そんな事は……」

 

「いいんだ。これも運命さ。我夢くん、キミに大切な人はいるか?」

 

 

我夢の脳裏にアキラの笑顔が浮かぶ。

死なせたくなかったから、世界を相手に戦った。その記憶はまだ新しい。

 

 

「いますよ」

 

「今、どこに?」

 

「……分かりません」

 

「そうか。辛いな」

 

 

何も言えなかった。

我夢はきっとまた会えると信じているし、事実ゼノン達が我夢を見つければアキラとは会えるのだろう。

だとすればその重さはレインとは比べものにならない。レインとユリンは日々、確実に別れへ近づいていくだけなのだから。

 

離れたところに座って紅茶を飲んでいた司も複雑そうに視線を落とす。

何をすればいいのか、司もまだその答えは出ない。今まではなんだかんだ、大ショッカーを倒せば問題は解決してきた。しかし今回、相手が病となると話は変わってくる。

 

 

「!」

 

 

すると歌が聞こえた。

視線を移すと、暖炉の前にあるロッキングチェアに揺られながら、ユキミが歌をうたっているのが見える。

 

 

「綺麗だ――」

 

 

思わずつぶやいた。それだけユキミの歌声が美しく、聴くものを魅了するものがあった。

それはきっと声の周波数であったり、言葉の発声の仕方であったり、いろいろ想像はつくが、何よりも言葉が直接耳を抜けて脳に届くような、そんな歌声だった。

誰もが聞き惚れている。するとしばらくして、歌が終わり、ユキミは照れた様にはにかんで笑う。

 

 

「すごい! お上手なんですね!」

 

 

思わず我夢は拍手を。司達も釣られた拍手を行った。

現に、ユキミの歌は拍手を送りたいほどのクオリティだったからだ。

 

 

「えへへ照れちゃうな。私、お歌が大好きなの。司達はどう?」

 

「ま、まあ人並みには」

 

「じゃあ司が好きな歌を教えてよ! 私、もっと色々な歌が知りたいの!」

 

 

当然司が好きな歌とくれば仮面ライダーの歌なのだが、ココは一つ振り切れた司、人間と言うのは好きな物の話になるとテンションが上がるもの。

適当に挿入歌を二つ三つ歌うと、ユキミは興味を示し、一緒に歌いたいと言ってくれた。

 

 

「よし! じゃあ今日は特ソン祭りと行くぜーッ!」

 

「おー!!」

 

 

司が手を上げると、ユキミも一緒に手を上げる。

今は、ただ、全ての迷いを振り切る様に司は声を上げて歌った。

ユキミ達も歌っている間は辛いことを忘れられるのか、夜が来るまで――、夜が来ても歌をうたった。

 

 

 

翌日。吹雪も止み、晴れ渡る空の下に司達は立っていた。

もちろん行動に移すためだ。ルカルカに何か手伝える事はないかと聞くと、薪に使える木を切ってきて欲しいとの事。

ユキミは、丁度いい木がある所に、三人を案内する。

 

 

「はい、これ斧。危ないから取り扱いには気をつけてね」

 

「ああ、ありがとう」

 

「途中木に道しるべをつけておいたからね、それをたどれば簡単に屋敷には戻れるよ」

 

「ユキミさんはどちらへ?」

 

「うん、ちょっと、探し物があって」

 

 

ユキミは毎日山の中を歩き回っているのだと言う。

昨日もその途中で司達を見つけたのだとか。

 

 

「何を探してるんだ?」

 

「うん。クリスタルフラワーって言うの。お花なんだけど、それをお茶に入れて飲むと、どんな病気でも治るって言う……」

 

 

本で見たと言うのだが、所詮ソレは幻とされているもの。

見つかる保証なんて無い。しかし何もしない事は、ユキミにとっては辛いことだった。

ただ死を待つだけの人生か、それとも抗って欠片の可能性に賭けるのか、それくらは選ばせてほしい。

 

 

「なんて――、こんな話し暗いよね。じゃあお願いね? うまくいったら、今日はきっとみんなが集めた薪で焼いたチキンが食べられるよ。えへへ」

 

 

そう言ってユキミは司達に背を向けて、山の中に消えていった。

それを確認するとうなずき合う三人。司の作戦はこうだ。まずは司がディケイドに変身。

そしてファイナルフォームライドで響鬼をヒビキアカネタカに変える。薪になるだろう木の伐採はカブトに任せ、後はディケイドが響鬼に掴まって空から街を目指すのだ。

今日は晴れているので空から周りの景色がよく見渡せる。するとすぐに大きな街が見えてきた。

 

なるほど、ユキミの言うとおり街は大きな壁で囲われており、正門からではないと普通は入れない。

ここでユキミ達は弾かれるのだろうが、ディケイドは空から進入するためなんの問題も無い。

アッサリと街に入ったディケイド達は人気のない場所に着地、変身を解除して胸をなでおろす。

 

 

「すごく簡単でしたね」

 

「ま、さすがに向こうも空から入ってくるなんて思ってないだろうからな」

 

 

周りの建物の構造は石レンガや木造が多い。大きな城もあったため、時代がうかがい知れる。

おそらく飛行機など、あっても貴重なものか、旧型。そもそも、この雪の中では使えないだろう。

司と我夢はそれぞれ二手に別れ聞き込みを行う事に。金色の大鷲の目撃情報、そして隔離されているユキミ達の病気が何なのかを調べること。

しかしココで予想外の事が起こる。聞けども聞けども、何もないのだ。誰も大ショッカーの怪人を見たと言う事はないし、ユキミ達の事も知らなかった。

門番にしても、ユキミ達の写真が渡され、こいつらだけは入れてはいけないと言われているだけであった。おそらく国の中でも重要な人物しか知らない情報があるのか。てっきり大きな街に行けば何かあると思っていただけに、戸惑いは多い。

 

 

「うーん……」

 

 

酒場を出てため息をつく我夢。ゲームだとだいたい酒場に重要な情報が集まるのだが、結果は空振りだった。

肩を落として歩いていると、ふと、我夢は目の前から歩いてくる少女に目を奪われる。

 

 

「え!?」

 

 

思わず大声がもれる。

我夢の大声に反応したのか、歩いてきた少女もビクっと肩を震わせて立ち止まった。

駆け寄る我夢。その少女はまぎれもない、アキラにそっくりだった。

 

 

「あ、アキラさん!?」

 

「え? え……? アキラ?」

 

 

戸惑う少女だが、声もまたアキラとそっくりだった。

いやそっくりなんて物じゃない。見た目も同じ、声も同じ、髪が僅かに長い気がするが、それでもすべて我夢が知っているアキラと同じだった。

 

 

「アキラさんですよね! 天美アキラさん!」

 

「ち、違いますけど……」

 

「えッ!?」

 

 

戸惑ったように視線を泳がせる少女。我夢の迫力に怯えているようだ。

それはとてもじゃないが演技や嘘には見えなかった。アキラと同じ少女は、我夢のことを知らないらしい。

すると、中年の男女が声を上げた。

 

 

「キーラ! 知り合いかい?」

 

「あ、お父さん、お母さん!」

 

「ほら、早く行くよ!」

 

「え、あ、う、うん!」

 

 

少女はキーラというらしい。その両親はもちろん我夢が知っているアキラの両親ではない。

やはり別人の様だ。我夢はキーラに謝罪をすると、一歩後ろに下がった。するとキーラは小走りで我夢を通り抜けて両親の下に向かっていく。

我夢に一瞥もする事なく。

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、そういう事もあるかもな」

 

 

我夢から話を聞いた司は、一連の出来事をそう言った。

本当は城に入ってより詳しい話を聞きたかったが、それでは時間が掛かりすぎてしまう。

ましてや万が一にも帰れなくなってはユキミ達に不信感を与えるだけだ。だから司と我夢は同じやり方で一旦ペンションに戻る事にした。

 

 

「世の中には似ている人間が三人いるって言うしな。違う世界にくれば同じ声で同じ見た目の人間がいるって言うのは、ありえる話なのかもしれない」

 

「そうですか。でも、それにしたって似ていた……」

 

 

いや――、似ていたではなく同じだった。

なんだか複雑な話だ、愛した人と同じ容姿の少女に出会うとは。

しかし違うものは違うのだ、響鬼はスピードを速め、ペンションがあるだろう場所までやってくる。

細かな位置がイマイチ分からないので、一旦ディケイドが双護に電話をかけると、カブトゼクターが上空に舞い上がる。それを目印にディケイド達は双護のいた所に再び戻ってきた。

 

 

「おかえり。何か収穫は?」

 

「いや、それが何も」

 

「そうか。まあ、半日も無かったんだ。分からない事もあるだろう」

 

 

双護の隣には司と我夢が切ったと説明する分の薪が転がっていた。

マスクドフォームの力を使えばこれくらい一人で集めるのは簡単だったと。

すると丁度タイミングがいい事に。クリスタルフラワーを集めに行っていたユキミが戻ってくる。

 

 

「わぁ、凄いね、さすが男の子。凄く助かるよ」

 

「ユキミ、クリスタルフラワーは?」

 

「それが、ぜんぜん。やっぱり簡単には見つからないよね。さ、早く戻ろうよ」

 

「あ、ああ」

 

 

薪を抱えてユキミの背を追いかける三人。

木にくくり付けたリボンを辿り、三人はペンションに戻ってくる。迎えに来てくれたのはコハクだ。

彼女に案内されて司達は薪を指定の場所に置くと、家の中に入るように促された。

 

 

「あ、斧を預かるよ」

 

「あ、いいよ、持っていくよ。女の子には重いからさ」

 

「あー、馬鹿にしてー! 司たちはまだ素人だから、私の方が扱い慣れてるの! それに倉庫の鍵は私が持ってるから、ついでついで」

 

「そ、そうか? じゃあ――」

 

 

司は両手で斧を持つと、それをユキミに手渡した。

するとユキミは自慢げに鼻を鳴らして胸を張る。いつも薪割りは彼女の役目らしい。

 

 

「斧はね、本当にね、危ないんだよ。本当に切れるんだから」

 

 

バットの素振りをする様にユキミは斧を振るった。

ブォンと風を切る音がして、斧の刃は隣にいたコハクの首に抉り刺さっていく。

 

 

「ほらね、こんな風にね」

 

「―――」

 

 

え?

と、疑問が三人の脳をかける。力が強かったのか、血と共にコハクの首が宙を舞って雪の上に落ちた。

赤黒い色が白を汚していき、同じくして首を失ったコハクの体は地面に倒れた。

雪が、チラ、チラ、舞い落ちる。返り血がついたユキミは、再び斧を持つ手に力を込めると、無我夢中で走り出した。

 

 

「死ねぇえええええええええええッッ!!」

 

 

我夢の前で、ユキミは思い切り斧を振り上げた。

そしてあっけに取られている我夢を気にする事もなく、まるで薪を割るように力強く斧を振り下ろした。

 

 

「うぁ!」

 

 

我夢の体に衝撃が走る。見れば双護がタックルで我夢を吹き飛ばし、斧の軌道からズラしてみせる。

そしてユキミに掴みかかるのは司。何が起こっているのか――、彼には、彼らにはまだわからない。

 

 

「何をするんだユキミ!!」

 

 

嘘だ。嘘である筈、嘘に決まっている。

でなければ全く意味が分からなかった。我夢も、双護も、司も、ユキミが何をしたのか、何がしたいのか、未だに分かっていない。

死体はもう、そこに転がっているのに。

 

 

「司も死ねェエエェェ!」

 

 

目を見開いて斧を振るうユキミの顔はもはや別人であった。

人はココまで変わるのか、文字通り鬼のような形相で再び斧を全力で振りまわす。

ダメだ。コレ以上は本当に危ない。司は必死にユキミを説得するが、まるで話を聞いてくれる素振りはない。

こうなれば変身するしかない、司がディケイドライバーを構えた時だった。

激しい音が聞こえる。それは銃声。

刹那、ユキミの頭部が消し飛んだ。

 

 

「……ッ」

 

 

頬が塗れた気がして、司は手でその場所をぬぐう。

すると手が赤に染まった。そしてゼリー状の物体がこべりついている。

それが返り血に混ざった脳の一部である事を理解すると、司は腰を抜かしてへたり込む。

 

 

「な――ッ、な……!」

 

 

辺りには頭蓋骨の破片と、一つ、眼球が転がっていた。

それがユキミの物だと分かったとき、司は自分の頭がおかしくなったのだと思った。

だってそうだろう? ユキミは本来歌が好きな優しい少女なのだ。決して斧を振り回して友人を殺すような人間ではない。

しかし、だがしかし、そう思った後で転がった死体を見ても、やはりそれはユキミだった。

ふと視線は移動する。それはユキミの後ろにいた、ライフルを構えていたグルミに対してだ。簡単だった、グルミがユキミを撃ち殺したのだ。

 

 

「危なかったね、司」

 

「な、な、何を……! 何で――ッ!?」

 

「決まってるよ、コレがあたし等の病気だから」

 

「え? え……?」

 

 

発狂病。

ペンションに戻った司達に、ルカルカはそう説明してくれた。

文字通り、ある日突然性格が凶暴化してしまう病である。一人になると発病するケースが多いので、ユキミ達は一緒に暮らしていたのだ。

 

 

「それでも発病が抑えられる訳じゃない。あれは、未来の姿だよ」

 

 

窓の外を指差すグルミ。轟々と燃える炎があったが、当然その中にはコハクとユキミの死体がある。

司達はてっきり、皆がユリンが患っている病を抱えているのだとばかり思っていたが、それは違うのだ。

ユリンが車椅子なのは、別の病に彼女が掛かっているから。

つまりユリンは二つの病を背負っているのだ。

 

 

「どうしてオレ達ばかりが、こんな……」

 

 

悔しげに拳を握り締めるレイン。ルカルカもグルミも何も言わずに同じような表情を浮かべるだけだった。

次は誰だ? それに怯えながらも、どうにもできないから目を逸らして過ごすしかない。

 

 

「な、治す方法は――?」

 

「残念ですがおそらくは……、だからこそ私達は隔離されているんです」

 

 

誰もが悲しみを目に宿していた。

ダメだ、それではダメだ。司は震える拳を握り締め、首を振る。

 

 

「クリスタルフラワーは?」

 

「それは――」

 

 

まずあるのか? 本当に存在しているのか、と言う話だが、答えはイエスだとルカルカは言う。

ペンションに残っていた本に、過去に医者がそれを使って"難病に苦しむ患者を救った"と記録されていたとか。

 

 

「場所も、ひとつだけ有力なものがあるんです」

 

「え? ど、どこですか?」

 

「近くに大きな雪山があるでしょう? あそこのふもとに洞窟があるのですけど、そこにあると噂はされています」

 

「だったら――」

 

「あそこには猛獣が住んでいて、洞窟に入って出てきた者はいないとされています……」

 

 

すると勢い良く立ちあがった司。

その表情には大きな焦りがある様に感じる。それはきっとユキミとコハクを目の前で死なせてしまった事が原因なのだろう。

ある種の強迫観念とでも言えばいいか。もちろんソレは大きな善意だ。司はもう、目の前で誰かが死んで欲しくはなかった。守れぬ辛さを知っているから。

 

 

「俺たちに任せてください!」

 

 

ルカルカは止めた。グルミも止めた。

 

 

「いいんだよ、オレは受け入れているから」

 

「そう。だからせめて、その時が来るまではレインとずっと一緒にいたいから。それでアタシは幸せだから」

 

 

レインとユリンはそう言った。

しかしそんな訳は無い。それは結局、諦めているだけだ。強がっているだけだ。

それはいつか、人は死ぬ。そういう生き物だ。事故、災害、病気、あるいは他者の手による殺人。

いろいろな死に方があり、人はどこか達観している面もある。いつ死ぬか分からない毎日をそういうシステムだと受け入れている。

しかしだからこそ、少しでも悔いの無い様に生きる。それは可能なのか? いや、難しいだろう。なぜならば人は次から次に欲望がわきあがる生き物だからだ。

きっと、レインも、ユリンも生きたいに決まっている。愛はより強い愛を生むからだ。

 

だから司達はペンションを飛び出した。

ルカルカから聞いた場所を探し、探し、探し、そして見つけた。

ぽっかりと開いた洞窟、その中は水晶が輝いていて、噂の通り目を疑うほど大きな白熊がすんでいた。

が――、しかし、司達には問題ない。カブトデュアルゼクターの能力の一つ、フリーズによって山の主の動きを止めると、ディケイドと響鬼は洞窟の奥を目指す。

 

するとどうだ?

本当にキラキラと光り輝く水晶のような花が咲いていたではないか。

そう、これこそがクリスタルフラワー。ディケイドと響鬼はその花を摘み取ると、カブトと共にペンションに戻る。

 

 

「わぁ! 本当に摘んできたんだ!!」

 

「ああ、ルカルカさん、これを紅茶に入れて飲めば解決するんだよな!」

 

「はい! ありがとう司くん! 双護くん! 我夢くん!」

 

 

皆、笑顔だった。

当然か、これでようやく苦痛の日々から開放されるのだから。

文献にはクリスタルフラワーが患者を救ったと掲載されていた。だからそれは最後の希望だった。それがここにある。笑顔になる。当然だった。

ルカルカは紅茶を用意した。はじめに飲むのは一番体調が悪いユリン。死を受け入れたと言っていたが、助かると分かれば本当に嬉しそうだった。

 

 

「ありがとう! ありがとう!」

 

 

レインは涙を流しながら司にお礼を言う。

司も嬉しかった。しかしコレは普通のことなのだ。なぜならば――

 

 

「じゃあ、飲むね」

 

 

仮面ライダーは。

 

 

「どう? ユリン、おいしい?」

 

「うん、なんかね、とっても良い匂い」

 

 

正義の――。

 

 

「あ」

 

 

霧吹きのようだった。ユリンは咳き込むと、勢い良くお茶を吹き出した。

治るのが楽しみで慌ててしまったのだろうか? 咳き込むユリン、グルミはやれやれと笑っているが――。

すぐにその表情が険しくなる。よく見てみると、ユリンが吹き出した液体は『赤』だった。

紅茶では、無かったのだ。

 

 

「ユリン? ユリン!」

 

「ゲホッ! ガハッ! ぅうぅッッ!」

 

 

再び咳き込む。すると勢い良く血が吹き出た。

え? え? え? 司達は立ち止まるだけ。動かなくなるだけ。ただジッと青ざめていくユリンを見ていた。

叫び声が聞こえた。レインがユリンを抱きしめ、必死に叫んでいた。

しかし、ユリンは三度吐血すると、そのまま動かなくなった。

 

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ずっと穏やかな表情だったレインが叫んだのは発狂病なのか、それとも『素』で狂ったのか。

それは分からないが、ユリンが亡骸に変わったのを確認すると、レインは狂ったように叫び、走り、棚から小さな拳銃を取り出すと、それを咥えて引き金をひいた。

血が、壁に張り付く。レインの死体とユリンの死体を見て、ルカルカはその場に崩れ落ちた。

 

 

「そういう事だったのかあ」

 

 

呆然と、淡々と、天井を見上げてつぶやいた。

 

 

「クリスタルフラワーって、毒だったんですねえ」

 

 

救うとは、治すとは、それはすなわち、安楽死。

間違ってはいない。ユリンはクリスタルフラワーにて救われた。病も消えた。これでもう彼女は苦しむことは無い。何も感じる事はない。

代わりに、命も消えたが。

 

 

「なんで……! なんでだよ!!」

 

 

グルミは呆然と立ち尽くす司の襟首を掴むと、拳を握り締めて思い切り殴りつける。

よろけ、倒れる司。彼は目を見開き、殴ったグルミを見た。

グルミは、泣いていた。

 

 

「クリスタルフラワーが最後の希望だったのに……! あれがあれば、まだあたし達は絶望しなくて済んだのに!」

 

「違う……」

 

「アンタが、あんたらが持ってきたから! 壊れたッッ!!」

 

「違う……!」

 

「あたし等にはもう何も残ってない! ただ死を待つしかなくなった!」

 

「違う!!」

 

 

司は手を伸ばした。しかしその手をグルミが跳ね除ける。

 

 

「お前があたし等の希望を打ち砕いたんだ! このクソ野郎ッッ!!」

 

「違う! 違う違う違うッ!!」

 

「違うもんか! 現に、今! レインとユリンが死んだ!」

 

「違う! 本当に違うんだグルミ! 俺は本当に皆を救いたくて!」

 

「愛し合ってたのに! 引き裂いた!」

 

「違う! 違うんだ! 俺はただ、俺はただ皆に死んで欲しくなかった! だからクリスタルフラワーを持ってきたんだ!」

 

 

司は頭を抱えて後ろに下がる。

違う、そんなつもりじゃなかった。

だって、だって仮面ライダーは――

 

 

「正義の

 

 

亀裂が走った。

暖炉の中にある火が原因なのか、部屋の中に陽炎が見えた。

司は目を閉じた。それはきっと反射的に。

 

笑い声が聞こえる。真紅に染まった空の下で二人の男女が笑いあい、楽しそうに走っている。

少女はスカートの裾を掴み、誰もいない赤い空の下を駆ける。それを追う子供も楽しそうに笑っていた。

誰もいない、何も無い、無限に広がる大地、そこにいるのはただ――、二人だけ。

 

少女と子供は、楽しそうに笑いながら――、泣いていた。

 

鬼さん、コチラ、手の、鳴る

 

ほ う へ。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

ゆっくりと目を覚ました少年の名前は、聖司。

司はぼんやりと鈍る思考のまま、体を起こすと、辺りを見回す。

見えたのは、ひたすら広がる青い海。

 

 

「海……?」

 

 

塩の匂いを嗅いで体がブルっと震えた。

ええっと、何がどうなったんだっけ? 意識が覚醒してくると、徐々に自分がいる場所の特異性が目に付いてくる。

 

 

「え!?」

 

 

そう、貝だ。サザエが司達を囲む様に円形に並んでいた。それもそれなりの量だ。自然にできたものじゃない。

しかも砂浜には不思議な魔法陣の様な物が描かれているじゃないか。

ふと周囲を確認すると、隣に我夢が倒れているのが見えた。司と同じく気を失っているのだろう。

 

 

「なんだよコレ」

 

 

これは一体――? さらに周囲を確認する司。

サザエを追っていると、ソレを並べている男が見えた。

 

 

「ってお前かよ! 双護!」

 

「ん? ああ、起きたか司」

 

 

サザエを並べ、砂浜に魔法陣を書いたのも双護だと言うことだ。

 

 

「なんでそんな事……」

 

「お前達が早く目覚める為に、目覚めの儀式を行うためにな」

 

「普通に起こせよッ!!」

 

 

司は呆れた様にため息をつくと倒れていた我夢の肩をゆする。

すると唸り声をあげて目を覚ます我夢。先ほどの司と同じようなリアクションを取ると、キョロキョロと周囲を確認する。

 

 

「ココ、どこでしょう?」

 

「分からない。砂浜みたいだけど」

 

 

遠くの方に大きな島が見える。

振り返り自分達がいる場所を確認すると、どうやらココも島の様だ。そこそこ大きさはあるみたいだが、言うても向こうに見える大陸とは比べ物にならない。

さてどうしたものか、大陸に向かってもいいが、ココで目覚めたのは偶然なのか、それとも意味があることなのか。

 

 

「おーい! ゼノン、フルーラ!!」

 

 

大声で呼んでみるが反応はなし。司の声が虚しく響くだけだった。

 

 

「困りましたね。確か僕達は――」

 

 

記憶を思い出させる三人。

いつもの様に大ショッカーの企みを阻止したはいいが、学校に戻って、それから自分たちを呼ぶ声が聞こえて、それでブラックホールに巻き込まれた。

そして気づけば、ここに。

 

 

「普通に考えて、別の世界に送られたと考えるのが妥当だな」

 

「ワームホール的なやつか。世界と世界を繋ぐトンネルに巻き込まれたのかもしれない」

 

「大丈夫なんですか? 世界はたくさんあるんですよね? 僕達そこではぐれたなんて……」

 

「ゼノン達だって馬鹿じゃないんだ。俺たちがいなくなった事にはちゃんと気づいてくれるだろう。だから問題は、どれだけ掛かるかだな」

 

 

とりあえず腰を下ろす三人。

 

 

「それにしても夢を見てたよ。あんまり良い夢じゃなかった」

 

 

雪の中で目覚めて、それから少女と知り合って、それで、結局守れなかった。

 

 

「え? つ、司先輩もですか? 僕も見ましたよ」

 

「え?」

 

「奇遇だな、俺も見た」

 

「本当か!?」

 

 

不思議な話だ。三人がそろって同じ夢を見るとは。

しかも詳しく話してみると、内容はもちろん、出てくる登場人物まで同じなのだ。

コレには驚く司達。しかしふと頬を抓ってみると、確かな痛みがあった。

 

 

「どうやらココが現実みたいだな」

 

「それにしても不思議ですね。どうして同じ夢だなんて」

 

「もしかしてそれが俺たちがココに来たヒントになるのかもしれない」

 

 

ブラックホールに入る前に一同は助けを求める声を聞いている。

その声の主が自分たちに同じ夢を見させたとすれば、説明のつく話だった。

 

 

「これからどうしようか。大陸に行けば街もありそうだけど、ここは無人島っぽいからな」

 

 

海は変身すれば簡単に渡る事ができる。

マシンディケイダーは呼ぶ事はできなかったが、ヒビキアカネタカを使えば余裕だろう。

 

 

「しかしこの場所にも何かあるかもしれない」

 

「確かに。じゃあ少し探索してみましょうか」

 

 

食料は貝や魚があるし、火は響鬼が起こせる。

寝るところも洞窟か木の下であれば何とかなるだろう。

とりあえず三日間。それで何も無かったら大陸に行こうという事で司達は探索を開始した。

 

まず一日目。分かったことは、やはりココは無人島である事だ。

二日目、洞窟はあるが、とくに何かがある訳ではなかった。

三日目、猛獣はいない。遺跡でもあればと思ったが、森が広がるだけで何も無かった。

夕方、明日は大陸に行ってみようと三人は決める。夕日が見える砂浜で、三人は夕食の魚を獲得するため、釣竿を並べていた。

 

 

「それにしてもなんだか空が変だな、この世界は」

 

「え? そうですか、普通だと思いますが……」

 

「ふっ、俺は夕日検定四段の持ち主だぞ。見くびってもらっては困る」

 

「いつの間に取ったんだよそんな資格……。まあいいや、で? どこが変なんだよ」

 

「いや、たいした事じゃないんだが、空のコントラストが少しおかしい。濁っている様な」

 

「世界が変わればそれだけ違う空もあるだろ。別に気にすることじゃな――」

 

 

視界が揺らめいた。

めまい? いや、そうではなく、遠くの方が本当に揺らめいている。

 

 

「陽炎だ」

 

「そう言えばあの夢の中の世界も最後は陽炎が――」

 

 

何かが、はじける音がした。

 

 

「………」

 

 

ゆっくりと目を覚ました少年の名前は、聖司。

司はぼんやりと鈍る思考のまま、体を起こすと、辺りを見回す。

見えたのは、ひたすら広がる草。

 

 

「土の匂い……」

 

 

なぜだか体がブルっと震えた。

ええっと、何がどうなったんだっけ? 意識が覚醒してくると、徐々に自分がいる場所の特異性が目に付いてくる。

 

 

「え!?」

 

 

そう、牛だ。牛が司達を囲む様に円形に並んでいた。それもそれなりの量だ。

北海道の牧場にでも迷い込んだか? そして周囲を確認すると、隣に我夢が倒れているのが見えた。司と同じく気を失っているのだろう。

 

 

「な、なんだよコレ!」

 

 

これは一体――? さらに周囲を確認する司。

牛を追っていると、一匹だけ牛の上に人がまたがっていた。

 

 

「ってお前かよ! 双護!」

 

「ん? ああ、起きたか司」

 

 

牛に跨っていた双護は、牛から降りるとそのまま真下へスライドイン。

もぞもぞと動くと、直後チューチューと音が。

 

 

「何吸ってんだよ!」

 

「お乳」

 

「止めろ! なんか絵づらがヤバイぞ!」

 

「珍しいんだ、野生の乳牛だぞ。並べるのに時間が掛かって疲れたんだ」

 

「じゃ、じゃあこの牛はお前が?」

 

「ああ。お前達が早く目覚める為に、目覚めの儀式を行うためにな」

 

「普通に起こせよッ!!」

 

 

司は呆れた様にため息をつくと倒れていた我夢の肩をゆする。

すると唸り声をあげて目を覚ます我夢。先ほどの司と同じようなリアクションを取ると、キョロキョロと周囲を確認する。

 

 

「ココ、どこでしょう?」

 

「分からない。草原みたいだけど。おーい! ゼノン、フルーラ!!」

 

 

大声で呼んでみるが反応はなし。司の声が虚しく響くだけだった。

 

 

「困りましたね。確か僕達は――」

 

 

記憶を思い出させる三人。

いつもの様に大ショッカーの企みを阻止したはいいが、学校に戻って、それから自分たちを呼ぶ声が聞こえて、それでブラックホールに巻き込まれた。

そして気づけば、ここに。

 

 

「普通に考えて、別の世界に送られたと考えるのが妥当だな」

 

「ワームホール的なやつか。世界と世界を繋ぐトンネルに巻き込まれたのかもしれない」

 

「大丈夫なんですか? 世界はたくさんあるんですよね? 僕達そこではぐれたなんて……」

 

「ゼノン達だって馬鹿じゃないんだ。俺たちがいなくなった事にはちゃんと気づいてくれるだろう。だから問題は、どれだけ掛か……」

 

 

ふと、言葉を止める司。

汗が一筋、流れた。それは司だけではなく、我夢はもちろん、双護も珍しく焦るような表情を浮かべている。

 

 

「なあ、我夢、双護……」

 

 

司は、司達は『覚えている』。

 

 

「この会話、何回目だ?」

 

「さ、三回目……です」

 

「どうなっている!」

 

 

衝撃に驚き、三人は反射的に立ち上がる。

激しく鳴り響く心臓の鼓動は、間違いなく司達が今ココに生きている事を証明するものだった。では一体、『あれ』は何だったのか。

 

 

「し、島は!? 海は? い、い、いや! 違う! 雪は!? ペ、ペンションは!?」

 

 

全てがゼロだった。何も無い、存在が無い。

何がどうなっている? 司達にはサッパリだった。ふと腕の皮膚を抓る司、すると痛みが襲ってきた。

間違いない、あの島でも同じように感じた痛みだ。

 

 

「今にして思えば、雪山で感じた寒さも本物だった」

 

「じゃ、じゃあ僕達は一体何故こんな――ッ!」

 

 

ケータッチを起動させる司。すると日付の部分がエラーと表示されている。

 

 

「エラー? どういう事だ……!?」

 

「と、と、とにかくッ、誰かに話を聞きましょう!」

 

 

後ろは、道はあれど地平線の向こうには何もなし。前には森があるが、その向こうに城が見える。

となれば、選択肢は一つか。三人は小走りに森に近づいていく。すると森の入り口に一人の女性が座っているのが見えた。

赤を貴重とした格好に簡単な鎧と剣を装備している。髪は茶色のショートカット、女性は司達に気づいたのか、ニコリと笑みを浮かべて近づいてきた。

 

 

「こんにちは。旅の人?」

 

「ま、まあそんな所ですけど……」

 

「じゃあもし良かったら護衛をつけない? 格安にしておくから」

 

 

話を聞けば王都に向かうために越えなければならない森には多くの危険があるらしい。

女性は剣に自信があるらしく、よく護衛をして金を稼いでいるのだとか。話を聞けば値段はそれほど高くない。

身体能力強化と同じく所持している金が、訪れた世界の通貨に適応する能力は消えていない。

ココは時間も惜しい、護衛をつければ話も移動しながら聞けるため、司は女性に指定された金額を支払い、契約を結ぶ。

 

 

「よろしくお客様。私はメリス、見ての通り剣士をしているわ」

 

「聖司です。こっちは我夢、こっちは双護」

 

 

早速と四人は森の中に足を踏み入れる。

森は木の量が多く、生い茂った葉のせいで今日は快晴だと言うのに森の中は夜のように暗かった。

なるほど、確かに不気味だ。話によれば危険な獣もいるらしく、それなりに広いために犯罪者やゴロツキが住処にしている場合もあるのだと。

しかし申し訳ない話、そんな事はどうでも良かった。司は早口にメリスに知りたい情報を投げかける。

大きく種類分けをするならば。

 

・大ショッカーを知っているか、見たことがあるか。

 

・病人を隔離している雪山を知っているか。

 

・この近くに無人島はあるか。

 

しかしこの三つ、いずれもノーであった。

あくまでもメリス一人だけの意見ではあるが、いずれも司達が満足できる情報は得られなかった。

そもそも雪山と言うのがメリスが最も首をかしげる部分である。確かに季節によっては雪は降るが、今の季節は雪山など存在しないのでは、と。

 

 

「もしかしたら、明晰夢かもしれないわね」

 

「夢の中で夢だと分かるって言う、あの?」

 

「ええ。あなた達は雪山にいる夢を見ていたのよ」

 

「………」

 

 

確かに、そう説明せざるを得ない状況だ。

しかしアレは夢などではなかった。それは司も、我夢も、双護も分かっている。何か嫌な予感がする。この暗い森にいるから――、だろうか?

するとそのマイナスオーラに反応したのか、双護が目を細めて立ち止まった。

 

 

「何かいるな」

 

「え?」

 

「ええ、私も感じていたわ」

 

 

メリスは剣を鞘から抜くと、刃の先を草陰に向けて伸ばす。

すると草が動く音がして、直後小さな影が飛び出してきた。

 

 

「―――」

 

 

赤褐色の髪をドリル状のツインテールにした少女だった。

無音ながらも、口をあけて叫んでいる様な素振りで、手にはナイフが握られていた。

気になるのは少女が片腕だと言うことだ。体中に包帯が巻かれており、普通ではないことが明らかに分かる。

そしてその目には、ありったけの殺意が。しかし僅か一瞬の出来事だった。メリスは大地を踏み込んだかと思うと、剣のリーチをいかして迫る少女の喉を一突きに。

 

 

「―――」

 

 

剣を引き抜くと、血を流しながら少女は倒れる。

思わず駆け寄る我夢、当然、既に息はしていない。

 

 

「な、なにも殺さなくても……!」

 

「ダメよ。油断してはコチラが殺されるの」

 

 

そういう世界なのだから仕方ないと言えばそうなのだが、やはり引っかかる物もある。

すると双護は少女の死体に近づくと、口の中を確認してみる。

 

 

「舌がない」

 

「え?」

 

「この辺は訳ありの犯罪者が多いのよ。逆にそれだけ手段を選ばない人間が多いわ」

 

 

こんな風にね。メリスは再び剣を振るう。

すると彼女の背後にいつの間にか立っていた男が血を撒き散らして倒れる。白い髪で赤い目をした男だった。

それを見て司はなんだかとても寂しい思いに駆られる。当たり前の事だが、世界に明確な『(ショッカー)』がいなければ、悪は『人』になる。

だったらこの世界で、司は、何を倒せばいいのか?

それが、分からない。

 

 

「ココに止まっては危険よ。早く行きましょう」

 

「あ、ああ」

 

 

歩き出す一同。すると、倒れていた白髪の男が目を見開いて体を起こす。

 

 

「に……ッ、げろ!!」

 

「え?」

 

 

そこで男は事切れた。

すると、まるでそれに合わせる様に目の前で爆発が起きた。爆風で倒れるメリスや我夢。司と双護が前に出て確認を。

するとそこには、手を前にかざしているアギト、フレイムフォームが。

 

 

「あ、アギト!?」

 

「翼先生か!」

 

 

唸り声を上げるアギト。

確かに、その声は翼に似ているような気がしないではない。

しかしやはり確証は無く、そればかりかアギトはフレイムセイバーを構えて司達に襲い掛かってきた。

フレイムセイバーの形は翼が変身するアギトと同様、鍔の無い刀。アギトはそれを躊躇なく振るい、司達を一刀両断にしようと迫る。

何故だ? 何故アギトがココに? 理解が追いつかない。しかし確実に迫る刀、司と双護は身を低くして回避に徹する。

 

 

「先生! 翼先生なんですか!?」

 

 

反応は無い。帰ってくるのは刃だけ。

アギトが司達を殺そうとしているのは明白だった。

 

 

「どうする司!」

 

「ッ、一旦逃げよう!」

 

 

どこに? 分からない。ただメリスの手を引いて司達はアギトから背を向けて走り出した。

戦ってもいいが、森の中でフレイムフォームの力を使われては火事になる場合がある。そうなると人間であるメリスが危険だ。

最優先するべきは人の命、雪山の世界で守れなかった事がより一層その想いに拍車をかけているのだろう。

森を適当に走る司達。背後を振り返ると、アギトが追って来ているのが見えた。

 

 

「アレは誰なんだ!?」

 

「あ、アギト本編でも、アナザーアギトをアギトと見間違えるシーンがある。もしかしたらアギトは全て同じ見た目だったのかもしれない! そもそも、テレビ版のアギトと先生が変身したアギトだって同じ見た目なわけで……!!」

 

「つまりどういう事ですか!?」

 

「要するに、後ろのヤツも先生が変身したアギトと同じだけど、中身は違うのかも!」

 

 

そこで鳴き声が聞こえる。どこからともなく茜鷹、瑠璃狼、緑大猿が現れてアギトに纏わりつく。

どうやら我夢の危険を察知した様だ、一同はディスクアニマルに礼を言うと足を速めた。

 

 

「ねえ、あの化け物知ってるの!」

 

「知ってるっちゃ知ってるって所かな!」

 

「???」

 

 

草を掻き分けること数分、ひらけた場所に出ると、一同は小屋を見つける。

見たところ人が住んでいる気配はない。司は扉を蹴破ると中に転がり込んで息を潜める。沈黙する事数分、アギトの気配はない。

助かったか、立ち上がる四人。すると、我夢がふと下を見る。

 

 

「今――、何か声が聞こえませんでしたか?」

 

「声? そう言えば聞こえたような……」

 

 

床の下から声が聞こえると言う。耳を床に押し当てる司、すると確かに何か甲高い声が聞こえてきた。

双護は床を注意して確かめると、一つ足を踏んだ感覚が違う場所を見つけた。板をはずすと、地下へ続く階段が出てきたのは言うまでも無い。

 

 

「何かしら、ココ」

 

「行ってみようか」

 

 

薄暗いのでケータッチの明かりを頼りに下へ降りる一同。

重い石の扉を開くと、そこには目を疑う光景があった。

少女だ。白い髪に赤い目。下着姿で両手を鎖で拘束され、壁に磔にされている。少女の体には多くの傷があり、白い肌に赤い血液が垂れている。

 

 

「コハク?」

 

 

ふと、言葉が出た。

知っている顔が、そこにあった。

しかし少女はコハクではない。白の娘は、表情を絶望に変えて、叫んだ。

 

 

「逃げてッッ!!」

 

「え?」

 

 

刹那、理解する。白い髪の男も同じ事を言っていた。

それはてっきりアギトの事を指しているのだと思っていたが、違った。

悪意は、すぐ後ろに立っていたのだ。

 

 

「司! 避けろ!」

 

 

怒号が聞こえた。反射的に体を反らす司、するとわき腹を掠める刃。

司は見る。鬼のような形相を浮かべたメリスを。

 

 

「あ」

 

 

司が剣を避けたと言う事は、その先に剣が向かう訳である。

無慈悲の刃は司の前にいた白い少女の心臓に突き刺さり、一瞬で絶命させてみせる。

 

 

「あ。やっちゃったわ。まあいいか、どうせもう捨てようと思ってたし」

 

「な、なんで!!」

 

「あの二人は逃げたのね。まったく、飼い主に歯向かうなんてイラつくペットだわ」

 

「メリスさん!!」

 

「見つかっちゃったのね! 私のお家!!」

 

 

まるで話が通じない。

メリスが振るった剣を回避すると司達は周囲を見回す。そこには多くの血の痕、そして枷が置いてあった。

 

 

「まさかお前……!」

 

 

双護の言葉が何を意味するのは明らかだった。

先ほど襲い掛かってきた少女と男、あの二人はココに繋がれていたのではないだろうか。

メリスはただ笑い、何も言わず再び剣を突き出した。

次は双護に。しかしその剣は、装甲に弾かれる事になる。

 

 

「おかしいと思っていた」『HENSHIN』

 

「何ッ!」

 

「お前、あの二人を切った時に笑っていただろう――ッ」『Cast Off』

 

 

カブトの装甲が弾け飛び、その一部がメリスの肩にぶつかる。

衝撃で地面に倒れるメリス、するとぐったりとして動かなくなった。

その背後にはカブトが。どうやらクロックアップにて背後に回り、手刀で気絶させたようだ。

司達はそのままメリスを地下の空間に拘束しておくと、小屋を出て王都の方へ向かうことに。そこで警備兵にでもメリスのことを話せば逮捕してくれるだろう。

司達もまた変身し、ファイナルフォームライドを使用。オールクロックアップを発動し、空から王都を目指すことにした。

 

 

「おそらくあの女は警護をするフリをして、ああやって人間を監禁し、傷つけていたんだろう」

 

「そんな……。そんな悪い人には見えなかったです」

 

「人間とはそういう物だ。なあ、司」

 

「あ、ああ。人は見かけによらないってのは、悪い意味にも使われるからな」

 

 

王都にたどり着いた三人は取り合えずと、メリスを牢屋に入れてくれる人間を探す事にした。

そして一方、そのメリス。彼女は今、ヘラヘラと笑いながら森の中を駆けていた。

枷の鍵は服の裏にあったので、抜け出すのは簡単だ。意識を取り戻した彼女は今も剣を片手に新たな獲物を狙うため、ただひたすらに走る。

だが、その時、赤ん坊の声が聞こえた。

 

 

「オギゃあ、おぎゃア」

 

「なッ!」

 

 

刹那、メリスの腕に植物の蔦が巻きついた。

なんだこれは? 耳に張り付く赤ん坊の声もあってか、気味の悪い現象にメリスはすぐ短剣で蔦を切り払う。

しかし気づけば、足に、胴に、蔓が巻きついている。なんだコレは、気づけばメリスの回りにザワザワと集まってくる植物の蔓。

 

 

「ヒッ! ヒアァッ!」

 

 

逃げようとするが蔓が、蔦が、次々にメリスの体に絡み付いてくる。

 

 

「ゲェッ! がぁあぁあああぁ! ヒィィィッッ!!」

 

 

体が蔦に覆われていく。必死に手を伸ばすが、その手にも蔦が巻きついていた。

顔が植物に覆われていく。メリスは助けを求めるが、それに応えてくれる人間は皆、彼女自身が切りつけ、殺したではないか。

ふと、目だけを上に動かすメリス。するとそこには先ほどアギトと呼ばれた戦士の死体が吊るされていた。

装甲は砕け、体を突き破って蔓が生え渡っており、血がボタボタと地面に落ちている。

 

 

「な、なによコレはァア!!」

 

 

そこまでだった。メリスの体に迸る衝撃。

即死だった。感電死した彼女はズルズルと蔦に引き寄せられ、森の奥へと消えていった。

もう悲鳴は無い。赤子が無く音だけが聞こえてきた。

 

おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ。おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ

 

 

 

 

 

 

 

「う、う、う、歌と歪な夢が我等を狂わせたのだ。カイリス卿の声の波長は、我等の脳内に悪魔の種を植え付け、禁断症状を生ませる。それは酒の何倍もの効果――で、大麻などと言った類に近いと、わ、わ、私は考えている。や、ヤツらはそれを意図的に政治利用する事でこの国の恐怖と独裁を私達に悟られない水面下で行い、それが結果として支配に繋がったのだ。こ、これに気づいているのは――、私だけ。つまりこの国の国民は支配されているのに気づかず、狂った世界を狂った世界と認識しない。こ、この事態をとめられるのは私だけなのか――、それが分からない。疑問が、止まらぬのに……。ほ、ほら、全てはこの鳥が教えてくれた。私は正常であり、私が道しるべにならなければならないのかもしれないと――ッ」

 

何も入っていない鳥篭を見せられ、司達は困ったように視線を交差させる。

警備団にメリスの事を伝えた後、何か知っていないかと路上に座っていた男に声をかけたが、返ってきた言葉はコレである。

紫色の長髪で、髪を一つに結んでいる男性は、焦点の合わない目で鳥篭を見ていた。

中には烏がいるらしいが、先の通り、何も見えない。

 

 

「世界を変えなければ、世界を変えなければ、世界を変えなければ」

 

 

男はうつろな目で同じ言葉を繰り返す。

もはや、司達は見えていない。

 

 

「あー、あー、旅人さん? ソイツはイカレてるから話しかけてもダメだよ」

 

 

司達を不憫に思ったか、通りすがりの男性が声をかけてきた。

司の前にいるのは街の中でもちょっとした有名人らしく、頭がおかしいと話しかけてはいけない存在だった。

鳥篭を持った男性から離れ、もう少し話を聞くことに。

 

 

「あの人、声が禁断症状をどうとかって――」

 

「ああ、いや、ほら、どこにでもいるだろ? 政治が気に入らないって言ってる怪しいヤツ。何か理由をつけたいのさ、自分が納得しないことにね」

 

「はぁ……」

 

「カイリス卿はとても歌がうまくて女性に人気があるからアイツは嫉妬してるんじゃないかな。ああそうだ旅人さん、よければ聞いていきなよ。カイリス卿はいつも広場で歌をうたうんだ」

 

 

王都の名物なのだとか。今は皆がそれを聞きに行くのだろう、多くの人が広場に向かっている様だ。

これでは話を聞かせてくれる人間はいないか。仕方なく、司達は男性についていき、広場を目指すことに。

途中、男性にメリスにかけた質問と同じものをしてみるが、やはり彼も何も知らないらしい。

 

そしてふと、司はあるものが目に留まった。

皆が広場に向かっているから一層目立っていたのだろう。

喫茶店テラス席で、流れる人を見つめ、紅茶を手に持っている少女が。

 

 

「あぁ、アイツもほら、話しかけないほうが良い」

 

「え……?」

 

 

その少女は不思議な容姿をしていた。髪、目、肌、唇、服、靴、全てが白だった。

まるで全ての色を奪われた様に白いのだ。それだけじゃなく、顔のすぐとなりに顔があった。

つまり、頭が二つあったのだ。一つの頭部は眼球がくりぬかれており、現在両目には二輪、赤い華がある。バラ――、だろうか?

 

 

「アイツはロレンツァ。詳しい話は聞いた事ないし、知りたくも無いね、気持ち悪い」

 

「ちょっと、そんな言い方ってないんじゃ――ッ」

 

「事実だろ。見世物小屋で働いてたって聞いた事も――。あ、ごめん、ちょっと用事を思い出したから、先に行っててくれ。大丈夫、人の流れについていけば広場にはつくから」

 

 

そう言って男性は司達の前から姿を消した。

司達はため息をついて再び歩き出す。正直、気分が悪かった。

 

 

「人の嫌な所が目に付くな」

 

 

先ほどの少女、ロレンツァはおそらく病を患っているのだろう。

双頭症だったか、以前テレビで見た事がある。生まれる際に何らかの事が原因になり、双子の体がくっついてしまう、そんな症状だったか。

目が華だった方はおそらく既に息絶えているのだろう。そうなった場合、体が繋がっているのだからもう一方も危険だと聞くが、もしかしたら世界が違うゆえ、その知識には些細な差があるのかも。

 

 

「仕方ないさ。俺たちの世界とこの世界は違う。人は長い歴史をかけて自分たちの過ちを学び、理解を示してきた」

 

 

差別、争い、罪、それを間違っているものだと人は自らが気づくしかない。

しかし中々難しいものだ。世界形態や政治がそれを拒む。この世界も、いつかは理解と言う進化が訪れるのだろうが、全ては時代の闇と言ったところか。

 

 

「僕も見た事があります。日本で言い伝えられている妖怪の中には、外国の人だったり、所謂奇形児を化け物と誤解したものがある、と」

 

「無知は罪だ。俺達は人の痛みを知れと説く割りには、痛みを理解する知能が低い」

 

「複雑な気分ですね。人間が人間を拒む。僕達は一体、誰を守って、誰を救えばいいんでしょう?」

 

 

仮面ライダーの力は人を助ける為にある。

人を守るためにある。正義の為にあると――、我夢も双護も思っている。

しかしこう人の闇を見せられては、漠然とした疑問の様な物が浮かんでくる。どこか、人を守ることに疑問を覚えるような、そんな複雑な感情。

だがしかし司は首を振る。

 

 

「俺達は神じゃない。守るべき人間を正しく決める事はできない」

 

 

だからこそ、目の前で危険に晒されている人間がいれば助ける。

 

 

「それが、ライダーの力を得た俺たちにできる、せめてもの正義じゃないか?」

 

「そう、かもしれませんね……」

 

「ああ……」

 

 

我夢と双護はうなずくと、無言で司についていく。

ちなみに司と離れた男性は人の気配がない路地裏にやってくると、しゃがみこみ、地面に転がっている石を掴む。

握りこぶし程ある石をみて、男性は涎を垂らした。

 

 

「こ、これがたまらねぇんだ」

 

 

男性は石を口の中に入れて飲み込むと、頬を高潮させ、身を震わせた。

 

 

「これがたまらねぇんだ、たまらねぇ、ああ、たまらねぇんだ」

 

 

手当たり次第に石を飲み込んでいく男性。恍惚の表情を浮かべ、直後涙を流し始めた。

 

 

「ちがっ、たすけ――ッ」

 

 

石が胃を満たし、気管を防ぐ。

石のせいで喉が詰まった。呼吸ができない。男性はもがき苦しみ、その場に倒れ、そして動かなくなった。

 

さて、視点を司達に戻そう。

広場にやってきた司達。それにしても凄い人だ。見れば女性が多く、頬を赤くして何かを待ちわびている。

すると悲鳴ににた歓声があがり、一人の男性が姿を見せる。青い髪で、マフラーをしている男性、あれがカイリスと言う人物なのだろう。

 

 

「おお、カッコいいな」

 

「歌が上手なんですよね?」

 

「なるほど。言わばアイドルの様なものか」

 

 

すると悲鳴が聞こえた。

今度は黄色い歓声ではなく、本当の悲鳴だ。

なんだ? 司達が背伸びをすると、カイリスの前に男が立っているのが見えた。鳥篭を抱えた紫色の髪の男だ。

彼は銃をカイリスに向けると、声高らかに叫ぶ。

 

 

「正義を我が手にーッ!」

 

 

銃声が聞こえた。

銃弾はカイリスの頭に命中すると、真っ赤なバラを頭部に咲かせる。

 

 

「なん――ッ!」

 

 

凶弾に倒れたカイリスを見て、人々は悲鳴を上げて広場から離れていく。

人の波にもまれながら何とか踏みとどまる司達。

悲鳴の中に聞こえる笑い声。鳥篭を抱えた男は、声を上げて笑っていた。

 

 

「私は英雄だ! 世界を救ったのだーッッ!!」

 

「な、何が起こって――ッ、グッ!」

 

 

人の波が土石流の如く襲い掛かってくる。

この人の海では変身もできない。姿勢を低くして堪えるしかなく、なんとか踏ん張るのが精一杯の司達。

すると悲鳴に混じっていた笑い声がピタリと止んだ。なんだ? なんなんだ? まるで、狂った夢を見ているかの様な、淡い感覚。

ぼんやりと鈍る思考の中、人の群れがようやく司達の前からはける。

目の前に広がっていたのは、より、一層、信じられない光景だった。

 

 

「え?」

 

 

思わず、声が出た。

鳥篭を持った男が囲まれていた。鳥篭は、開いていた。

 

 

「アキラさん……?」

 

 

男は囲まれていた。

ファム、デルタ、カリス、天鬼、そしてキバーラがそこに。

 

 

『ファイナルベント』『Exceed Charge』『スピニングダンス』『ウェイクアップ!』

 

 

必殺技を告げる電子音が鳴り響く。

何故ココに仮面ライダーが? 理解が追いつかない。

しかし一人、体が動いている物がいた。

 

 

「司」『Clock Up』

 

 

司の肩に手が触れる。

赤い手が触れる。

 

 

「お前の言葉、心に染みたぞ」

 

「双――」

 

「確かに、俺はもう――、目の前で人が死ぬのを見ているのはできない」

 

 

気づけば、鳥篭を持っていた男は突き飛ばされ、その場所にはカブトが立っていた。

カブトの体にデルタが放つポインターが突き刺さる。天鬼の鬼石が構わず打ち込まれる。

 

 

「プットオン!」『Put On』

 

 

装甲を戻し防御力を上げるカブト。

そこへ、一勢にライダー達の必殺技が命中していく。

 

 

「双護!!」

 

「双護先輩ッ!!」

 

 

事態を理解した司と我夢が絶叫を。

すると爆発。いくらマスクドフォームの防御力とは言え、五人のライダーの必殺技には耐えられなかった。

そればかりか、五人は本気を打ち込んでいたから。カブトの装甲が弾け飛び、全身に傷を負った双護が地面に倒れる。

ボロボロには見えるが、まだかろうじて息はある。司と我夢はアイコンタクトを取ると、すぐに地面を蹴って双護を助けるために走り出した。

――が、しかし、奇しくも司達の動きに気づいたキバーラと天鬼がそれぞれ動き出した。キバーラは司の前に、天鬼は我夢の前に立ち、行く手を阻む。

 

 

「アキラさん、なんですか――ッ?」

 

「ッ! が、我夢君! 我夢君なんですか!?」

 

「は、はい。相原我夢です……!」

 

 

天鬼は嬉しそうに我夢の前に駆け寄ると、両手で肩を掴む。

 

 

「本当に! 本当に本当の我夢君なんですか!?」

 

「そ、そうですけど……」

 

 

何か、違和感がある。

一方それは司も同じだった。コチラはさらに大きな違和感が。

 

 

「夏美! どいてくれ!」

 

「誰だ、お前」

 

「え?」

 

「私に命令するな!!」

 

 

キバーラは司の肩を強く押して、突き飛ばす。

地面に倒れた司は、信じられないと言った表情でキバーラを見た。

その声は間違いなく、良く知っている『彼女』なのに。

 

 

「夏美、俺だ! 司だ!」

 

「知らないな。そんな名前は」

 

「な、何を言って!!」

 

 

その時、我夢の悲鳴が聞こえた。

司が反射的に視線を移すと、天鬼の爪が我夢の腹部に突き刺さっている所だった。

 

 

「なん――ッ、で?」

 

 

一番信じられないと行った表情をしていたのは当然、刺された我夢本人。

口から血が漏れ、膝が折れて地面につく。

一方でその前にいる天鬼は声を上げて笑い出した。

 

 

「アハッ! やっと、やっと会えた! 私の王子様! キャハハハ!!」

 

 

クールな天鬼からは想像もつかない笑い声。

何かがおかしい。いや、おかしいからこうなっている。それは三人が三人、理解できた事だった。

だから双護は、我夢は、血を吐き出しながら叫ぶ。

 

 

「司! 逃げろ!」「司先輩ッ、逃げてください!」

 

「ッ!」

 

 

キバーラの手が迫った。司はそれを蹴り飛ばすと、地面を転がり、跳ね起きると地面を蹴って走り出す。

我夢や双護に背を向ける形で。

 

 

「何だコレ! なんなんだよこれッ!」

 

 

分からない。何も分からない。司は自分の頭がおかしくなったのだと本気でそう思った。

そんな司を追うために足を踏み出すキバーラ。しかしそれを一人の少女が止める。

 

 

「いいわ、別に、追わなくて」

 

 

振り返る司。顔を上げる我夢、双護。三人は同時につぶやいた。

 

 

「ユキミ――?」

 

 

そこには緑の髪をツインテールにした少女が立っていた。

煌びやかなドレスを身に纏い、大きな宝石がついた杖をついている。

顔の半分をクローバーのマークが入った仮面で隠した少女は、司達の記憶にいた雪山で出会った少女、ユキミにそっくりだった。

異常だ。明らかに異常。再び叫ぶ我夢たち。司に逃げろと。

だから司はもう二度と背後を振り返る事無く走った。おかしい、異常だ、ダメだ、ココにいては疑問に飲み込まれる。

 

 

「ミリス様」

 

「いいの、追わなくて。怖いのよね。分かるわ。私も怖いから。でも大丈夫」

 

 

ミリスと呼ばれた少女は手に持っていた拳銃を倒れている双護に向けると、引き金を引いた。

 

 

「消えれば怖くないから。ゼロになれば何も感じないから」

 

「双――ッ!」

 

 

手を伸ばす我夢だが、全てが遅かった。

銃声は三発。倒れている双護の脳天を銃弾は貫き、双護は赤い華を頭に咲かせ、動かなくなった。

 

 

「双護先輩ッッ!!」

 

 

叫び声を無視する様にミリスは端の方に倒れている鳥篭を持つ男にも銃弾を撃ち込む。

男は銃弾を撃ち込まれると痙攣を起こして、しばらくもがき苦しんだ後、動かなくなった。

 

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

我夢は上ずった叫びを上げる。

しかしココでカリスが動き、我夢の首を手刀で打つと、気絶させる。

 

 

「さあ、帰りましょう、妹たち」

 

「「「「「はぁい、お姉さま」」」」」

 

 

ミリスの声。光が迸ると、ライダー達の変身が解除される。

ソレは紛れも無く、司達が良く知っている少女たちの姿だった。

ファムは美歩、デルタは友里、カリスは咲夜、天鬼はアキラ、キバーラは夏美。

皆ベレー帽をかぶり、クローバーの刺繍があしらわれた緑色の服を着ており、友里等は髪を下ろしているため印象は違う。しかし皆、確かに司達が知っている少女と『同じ』だった。

アキラと咲夜は我夢を抱え、ミリス達はそのまま城の中に消えていくのだった。

 

 

 




☆エピナビ☆


・仮面ライダー響鬼

2005年1月30日~2006年1月22日にかけて放送された平成仮面ライダー6作目だ。
鬼であるヒビキと、ヒビキにあこがれるもう一人の主人公、明日夢の成長を描いた物語になっているぞ。
元々は仮面ライダーとしてではなく別の特撮作品として企画されたり、脚本が途中で変わったりと、様々な裏事情をもったライダーでもあるんだ。
それ以前のライダーと比べると、戦いが仕事の一部であるためか、ライダーバトルは少なく、特撮部分よりは人間の関係性がメインになっていた気がするぞ!

この作品では、響鬼には司達の後輩である相原我夢が響鬼に、我夢の恋人であるアキラが天鬼に変身する。
我夢はアキラにずっと好意を寄せていて、ついに実ったと思ったんだけど、なにやら様子がおかしいみたいだね。
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