Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

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SONG19 不可視のデスティネーションタイム

 

 

「――ッ」

 

 

我夢が目を覚ますと、目の前にはアキラの笑顔があった。

 

 

「あ、起きた? うふふ、おはよう」

 

「アキラ――、さん?」

 

「はぁい、そうだよ、あなたのアキラだよ。寝汗凄かったよ? 怖い夢見てたの? 脱ぎ脱ぎしましょーねー」

 

 

アキラは笑顔で我夢に微笑みかけると、シャツのボタンを外し始める。

何が――、どうなったんだっけ? 夢を見ていたのか? 我夢はぼんやりと天井を見つめる。

いや違う! フラッシュバックするのは双護の最期。

 

 

「ん? どうしたの? そんなに悲しい顔して」

 

「アキラさん! アレは一体!」

 

「そうだ、キスだね」

 

「え?」

 

「キスしたいんだね。私もしたかったし良いよ。怖くないからね、きっと気持ち良いよ」

 

 

アキラは我夢の頬を撫でると、自らの唇で我夢の唇を塞ぐ。

良い匂いが我夢を包み、我夢の体から力が抜けていく。

――などと、思えれば良かったのだが、このキスは我夢に違和感しか与えなかった。双護が死んだんだぞ? なのに何故アキラはこんな――。

 

 

「あぁ、やっぱり、最高っ。我夢君、我夢くぅん」

 

 

アキラは唇を離すと、再び強く唇を押し当て、直後舌を出して我夢の唇をなぞる。

 

 

「ファーストキスなんだよ。コレ。あなたにあげた、私の最初のキス」

 

「やめッ! アキラさん!」

 

「気持ち悪い? どうすれば気持ちよくなれるの? なんでもしてあげるよ、私」

 

 

止めてくれ。我夢はその気持ちでアキラを払いのけようと試みる。

が、しかし、できなかった。

腕が、無かった。

 

 

「な――ッ!」

 

 

それだけではなく、足も無かった。

両腕、両足がなくなっている。

 

 

「なんだよコレ!!」

 

「きゃ! ちょ、ちょっと我夢君、うるさいよ!」

 

「黙れ! だ、誰だお前……!」

 

 

目を見開き、我夢は恐怖の表情でアキラを見る。

アキラだった。間違いない、声も、顔も、全てが我夢の記憶にあるアキラと同じだった。

しかし目の前にいるコイツは別人だ。我夢の本能がそう告げている。

するとアキラはシュンと表情を落としたかと思うと、直後氷の様な表情で我夢を睨んだ。

 

 

「やめてよ。萎えるから」

 

「は?」

 

「私の我夢君は、そんな事言わないから」

 

「なんだと……!」

 

「私はアキラ。それ以外の何者でもないの。我夢君だって我夢君でしょ? 私の理想の王子様。私を萎えさせる事なんて言わないの」

 

 

すると、別の声が聞こえてきた。

友里の声だ。

 

 

「ねえねえ、アキラ。あたしみたいにしなよ。喋られたらさ、イメージ壊れるじゃないのさ」

 

「なッッ!!」

 

 

アキラと我夢が寝ているのはベッドだ。巨大なベッド。

そこには友里も寝ているのだが、彼女の前には拓真が寝ていた。しかし我夢は彼を見た瞬間、青ざめ、全身に嫌な汗が浮かぶのを感じた。

拓真もまた両手と両足がなかった。いや、それだけじゃない。顎が無かった。拓真は首と眼球だけを動かして我夢を見る。

視線が語っていた。

 

 

『たすけて』

 

「拓真先輩! どうしてッッ!」

 

「はぁ? 拓真? ちげーしっ! コレはファイズ、あたしの救世主なの!」

 

「何を、言って……」

 

 

可愛らしい壁紙の部屋、ぬいぐるみはリボンがついた枕が部屋を満たす中で、どす黒い狂気が確かにあった。

 

 

「アキラさん……、僕の名前は?」

 

「相原我夢くんに決まってるじゃない。それが、本当の名前なんでしょ? 私の理想ぴったり! これ、運命だね」

 

 

理解してしまう。『我夢』と『ファイズ』それは、ただのお人形だと言う事を。

頭の中に描いた架空の王子さま。今は、たまたまそれが合致しただけにしかすぎない。

 

 

「ちょっとアキラ! ソイツ、ウザい! あたしみたいにしてよ!」

 

「えー、でもちょっとユリ姉ってば悪趣味じゃない? 顎と喉潰すって、反応を楽しめないじゃん」

 

「ばーか、心で会話するの。ねー? ふぁいずぅ!」

 

 

ユリは拓真である筈の少年の頬にキスをすると、優しく抱きしめる。

 

 

「あー、癒される。やっぱ人生は恋があって輝くものだね」

 

 

恋? 恋だと? 手足を切り取り、喉を潰し、顎を砕き、自由を奪い、言葉を奪い、それが恋?

馬鹿な。我夢は青ざめ、言いようの無い恐怖を感じる。

こいつ等は一体、誰なんだ?

 

 

「あ、お姉ちゃん」

 

 

すると部屋の扉が開き、他の女性陣たちが入室してくる。

挨拶を普通に返す面々。誰もが我夢の状態に疑問を持たない。つまりこれが普通であると言う事を受け入れているわけだ。

目を細める我夢。やはりどうみても知っている友人たちだ。だが、やはり我夢には同じとは思えなかった。

 

 

「アキラ、お人形、それにするんだ」

 

「うん、そう。可愛いでしょこの子、女の子みたい。まさに私の理想どおり!」

 

「面白いものを持っていたよ、ソイツ」

 

 

夏美が麻の袋を放ると、中からは粉々に砕かれたディスクアニマルと、破壊された音角が落ちる。

ゾッとする我夢。コレで活路を切り開くのは厳しくなった。

 

 

「はい我夢くん、チューしましょうねー」

 

 

我夢の頭を撫でて唇を奪おうとするアキラ。しかし我夢は歯を食いしばり、首を曲げて抵抗を示す。

口付けは愛を誓い合ったもの同士が行う行為だ。少なくとも、我夢が愛したアキラはどこにもいなかった。

キスを拒まれたアキラは唸り声を上げて震え始める。それを見て、笑う夏美たち。

するとアキラが唇をかみ、直後、平手で我夢の頬を打った。

 

 

「なんで嫌がるのよクソ! 私の我夢くんはそんな事言わないッ!!」

 

 

女性のプライドを傷つけられたが余程悔しかったのか、アキラは我夢の首を掴むと咲夜を見る。

 

 

「決めた、コイツの喉潰して、顎引っこ抜こ」

 

「ハハハ! 相変わらず強引なヤツだ」

 

 

咲夜が前に出て、我夢の顎を指で上げる。

 

 

「馬鹿が。おとなしく受け入れておけばいいものを」

 

「咲夜先輩! 僕が分からないんですか!」

 

「何を言っている。しかし、ふむ、よく見てみれば可愛い顔をしている。どうだ? 少年、私の足を舐めれば助けてやらない事もないが――」

 

「サク姉の変態。あくまでも我夢君は私のだから!!」

 

 

それを聞くと咲夜はやれやれと笑い、一歩後ろに下がった。

そして指を鳴らすアキラ。すると二人の兵士が室内に入り、動けない我夢を抱え上げる。

 

 

「はなせッ! くそっ! 放せよ!!」

 

「大丈夫だよ我夢くん。麻酔があるから痛くないからね。もう喋れなくなるけど、私と心でお喋りしようね。そうしたらもう嫌な事言わないでね。いっぱい愛し合おうね」

 

「はなせッ! 触るな!! クソッ! 放せェエエエエエッッ!!」

 

 

我夢の叫びが重い扉の向こうに消えていく。

これより始まるのは手術だ。腕と脚を切り取った時の様に麻酔をし、今度は喉と顎を潰し、アキラが望む人形に生まれ変わる。

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

司は跳ね起きると周囲を確認する。

ベッド、民家、ココはどこだ?

記憶の迷宮の中、司の中にフラッシュバックする光景。

あれは双護と我夢をおいていく形で、自分だけ逃げた。司は突如目の前に現れたキバーラたちが分からない。

アレは誰だったんだ? 本当に夏美だったのか? しかしだとすれば何故話しかけてもあの様な態度だったんだ?

 

操られている?

いや――、そんな次元じゃなかった。

それに、問題はその後だ。逃げていると、目の前に一人の青年が現れた。葉巻を吹かし、マフィアのような格好をした男が。

 

 

「珍しい異物が紛れ込んでると聞いてみりゃあ、なるほど確かに」

 

「ッ?」

 

「テストしてやるよ、ガキが」

 

「!?」

 

 

男の体がメキメキと音を立てて変身。

怪人、アリカポネとなり、ステッキを構えた。司の表情が変わったのは、アリカポネに金色の大鷲が刻まれていたからに他ならない。

 

 

「大ショッカーッ! やはりお前らがァア!!」『カメンライド』『ディケイド!!』

 

「ディケイドか。なるほどね」

 

 

ライドブッカーとステッキが交差し、互いは組合い、睨み合う。

 

 

「仮面ライダー、だったな。何者だ」

 

「うるせぇ! 夏美たちに何をした!!」

 

「さあ、なんだろうね」

 

 

激しく武器を打ち付けあう両者。誰もいない街の中を移動しながら火花を散らしあう。

しかし焦りを感じていたのはディケイドだけ。涼しげな顔で武器を振るうアリカポネと、次第に呼吸が荒くなるディケイド。

手にはビリビリとした感覚、そして打ち付けあう毎に伝わる確かなパワー。

ふと、振り下ろしたライドブッカーをアリカポネはその手でしっかりと掴んだ。刃に触れているのに手が切れる様子は無い。

 

つまりそれだけ、アリカポネが硬いのだ。そして硬さよりも気になるのはやはりそのパワー。

ディケイドが力を込めても、掴まれたライドブッカーはピクリとも動かなかった。

そればかりか、アリカポネが力を込めると、メキメキと音を立ててライドブッカーの剣に亀裂が走っていく。

 

 

「グッ! 馬鹿な……!」

 

「この程度か。だったら、問題ねぇな」

 

 

小さく鼻を鳴らすアリカポネ。するといとも簡単にライドブッカーの刃が粉々に粉砕された。

そんな馬鹿な――と、よろけるディケイド、その腹部に蹴りが叩き込まれ、うめき声をあげながら地面を転がっていく。

しかしその中でもディケイドはしっかりとライドブッカーからカードを抜き取っていた。そして立ち上がりながらカードを放り投げる。

 

 

「お前たちの目的は何だ!」『カメンライド』『カブト!』

 

 

ライダーフォームに変身したディケイドは間髪いれずクロックアップを発動。

様々な方向からクナイガンでアリカポネを攻撃する。

 

 

「教えられないねぇ。うん、うん」

 

 

しかしココで新たなるクロックアップの弱点が晒されることになる。

一見すれば圧倒的な力であり――、いや間違っていない。クロックアップは最強の能力と言っても良い。

しかし完璧ではない。範囲攻撃、拘束にての無効化、様々な弱点があるが、今回、アリカポネという存在が提示したのは――

 

 

「♪」

 

(コイツ――!)

 

 

アリカポネは口笛を吹いていた。

もちろんディケイドの攻撃の中で、だ。

そう、クロックアップは強い。しかし簡単に言えばそれはつまり高速移動。

パワーが強くなるわけじゃない。ディケイドが与える攻撃がアリカポネの防御力を超えられない場合、それらは全て無意味となる。

 

 

「クレイジーフィールド!!」

 

 

両手を広げるアリカポネ。するとその体を中心に強力な電磁波が放たれた。

それに触れたディケイド、するとベルトから火花が散り、ディケイドのクロックアップが中断される。電子機器を狂わせるアリ、クレイジーアントの力が備わっているようだ。

さらにアリカポネはよろけたディケイドに向かって、ステッキの中に仕込んであるマシンガンを連射した。

 

 

「グアアアアアアアアア!!」

 

 

あまりの衝撃にディケイドの体が浮き上がり、宙に舞い上がる。

なんて威力だ。マシンガンの一発一発が体の芯にまで響き、痛みと衝撃で体がバラバラになりそうだった。

そのダメージは想像を絶し、銃撃が終わるとディケイドは両膝を地面について動かなくなった。

アリカポネは小さく笑うと、咥えていた葉巻を放り投げ、羽を広げて飛び上がる。

そして煙を上げているディケイドへ向けて、思い切り拳を突き出した。

 

 

「シカゴバッカーノッ!!」

 

 

気取った言い方で放つ必殺パンチ。

それを受けると、ディケイドの装甲は粉々になり、司は口から血を吐き出しながら遥か後方へ吹き飛んでいった。

奇しくもその場所は橋の上。司は川の中に落ちると、そのまま力なく流されていく。それを見ながらアリカポネは笑い、新たな葉巻に火をつけた。

 

 

「ダメだありゃ、てんで相手にならねぇ」

 

 

アリカポネは人間体、ロギーに戻ると、帽子を押さえて踵を返した。

 

 

「クソッ! アイツ……!」

 

 

――思い出したと、司は立ち上がろうと力を込める。

しかし痛みが走り、表情を曇らせて停止した。どうやら骨の数箇所をやられているらしい。

正直相手にすらならなかったのがファーストバトルの感想であろうか。しかしアリカポネの存在は司にとって悪いだけの情報ではなかった。

やはりこの世界も大ショッカーが関わっているのだ。きっと夏美達の様子がおかしかったのも、彼らの仕業だろう。

 

だとすれば話は早い。

なんとか双護や我夢、他の仲間たちと合流して体勢を整えなければ。

そこでふと気づく。体には包帯が巻かれていた。そういえばココは小屋の中、という事は――

 

 

「あ! 起きたのね!」

 

「ッ、キミ達が俺を助けてくれたのか」

 

「まあそうだね、驚いたよ、川から人が流れてくるんだもん」

 

 

司を助けたのは、黄色い髪と青い目を持つ双子だった。

姉はリリス、弟はレリスと言うらしい。森を散歩して、お茶会をして、それからまた散歩をしている途中で司を見つけたのだとか。

 

 

「ありがとう。助かったよ」

 

「事情は知らないけれど、気をつけてね。命は大切なんだから」

 

「あ、ああ、気をつけるよ」

 

「そうだ。助けたんだよ、少し協力して欲しいことがあるんだけど」

 

 

なんだろうか? 司は了解すると、レリスに手を引かれて小屋の外に向かう。

司はてっきり農作業や大工関係だとばかり思っていたが、少し予想は外れていた。

いや、少しというのは御幣がある。だいぶ、だった。

 

 

「なん――ッ」

 

 

小屋を出て、目の前にあったのは巨大な扉。

モニュメント、そびえ立っている扉は石碑と言ってもいいかもしれない。

そこには様々な絵が刻まれており、なにか意味があるのだろう物だという事が分かった。

 

 

「コレは?」

 

「えい」

 

「え……?」

 

 

それはあまりにも普通のトーンだった。それに双子は子供だ。そして何より自分を助けてくれた。

だから油断した。レリスはナイフを司の腹部に突き入れていたのだ。

 

 

「なッ! 何を!!」

 

 

衝撃と熱い痛みが腹部に走る。

驚愕の表情で司は後ろへ下がり、信じられないと目で訴えかける。

しかし双子の表情は変わらなかった。司を傷つけた事になんの感情も抱いていないようだ。それが当たり前の事だと捉える。

これは、異常だった。

 

 

「さ、リリス」

 

「うん、運ぼうか」

 

「だ、だから何故――ッッ!」

 

「キミには鍵になってもらおうと思って」

 

「鍵ッ?」

 

「そう、あの扉の鍵穴に人間を入れると、開くって聞いたことがある。まあ生贄だよ」

 

「まさか、俺が――ッ!?」

 

「そう、生贄」

 

 

馬鹿な、とは思えど、目が本気だった。

いや、むしろそうである事が当然の様な目だ。司が死ぬ事に、司を殺すことになんの疑問も抱いていない。

 

 

「あの先に、何が――ッ?」

 

 

そこまでして求める物なのか? 傷口を押さえながら司は問いかけた。

 

 

「分からない」

 

「え?」

 

「何があるんだろう?」

 

「何もないんじゃない?」

 

 

最後の言葉は司ではなかった。

反射的に上を見ると、一つ、人影が降ってくる。思わずアッと声を上げる司。

姿を現したのは、仮面ライダーダブルそのものである。

 

 

「申し訳ないね。客人である筈のボク達が来てしまったせいで、ステージが滅茶苦茶になってしまった。どうか、許して欲しい」

 

 

ダブルは変身を解除するとゼノンとフルーラに戻る。

そしてゼノンは、トリガーマグナムの引き金を引くと、目の前にいたリリスを撃ち殺した。

眉間に赤い点を作って倒れるリリス。レリスは彼女を抱きしめると、驚愕に声を上げる。

 

 

「リリス!? リリス! うあァッ、うわああああああああ!!」

 

 

するとゼノンはレリスの頭部にも同じように銃弾を撃ちこみ、その命を奪う。

あっという間に地面に転がる二つの死体。司は反射的にゼノンの襟を掴む。

 

 

「な、何をしてるんだッ! まだ子供だぞ!?」

 

「放せよ。それどころじゃない。分かってるだろうが、君も」

 

「は、はぁ? い、いててッ!」

 

 

傷口が傷むのか、司はうめき声をあげてへたり込む。

一方、腕につけていたメモリガジェット・スパイダーショックを確認するゼノン。

スパイダーショックは時計であり、なにやら時間が気になる様だ。

 

 

「さぁ、来るぞォ」

 

「え? えっ?」

 

「さん、にぃ、いち」

 

 

陽炎が、揺らめく。

 

 

「ゼロ」

 

 

ゼノンの声と共に、空間が弾けとんだ。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

ゆっくりと目を覚ました少年の名前は、聖司。

司はぼんやりと鈍る思考のまま、体を起こすと、辺りを見回す。

見えたのは、ひたすら広がる街。ココは公園。司は頭を抑え、立ち上がる。

 

 

「ココは……?」

 

 

ええっと、何がどうなったんだっけ? 意識が覚醒してくると、徐々に――、分かる。

意味、時間、場所、全てが異質だった。

 

 

「ッ!!」

 

 

隣には我夢がいて、すぐ近くには双護が立っていて、二人とも既に目が覚めていたのか、双方目を見開いて沈黙している。

立ち尽くす双護、珍しい、汗が額に浮かんでいた。

 

 

「俺は何故……、生きてる――ッ?」

 

「こ、声が出るッ、手も足も――ッ! ぐぅう」

 

 

我夢は喉を押さえ、指を開いたり閉じたり、手の感触を確かめている様だった。

反射的に司も手で押さえた。つい先ほどまで熱い痛みを放つ場所を。もちろん今はそんなものはない。体は無傷、痛みなど、どこにも無かった。

しかし覚えている。あの痛みは――、間違いなく夢ではなかった。

 

 

「ぜ、ゼノンッ! フルーラ!!」

 

 

名を叫ぶ。今までだと無意味な行動も、今回は異なる結果を提示する。

 

 

「よばれて」「飛び出て」「「じゃじゃじゃじゃーん」」

 

 

遊具の影から姿を見せたのは司達も良く知っているゼノンとフルーラの姿だった。

今日も今日とて青いハットとスーツ姿のゼノン。赤いベレー帽にフリルやリボンがついた服を着ているフルーラ。

 

 

「な、何がッ! ど、どどどどうなって――ッ!!」

 

 

司はゼノンの肩を持つと強く揺すり、答えを急かした。

しかしゼノンは面倒くさそうな表情を浮かべると、司の手を弾き、近くのベンチに腰掛け、脚を組む。

そして、ニヤリと笑って一言。

 

 

「ボクにも、サッパリ分からない」

 

「は、はぁ!?」

 

「カブト、キミは死んだよね。なのになんで生きてるのさ?」

 

「響鬼なんて手足ぶっこ抜かれて、喉と顎を壊されて、でも今は元通り! 不思議ね!」

 

 

沈黙する双護と我夢。確かに、分からない。

 

 

「お前ら、まさか見てたのか! だったら――ッ!」

 

「だから勘違いしないでよディケイド。ボク達はあくまでもキミたちのサポーター。完全な味方じゃないんだ。頼りにされても困る」

 

「そ、それはそうだけど、せめていつもみたく初めに軽い説明くらい!」

 

「それだわディケイド。ワタシ達もできればそうしたかったんだけど、ほら、この世界ってイミフメーでしょ?」

 

 

ゼノンとフルーラも現在、状況が全く飲み込めていない。

しかし司達と比べると、何も知らないわけじゃない。だからこそ簡単に司達の前に姿を現さなかったのだと。

 

 

「ボクらも一回死んだよ。大ショッカーのクソ野郎にぶっ殺された」

 

「なっ!」

 

「でも生きてる。不思議ね、ミステリーね! ウフフフ!」

 

「ハッ! まさか愛の奇跡!? ボクのフルーラを想うラブパワーが神をも超越し復活の希望を生み出したのかぁ!」

 

「まあ素敵! やっぱり世の中、ラブアンドピースね!」

 

「そうともフルーラ! だから誓おう! 永遠のラブ!」

 

「「んー」」

 

 

いつもの様にイチャイチャと見せ付ける様に抱き合い、唇を近づけるゼノンとフルーラ。

しかしいつもの様に司達が止める気配は無い。三人とも青ざめ、深刻な表情を浮かべている。

ゼノン達もそれが分かっているのか、唇がいざ触れあうと言う所で停止し、ギラリと司達を睨んだ。

 

 

「ごらんの通りさ。死んでも生きてる。そればかりか、傷も無い」

 

「ワタシ達は当然、あなた達よりも早くこの世界に来た」

 

「世界が」「亀裂を」「走らせる」「陽炎がゆらめけば」「世界は」「変わる」「君達も知らないわけじゃ」「ないでしょう?」

 

 

淡々と連続して言葉を並べていくゼノンとフルーラ、そしてまたニヤリと歪な笑みを浮かべると、手を繋いで体の向きを司達に移す。

 

 

「その数は」「いまので丁度、10回目」

 

「まさか――、俺達は時間を繰り返してるのか?」

 

 

だとすれば傷が治っている事も、死んだ筈の双護がココにいるのも納得ができる。

しかし首を振るゼノン。確かに、初めは二人もそれを思った。しかし話はそう簡単なものではないようだ。

 

 

「戻ってるなら、この今はおかしい」

 

 

周りを見ればビルやマンション。少し向こうに行けば24時間営業のコンビニもあると言う。

時間が戻ったのならば司達は、城だの兵士だのがいる場所にいないとおかしい。だというのにココはどう考えても現代の日本だからだ。

 

 

「日付の概念がない。雪山の世界を覚えてるだろ? 今は寒いか? いやいや、むしろ暑いくらいだよ」

 

 

ループしている事については同意だ。

しかし時間が戻ったにしてはおかしい点が多すぎる。時代、季節、場所、全てが違うのだ。

時間が巻き戻っている点に関しては否定できない。しかし、正確に言うならば世界がリセットされ、作り直されている、と言うのが適切ではないだろうか。

 

 

「ボク達は前回の記憶を保持している。この点に鍵があると思っているけれど……」

 

「さっぱりだわ! ワタシたち、ぜんぜん分かりませーん!」

 

 

コンビニで買ってきた、あんまんを食べ始めるフルーラ。

どうやらゼノン達は既に適応しているらしいが、司達はそう簡単には割り切れない。

双護は撃たれた部分を撫でながら、目を細める。

 

 

「何故、今になって現れた」

 

「ボク達? そりゃあもう十分だと思ってね」

 

「十分? 何が?」

 

「最後のテストと行こうか」

 

「「「!」」」

 

 

トリガーマグナムを取り出すと、その銃口を司達に向ける。

いきなり何を? そうは思ったが、どうやらコレが最後のテストらしい。

 

 

「ディケイド、質問に答えろ」

 

「俺が……?」

 

「そうだよ。まあ知っての通り、ボクらはキミたちに試練を与えたよね。だからキミ達は変身できた」

 

 

その順番と内容を言ってみろ。それがゼノンが提示するテストだった。

何か意図があるようだが、それを探っていても仕方ない、司はゼノンに言われたとおり、質問の答えを返す。

それを聞くとゼノンは何度か頷いた後、トリガーマグナムを下げた。

 

 

「オーケー。やはりディケイドの破壊の力が不完全ながらも作用しているのか」

 

「ッ、どういう事だ?」

 

「ボク達には観測者の力があり、フェザリーヌが施した補正がある。だから大丈夫だったんだろう」

 

「そしてディケイドはもちろん、カブトと響鬼もディケイドと一緒に巻き込まれたから大丈夫だったのね!」

 

「話が見えない。もっと分かりやすく説明してくれ」

 

「キミ達が記憶を保持している理由と、未だに君達が君達であれる理由だよ」

 

 

ゼノンは袋からアメリカンドッグを取り出すと、気だるそうに頬張る。

 

 

「キバーラ達を見ただろう? アレ、誰だよって話」

 

「そ、そうだ! アレは一体誰なんですか!?」

 

 

今度は我夢が声を荒げる事に。あのアキラはアキラではなかった。

そればかりか夏美たちも違う。しかし確かに彼女達はライダーに変身していた。その矛盾が強烈な違和感になり、気持ちが悪い。

 

 

「ボク達はね、『眼』だから、君たちの健康状態なんかは把握してるんだよ」

 

 

デンデンセンサーには個人のデータを数値化して記憶させてあるとも。

そしてゼノンはそれを踏まえ、答えを告げる。もちろんゼノン達もあの夏美達はしっかりと見ていた。その上で、だ。

 

 

「アレは間違いなく、キミ達が知っているキバーラ達だ。君たちと一緒に旅をしていた仲間だよ」

 

「馬鹿な! じゃ、じゃあ操られて――?」

 

「でもね、些細な誤差があるのよ。数値で言うなら0.1%以下の誤差とか」

 

 

夏美である筈なのに夏美とは少し違う。

しかし確実に別人ではない。ゼノンは通常、そんな事はありえないと言った。だったらアレは本当に誰なのか。

 

 

「ボクも最初はショッカーの連中に操られてると思ったよ。でも、そんな次元じゃないんだよね」

 

「そう言えば……、雪山の世界で、僕はアキラさんに良く似た人に出会いました。その時、その女の子には両親がいて――」

 

「そう、それだよ響鬼。おそらく君が出会ったのはアキラ本人で間違いないだろうね。しかし別人だった。君の知っているアキラが、この世界じゃ別人になる」

 

「そ、そんな……! 訳が分からない!」

 

「ボクも分からない。しかしそうであると言わざるを得ないよね」

 

 

存在は同じでも、記憶が全く違う。

アキラはアキラであるが、アキラはアキラではない。異なる両親が既に存在しており、人生が既に用意されている。

ゼノンは司達が無人島で探索している間、アキラや夏美と接触している。

 

 

「彼女たち何してたと思う? お花の首飾りつけてフラダンスだぜ? 笑っちゃうよなぁ、何やってんだよってハ・ナ・シ」

 

「うぷぷ! 平和でよろしいわねぇ! 何の疑問も抱いてないんだから」

 

 

話を聞いても混乱したままの司と我夢。

しかし双護は顎に手を当て、冷静に考察を一つ。

 

 

「つまり、世界に居場所が用意されていると言う事か?」

 

「そうなるよね。今までだとボク達は世界移動をしてきた来訪者。つまりお客さんだった」

 

「でも今回は違うわ。世界が変われば、その世界にキバーラたちの居場所がある。そしてキバーラ達はなんの疑問も抱かず、用意された人生と言うストーリに適応してるのよ」

 

 

いや、違う、適応ではなく、支配と言った方が正しいか。

司達が持っている記憶を夏美達は持っていない。つまり世界に飲み込まれているのだ。司達と一緒に旅をしてきた事を忘れている。

いや、忘れているというよりは、知らずに育ってきたと言った方がただしいか。

 

 

「でも、ループしてる世界の中で、いない人間が確かにいる」

 

「葵、真由、良太郎、ハナ、里奈の五人よ」

 

「そういえば、良太郎とハナは友達に会いに行くって、言ってた様な……」

 

「だとすればいないのは学校待機組みだよね。その学校はどこ探してもないし、おそらく危険を察知したシャルルが学校を転送させたんだろうね」

 

「最悪死んでるってケースもあるけど、そうしたらループしたら生き返るものね」

 

 

おそらくシャルルも事態の異常性には気づいているだろうし、何らかの助け舟くらいは出してくれる筈。

しかしあまり期待しない方が良いとゼノン達は念を押す。ゼノンとフルーラが何も理解していないんだ、シャルルも同じだろうから。

 

 

「とにかく、ボク達だけでなんとかできればいいんだけど……」

 

 

何をしたらいいのやら。まあ普通に考えれば、ループを止め、大ショッカーを倒し、夏美たちを元に戻す。

それでなんとかなりそうだが、それが中々難しい様な気がする。

 

 

「世界がループすれば、倒したショッカーも元に戻るのか?」

 

「いや、そうじゃないっぽい。試しに2、3ほど殺したけど、もう出てこないから」

 

「ッ、結局あいつ等が仕組んでるって事かよ……」

 

「まあ、そう――、だろうね……たぶん、うん」

 

 

歯切れの悪いゼノン。どうやら本当に何も分からない様だ。

 

 

「司、キミ仮面ライダーが好きなんだろ」

 

「ま、まあ、そうだけど」

 

「じゃあさ、グドンとツインテールって知ってるかい?」

 

 

手で髪を掴み、二つ結びにしてみせるフルーラ。

 

 

「これは可愛い方のツインテール、いつまでも見ていられる方のツインテール」

 

「は、はぁ……」

 

「興味ない顔するなよ。ま、いいや。ボクが言ってるのはさ、海老みたいな方のツインテールなんだよ。ライダーの敵の中で、そんなヤツいた?」

 

「……記憶にない」

 

「あ、そう。だったら、うーん!」

 

 

ゼノンが言うには舌の長い女がグドンとツインテールをどうたらこうたら、歯切れが悪く、唸るように端的に言葉を漏らすため、司達も意味は理解できない。

 

 

「どういう事だよ、ゼノン」

 

「たぶんだけど、ショッカーの中に、変なのが紛れ込んでる可能性があるかもしれない」

 

「変、なの……、ですか」

 

「今はあまり気にしない方がいいかもしれないわね。どうせ倒す事になるんだし」

 

 

とにかく今はこの世界を理解し、問題を一つずつ解決していくのが先だろう。

 

 

「ループする条件は分かるのか?」

 

「確証は無いけど、だいたい分かってる。まず時間じゃない」

 

 

はじめは時間だと思っていた。平均すると約三日前後で世界が入れ替わるからだ。

しかし最長で二週間世界が移動しなかった事もあると言う。そこでゼノン達はループの条件が時間ではなく、別の何かではないかと睨んだ。

そしてゼノンは一つ、大きな理由を見つけた。すると司の脳にフラッシュバックする光景。ゼノンはループが始まるタイミングが分かっているような気がした。ある行為をしてから。

 

 

「あの二人か!」

 

「そう、黄色い髪をした青い目の男女。世界によっては兄妹だったり双子だったり、従兄弟だったり、赤の他人だったりするけどね」

 

 

夏美達は世界が変わっても存在したように、同じ様な人間が存在している。

その中で黄色い髪と青い目。レイン、ユリン、レリス、リリス、それこそが鍵だとゼノンは説いた。

 

 

「おそらく、あの二人が死んだ後にループが始まる」

 

 

そして、かつ――。

 

 

「ツインテールの女の子、いるよね。えーっと雪山じゃユキミ、前回はミリスだったっけ? あの子が死なないと黄色い髪の男女は死なないんだよね」

 

「なっ! そんな事が――ッ!」

 

「ありえるんだよねぇ、現にその条件が合致した時に陽炎が発生してループが始まる」

 

「とにかく、いずれにしても動こうか。今回は特例だ、ボク達も協力してあげるよ」

 

 

まずは色々と把握しておいた方がいいだろう。時間を確認するゼノン、時間は丁度朝も朝、ココが日本の現代ベースで助かったと。

日本が舞台だと分かりやすいものがある。ゼノンはそう言うと指を鳴らし、リボルギャリーを呼び出した。

中にはマシンディケイダーとカブトエクステンダー、凱火が待機していると言う。

 

 

「あったのか、俺たちのバイク! 呼び出せ無くて困ってたんだ」

 

「ボク達の眼としての力はまだ機能しているからね。肉体強化の補正が切れていないのも、ボク達が掛け続けているからさ」

 

 

夏美たちも例外ではないと言う。他世界で携帯が使えるのも、ゼノン達がそう設定し続けているから他ならない。

しかし今の夏美は夏美ではない。補正を切ってもいいが、あくまでもループが続く保証は無い。ゼノン達とてその辺りは慎重なのだ。

 

 

「バイクに関しては、これからは自由に呼び出せるよ」

 

「じゃあ、早速行きましょうか」

 

「え? 行くって、どこに?」

 

「言っただろ、現代で日本が舞台なんだ、選択肢は絞りやすいよね」

 

 

後方に見える建物を指差すゼノン。

なるほど、と、司達も唸り声を上げて納得を。

 

 

 

 

 

 

 

美しい青空が広がる夏のある朝、清清しい世界に慌しい声を上げて走っている少女達が。

ピーピー騒ぐ光景は微笑ましいやら騒がしいやら。

 

 

「もー誰よ! 深夜二時までDVD見ようって言ったのは!」

 

 

金髪プラス碧眼の少女が叫ぶ。頭には動物の耳に見える程大きな白いリボンが。

前髪は4つの白いピンで分けており、ショートの髪型がよく似合っていた。彼女の名前は(リン)

 

 

「お主じゃよッッ!!」

 

 

彼女の背中に飛び乗るのは同じ女子寮に住んでいる園田友里、ツインテールをブンブン揺らしながらリンにしがみ付いている。

昨日は彼女が借りてきたDVDを一気に見ようとリンが提案して夜更かし、結局寝坊してしまった。

 

 

「待ってくださいよぉ。リンちゃん友里ぢゃぁん……!」

 

 

後ろから気の抜けた声が聞こえてくる。

仕方ない、リンと友里は焦る気持ちを抑えて立ち止まった。後ろの方では呼吸を荒げながら同じ寮の光夏美がフラフラと走ってくる。

もはや歩いていると言った方が正しいかもしれない、ロングへヤーの黒髪が全く風になびいていないのだ。

最近は帽子やフードにハマっているらしいが、学校にかぶっていくと怒られるので校門前で帽子を取る毎日が。世知辛いね。

 

 

「おっそいぞー! 夏ミカン、早くしないと遅刻しちゃうよ遅刻!」

 

 

リンの好物はミカンである。夏美の終わりの文字とかけているのだろう。

 

 

「誰のせいですか、誰の! あと私は夏ミカンじゃなくて夏美です!」

 

 

夏美の言葉に舌を出して目を反らすリン、今こんな状況になっているのは間違いなくリンのせい。

彼女が昨日の夜に両隣の部屋である二人を半ば強引に引き込んだおかげで寝坊はするし。

しかし今から走れば何とか間に合いそうだ。三人は頷くと少し足を速め、道を進んでいく。

少し時間が経ち、周りには登校途中の学生がチラホラ見えてくる。よかった間に合った、三人は安堵の笑みを漏らすと速めていたスピードを元に戻す。

 

 

一方、そんな三人を近くにあるマンションの屋上から司達は確認していた。

 

 

「世界がループし、再構成されれば当然登場人物も総入れ替えが起きる。が、しかし、その中でも名前は変えれど同じような見た目、声、関係性を持つものをボクらは"チェインキャラクター"と呼んでいる」

 

「あなた達も分かっているわよね。夏美達以外に、見知った顔がそこにいるんじゃない?」

 

「ああ、あの黄色の髪の女の子がそうか」

 

「そう、あれがチェインキャラクターだ」

 

 

名前や年齢、些細な容姿は変われど、あくまでも一定の『設定』は守られている。

それは夏美たちも同じで、ゼノン達が観察している限りでは、たとえばアキラは我夢以外の人間に愛を誓うという事はなかった。たとえば友里の相手はあくまでも拓真だった。

 

 

「ある程度、人間関係は固定されている訳か」

 

「そう、チェインキャラクターはね」

 

「ワタシ達が調べた結果はね、夏美たち以外のチェインキャラクターは11人よ」

 

 

ユキミ達は名前が変わっているが、あくまでも規則性があり、ゼノン達は独自に呼び名を決めていた。

 

 

「今、夏美たちと一緒にいるのは"リン"だね。彼女はループにおける重要なファクターだ」

 

 

さて、夏美たちに視線を戻してみよう。

 

 

「お! 見てみぃリンさん。アンタのダーリンがおりましたでよ!」

 

「そ、そんなんじゃないもん! からかわないでよ!!」

 

「ぐひひひ!! 照れちゃって照れちゃって!!」

 

 

友里が指差した先にはリンと雰囲気が似た少年が歩いていた。

友人だろう小野寺ユウスケと楽しそうに話しながら歩いている彼、どうやらコチラには気づいていないらしい。彼の名は(レン)、鈴の従兄弟だった。

 

 

「従姉弟同士とは萌えますなぁ! キスはしたのかい君たちは!!」

 

「し、してない!!」

 

 

友里はよくこのネタで友里をからかうものだ。

鈴も鈴で少しぼやけた否定しかしない為にダラダラとネタが続いていく、それは口では否定しつつ内心まんざらでも無いからだろう。

夏美も仲のいい従兄弟は一人いるが歳が少し離れているし、他に熱をあげている人がいるため気持ちは分からなかった。

そして、それを見ていたゼノンはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「あれが"レン"。彼もまた重要なファクターだ。今回はリンとは従姉妹関係みたいだね」

 

「レンとリンが死ねば、次の世界に移り変わるわけか……」

 

「そう。何故かは分からない。見たところ何の力もなさそうだけど」

 

 

それにしても――と、司達は複雑な表情で笑顔の夏美たちを見つめる。

 

 

「お! わったるくーん!! おはようございます!!」

 

「ああ、おはよう姉さん」

 

 

聖亘、高等部の夏美とは違い中等部に通っている。

 

 

「おはようございます夏美先輩」

 

 

天美アキラもやって来た。亘の友人だ。軽い会話を済ませると亘たちは先に歩いていった。

同時にざわつき始める周りの生徒、間違いない! これは――ッ! と、夏美達はキョロキョロと。

 

 

「き、きなすったぞビューティコンビが!!」

 

「おおお! 後光が差しておる!」

 

 

友里がリンがわなわなと震えて歩いてきた二人を見る。

ビューティコンビ、誰がつけたか知らないが意味はド直球、そのまんま名前の通りである。

夏美達が通っている学校でトップクラスの美人二人、そんな彼女達は周りの視線を気にする事無く仲良く談笑しながら歩いていた。

 

 

「巡音先輩、咲夜先輩! 綺麗ですよねー」

 

 

顔良し、スタイル良し、性格よし(たぶん)! 超人美人がいたものだとつくづく思い知らされる。ああ、二人が通った後にはすごいいい匂いがする。

 

 

「恩恵を受けねば!」

 

「受けねば!!」

 

 

パタパタと三人のオーラをかき集める様にして胸へ寄せるリンと友里、二人とも胸のサイズが残念な事を気にしているんだろう。巡音と咲夜はバインバインだから。

キャッキャキャッキャとはしゃぎ合う夏美たち、本当に楽しそうだ。

対比、マンション上の司は苦虫を噛み潰したような表情でそれを見ている。

 

 

「咲夜の隣にいる巡音ってのはボクらは"ルカ"と呼んでいる。雪山ではルカルカとか言うメイドだったよね?」

 

「それにしても、フフフ、すごい馴染みようねキバーラ達。本当に昔からの友達みたい」

 

「どうなってるんだよ、クソ!」

 

「ハブられたからってスネんなよディケイド。ククッ、いやそれにしても本当にすごいよね、もうアレ洗脳とか言うレベルを超えてるよね」

 

「ッ、やはり先輩達は大ショッカーに……」

 

 

沈黙するゼノン。イエスとも、ノーとも言えない、それが正直なところであった。確かにこの世界には大ショッカーがいる。

が、しかし、だからと言って疑問点も残る。

 

 

「考えてもみなよ。平均一週間程度でループするんだ。だったらアイツ等、わざわざ最初から特別クラスと、チェインキャラクター全員を洗脳してるのかい?」

 

「それだけじゃないわ。架空の両親、変化した世界に適応する席を設けるのかしら? わざわざ、いちいち」

 

「それに、だったら、どうしてボク達にはアクションを起こさない? 敵もキバーラ達がイレギュラーだと言う事は分かってるだろ。だとすればもちろん、ボク達にだって気づいてる筈だ」

 

「だとすれば、ワタシ達も洗脳しようとするわよね?」

 

「確かに。俺はアリみたいなヤツと戦ったけど、この世界のことは知ってる素振りだった」

 

 

唸るゼノン。もしかするとショッカーは既にあった既存の『何か』を利用しているのではないだろうか。

 

 

「だとしたら、もっと詳しく知ってる人もいるかもね」

 

「あ、ほら、動くわよ皆」

 

 

どうやら夏美達は学校に入るようだ。

 

 

「さてと、じゃあそろそろ教室いこっか」

 

 

夏美達はハイテンションのまま校門へ。どうやら完全に間に合ったようだ。

そして玄関には見知った後姿があった。緑色のツインテールが綺麗に揺れている。

 

 

「おお未来ちゃん!」

 

「あ、夏美ちゃん。おはよう」

 

 

綺麗な声だった、夏美の親友である彼女は笑顔を浮かべて朝の挨拶を行う。同じ寮に住んでいる未来。

彼女は本当に歌がうまい、将来は是非歌手になって欲しいものである。等と考えている内に夏美はいつの間にか教室についていた。

今日も朝から守輪椿、条戸真志、犬養拓真、新意鏡治がテレビやゲームの話題で盛り上がっている。夏美は隣の席である空野薫に手を振ると他愛も無い話し合いを開始した。

その姿をガラス越しに、司達は学校の屋上にて確認する。

 

 

「"ミク"――。あれが最も、世界に影響を与えるチェインキャラクターだと思ってるよ」

 

「彼女が死ぬ事が第一フェイズよ。彼女が死ぬと、世界は大幅に勢いをつける」

 

「ユキミが……」

 

「その名は、偽りだよ、ディケイド」

 

 

視線を戻す。眠っている少女へと。

 

 

「ZZZZZZZ」

 

「あ、神威ちゃんはお疲れですか?」

 

「うん、昨日遅くまでゲームしててさぁ」

 

 

夏美の後ろでは神威と言う少女が寝ていた。黄緑色の髪が美しい、彼女の兄は紫色の髪をしていてコレまた美しいのだ。

一方、ゼノンはすかさず司達に説明を。

 

 

「黄緑色の髪は"グミ"と呼んでる。今は見えないけど、前回の時間軸でキミ達が話しかけた紫色の髪のイカれた男もまたチェインキャラクターで、グミと関わりが深い」

 

 

記憶を蘇らせる司達。紫髪の男とは鳥篭を持っていた男を言うのだろう。

カイリスを撃ち殺し、カブトが庇った男だ。

 

 

「彼の名前は"ガクポ"と呼んでる。グミと高確率で兄妹になるケースが多いんだ」

 

「兄妹、か」

 

 

双護がつぶやく。ココにはいない真由(いもうと)を思っているのだろう。

すると最初のチャイムが鳴った。すると同時に教室へやって来たのは茶髪の少女、手にタンブラーのジュースを抱えてストローを咥えている。

 

 

「あっぶねー、ギリセーフ?」

 

「超絶アウトです!」

 

 

白鳥美歩、同じ寮だが遅刻の常習犯。

性格はいいのだが日々の生活態度はよろしくない分損をしていると言えよう。今日も今日とてコンビニに寄って遅刻してしまった。

 

 

「でも今日はまだ早い方ね」

 

「うん、途中で姉御にあってね」

 

 

姉御とはこの学校の教師の一人だ。酒をこよなく愛する女で、これまた生活態度が生徒の反面教師になるくらい荒い。

現に美歩を送ってきたという事は彼女も遅刻である。

 

 

「教師が堂々と遅刻するとは由々しき事態ね」

 

「あはは……」

 

 

そもそもこの学校は中々個性的な教師勢が多い。神威の兄も教師だが着物で授業、青いマフラーをして授業中にアイスをかじっている教師。

先ほどの女教師は授業中に飲酒。お前らいい加減にしろってなモンである。

ちなみに、教室にはフロッグポッドが潜んでおり、拾った音声はリアルタイムでゼノン達の前にテレパシーと言う形で流されていた。

 

 

「青い髪でマフラーをしているのは"カイト"。赤い格好で茶色のショートカットが"メイコ"だ。この二人は比較的どの時間軸でも年齢の上のケースが多い。偶然じゃあ、無いかもね」

 

 

指差すゼノン。教室に

 

 

「やあ、おはよう皆」

 

 

そんなカオスな教師陣の中でも夏美達の担任である小野寺翼は真面目な人だった。

穏やかな性格で生徒達からの人気も高い。彼の言葉でやっと一日が始まる気がする。夏美はふいに周りのクラスメイト達を見た。

個性的だが本当に楽しいクラスだ、いつか卒業して別れる日が来るのだろうが――

その時までは、楽しくおかしくはしゃいでいたい。

 

 

「――なーんて回想でも入れてるんじゃないかなぁ? 青春ドラマっぽいだろ? フフフ」

 

 

既にコンビニで買っていた缶ジュースを開けながら、ゼノンは馬鹿にした様な笑みを浮かべている。

どうやら世界が変われば世界形態も大きく姿を変えるのだが、現代日本が舞台だと同じような光景で始まるらしい。既にゼノンはこの光景を三度見たと。

 

 

「待て、ゼノン。俺たちや鏡治たち、大ショッカーを除いたチェインキャラクターは11人のはず。三人足りない」

 

「そうだねぇ、ドリル髪の"テトラ"ちゃん、白い髪で赤い目の"ハク"ちゃん、同じく白髪で赤目の"デル"くんがいないよねぇ」

 

「この三人はね、いない時もあるの。よく分からないわ、条件が」

 

 

さてと、これからどうするべきか。

やはり今回も例外なく夏美達は世界に取り込まれ、ミク達、チェインキャラクターも役割を変えて世界に適応している。

 

 

「ま、ちょっと試そうか」

 

 

そう言ってゼノンは一気にジュースを飲み干すと、空き缶をプラプラと手で揺らしていた。

 

 

 

昼休み、夏美は購買でパンを買うために教室を出た。

今日は焼きそばパンにしようか、メロンパンにしようか、そんな事を考えていると、窓から何かが飛び出してきた。

 

 

「わ!」

 

 

驚き、立ち止まる夏美。何だこれは? 姿勢を低くして見ると、それはジュースの空き缶。

ごみを捨てるなんて――と、夏美は一瞬ムッとするが、すぐにそんな考えは吹き飛ぶことになる。

夏美が缶に気を取られていると、窓の外から黄色掛かった金色の腕が伸びてくる。

 

 

「え? ちょっ! きゃあああああああああああ!!」

 

 

腰に巻きついた腕、すると夏美の体が浮き上がり、窓の外へ消えていった。

引き寄せられ、夏美は一瞬で屋上に巻き上げられた。尻餅をつくと衝撃、夏美の視界に一瞬星が散る。

するとすぐに眉間に衝撃が。夏美がハッと前を見ると、そこには銃を突きつけているルナトリガーに変身したダブルが立っていた。

 

 

「はいはいはいはいー、動かないでねー? 動くと撃っちゃうよー」

 

 

ためしに屋上の手すりを撃ってみると、黄色い弾丸が手すりの一部を吹き飛ばした。

それを見て表情を変える夏美。トリガーマグナムは一見すれば玩具みたいな銃だが、当然ただの人間ならば即死させるだけの威力はある。

 

 

「う、撃たないでください……!」

 

「大人しくしてくれれば、ね」

 

 

スパイダーショックから糸を発射し、夏美の腕を縛る。

怯えた表情を浮かべる夏美、それに耐えられなかったのか、司は前に出るとダブルを跳ね除けて夏美の肩を持った。

 

 

「落ち着いてくれ夏美。俺は絶対にお前を傷つけないから」

 

「だ、誰ですか? あなた」

 

「……ッ!」

 

「プッ! ハハハ! おやおや!」

 

『キッツイわねー、ディケイド! くひひひ!』

 

 

その温度差に思わずダブルは笑ってしまった。夏美を落ち着けようとする司も、やはり分かっていたとは言えショックが心を刺す。

近くで見ていた双護と我夢も同じだろう、ダブルとは違い青ざめて息を呑む。

夏美が今、司を見る目は紛れも無く他人を見るソレだったから。

 

だが仕方ない。本当に他人なのだから。

ダブルは夏美のポケットから携帯電話を抜き取っており、ロックが掛かっていなかったため、アルバムの部分をタップしてみた。

するとそこには無数の写真が表示され、それは、それだけこの世界に生きる『夏美』と言う人間の思い出が存在している証拠だった。

 

 

「クハハハハハハ! 誰だよこのババア!」

 

 

なんと滑稽な話か。

ダブルは余計に可笑しくなってしまう。携帯の中には夏美と一緒にピースサインをしている初老の女性が見えた。

同じ女性と自撮りしている写真が多く、一部には初老の男性が加わっている写真もある。どうやら夏美の両親らしい。しかしダブルは知っている。光夏美に、親はいない。

司は目を細め、目の前にいる夏美に優しく声をかけた。

 

 

「夏美、落ち着いて聞いてくれ。お前は操られてる」

 

「え……?」

 

「俺を思い出してくれ! 聖司だ、一緒に戦ってきただろう!?」

 

 

しかし夏美は首を振る。

 

 

「い、意味が……、分かりません」

 

「大ショッカーだ。奴らがお前らに何か――、説明はできないけど、洗脳に近い事をしたんだ!」

 

「洗脳……? ですか」

 

「ああ、亘もユウスケも、みんな操られてる!」

 

「い、いきなりそんな事言われても……」

 

 

夏美は縛られている腕を見る。察する司、夏美視点いきなり縛り上げられ銃を突きつけられたのだ。

成る程、確かにこんな事をする人間を信用しろと言うのが無理な話か。司はゼノンに夏美の拘束を解いてくれるように頼んだ。

 

 

「あー……、うん、まあいいか」

 

 

ダブルが指を鳴らすとスパイダーショックの糸が消え、夏美は司に支えられて立ち上がる。

いまだに警戒しているのだろう、訝しげな視線を司は感じている。

 

 

「あなたは……私のなんなんですか?」

 

「従兄弟だ。俺は、亘の兄なんだ」

 

「……そうですか。分かりました、信じます」

 

 

少しの沈黙はあったが、夏美はコクリと頷いて、信用すると。

安堵が司の体を駆ける。なんだかんだ言っても夏美は夏美らしい。

そうだ、前回の時間軸では少し戸惑ったが、夏美は夏美なんだ。話せば分かってくれる。

 

 

「本当か! やった! ありがとう夏美!」

 

「他の人を紹介してくれますか? ええっと……」

 

「あ、ああ! 司だ。俺は司! えっとそれで、あそこにいるのが――」

 

 

まずは我夢を紹介しようと司は振り返る。

すると、直後、腹部に熱が走った。

お腹が熱い、司が下を向くと、腹からキバーラサーベルが伸びていた。

 

 

「え?」

 

 

薄ら笑いを浮かべ、司は夏美を見る。

夏美は欠片も笑っていなかった。

 

 

「え? えぇ?」

 

「同じ手は聞きませんよ! ダークマスター!」

 

「司!」「司先輩!」「チッ!」

 

 

ルナの力で手を伸ばすダブル。司を絡めとり、引っ張る事で夏美から引き剥がす。

引き抜かれたサーベル、司は血を撒き散らしながらダブルの隣に倒れた。

 

 

「な、なんで……?」

 

 

信じられないと言う表情で司は夏美を見る。

一方その夏美は大げさなポーズを取って跳躍。するとハートのエネルギーが体を包み、直後キバーラに変身すると給水タンクの上に立つ。

 

 

「月に代わって裁きを下すわ! ムーンライトパワー! キバーラ!!」

 

「は?」

 

「人の善意に付け込むダークマスターの使者! この私が、その企み、阻止してみせます!」

 

「誰だよダークマスターって。面倒だなぁ!」『ルナ・メタル!!』

 

 

飛び上がりサーベルを容赦なく突きつけてくるキバーラ。

ダブルがそれを受け止め、我夢達は司に駆け寄って無事を確かめる。サーベルは腹部を貫通しており、多くの臓器を傷つけていた。

普通ならば危険だが、肉体強化の恩恵もある。無理をしなければ何とかなるだろう。

 

 

「司、変身しろ! ディケイドの鎧がある程度、止血効果をもたらしてくれる筈だ」

 

「あ、ああ」『カメンライド』『ディケイド!』

 

 

倒れているディケイドを屋上の端に運ぶ我夢と双護。

少し離れた所ではダブルとキバーラが武器を打ち付けあい、肉弾戦を繰り広げている。

少なくともキバーラは本気に見えた。本気でサーベルを振るい、ダブルを殺そうとしている。

 

 

「夏美先輩……ッ、どうして!」

 

「話の内容から察するに、この世界にはダークマスターと言う敵がいるんだろう。その敵が以前夏美に同じように近づいた――、とか」

 

「そんな馬鹿な……!」

 

 

ディケイドは立ち上がると、フラつく足取りでキバーラの方を目指す。

止める我夢たちを振り切って、ダブルを跳ね除け、ディケイドはキバーラの前に立つ。

 

 

「おいディケイド!」

 

「俺に任せろ! 頼む夏美、攻撃を止めてくれ」

 

「うるさい! 悪は、滅びろ!!」

 

 

キバーラサーベルがディケイドの肩を打つ。

わき腹、胸、脚、ディケイドの体から次々に火花が上がり、うめき声をあげてディケイドは地面を転がる。

 

 

「夏美、俺はお前の敵じゃない! 味方なんだ!!」

 

 

ディケイドは手を伸ばした。しかしキバーラはその手を蹴り払うと、ディケイドの心臓を突こうとサーベルを構えた。

しかし衝撃、キバーラの体にカブトがタックルをしかけ、共にディケイドから離れていく。

 

 

「夏美! 落ち着け! 攻撃を止めろ!!」

 

「敵に言われて、攻撃を止める人がいると思いますか!」

 

 

すると今度は青い閃光が迸り、カブトの装甲を切り裂く。

なんだ? 一同が視線を移すと、キバーラの隣にガタックの姿が。

 

 

「来てくれたんですね鏡治くん!」

 

「ああ、そうだな! 俺が来たからにはもう安心だぜ!!」『Clock Up』

 

「チッ! 鏡治……!」『Clock Up』

 

 

赤と青が交差し、辺りを駆けまわりながら刃を打ち付けあう。

分かってはいたことだが、カブトが何を言ってもガタックには無意味だった。

 

 

「鏡治! いい加減にしろ!」

 

「いい加減にするのはお前だぜ! ああそうだ! 俺のガタックかリバーは悪を切り裂くんだッ!!」

 

 

ダメだ、このままでは、周りを見ていた我夢は響鬼に変身。

すると嫌な予感の通り、屋上に新たな戦士が飛び込んでくる。

 

 

「ウェアアアアアアア!!」

 

「うグッ!!」

 

 

ライトニングソニックが響鬼の背中を打ち、帯電しながら響鬼は地面を転がる

本気の威力だ。呼吸がとまり、頭の中が真っ白になる。

強烈な吐き気と、全身を包む痛み、振り返ればそこにはブレイドが。

 

 

「光! どういう状況だ?」

 

「椿くん! 気をつけて、敵は私達が洗脳されてるとかって、言葉で惑わせてきます!」

 

「洗脳だぁ? あー、光! お前昨日咲夜と何食いに行った?」

 

「ハンバーグです!」

 

「はいはい、お前は正常だよ!」

 

 

ブレイドは倒れている響鬼を掴み起こすと、その体に次々とブレイラウザーを振るい、傷をつけていく。

響鬼は苦痛の声をあげて後ろに下がっていく。抵抗しようにも『記憶』があるせいで本気で防御もできない。

思ってしまうのだ、向こうから攻撃を止めてくれる事を望んでしまう。

 

 

「椿先輩! お願いですから止めてください!」

 

「はは、ワロス。この前とパターン同じじゃねぇか」『ビート』

 

 

強化された拳が響鬼のわき腹を捉え、響鬼は血を吐き出しながらディケイドの隣に倒れる。

何故、こんな――ッ。悲しみと悔しさがディケイドの心に炎を灯す。気づけばディケイドは怒りに吼え、思い切り地面を殴っていた。

 

 

「出て来い大ショッカーッ! ぶっ潰してやる!!」

 

「ハッ、何を訳のわかんねー事を!!」

 

 

ブレイドが倒れている二人に攻撃を仕掛けようと走り出したときだ。

ディケイドの想いが通じたのか? その叫びに応える様に三つの影が飛び出してきた。

タツノオトシゴの化け物が。

 

 

「フォーメーション!」

 

「「「シードラゴン!!」」」

 

「イーチッ!」「ニーッ!」「サーッ!」

 

「「「ブルー! シュトローム!!」」」

 

 

らせんを描く巨大な水流弾が屋上に着弾し、激しい水しぶきと衝撃をもたらす。

巻き起こる水の爆発は間欠泉の様にディケイドたちを打ち上げ、そのまま校庭の方へと落下させた。

衝撃、体中に水が打ちつく感覚、唸り声や悲鳴が聞こえる中、マシンガンを連射する銃声が一番大きく耳に聞こえた。

 

 

「グワアアアアアアアアアアア!!」

 

 

弾丸、弾丸、弾丸。

銃弾の雨に混じり、巨大な火炎弾、そして鋭利な赤い棘が見える。

それらは立ち上がっていたブレイドに命中すると、その衝撃で鎧を粉々に破壊し、椿は地面を転がった。

そして聞こえる笑い声。ディケイドが音のした方向を見ると、学校の屋上にロギーが立っているのが見えた。

 

 

「また会ったなディケイド」

 

「アリカポネ……!」

 

 

ロギーの両隣にはイカファイアとトゲアリ獣人。

ディケイドの想いを受け取ってかどうかは知らないが、お望み通り大ショッカーが一同の前に姿を現した。

もちろん、それがディケイドにとってプラスになる訳は無いのだが。

恐怖が世界を包み、地獄が始まる。悪魔の軍団の手によって。

 

 

「ぐぅッッ!!」

 

 

体を起こした椿の背中に、激しい痛みが走る。

振り返ると、サソリの尻尾が突き刺さっていた。何だコレは、椿はすぐに棘を抜く様に離れる。

しかし次の瞬間、むせる様に咳をすると、大量の血が吹き出てきた。

 

 

「え? あ? がはっ! な、なんだよコレ! ゲホッ!」

 

 

口から流れる血を手で拭おうとする椿。しかし、その手が既に存在していなかった。

炭酸の様な音を立てながら、椿の右手がとけていたのだ。

 

 

「ひ、ヒィィィイ! お、俺の手がぁあぁぁあぁああッッ!!」

 

 

再び吐血。

何も見えなくなった。何も聞こえなくなった。良かったのは、苦しみは一瞬で終わることだ。

もちろん恐怖は、ずっと続くが。

 

 

「た、助けてくれぇえぇえぇええええッッ!!」

 

 

誰にでもない。ただこの恐怖から救ってくれる人を椿は求めた。

しかし本人は叫んでいたと思っても、実は声は出ていなかったのだから滑稽な話だ。

ほどけていく肉体は声帯を奪い、ただ空気や血が出すゴポゴポと言う音だけが聞こえている。

椿は倒れた。いや、もはやそれは椿ではなかった。ペースト状になった物体は人間ではない。

 

 

「椿――、先輩」

 

 

唖然――、響鬼達はそれを見ていたが、目の前にある光景を信じる事ができなかった。

嘘だ。嘘、嘘に決まっている。そんな馬鹿げた考えしか頭には出てこない。それはきっと椿の笑う顔が我夢には印象強いからだろう。

しかし今、椿は表情を絶望に染めて、溶けて無くなった。

そしてまた苦痛の声。高速で動く影がカブトとガタックをねじ伏せ、地面に叩きつける。現れた怪人はガタックの胴体を踏みつけると、声をあげて笑う。

 

 

「フハハハハ! このチーターカタツムリ様の力の前に、己の無力さを刻み込むが良い!」

 

 

その名の通りチーターとカタツムリをベースにした怪人、チーターカタツムリは高速で移動し、クロックアップに対抗してみせた。

 

 

「どけ! プットオン!」『Put On』

 

 

倒れたガタックはプットオンにて装甲を引き戻す。

周囲から飛んできた装甲の欠片達をチーターカタツムリは高速移動で回避。そしてマスクドフォームとなり、立ち上がったガタックへ向けて粘液を発射した。

 

 

「うわぁあッ! な、なんだよコレ! 動けない!!」

 

 

粘液はすぐに固まり、ガタックの身動きを完全に封じてみせる。

そして目の前から迫る。新たなる怪人。

 

 

「アリアリアリアリアリ!!」

 

 

突進してくる大柄な怪人。

しかしガタックは冷静だった。マスクドフォームの防御力は高く、かつ動けないからと言って何もできないわけじゃない。

肩から伸びるガタックバルカンを連射し、怪人を倒そうと試みる。

 

 

「え!?」

 

 

しかしガタックバルカンが無事に命中しても怪人の勢いは止まらなかった。爆炎を振り払い、衝撃をねじ伏せ、スピードを上げる。

 

 

「――るな」

 

 

ガタックはよりバルカンを連射する。

しかし怪人は全く怯まない。全く止まらない。

 

 

「来るな」

 

「アリアリアリアリアリアリィイイ!!」

 

「来るなァアアアアアアアアア!!」

 

「マンモォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

アリとマンモスを融合させた怪人、アリマンモスのタックルが動きを封じられていたガタックに直撃する。

誤解の無い様に言っておくが、マスクドフォームの防御力はかなりのものだ。その硬さは本物である。

しかし今、タックルを受けたガタックは文字通り粉々になり、その衝撃で体がバラバラになった。手足が吹き飛び、体がちぎれ、臓物と血を撒き散らしながら即死する。

体の一部がカブトの前に落ちた。カブトもまた、それを呆然と見ているだけしかできなかった。

 

 

「鏡――、治」

 

 

誰もが呆然と立ち尽くす。その中でディケイドたちの前に脅威はしっかりと存在していた。

ブレイドを――、椿を殺したサソリの怪人、"毒サソリ男"が姿を見せ、彼を中心として"アリマンモス"と"チーターカタツムリ"が両隣に並び立つ。

学校の屋上からはロギーたちがニヤニヤとそれを見ており、圧倒的な余裕が感じられた。

 

 

「ようこそディケイド。そして、さようならだ」

 

「何を――、言って」

 

 

地鳴りがする。

直後、地面が割れ、巨大な怪獣が二体、姿を現した。

一体は両手が鞭になっている地底怪獣"グドン"。体が棘のついた鎧の様な皮膚で覆われており、出現するやいなや鞭を振り回し街を破壊していく。

もう一体は古代怪獣"ツインテール"。芋虫の様な姿で、巨大な口がある顔を下に体が垂直に折れ曲がっており、上には二本の触手がある尾が。

ツインテールもまたグドンとは少し離れた場所で暴れ周り、次々に街を破壊していく。

 

 

「な、なんだよ……アレ」

 

 

はじめてみる巨大な生物に思わずディケイドは間抜けな声を上げた。

しかし事態はそう簡単なものではない。問題はあれが、明らかに敵だという事だ。

 

 

「逃げろ!!」

 

 

ダブルが叫んだ。

何も分からない。何も理解できない。しかし危険だけは理解できる。だからダブルは叫んだ。

そしてその叫び声に重なる様に笑い声。電流が空間に走り、学校の校庭すぐ近くに巨大な魔神が一瞬にして現れた。

"魔神エノメナ"。彼女はニヤリと笑うと、額から青い光弾を次々に発射、学校の校庭が次々に爆発に包まれる。

 

 

「ぐあああああああああ!!」

 

 

吹き飛ぶライダーたち。

その中で何度と直撃を受けたのだろう。さらにしっかりとロギーや毒サソリ男も攻撃に加わっていたのか、集中砲火を受けたダブルの変身が解除される。

地面に倒れるゼノンとフルーラ。いつもの服がボロボロに焼け焦げており、見えた素肌からは血が流れていた。

 

 

「ぜ、ゼノン――ッ!」

 

「フルーラァ……!」

 

 

離れ離れに倒れた二人は手を伸ばし合い、双方の手を握り締めようと体を引きずりながら少しずつ前へ進んでいく。

求めたのは体温と温もり、そして愛。だがその手と手が触れ合う前にエノメナが足を踏み出し、ゼノンを踏み潰した

 

 

「あ」

 

 

フルーラの表情が固まる。

エノメナが笑いながら脚を上げると、そこにはつぶれた肉が転がっていた。

 

 

「あー、やば、目覚めそう。ぐちゃぐちゃになった貴方もス・テ・キ」

 

 

ニヤリと、フルーラの唇がつりあがる。

そこでエノメナは光弾を発射。フルーラはエネルギーに包まれ、一瞬で塵になって死んだ。

エノメナの笑い声が響く。そして肩の角から紫色の電磁波がジワリジワリと広がっていく。

同じくして空に舞い上がるショッカー怪人ギルガラス。鳴き声をあげながらデッドマンガスを町中に散布していく。

そして怪人、パニックも登場、学校の屋上にてフルートを鳴らし、人の脳を狂わせる音楽を奏でた。

 

 

「それではごきげんよう、仮面ライダー」

 

 

オーロラに包まれ消えていく毒サソリ男達。

最後に、残っていたロギーがにやりと笑う。

 

 

「また会おうぜ、クハハハ!!」

 

 

グドン、ツインテール、エノメナ以外がディケイドたちの前から姿を消した。

すると声が聞こえた。大声が聞こえた。学校の中から、地平線の向こうから、人の大群が走ってきたのが見えた。

 

 

「ディケイドォオオオオオオオオオ!!」

 

「ワアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「殺す殺す殺す殺す殺すゥァァアァアアア!!」

 

 

発狂電磁波やデッドマンガス等の影響で凶暴化した人間が一勢にディケイド達のほうへ向けて走ってくる。

学校の窓から次々に飛び降りる生徒もシャーペンや箸を武器にディケイドたちを殺そうと全速力だった。

当然グドンたちの破壊はつづくが、落ちた瓦礫に潰されようとも、エノメナに踏み潰されようとも、人々はただひたすらに狂った脳みそからの指令を受けてディケイド、カブト、響鬼を殺そうと走る。

 

人、人、人、人、子供も大人も老人も。女の子もお姉さんもおじいさんも。

犬も鳥もネコも、警官も医者も泥棒も、この世界に生きる全ての生命が叫び声を上げてディケイド達のほうへ向かって来た。

何十、いや何百、いや何千の人間が校庭に走ってくる。

 

 

「―――」

 

 

ディケイドは武器を落とす。

響鬼もカブトも無言で立ち尽くしていた。無言で迫ってくる殺意を宿した人間を見ているだけだった。

ふと気配を感じて、ディケイドは横を見る。するとそこにはキバーラサーベルを構えて走ってくるキバーラが見えた。

 

 

「死ねええエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッッッッ!!!!!」

 

 

名前も知らない少年が一番乗りだった。

ディケイドに飛びつくと、次々に到着した人間が重なり合い、ディケイドは地面に倒れる。

お菓子に群がるアリのように、すぐにディケイドは、カブトは、響鬼は地面に倒れ、人の海の中に消えていく。

ディケイドは手を伸ばした。すると女の子が指を掴んで必死に折ろうと頑張っている。辺りには叫び声と、ディケイドたちを殴りつける音が響く。

人々はディケイドの装甲に拳が砕けても殴り続けた。人の大群に踏まれて亡くなっている者もそこ等へんに転がっている。

エノメナの笑い声を聞きながら、ディケイドの意識は次第に薄れていった。

 

ああ、そうしていると、ほら、見える。人に埋め尽くされても見える。

もうディケイドは、司は死んでいるのに見える。キバーラに刺し殺されても見える。

世界に揺らめく――

 

 

カゲロウが。

 

 

 

 

 

 

 

白い部屋があった。

女の子が笑っていた。男の子が笑っていた。

女の子はぬいぐるみを持って笑っていた。丸っこいシルエットのキャラクターだった。

 

 

「ほら、し ちゃん、可愛いでしょ?」

 

 

ノイズが走る。言葉が聞き取れない。

 

 

「ねえ、なんのキャラが好き?」

 

 

女の子は人形を男の子に見せた。

フィギュアだった。可愛い服を来た、女の子のキャラクターだった。

ノイズ混じりの声が、響く。

 

 

「私 好きな は、しん ゃんとかね、あとはやっぱりプ キ アは外せないよね!』

 

「ぼく、男の子だからウ トラ ンと、仮 ラ ダー! あと、ガン ムだよ』

 

 

男の子の顔から笑顔が消えた。

 

 

「会えるかな?」

 

 

女の子は笑う。

 

 

「会えるよ、生きていれば」

 

 

女の子の名前を――、知っている。

彼女の名前は、ミク。

 

 

「………」

 

 

ゆっくりと目を覚ました少年の名前は、聖司。

司はぼんやりと鈍る思考のまま、体を起こすと、辺りを見回す。

見えたのは、白。ココは病院。司は頭を抑え、椅子から立ち上がる。

病院の――、ココは入院病棟だろうか。その休憩室だ。ベンチがならび、自販機がおいてあり、電子レンジも見える。

そして、司の周りに、我夢が立っていた。双護が立っていた。ゼノンとフルーラが立っていた。

 

 

「ウ――ッ!!」

 

 

我夢は近くにあった洗面所に駆け寄ると胃の中にある物をぶちまけた。

と言っても食事を取ってはいないので出るものは胃酸くらいか。脳に張り付いた先輩達の死、そして自らの最期を思い出しているのだろう。

 

 

「あー、あー、はいはい、なるほどね。なるほどなるほど」

 

 

ゼノンは唇を吊り上げながら、手を握り合わせたり、体を確認するように首を動かしている。フムフムと唸りながら『生』を確かめ、実感しているのだ。

しかし直後、いつも浮かべている笑顔を消し、鬼のような形相を浮かべると自販機の横にあったゴミ箱を思い切り蹴り飛ばした。

 

 

「クソがァアッッ!!」

 

 

怒号は虚空に向けて。

初めてだった。ゼノンが物に当たるのを見るのは。それほどの感情をむき出しにしているのを見るのは。

そして力をなくしたようにフルーラと双護は、近くの椅子に崩れるようにして座り込む。二人の表情には珍しく、不安と確かな焦りがあった。

青ざめ、汗を浮かべ、双護は窓の外を睨んでいる。

 

 

「勝てるのか……? あんな奴らに」

 

「グドンとツインテール、あいつ等だけじゃなくて変なのもチェインキャラクターなのね……」

 

 

変なの――、とはエノメナの事だろう。

まさか、あんな巨大な化け物が――。

 

 

「勝つしか――ッ、ない」

 

 

司は震える拳を必死に押さえつける。

だってそうだろう?

 

 

「勝たなきゃ、俺達は終わりだ……!」

 

 

すると、ボウッと司の前に黒い球体が浮かび上がった。

羽の生えた、黒い球体が。

 

 

『希望はある』

 

「ッ!!」

 

 

球体は窓をすり抜け、司達の前に姿を現す。

 

 

『はじめてだ、記憶を保持している者と出会うのは』

 

「お、お前は……?」

 

『私はカラス。鳥篭の中の――、贄』

 

 

忘れそうだった。いや、忘れていた。

希望、可能性、なくしたとばかり思っていた。

しかし活路はあったのか。分からない。カラスは淡々と口にし、司達の周りを浮遊する。

 

 

「何か……、知ってるのか?」

 

『ああ、知っている』

 

「教えろッ! 今すぐ! 今すぐだ!!」

 

 

ゼノンはカラスを掴もうと腕を伸ばした。

カラスはそれをヒラリとかわすと、司の肩に止まる。

 

 

『何が知りたいのか……』

 

「ど、どうしてこの世界はループするんだ? 世界が作り代わり、時間が元に戻る? 死んだ人間が――、何故生きかえるんだ?」

 

『それは、創生される可能性、作品、いや世界――』

 

 

カラス自身、複雑な思いを抱きながらゆっくりと言葉を紡いでいく。

つまり、この世界はなんなのか、その質問の答えを、カラスはちゃんと知っている。

だから、司達に教える。これが正しいのか、間違っているのか、カラスには分からない。

 

 

『ココは、作り出された、世界。全ては――、私の責任だ』

 

「……ッ」

 

『ムネモシュネ、キミ達は、きっと巻き込まれたんだ』

 

「ムネモシュネ……?」

 

 

カラスの声は震えていた。

そこにはありったけの悲しみがあると、司達は気づいていた。

 

 

 

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