Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

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注意!

今回の話には少し強めの暴力表現があります。


SONG20 未体験ゾーン(前編)

 

私の名前は――、すまない、思い出せない。少し時間をくれ。

 

ああ、いや、思い出した。唐沢(からさわ)(すぐる)。それが私の名前だった。

私は人の『記憶』を研究する事を生業にしていた。研究機関はそれなりに大きく、私はそれを医療や娯楽に応用できないかと日々、研究を重ねてきた。

 

人の脳は不思議なものでね、私はその時期、幻覚や幻視を利用すると仮想空間を作り出し、それを応用したゲームの製作を行っていた。

研究機関で知り合った金居(かない)理亜(りあ)と恋に落ち、私は一人息子、燕芽(つばめ)を設け――。

そう。私は、幸せだった。

 

そして、私はその時から大きなプロジェクトを進めることになった。

人の脳に直接信号を送り、仮想現実へと送り込む事ができる装置。ムネモシュネの開発だ。

 

ムネモシュネは可能性の塊であった。二次元の少女との恋愛や、剣と魔法の世界でのファンタジックな冒険を擬似的ながらもリアルとそう変わらず体験できるゲーム。

 

もしくは視力や聴力を失った人でも再び元の体と変わらず生活できる様にする医療への追求。

もしくは、それはまた別の安楽死――。記憶をいじれば、苦痛なく死を迎える事ができる。

 

ムネモシュネは人の脳を支配し、希望を創造するノアの箱舟だった。

現実世界で絶望しても、仮想現実ならば幸せになれるかもしれない。そうすれば人は自殺を思いとどまり、ストレスを感じても仮想現実があれば大丈夫と希望を抱くことができるはず。

 

それだけじゃない、仮想現実なのだから周りはNPC、つまり生きている人間ではないのだから強い破壊衝動を持つ者を満足させ、現実での犯罪を抑制する――、そう言った応用もできる筈だった。

 

しかし――、ああ、思い出したくないと記憶がブレている。

私の脳が私の記憶にロックをかけている。心が壊れないように自己防衛機能が働いているのだろう。

しかし私は話さなければならない。ディケイド、カブト、響鬼、ダブル、少し待ってくれ。私の心が落ち着く時を待ってくれ。

ああ、いや、大丈夫だ。そう、幸せを感じたときに、悲劇は起きるものだ。

 

息子が、燕芽が病を――、患った。

燕芽だけじゃない、燕芽の友人であり、私が作るゲームに協力してくれた少女までもが重い病を患った。

私も理亜も、彼女のことは本当の娘の様に思っていたのに――。ああッッ。

わ、私は、愚かだ。私はムネモシュネがあれば重い病を患った人間は苦しむことはないと思っていた。苦痛を忘れ、死が来るまで仮想現実の中で生きればいい。

しかし私は忘れていた。残されたものの苦痛、苦悩、絶望を。

 

燕芽はまだ子供だった。

これから沢山楽しい事をして、人生を楽しめる筈だった。

なのに――、なのに、ああ……。

 

私は、それでも、迷いながらも、燕芽の夢を叶える為に――、ムネモシュネを完成させた。

だが、そう。丁度、まさに、その時だった。

奴らが、現れた。

 

 

『この世界は大ショッカーが支配する。卓よ、貴様のムネモシュネ、我々が頂くぞ』

 

 

そして――。この世界が生まれた。

 

 

「つまり、この世界はムネモシュネが作り上げた仮想現実というわけか」

 

「言わばオンラインゲームの中って事? 今のワタシ達はアバターであると?」

 

 

だからこそ卓の姿は今現在カラスと言う羽の生えた球体のアバターになっている。

それは間違いない。卓はムネモシュネの設計者であるがゆえ、この世界である種のチートを発動できる。それこそがこのカラスの体だという。

 

 

『だが――、少し違う。既にムネモシュネは私の知っているムネモシュネではない』

 

「それは、どういう……?」

 

『ショッカーは自らの科学力をムネモシュネに取り込み、もはや別次元の存在へと消化させた』

 

 

カラスの話によればUSBメモリに似たアイテムを使っていたと。

その音声を聞いたゼノン。返ってきた言葉は――。

 

 

『たしか、キングダムだった』

 

「き、キングダムだと――ッ!!」

 

 

表情を変えてフルーラと視線を合わせるゼノン。

汗が浮かび、いつも浮かべている余裕は全く無かった。

 

 

「やはり完成していたのか……ッ! AtoZ!」

 

「し、知っているのか、ゼノン」

 

「……以前、計画書を見た事がある」

 

 

エー・トゥ・ゼット。

もはやそれはガイアメモリと言うのは間違っていると。ショッカーの科学力、未知の力が終結した26の力。

その中の『K』が、キングダムだったとゼノンは記憶している。ガイアメモリは人に使用するだけではなく、物にも使用できると言う事が分かった。

おそらくキングダムメモリもまた同じで、ムネモシュネに使用されたのだと推測できる。

 

 

「キングダムは王国の意味を持つ力だ。おそらくムネモシュネの力を使って、より強固な世界形態を確立したんだろう」

 

 

つまり、『仮想』現実を創生するムネモシュネを強化し、仮想を現実とほぼ同じにする力にまで引き上げた。それが司達が今ココにいる理由ではないだろうか。

 

 

『そう、ココはもう現実だ。仮想と言う考えは捨てた方がいい』

 

 

ゲームを、現実にしたとでも言えばいいのか。

この世界そのものがムネモシュネによって書き換えられた実際の世界なのである。

それだけじゃない。強化されたのはつまりのところ、脳に直接影響を与える部分だ。強力な洗脳を施す事も、容易となる。

 

 

「夏美達がおかしくなったのも、ムネモシュネの仕業か」

 

『おそらくはそうだろう。他世界解釈は私も少し聞いたことがあるが、ショッカーやキミ達を見れば、信じざるを得ないだろうな』

 

 

夏美達はこの世界に足を踏み入れた瞬間、ムネモシュネの強力な力により、脳を支配された。

いや、脳ではなく、もはや存在を支配されたといってもいい。夏美と言う人間のデータが書き換えられ、ムネモシュネと言う鳥篭の中に入れられる。

そこにいる事になんの疑問も抱かない。完全に適応し、ただの一キャラクターとして登場する。まさにNPCと変わりない。

 

 

「ムネモシュネか……。最悪なものに寄生されたわけだ」

 

 

世界はムネモシュネに支配され、塗り替えられた。

いわばココは小さくならないマトリョーシカの中と同じだ。無数の世界に覆われ、ループが発生すれば新たな世界の外装が用意されていく。

終わりは無い。永遠に続くメビウスの輪。無限の輪廻の中なのだと。

 

 

「移り変わる世界は一体何をベースにしている?」

 

 

ループが発生すると世界は別の姿を見せる。しかし時代はバラバラ、世界観もバラバラ。

ソレはムネモシュネが提供する物の筈。だとすればデータベースに記載された世界のデータがある筈だ。

 

 

『……歌だ』

 

「歌?」

 

『ムネモシュネが取り込んだのは、彼女の――、ミク達の……歌だろう』

 

「そういえば、まだ彼女が何者なのかを聞いていなかったね」

 

 

ふと、司達は先ほどの言葉を思い出す。

カラスの息子の燕芽と同時期に病にかかった少女がいたと。

 

 

『私はムネモシュネの他にも色々なツールを開発してきた。ゲームであったり、簡易的なセラピー機器であったり』

 

 

人の記憶の可能性を常に探るうち、カラスは一つの考えにいたる。

歌だ。歌の力は古来より、大きな存在であると証明されている。

きっと多くの人間が秘めた思いを解き放たれるツールなのだろうと思っていたカラスは、誰でも歌を作ることができるソフトを開発していた。

 

 

「ボーカロイド。人の声を抽出、サンプリングし、自由に言葉を作り、歌を作れる。音声合成ソフトだ。ミクくん達には、それに協力してもらっていた」

 

 

人の声を使うという事は犯罪や、卑猥な言葉を言わされたりと、意図していない目的に使われる可能性もある。

声の提出を募集したところ、孤児院に住んでいたミク達が募集に応じた。

 

 

「孤児院……」

 

「そうだ。ミク、リン、レン、ルカ、メイコ、カイト、グミ、ガクポ、彼らは事情があり、共に暮らしていた」

 

 

皆、歌が好きだった。だから話を受けたと笑っていた。

誰でも歌が作れると言うボーカロイドはそれなりに成功を収め、動画投稿サイトにはユーザーが作った多くの楽曲が並ぶ事になった。

 

 

「じゃあ、ムネモシュネはそれらを取り込み、ベースにしているわけか……!」

 

 

つまり今、司達が立っている世界は元々は誰かが作り上げた歌の世界だ。

それをムネモシュネが世界として具現させ、取り込んだ人間たちに役割を与える。

 

 

『尤も、取り込んだのは彼らだけだが』

 

「元々住んでいた他の人間はどうなった」

 

『ムネモシュネの動力にされ、燃料にされている。記憶の力を吸い取られ、世界を構成する燃料にされているのだ。簡単に言えば植物状態だ。既に自我は失われ、死とそう変わりない状況にある。存在もデータに変えられてしまった』

 

「つまりムネモシュネを破壊しない限り、永遠に自我を失い、燃料になりつづける訳か」

 

「そんな馬鹿な……!」

 

 

ありえるのだ、大ショッカーの力なれば。

そしてミク達は自らの声で作られた歌の世界で、永遠に死と再生を繰り返し、絶望のエネルギーをショッカーに提供し続ける。

無限の地獄、永遠の苦痛、大ショッカーが提示した絶望。

 

 

「声の主であるミク達がいる事で、ムネモシュネが作った世界はより安定していく」

 

 

ミク達は自分を苦しめる世界を安定させる装置になっている。

彼女達が作った歌達が、彼女たちを殺す悲劇に変わる。多くの歌が作られた、その全てが悲劇に変わる。

 

 

「永遠の地獄を歌い続ける。まさに、久遠の歌姫と言った所かな」

 

 

いつもの様に気取った言い方ではあるが、ゼノンの表情には焦りがあった。

 

 

「最悪だ。ココまで最悪な状況は久しぶりだよ」

 

「どういう事だ?」

 

「決まってるだろ。大ショッカーの奴らは世界を滅ぼすたびに強化されていく」

 

 

ムネモシュネが作り上げた世界は、明確な世界だ。さらにループするたびに崩壊と言う『破壊』の結果に終わる。

つまり、世界が一つループするたびに大ショッカーは確実に強くなっていく。

 

 

「通常は世界を滅ぼした種を撒いた者が最も強化され、後はまばらに強化されていく」

 

「それは誰が決める?」

 

「世界自身だ。言っただろ、これは陣取りゲーム、世界は所詮、大きなコンピューターさ」

 

 

今回の場合はおそらくレンとリンを殺した者が最も強化され、あとは世界が滅びた際に他の大ショッカーが僅かに強化されると言った所だろう。

問題は既にループが幾度と無く行われている事だ。ゼノンが見立てたところ、毒サソリ男、アリマンモス、チーターカタツムリの三体が最も強化されており、次いでロギーと言った所だろうか。

 

 

「そもそも、どうして世界はループするんですか?」

 

『取り込んだ世界の力を使ったのだろう。歌の一つに、同じ時間を繰り返す事を題材にしたものがあった』

 

「クソッ! そういう事もできるのか!」

 

 

都合のいい力を抜き取る事もできる。それがムネモシュネの恐ろしさだ。巨大なデータベースから様々なものを合わせ混ぜ、アレンジを加える。

そうする事で――、ムネモシュネは無限の地獄を生み出した。

 

 

『世界が滅び、新たな世界が構築される。死んだ者が蘇るが、それらは全て悲劇に繋がる無限でしかない』

 

 

その名は――

 

 

酔生夢死陽炎(カゲロウデイズ)

 

「カゲロウ……、デイズ」

 

 

机を殴りつける音が聞こえた。

無音の空間にその音はよく響く。見れば、ゼノンが歪んだ笑みを浮かべて頭を抑えていた。

 

 

「最悪だね、おそらく今のボク達じゃ勝てるかどうかは――、か、かなり怪しい」

 

 

RPGと同じだ。レベルの差がありすぎる。世界を作り出す装置を生み出し、そこを破壊し続ける事でレベルを上げていく。

まさかそんな方法があったなどと思うわけもなく、ゼノンとしても全く予想外だった。

 

 

「だが――、チャンスはある! ムネモシュネを破壊すれば良い!」

 

 

この強化方法はギャンブルと同じだ。世界はあくまでもムネモシュネが生み出している擬似的なもの。

ココはあくまでも仮想空間。現実と変わらないが、突き詰めれば現実ではない。

ギャンブルではハイアンドローで勝ち金を増やしていく方法があるが、それでもしも負ければ取り分は全て没収される。

それと同じだとゼノンは言った。大ショッカーの強化は全てムネモシュネに依存している。

ムネモシュネを破壊するか、世界を破壊したと記録されているデータを破壊すれば、強化は無効化される。

 

 

「もしくは……、そう! ディケイド、キミだ! キミの破壊の力があれば、強化を無効化できる可能性がある!」

 

「ど、どうすればいい!」

 

「分からない――ッ! キミの破壊の力はまだ弱いから。しかし現にこうして響鬼とカブトは洗脳から除外されている。それはキミの破壊の力が、ムネモシュネの洗脳効果を破壊したからに他ならない」

 

 

破壊の力を高めたコンプリートフォームならば大ショッカーの強化を無効化できるかもしれないとゼノンは説く。

幸いにも世界がループすれば別世界とカウントされるため、一世界で一度しか変身できないコンプリートフォームも、何度もなれるチャンスはやってくる。

 

 

「奴らはおそらく無限に強化を繰り返すつもりだろう。まだ大丈夫だ、奴らは自分達が負けるとは欠片とて思っていない、そこを突ければチャンスはある。たぶん」

 

 

ムネモシュネの起動を止められれば強化は本物になり、それこそ終わりだろうが、そうなると洗脳も解けて夏美たちを仲間にできる。そうなればまたチャンスはあると。

 

 

「そう、そう! ライダーシンドロームだ。10人集まれば何か活路が開けるかもしれない。それこそムネモシュネの蓄積データを破壊する活路を」

 

『驚いた、希望を見ているのか、君達は』

 

「――俺達は、大ショッカーには負けるわけにはいかない」

 

 

恐怖を抑える様に司は言い放つ。

その言葉に誰もが頷いた。確かに恐ろしい、確かに怖い、だがしかし大ショッカーを放置すればいずれ全ての世界が支配され、より大きな恐怖に見舞われるだろう。

そうなってしまっては終わりだ。だからせめて、力を持っている自分達が折れる訳にはいかなかった。

 

 

『なるほど、素晴らしい、私もキミたちが希望であると、信じたかったところだからね』

 

 

しかしそうなると、とにかく夏美たちを正気に戻さないといけない。

 

 

「カラス、何か知らないか?」

 

『もちろん知っているとも。彼女たちを元に戻す方法も……』

 

「本当か! だったら――」

 

『覚悟はあるのか? ディケイド』

 

「え?」

 

『私が何故、すぐ、キミたちの前に姿を現さなかったのかを考えて欲しい』

 

 

カラスもまた慎重だった。姿を現すという事はそれだけショッカーに対して姿を見られると言う事だ。

本来ならばカラスは既に他の人間同様にムネモシュネに吸収されているところ。しかしココにいるのは、司達の様な希望を見つけるためだ。

思い出して欲しい、ガクポはカラスの声を聞いたと鳥篭を持っていた。それはカラスがガクポに説得を行ったからだ。

しかし結果は無駄だった。洗脳されているチェインキャラクターでは無理だ。だからこそ、カラスは司達に希望を視ている。

その司が中途半端では、カラスとしても協力する価値がない。

 

 

「ちょっと待てよ。それはコッチの台詞でもある。お前は本当に信用できるのかな? フフフ……!」

 

 

ゼノンはトリガーマグナムをカラスに向けて、唇を吊り上げる。

確かに――、それはいえる話だ。カラスが大ショッカーの仲間であると言う可能性も否定はできない。ただでさえ自分たちの存在はバレているんだ。

 

 

『無理もない話しだ。しかし考えて欲しい。ムネモシュネはあくまでもゲームと考えて欲しい、その管理が大ショッカーにあるのならば、何故キミ達は今ココにいられる?』

 

 

ループ世界下における『記憶』の保持はディケイドの力ではあるが、【存在】をいまだに確立できているのはディケイドの力ではない。

 

 

『私の力だ』

 

「ッ、じゃあ夏美たちも」

 

『そうだ、私は巻き込まれたものであるが、この世界に異物が入ってくれば分かる』

 

「ふぅん、なるほどねぇ」

 

 

それが本当ならば、かなりありがたい話だ。

と言うよりもカラスの協力がなければ司達はもう一度死ねばムネモシュネに取り込まれ、燃料となる。

しかしそれを防いでくれるのがカラスならば、信用に値するだろう。

 

 

『もちろんショッカーは私に気づいている。だが、何の力もないと放置されてきた。必死に隠れてきたのも幸いしたのだろうが』

 

 

爪をかむフルーラ。

まだだ、まだ気になる事はある。この世界の事はなんとなく分かってきた。

しかし違和感はある。世界がループする事は分かったが、その世界があまりにも凶悪すぎる。少なくとも平和に終わった時は無いとゼノン達は記憶している。

 

 

「みな、悲劇で終わる」

 

『……大ショッカーがそうした』

 

「ムネモシュネを使ってか? 確かにキングダムメモリはアチラの力だ。しかしだからと言ってあくまでも君が作ったムネモシュネを短時間で改造し、完全に大ショッカーのオリジナルにできるものだろうか?」

 

『お察しの通りだよダブル。大ショッカーに、私とほぼ同じ存在が味方している』

 

「同じ?」

 

『カナリア。私の妻だ』

 

「ッ! な、なぜですか!」

 

『……脅されているのだろう』

 

「――ッ、ふぅん」

 

 

目を細めるゼノン。

まだ完全に信用できるとは限らないが、情報はもらえたし、そこそこ信じられる話であった。

そこで声をあげる司。彼はカラスを信じようと言った。どの道、このままでは何も活路が開けない。であるならばカラスに本格的に協力してもらった方が希望はあると。

頷く我夢。双護やゼノン達は少し腑に落ちない表情ではあったが、結局拒む事も無意味と悟ったか、頷いてみせた。

 

 

「カラスくん、ボクらを裏切ったら、必ず蘇ってお前を殺してやるよ」

 

「ええ、生きたまま皮を剥いで、臓物をこの手で引きずり出してやるわよ」

 

『ふっ、恐ろしいな、この仮面ライダーは』

 

「?」

 

 

仮面ライダーを知っているような口ぶりだった。

懐かしさ、悲しみ、感情がそこにある。

司が問うと、カラスは笑った。

 

 

『知っているとも。よく、知っている……』

 

 

話は終わりだ、そう言うと、カラスは選択を迫った。

 

 

「わかった、俺達はアンタを信じる。それで俺は何をすればいいんだ、カラス」

 

『決まっているよディケイド。まずは、そうだな、光夏美を殺してくれ』

 

「!!」

 

 

視線が一勢にカラスへ集中する。

みな、彼が何を言っているのか理解に苦しむといった様子だ。助けるという話をしているのに何故、殺す話になっているのか。

しかしカラスはもう一度同じ話をした。ディケイドに、夏美を殺す様にハッキリと言葉を並べた。

 

 

『できるかい、ディケイド?』

 

「で、できるわけないだろ!!」

 

『何故? どうせ生き返る』

 

「そういう問題じゃないッ! そういう問題じゃないだろ!!」

 

『だったらこの話は無かったことにしよう』

 

「なっ!」

 

『また、覚悟ができたら、私を呼んでくれ』

 

「おい待てよ! 待てって!!」

 

 

手を伸ばすディケイド。しかしカラスは霧の様に消え、司の手をすり抜けた。

あっと言う間に、沈黙が辺りを包んだ。静寂の中で焦る鼓動だけが耳に響く。司は全身に汗が浮かぶのを感じた。振り返ると、全員と目があった。

 

 

「お、俺が悪いのか!?」

 

 

ため息をつくゼノン。やれやれと言った様子で両手を上げると、直後司の肩を軽く叩く。

 

 

「イエスと言っていたら、まずはボクがキミを撃ち殺した」

 

 

ゼノンなりの励ましだろうか。しかし司にはそれを感じる事はできない。

全身は驚くべきほどに冷え切っている。

しかし汗は流れた。無音の中で、燻った感情は大きな焦りを生み出している。

それを、双護が突きつけた。

 

 

「夏美を殺すことに意味はあるのか?」

 

「無いに決まってる! アイツは――ッ、無関係だ!!」

 

 

声を荒げる司。

なんでもできると思っていたのに、いざ話を聞いてみればコレだ。情けない話かもしれないが、そこはどうか分かって欲しい。

 

 

「む、無理もありませんよ! 夏美先輩は司先輩の大切な人です! 簡単にできる訳がない!!」

 

 

我夢とてアキラを殺せといわれて、はい分かりました等と言える訳がない。

もちろんそれは双護も同じだ。司も我夢も、誰の名前を言われても首を縦に振る事はできなかっただろう。

 

 

「でも、カラスは貴方に『殺せ』と、確かに言ったわ」

 

「ッ、だけど!!」

 

「いずれにせよ、カゲロウデイズを終わらせなければボク達に勝利は無い。それにはやはり、他のメンバーの力がいる」

 

 

確かに、この提案は司にとってかなりキツイものだろう。

しかしこのまま立ち止まっている訳には絶対にいかない。殺すのが無理ならば、説得するしかない。

 

 

「クソムカつく話だけどさ、ボク達だけじゃ、大ショッカーの連中には――」

 

 

心に来る物があったのか、ゼノンは再びテーブルの上を殴りつけ、拳を怒りに振るわせる。

歯を食いしばり、虚空を激しく睨みつけた。そして震える声で静かに言い放つ。

 

 

「あいつ等には、勝てない――ッ!」

 

「でも、ダメだ! ダメに決まってる!!」

 

 

仮面ライダーの力を人を殺すために使う事は司としては最も嫌悪するべき物だった。

ましてやそれが夏美とくれば尚更だ。司も人間である以上、対象が従姉妹とくればその重さは他人の何倍もあるだろうて。

なにより、根本的な問題を忘れてはいけない。

 

 

「友達を殺そうなんて、絶対にしちゃいけないだろ!」

 

 

命を軽視してはいけないと、司は今までの旅でより理解したと、より心に刻んだつもりである。

確かに今はループしている、カラスの言う通り、夏美を殺したとしてもカゲロウデイズ下であれば、その死もリセットされる。

 

 

「どんな時でも助け合うのが仲間だろ――ッ!」

 

 

今までだってそうだった。仲間がいたからこそ司はここまで戦ってこれたし、一度COBRAに敗北した後だって、再び戦う決意を固めることができた。

殺す事は、それを否定する事で、司としては絶対に避けたい選択だった。

 

 

「確かに、夏美達は今、変わった。でもせめて――ッ、友情は変わってないって信じたいんだ!」

 

「それはつまり、ボク達だけで夏美たちを正気に戻すと?」

 

「ああ、頼む! 俺に協力してくれ!!」

 

 

殺すなら、夏美達の為にできる別の事を必死に探した方がいい!

夏美や亘、ユウスケ達を助ける方法を必死に探したい。どんな事があったとしても、殺したくはないのだ。

 

 

「俺にとって、夏美は大切な――ッ、人なんだ……!」

 

 

気づけば司はフラフラと足を進めていた。

適当に見つけた扉を開く。どこでも良かった、司は分かっていた、きっと中には――。

いるんだろう、誰かは分からないが、いる筈だ。

そして奇しくも、その個室のベッドの上に、彼女がいた。窓の外を見ている夏美がベッドの上に座っていたのだ。

 

 

「夏美……」

 

「おや、珍しいです。お客さんだなんて」

 

 

振り向くと、司は息を呑む。

夏美は顔の半分を隠す様に包帯が巻かれていた。か細い声で、見るからに弱っているのが分かった。

 

 

「お兄さん、お部屋を間違えてはいませんか?」

 

「いや……、俺は、キミに会いに来た」

 

「え? どぉして?」

 

 

何もない部屋だった。

テレビもなければ、日用品も無い。あるのはただ、電気と、白い壁と、窓だけ。

司は一歩前に出る。すると夏美はベッドの端をポンポンと手で叩いた。

 

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

司は夏美の傍に座り、微笑みかける。

すると夏美も弱弱しいながらも、笑みを浮かべた。

 

 

「不思議」

 

「ん、何が?」

 

「私、お兄さんに会った事あるかもって、思っちゃった」

 

「……あるんだよ、俺達は、会った事があるんだ」

 

「本当? でも、私、何も覚えていないです」

 

「俺も――、今の君を知らない」

 

 

だから、教えて欲しい。

知りたい、分かりたい、そしていつかで良い。

 

 

「気づいてほしい。思い出して、ほしいんだ」

 

「よく分からないけど、私、あなたと話していると……心が、ポカポカします」

 

 

前回は焦った。焦ったから失敗したに違いない。今度はもっと慎重に接すればきっと大丈夫。

今の話の通り、夏美もまた少しではあるが心の隅に司達と過ごした記憶があるのではないかと。

すると夏美は苦しそうに咳き込みだした。体が弱いらしく、もっと話をしたいが、少し休ませて欲しいと。

 

 

「あ、ああ。大丈夫か?」

 

「はい、ちょっと休めば……平気だから、また来て欲しいです」

 

「う、うん。分かった……」

 

「お兄さん、お名前は」

 

「聖、司だ」

 

「じゃあ、司くん、またね。また来てくださいね」

 

 

弱弱しく手を振る夏美に、司は曖昧な笑みを浮かべて手を振りかえした。

病室を出ると、司は隣の病室に足を踏み入れた。

ただなんとなく、踏み入れると、そこにはチューブが全身に張り巡らされた亘が眠っていた。

意識は無いのだろう。なんの機械かしらないが、かろうじて生命を維持している様にしか見えない。

 

気づけば、司は白い部屋の壁を思い切り殴っていた。

機械音だけが響く部屋の中で、司はうつむき、ポツポツと涙をこぼす。

フラッシュバックするのはCOBRAと戦ったあの時、夏美を守れなかったことだ。

それがまた、繰り返されるのか。

 

 

「大丈夫だ……、大丈夫だ――ッ」

 

 

そう連呼する事で少しでも心を落ち着けるしかなかった。

司は逃げる様に部屋を後にすると、休憩所の方へ移動する。そこには我夢がジッと窓の外を見ており、他のメンバーの姿はなかった。

司は我夢の隣に座ると、同じように窓の外を見る。広がる景色は荒野しかなく。空は、白かった。

 

 

「夏美先輩は……」

 

「ああ、いたよ。もちろん俺の知らない夏美だった」

 

「ぼ、ぼ、僕は――ッ、怖いです」

 

「え?」

 

 

夏美がいるならば、当然どこかにアキラがいる筈だ。

当然そのアキラは我夢を知らない。そんな彼女を見るのが、知るのが、怖くて堪らないと我夢は震えていた。

 

 

「大丈夫さ我夢。俺達はかならず元に戻れる」

 

「で、でも――、大ショッカーだって! それにあの大きな敵はどうすれば!」

 

「大きな敵は、お前の得意分野じゃないか」

 

「でも、邪神よりも大きい!」

 

「大丈夫だ我夢。大丈夫だ。俺もいる、双護やゼノンとフルーラだってついてる」

 

 

もちろんそれは司自身にあてた言葉でもある。

大丈夫だと信じたかった。希望はある。シャルルが気づいてくれるはずだ。あまり期待はできないが、海東達もいる。

 

 

「だから、大丈夫だ」

 

「は、はい。すいません取り乱して」

 

「いや、いいんだ。ところで双護達は?」

 

「あ……、ココを少し調べるって」

 

 

双護達はこの建物を調べるため、資料室に足を踏み入れていた。どうやらココは病院ではないらしい。

おそらくは何らかの研究所と言った所か、双護、ゼノン、フルーラは適当に見つけた本棚を漁り、何か状況を進展させるアイテムがないかと捜索を続ける。

しかし予想通りと言うのか、特にコレと言った物はなかった。

そんな中、ふと双護は一冊の絵日記を見つける。

 

 

「?」

 

 

珍しい。しかし中をみると、ほとんどが絵だけ書かれている。

子供の絵日記と言う感想で、何が書かれているのかは分からない。

赤とグレー? のヒーロー、緑で赤い目のヒーロー、ロボットの様なもの、真っ赤なヒーロー、ピンク色の女の子、赤い服で黄色いパンツの男の子だろうか? なんだか統一性が無く、色々なキャラクターが書いてあった。

そして、一文だけ――。

 

 

『みんなで力を合わせれば、どんな悪にだって勝てる』

 

「ゼノン、これはどういう意味だろうか」

 

「んー、まあ意味がありそうだけど、だからってただの絵日記である事には変わりないよね」

 

「仮想空間を破壊する鍵とか、ムネモシュネの場所のヒントとか、カゲロウデイズを終わらせる物でもなさそうだわ」

 

 

窓の外を覗き込みながらため息をつくゼノン。

これからの未来を想像し、あきれ返ったように笑みを浮かべた。

 

 

「覚悟しておいた方がいいよ、カブト」

 

「……ああ、分かっている」

 

「悪いけどボク達は逃げるよ。ボクにとって、最も優先するべきはフルーラだ」

 

「ゼノンに同じよ。ワタシはゼノンを愛しているもの」

 

 

愛は恐ろしいと改めてゼノンは思う。

これがあるせいで余計に苦しむ。いらぬ希望を持ってしまう。つい現実から目を背けてしまう。

直視しなければ、余計に苦しいだけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

「誰かしら」

 

「え?」

 

 

司は我夢と少し話した後に別れた。

再び夏美と話をする為にだ。しかし部屋に入ると、そこには白衣を着たメイコが立っているだけだった。

ああいや、今は『メイコ』とは違う名前なのか。司はふとベッドの上を見る。しかしそこに夏美の姿はなかった。

 

 

「あの、ココにいた夏美さんは……」

 

「ああ、あなたのせいなの」

 

「え?」

 

「あの子は貴重な研究資料だったわ。しかし他人と触れ合ったことで研究が台無しになってしまって――」

 

 

要するに、答えは一つ。

 

 

「あの子は、殺処分よ」

 

「なッッ!!」

 

「地下の赤い扉の部屋で、まもなく行われるわ」

 

 

司は飛び出していた。無我夢中で走り、階段を転げ落ち、そして赤い扉を探した。

全速力で白い廊下を走り、そのつきあたり、赤い扉を蹴破ると、ガラスの向こうに夏美が見えた。

 

 

「夏――」

 

「あ、お兄さん」

 

 

夏美はニコリと笑った。彼女は腕と足を錠で拘束されており、鉄に囲まれた部屋に立たされていた。

夏美が立っている端には巨大な鉄の板がある。司は叫んだ、叫び、手を伸ばした。

しかしガラスがあった。司は蹴破ろうと足を出す。しかしガラスは壊れない。強化ガラス、司は訳の分からない言葉を叫びながらディケイドライバーを構える。

 

だが衝撃。頭が掴まれたと思えば、額に衝撃と痛みが走る。そのまま頭を地面に叩きつけられていたのだ。

そして引き上げられる感覚、額から血を流す司が見たのは、口を三日月の様に吊り上げているロギーの姿だった。

 

 

「お前――ッ」

 

「よく見ておきなディケイド、お前の愛する女の最期を」

 

 

指を鳴らすロギー。するとブザー音。

夏美は警報音を聞いてボロボロと涙をこぼし始めた。よほど司に伝えたい事があるのだろう、掠れる声で必死に叫ぶ。

 

 

「私はもっと生きたかったのに!」

 

「夏美、待ってろ! 今助け――」

 

「お前のせいだ」

 

「――え?」

 

「お前が、私に話しかけたから!」

 

「違う」

 

「お前にせいで、私は、しぬ!」

 

「違う!」

 

「お前も、死ね」

 

 

一瞬だった。

轟音が鳴り響くと、夏美は左右から迫る厚い鉄の板に挟まれ、絶命した。

悲鳴さえも上げる暇なく、板の隙間からは大量の血が流れ出ている。

 

こみ上げる吐き気、司は地面に手をついて胃液を吐き出す。

しかし腹部に衝撃が走り、脳がグシャグシャに揺れる。何故、誰が、何で、どうして、夏美、俺は、どうして、なんで、わからない、違う、俺じゃない、俺は、ただ、キミを、お前を――。

 

 

「ハハハハ! 無力だぜディケイド!」

 

 

ロギーの笑い声だけが司の耳に響いていた。

記憶がブレる。脳が割れそうだ。ダメだ、ダメなんだ、司は手を伸ばすが何もつかめない。

違う、こんな事は違う。望んだ訳じゃない。記憶が、途切れ、途切れ、あれからどうしたっけ? どこに行って? 何をして? 思い出せない。

夏美が死んで、それを否定したくて、でもできなくて。

気がつけばディケイドは剣を振るっていた。曖昧に交じり合う思考と記憶。その中で炎が迫る。星が散る。

 

 

「お前は私には勝てない! ドラゴンファイアー!!」

 

「フハァ! クヒャハハハ! どうしたよ、震えてるぜディケイドォお!!」

 

 

龍の怪人・ヤッタラダマスと、ヒトデの怪人・ヒトデンジャーの攻撃を受けてディケイドの装甲が吹き飛んだ。

仰向けに倒れた司に空が飛び込んできた。真紅に染まった空は、泣いている様に見えた。

怪人の笑い声が遠くなっていく。司は血を吐き出しながら、立ち上がると、悲鳴に似たうめき声をあげてフラつく足を進める。

怪人が司を追う事はない、ただ笑い声のみが背後から聞こえてきた。司は歯を食いしばり、足を引きずり、逃げる様に前に進む。

 

どこに? 分からない。

回りには崩壊した建物や、死体の山しか見えない。

その中で、司は見つけた。死体の群れの中、うずくまって泣いている小さな女の子の姿をだ。

 

 

「うぇーんッ! お父さーん! おかあさーん!」

 

「大丈夫かい……? お父さんとお母さんとはぐれたの?」

 

 

偽りでも、せめて、せめてこの子だけは最期が来るまで守りたい。

それは紛れも無い、司の本心だった。女の子は優しく微笑みかける司を見て、安心したのか小さな手を差し出した。

司が女の子の手を取ろうとした刹那――、女の子の体に緑色の電流が走る。

すると、その姿が全く別のものに変わった。

 

 

「イーッ!」

 

「え?」

 

 

そこにいたのは女の子ではなく、大ショッカー戦闘員だった。

なぜ? そう思ったときには、戦闘員が拾い上げた石が司の頭にぶつけられている所だ。脳が揺れ、司はその瞬間理解する。

チェインキャラクター以外は――、全て、ショッカーの手に落ちている事を。

 

 

「――ァ」

 

 

司は知る。

 

理解する。

 

教えられた。

 

ココは、地獄だ。

 

 

「ァ、アア!」

 

 

目がかすむ。濁る視界の中で、司は救いを求めた。

 

 

「我夢――ッ!」

 

 

我夢だったものを見つけた。

それはたぶん我夢だろう。黒焦げになった死体の傍には崩壊したディスクアニマルが転がっているからだ。

 

 

「双護!!」

 

 

うつ伏せに倒れている双護を掴む。その下には少女の死体が転がっていた。

きっと双護は暴漢達から少女を守ったのだろう。しかし双護は心臓を刺されて絶命していた。少女の死体にはナイフが握られていた。

 

 

「あ――ッ! ぐあぁ!」

 

 

すすり泣く声。

司は涙を流し、折れた足を引きずりながら歩いた。

ユウスケの死体が見えた。薫の死体には足がなかった。真志の顔半分が消し飛んでいた。司は行くあてもなく、ただ闇の先に光を求めて歩き回った。

その果てに、一人の女性が立っていた。ウェーブの掛かった髪で、切れ長の目がディケイドを捉えた。

 

 

「これが仮面ライダー」

 

 

気づけば、女性は司の背後に回っていた。

司が振り返ると、そこには女性の口が広がっていた。

それは人の口と言うにはあまりにも御幣があるもの。顎が伸び、実質顔が巨大化しているほど、大口が開かれた。

 

そしてその口は、司の上半身をもぎ取るように噛み千切る。

両手が地面にボトリと落ち、残りの下半身は二歩歩いた後で倒れた。

あっけのない最期だった。女性は司を租借すると、直後ゴクリと喉を鳴らして口を拭く。

その時見えた舌は、人間のものとは思えないほどに長かった。

 

 

「――おそるるに足らず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青空が見えた。

少女と少年が隣同士座って、楽しそうに話していた。

 

 

「レンジャーは、好き?」

 

「うん、でも――、ちょっと……」

 

「?」

 

「レンジャーは、五人だから」

 

「三人のもいるよ」

 

「うん、それでも、三人だから。僕は一人だから……遊べない」

 

「――、大丈夫だよ、みんながいるから」

 

 

みんなが、いるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

ゆっくりと目を覚ました少年の名前は、聖司。

司はぼんやりと鈍る思考のまま、体を起こすと、辺りを見回す。

ファミリーレストランが一席に司は座っていた。隣には我夢が、向かいには双護、双方同じく目が覚めたのか、一点を見つめて表情をしかめている。

 

 

「おはよう。気分はどうかしら? ゼノン、司って美味しいと思う?」

 

「マズそう。ボクはどうせ食べるならフルーラが良いけどね」

 

「まあ大胆! そんな貴方も素敵だわ!」

 

 

司達が座っている席の後ろでゼノン達が食事を取っていた。

ゼノンはハンバーグを、フルーラはパフェを食べている。

宣言どおり大ショッカーとは戦わず、リボルギャリーの中で待機していたようだ。既に半ば適応しているのか、いつもの様にじゃれ合っている。

 

 

「クソォオオッッ!!」

 

 

その中で、司は思い切り両手をテーブルに叩きつけた。

 

 

「クソッ! クソクソクソクソクソクソクソクソォオオオ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

司は何度もテーブルを叩き、焦燥の想いに吼える。

周りの人間が引きつった表情で司を見ている。あの頭のおかしい人間はなんなんだ? 怖い、恐ろしい、関わってはいけない。

そんなリアクションは当たり前のものであろう、突然ファミレスで男が叫びだしたのだから。

 

それがなんとも皮肉がきいている。ゼノンは小さく声をだして笑った。

同じく鼻を鳴らすフルーラ。周りの人間は自分が正常だと思っているのだろう。現に司の行動は異常だ。

しかし、そのおかしいと思った自分たちが本当に『おかしい』存在なのだから。

 

 

「所詮、存在すらしない人形共が」

 

「あー、でもゼノン。ある意味で確かに彼らは存在しているわ」

 

 

司をおかしいと思っている連中はムネモシュネによって作られたNPC。

しかし、ココは仮想現実。夏美たちも、ミク達も、また新しい役割を与えられ、この世界にて適応している。

 

 

「――世界を構成するのは『記憶』か【存在】か」

 

 

店員が司を静かにさせにやって来る。

その店員は真志と美歩だった。

司は頭を掻き毟り、二人の肩を強く揺する。

 

 

「思い出せ! 真志、美歩! お前らはムネモシュネに操られてる! お前らは龍騎とファム! 仮面ライダーだろ!!」

 

「何コイツ、キモ……ッ! なんでアタシらの名前知ってんだよ」

 

「おい止めろ美歩。すいませんお客様、コレ以上他のお客様に迷惑が掛かる行為をされるようでしたら、警察に連絡させていただきますが」

 

「なんでだ! なんで分かってくれない!」

 

「やめろ司。悪かったな、コイツは少しパニックを起しやすいんだ。出て行くから、勘定を頼む」

 

「いや、ダメだ! 頼む真志ッ! 美歩ォオ!!」

 

 

 

もちろん、意味など無かった。

司は駆けつけた警察に連れて行かれ、我夢と双護は逃げる様にファミレスを後にするしかなかった。

関係の無いゼノンとフルーラはゆっくりと湯気の立つ紅茶に口をつけ、ニヤリと笑う。

 

 

「ゲームをしようか、フルーラ」

 

「ゲーム、大好き。楽しいのがいいわ」

 

「そうだねじゃあ賭け、しようよ」

 

 

ゼノンは当たり前の様に食事をする人を見て笑った。

フルーラは当たり前の様に働く真志と美歩を見て笑った。

 

 

「あと、何回続くと思う?」

 

 

ノイズ。

たとえ世界が偽りだったとしても、時間は存在している。だからこそ世界には結末が用意されているのだ。

たとえどんな歪な時間であっても、どんな歪なストーリーであっても、ページをめくっていけば未来にはたどり着ける。

プロローグは終わりを告げ、あとは、世界がストーリーを紡いでいく。

正気に戻ってくれ、思い出してくれ、俺達は友達だったろう、そんな言葉を司は何度口にしただろうか。我夢も、双護も、何度訴えただろうか。

しかし、世界は、形をより歪に変えていくだけ。

 

 

「助けてッッ! わだじ、じにだぐないッッ!!」

 

 

雨が降っていた。

涙と鼻水で顔をグシャグシャにしたアキラが響鬼の前に跪いている。

その首には、銀色の首輪があった。中央では赤いランプが点滅しており、一定のリズムで電子音を鳴らしている。

ピ、ピ、ピ、その頻度が徐々に早くなっていく。

 

 

「大丈夫! 必ず助けるからッ!!」

 

 

そんな事を言うが、響鬼にできる事は首輪を無理やりに外す事くらいしか無かった。

響鬼の力があれば何とかなると思っていたのだろう。しかしその装置は、響鬼が行った動作にて発動するものだった。

電子音が、警報に変わる。ピーっと音がして、アキラはカッと目を見開いた。

 

 

「嫌ァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ザクロが、弾けた。

死なせない為に我夢は戦った。我夢は、アキラを守るために響鬼になった。

その響鬼の前で、顔がなくなったアキラは崩れ落ち、死んだ。

響鬼は狂いそうになる心のまま、天に向かって叫んだ。すると返ってきたのは下卑た笑い声だった。

 

 

「お前らは何も守れない!」

 

 

アリカポネの刀が響鬼を傷つける。

抵抗はしなかった。響鬼の心はこの時、折れていたからだ。

 

 

「絶望に溺れ消えうせろ! ムネモシュネの一部になるがいい!」

 

 

アリカポネの必殺パンチが響鬼の腹部を貫く。

そのまま投げ飛ばすと、そこには狂ったように笑い声を上げるトゲアリ獣人が。

既に瀕死の響鬼に近づくと、トゲアリ獣人は腹部にあいた穴に顔を突っ込み、租借を始めた。肉が抉られ、腸が引きずり出され、響鬼はいつの間にか絶命していた。

 

それを、双護は悲しげな目で見ている。

しかし助けることはできない。双護の真下には粉々に砕かれているカブトゼクター。

そして双護の全身にはブレイラウザー、ドラグセイバー、タイタンソード、ファイズエッジが突き刺さっている。

カブトは強い、双護の戦闘センスがあれば大ショッカーの一体くらいは倒せるだろう。しかし敵もそれを分かっているのか、双護に向けるのはかつての仲間達だった。

双護は彼らを攻撃できない、だから受けるしかなかった。

 

そこに大ショッカーが一手を加える。

地面から植物の蔦が伸びたかと思えば、双護の全身に突き刺さり、血液を吸収し始めたのだ。

美しい容姿だった双護が、今は老人の様に干からびている。そこに詰め寄るイカファイア、手で軽く双護の首を捻ると、その首が180°回転し、双護は絶命した。

 

 

「悲しいなぁ、おい。雑魚の末路ってのはよ」

 

 

双護の死体に火をつけると、イカファイアやアリカポネは笑いながら踵を返す。

取り残された司はただ呆然と雨に打たれ、チラリと横を見る。

 

血まみれのゼノンとフルーラがぐったりと倒れており、それをリッガーと言う怪獣が食べていた。

ふと後ろを見る。夏美や亘の死体が転がっていた。司は夏美の眼球を手に持ったまま、ふと前を見る。

そこには仮面をかぶった少女が鉈を振り上げていた。

 

 

「―――」

 

 

鉈が司の脳天を叩き割る。

頭に鉈が突き刺さった司は、ゆっくりと倒れ、意識を深淵に沈めていく。

ふと司を襲った少女が仮面を取った。

そこにいたのは、ミクだった。

 

そこで司の意識は完全に消え去り、視界はブラックアウトする。

 

 

「!」

 

 

ゆっくりと目を覚ました少年の名前は、聖司。

司はぼんやりと鈍る思考のまま、体を起こすと、辺りを見回す。

平安時代の様な世界だった。屋敷の庭では貴族達が鞠を蹴って遊んでいる。

ふと隣を見る。歌が聞こえたからだ。とても心が落ち着く歌が。

 

 

「ミク……」

 

「おや、お目覚めになられましたか」

 

 

先ほど自分を殺した少女が目の前にいる。

司は少し怯えの感情を抱いたが、それが『別人』であると分かっていたので、特に逃げ出す事はしなかった。

彼女もまた、巻き込まれた被害者、しかし既にその存在は夏美たちよりも深く、ムネモシュネに蝕まれた。

今、司の隣にいるのは誰なんだろうか。存在を改変され、記憶を改変され、それでもまだ彼女はミクと言う人間なんだろうか。

 

 

「一つ、聞いてもいいか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「キミは、生きたいか……?」

 

 

いきなりなんだと、ミクは笑う。すると優しい笑顔で、遠くの方を見つめた。

 

 

「自ら進んで死にたい人間など、この世にはおりませんよ」

 

 

自らの手で自らの命を絶つ行為をした者は山といるが、誰もがみな、仕方なくその道を選んだ筈だ。

楽しい方が良いに決まっている。楽な方が良いに決まっている。幸せになりたいと、誰もが思っている。

 

 

「命は一つ――、尊いものです」

 

「そう――、そうだよな」

 

「気をつけて。貴方は今、とても儚げですわ」

 

 

ミクは立ち上がると、一度頭を下げて司の前から姿を消した。

すると入れ替わりでやって来たゼノン達。司を探していたようだ。何も無い平原、上は快晴、しかし司達の心は曇天である。

 

 

 

 

 

「ちょっと試しに前回、殺されてみた」

 

「怪獣にパクパクモグモグされちゃったわー!」

 

 

デンデンセンサーにそれを記録させ、今回ゼノンはそれを見てみる。

するとデンデンセンサーには前回ゼノンが死んだ記録がしっかりと残されていた。どうやらループするのは死や破壊に関する情報らしい。

カブトゼクターやディスクアニマルは破壊されたもののしっかりと元に戻っており、同時にゼノンの身体情報が全て停止――、つまり死んだと言う記録も同じくして継続している。

 

 

「まあ要するに、ボクが言いたいのはさ、ボクとフルーラは完全に死んだって事なんだよね」

 

 

現実世界の死と全く変わらない死を与えられたわけだ。ゲームの瀕死やゲームオーバーではなく、本当に正真正銘、『死んだ』のだ。

しかしゼノンとフルーラはココにいる。完全に死んだのにココにいる。それがムネモシュネの力であり、同じくして条件は対等なはずだ。

 

 

「ハッキリ言うけど、ボクは夏美をさっさと殺してカラスから情報を得た方が良いと思うけど」

 

「そ、そんな事――ッ!」

 

「確かにさ、コレが現実世界ならもっと悩んでも良いと思うよ。でも戻るじゃん」

 

「それに、残酷な話。このままでは間違いなくワタシ達は全滅よ」

 

 

助けが来る可能性に賭けるのも結構だが、来ない場合もあるし、来たとしても大ショッカーには勝てない可能性がある。

もしも夏美を殺し、なんらかのトラブルが発生し、夏美が本当に死ぬ事になっても、全滅よりは良いのではないだろうか。

 

 

「ボクもさ、正直かなり焦ってるんだよね。って言うか、いくら検証とはいえ、アイツ等に殺されたって事実がかなりムカつくぜ」

 

 

だいたい怪獣ってなんだよ、魔神ってなんだよ、あんなのがいたなんて聞いていない。ゼノンはブツブツと愚痴りながら仰向けに倒れた。

要は考え方だ。確かに夏美を殺すというのは司にとっては非常に嫌悪するべき事だろう。

だがしかしそれがチャンスに繋がるのであれば、やむなしと割り切る事も大切ではないだろうか。それが結果的に夏美を救うことにも繋がる。

 

 

「分かってる。分かってるけど……、俺は、できない! 仮面ライダーの力を人を殺す事には――、ましてや夏美を殺す事に使うなんて!」

 

「散々怪人ぶっ殺しておいて良く言うよ。怪人の中には、元人間のヤツだって、たぶんいるんだよ」

 

「分かってる! 分かっているが……!」

 

「酷な事を言うな、ゼノン。怪人と夏美は違うだろう」

 

「確かにそうだわ。でも、このまま燻り続けるだけじゃ、何もできないわよ」

 

「だ、だから……説得で――」

 

「言葉で何とかなったかい? 忘れたわけじゃないだろ、響鬼、またアキラの顔を吹っ飛ばすつもりかよ」

 

 

我夢は歯を食いしばり、思わずゼノン達を睨みつける。

しかし何も言えないのはゼノン達の言うとおりだから。

どれだけの言葉を投げかけても、誰も振り向いてはくれなかった。そして最期は悲惨な死を遂げる。

 

もちろんそれは夏美達だけに言えた事ではない、守らなければならないはずのミク達を守れず、救えず、ライダーとしての役目一つ果たせない。

そして最後は自分が死ぬ。

 

 

「止めろゼノン! 俺達で煽りあってどうするんだ!!」

 

「ッ、それは――、確かに。悪かった」

 

「分かる。分かるさゼノン、確かにお前の言うとおりだ。でも俺は――、仮面ライダーの力を誇りに思ってきた。誰かを傷つけるためじゃなく、誰かを守る為に戦いたいと、COBRAに負けて、つくづく思って――」

 

『ディケイドは皆の力があってこそ生まれた正義だ!!』

 

『くっ!』

 

『俺の正義が砕かれても、必ず俺の仲間が砕けた正義を元に戻してくれる!』

 

 

COBRAとの戦いで司はそう口にした。

それを自らが否定する事は、司としては胸が張り裂ける思いだった。それに司自身、仮面ライダーの力はずっと正義のものと認識してきた。

例えばそう、司は龍騎の中で、城戸真司に憧れていたのだ。それを聞くと、ゼノンは腕を組んで訝しげな表情を浮かべる。

 

 

「……初代、仮面ライダー。キミの世界では放送されていなかったが、その名は仮面ライダー1号」

 

 

全ての始まりであり、原点にして頂点とされている存在だ。

だがしかし、ゼノンは言う。仮面ライダーとは一体、なんなのか? 司はそれを正義の味方と称した。

しかし司ならば分かるとおり、仮面ライダー全てが正義を宿している訳ではない。たとえば、そう、それこそ仮面ライダー王蛇、仮面ライダーシザース、歪んだ正義を掲げていた仮面ライダーカイザなどが挙げられる。

 

 

「それは1号も例外じゃない」

 

「え?」

 

「仮面ライダーは元々、ショッカーの技術により生まれた存在だ」

 

「な――ッ!」

 

 

サラリとゼノンから告げられた言葉。

あれだけの悪夢を生み出すショッカーと仮面ライダーが同一――だと? 司は打ちひしがれた表情で沈黙を。

一方で言葉を続けるゼノン。そう、仮面ライダーはショッカーの怪人であると。

 

 

「結局、殺人の道具なんだよ、仮面ライダーは」

 

 

であるならば夏美を殺す事はある意味で仮面ライダーのあるべき姿ではないか? 何のために『必殺』キックなんてものがある?

正義の力? 人を守る? 全てがくだらないとゼノンは吼えた。

 

 

「勘違いするなよ司。仮面ライダーはただの化け物だ。ヒーローでもなんでもない、醜い化け物、哀れな人殺しなんだよ」

 

 

人が死ぬのを見てゲラゲラ笑っている大ショッカーの連中と何ら変わらない。

仮面ライダーは兵器であり、それをヒーローなどと言うのは随分とおかしな話なのだ。

司が見ていたクウガも、アギトも、龍騎も、ファイズも、ブレイドも、響鬼も、カブトも、電王も、キバも、全て同じだ。時代は変われど1号と同じ、人とは違う化け物だ。

 

 

「そんな……」

 

 

あれだけ憎んでいる大ショッカーと、同じ。

 

 

「だが、まあ、強いて言うなら――」

 

「ッ?」

 

「仮面ライダー1号は下らない化け物だ。でも、本郷(ほんごう)(たけし)はヒーローだったかもね」

 

「本郷……猛……ッ!」

 

 

クウガはゴミだ。アギトはカスだ。龍騎はクソだ。

力があるから傷つき、血が流れ、世界に悲しみが生まれる。敵対する悪が生まれる。

だがしかし、五代はゴミじゃない、翔一はカスじゃない、真司はクソなんかじゃない。彼らは手に持った『凶器』をどう使ったのか。

 

 

「燻るなよディケイド、この化け物が――ッ」

 

 

ゼノンは頭を掻き毟ると、立ち上がって司達から離れていく。それについていくフルーラ。

司は呆然とへたり込み、直後、その目からはボロボロと涙がこぼれてきた。

 

 

「我夢、双護……! 俺は、間違っていると思うか?」

 

「――いや、お前は間違っていないさ」

 

「も、もう一度、もう一度説得しましょう! きっとッ、分かってもらえる筈です!」

 

 

もう一度、それを――、司達は何度繰り返すのだろう。

悲鳴が聞こえる。みんなが死んでいくのが見えた。

ユウスケの半身が千切れ、薫の身が吹き飛び、翼の腹が裂け、真志の脳が弾け、美歩は一瞬で凍りつき、拓真の皮が剥がれ、友里は焼け死に、椿は臓物を引きずり出され、咲夜は自ら舌を噛み切り、アキラは細切れになり、鏡治は砂に沈み、亘は撃ち殺され、そして夏美は――。

 

 

「………」

 

 

十字架に磔にされ、体中に剣が刺さっている夏美を見て、司は崩れ落ちた。

カゲロウが、見えた。

 

 

「!」

 

 

ゆっくりと目を覚ました少年の名前は、聖司。

司はぼんやりと鈍る思考のまま体を起こすと、辺りを見回す。すると頭を抑え、震えている我夢が見えた。

 

 

「狂う――ッ! も、もうッ、もうダメだ! 僕はもう、耐えられません!!」

 

「我夢……」

 

 

周りを確認する司。双護、ゼノン、フルーラの視線を受け、司は歯を食いしばる。

そして我夢と同じく震えはじめると、真っ青になって俯いた。葛藤しているのだろう。

しかしそれがもう自分だけの問題ではないと司は分かったようだ。このままであれば本当に取り返しがつかない。

 

 

「分かった……、ごめんみんな、俺がもっと早く――、決めていれば」

 

 

つまりそれは。

 

 

「夏美を、殺す……!」

 

 

簡単だった。ゼノンの言う通り、どうせ殺したとしてもカゲロウデイズによって再び夏美は蘇る。

しかしやはり仮面ライダーの力は使いたくは無かった。

だから司はミリタリーショップでナイフを購入し、夏美が一人になるのを待った。ゼノン達の情報もあり、学校から帰る夏美が一人になる場所を見つけた。

 

辺りも暗くなった高架下。

夏美は携帯を片手にカバンを持って帰路についていた。司はその背後をつけ、そして闇に紛れて一気に距離を詰める。

すまない。その思いと共に司は夏美の肩を掴んだ。反射的に振り返る夏美、心臓を一突きにすれば――

 

 

(いや、待て)

 

 

違う。司は直前で気づいてしまった。この世界の夏美は確かに生きているのだ。

であれば当然死には苦痛が伴う。夏美を苦しませたくは無い。ナイフでは即死させるのは不可能か? 分からない。知識がない。

刺せば死ぬだろうが当然痛いはずだ。ダメだ、それじゃあダメだ。夏美を苦しめないためには、やはりライドブッカーで脳を撃ち抜いて――。

 

 

「キャアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

悲鳴が聞こえた。

当たり前だ、肩をつかまれ、振り返るとそこにはナイフを持った男が立っていたのだから。

 

 

「誰か助けてッッ!!」

 

「ま、待ってくれ! 待ってくれ夏美!」

 

 

カバンを放り投げて逃げ出す夏美。ダメだ、アレは夏美じゃない、司は再びナイフを持つ手に力を込めて夏美を追いかけた。

恐怖で足が動かないのか、すぐにおいつくと司は再び夏美の腕を掴む。すると狂ったように叫びながら夏美は司の腕を振り払おうと試みる。

 

必死なのか、パニックなのか、真っ青になった夏美の目が司を捉えた。

暴れ回っているからか、夏美の手が自分からナイフに触れてしまう。掌から血が散り、司の頬をぬらす。

 

 

「うあッ!」

 

 

ナイフはそこそこ深く入ったのか、夏美は痛みと恐怖に怯み、その場に倒れてしまう。

ココしかない。司はナイフを振り上げ、夏美を睨んだ。

すると、涙。

 

 

「おねがいします! こ、殺さないで――ッッ」

 

「夏美、お願いだから、俺を信じて……俺に、殺されてくれ」

 

 

恐怖のリミットが最大まで達したのか、夏美はボロボロと泣き始めた。

 

 

「うぇええぇえん、こわいよぉ! おとうさん、おかあさん! たすけてぇ……!!」

 

「―――」

 

 

夏美が、泣いている。

司はふと斜め上にあったカーブミラーを見る。するとそこには夏美の返り血を浴び、ナイフを持っている男が映っていた。

なんだコレは。司は頭をバットで殴られた様な感覚に陥る。俺は一体――、何をしているんだ?

気づけば司はナイフを落としていた。そしてフラフラと後ろに下がり、直後夏美から踵を返して地面を蹴った。

 

俺は何をしてるんだ?

こんなの――、こんなのただの殺人じゃないか。

違う、一番やってはいけないことだ。俺は一体何を――。

 

守らないといけないんじゃないのか。

違う、こんなのは、俺じゃない。

 

 

そうだ、守らないといけない。

 

 

時間が、跳躍する。

 

 

「あぶない!!」

 

 

守るんだ。傷つけるんじゃなく、守るんだ。

ディケイドは夏美を突き飛ばすと目の前にある光球を受け、大爆発の中に消えていく。

なんとか爆風から夏美を守るためにと彼女を強く抱きしめるディケイド。

しかしダメージが大きすぎたのか、ディケイドの装甲がはじけると、司は地面に倒れた。

 

 

「ハハハハハハハハハハ! 無駄な事をするな司!!」

 

「ハッハーッ! コレで何回目だよ、クソが!」

 

 

ロギーとファイアの笑い声が響き、司は大量の血を吐き出した。

夏美を見ると、さすがにあの爆炎を耐える事はできなかったのか、夏美の全身に炎が回っていた。

倒れ、怯えた表情で司を見ている。その向こうに、倒れている血まみれのミクが見えた。

すると空に稲妻が走る。すると司を見下ろす様にして巨大なエノメナが姿を見せた。

 

 

『フィルターの中では我々は無敵だ。お前たちに希望はない。永久の闇の中で、絶望に沈むがいい』

 

 

ニヤリと笑うエノメナ。肩からは発狂電磁波が広がっていく。

 

 

『永遠に、無限の中をさ迷い続けろ』

 

 

ふと、仰向けに倒れていた司の腹部に熱が走った。

見れば、馬乗りになった夏美が炎に包まれながら司の首を絞めている。

 

 

「なつ――、み」

 

 

守れなかった。守ろうとしたのに、簡単に誰もが死んでいく。

叫ぶ声も枯れ、己の命さえ守れない。

先に限界がきたのか、夏美の手から力が抜け、その場に崩れ落ちる。

 

 

「ァアァアァ! ぁぁぁあぁあぁあぁぁあああぁあ!!」

 

 

情けなく叫び、司は夏美の炎をかき消した。

そこには火傷を追い、絶命している夏美がいた。再び響く笑い声、ロギー達は満足そうに踵を返して消えていく。

 

 

『司くん!』

 

 

夏美の笑顔がフラッシュバックした。

情けない話だった。司は大粒の涙を流し、濁る視界の中で、必死に夏美の亡骸を抱き上げた。

 

 

「うぁぁっ! あぁぁぁあああぁぁぁあぁあぁ!!」

 

 

子供の様に、馬鹿みたいにただひたすらに泣きじゃくった。

すすり泣き、うめき声を上げながら司は周りを見る。そこには友人達の死体が転がっていた。

 

 

「うグッ! ぁぁッ! アァァアアァアァア!」

 

 

上ずった声をあげ、尚もとめどなく溢れる涙。

違う、違う――、こんな筈じゃなかった。守れたはずなのに、ああ、こんな酔生夢死。

強く、夏美を抱きしめた。もう返事は無い。笑顔は返っては来ない。

 

 

「もうッ! もう俺の負けで良い!! だから頼む! もう止めてくれェエッッ!!」

 

 

かつてない敗北がそこにあった。司は夏美の顔を見る。焼け爛れた皮膚は、あまりにも残酷だった。

体温は無い。こんな、守れないで――、ああ。

 

 

「許してくれ! もう嫌だッ! もう俺達を巻き込まないでくれ!!」

 

 

ディケイドはいない。司は誰もいない、死体だけが存在する世界で叫んでいた。

真紅に染まった空の下、司はただ泣きじゃくる事しかできなかった。夏美の死体を抱きしめたまま、司は唸り声を上げる。

 

 

「もう許してくれ! 俺達はもう逆らわないから!! もう――、嫌だァアアア!!」

 

 

陽炎が見えた。

司は泣き叫び、夏美を放さない様に強く、ただひたすら強く抱きしめる。

反応は無い。当然だ、夏美はもう死んでいる。

 

 

「もう止めてくれッッ!! もう、苦しめないでくれ!」

 

 

むなしく響き渡る叫び声。それを合図に、世界は崩落していく。

 

 

「もう、いやだ! 俺はもう耐えられない! 誰か助けて!!」

 

 

目の前が真っ暗になった。意識は深淵に落ちていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司くん、起きてください!」

 

「!!」

 

 

司は反射的に跳ね起きる。

すると驚いた様な声が聞こえ、夏美がベッドの向こうで尻餅をついているのが見えた。

 

 

「夏美――ッ」

 

「んもう、びっくりしたじゃないですか。さっきまでグーグー寝てたのに」

 

「え?」

 

 

周りを見てみると、そこは知らない部屋だった。

しかし目の前にはよく知っている制服姿の夏美がいて、司の脳は混乱状態に陥る。すぐに思い出すカゲロウデイズ。司は青ざめ、夏美を見上げる。

だが夏美は、いつもの様に微笑むと、司の頭を撫で始めた。

 

 

「でもよかった。心配してたんですよ」

 

「何――?」

 

「覚えてないんですか? 司くんと我夢くん、双護くんはショッカーの攻撃を受けて眠らされていたんです」

 

「え?」

 

「ほら、みんな待ってますから、行きましょうよ」

 

 

言われるがままに手を引かれ、司は夏美に連れられ家の中を歩いていく。

攻撃を受けて眠らされていた? いや、そんな馬鹿な、そうは思えど夏美の調子はあまりにも『いつもどおり』だった。

 

 

「夏美、お前……キバーラに変身できるのか?」

 

「何を言ってるんですか、当たり前じゃないですか。試練を受けて、COBRAとの戦いを経て私は力を手に入れた。司くんだって良く知ってるじゃないですか」

 

「あ、ああ」

 

 

同じだ。

そして夏美がリビングの扉を開けると、そこには同じように制服を着た特別クラスのメンバーがいた。

いや、それだけじゃない、同じく巻き込まれたであろうミク達の姿もそこにはあった。大人数が集うココは、ルカのお屋敷らしい。

丁度同じタイミングで連れてこられたか、双護と我夢も同じように姿を見せた。戸惑う三人、それを見て翼が静かに頷く。

 

 

「三人とも、よく起きてくれたね。混乱してるだろうから、私が状況を説明するよ」

 

 

時空の歪みに巻き込まれた翼達はその途中で葵達とはぐれてしまい、この世界に投げ出された。

先についてた司達を発見したと思えば、その際に戦っていた怪人に司達が丁度負けてしまったのだと。

 

 

「ナイトメアドーパントと敵は名乗っていた。おそらく、悪夢を見せる力だったんだろうね」

 

「悪夢……」

 

 

確かに、今までの光景は司達にとって悪夢以外の何物でもなかった。

だったら――、そういう事なのだろうか? 司達はどうしていいか分からず、ただ立ち尽くす事しかできない。

そうしていると、目の前にツインテールの少女が。

 

 

「目覚めたんだね、良かった」

 

「あ、ああ」

 

 

随分と優しい笑顔だった。

これが本当の彼女なのかもしれない。鈍い痛みが頭に走る。

夏美が言うには司が眠っている間、早く目覚めればとミクがずっと傍で歌をうたってくれていたとか。

 

 

「そうだったのか、ありがとう」

 

「いいよ、気にしないで」

 

「あ、えっと、っていうか夏美――、俺が分かるのか?」

 

「え? 何言ってるんですか司くん。司くんは司くんでしょう? 聖司、私の従兄弟じゃないですか」

 

「そうだよな、そうだよな! ははは、悪い悪い」

 

 

そうか、夢だったのか。やってくれたぜ大ショッカー。司は拳を握り締めるとリベンジを強く誓った。

さて、こうなると話は早い。要はいつもどおりだ。皆と協力して大ショッカーを倒せば良い。

 

 

「足手まといになるなよ咲夜」

 

「その言葉そのまま返してや、る!!」

 

「アッー!!」

 

 

咲夜の蹴りが椿の尻に突き刺さり、椿の悲鳴とは別に、他の皆は笑顔だった。

調子を取り戻した司達は悪夢を振り払う戦いを見せる。迫る敵をバッタバッタとなぎ倒し、ライダー達は迫るショッカーを吹き飛ばしていった。

 

 

「ライダーシンドローム!!」

 

 

10人の紋章がブレイドに集まり、直後ブレイドは黄金の剣へと変身を遂げる。

 

 

「完成! キングブレード!」

 

「ば、馬鹿な! 大ショッカーが負ける等とぉぉ! アリアリぃぃ!」

 

 

ディケイドはそれを掴むと全速力で走り、眼前にてフラついているアリマンモスへ飛び込んだ。

迫る腕を回避し、そのまま全力を込めてブレイドを振るう。下から上へすくい上げる一撃はアリマンモスの巨体を簡単に宙へ舞い上がらせた。

地面を蹴って空に飛び上がるディケイド、その眼下にアリマンモスを捉える。

 

 

「終わりだ!」『ファイナルアタックライド』『ブブブブレイド!』『ディディディディケイド!』

 

 

二つの力が黄金のデータカードを出現させる。

 

 

『スペード・テン!』『ジャック!』『クイーン!』『キング!』『エース!』

 

「ウォオオオオオオオオオオ!」『ロイヤルストレートフラッシュ!』

 

「マンモォォオオォォオオッォ!!」

 

 

一刀両断にされたアリマンモスは爆発四散し終わりを迎える。

着地したディケイドはブレイドを元に戻すと、直後ハイタッチを交わして勝利を喜び合った。

 

 

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