Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫 作:ホシボシ
紫色に煌く靄。
右には本、左には本、上を見れば本、下を見れば本。
無限に広がる本の宇宙に椅子が二つ置いてあった。その一つには観劇の魔女が腰かけている。
そしてもう一つには、赤い靴を履いた少女が座っている。
小学生くらいだろうか? 服装はバラバラだが、共通するのはいつも赤い靴を履いている事と、大きな赤くて丸い宝石を持っている事だ。
「お久しぶりね、フェザリーヌ」
「考えたな、リサ。観測者権限を『眼』に押し付け、自らが『眼』となるか」
「メトロンは良くやってくれているわ」
「代理人は、本来NGなのだけど。フフフ」
「気にしないで。私だって分かってるわ」
デウスエクスマキナはお芝居ではなるべく避けるべき存在だ。
自分達は裏方に徹しなければならない。物語に介入をすれば、いつか世界に裁かれる。
尤も、『リサ』はそれを理解し、立ち回っているのだが。
「あまり世界を滅茶苦茶にされては困るのだけどね。人の子のためにもならない」
「心にもない事を言う様になったわね、本当は望んでいるくせに」
「まさか。よしてくれないか? 私は今、客でもある」
「あなたの本来住む世界とは大きく異なる世界にいるものね」
「ナルタキと言う男に呼び出されてね。もしもほんの少し運命が狂えば、そなたが呼び出されていたかもしれん」
鼻を鳴らすリサ。赤い玉を撫で、彼女はニヤリと笑う。
「私が何故、眼になっているのか、分かるでしょう?」
「今回のケースはなかなか珍しい。あまり良い事ではないが」
「全て調和だわ。私が眼になったように、観測者の力を悪用しようとしている者がいるかもしれない」
「頭が痛くなる話だ。しかしいずれにせよ、今回のケースには関係ないだろう」
「顔見せでしょうからね。いずれにせよ、これが最初で最後だと良いのだけど」
指を鳴らす。
すると世界は暗黒に包まれ、二人の存在は消え去った。
「つまり、世界が歪んで、我々の世界が一つに統合されつつあると」
「拙者はそう見ている。が、しかし、統合されるとは――、疑問でござる」
喫茶店。
褐色の肌の少年、ニルス・ニールセンは小さくため息をつくと、目の前に座っている
黒髪の長髪を結んでおり、和服を纏っている姿は紛れも無くジャパニーズサムライ、ニルスとてよく存じている存在だ。
初めはただのコスプレをした人間かと思ったが、話や『証拠』を提示されると疑いは消えていく。
幸い、ニルスとて『他世界』には理解がある。頭ごなしの批判は無かった。
「どうすれば、帰れるのかな、ハハハ……」
眠そうな目で困ったような笑顔を浮かべているクローク。
魔法使いと言われた時には思わずニルスも頭を抱えたが、やはり彼も本物であると。
「僕は中々興味深いと思うけどね」
その隣には昼間だと言うのにワイングラスを片手にしている男性がいた。
ゴロウと言うらしいが、ニヒルな笑みを浮かべるだけであまり質問には返してくれない。
そもそも他のメンバーもお互いの事をよく分かってはいないらしい。せいぜい――、仮面ライダーと呼ばれる物に変身できる事くらいか。
「仮面ライダーですか」
「ニルス殿はご存知か?」
「いいえ、まったく」
ニルスの世界にブラックホールが出現したと思えば、彼らのような人間がボトボト降ってきた。
そして同じくして、ニルスの友人がブラックホールに巻き込まれた。
「あなた達、侵略者じゃありませんわよね!」
ニルスの隣で剣丸達をキッと睨んだのは、太い眉毛が印象的な少女、キャロライン。
キャロは腕を組んで訝しげな目を剣丸たちに送っている。確かに、その可能性は十分にある話だ。
だからこそ話し合いの場を設けた。幸い、すぐに力を示してこなかったのはニルスとしてもありがたい話である。
普通、ならば。
「世界は何を考えているのやら」
ニルスはふとベルト横にホルダーに入っている。ガンプラにそっと手を触れた。
以前から研究していたリアルブート。それはあくまでも場所を気にせずに娯楽が楽しめるシステムでしかなかった。
しかし時空の歪みが発生してからと言うもの、娯楽は兵器に変わった。
こんな研究を、発明を、ニルスは望んではいなかった。
しかし現にリアルブートによって玩具であるはずのガンプラは実際に町を破壊できる力を手にしたのは事実。
ニルスは何もシステムを弄ってはいない。つまり時空の歪みがもたらした因子のみで、ガンプラが実際に戦う力を手にした訳だ。
まさにそれは、世界の意思というのが相応しい。
もしもこのままリアルブートが実戦利用可能のままだと、ニルスの技術が軍事的に利用される危険性もある。
それだけは防がなければならないところだ。一刻も早く事態を解決しなければならないのだが、はたしてその解決するべき問題とはなんなのか。
「はぁ。なんだか大変な事になっちゃいましたね」
そして当然、巻きこまれたのは彼らだけではない。
テーブルにはジュースのストローを咥えている少女が。黒髪を分けて額を大きく出している。名前は
「あ、でも、異世界に巻き込まれた美少女。フフフ! これは結構アピールポイントになるかも!」
ルナが嬉しそうなのは彼女の境遇が今現在売れない地下アイドルだからであろう。
彼女はニヤニヤとしながらメモ帳に現在の状況を事細かに記載している。
そんなルナの隣には同じく、長く濃い青の髪が。
「ブラックホールに巻き込まれた際、"助けて"という言葉を聞きました」
ココにいる者達が皆、"ただの人間ではない"と言う事は既に話している。ならば尚更理由がある筈だとニルスは説く。
サムライに魔法使い、地下アイドルに中学生、バラバラな者達だが一つだけ共通する点がある。
それはブラックホールの中に、助けを求める声だ。
「その声が、違っているでござる」
「仮面ライダー、アキバレンジャー、プリキュア、そしてガンダムですか」
顎を押さえるニルス。その声が無関係である訳がない。
であるならば、呼ばれたと言うべきだろう。しかしニルスの友人である筈のレイジ達は同じくブラックホールに巻き込まれてどこか別の場所に向かったとみられている。ルナの知り合いやれいかの友人もまたココにはいない。
「おそらく助けを求める声は救難信号の様なものでしょう。やり方は無理やりですが」
「つまりぃ、わたし達は偶然じゃなくて必然で吸い込まれたって訳ですか?」
「そうなりますね。ですが今ココにいる僕達は転送失敗組みでしょう」
もしくはこのニルスの世界は中継地点でしかない。
この先におそらく助けを求めた主の世界がある筈だ。
「では、みゆきさん達はそこに……?」
「ええ、おそらく」
「では、再びそのブラックホールが生まれる可能性があるわけだ」
クロークの言う事は尤もだった。
もしもココが中継地点ならば声の主の役割は果たせない。
ならばもう一度、助けを求めにブラックホールを出現させるだろう。
普通に考えれば、そこへ飛び込めば目的地に行けそうなものだが、少々躊躇する点があるとニルスは言う。
「そうでしょうね。そうでしょうが、僕は賛成できません」
「と言うと?」
「助けを求めていると言う事は、何かしらの問題に直面している事は明らかでしょう」
当然、そうなると危険な状況であると言うことだ。
何も知らない自分達が対策もなしに飛び込むのは安易ではないか。声の主は時空を歪める程の力を持っている。
そんな声の主でも解決できない事態が向こうで起きているのだから。
「話を聞く限りでは、我々には同じくして『敵』が存在している」
剣丸達、仮面ライダーであれば大ショッカー。
ルナのアキバレンジャーならばステマ乙、もしくはバロスW
れいかのプリキュアならばバッドエンド王国。
そしてガンダムにもまた歴代シリーズ通して敵と呼ばれる者達がいるが、現在ニルスが住んでいる世界に明確な敵はない。
あくまでもガンダムとは、ニルスの世界ではアニメの一つなのだ。
それら踏まえ、彼らは話を纏める。
ルナの敵は組織名からも分かる通り、大規模な悪事を働くとは思えないと。
れいかの敵であるバッドエンドは既に壊滅している。
「ならば、おそらく大ショッカーでしょう。バッドエンド王国が復活した可能性もありますが、大ショッカーには世界を移動する技術もあるとか」
それにもしもバッドエンドが復活したなら、真っ先にれいか達を狙いに行くはずだ。
しかしそうではない。ならば世界を移動し続け、悪事を働いている大ショッカーがやはり有力だと。
「もしくは、そのメンバーが結託したか」
「頭の痛くなる話です。最悪、我々が把握していない勢力である事も考えられるでしょう」
いずれにせよ、その危険な連中が潜んでいる所に丸腰で向かうのは危険だろう。
それに救難信号が大ショッカーの罠である可能性も考えられる。
「僕達に世界を移動する術はありません。飛び込んだはいいが、罠であった場合、戻れないのは致命的で――」
言葉を止めるニルス。
前にいた剣丸の表情が一瞬にして変わったからだ。
まるで別人だ。目を細め、虚空を睨みつけている。
「なにか?」
「敵でござる」
「え?」
剣丸はふと、服の裏から何かを取り出し、直後腕を真上に上げた。
するとガキンッ、と、硬い物がぶつかる音。
そこにあったのは刀だった。
「なっ!」
「ほう! 良く見切った!!」
「分かりやすい殺気でござった。それに、元々この一撃は寸止めにする気であったろう」
剣丸の後ろには刀を振り下ろしていた鎧を纏った侍が。
刀は剣丸がかざしたロックシードに命中しており、小さく火花を散らしている。
悲鳴を上げるルナやキャロ、そして他の客。同時にゴロウが侍のわき腹を蹴った。
窓を突き破って広場に転がっていく侍。おそらく――、と言うよりも確実に人間ではなかった。
クロークは大きなため息をつくと、客やキャロは自分が守ると。
「では拙者はあの者を」『オレンジ!』
ロックシードを既に装備していた戦極ドライバーへセットして、剣丸は外へ飛び出した。
「変身!」『ソイヤ!』『オレンジアームズ!』『花道・オンステージ!!』
無双セイバーを振るうと、侍は刀を軌道に合わせ、刀と刀がぶつかり合う。
「拙者は鎧武、剣丸だ。おぬし名は?」
「ザムシャー族が英雄! ザムザーだ。ザムザで良い」
一旦刀を振るい、二人は距離を空ける。
「我が好敵手、メビウスの気配を感じてブラックホールに呑まれてみたが、まさかこの様な相手に会えるとはな」
「ではザムザ。人違いと言う訳か。ならば刀を下ろせ」
「断る。異星人と戦う事ほど心躍るものはない!」
再び地面を蹴るザムザ。一瞬で鎧武の眼前に迫ると踏み込んだ一閃を。
しかし火花が飛び散る。見ると、大橙丸が刀をしっかりと受け止めていた。
「二刀流か。それにしても我が刀、
「妖刀か。止めておけ、死者の魂に呑まれるぞ」
「ククク! このザムザが死者如きに惑わされるものかよ!」
鎧武の腹部を蹴り、怯ませると、ザムザは刀を思い切り振り回す。
激しい剣閃が鎧武の胴を切り裂いていき、うめき声を上げながら鎧武は地面を転がっていく。
「貴様こそ、歪んだ魂を感じる。死者を背負っている様な……、歪んだ魂だ」
「………」
跪く鎧武に追撃を仕掛けようとザムザは再び地面を蹴った。
しかしその時だ。視界の隅から新たな刀が伸びてきたのは。ザムザは腕を盾に刀を受け止める。
すると次は蹴り。胴に一撃を受けてザムザもまた地面を転がる。
「貴様――ッ、男の勝負に水を差すとはつまらんヤツよ!」
「勘違いしないでいただきたい。ココは僕の世界だ、勝手に暴れてもらっては困ります」
リアルブートアシムレーション。早速この技術を使う事になるとは。
ニルス――、ではなく、彼のガンプラ、戦国アストレイはザムザの前に立つと二本の刀を構える。
和の侍をイメージしたガンプラで、背後には巨大な鬼の面があった。
「この様な場所で戦えば当然被害が出ます」
幸い周りは既に避難しており、人の気配はないが、だからと言って街中で超人的な力がぶつかり合えば崩壊は必須だろう。
それに戦闘を望んでいるのはザムザだけだ。ザムザは周囲に気配を感じて辺りを確認する。すると背後にはゴロウが変身した仮面ライダーGが。
「有利か不利か、分からない程の脳なのかな」
「ムゥ」
右にはルナが変身したアキバブルーが銃を構えている。
左には手をかざしている、れいかが変身したキュアビューティが立っていた。
「お侍さん、仲良くしましょうよぉ」
「無駄な争いは避けたいのですが……」
「チッ、女と子供は切らんと誓っている」
刀を下ろすザムザ。
――が、しかし、それは一瞬だった。魂魄星が光ったかと思うと、ザムザは刀を振るう。
すると彼の周囲に怪獣が出現。サイズは鎧武たちの背丈程だが、それはまさに一瞬の出来事だった。
「ドレンゲラン!」
黒い首長竜に赤い宝石が埋め込まれた怪獣が。
「コダラー!」
丸みを帯びたシルエットの青い怪獣が。
「シラリー!」
甲虫と竜を合わせた怪獣が、それぞれザムザの周りに出現する。
あっけに取られた一同と地面を蹴ったザムザ。
彼の刀には多くの怪獣の魂が眠っており、それを振るう事で自らの式神として使役する事ができる。
一同が怪獣に怯んでいる間にザムザはあっと言う間に鎧武の前に。
「しまッ!」
アストレイが振り返るが、既にもう遅い。
刀は鎧武の眼前に――
『ソイヤ!』『オレンジオーレ!』
「!」
カッティングブレードを二回倒す事で発動する『オーレ』はロックシードの固有の力を発動させる効果を持つ。
オレンジアームズの固有能力、それは、アーマーの変形。鎧武の鎧が閉じ、巨大なオレンジが頭についている状況になる。
一見間抜けな光景だが、オレンジはザムザの刀を受け止めると、さらに鎧は高速回転、刀を弾くとザムザを大きく怯ませる。
「なんと面妖な力か!!」
怯み、倒れるザムザ。しかしココで彼は『力』を発動する。
呼び寄せた怪獣の一体、シラリーが光を放つと、直後魂魄星に吸い込まれ、発光。
するとシラリーをモチーフにした巨大な弓がザムザの手に現れた。
これが魂魄星の真なる力。
呼び出した怪獣と刀が合体する事で、新たな武器に変わるのだ。
ザムザは弓の弦を引き絞ると、直後指を離す。すると光の矢が弓から連射され、鎧武の体を爆炎に包みこむ。
「ッ、兄上、力を貸してもらいます……!」『パイン!』
新たなロックシードを発動し、戦極ドライバーにセットした鎧武は地面を転がり、カッティングブレードを倒す。
『ソイヤ!』『パインアームズ!』『粉砕・デストロイ!』
今度は空から巨大なパイナップルが降ってきたかと思うと鎧武の首にスッポリと嵌った。
そして直後展開、パイン型の鎧を纏った鎧武は、ゆっくりとそのまま立ち構え、迫る矢を全身で受け止めた。
先ほどオレンジアームズでは怯んでいた攻撃もパインアームズの鎧の前では耐えられる物であった。
唸るザムザ。同時に鎧武はカッティングブレードを三回倒す。
『ソイヤ!』『パインスパーキング!』
三回によるスパーキングは必殺技の発動。
鎧武は手に持っていた専用武器、パイナップル型の鉄球がついた鎖、パインアイアンを振り回す。
受け止めてみせる。ザムザもまた構えるが、丁度その時、世界がぐにゃりと歪んだ。
「!」
そして視界に、巨大な学校が映りこんだ。
「な――ッ」
驚き、怯むザムザ。
しかしココが好機と見たか、鎧武は地面を蹴って飛び上がると、パインアイアンを思い切り蹴り飛ばした。
するとパイン型の鉄球が巨大化、そして先ほどの鎧武同じく、スッポリとザムザの首に直撃した。
「!?」
パインが頭部に嵌り、ザムザの視界が黒に染まる。
なんだこれは? 混乱するザムザの耳に、鎧武の咆哮が聞こえてきた。
「セイハァアアアアア!!」
その後、ザムザの胴に凄まじい衝撃が走ったのは言うまでもない。
「これでよしですね! ルナ☆!」
薬指を曲げて、掌を正面に向けてポーズを決めるルナ。どうやらコレが彼女の決めポーズらしい。
そんな彼女の前には縛られてふてくされているザムザが。不意打ちを仕掛けておいて負けた事に流石に思う所があったか、抵抗はしていない。
さらにココで一つ大きく事が動いた。突如学校が現れたと思えば、そこかられいかの知り合いが顔を見せたのだ。
「れいかちゃーんッッ!!」
「や、やよいさ――、きゃ!」
れいかが思わず倒れそうになる程の衝撃。
見ると、れいかの胸に黄色い髪の少女が飛び込んでいた。
黄瀬やよい、離れ離れになっていた友人だ、れいかも思わず釣られて涙を流す。
「ほ、本当にやよいさんなんですね!」
「うん! うん! れいかちゃん、会いだがっだよ゛ぉおお!!」
抱きしめあう二人を、ポカンとした表情で見つめる一同。
そもそも何故学校がいきなり現れたのか。それを思っていると、その学校から人が出てきた。
「おや」
見知った顔がある。向こうもクロークを見て、安心したような表情を浮かべていた。
「………」
ふと、ニルスは右を見ている。
「れいかちゃーん、えへへ!」
「ふふっ、やよいさん、あまり引っ付くと皆さんに変な目で見られてしまいますよ」
「いいんだもーん!」
友人と再会できたのが嬉しいのか、やよいはゴロゴロとネコの様にれいかに抱きついて体を寄せ合っている。
れいかも嬉しいのは同じなのか、やよいの頭を撫でて安心したように微笑んでいた。
ふと、ニルスは左を見てみる。
「オラはココに『おけつ』を入れたいですな」
「ええやんけ! しんのすけの魂を感じるで!」
「えーっと、じゃあ! モモタロスのおけつは真っ赤! 俺の魂、発火、YOYOYO……」
カウンター席に座っているしんのすけは、キンタロスやリュウタロスとケツプリラップ・サウンドエクストリームバージョン2016の歌詞とメロディを必死に考えていた。
ふと、ニルスは背後を見てみる。
「かわいいー! コレでバッチリだね! ルナ☆!」
「うん、かわいい、かわいい!」
「むふふ、照れるクル!」
美月とルナはリボンやフリルなどをキャンディに装飾して楽しんでいる。
もう一度周囲を見回した後、ニルスは正面を見る。するとそこにはお茶を啜っている『ガンダム』が見えた。
「こんなカオスな状況は初めてです……」
「落ち着くといいさ。お茶はどうだい? 羊羹もあるよ」
ガンダムはつまようじに刺さった羊羹を手にすると、それを口――であろう部分から食べていた。
ともあれ、口部から一瞬で吸い込まれる羊羹。ファンタジーだかホラーだか分からない光景に、一緒に座っていたマオや良太郎達も思わず青ざめる。
「しかしSDガンダムがこうして目の前で動いているとは……」
「こらこら、あまり人をそうペタペタ触るもんじゃないぞ」
(人……?)
ニルスは咳払いを一つ。ガンダムに無礼を詫びると、改めて観察を。
「声もアムロレイにそっくりだ」
「マオくんにも言われたが、俺はアムロじゃない。ガンダムプラネット出身のガンダムさ」
SDガンダム達が住んでいる世界があるらしく、そこからガンダムはやって来たのだと言う。
しかし何故? それは決まっている。
「大きな悪の気配を感じた」
「悪、ですか……」
「ああ。以前、ロストヒーローズと呼ばれる戦いがあってね」
ガンダム、ウルトラマン、仮面ライダーが共に力を合わせて大きな敵と戦ったケースがあると。
事態は無事に解決したかに思えたが……。
「どうにも、その時の記憶が抜け落ちていてね」
戦いがあった事は覚えているが、記憶がごっそりと抜け落ちている様な感覚。
その点に関してガンダムは調査を続けていたと言う。すると悪の残党が何かを企んでいるのではないかと。
「俺も聞いたことがある。最近、影法師の奴らがコソコソと何かを企んでいると」
「………」
グルグル巻きにされて部屋の隅であぐらをかいているザムザに違和感を覚えつつ、ニルスはもう一度咳払いを。
とにかく話を纏めよう。まずは共通する点としては各地に時空の歪みが発生し、それぞれはそれぞれ、その歪みがもたらすブラックホールに巻き込まれて異世界へと飛ばされた。
その中で、野上良太郎を中心としたメンバーは一度大ショッカーの企みを阻止し、そこでガンダム達と出会った。
ロストヒーローズ事件と呼ばれる戦いを経たガンダムはまだ悪の根が消滅していない事を説明しにやってきたと。
その後、良太郎の前にある人物達が現れた。
「それが、あなた達ですか」
「ええ、私はシャルル。『眼』です」
良太郎の前に現れたのは葵達、学校待機組みであった。
迎えが来てくれたのかと安心したのも束の間、事態はそう優しいものでは無かったらしい。
「意味が分かりません。私も観測者の目である以上、さまざまなケースを過去に見てきました。しかし今回はいずれにも当てはまらないケース」
喋るネコの方が珍しいのではないかとニルスやマオは思うが、そんなシャルルでさえ息を呑む事態であると。
はじまりはいつも通りだった。時空の歪みに巻き込まれたものの、学校――、つまりEpisode DECADEは無事に世界に接続され、学校を拠点として認識した。
周りの人間は学校には気づかず、干渉もできない。今までの通りの試練形態だった。
とはいえ、異常な転送でやって来た世界。
シャルルは皆に学校で待機しているように言ったのだが、そこは力ある面々、少し探索しに行くと戦える者達は口にした。
「確かに、世界は『通常』でした」
外には歩く人々が見え、一見すればおかしな点は無かった。
しかし出て行ったメンバーが帰らなかったのは言うまでも無い。
そして探しに言った残りのメンバーも、帰ってくる事は無かった。
「アギトには、トワイライトと言う自らの行動を縛る物を破壊するフォームがありました。しかし私は見た、彼らが別の人間として存在しているのを」
誰も学校に気づかず、別人に成り代わり、世界の駒になっていた。
異常だ。シャルルはナルタキに連絡をいれ、強制転移を行ってもらった。
しかしこれがまた異常で、転移の際に発生するエネルギーが凄まじく、ナルタキも全力を込めなければ転移を完了させる事ができなかったと。
「なんとか良太郎さんの居場所をサーチし、そこへ転移を行いましたが……」
「そして、次は、同じ色を持った人がいそうな場所に飛んだってわけ」
腕を組んで立っているハナ。『同じ色』、それが何を意味しているのかは明らかだろう。
そして自分達が直面している危機。世界を塗り替える程の強力な力をシャルルは感じた。同じくして、それはガンダムも同じだ。
「そうだろう?」
「ああ、その通りだ」
ふと、良太郎が口を開く。
しかしその言葉を言ったのは良太郎ではない。今現在、良太郎の中で力を取り戻している人物だった。
「希望はある」
良太郎の中にいる存在は口にする。
「ガンダムと私、そしてあと一人、『彼』が揃えば壁を破壊する事もできるかもしれない」
ヒーロー達が集結すれば、それだけ強大なエネルギーが生まれ、奇跡を起こす事もできるかもしれないと。
「おねがいします、皆を助けてください!」
「私からもお願いします!」
「……しま…す」
葵、里奈、真由の三人はニルス達に頭を下げた。
三人には戦う力は無い。そして巻き込まれた者を思えばの事なのだろう。
「いずれにせよ、このまま放置はできませんね」
キャロラインには避難してもらったが、正直、このまま問題を放置しておけばニルスの世界はやがて崩壊していくだろう。
現にザムザがやって来た、これがもしももっと凶悪な者ならば? 考えただけでも恐ろしい。
唸るニルス。だいたい話は見えてきた。おそらく助けを求めた世界こそが葵達の仲間が変わってしまった場所なのだろう。
世界規模の洗脳が施されているのか? それは分からないが、とにかくこのまま向かうのは危険では?
「現在、僕の研究しているアイテムのひとつに
文字通り、次元を断つ刀である。
レイジのために――、と思って製作してみたはいいが、やはり世界の壁は天才と呼ばれているニルスにも越えられるものではなかった。
世界の情報を記録させるにはニルスがその他世界に踏み入れなければならない。この場合、ニルスは洗脳の世界に踏み入れなければならないのだ。無事と言う保障は無いだろう。
「その件について、作戦があります」
シャルルが提案したのは、『アリアドネの糸』と言う作戦だった。
いうなれば、迷宮に糸をくくりつけた者を放つと言うことだ。
「なるほど、それが可能ならば、引き上げができると言う事ですか」
「引き上げは最悪不可でも、記憶の継続は確定でできると思います」
シャルルの所持しているガイアメモリの一つにメモリーメモリがある。文字通り記憶や記録に関する力を制御できるわけだ。
しかし限度がある。よって選出されるメンバーは絞られる事に。
「立候補はありますか?」
「では、僕が行きましょう」
ニルスは手を挙げ、ニヤリと笑みを浮かべる。
正直、危険なのは分かってはいるが、科学者として、未知との遭遇は心が躍る物があったのは認めよう。
暗闇の空間に一つだけ、大きく目立つ『金』があった。
翼を広げる巨大な大鷲。その鋭い眼光が光を放つ中で、闇の使者達が一堂に会していた。
「異物が入り込んでいる」
今回の作戦の最高責任者である毒サソリ男は一抹の不安を抱いていた。
指を鳴らすと、ホログラムモニタが展開していき、そこへ迷い込んだ者達が映し出されていく。
ミライ、レイジ、みゆき、あかね、なお。ロギーは手下のリッガーを使ってサーチを行ったが――
「こいつ等、仮面ライダーとは大きく違うヤツ等だな」
「そのライダーも元々は異物だった。既にムネモシュネに取り込まれている為に、心配する事はないと思っていたが……」
いずれにせよ、危険因子は排除しておきたい。
そう口にする毒サソリ男の左にはチーターカタツムリ、そして右にはディケイドに倒された筈のアリマンモスが立ち構えた。
「アリアリ、心配する必要はないマンモ! ムネモシュネがあれば、俺達は無敵アリぃ!」
アリマンモスの体が光ると、彼の体が分身する。
軍隊アリ。自らの分身を生み出す技であり、ディケイドが倒したのもこの分身の一体でしかない。
アリマンモスいわく、ディケイド、響鬼、カブト、ダブルは若干怪しいが、それ以外は敵ではないと。
「だがイレギュラーである事には変わりない。カナリア、どうなっている?」
チーターカタツムリの前に灯る黄色の光。
光球に翼が生え、カナリアはゆっくりと上空に昇っていく。
『分からない。ムネモシュネは、彼らを、招いてはいなかったのに』
その様な事がありえるのか――、とは思えど、心当たりがあるのか毒サソリ男達は唸り声を上げる。
そこへ集う闇の使者。笑い声をあげ、ロギーは円卓の上に足を乗せて鼻を鳴らした。
「どうでも良い! いずれにせよ、邪魔な奴等は消せばいいだけだ」
「ロギーの言うとおりだ。この世界なら、俺達に敵はねぇ」
「ヒャハハハハハァア!!」
アリカポネ、イカファイア、トゲアリ獣人はイレギュラーを全く恐れていない様だ。
確かに、ムネモシュネの強化と世界形態の中では彼らは強大な存在として君臨できるだろう。
しかし物事に絶対はない、それを理解している者もいるようだ。
「私の部下が既にプリキュアなる者に負けています」
「強化は薄かったけれど、トリカブトも十分な戦闘能力を持っていた筈だわ」
シスター姿の女性二人が目を細めた。
中世の世界ではテトラが慕う優しいシスターであったが、その正体は優しさの欠片もない化け物だ。
彼女達が感じた危険因子、みゆき達は明らかに『戦う力』を持っている。
なにより、夏美達とは違い、何故か洗脳の効果を受けてはいない。
「危険ですわ。放置するのはありえません」
「つっても、殺したってどうせ戻るだろ?」
「確かに、ムネモシュネを止める事はできないんだろう?」
「シュシュシュ……」
アリジゴクロイド、カマキリロイド、カニロイドの三人の言うとおりだった。
ムネモシュネのコアに問題があるらしく、キングダムの力があるとはいえ、ムネモシュネの扱いは慎重にしなければならない。故に、油断はできない。
「ハハッ、ロギーの言うとおりだ。いずれにせよ、殺し続ければいいんだよッ!」
ギターをかき鳴らす赤いドレッドヘアの少女、デッドスター。
その正体はショッカー怪人、ヒトデンジャーである。その背後には仲間であるカミソリヒトデが控えている。
ナンバー13(キャマラスワーム)、アングィス・フェミネウス。スピングレー隊、マッハローラー、ビエラワーム(ナンバー9)、三体のシードラゴンなど、多くの怪人が姿を見せていく。
そしてギルガラス、パニックの中央に立つ預言者ソウが着物を翻した。
「やったらぁーだまーすぅぅう!」
稲妻が迸りヤッタラダマスが正体を現す。
いずれにせよ異物は排除しなければならない。ショッカーの偉大なる野望に、失敗と言う文字があってはならないのだ。
「動くぞ。次の世界だ、私が奴らを絶望に叩き落してやる!」
「できるかい? 預言者様」
「当たり前だ! 心が死ねば、奴等は無限に取り込まれる!」
そこで笑い声が。
一同が振り向くと、そこには椅子に座って足を組んでいるエノメナが見えた。
『問題ない。いずれせよ、私の力があれば誰も逆らえない』
手に持ったワインを飲み干すと、彼女はグラスを投げ捨てる。
『我が宿敵、デバンがいない今、恐れるものはない。ギルガラスとパニックの力が合わさった発狂攻撃に逆らえる者など、誰もいない』
そしてエノメナの隣で壁にもたれかかっている白い服の女は口が裂ける程の笑みを浮かべた。
「やはりきたか、ウルトラマンメビウス」
「ッ、知り合いか!」
「私たちの敵だ。ウルトラマン、まあ恐れる必要はない。ヤツは所詮、偽者だ」
舌なめずりを行う女性、その名は、ボガール。
彼女は人間態から怪獣態へと変身すると、再び大きく響く舌なめずりを。
「怪獣軍団とショッカーが組んでいるのだ、心配する必要はない」
「その通りよ、皆」
足音が聞こえる。上層にて姿を見せたのはマヤ。
その背後にはズノー陣、ナイトメアドーパントが姿を見せている。美しい黒髪をなびかせ、彼女は眼光を光らせる。
これは革命だ。このままムネモシュネを起動し続け、そして強化を繰り返せば、やがては――
「大ショッカーの全てを超える事ができる!」
そう、この計画は大ショッカーのものではない。
大ショッカーを超える、新たなる組織の確立。
「スーパーショッカーの確立を!」
すると杖を地面に打ちつける音が聞こえる。
マヤが深く頭を下げる相手こそ、この計画を通した大幹部。
「ツバサ大僧正!」
仮面を付けた老紳士がゆっくりと歩いてくる。それを見てロギーを含む全員が軽く頭を下げる。
杖を振るうツバサ大僧正。すると、掲げられていた大ショッカーの紋章がノイズと共に変化していく。
翼は六枚に、そして足は三本、さらに首もまた三つになる。左と右は大鷲の首ではあるが、中央の首は牙がある。
それはまさに、『怪獣』と言うに相応しい。
「世界を変えようではないか。諸君らの活躍に、私は期待している」
拍手が鳴り響いた。
やがては大ショッカーをも支配する新たなる組織が、今ココに誕生したのだ。
死ぬのは怖いよね。傷つくのは怖いよね。
私もそうだった。いつも怯えていた。いつ終わるのか、いつ報われるのか、ただそればかりを夢見て、終わらない地獄の中にいた。
助けて欲しいよね。でもね、それを心から望んでいるのに、私はいつも天邪鬼。
どうなるの?
どうするの?
どうすればいいの?
そればっかり考えて、苦しんで、悲しいね。
「かわいそう」
「かわいそう」
「かわいそう」
やめて。
お願い、やめて。
近寄らないで、触らないで、見ないで、あなたの優しさは私を壊すから。
たすけて、お姉ちゃん。私を助けて、お姉ちゃん。
「あなたも、怯えてる」
言われたくないでしょう?
怖いもんね、悲しいもんね、張り裂けそうだもんね。
でも言われたくないでしょう?
「だったら、世界中の人間を『かわいそう』にしよう」
みんな可哀想なら、誰もあなた達を可哀想なんて言わなくなる。
でも――、私と違って、あなた達は本当に可哀想だから、もっと皆をかわいそうにしなくちゃ。
そしてあなた達もかわいそうになって。そうすれば全て白になる。苦痛も、悲しみも、ゼロになるから。
「だから、私が――、私達が、みんな『かわいそう』にしてあげるから。待っててね」
「!」
飛び上がる様に、みゆきは体を起こす。
なんだ? 夢? 目が薔薇の少女がコチラを見ていた。純白、白、穢れのない少女はとても純粋で残酷な事を言っていた気がする。
汗を拭いながら、みゆきは辺りを確認する。すると同じく目を覚ましたのか、唸り声をあげ、あかねとなおが体を起こす。
「ッ」
みゆきは着ている服に覚えがなかった。可愛らしいお洋服ではあるが、何故?
そう、何故。そういえばココはどこ? 小屋の様だが、記憶にはない。
だって自分はさっきまで――
「あれ?」
服が、本来の物になっていた。巻き込まれた時と同じ服。
そして、小屋など存在していない事にみゆきは気づく。なんだ? これは。そう思っていると、拍手の音が。
振り返ると、そこにはフルーラが立っていた。
「アンタは、確か……!」
「仮面ライダーダブル、その片方であるフルーラよ。よろしく、プリキュアさん」
「え? なんで――ッ」
なおが驚くのも無理はない。
なぜならば彼女達はフルーラの頭部が消し飛ぶ様をつい先ほど見ているのだから。
そしてその反応で察したのか、フルーラは笑みを浮かべて再び拍手を。
「完璧よ! パーフェクトね貴女達は!」
「ッ、何が……、どうなって」
「とにかく事情を説明したいの。一緒に来てくれるかしら」
視線を交差させ、唇を噛むみゆき。
フルーラがどういう人物かを知っている以上、そう簡単に首を縦には振れなかった。
するとフルーラは鼻を鳴らして服の中に手を入れる。ガチャガチャと音がして、フルーラは服の裾から色々なアイテムを地面に落とした。
ガイアメモリ、メモリガジェット、そしてメタルシャフト。そしてフルーラは両手を上げて数歩後ろに下がって地面に膝をついた。
「これで信じてもらえるかしら。なんなら下着姿になっても良いけど、それはゼノンだけが見て良いものだからゴメンネ」
「……ッ」
一方で同じ状況になっていたレイジ。
目の前にいるゼノンは装備を地面に落とし、トリガーマグナムをレイジに投げ渡した。
「コレで信じて貰えたかな?」
「なんなんだよ、ちくしょうが……」
結局とレイジやみゆき達は指示に従い、ゼノン達が案内する所を目指した。
するとそこには、向かい合い立っている司とミライが。
「お前――ッ」
「さあ、集まった所でお話と行こうか」
そこでゼノンや司は語り始めた。
ムネモシュネがもたらすループ、カゲロウデイズ。
そして変わってしまった仲間の事を。
「じゃあ、つまり――」
ミライの言葉に、木にもたれかかっていた男は――、聖司は頷いた。
「そうだ。おかしくなっていたのは、変わってしまったのは俺達じゃない。夏美達の方だ」
司は頭を下げる。
最後の希望を無駄にはできない。
「頼む! ミライ、みゆき、あかね、なお、レイジ! 俺に力を貸してくれ!」
カウントは間違っていない。
ならば、今回が終わりだった。
「この世界で夏美達を殺せば、あいつらは元に戻る!」
殺せば終わる。
その言葉に、ミライは拳を握り締め、戸惑いに歯を食いしばった。
「………」
長い沈黙が場を包む。
空はあんなに青いのに、風は清清しく草原を揺らすのに、一同の心には重い空気が圧し掛かる。
話は分かった。だが、やはり、そう簡単にイエスといえる訳がない。
「決められないよ……!」
みゆきは涙目になりへたり込んだ。
夏美とは関わった時間こそ短いが、確かに友人になったと思っている。
その夏美を殺すなどと、できる訳がない。それは他のメンバーも同じだった。
それに少なくとも彼らは正しき道を今まで歩んできたと思っている。その中で、人を殺める事は最も避けるべきだと理解している。
なのに、なのに……。
「頼む! お前達は特別なんだ!」
司達はミライを見たのは前回の世界がはじめてだった。
つまり司達と同じく、巻き込まれた者の身であるというのに、記憶を失っていない。
ムネモシュネの洗脳を受けている筈なのに、それを超えたのだ。そして司は戦いの中で確かにミライ達の正義を聞いた。
それは司と同じ、仮面ライダーと同じ、純粋な正義の形ではないか。
「パス」
「んなッ!」
しかし、レイジの返事はノーだった。
気だるそうに頭をかくと、レイジは司に背を向ける。
「な、なんでだレイジ!?」
「しらねー……」
「は、はぁ!? 前回の件なら謝る! だけど、ああしなければ、夏美達が悪の役割を与えられてしまうんだ!」
「それは……、分かるけどよ。なんか気がのらねーんだよ!」
「なん――ッ! なんなんだそれ!!」
「とにかく! オレはパスなんだよ!! パスパス!! パスッッ!!」
レイジは唸り声を上げるとそのまま司から離れていく。
正直司達からしてみれば訳の分からない話である。
確かに抵抗はあるかもしれないが、夏美を殺しさえすれば元に戻る。何を迷う必要があるのだろうか。
しかし次に視線を移したみゆき達も、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい司さん。私はやっぱり、あなたには協力できない」
「ど、どうしてだ、みゆき! お願いだ、夏美達を助ける為に力を貸してくれ!」
「もちろん――、私も司さんに協力はしてあげたい。でもやっぱり夏美ちゃんは友達だから……。だから、話合いで説得したいの」
あかね、なおも同じ考えだと。
しかしそこでゼノンの笑い声。木にもたれ掛かった彼はニヤリと唇を吊り上げる。
「まだキミは誤解してるね、ハッピー」
「え?」
「言っただろ? キミ達がお友達になった夏美は、偽者のお人形なんだよ」
「ッ!」
もう今、この世界にいる夏美はみゆきの事など忘れている。
そればかりか今の司達は服装こそ禍々しいが、悪の破壊者軍団ではなく、いつもどおりの司達なのだ。
であるならばムネモシュネの善悪の定義において、
「それでも、私は……、友達になったから」
「偽りの友情に価値を見出すなんて、君は脳みそまでウルトラハッピーなのかな」
「おいゼノン!」
司が肩を掴むと、ゼノンは自らの手で勢い良くそれを弾いた。
どうやらレイジに断られた事が想像以上に心に響いたらしい。
ゼノンもまた完璧ではない。焦りは確かなものなのだ。彼だって理解している。
みゆき達の特異性。何故洗脳が施されなかったのかはゼノンにも分からない。
分からないからこそ、チャンスは無駄にしたくない。次の世界に変われば、みゆきが敵になる可能性もあるのだ。
「今までは何とかなったかもしれないけど、今回ばかりは違う。ハッピー、サニー、マーチ、選択を間違えれば――」
ゼノンは強く、強く、言葉を目立たせる様に口にする。
「死ぬぞ」
「……それでも、私が信じた正義に嘘はつきたくないの!」
みゆきはレイジと同じく、司達に背中を向けると地面を蹴って走り出した。
複雑な表情であかねとなおもアイコンタクトを交わすと、後を追いかける。
「待ってて、必ず夏美ちゃん達を元に戻すから!!」
「………」
大きくため息をつく司。
まあ、無理もない話か。司達だってそうだったのだから。むしろ初めからすんなりと割り切っているゼノン達の方が異例なのだ。
それをそれとなく口にすると、ゼノンとフルーラは自嘲気味に笑みを浮かべる。
「もっと酷い地獄を見た事があるからね」
「え?」
「いや――、いや、いや、いいや。それより、君はどうする? メビウス」
「………」
目を細めるミライ。
彼もまた、答えはノーだった。
「少し、考えさせてください」
だが、言葉は終わらない。
「少し、話しませんか、司」
「……ああ」
一方で、そんな司達を見つめる影が。
「なるほど、そういう事か」
「はいはい、何かはあると思ったんだけどねぇ」
「ムネモシュネか……」
司達が集まって話していた大きな木の、その上、枝に腰掛けていた三つの影。
COBRA、ヒトツミ、桃瀬。三人は一度視線を交差させると、直後ニヤリと笑みを浮かべた。
今、この状況の格好悪さであったり、同じ『違和感』に気づいた者が三人いると言う事の、畏怖。
「しかし何故俺達は洗脳を受けなかったのだろうか」
「大ショッカーの力か。もしくは僕の『無視』の力だ」
「ああ、じゃあCOBRAくんサマサマって訳かい」
木の上から地面の上に落ちる三人。
既に司達は去った後、COBRA達は改めて周りを見回してみる。
なるほど、これが幻想の世界とはとてもではないが思えない。しかし兆候はあった。だからこそ三人は『残ってみる』と言う選択に至ったのだ。
例えばそれはヒトツミ。
我夢を食ったはいいが、何か違和感を感じた。まるで氷を食べている様な。空を食している感覚。
例えばそれは桃瀬。彼は見た、正確には部下の道化師が見た。
自分を倒したはずの、仮面ライダーの姿を。同じく世界を移動しながら戦う者の存在、興味深いと残ってみればコレだ。
例えばそれはCOBRA。ディケイドを殺してみて思う。
はて、彼はこんなつまらない事で死ぬ人間なのだろうかと。仮にも自分を倒した人間だ。
何か変わるきっかけがあったとはいえ、あの時の司はまるで別人だった。短時間で人間があそこまで変わるものだろうか? 気になって残ってみれば――、である。
COBRAはクルスたちを撤退させ、ココに残った。
「さて、どうするよ、ショッカー本部に報告でもするかい?」
「いや、必要ない」
この『必要ない』という言葉で再び三人はニヤリと笑う。
「ああ、そうだね、必要ないね」
「俺も同意権だな。まだ、必要ないだろ」
結局のところ、この三人、大ショッカーの部下と言うよりは自らの意思で動くタイプである。
それには組織など必要ない。
いずれにせよ、邪魔なものは消すだけだと。
さて、飛び出したみゆき達。少し歩くと、建物が増えてきた。
不安そうな表情を浮かべながらみゆきは辺りをキョロキョロと見回す。司の話が本当ならばきっとどこかに夏美達がいる筈だ。
「でも、本当に話し合いで解決するのかな」
早足でみゆきを追いかけるなお。
司達の言葉でもムネモシュネの洗脳を打ち破る事はできなかった。
夏美達にとって司と自分たちでは過ごした時間は大きく違う。果たして言葉を響かせる事はできるのだろうか――?
「せやけど、殺すなんて話……、ウチは絶対に嫌やで」
必ず想いは届くはずだ。そういう戦いをしてきたのだから。
しかし丁度その時だった。みゆきの足元に散る火花、そして衝撃。
大きく肩を震わせて立ち止まるみゆき達の前に、一人のシスターと兵士が歩いてきた。
兵士の手にはマシンガンが。どうやらそれを地面に向けて発砲した際の火花らしい。
「フフフ、見つけましたわ」
「シスター、あれが預言者の言っていた」
「ええ、ええ、世界に災厄をもたらすと言われている。プリキュアですわ」
そこで気づく三人。
シスターの隣にいた兵士は小野寺翼であった。
この世界の軍服だろうか? 帽子にケープを翻し、翼は銃を投げ捨てるとシスターの前に立つ。
「翼さん! 私です! 星空みゆきです!」
「ッ、やはり私の名を! 預言者の言っていた通りだ」
「ええ、お気をつけて」
分かっていたことだが、どうやら翼にみゆきの話を聞く気はないらしい。
彼はオルタリングを出現させると、変身ポーズを取って手を前へ。
そして左右のボタンをタッチすると翼の体が光に包まれ、直後アギトに変身を完了させた。
「翼さん! 話を聞いてください!」
「翼、殺しなさい」
「ハッ、分かりました!」
アギトはみゆきの声を無視すると、地面に落ちた銃を拾い上げ、直後その銃口をみゆき達に向ける。
マシンガン。当然それを発射すれば人間の、それもみゆき達のような子供など一瞬で絶命するだろう。
しかしアギトは鼻を鳴らすと、迷う事無く引き金に指をかけて、銃弾を雨を乱射した。
「――ッ」
半ば信じられないと言う思いはあった。
しかし、みゆき達は見た。アギトが迷わず自分たちを撃ち殺そうとする様を。
体を撃ち抜こうと飛来する無数の弾丸。だがそれはみゆきの体に当たろうとする所で、光の結界に阻まれる。
ト音記号の紋章。みゆきの前に現れたスマイルパクトが発動した自動防御結界。もちろんそれは紛れもない攻撃の合図。
このままでは殺される。複雑な心を抑え、みゆき達はそれぞれのプリキュアに変身する。
「ムンッ!」
繰り出されたアギトの裏拳を回避しつつ、ハッピー、サニー、マーチはアギトを囲むように位置を取った。
そして一気に腰へ、肩へ、足へ掴みかかった。
少しは落ち着いてくれると思ったのだが、アギトは腕を振るってサニーを放り投げると、足を振るってマーチを吹き飛ばす。
そして腰に掴みかかっているハッピーの背中にアームハンマーを打ち込む。
「ガハッ!」
アギトは地面に叩きつけられたハッピーの髪を掴むと、強制的に立ち上がらせ、胴体へ掌底を打ち込んだ。
うめき声を上げて転がっていくハッピーを見て、サニーは舌打ちを零しつつ指を鳴らした。
「かんにんな! 先生!」
指を鳴らした際の摩擦で火花が散ると、アギトの周りに爆発が起こり始めた。
さらにそこへマーチが手をかざし、暴風を発生させる。風は炎の勢いを増加させて威力と範囲を増していく。
しかしこれはあくまでも威嚇射撃。炎でラッピングしつつも威力は最低限に落としている。
当たり前だ。これは話し合い、何故攻撃をする必要があろうか?
確かに三対一ならばハッピー達が本気を出せばアギトを倒すことはできるだろう。
だがそれでは司の誘いを断った『理由』が消えてしまう。だからハッピー達は『話し合い』で決着を付けたかった。
もちろん、そんな事はありえないのだが。
「ハァア!」
「「「!」」」
炎と風がアギトのオルタリングに吸収されたかと思うと、直後、アギトの姿が変化した。
トリニティフォーム。二つの武器を交差させ、思い切り振るうと、激しい熱波がハッピーたちを吹き飛ばす。
「きゃああ!」「おわああ!」「うあっ!」
地面に倒れた三人に追撃を仕掛けようと歩き出すアギト。
しかし刹那、アギトの体に激しい衝撃が。見えたのは赤い閃光。
さらにエンジン音が。アギトが前を見ると、そこには眼前に迫るタイヤがあった。
「グッ!」
武器を交差させてタイヤを受け止めるアギト。
摩擦で火花が散り、アギトはうめき声を上げて正面にある凱火を睨んだ。
そう、響鬼とカブトが助けに入った。響鬼は凱火の前輪でアギトを押しつぶそうとし、カブトは倒れるハッピーたちの前に立つ、小さくため息をもらす。
「何度も見た光景だ。今更すぎる」
「あ、ぅう」
「逃げるぞ。立てるか?」
カブトは素早くハッピーたちを立たせると響鬼に合図を送る。
すると響鬼はバイクを旋回させてアギトに背を向ける形でバイクを発進させる。
状況が状況か、サニーは悔しそうに歯を食いしばりながらも二人の肩を叩いてカブトの後ろに飛び乗った。
続いてマーチもサニーの後ろへ。ハッピーは走ってきた響鬼の背後に飛び乗る。
「逃がすか!」
アギトは自身に嵐を纏わせる事で飛行、響鬼たちの後を追いかける。
だがバイクと飛行ではどちらが勝つのかは明らかだった。ましてやカブトにはクロックアップもある。
だから逃げ切れるとばかり思っていたのだが――。
「きゃああ!」
丁度それは川の上に掛かった橋を通っていた時だ。
衝撃が走る。ハッピーの体に鎖が巻きついたと思えば、体が宙に浮き上がり、放り出された。
なんだ? 響鬼達が視線を背後に移すと、空中にて翼を広げているシスターの姿があった。彼女も当然異形の者である。
十字架がついた鎖でハッピーの腰を縛り、響鬼から引き剥がした。
どうやらアギトは既にシスターの力は知っているのか、ソレを見てもシスターではなく、倒れたハッピーに向かっていった。
マズイか、助けようとブレーキをかける響鬼だが、直後ハッピーの声が響く。
「お願い、行って!!」
「な、何言うてんねん! 置いていける訳ないやろ!」
「確かめたいの!!」
誰しも、何かしら己の中に一定のスイッチや指標がある。
それを理解しているのか、カブトは頷くとアクセルを吹かしてバイクのスピードを上げた。
「ちょ、ちょい!」
「止めてよ、双護さん!」
「大丈夫だ。みゆき――だったか。アイツにも考えがあるんだろう」
それに、死んでも蘇る。
それを聞くと、サニー達は大きく目を見開いた。
「ウチは納得できへん! 降りるで!」
「……仲間を信じてやれ」
「ッ!」
「アイツはお前らよりも悩んでいる。その答えを知りたいんだろう」
それを言われるとサニー達は言い返すことができなかった。
サニーとマーチは今、間の所で迷っている。夏美達を殺す事はいけないとは思いつつも、他の方法が全く思い浮かばない。
話し合いと言う事は口にしつつも、先の通り、司達がそれでダメだったという事実を重く見ている。
「……みゆき」
それを理解して、走り去る一同。
響鬼はディスクアニマル、瑠璃狼を透明化させてハッピーの傍に付かせた。
一方でハッピーは司の言葉に反論をした手前、どうしても明確な答えを示さなければならない。
傷つけるのではなく、話し合いにて決着をつける。
翼だって元々は優しい人間だったと聞く。
だからハッピーはアギトの前に立つと、両手を広げてまっすぐにアギトを、翼を見つめた。口にするのはやはり同じ言葉。
「もう止めて翼さん! 貴方はそんな人じゃないでしょ!!」
ハッピーは信じていた。
少なくとも彼女は本気でアギトを諭すつもりだった。
戦うのではなく、話し合う。だが空中に浮かんだシスターの笑みが意味している通り、そんな言葉はアギトには響かない。
「ハァァァァ……!」
アギトは両手にある武器を投げ捨てると、ゆっくりと構えを取る。
足元に広がるアギトの紋章がゆっくりと吸い込まれていき、アギトの足が鈍く光を放ち始める。
一方で動く事無く、アギトに声をかけ続けるハッピー。その愚かな姿にシスターはついに声を上げて笑い始めた。
(馬鹿が、ムネモシュネがもたらす闇のベールは絶対だ!)
アギトの魂をラッピングする厚い厚い闇はそう簡単には剥がれない。
その通り、アギトは地面を蹴って空に飛び上がった。
「やめて、翼さん!!」
「ハァアアアアアアアアッ!!」
無慈悲にも放たれた両足蹴り、ライダーシュート。
「ぐ――ッッ!!」
それはハッピーの胴体に突き刺さると、その体を遥か後方に吹き飛ばした。
骨がミシミシと音を立てる。激しい衝撃に呼吸が止まる。空気が口から漏れ、吸うことができない。
虚ろになっていく意識の中、ハッピーは川の中に体が落ちていくのが分かった。冷たい水が全身を包み、そのまま彼女の意識はブラックアウトするのだった。
☆エピナビ☆
・仮面ライダー鎧武
2013年10月6日から2014年9月28日まで放送された平成二期第5作目だ。
それまでの平成二期のイメージを壊すと言うコンセプトに作られており、脚本家には有名なアニメやゲームで話題の虚淵氏を起用するなど、放送前から話題になっていたライダーだ。
主人公、葛葉紘汰がある日、鎧武の力を手に入れた事で、巨大企業ユグドラシル・コーポレーションの陰謀や、世界を侵食するヘルヘイムの森に関わっていく事になるぞ。
この作品では鎧武にはタイムスリップしてきた侍、剣丸が変身するんだ。
しかし彼はまだ謎が多く、一体何がどうなっているのかは、まだ分からない。
ちなみにオリジナル要素として、カッティングブレードの倒す回数で発動する効果が変わっているんだ。
一回なら強化技、二回ならアームズ固有能力、三回なら必殺技が発動されるぞ。