Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫 作:ホシボシ
「はにゃぁ……、驚いたにゃあ」
額に手を当てて辺りを見回すゆめりあ。
同じように手を押さえながら、信夫も彼女の視線を追いかける。先ほどまで秋葉原にいたはずなのに、今は草原、草原、草原。
振り返ればすぐ近くに町も見える。小高い丘の向こうには刑務所だろうか? 巨大な折に囲まれた施設も目についた。
「これが他世界か。アッサリだったな」
「ぼ、ボクのガンプラ……! 良かった、壊れてない!」
信夫もセイも、他世界の概念を理解できるため、驚きこそあれどパニックになる事は無かった。
一方で木の上に登り、辺りを見回している海東。下を見ればゆめりあが携帯電話で信夫と一緒に写真を撮っているのが見えた。
緊張感の無い光景だが、『携帯が使える』と言う点は割りと大きな情報である。
(『眼』の力は機能しているが、信夫達にまでもか)
「に゛ゃ! 写真、SNSにアップできニャい!」
「当たり前だろゆめりあ。どう見てもネットなんて無いだろ」
さて、それはさておき、これからどうしたものか。木に登っている海東は無視して信夫達は顔を向き合わせる。
「とりあえずゲーム脳ニャら、町にいって情報集めニャ。最近のゲームは進化してるから範囲に入れば自動的にイベントが発生するのニャ」
「そ、その前に友達を探したいんですけど。きっとレイジ達もココにいると思うんだ」
「なるほど、確かに美月やルナもいるだろうしな」
知り合いと合流できれば、そこで情報も得られるだろう。
「んでもでも、ココが助けを求めた声の主がいる世界とは限らないニャ」
「確かにそうですね。もしかしたら中継地点の可能性だってある」
「ハッ! そういえばセイはガンダムの世界から来たのニャ!?」
「え? あ、まあそうなるのかな?」
「だ、だだだだだったらティエリア様かヒイロ様はいないのかニャ!? と、特に後者なんですけど、久しぶりにグリリバボイスで囁かれたいっつうか……! デュヘヘ! あ、あの! やっぱり耳の調子をよくする為には好きな声優が必要つうか、ハァハァ、じゅるり! あ、あ、やべぇ、想像しただけで心のチ●ポが勃起してきた! ハァハァハァ!」
スパーンと音がして信夫の手刀がゆめりあの頭部を捉えた。
青ざめるセイと、涎を垂れ流しながら信夫を睨むゆめりあ。なんとも対照的な光景である。
「な、なにするニ゛ャ!」
「ご覧の通り、オレもセイくんもドン引きだよ! セーブをしろセーブを! ごめんなセイくん、コイツマジもんの腐なんだよ」
「ふ、腐女子の方ですか……」
「自慢じゃありませんがBL同人誌でお小遣いを稼いでおりますニャ」(ちなみに、にゃあの見立てによると、セイくんはウケですニャ)
ギラリとした視線を感じて震えるセイ。なんだか変な目で見られている様な。
――と言うのは正解なのだが、ゆめりあもオタクである以上、オタクの振舞い方を理解している。
自らの趣味をノーマルの人間にペラペラと話すのはタブーであると。
「あの――、ボクの世界はゆめりあさんの言っているキャラは、あくまでもキャラなんで」
「あー、なるほど。じゃあつまりオレ達と同じって訳だ。諦めろ、ゆめりあ」
「ぐぎぎぎぃ! ぐりりばぁ!」
すると咳払いが聞こえた。
「そんな事より君達、これからどうするのかな」
木から飛び降りる海東。
とりあえず信夫やセイの知り合いを探す方向で行きたいが――。
「他世界、パラレルワールド、こういう時はどうなるのニャ?」
「そうだな、公認様は――」
ふと、信夫は言葉を止める。
「あれ?」
「ん? どうしたのニャ、のぶにゃん」
「公認様……、公認様――? あれ、なんか、イマイチ思い出せねぇ!」
頭を抑えてうめき声を上げる信夫。
頭の中にぶち込んだ筈のスーパー戦隊の知識がごっそりと抜け落ちている様な感覚。
いつもの信夫ならばココで何か過去の戦隊を例にとって豆知識の一つでも披露しようものだが、何故か今はそれができない。
これはオタクにはあってはならない事態だが、異変が起こったのはゆめりあも同じだった。
「あれ? にゃーって普段どんなコスプレしてたっけニャ? っていうか、にゃーのお名前って何? あれ? そもそも今から集会に行かないと行けないんじゃないかしら、信夫さん」
「え?」
「あれ? 今、にゃあは何を言って――。集会ってなんだニャ?」
「「ん?」」
なんだこの空気、この違和感、首をかしげる二人。
一方でうんざりした様にディエンドライバーの引き金を引いた海東。銃弾が信夫達の足元で破裂し、二人は悲鳴をあげて抱き合う形に。
「いきなり何するんだよ!!」
「あぶないニャ!」
「訳の分からない寸劇を見せられるコッチの身にもなってほしいね」
「いやッ、でも! なぁ!?」
「そ、そうだニャ! なんか今、おかしく……!」
顎を押さえる海東。ふとディエンドライバーに一枚のカードをセットして発動してみせる。
アタックライド、サーチ、ディエンドライバーの銃口から光が放たれ、海東はゆっくりとその場で一回転。
「なるほど、そういう事か」
サーチは文字通り『調べる』事ができる力。ディエンドライバーから放たれた光が調べたのは世界。
その情報が海東の脳に答えとなって提示される。信夫の記憶が抜け落ちた事と、ゆめりあが先ほど僅かに変化した事。それは決して偶然ではないらしい。
「この世界はどうやら、僕を相当楽しませてくれそうだ」
「どういう事ですか」
「洗脳だよ。この世界に充満する見えない闇が僕等の体に張り付き、記憶を改変させようとする」
ディエンドライバーにも破壊の力が存在している。だから海東は耐えられたのだろう。
信夫たちはそんな海東と一緒にいたから耐えられたのか――? いやしかしそうなると初めから耐えられていたセイは何故?
「信夫達に異変が起こった今も、キミが洗脳された兆候は見られなかった」
「せ、洗脳って、ボクはたぶん大丈夫ですけど」
「オレももう大丈夫だぜ。なあ、ゆめりあ」
「洗脳か。今度使えるかもな。ウケが洗脳されて――」
「ゆめりあ!」
「ハッ! ご、ごほん! いえいえ、ニャんでもないのでお話を続けてくださいニャ」
「とにかく、ディエンドの力がある以上、もうキミ達は大丈夫だろう」
些細な疑問は残るものの、とりあえず信夫達は乗っ取られずに済んだと言うことだ。今はそれで良しとしようではないか。
「しかし面倒である事には変わりない。とりあえず自我はしっかりと持っておきたまえ」
「あ、ああ」
いわばこの世界は毒ガスに充満しているようなもの。
世界に見えない闇が満たされており、人の周りを囲む事で存在を薄くし、新しい存在で塗りつぶそうとする。
「スーパー戦隊だとそういう場合、どこかに闇のベールを発生させている装置がありそうなんだがな」
「あ、知ってるニャ。それを壊せばだいだい何とかなるタイプのヤツでしょニャ?」
「ありがちですよね。アニメでも多いですよ」
「ま、そういう事だろうね。だがあいにくとそれはサーチでも分からなかった」
「なんだよ、つかえねーな」
「黙りたまえ。僕も全てを調べられるわけではない、あくまでも簡易サーチだ」
「で、でもだったら、簡易でそんな情報が分かったのなら、裏にあるのはもっと大きな情報なんじゃ……」
「そうなるねセイ。欲しいな。うん、欲しくなってきた」
トレジャーハンターの血が騒ぐのか、ニヤリと笑みを浮かべる海東。
しかし同時に察する。これだけの存在が――、ただ放置されている訳がないと。
「ヒャッハーッ! 見つけたぜ侵入者共ォ!」
「!」
ギュイーンっとギターの音が聞こえた。直後、光の
アッと声を上げるゆめりあ。しかし直後、海東が発動したアタックライド・バリアによって手裏剣は結界に阻まれる事に。
「チィイ! 残念、細切れにできると思ってたのによォ!」
「な、なんだあのヤバそうなヤツは!」
信夫は反射的にセイを庇うように立ち、顔を青ざめる。
前から歩いてきた女。赤いドレッドヘアに鼻ピアスなど、見るからに『ノーマル』な女性とは言い難い。
その中、海東は見つけた、女の肩にある黄金の大鷲のタトゥー。
「ヤバそう――、ではなく、ヤバイのだよ」
「え?」
「構えたまえ。戦いだ」
海東は躊躇なく引き金をひいて弾丸を女――、デッドスターの眉間に撃ち込んだ。
一瞬ギョッとした表情で海東を見つめる信夫達。しかしすぐに笑い声が聞こえて視線をデッドスターの方に移す。
「おいおい、豆鉄砲としても三流だな!」
するとそこには無傷のデッドスターが立っていた。
煙を上げている額は銃弾が着弾した証明だが、怯んでいる様子は無い。
デッドスターはけたたましいギターの音をかき鳴らし、直後その体がヒトデンジャーへと変身した。赤い体に、目の部分は黒く、サングラスのように見える。
「わわわ!」
見慣れない光景に声を上げて腰を抜かしたセイ。
人間が突如ヒトデの化け物になったのだから仕方ない。
しかし慣れている三人は、セイの前に立つとそれぞれの変身アイテムを構えてヒトデンジャーを睨みつける。
「変身!」『カメンライド』『ディエンド!』
「重妄想!」『ズッキューン!』
「重妄想!」『ズッキューン!』
ディエンドライバーからカードプレートが発射され信夫とゆめりあの、モエモエズキューンからアキバレンジャーのマークが発射された。
それぞれには攻撃判定があり、変身を妨害しようとする者へのカウンター効果がある。しかしヒトデンジャーは棒立ちである。
その攻撃をその身でなんなく受け止め、全く怯まない。
一方で変身を完了させた海東たち。アキバレッド、ディエンド、アキバイエローが並び立っていた。
「お、おい、なんでブルーがセンターなんだよ。普通はレッド(俺)がセンターだろ!」
「は?」
「いや、それが公認様のだな!」
「あぁ、なるほど、それもあるね」『アタックライド』『インビジブル!』
ディエンドの姿がブレたかと思うと、一瞬でアキバレッドの前から消失。
「「え?」」
顔を見合わせるアキバレッド達。すると何も無い空間から声が。
「それではキミ達、せいぜい頑張りたまえ」
「お、おい、お前まさか……」
「ほら、来るよ」
アキバレッドとアキバイエローが振り返ると、そこには腕を広げて飛び込んできたヒトデンジャーが見えた。
半ば悲鳴を上げつつ腕を受け止める二人。凄まじい衝撃が走り、アキバレッド達は仰向けに地面へ叩きつけられる。
一方で前転で立ち上がったヒトデンジャーは手に持っていたギターを思い切り振るった。星型のギターは鋭利な刃の付いた剣にもなる。
そんな物を受ければいくらアキバレンジャーの鎧を纏っていても危険だ。アキバレッドは咄嗟の判断でヒトデンジャーの腕に、銃に変わったモエモエズキューンを連射する。
「だから、きかねーんだよ! こんなクソ弾!」
「マジか……! うわぁぁああ!」
「ぉお゛お゛おおおおおおお!!」
銃弾を受けても全く怯まないヒトデンジャーは構わずその武器を振り下ろす。
悲鳴を上げながらも咄嗟に左右に転がることで一撃を回避したアキバレッド達。地面に深々と突き刺さっている刃を見てゴクリと喉を鳴らす。
「あれ――? やべっ!」
しかしその刃が刺さったせいで敵に隙ができた。ヒトデンジャーが力を入れてもギターが抜けないのだ。
これはチャンスだ。頷き合うと、アキバレッドは拳を、アキバイエローはキックをヒトデンジャーに命中させた。
「いっでぇええ!!」
「ぎにゃぁぁああ!!」
しかし悲鳴を上げたのは攻撃を仕掛けたアキバレッド達の方だった。
「な、なんつー硬さだ!」
「折れたニャ! ぜってーコレ足折れたニャ!」
「大丈夫かゆめり――って、立ってるじゃねーか!」
「気分ニャ! 折れた気分なのニャ!」
手と足を押さえながら後退していくアキバレンジャー達とは対照的に、ギターを諦めたヒトデンジャーは跳躍。
空中で体を高速回転させ、自らが手裏剣となって飛来する。
風を切り裂く音が聞こえ、瞬間、肩に走る衝撃。アキバレッドとアキバイエローは再び悲鳴を上げて空に舞い上がった。
「カカカカ! 感じる、感じるねぇ! 強化の真価!」
ヒトデンジャーは地面に叩きつけられたアキバレンジャー達を通り過ぎ、刺さっていたギターにぶつかる事で強制的に地面から引き抜いてみせた。
そして再びギターを構えて走り出す。立ち上がったアキバレンジャー達も拳や銃で応戦はしてみるものの、やはりヒトデンジャーの強固な肉体の前では攻撃を通す事は難しい。
「無駄だ無駄だ! 絶望のベールによってアタシの体は既に鋼鉄を超えているゥウ!!」
「うわぁぁああ!」「う゛に゛ゃぁああ!」
悲鳴をシンクロさせて地面を転がる二人。
「くっそー、なんてヤツだ! 今まで戦った奴のなかでもトップクラスに強いぞ!」
「そ、それに、おかしいニャ!」
「ッ、どうした、ゆめりあ? 何か気づいたのか!」
「い、いつもと違ってお胸にもお尻にも攻撃が飛んでこないニャ!」
「は?」
アキバイエローは瞬間、危険を察知した。
いつものセクハラ的攻撃が無いことは、まあ良い事なのかもしれないが、これじゃあテレビを見ている良い子たちの性癖が開発されない。
アキバレンジャーの作風じゃねぇ! どういう事だ? まさか、まさか!
(にゃあには、お色気シーンがいらない!?)
イコール、クビ?
「冗談じゃないニャ! もっとお尻いじめてぇええ!」
「な、何言ってんだゆめりあ!」
「あぁ? ケツ? それがどうしたって――」
接近し肉弾戦を交わすなか、ヒトデンジャーはアキバイエローの腕を払い、強制的に背を向けさせる。
そして腰を蹴ってアキバイエローを怯ませると、スカートを掴んで持ち上げた。
晒されるパンツ。するとそこには――
『まだ未婚』
の、文字が。
「くだらねぇ! ナメてんじゃねぇぞクソガキが!」
「ぐにゃあぁあ!」
ヒトデンジャーは思い切りアキバイエローのお尻を蹴り上げると、タックルで大きく吹き飛ばす。
地面を擦りながらダウンするイエローに、アキバレッドが近づいていった。
「いつもの」
「なにやってんだお前……」
「ごめん、くだらねぇ事やってる場合じゃなかったニャ」
しかし――、強い。
それを見ている者達はみなそれぞれの思いを抱えていた。
まずは焦り。アキバレンジャー達は自らの攻撃が通用しないことに焦りを感じている。
そしてヒトデンジャーからあふれ出る異質な雰囲気。今までの敵達はどこかまだ漠然とした『隙』があった。
しかし今、目の前にいるヒトデンジャーからはその隙が感じられない。
危険人物を前にしているような、そんな焦りだ。
「――フム」
そして興味。
透明化したディエンドはサーチによってヒトデンジャーを調べ上げた。
強化と言う言葉の通り、ヒトデンジャーの体の回りには闇のベールが張り付いており、それが力を上げているのは理解できた。
そしてこのベール、まだ完全ではない。
不完全な強化とは一体どういう事なのか?
ディエンドも大ショッカーの強化システムは聞かされている。
(世界を破壊する以外に強化の方法があるのか、それとも前述の方法を利用したシステムを使っているのか)
いずれにせよ、世界そのものが大ショッカーの手に落ちている可能性はある。
そんな考えを抱いている。
そして最後は焦り。
だがそれはアキバレンジャー達が抱いている物とは別のベクトルにあるものだった。
イオリ・セイは汗を浮かべながらも、しっかりとヒトデンジャーを睨んでいた。
(な、なんとかしなくちゃ)
そう思えるのは何とかできるかもしれない可能性を知っているからだ。
どう見ても今は危険な状況。セイとて守られるだけでは足を踏み入れた意味もない。
そして幸いにしてセイと言う少年は、それだけの決意を素早く固められる強さは持ち合わせていた。
ホルダーの中から一体のプラモデルを取り出すと、それを台座にセットしてアプリを起動させる。
『Beginning plavsky particle dispersal』
GPベースがデータを読み取りホログラフを射出、ワイヤーフレームのデータはプラフスキー粒子を収束させ実体化。
さらに巨大化すると、ガンプラの形を具現してヒトデンジャーに突進をしかける。
「何!? ぐあああッ!」
鎧を無視して衝撃が走り、ヒトデンジャーは宙を舞って地面に倒れる。
「イオリ・セイ! ビルドガンダムMk-Ⅱ、行きます!」『BATTELE START』
セイに重なる様にワイヤーフレームが降り立つと、粒子が実際の装甲を再現。
あっと言う間にセイのガンプラであったビルドガンダムMk-Ⅱが姿を現す。
大きさはアキバレッドと同じくらいだろうか。中にいるセイは六角形のコックピットゾーンが再現され、球体状のコントローラーを掴んで感覚を確かめる。
「よし、実際のガンプラバトルと同じだ!」
これならばいけるとセイは確信した。
バックパックに繋いだビームライフルを発射すると、光線が一直線にヒトデンジャーの体に命中する。
「ぐああああああああ!!」
「ほう」
ヒトデンジャーはエネルギーの飛沫と共に地面に倒れた。思わず感心の声を上げるディエンド。
と言うのも想像を超える威力がそこにあったからだ。Mk-Ⅱの撃ったビームは間違いなくヒトデンジャーの鎧を超えてダメージを与えている。
それを一番感じているのは当人であった。立ち上がり、拳を震わせてMk-Ⅱを睨む。
「な、なんだよ、この威力は!」
息を呑むヒトデンジャー。
(機械人形、報告にあったガンダムか!)
「よし、いける!」
セイは再びガンプラを操作し、ビームを放った。
しかし瞬間、ヒトデンジャーは体を僅かにズラす事で回避してみせる。
「うぇ!」
「調子乗ってんじゃねぇよゴミクズがァア!」
ギターを振り回しながら走ってくる敵に、セイは焦りながらビームを乱射する。
「どこ狙ってンだよアホガキがぁああ!」
「うッ、あ、当たらない!」
しかしヒトデンジャーは器用にそれを回避していきながら眼前にまで迫った。
無理もない、セイの動きは単調だ。銃口を相手にむけてビームが発射されるまでセイはライフルの位置を動かさないため、回避が容易にできてしまう。
これがポイントなのだ。実体化するガンプラはその完成度によって性能が変化する。ご覧の様にセイはその制作力は凄まじい。
が、しかし、操縦技能については言うても中の上ほどしかない。余裕がある時にはセイもそれなりに調子がいいが、焦っている今の状況では余計に腕前が落ちてしまう。
「さっきは不意打ちだったけど、もう同じ様にはいかねぇんだよ!」
振るわれた刃を、Mk-Ⅱは咄嗟に抜いたビームサーベルで受け止める。
しかし瞬間、ヒトデンジャーは蹴りでMk-Ⅱを怯ませると、がら空きになった胴体へ刃を刻み込んだ。
「ヒャッハー! ぶっ壊してやるぜ! ガンダムゥウ!!」
火花が散って後退していくMk-Ⅱへ追撃を仕掛けようとするヒトデンジャー。
(ッ、ダメだ! 防戦になる!)
セイとてガンプラファイター。この状況が好ましくない事はわかっている。
攻撃に対して防御をするのは当たり前なのだが、向こうの攻めが止まない場合、こちらは防御しか選択できなくなる。
これでは向こうにダメージなど与えられるわけはない。攻撃力はあるのだから、せめて攻撃が通れば――
「セイにゃん! こっちだニャ!」
「!」
「コッチに撃ってほしいニャ!!」
しかしその時、声。
セイはグッと歯を食いしばるとMk-Ⅱのブースターを吹かし、上空後方へ飛び上がる。
そして目に付いた黄色のシルエットにむかって迷わず引き金を引いた。
そう、つまり、Mk-Ⅱは手を振っていたアキバイエローに向ってビームライフルを撃ったのだ。
普通ならばためらう行動かもしれないが、セイは無茶をする人間を信用する事になれていた。
言葉は意味があるから放たれる物だ、なんの考えもなしに言う訳はない。
事実、ビームを眼前にしたアキバイエローはモエモエズキューンの銃口でそのビームを受け止めた。
瞬間、ボタンをタッチ。するとMk-Ⅱのビームが形を黄色い球体に変えて銃口に張り付いた。
「行くニャ! 必殺、ありがちなコンビネーション技!」『いくぜーッ!』
アキバイエローがそのまま引き金を引くと、黄色い球体が発射。ヒトデンジャーの背後に迫る。
「あぶねぇ!」
ヒトデンジャーは地面を転がり球体を回避するが、球体が向かう先にはアキバレッドが。
先ほどのイエロー同じく銃口でエネルギーを受け止めると、アキバレッドは素早く引き金を引く。
「必殺! ありがちなコンビネーション技!」『いくぜーッ!』
モエモエズキューンから赤、黄、藍色に点滅するエネルギー弾が発射される。
Mk-Ⅱのビームをベースにアキバレンジャーの力を合わせたコンビネーション攻撃だ。
次々に迫る光弾に呆気に取られていたか、ヒトデンジャーは真正面からその光弾を受ける事に。
光弾の威力は凄まじく、ヒトデンジャーの腹部を貫くと、そのまま爆散させるに至った。
「やったか!」
「っていうのは、やってニャいフラグ」
「あ、そうだわ。悪い、オレ余計なこと言ったかも」
悲しいかな、その通りである。
一瞬ヒトデンジャーを倒した様に見えたが、実際にエネルギーが貫いたのは『抜け殻』である。
ヒトデンジャーは一瞬で脱皮してみせると、本体は人間体であるデッドスターとなり地面を転がって回避行動を取っていた。
つまりアキバレッドが貫いたのは抜け殻の盾と言う事になる。しかしそれでも強固な防御力を持つ、抜け殻が貫かれた事にデッドスターは悔しげな表情を浮かべていた。
「チィイ、厄介な連中だ。今度は必ず殺してやるからよぉ、クビを洗ってまっときな!!」
「ッ、おい! 待て!!」
デッドスターがギターをかき鳴らすと、激しいスパークが発生。一同が目を覆うと、その隙にデッドスターは姿を消した。
「チッ、逃げたかニャ!」
「最近の特撮じゃ怪人のスーツを使いまわす為に、初登場時は逃げるのが基本だ。おそらくアイツを倒せるのは来週だろうな」
「結局世の中はお金ニャのね……」
変身を解除する信夫とゆめりあ。リアルブートを解除したセイも駆け寄り、一応の勝利を喜び合う。
「セイにゃん、信じてくれてありがとニャ! 抜群のアシストだったニャ!」
「無茶は慣れっこですよ。役に立てて良かったです」
「良いチームになれそうだな、オレ達」
「うむ。僕がいるからね」
「………」
………。
「おぬしは何もしてないだろうがぁあ!」
「いででででで!」
「成敗、成敗でござるぅう!」
何食わぬ表情で隣に立っていた海東を締め上げる信夫とゆめりあ。
コブラツイストを受けて呻き声を上げながらも、海東は信夫達の腕を振り払うと咳払いを一つ。
「落ち着きたまえ! まったく、野蛮な連中たちだ!」
訝しげな視線を送る信夫達に、海東は自分が何をしていたのかを事細かに説明する。
「いいかね。サーチの結果、僕はこの世界が既に大ショッカーの手に落ちている事を理解した」
「ッ、どうしてですか!」
「あのヒトデ、世界破壊による強化が施されていたが、それはあくまでも仮だ。こんな事がありえるのか? おかしいね。つまり向こうが仕組んだ何らかの物によってそうなった事になる。そんな代物を手にしてるんだ、まともなわけが無い」
「つ、つまりどういう事ニャ!?」
「もっとよく調べるために、慎重に行動しないといけないと言う事さ」
「……いや、それって結局何にも分かってないのと同じじゃねーか!」
「うるさいな! だったら勝手にしたまえ! 僕はもう行くからな!」
顔を見合わせる信夫、ゆめりあ、セイ。
海東には困ったものだが、情報が確かならば離れて行動するのは危険だ。
三人は小走りに海東の背中を追うのだった。
「――ッ」
鈍い光を感じて、星空みゆきは目を開けた。
デジャブ。幻想の小屋と似たような光景が広がっていた。
もしかして死んでループしてしまったのだろうか、直前の記憶が呼び起こす恐怖。
「いつッ!」
体を起こすと骨が軋み、鈍い痛みが体を包む。
受けたダメージは既に回復していたため、すぐ痛みは引いていくが、みゆきの心に残った別の痛みがズキズキと心に響く。
アギト、あの翼は本気だった。
(本気で……、私を殺そうとしてた……)
少なくともみゆきが知っている翼ではなかった。
そう、別人なのだ。正確に言えばみゆきが知っている翼も別人である。
(どうすれば元に戻ってくれるんだろう)
知っているくせに。自分の脳裏にチラつく躊躇。
分かっている。分かっているんだ、みゆきだって、それくらい。
しかし、だからと言って――。
「あ、起きたんですね!」
「ッ」
扉を開く音が聞こえる。
みゆきが視線をそちらに移すと、そこには黄色い髪の少女が立っていた。
みゆきは今の状況を考えると、一つの答えを導き出した。
「あなたが、助けてくれたの?」
「ええ。お姉ちゃんとお散歩してたら、貴方が河原に倒れていて――」
みゆきは窓の外を見てみる。
まだ明るく、空も明るい。どうやら気絶していた時間はほんの僅かのようだ。
そうしていると別の少女が入ってきた。黄色い髪の少女が口にしていた姉だろうが、そこでみゆきの脳に衝撃が走る。
そうか、そういう事なのか。どこまで運命と言うのは――。
「あ、おきたんだね。はじめまして、私は『――』」
「あたし、『――』。よろしくね」
「う、うん。よろしく」
名前は違っていた。
しかしみゆきは目の前にいる少女達の本当の名前がミクとリンである事を知っている。
司から聞いた特徴とあまりにも合致していたからだ。
複雑な想いで会話を重ねていく。
ミクは16歳、リンはみゆきと同じ14歳。これは本当の年齢なのだろうか――? それも、もう、分からない。
そうしていると目の前にミクの顔が迫った。どんな表情をしていいか分からず、みゆきは表情を落とす。
「怖かったね、みゆき。でも大丈夫。見たところ骨折とかもしてないみたいだし、ちゃんと喋れるみたいだし」
「うん、あの――、えっと」
「そうだ! 体は冷えてない? 朝ごはんのスープがまだ残ってるから。リン、持ってきてくれる?」
「うん、分かったよ、お姉ちゃん」
「あ、大丈夫。私、立てるよ」
立ち上がるみゆき、ミクに支えてもらいながら下の階に向うと、そこにはミク達の家族が迎えてくれた。
「あら、もういいの?」
一人はミクとリンの母親。名前はエリーと言うらしい。
「ほら、座って。無理をしちゃいけないよ」
もう一人は祖母だろう。テレサと言うらしい。
みゆきが起きた事を知ると、暖かい毛布とスープを用意してくれた。
さらにみゆきの下へ駆け寄ってくる猫や犬、ミクが飼っているものらしい。
「こらジョン、ルピー、失礼でしょお客様に」
「あはは、人懐っこいね!」
しかし、ふと、みゆきの笑顔が消える。
そうか、そうだ、心に灯る恐怖。なぜならばコレは全て、全てだ、全て偽りなんだ。
チェインキャラクター以外が幻想ならば、頬を舐める犬も、猫も、全て偽り。そればかりか暖かいスープを出してくれたミクの祖母も、母も、幻想。
いや、それだけじゃない、もっと突き詰めればミクとリンも偽者なのだ。
「………」
偽者、にせもの、ニセモノ。
信じられなかった。そんな馬鹿な事が――。
するとノックの音。聞けばエリーがみゆきの為に近くに住んでいると言う医者を呼んでくれたらしい。
エリーが扉を開くと、水色の髪の女性が入ってきた。
「コチラ、マリリア先生よ」
「どうもエリーさん。それで、患者さんと言うのはそちらの――?」
「ええ。えぇっと」
「あ、星空みゆきです……」
一瞬、時間が止まった気がした。
首をかしげるみゆき、マリリアの表情が変わったのだ。
「そう、あなたが」
「え?」
「噂は聞いているわ」
「え、えーっと、人違いじゃないですか?」
「違う違う。だってお前が――」
刹那、それはもはや本能だった。
本能でみゆきは腰にあったスマイルパクトを掴んでいた。
「邪魔なんだからさァアアアア!!」
激しい電撃が部屋の中を包んだ。
吹き飛ぶ椅子や食器。スープが入っていた鍋が吹き飛び、液体が辺りに飛び散る。
その中で命あるものは皆、ハート型の結界の中にいた。ペットの犬と猫もしっかりハートが包み込み、迸った雷撃から防御されている。
まず前に出たのはクラゲの化け物だった。
「私の名前はクラゲダール! 貴様、キュアハッピーだな!」
「――ッ、大ショッカー!」
甲高い声で叫んだのはマリリア――の、本当の姿、クラゲダール。
青を貴重としたカラーリングであるが、頭部の目の部分は毒々しい赤が目立つ。
そしてクラゲダールの前には膝をついて呼吸を荒げているキュアハッピーが。咄嗟に変身した彼女はミク達に結界を張って奇襲にと放たれた雷から守ったのだ。
しかしハッピーの体には青白い電流が迸っている。つまり、ハッピーは自分の防御が遅れてしまい、自らはクラゲダールの攻撃を受けてしまったのだ。
「ハハハ! 愚かだなキュアハッピー! 幻影を守るために自らが傷つくとは!」
クラゲダールは掌から帯電する触手を出現させると、それを鞭の様に振るって幻影、つまりエリーとテレサを狙う。
しかしハッピーは既に走っていた。腕をクロスさせ、そのまま突進、クラゲダールの腰に掴みかかると全速力で駆けていく。
「逃げて! 早く!」
掠れた叫びはミク達に届くだろうか?
いや、今は余計なことは考えられない。ハッピーは全力を込めてクラゲダールを押し出した。
その結果、ミク達の家を飛び出して隣の家の壁を突き破って二人は中に進入する。衝撃でバランスを崩してハッピーは転倒、クラゲダール共々地面を転がった。
「ッ!」
悲鳴が聞こえる。
ハッピーが立ち上がると、そこにはコチラを見て震えている家族がへたり込んでいた。
どうやら朝食の途中だったのだろうか。周りにはパンやスープが散乱している。
「お前達もさっさと無限に堕ちるが良い!」
「ッ、ダメェエエエエ!!」
立ち上がったクラゲダールにも家族は目に付いただろうが、構わず鞭を振り回した。
すると桃色の閃光が迸り、鞭をクラゲーダルの掌から引きちぎり、吹き飛ばす。
どうやら人を守りたいと言うハッピーの想いがスマイルパクトに呼応し、ティアラモードを自動で発動させたのだ。
「どうして! どうしてなの!」
強力な光に包まれたハッピーはそのまま大地を踏みしめ、強く拳を前に突き出す。
「どうして貴女達はこんな酷いことをするのッ!?」
拳そのものは空を捉えるが、拳から螺旋状の光が発射。エネルギー波となってクラゲダールの眼前に迫る。
「お前らこそ何故、湧いて出る! まさに害虫、これ以上忌々しいものはない!」
しかしクラゲダールはしっかりと反応しており、向ってきた光のエネルギーに雷撃をぶつける。
競り合うエネルギー、クラゲダールは高笑いと共に電力を上げていった。
「ショッカーの偉大なる理念、思想、目的! 全てが完成された美しさだ! それはもはや芸術。だと言うのに、お前らがそれを腐らせる!」
「人を傷つける事が――ッ!」
ハッピーは飛んでいた。地面を蹴って跳躍、なんと拳を構えて競り合うエネルギーの中に飛び込んでいったのだ。
当然それだけの衝撃がハッピーの身を引き裂かんと襲ってくるが、構わない、ハッピーは歯を食いしばり、苦痛に耐えながらクラゲダールとの距離を詰めた。
それを可能にさせたのは、怒りと言う感情に他ならない。
「人を傷つける事が芸術なわけ――ッ、無いでしょォオッ!!」
「グガァアアアアアアアアアアア!!」
クラゲダールが叫んだのは痛みがあったから、驚きがあったからだ。
まさかエネルギーの中を突っ切ってくるとは夢にも思っていなかった。
それだけではない、距離を詰めた、その一瞬、そこでハッピーは既に十発はクラゲダールの体に拳を打ち込んでいた。
「早いッ! これは! ガハッ!!」
危険シグナルが脳内に鳴り響く。
クラゲダールの本能がハッピーの危険性を更新していく。これはマズイ、油断すれば――、死。
死、死、死死死死死死死死死!
「ォオオオオオ!!」
中学生の少女とは思えない程の雄たけび、そして蹴り上げ。
サマーソルトキックでクラゲダールを天井ごと貫き、空中へ打ち上げたハッピー。そして両手の拳を握り締め、その場で地団太を踏む。
「気合だ気合だ気合だアァアアア!!」
ダン! ダンッ! ダンッッ!!
ハッピーが足を地面に打ちつける度に、腰にあるスマイルパクトに光が収束していく。まばゆい光に空中にいたクラゲダールは思わず目を閉じる。
しかし、分かっている。このままだと最期だと言う事を。
「来い! 兵士共ォオオオ!」
その叫びは断末魔か――。
「ハッピィイイイッ! シャワァアアアア!!」
キュアハッピーが突き上げた拳の先に、巨大なハートのエネルギーが出現する。
狙いを定めるその眼光は、紛れも無い戦士のソレであった。
「シャイッ! ニン――ッ」
しかしその時だった。
「――ァ!」
呼吸が停止。腰に衝撃。ハッピーが反射的に後ろを振り返ると、そこには青白い光線が。
つまり二発目。再び腰に衝撃。ハッピーを纏っていた光が散り、そのまま衝撃で地面へ倒れた。
必殺技が中断された。その焦りのまま、ハッピーが見たのは、こちらに向ってくる『天使』だった。
「デルタァ! ファイズ!」
地面に墜落したクラゲダールの叫び。
それに合わせる様に空からデルタがやって来た。音楽プレイヤー型のデバイス、デルタリングで変身する強化形態、エンゼルフォームになっている。
攻撃支援ビット、エデンズによる無数の光線でハッピーを蜂の巣にしようと容赦の無い乱射を行ってくる。
「んぐッ!!」
両手を広げ光のカーテンを放出するハッピー。
家の中にいた見知らぬ家族を守るためだ。
ダメだ。もし、この光の力を弱めれば、デルタが人を殺す事になる。司の友達が、人を殺す事になる。
「ハハハハ! 物の理解ができないクソは困る! 戦いにおいて守る事を優先するとは、なんて愚かな!」
崩壊していく建物。
移動するが、クラゲダールの鞭がハッピーの胴や太ももに叩きつけられる。衝撃と共に全身を襲う電撃。
痛みに呻く声を漏らすが、ハッピーは尚もデルタ達をまっすぐに睨んでいた。
どうすればいいんだ。どうすれば、どうすれば――。
そして見える。ハッピーの下に走ってくるファイズ。おそらく彼もまた例外なく敵なのだろう。三対一、その状況にクラゲダールは笑っていた。
だが、ココでクラゲダールの隣に降りたデルタが口を開く。
「マリリア様、少し問題が」
「ッ、なんだ!」
「正体不明の異物がコチラに接近しております」
「何ッ?」
「先ほど、待機中にコンタクトを受けまして――」
エンジン音が聞こえた。
クラゲダールが視線を移すと、コチラに向ってくるファイズが見えた。だが問題はその背後にあった。
「待ちやがれーッ!」
二台のバイクと一台の空翔る三輪車。
「な、なんだアレは!」
「しんのすけ!」
「ほい!」
M良太郎の叫びに合わせる様に、スーパー三輪車から飛び出したのは既に変身を完了させていたしん王だ。
両手両足を広げてダイブした先は、ファイズの顔面。
しん王は小さな体でファイズの頭部にしがみつくと、その視界を完全にジャックする。
「クソ! なんだコイツ!」
「ああん動いちゃイヤァァアン! おまたが擦れるぅぅう!」
「ふざけやがって!!」
自分の頭部でヘブントリップするなんて屈辱にも程がある。
ファイズは大きく腕を振るい、顔に張り付いたしん王を殴り飛ばそうと力を込める。
「今よしんちゃん! 逃げて!」
しかしそこでスーパー三輪車に乗っていたシロ(スノウ)が叫んだ。
瞬間、しん王は離脱、するとファイズは自分の拳で自分を殴りつける事に。
「ぐうぅう!」
よろけて後退していくファイズ。
クラゲダール達の前に現れたのはデンバードに乗ったM良太郎と、ゼロホーンに乗ったハナ、そしてスーパー三輪車にのっていたしん王とシロであった。
「攻撃を確認。排除します」
敵対意思を感じ、反射的にデルタはエデンズの銃口をM良太郎達に向けた。
だがまだ戦士は控えている。M良太郎とハナの背後にしがみ付いている少女がいたのだ。
危険を察知し、飛び上がったのはキュアピース。ピースサインを浮かべたままの手を前に出すと、落雷が発生し、デルタの体に直撃する。
「うぐッ!!」
雷撃がエデンズのチャージを中断させ、デルタは痺れに動きを止めた。
さらにそこでピースと、ハナの背後にいたキュアビューティが目の色を変えた。
「「ハッピー!」」
「ッ!」
うつろな目でへたり込んでいたハッピーも、二人の声が聞こえた瞬間、今までの疲労が嘘のように跳ね起きる。
「ピース! ビューティ!」
堰を切ったように溢れる涙を拭いながら、ハッピーはやっと会えた友に手を振った。
しかしその背後で帯電させる鞭を構えるクラゲダール。計画の狂いが見え始める。
それは彼女にとってはあってはならない事態だった。
「つくづく腹の立つ連中だ! 永遠の絶望は常の物であるからこそ価値があると言うのに!」
しかしそれを見ていたのはビューティ。彼女はゼロホーンから飛び降りると、地面に手を押し当てる。
すると冷気が地面を伝い、ハッピーとクラゲダールの間に巨大な氷の壁が出現し、振るわれた鞭を弾く。
それだけじゃない、地面に着地したピースと、態勢を整えたビューティは同時に地面を蹴った。
「私のお友達に――ッ!」
変化は二つ。
ひとつはビューティが氷の壁に手を当てると、その壁が一瞬で崩壊。
クリスタルの様に煌く氷の破片の中に構えるキュアビューティはその名に恥じない美しさであった。思わずクラゲダールが動きを止めるほど。
そして壁は崩壊したが、正確には『ある物』の形を残して砕け散ったのだ。
氷の塊で彫刻をつくる技術があるが、ビューティはそれを一瞬で行った。
そしてビューティが氷の塊が作った『ある物』とは剣である。ビューティは動きを止めているクラゲダールの眼前に踏みとどまり、美しく煌く刃を勢い良く振るった。
「何をしたんですか!!」
「ぐぁああッ!」
青き一閃がクラゲダールの触手を切り裂く。
クラゲダールは断面図から火花を散らしながら仰け反るが、そこでもう一つの変化が襲い掛かる。
「みゆきちゃんに酷い事して――ッ! 許さないんだから!!」
「ゴォォ!!」
ピースの姿が消えていた。
雷を自身に纏わせて短時間の間高速で動くことができる電光石火。
ピースは一瞬でクラゲダールの背後に回ると、全力で背中に肘をめり込ませる。さらにその瞬間、雷撃を発動。クラゲダールの全身を黄色い稲妻が包み込む。
そして踏み込むピース。
姿勢を低くしたかと思えば、今度は体を思い切り伸ばす勢いでアッパーを繰り出した。
拳にまとわり付いた黄色いエネルギーが拳の範囲と威力を増加させ、クラゲダールの体が宙に打ち上げられる。
「れいかちゃん!」「了解です!」
ピースの声に合わせ、ビューティはその場で回転。すると巻き起こるブリザード。
それに呼応する様に打ち上げられたクラゲダールの周囲に雪の結晶を模した魔法陣が出現していく。
そしてビューティが指を鳴らすと、その紋章達が一気に収束、クラゲダールを包み込むように一つになると、凄まじい衝撃波を発生させる。
悲鳴を上げながら墜落するクラゲダール、地面を強く殴りつけ、怒りをあらわにしていた。
(クソ――ッ! 報告には無かった連中だ!)
なぜ完全に閉鎖されたムネモシュネの空間に侵入者が現れるのか、それが理解できない。
が、しかし、いずれにせよ邪魔者は排除するしかない。だがカゲロウデイズにて蘇るのは皮肉にも侵入者たちのみ。
クラゲダールとしては撤退が安定なのだが――。
(屈辱にも程がある!!)
絶望を与える側である筈のショッカーが敵に背を向ける事はクラゲダールのプライドが許さなかった。
もちろん勝つ可能性がなければ撤退していたが、クラゲダールは立ち上がると激しい放電で威嚇行動を取る。
そして両手から触手を伸ばし、強く地面に叩きつける。
「殺す!」
クラゲダールが前に足を踏み出したのは『切り札』が存在しているからだ。
一方で顔を見合わせるピースとビューティ。アイコンタクトを取り、頷き合うと、再び地面を蹴った。
「みゆきちゃんは休んでて!」
「私達に任せてください!」
「あ、二人とも!」
ハッピーは立ち上がろうとするが、蓄積されたダメージが響いているのか、膝をついて沈黙する。
するとファンシーな足音と、ハッピーを呼ぶ声が。
「みゆき~!」
「キャンディ!!」
「会いたかったクルーッ!!」
「私も! 私もだよ!!」
「オラも~!」
「そっかそっかぁ!」
涙を流しながら抱きしめあう三人。
「……きみ、だれ」
「オラ、しんちゃん」
「そっか、ま、いいや」
ハッピーはとりあえずキャンディとしん王を抱きしめて頷いていた。
「殺せぇえッ、コウモリ男!」
だが油断はできない。
クラゲダールが叫ぶと、空中からコウモリの化け物が翼を広げてハッピー達を引き裂こうと飛来してくる。
あぶないと叫ぶシロ。しかし再びエンジン音がしたかと思えば、マシンデンバードがハッピー達の頭上を通過、けたたましい音を立ててコウモリ男に命中する。
「グガァアア!!」
悲鳴を上げて地面に墜落するコウモリ男と、着地を決めてターンを行うM良太郎。
デンバードから飛び降りると、ニヤリと笑ってベルトを構えた。
そしてダッシュ。丁度立ち上がったコウモリ男の腹部に、全身で踏み込んだ蹴り――、所謂ヤクザキックを打ち込むと、そのままベルトを装備して赤いボタンをタッチした。
「鉄棒だか絶望だか知らねーが、ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇよ!」
待機音が響き渡る中、M良太郎はコウモリ男の顔を殴り、後方へ押し出していく。
そしてパスを構え、再びニヤリと笑った。
「ぶっ潰すか、ぶっ潰される。それだけだろうが。変身!」『SWORD・FORM』
一瞬でプラットフォームに変身すると、赤い装甲が装備されて、電王・ソードフォームが姿を現す。
そしておなじみのポーズ、コウモリ男はどうやら知性が低く、言語を理解していないタイプのようだが、そんな事は関係ない。
「俺――ッ!」
それは彼のアイデンティティ。存在の証明。
世界よ、俺を見ろ。俺は今、ココにいるぞ!
「参上!!」
赤いエネルギーが拡散し、その中で電王は腕を大きく回しながらコウモリ男に近づいていく。
プレッシャーは感じつつ、コウモリ男は刃とも言える翼を電王に振るって行った。
「バレバレだっつうのッ!」
しかし再びヤクザキック。
翼が電王に届く前に、電王の足がコウモリ男の腹部ど真ん中、大ショッカーのバックルに打ち込まれた。
コウモリ男が大きくよろける隙に電王は腰にあったデンガッシャーを組み立て、ソードモードに。
「行くぜ行くぜ行くぜーッ!!」
剣をむちゃくちゃに振り回しながら距離を詰めていく電王。
さて、そこでハナはゼロホーンから降りるとハッピーの下に駆け寄る。
「あなた大丈夫? 怪我は無い?」
「あ、うん。あなたは?」
「私はハナ。こう見えてあなたより結構歳上なの。とりあえず今は事情を説明している暇はなさそうだから――」
そこで気配。ハナは目を細め、息を呑む。
ダメージから回復したのか。前方にはデルタ。後方にはファイズが立ち構え、それぞれ殺気をハナ達に向けている。
「拓真、友里……」
洗脳されているかもしれないと言う情報は葵達からの情報で分かっていたが、いざ実際本人たちを前にしてみると怯むものがある。
しかし友――、だからこそ、今自分が守っているハッピーたちの『価値』が分かっている。
キャンディと再会できてハッピーは嬉しいのだろう。友の大切さはハナだって分かっている。だからこそ、彼女は冷静に、無言で、ゼロノスベルトを構えた。
とはいえ今は仲間がいないわけではない。
シロは事態の危険性を把握。流石は時空警察所属なのか、自分達がとるべきベストな行動を瞬時に導き出した。
シロの脳波を読み取り、スーパー三輪車が自動でしん王の前にやって来る。
「乗ってしんちゃん! 私達の力を見せてあげましょう!」
「おぉ! オラが皆をお助けするぞ!」
スーパー三輪車に乗ったしん王はロケットスタートでデルタの上を通過する。
危険因子は排除しなければならない。半ばコンピューターのプログラム的な思想を持っているデルタは、ほぼ反射的に光の翼を広げてしん王の背中を追いかけた。
「拓真、私がわかる?」
一方、牛の鳴き声が聞こえた。
それはゼロノスの変身音。ゼロガッシャーを大剣に変えて、ファイズの前に立つ。
「知るか。邪魔者は消す。それだけだ」
一方手首のスナップと同時に前に出るファイズ。
淡々とゼロノスとの絆を否定しているのが心に刺さる。
「力づくで説得するしかないわね」
指を鳴らすゼロノス。
拳を握り締め、彼女はため息混じりに走り出した。
「はじめてウルトラマンを見たのは、家にあったビデオが最初でした」
緩やかに流れる小川、その上に掛かった端の手すりにミライは座った。
釣られて両手を手すりに置く司。ミライと共に遥か遠くの地平線を見る。
街が見えた。その向こうには丘の上に立つ巨大な建造物も見える。ゼノンの話によるとあそこは巨大な監獄らしい。
「司も知ってるんですよね、ウルトラマン」
「ああ。でも、俺の世界じゃマイナーな特撮だった」
「信じられません。俺の幼少期の全てなのに」
「ハハッ、悪いな。俺は――、仮面ライダー派だったからさ」
自嘲気味に司は笑った。
仮面ライダーと言う単語を口にするとき、少しの躊躇があった理由を、ミライは理解している。
「ヒーロー、なんですよね」
「ああ。クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ。俺の憧れだった。ゼノンの話じゃもっといるみたいだけど、俺が知ってるのはこれだけさ」
「今の司はいい顔をしてます。よっぽど好きなんですね」
「当然さ。俺のヒーローだった。単純な勧善懲悪じゃなくて――、ああいや、とにかく俺に正義を教えてくれた」
頭をかく司。
好きな事を語るのは楽しいが、少し恥ずかしい。
だから同じ話をミライに振った。
「おしえてくれよ、どんなウルトラマンがいたんだ?」
「俺が見ていたのは、ウルトラマン、セブン、ジャック、エース、タロウ、レオ、エイティ。あとはですね! ジョーニアスとUSAの三人はアニメだし、グレート、パワード、ネオスにゼアス、ナイスって言うウルトラマンもいるんですよ!!」
興奮ぎみに語るミライ。司と同じ想いに駆られたか、途中で赤面して頭をかいた。
「と、とにかく、俺も、ウルトラマンから色々な物を教えてもらいました」
「同じだな、俺と」
「そうですね。あはは、でも、昔はそんな深く考えてなくて、とにかく怪獣と戦うウルトラマンが好きで、それで人形とかごっこ遊びが好きで」
「確かに。俺も昔は亘に敵役とかやらせて文句言われてたっけな」
「羨ましいですね。俺は一人っ子だったから」
「だったら、親が怪獣だったか?」
「……いえ、一人で妄想で作った怪獣と戦ってました。父さんは、俺が生まれた時にはもういなかったから」
「奇遇だな。俺もだよ。俺の場合は父親と母親が蒸発してたらしい。まったく、とんでもねー連中だぜ」
「はは、俺も同じようなものです。でも、母さんはいました」
ミライは懐かしむ様な笑みを浮かべた。
「母さんは怪獣役はしてくれなかったけど、怪獣の人形をたくさん買ってくれて、俺の誕生日にはビデオも買ってくれて」
だから、ずっと、ウルトラマンが好きだったのかもしれない。ミライはそう思う。
家族との、母との思い出があった。
「面白いんですよ。一話から最終話までの怪獣が紹介されるビデオで、あとは音楽のビデオとか、いろいろありました」
「そういえば俺も祖父さんがハイパーバトルビデオ応募してくれたっけなぁ」
笑いあう二人。今になってこそ色々説明はできるが、それは所詮『後づけ』でしかない。
「まあ結局、好きなモノは好きって事だよな」
「そうですね。俺がウルトラマンを好きになったとき、俺はウルトラマンが本当にいるって思ってましたから」
「俺だってそうだ。世界のどこかで怪人と戦ってるって思ってた。龍騎を見た時は、鏡が怖くてシャンプーができなかった」
再び司とミライは声を出して笑う。
しかしふと、司の笑みが消えた。
「まさか、本当にいるとはな」
「――ええ、そうですね。そして『なれる』なんて思っても無かった」
司はうな垂れ、大きなため息をついた。
「でも、今でも心の隅では思う。本当になれたのかって」
「え?」
「本物なら、きっと――、こんな想いをしなくても良かったのかもしれない。あんな想いをさせなくても、良かったんだと思うんだ」
今でも、仲間を殺した時の感触は思い出せる。
それは幻想だとは言え、司にとっては本物とそう変わりなかった。
「一応割り切った筈なんだけど、やっぱり考える」
「………」
「違う、こんな筈じゃなかった」
「司……」
「俺が仮面ライダーに憧れたのは格好良かったからだ。あんな風に人を守りたかった、人を救いたかった」
「でも貴方は十分に戦ってきたと、夏美さんから聞きました」
「そうかな、そうなのかな。でも今はその夏美を守れてない。救えてなんかない」
「ッ」
「俺は――、本物じゃないんだ。本物のディケイドは、たしか門矢士って人らしい」
司は笑う。今度の笑みは情けなさから漏れたものだ。
「名前は同じなのに、俺は中途半端さ」
「俺も、本物じゃありません……」
「え?」
「俺の中には本物のメビウスがいます。だからあくまでも俺はメビウスじゃないんです。俺は――」
ミライも司に、司が浮かべたものと同じ笑みを見せる。
「俺はただの弱い人間ですよ。どれだけごっこをしても、本物にはなれない。どれだけなりたくても、なれなかった」
ミライは遠くを見つめる。遠く、遠く、虚空の先を見ていた。
「母さんが癌になったとき、俺はつくづくそう思いましたよ」
「癌――」
「思い出すなぁ、七夕の短冊にウルトラマンになりたいって書いたんですよ。でも結局、俺は無力だった。病気一つに勝てない、母さんはきっと、苦しんで死んだと思います」
ミライは頼れる人がおらず、施設に入る事になった。
「まあでも、悪い事ばかりじゃないんですよ」
ミライは施設で同じ『ウルトラマンオタク』の少年と友達になった。
いや、違う、文字通り家族になった。
「ダイゴ兄さんは優しかったし、アスカ兄さんは面白いし、ガム兄さんは頭が良かった。あと! 琴美さんは料理が上手で!」
「じゃあ、寂しくは無かったんだな」
「はい! むしろ嬉しかった。ウルトラマンごっこができる家族ができて。そう、そうです、俺達は本当の家族なんです」
「それは俺も思うよ。結局、過ごした時間が絆を作っていくんだよな」
司は目を細め、グッと拳を握り締めた。
「だから、俺は、ミク達を助けたいんだ」
「ッ、司……」
「ミクとは、ループの中で何度も知り合った。たとえ本当のミクを俺は知らなくても、俺は確かに会話をしたんだ。一緒に笑ったんだ」
「―――」
「なにより、夏美達も」
ミライもまた、拳を握り締める。
「俺は、今の俺には……、わからないんです」
「ミライ」
「司、俺は一体、どうすればいいんでしょうか」
その声は、震えていた。
「俺は力を手にしました。不思議な事に巻き込まれました。怪獣をたくさん倒しました」
怖いけど、辛いけど、勝ってきた。
「魔杖、グドン、ツインテール、ベロクロン、バードン、強敵だったけど勝てたのはみんなのおかげで――」
なにより。
「俺は、人を守るために戦ってきました」
「そうか、大変だったな」
「いいんです。俺の想いは一つですから。それは今も同じです」
「ああ、そうだな。お前と戦ったとき、なんか、そういう想いが伝わってきたよ。はは、なんか悪いな、適当で」
「いえ、いえ、ありがとう司。でも――ッ、俺は今、分からないんです!」
ミライは司に謝罪を行う。
「俺は貴方に協力したい。でも――、だけど」
「いや、いいんだミライ。お前は正常だ。俺だって最初は受け入れる事ができなかった」
「ごめんなさい司。分かっていても、殺すと言う事は――、それだけ、抵抗が……」
ミライは空を見上げ、悔しげに拳を振るわせる。
「ウルトラの星が――、見えない」
「ウルトラの星?」
「M78星雲。ウルトラマンが住んでる星です。今の俺の、故郷だ」
なのに、それが見えない。
ウルトラマンの証明が、見えない。
「俺はきっと神格化してしまったんです。ウルトラマンが神じゃないことは、俺が一番知ってたのに」
「俺も同じだよ、ミライ。やっぱり、似てるな俺達」
悔しげに、悲しげに、二人はもう一度笑みを浮かべた。
今の自分達は、なんだ。
「仮面ライダーに、なりたいよ」
「はい。ウルトラマンに、なりたい」
でも、分からない。
何をすればいいのか。分かれない。
分かってるはずなのに、分からない。
「今の俺には、ウルトラの星が、見えないんです」
☆エピナビ☆
・仮面ライダー電王
2007年1月28日から2008年1月20日に放送された平成ライダー8作目だ。
これまでのライダーが作ってきた作風とは一味違うテイストになっており、個性豊かなイマジンたちのおかげでコミカルな雰囲気になっているぞ。
不幸体質の主人公、野上良太郎が時の列車デンライナーと接触し、モモタロスと契約したところから物語がはじまるんだ。
イマジンたちの人気は高く、多くのグッズ化や、作品終了後も何度も映画化されている。
さらに『クレヨンしんちゃん』ともコラボしており、アニメにもなっているんだ!
この作品では原作と同じ野上良太郎が電王に変身するぞ。
さらにゼロノスはハナが受け継いでおり、カードによる記憶消去問題は、特異点であるハナとゼノン達の力が加わり、解消されているんだ。