Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫   作:ホシボシ

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SONG1 終わりのハジマリ

 

一羽の燕が広い青空を飛んでいる。

真っ白な布がなびく世界にて二人の男女が座って話していた。

楽しそうに話す男の子の話を少し歳の離れた少女が微笑み頷き聞いている。

夏だからなのか少しうるさいくらいのセミの騒がしい鳴き声、バタバタと布が風に擦れる音、あとは二人の会話が晴天の空に吸い込まれていく。

少年の手には人形が、少女はそれを見てニコリと微笑む。

 

 

「――――♪」

 

 

だからか、少女はその人形に纏わる一つの歌を口にした。

なんと綺麗な歌声だろうか、男の子は笑顔でその歌を聴き入っていた。

その声にセミ達は自重したかの様に沈黙したではないか。いや、それは男の子がそう感じただけで実際はそうでなかったかもしれないが。

歌は好き? 少女がふいに問うと彼は大きく頷く。ずっとこの声を聞いていたい、そういって彼は希望を口にした。

 

 

「私もね、お歌が大好きなんだ」

 

 

そう言った少女の顔には、同じくありったけの希望と――

深い悲しみが、絶望へ至る苦しみがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、白。

 

 

「なんで……ッ!」

 

「―――」

 

 

少年は既に冷たくなった少女を抱きしめて大粒の涙を流す。

約束した、幸せにすると。しかしできなかった、殺した、自分が彼女を殺したんだ。

少年は歯を食いしばって強く強く少女を抱きしめた。

 

 

「愛していたのに――ッッ」

 

 

誰もが皆、悲しみの中で死んでいく。

そしてそれをただ見る事しかできなかった自分を『彼女』はどう思っているのだろうか?

生き残った別の『男』は少し離れた所にいた『彼女』を発見する。『彼女』は血まみれだった、何故こんな事になったのかは分からない。

分からないが、『彼女』の命がまもなく消え去る事だけは嫌でも理解できた。男は『彼女』に何度も謝罪する。

守ると言った、皆の幸せを壊さないと誓った。しかし結果は誰もが全てを失う最悪の絶望。

 

 

「大……丈夫」

 

 

『彼女』は血まみれの手で男の頬を優しくなでた。

血がつこうとも関係無い、男は――、その少年は瀕死の『彼女』の手を強く握り締める。

『彼女』は少年を恨むなどしない、ただこの結末に涙は流す。悲しい、悲しすぎる。皆で笑いあえる未来がよかった、皆が幸せに過ごせる世界がほしかった。

嘆き、悲しみ、恨み、絶望する世界なんていらなかった。望んでいなかったのに――ッ!

 

 

「もっと……生きたかったな」

 

 

震える声で『彼女』は笑っていた。

いや、笑いながら泣いていた。何故泣くのか、決まっている。

悲しいから、悔しいから、寂しいから、どうしようもなく無力だから。

涙が止まらなかった。少年は『彼女』の悲しみを受けて強く歯を食いしばる。

何故『彼女』達が死ななければならない。『彼女』が、『彼女』の友人が何をしたと言うのか!

『彼女』達はただ笑い会える世界を望んでいただけ。なのに何故世界はそれを否定する? なぜ『彼女』達を苦しめて殺すのか。

どうしてその夢に答えない!?

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

『彼女』は涙を流したまま息を引き取った。

その亡骸を抱きかかえる少年はぶつけ様の無い怒りをただひたすらに叫ぶだけだ。

抱きしめる体からは絞られる様に血と涙が零れて来た。紛れも無い真実、紛れも無いリアル。

守れなかったことが、現実なんだと男の心に刻まれる。

 

 

「どうすればいいッ!?」

 

 

悲痛な叫び。

彼の肩に黒い鳥が舞い降りる。

 

 

(ころ)せ。世界を否定し、否定する残酷さを受け入れろ』

 

 

この世界は絶望をお望みの様だ。

困るんだよ、バッドエンドで終わる世界なんて。それはお前も同じだろう? 黒の翼は少年にそう問いかけた。

絶望を望む世界なんて、敵じゃないか。

 

 

「……ああ」

 

 

掠れた声、少年は殺意の決意を目に宿し立ち上がる。

目指すのは少し離れた所で自分と同じく少女の亡骸を抱えている少年だった。

そして彼はその少年を殺す。何故? それは守る為に、愛する為に、希望を壊さぬために?

 

 

「―――れ」

 

 

いや、全てを――

 

 

「壊してやる……ッ!」

 

 

少年は返り血と、『彼女』の血でまみれた拳を強く握りしめる。

そうだ、壊すんだ。こんな世界なんてぶっ壊してやる!

それを思えば、もう彼の体には何も無い。あるのはただ、純粋なる信念。

そして世界へ対する紛れも無い殺意。

 

 

「世界を、破壊してやるッッ!!」

 

 

積もる雪が放つ陽炎が、少年の視界を振るわせた。

今ココに、世界の破壊者が誕生する。

 

 

 

 

 

 

ノイズ。

砂嵐、雑音が響く。

 

 

「神なる世界を巡り、多くの世界が変動を遂げてきた」

 

 

魔女は言う。故に、世界の法則は徐々に乱れ始めてその均衡を崩していく。

世界は常識を破壊してきた存在でもあるが、一つの世界に常識と見なされる存在は一つだけ。

当然だ、世界は本来干渉し合う事の無い物。世界を隔てる強靭な壁が今までは存在していたのだから。

ならばそれが崩れたとき、待っているのは誰にも予想できない融合ではないか。

均衡は重要だ、しかし度重なるイレギュラーはその均衡を蝕み、破壊しつつある。

 

 

「紅茶とコーヒーが混ざるのは、まだ予想できた事だ」

 

 

同じ液体と言う繋がりがある。

フルーラは右手に紅茶を、左手にコーヒーを持ってそれを同じカップに注いでいく。

彼女はそうやってできた液体を舐めると、舌を出して複雑な表情を浮かべていた。

 

 

「しかし今、紅茶とケーキ、そしてクッキーが混ざろうとしているのかもしれない」

 

 

異物と異物の融合、ゼノンはそれと同じ物を作ると隣にいたシャルルに差し出した。

彼は一度匂いを嗅いでからゆっくりとゼノンに返却する。無言の譲り合いを続ける二人、つまりどういう事なのか?

フルーラが問うと魔女の代わりにナルタキが口を開いた。

 

 

「本来ならば混ざり合う事の無かった世界同士が混ざり合う」

 

「ッて、事は」

 

「そうだ、誰にも予測できぬイレギュラーの世界が生まれるぞ」

 

 

またノイズ。これは遠くない未来のお話。

砂嵐の様に揺れる世界と景色、全てを有耶無耶にする乱雑なる光景はいったい何を意味すると言うのか。

現実とは何なのか、目に映るものだけを信じればそれは今となりうる? では現実とは真実なのか?

そこにある光景は、そこにある命は何により形成される物なのかを今一度考えてほしい。

明確な形を持った命が、たとえ虚構の幻想で構築されているとしても、そこにある生命の息吹は真実なのだろうか?

そして根本を見ろ。幻想とは、虚構とは何なのか。君にとっての真実は一体何で構築されているのかを心に刻め。

 

 

「うわああああああああああああ!!」

 

「ッッ!」

 

 

その目には、散り逝く命が映っていた。

青と黄色の弾丸はまるで意思を持った様に動き回り標的を捉えて逃がさない。

次々と撃ち抜かれていく兵士たち、見れば中にはかろうじて息のある者もいたがソレらはライドブッカーが放つ銃弾にて止めを刺された。

悲鳴が続く中で駆け抜ける残像、そして散布する炎。兵士達は何もできず、何も考えられずに次々と命を散らして倒れていった。

それはノイズか、それともクリアになる世界なのか。

 

 

「お前、本気なのか――ッ?」

 

「そいつ等は邪魔だ、だから消す。当然の事だろう」

 

 

その目には消滅する虚構が映っていた。

そして彼は剣を振るう。火花を散らして後退していくのは鳥篭に囚われた贄か。

 

 

「それに邪魔なのは……お前らもだ」

 

 

哀れで、愚かで、どうしようもなく気の毒だ。

 

 

「そこにあるのは現実であり、真実であり――」

 

「まったくの虚像ともいえるわ!」

 

 

ダブルがメモリを抜き取ると変身解除と認識され、二つの光が言葉を放ちながら移動する。

右端と左端に着地するゼノンとフルーラ、彼らはジットリとした目で呆気に取られている彼らを見て笑みを浮かべた。

 

 

「――また、それらのいずれでも無いと言えるだろう」

 

「壊れいく世界は、世界以外も壊れている物よ」

 

 

これから壊れるんだ。もう無くなる物なんて真実でもなんでもない。

どうせ壊れる、どうせ無くなる。だったらもう要らないんだよ、自己の証明なんて。

そうだ、壊れる、ならばこいつ等は虚構。破壊の未来に実態など存在しない!

 

 

「終わるんだよ、何もかも」

 

 

いつもの衣装とは違い、今日は何故か黒を貴重としたダークなもの。

ブラッドレッドと黒のドレスを着たフルーラ。ダークブルーと黒のスーツを着たゼノン。

雰囲気もどこかいつもより気取っていると言うか、より一層演技がかかっている様だ。

そしてそれと同じくダークな雰囲気が強調されていた、声のトーンをずっと下げて震わせる様に話す事で威圧感を増しているのか。

さらに彼らに挟まれた少年もまた同じく禍々しい衣装だったからだと言えよう。

 

ついでに言えばゼノン達はそれぞれダブルのサイドに対応する側の目を眼帯で覆い隠しているのも特徴的だった。ゼノンは左、フルーラは右の目に黒の眼帯。そこにはダブルのマークが刻まれている。

そして中心。黒とマゼンダのジャケット、それは彼が変身するディケイドのカラーリング。その証拠にジャケットの背にはディケイドの顔を模したマークが輝いている。

彼の紋章とも言えるソレ。

 

 

「つ、司……!」

 

「おやおや、ディケイド様の迫力に圧倒されて声も出ないのかい?」

 

「全員糞間抜けな顔だこと」

 

 

ゼノンとフルーラは言う。

ディケイド『様』と。少なくとも自分たちの知っているゼノンならばそんな事は言わない筈。

では彼らは一体――?

 

 

「与えられた役割は破壊。そしてお前らは邪魔な障害」

 

「――ッ」

 

 

変身を解除する音が二つ聞こえる。

と、同時に司の両隣に現れる二人の少年。彼等もまた司と同じく禍々しい服装に身を包んでいた。

一人は黒い服の上に血の様な赤と紫の着物を着ている。一人は赤黒いコートに身を包む。

そして二人もまた司と同じく服の背には己の紋章を背負っていた。普段の彼等のノリであったなら凄い格好だと笑って終わったのだろうが、状況が状況の為に全く笑えない。

 

 

「我夢……ッ! 双護!!」

 

 

彼らは左からゼノン、我夢、司、双護、フルーラの順に並び立ち一同を見下していた。

ゼノン達ならばともかく、五人は全員まるでゴミを見る様な眼で今まで一緒に旅をしていたメンバーを、仲間を、友を見ていた。

そしてその近くには彼らが生み出した死体が転がっている。

そう、死体。彼等が殺したんだ。

 

 

「我夢君……なんで――?」

 

 

戸惑った様に我夢を見るアキラ。

普段の彼ならば後ろめたい事をしていたのならば目を逸らしそうなものだが、今の彼は冷静に、かつ何か怒りの様な感情を込めてジットリと言い放つ。

目が据わっている、そこには欠片とて優しさが感じられなかった。

 

 

「この世界は偽りと悪意で満ちてます。壊すしかないんですよ、全て」

 

 

どうしようも無く可哀想な世界ではないか。

それを救うには、やはり壊すしかないのだと。全てを無にすれば、悲しみなんて感じられなくなるだろう?

それは救済だ、破壊が救いを齎すのだと。

 

 

「破壊と創造は表裏一体だ、故に俺たちは与えられた役割を果たすだけ」

 

 

無表情の双護、彼は一体何を考えているのか?

 

 

「幻想は真実を曇らせるノイズでしかない。取り払うべきなんだよねぇ」

 

「愛を守るために壊す! 信じる為に壊す! 悲しいわね!!」

 

 

フルーラとゼノンの笑みに釣られる様にして、双護と我夢もまた歪な笑みを浮かべて世界を見下す。

どうせこんな世界はもう終わる。何故ならば、自分達が終わらせるからだ。

唯一司だけは笑みではなく睨む、つまり憎悪に近い感情を表情に乗せていた。

 

 

「さあ! ディケイド様!!」

 

「合図をどうぞ!」

 

 

ゼノンとフルーラに言われて中心にいた司は一歩前に出る。

手に構えるのはディケイドライバー。彼は低く、冷たく言い放つ。

 

 

「潰す」『カメンライド』

 

 

それは紛れも無い敵意の証拠だった。

ああ、何故こんな事になってしまったのか?

もうそれは誰も分からぬ事。司の隣には鈍い光を放ちながら空に浮遊するカラスが一羽。

 

 

 

 

 

 

何故こんな事になってしまったのか。

どこで、何が狂ったのか? 時間を戻しつつ今までを振り返ろう。

パラレルワールド。そんな言葉を聞いた事はないだろうか? 自分が今住んでいる世界とは全く異なる空間が存在し、そこには自分達と同じように生きている人達がいる。

多くの人間はそんな事がある訳ないと一蹴し、自分が住んでいる世界が全てだと信じて疑わない。

だが、はっきり言おう。他世界は存在するのだと言う事を。他の国ではない、次元や空間を超えたもう一つの、いや幾億の世界があるのだと。

その総数はもはや天文学的、今もなお広がり続ける宇宙の様に世界もまた増殖の一途を辿る。

 

例えば、とある世界にあった十星学園と言う中高一貫の学校。

そこに通っていた数名の生徒達も同じ事を考えていただろう。彼等は何のことも無い、ただの人間と言うカテゴリに納められた一般人だ。

性格の差はあれど、物語の主役にも重要人物にもなれない無個性で取り得の無いモブキャラ。だが彼らはある時、世界を隔てる壁を突破する光に巻き込まれ、迷信だと決定付けていたパラレルワールドへ送られる。

そこで見たのは自分達の世界で特撮作品として放送されている『仮面ライダー』に関係する世界だった。

ただのフィクションが一つ、しかも子供向けの特撮作品である筈の――、要するに漫画やアニメの世界が現実として現れる事に彼らは当然戸惑いを見せる。

だが多くの世界を越える事で彼らは完全に理解した、世界は一つなんかじゃない、先ほども言ったが宇宙と同じく一秒ごとに新たな世界が広がっていくのだと。

そして決して交わる事の無い世界は次々に接触を遂げ、ついには全ての世界を揺るがす事態へとステージを移動させる。

 

それは、多くのパラレルワールドを生み出す世界。

つまりは数多に存在する世界の心臓である場所が存在すると言う事を知ったからだ。

『神なる世界』、そこにたどり着いた物は絶大な力を得て全ての世界を支配できると言う。

その神なる世界を求めて動き出したのは大ショッカー、仮面ライダーの敵である筈の彼らは世界を移動する方法を手にした事で神への到達を図る。

子供向け特撮作品である仮面ライダーの敵、つまりテレビの前の子供達を喜ばせる為に爆発して死ぬ敵として終わる筈だった彼らは、全ての世界を支配する神として君臨する為に動き出した。

 

それを阻止するべくナルタキと言う男がランダムに選んだ都合のいいインスタントの戦士、それこそが十星学園の生徒達だったのだ。

拠点を与え、身体能力を強化し、それは何とも都合のいい駒として。

勝手に選ばれ、勝手に命を賭ける戦いを強制させられた彼らではあったが、何もしなければ己の世界が大ショッカーの進撃によって滅ぶという未来が約束されていた。

それに戦う中で得た物を守るため、彼らは次第に仮面ライダーとして戦う事を決意していく。

そして今日もまた、大ショッカーとの世界を巡る陣取りゲームが繰り広げられている。

 

 

「――ッ! 見つけたぜ、大ショッカー!」

 

 

三台のバイクが止まった先には同じくして三体の怪人が立っていた。

場所は人気の無い海辺、他人を危険に晒す必要の無い場所は戦いにはうってつけだった。

 

 

「エケケケケ! 愚かなヤツだ、我らの姿を見て生きていた者はいないのに!」

 

 

ショッカー怪人サソリ男、同じくショッカー怪人死神カメレオン、ゴルゴム・ヒョウ怪人。

彼ら小隊はこの世界を例外なく破壊しようと暗躍していた。普通の世界と神なる世界を区別する方法は簡単だ、その世界を壊せばいい。

それが何の問題も無く滅びればその世界は神なる世界ではない。今回サソリ男達は重要国家機密である情報を持ち出し戦争を仕掛けさせる事で、世界を崩壊させるつもりだったのだ。

そんな事をさせる訳にはいかない。事態を理解した十星学園特別クラスのメンバーはショッカーを倒すべく駆けつけた。

一人は中性的な容姿の少年、一人は強い正義の光を目に宿す少年、一人はくせッ毛の美少年。

左から相原我夢、聖司、天王路双護はそれぞれのアイテムを構えて怪人達と対峙する事に。

 

 

「いくぞ二人とも!」『カメンライド――』

 

 

カードを構えた司、両隣の二人も頷いてアイテムを持つ。

 

 

「ああ、俺はあのヒョウを」

 

 

ニヤリと笑う双護はカブトゼクターを構える。

 

 

「僕はカメレオンをやります」

 

 

我夢は音角を鳴らして額に近づけた。

三人はそれぞれの敵を睨みつけ、ライダーに与えられし言葉を口にする。

 

 

「「「変身!」」」『ディケイド!』『HENSHIN』

 

 

我夢の体が紫の炎に包まれて弾ける。すると現れたのは鬼、仮面ライダー響鬼だ。

そして双護の体には六角形の光がほとばしり鎧を与えていく。仮面ライダーカブト、マスクドフォーム。

最後に司の回りに9人の仮面ライダーの影が出現、それが司へと収束してディケイドの姿を与える。

プレートが突き刺さり、マゼンダの色が体を駆けて変身は終わった。

 

 

「来い、破壊してやる!」

 

 

カードホルダー状の武器であるライドブッカーをソードモードに変えるディケイド。

彼は剣をなぞって敵に向かっていく。

 

 

「殺せッ!!」

 

 

同じく吼え、走り出す大ショッカー。

波の音が響く砂浜で命と世界を賭けた死闘が始まった。

とりあえずは敵の戦力の分散、ディケイド達は武器を振るいながら三体の怪人の距離を離していく。

大ショッカー怪人が多くは非常に強力な力を持った者が多い、しかしそれが故にプライドの高さもまた他の比ではない。

人間に負ける訳が無い、そんな思いを持った者たちが殆どだ。だから距離を離されても一対一の状況を危険視する事は無かった。

そして司たちもいくつもの世界を巡り、そして一度は大ショッカーに屈辱の敗北を味合わされた事はある。だからこそ彼らに対抗できる実力を備えてきたのだ。

 

 

「シャア!!」

 

「………」

 

 

ヒョウ怪人の爪がカブトの装甲を捉える。

カブトの厚い装甲には目立った傷はつかないが、逆にコチラの攻撃も素早い相手には効果を成さなかった。

このまま長期戦となれば不利になるかもしれない、かつ相手を逃がす可能性も。ココは防御を捨ててでもスピードをとるべきか。

カブトはキャストオフを行うためにゼクターの角に手をかけ――

 

 

「………」

 

 

そこで動きを止めるカブト。

飛び掛るヒョウ怪人の攻撃を最小限の動きでかわすと沈黙して何かを考える様に回避に徹した。

カブトは前々からキャストオフの可能性について考えていた。パージさせる方向、勢いの強弱、さらには時間指定まで細かく設定できると来た。

さらには装甲は一部の形状を自由に融解の如く消滅させる事ができるとまで。そしてパージさせた装甲は強力な飛び道具となりプットオンとキャストオフを連続使用すれば下級兵程度ならば完全に破壊できる。

この力をもっと応用できればと思っていたが――

 

 

「丁度いい。試してみるか」

 

「ギシャ!」

 

 

カブトは既にヒョウ怪人の攻撃パターンや動きを見切っており、飛び掛る怪人を受け流す様に投げ飛ばすとゼクターの角を弾いた。

倒れるヒョウ怪人とエネルギーが供給されて装甲が浮き上がっていくカブト。

 

 

「キャストオフ」『Cast Off』

 

 

そこでおかしな事が起こる。

通常ならばすぐに装甲は敵に向かうか四散してマスクドフォームからライダーフォームに変わるわけだが、今回は発動と同時には装甲は弾けない。

それはカブトがそう設定したからである。時間差でパージを遅らせられるのは最長でも五秒、そうしていると投げ飛ばされたヒョウ怪人が立ち上がろうと力を込めていた。

 

 

「フ――ッ!」

 

 

カブトは踏み込み思い切り手を突き出す。

しかし当然そのパンチはヒョウ怪人に届くわけも無いが――

 

 

「ゴギャァアアアア!!」

 

 

そこで装甲がパージ。

驚くべきはカブトは設定を行い、右腕の装甲の形をまるまま保ったままで発射したと言う事だ。

猛スピードで飛んでいくカブトの腕部分装甲、ヒョウ怪人は予想外の攻撃に対処できずそれを真っ向から受けた。

つまりはロケットパンチ。腕以外の装甲は吹き飛ばずその場に落ちるだけ、しかしその分のエネルギーがすべて腕に集中している為に勢いと威力は通常よりも遥かに上回っていると言えるだろう。

 

 

「なるほど、中々使える」『ONE』『TWO』『THREE』

 

 

カブトは確かな効果を実感しながら背後を向いて三つのボタンをタッチする。

対して立ち上がるヒョウ怪人、一方的に攻撃を受けた屈辱故かその爪を構えて隙だらけのカブトへ一直線に向かっていく。

だがあまりにも不自然な隙に違和感を感じなかったのだろうか? いや、それも攻撃を受けたダメージと焦りが消していたのか。

とにかくヒョウ怪人はまっすぐにカブトへ向かい攻撃を行おうと――

 

 

「ライダー……キック!」『RIDER KICK』

 

「!」

 

「ハッ!!」

 

 

振り返りながら回し蹴りを行うカブト。

カウンターライダーキック、それは攻撃を行うとしたヒョウ怪人を逆に捉えると断末魔さえあげさせる暇なく爆発させた。

俺を殺したければ神でも連れて来るんだな、そう言いながらカブトは己を示すポーズである人差し指を天に掲げる形で爆炎から姿を表すのだった。

 

 

「ケッ! ゲゲッ!!」

 

「フッ! ハッ!!」

 

 

素早い動きで響鬼を翻弄しようと飛び回る死神カメレオン。

だが響鬼は彼のフェイントをしっかりと見極めており、攻撃をしかけてくれば逆にその勢いを利用して拳を命中させていく。

響鬼の拳が敵の胴を打つと、リンと澄み渡った鈴の音が響き渡った。

 

 

「ごぐぉっ!」

 

 

晴天の空に輝く太陽が砂を熱く照りつける。

そんな陽炎を放つ砂浜を抉る様に転がっていく死神カメレオン。

人類を超越し、支配者になるべくして生まれた怪人である自分が、こんな鬼にやられる事が許せないのだろう。彼は怒りの咆哮をあげて己に与えられた能力を発動する。

 

 

「!」

 

「ギギギ! 俺の姿は消え去ーる!」

 

 

文字通り死神カメレオンの姿が消失したではないか。

流石はカメレオンの改造怪人なだけはある。響鬼はすぐに周りの景色を確認する。

いくら透明になろうともココは砂浜、動けば確実に砂に足跡が残る筈だ。響鬼は音撃棒を構えていつでも攻撃ができる様にと――

 

 

「グッ! ガハッ!」

 

 

しかしその時だ、肩に衝撃が走り響鬼は膝をつく。

さらに続けて背中にも同様の衝撃と痛みが。何だ? 響鬼が背後を向くとそこには砂のくぼみが一つ。

そしてすぐに時間を掛けずして再び衝撃、響鬼はバランスを崩して倒れてしまう。砂浜にはくぼみがもう一ついつの間にか。

 

 

(そうか! そう言う事か)

 

 

響鬼は意味を理解してすぐに地面を転がる様にして立ち上がる。

敵も馬鹿じゃない、足跡で居場所が分かる事は予測していたのだろう。

だから敵は地面を蹴って跳躍しながら移動を繰り返しているのだ。これなら最低限の跡を残すだけでいい、先ほど肩に衝撃を感じたのは敵がジャンプの着地地点に自分の肩を選んだからだ。

さらに崩れる自分の背中を蹴って反対側に着地したと言う事なのだろう。元々スピードや跳躍力は高かった、それ故に何度も攻撃を当てていく戦い方と言う訳か。

 

 

「だったら――!」

 

 

もちろんそうと分かればコチラにも対応できる術がある。

響鬼は砂浜を転がりながらベルトについている鬼の頭を模した宝石を取り外す。

爆裂火炎鼓、彼は立ち上がりざまにソレを強く握り締めてヒビを入れる。そしてそのまま死神カメレオンを気にもせず地面に叩きつける様に投げた。

 

 

「ッ!? ご、ごわぁぁああああ!!」

 

 

地面に叩きつけられた鬼の顔は、衝撃を受けたことで爆発。

中に詰め込まれていた炎と音撃を回りに開放する様にして放たれる。

火炎を纏いし衝撃波爆弾、それは死神カメレオンがどこにいても構わない攻撃。当然響鬼攻撃を行う為に近くにいた彼は例外なく炎を纏って姿を露にさせる。

 

 

「フッ!」

 

「く、くそ!」

 

 

すぐにまた透明になった死神カメレオンではあったが、もう遅い。

響鬼は式神であるディスクアニマルの一つ茜鷹を実体化させて彼の姿を記憶させた。

それは透明になったところで関係ない、茜鷹は死神カメレオンの存在を完全に把握しており、彼の頭上にピッタリと張り付くがごとく飛行を行う。

これで透明になろうが関係ない、響鬼としては茜鷹の真下に敵がいると言う事なのだから。

 

 

「グアアアアアアアア!!」

 

 

響鬼はそこへ紫炎の火炎放射を行う。

炎は死神カメレオンをしっかりと捉え、彼は身に張り付いた炎を振り払おうともがき苦しむ。

しかし響鬼にとってはその隙は大きすぎるもの、彼は地面を蹴って跳躍、ベルト中央にある音撃鼓を取り外すと思い切り敵の胴へとソレを押し当てる。

 

 

「ゴッ! ぐぅウゥウゥウゥ!!」

 

 

後退していく死神カメレオンと展開し巨大化する音撃鼓。

響鬼は両手に構えた音撃棒を一度回転させ構えなおす。そしてそのまま身動きの取れない彼の方へと走り出した。

 

 

「音撃打!」

 

「!」

 

 

響鬼は音撃鼓の前で思い切り踏み込む。

そして――

 

 

「爆裂――ッ!」

 

「グッッ!」

 

 

まずは一撃、ドンと言う大きな音と衝撃が空間を揺るがせる。

 

 

「強打の型!!」

 

「ガアァァアアァア!!」

 

 

そして最後の一撃。

凄まじい勢いで後退していく死神カメレオン、それだけでなく火炎鼓にも描かれている響鬼の紋章が巨大な炎となって彼を取り巻いていた。

そしてそれが破裂すると同時に死神カメレオンも爆発、響鬼はそれを確認すると音撃棒をもう一度クルリと回して構えを取った。

 

 

「おのれ人間風情がぁぁ!!」

 

「ハッ!」

 

 

殴りかかる拳を手で振り払うと、ディケイドはソードモードに変えたライドブッカーを振り下ろして一閃をサソリ男の胴に刻み付ける。

さらにそのまま勢いをつけて一回転、再び前に戻ると同時に剣の柄先を当ててサソリ男を怯ませる。

 

 

「ぐぅう!!」

 

「おっと!」

 

 

頭についているサソリの尻尾を伸長させてディケイドを狙うサソリ男。

しかしディケイドも体を反らしてそれを交わしてみせる。元々補正と呼ばれるアシストで戦闘スキルは上がっていたが、度重なる戦いにて彼も成長していると言う事だろう。

瞬時の判断、ディケイドはライドブッカーから右手を離すと伸びていたサソリの尾を掴む。

そして右足でかるくライドブッカーをタッチ、するとディケイドの意思に反応してライドブッカーが展開、中から一枚のカードが飛び出してきて彼の左手に収まった。

サソリ男は尻尾をディケイドに掴まれているために動きが鈍っている。ディケイドは素早くカードを持ちながらバックルを展開、カードを装填して敵を睨む。

 

 

「変身!」『カメンライド』『ブレイド!』

 

「何ッ!? ぐわぁぁあああッッ!!」

 

 

ディケイドライバーが電子音と共に光を放つ。

するとそこから放たれるのはブレイドの変身時に現れる光の壁、オリハルコンエレメント。

変身時に敵からの攻撃を防ぐ結界になるソレ、今回もまた例外なく前にいたサソリ男に直撃すると大きくその体を吹き飛ばす。

叫びを上げ、手足をバタつかせながら後方へ吹き飛んでいくサソリ男。彼はそのまま波立てる海へ落下する。

巻き上がる水しぶき、ディケイドはライドブッカーを蹴り上げて手に戻すと、中から二枚のカードを抜き取った。

 

 

「………」『フォームライド――』

 

「グッ! くそぉおお!!」

 

 

一方で立ち上がるサソリ男。

水を払いながら辺りを見回すが砂浜には勝利の構えを取っているカブトと、コチラを見ている響鬼しかいない。

負けたのか、こんな訳の分からない人間なんかに。使えない連中だ、サソリ男は舌打ちをしながら体を震わせる。

しかし待て、ディケイドはどこにいった? 彼はもう一度砂浜を見るがそこにはやはり二人のライダーしかいなかった。

 

 

「ここだ」

 

「!」

 

 

声がした方向、つまり真上を見るサソリ男。

そこには翼の生えたディケイドが。ブレイドジャックフォームに変わった彼は、既に最後のカード、つまりファイナルアタックライドも発動済みだった。

 

 

「タァアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「うがぁぁああああああああああああ!!」

 

 

ディケイドは上空高くから一気に強化されたブレイラウザーを振り下ろす。

一刀両断、脳天からまっすぐに刻まれる線。さらにディケイドはもう一方の手に持っていたライドブッカーを真横に振るう。

こうして電撃を纏った十字架の線がサソリ男に刻まれた。

 

 

「い、偉大なる……大ショッカーに――ッ」

 

 

敗北を確信したのだろう。

サソリ男はディケイドから離れる様に後ずさり、直後両手を挙げて海へ倒れこむ。

 

 

「栄光あれぇえええええええええええええ!!」

 

 

爆発。

凄まじい水しぶきをあげて侵略者の心臓(ブレイク・エネミー)は倒された。

これで戦いは終わり、ディケイド達の完全勝利となる。今回はまあうまくいったか、ディケイドはため息をついて変身を解除する。

 

 

「やりましたね先輩」

 

「フッ、今回は余裕だったな」

 

 

体についた砂を払いながら笑う我夢と、髪をかき上げてニヤリと笑う双護。

司も緊張が抜けたと柔らかな笑みを二人に向けた。

 

 

「大ショッカーの連中も強さに波があるからな。今回は運が良かった」

 

 

頷く三人、すると同時に司の携帯が音を立てる。

誰だ? 画面を確認するとソコには案内役のゼノンの名が。

だいたいブレイクエネミー、つまり大ショッカー進撃軍のボスを倒せば彼から連絡が来る。

特に何の違和感もなく司は通話ボタンをタッチした。ちなみに彼の携帯は非常に独特な形、タッチ式なのは良いが形が変身するディケイドを模しているのだから何とも面白い。

 

 

「もしもし、ゼノンか」

 

『大変な事が起こった』

 

「……ッ」

 

 

普段は意味不明なハイテンションで訳の分からない事をベラベラと聞いてもいないのに話してくるのだが、今日は何か少し様子が違った。

声のトーンが低く、演劇交じりのふざけた喋り方でもない。

明らかに普通じゃないといった様子、司は思わず喉を鳴らす。

 

 

「何かあったのか?」

 

『ああ、下手をすれば世界が変わる程のね』

 

 

なんだ? 彼がそこまで言う事とは?

司は彼に詳細を求めるが、ゼノンは話すことすら恐ろしいのか、声を震わせて言葉を詰まらせる。

彼が言うにはこの世界の脅威は無事に過ぎ去り、平和こそ戻った。

次の世界転移まではこの世界で自由に過ごして良いと――。

 

 

『でも――……だけどッ!!』

 

「なんだ? 何かあるなら言ってくれ!」

 

『実は――ッ!』

 

「……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『実は、最近フルーラのうなじに興奮する様になってきたんだ』

 

「………」

 

『うなじって――、エロくね? ってかまずそもそもフルーラかわいくね?』

 

「………」

 

『うあん! やっばい想像したらもうカワイイ! っていうか、うなじとウナギって似てるよね!』

 

「………」

 

『ちょっと待ってよ! ヌルヌルのフルーラとか――……! んぽうぉ! あ、思わず気持ち悪い声出ちゃった! でもそれくらい可愛いよフル――』

 

 

 

ピッ!

 

 

「………」

 

「あ、あれ? 良かったんですか切って」

 

「ああ、時間が戻せるなら……本気で心配した自分を殴りたい」

 

「「?」」

 

 

ビキッ! ビキキッッ!!

などと青筋だらけの司を見て思わず汗を浮べる我夢。まあ何となく会話の内容は分かる様な。

だがまあとにかく今回の戦いは終わりだ。一度学校に戻れば、色々遊べる都会の方に飛ばしてくれるらしい。

あとは次の世界が用意されるまで各々自由に過ごせば良い、予定は二日、それまでは休暇と言う訳だ。

司は携帯で学校にいた夏美に連絡を入れるとマシンディケイダーを発進させる。それに続く我夢と双護、潮風を受けながら三人は海沿いの道を走り抜けるのだった。

 

 

「バイクに乗れる様になったのは本当に嬉しいですけど、僕のバイクちょっと浮いてますよね……」

 

「フッ、確かに中学生にしては立派すぎるな」

 

 

巻き込まれし者たちはゼノン達案内役の『眼』から、『簡易で安易な悲壮強化(インスタント・ホッパー)』と言う補正を与えられる。

その効果の一つである何もしていないのにバイクの乗り方が分かる事、そして乗っている姿を誰も疑問に思わない事、最後に誰に見せても怪しがられない免許まで用意される始末。

これによって我夢は中学生でバイクを乗りまわせる様になった訳だ、まあ少し免許偽装と言った小悪党まがいの状態はどうかとは思うが、そこはそれ命を掛けて戦うのだから許してほしい。

 

とは言え響鬼のバイクである凱火は中学生が乗るにしては少しゴツ過ぎると言うかバイクその物と言うか何と言うか。

我夢としてはなれないものである――などと話ている三人は既に学校の駐輪所。あれから五分くらいで三人は拠点である学校に戻ってこられた。

すると始まる学校の移動。同じ世界ではあるが、始まりに転送された自然に囲まれた景色とは違い、今はもうビルの群れの中。

 

 

「秋葉原らしいですよ、ココ」

 

「へぇ、この世界にもアキバはあるんだな」

 

 

自分の世界と共通した点が多いほど親近感が湧く。

とりあえず昼食でも取りに行こうと三人は予定を立てつつ校門へと向かおうと――

 

 

「ん?」

 

 

その時ふと足を止める司。

彼は顔を横に向けて一点を見つめる。

彼の行動に気づいたか、双護と我夢も足を止めて彼を見る。

 

 

「どうした司」

 

「何かあったんですか?」

 

 

二人の声にも司は少しの間反応を示さなかった。

ただ一点を見つめ、表情は変えないが汗を一筋流す。

どうしたのか、双護と我夢は顔を見合わせて首を傾げる。

 

 

「声――」

 

「え?」

 

「助けてって……」

 

 

間違いない、聞こえた。

司は焦った様に身を乗り出すとフェンスの向こう側を睨む。

どうやら彼には誰かが助けを呼ぶ様な声が聞こえたらしい、気のせいにしては疑問が残る。

司はフェンスを乗り越えると学校の敷地を越えて外の世界に。

 

 

「つ、司先輩?」

 

「仕方ないな」

 

 

一瞬皆を呼んでこようとも思ったが、気のせいや聞き間違い、もしくは誰かのおふざけである可能性も否定できない。

それにもしも本当に助けを求めているならば早急に向かったほうがいい、その結果双護と我夢も司を追いかける為にフェンスを乗り越えて学校を出る。

 

 

「待ってください司先輩、どうしたんですか?」

 

「あ、ああ悪い。何か助けてって聞こえたんだ」

 

「……人影は無いが?」

 

 

双護も我夢も周りを見渡すが路地裏と言う事もあって人の気配は無い。

それに突き当たりは行き止まりだ。隣接する建物の中からと言う可能性もあったが、どちらも店であるために複数の人間が出入りしている空間だ。

そんな状況で一人の声がピンポイントに聞こえるとは思えない。

 

 

「おかしいな、確かに聞こえたんだけ――」

 

 

頭をかく司。

すると――

 

 

『――て』

 

「「「!」」」

 

『――すけて』

 

 

三人の表情が変わる。

沈黙して耳を済ませる司たち、すると声は鮮明に耳を貫いた。

 

 

『助けて』

 

「「「!!」」」

 

 

間違いない、聞こえた! 三人は顔を見合わせアイコンタクトで状況を把握する。

聞き間違いじゃない、だが周りを見ても人の気配は無い。どういう事だ? まさか幽霊? いやいやいくらなんでも――

そんな事を思いつつキョロキョロと視線を移動させる三人。するとどうだ、何か空間が震える様な感覚を覚える。

いやそんな感覚言葉じゃ説明できないが、とにかく景色が歪んで空気が震える様な感じたしたと言えばいいか。

ぐにゃりと平衡感覚や景色が歪んでいく。すると三人の耳にもう一度たすけてと声が響き、直後時空に亀裂が走る。

 

 

「なっ!」

 

 

景色が歪む。空気が振動する。次元が裂かれる。

司と我夢と双護、三角形に並んでいた彼等の丁度中心部にブラックホールの様な球体が現れたのはその時だった。

何だコレは!? 三人は突然現れた異変に混乱して、ただ見ているだけ。

そして一番最初に我に返ったのは双護、彼はすぐ二人に逃げろと叫ぶが、もう遅いようだ。

ブラックホールには文字通り吸い込まれる様な力があった。とてもじゃないが人間の力では抵抗できない。

強化されているとはいえ司たちも例外ではない。三人はすぐに変身しようと構えるが、もうその時には既に半身が吸い込まれている所だった。

そして何より抵抗する力を弱めたのは、その向こうから聞こえる――

 

 

『助けて――っ』

 

 

泣いている子供の声。

男の子だろうか? そして司には確かに聞こえたのだ。

 

 

『助けて、かめんらいだぁ……!』

 

「……っ」

 

 

もしかしたら変身は間に合ったのかもしれない。

しかし三人はブラックホールの中に吸い込まれていった。

では何故変身しなかったのか、それは助けを求める悲痛な声が原因であろう。

その時に抱えていた思いは三人とも同じだったのかもしれない。あっと言う間に三人の姿は消え、そして辺りは数秒前の事が嘘の様に静けさを取り戻していた。

 

 

「皆! お疲れさま……です?」

 

 

ひょこりと駐輪場に姿を見せたのは光夏美、司の従姉妹である。

戦いを終えた三人を出迎えるためにやって来たが、当然三人の姿はソコに無い。

 

 

「んもう、変な夢みたから聞いてもらおうと思ったのに」

 

 

三人が凶悪になっちゃう夢とかなんとか。

まあ仕方ないか。もうお昼を食べに行ったのだろうか?

彼女は特に気にする事無く、ほかのメンバーにも特に報告する事は無かった。

尤も、気づいた所で彼女にできる事など何も無いのだが。

 

 

 

 

一方で司達の様に整えられた環境で、かつ明確な目的の下に世界移動を行っている者が全てではないと付け加えておこう。

世界を移動できる力は神の力とも呼べる産物ではあるが、それが安売りされている状況になりつつあると言ってもいい。

それが問題となっているのだが、要するにココにいる一人の少年もまたそう言った者の一人なのである。

世界を移動する明確な目的が無く、けれどもその力と現実に魅了されている者。

 

 

「………」

 

 

カラスの鳴き声がしてその少年、八代(やしろ)秀善(ひでよし)は音の方へと身体を向けた。

アシンメトリーの前髪は右の方が長く、一つ結びにした髪が揺れる。糸目の彼は常に笑みを浮かべている様にも見え、カアカアと鳴き声をあげて夕日に重なっているカラスを暫く観察していた。

 

 

「いやあ、ほんま綺麗ですね」

 

『いや、ホンマやで。はっはっは!』

 

 

彼とは別の声が、秀善の腰辺りから聞こえて来る。

ちなみに秀善の周りには人はいない。では誰が声を出しているのだろうか?

そして秀善に驚く気配は無い、それはそうだ、これは彼のパートナーの声なのだから。

どうやら彼は秀善との生活で西の言葉が気に入ったようだ、たまに織り交ぜる辺りキャラ付けを意識していると言う事か。

まあ秀善としてもその方が面白くて退屈しないから良いのだが。

 

 

「世界移動はホンマ退屈しませんわ」

 

 

自分の世界と似たような景色でも感じる物は全く違うと彼は笑う。

要するに彼は世界移動をただ旅行代わりとしているだけ。司の様に大ショッカーと戦う者がいる中で、こうしてただ自分の趣味として世界を移動している者がいると言うのが何とも複雑な話ではないだろうか。

世界は広いと言う使い古された言葉を象徴する様な物だ。司達はおそらくその部分をよく理解してはいないのかもしれない。

たとえば彼等が命を賭けて戦っているヒロイックな展開の中、同じ様な条件がありながらもただ旅行と言う事で世界を移動している彼。

たとえば命を賭けて戦っている中で、全く違う状況の中で同じく世界の為に戦っている者がどれかけいるのだろうか?

いや、難しい話ではない。要するにこの状況下で少し見方や視線をズラせば一気に司達の存在は平坦な物になるのかもと言う事だ。

 

 

『ただ正直わしはそろそろ飽きてきたけど……』

 

「貴方は飽きっぽいんですよ。損なお人や」

 

 

少し京言葉を交えつつ秀善はパートナーの『豊臣秀吉』を諭した。

秀善と秀吉、まあ何ともややこしい話ではあるが彼らは現在パートナーとして互いを認識している。

とは言うものの落ち着いた雰囲気の秀善とは違い、豊臣様は随分と飽きっぽい――、と言うかせっかちな性格の様だ。

事あるごとに振り切るとか何とか、いつも持っている軍配には『わしに質問はアカン』等と書いていたり。

とにかく今回もまたそんな一面が出てしまったのだろう。まあ秀善が今いる場所は昭和チックな建物が目立つだけで秀善本人がいた世界とそう大差ない場所だ。

しかもそこでする事と言えばただ夕日を眺めるだけなのだから、つまらないと思うのは珍しい事ではないかもしれないが。

 

 

「しゃーないなぁ、ほんなら帰りますか」

 

 

そう言って踵を返した秀善。

しかし彼はそこで吊り上げていた唇を曲げ、息を詰まらせた。

そしてすぐに身を近くの電柱の影に移し、自分の存在を消してみせる。

 

 

『どないしたんや?』

 

「……静かに」

 

 

秀善は顎でその存在を指し示す。

そう、彼が踵を返した視線の先に黄金の大鷲を服に刻んだ老人が見えたのだ。

いやそれだけじゃない、老人の周りには明らかに普通の人間とは言いがたい者達が追従している。

 

 

『あぁ、アイツ等か』

 

「前にも二度程会ったかな? 覚えてますよ、僕」

 

 

秀善はまだ把握しきっていなかったが、そう、彼の前からやってきたのは大ショッカーが一派であった。

まあ一派とは言えどそれは小隊すら構成していない単独の怪人、それとその所属組織の戦闘員だけの構成ではあったが。

 

 

「なんや、前の全身タイツとは集団の格好が違ってますね」

 

 

以前見かけた戦闘員は黒いタイツみたいな格好でイーイーとうるさかったが、今回は白い仮面をつけて規則正しく老人の後ろを並列している。

息を殺す秀善、なんだかよく分からない組織ではあるが、面倒だと言うのは知っている。同じく世界移動を行い、少なくとも穏やかな集団ではない。

だったら関わりたくないと思うのが普通だろう? 彼は隠れ、大ショッカーが通り過ぎるのを待つ事に。

 

だがこう言う時に限って中々うまくはいかない物なのだ。

秀善はさっさと彼等が通り過ぎてくれると思ったのだが、彼等はなんと秀善が隠れた電柱のすぐ傍で足を止めた。

正直夕方と言う天候でなかったら即見つかってしまう程の距離である。

一応は電柱の裏に回って隠れている事、夕日が作る影がある事、秀善の服が地味な色をしていた事。

それらが重なった為に同化している様だが、少し注意すれば見つかってしまうと言えばそうだった。

やれやれ、秀善はそう思いながらも彼等の会話を聞く事に。

 

 

「ええい、ちっとも見つからん! 本当にこの辺りなのか?」

 

「?」

 

 

老人はイライラした様に言いながら辺りをキョロキョロと見渡してみる。

どうやら何かを探しているらしいが、それが一向に見つからないと言う事が会話や雰囲気から伝わった。

さらにその探し物がこの世界にあるかどうかも分からず、どうやら相当苛立っている様だ。

 

 

「全く、やっていられん!」

 

(あら)

 

 

老人はどこから取り出したか、バナナを一本手に持つとそれを剥き始め、そのまま口の中に。

そういえばお腹が空いていたと秀善、この緊張感のある状況でそんな事を考えられる余裕はある様だ。

そうこうしている内にバナナを平らげた老人、皮は適当に投げ捨てた。すると――

 

 

「あー、いけないんだポイ捨てしたらー」

 

「………」

 

 

子供と言うのは思ったことは何でも口にしてしまう物だ。

遊びの帰りだろうか、自転車に乗った3人程の子供達が老人を指差していた。

小学生低学年、いや下手をしたら幼稚園か? 幼い思考はルールを重んじ、そして同時に戦闘員チャップたちの姿に特に警戒心や恐怖を覚えない愚直な愚かさを疲労する物。

老人はそんな彼等の言葉を半ば無視する様に足を進めた。

 

 

「子供達、ここら辺におかしな格好をした者が住んでいると聞いたことは無いか?」

 

「知らなーい、知っててもポイ捨てする様な人には教えてあげないもーん」

 

 

やれやれと秀善はため息を一つ。子供は教えられた善のルールを絶対と信じて主張する物だ。

確かにそれを注意する勇気と強さ、正しさはプラスの事なのかもしれないが、賢く生きるためには時として空気を読む事も必要になってくるというのに。

まあそんな事を彼等が知る由もないのは当然なのだが。例えばそれは年齢の事であったり、例えばそれは黄金の大鷲の紋章の意味を知らない事であったり。

 

 

「ガキ共め……!」

 

 

普段ならば流していたかもしれない老人だが、今は相当気が立っている状態だ。

その状態で下等だと見下している人間に手を煩わされるのは何とも屈辱な事なのだろう。

結果、老人の怒りは爆発し、彼は異形の姿を晒す事に。

 

 

「う、うわぁああ!」

 

 

悲鳴を上げる子供達。

当然だろう、目の前にいる老人が突然人間とは思えない化け物に変わったのだから。

緑色の鬼、手には頭蓋骨がついた杖を持っている。彼の名は――

 

 

「ワシは偉大なるクライシス帝国最強の怪人、怪魔妖族ビャッ鬼!」

 

 

ビャッ鬼がマントを翻し一回転を行うと、いつの間にか手には三本のバナナが握られていた。

そして間髪いれずビャッ鬼はバナナを投擲、すると果物である筈のバナナが子供達の自転車に突き刺さり、容赦なく破壊する事に成功した。

それもその筈、実はビャッ鬼の能力によってバナナはマイナス250度にて凍らされており、ビャッ鬼自身の妖力にコーティングされている。

つまりバナナはそこらへんにあるコンクリートよりも硬くなっているのだ、自転車を破壊された子供達はへたり込み唇を振るわせるしかできない。

ビャッ鬼の不気味さと今起こった出来事に脳が追いついていたのだ。

 

 

「生意気なガキ共め、今からこのバナナを貴様らの心臓に打ち込んでやろう!」

 

 

痛みに喚き、無様に死ぬがいい!

彼は躊躇無く凍らせたバナナを子供達へ投擲する。

風を切って飛んでいくソレはもはや果実ではなく凶器、人間の皮膚など簡単に貫通してしまうだろうと。

だが、その時だ。

 

 

「「「!」」」

 

 

バナナとは別方向から何かが飛んで来たと思えば、それは三本のバナナを貫き捕らえ子供達から軌道を反らせた。

地面に落ちる三本のバナナ、そして一本めのバナナに刺さっているのは果物のイラストが書かれたトランプのカードだった。

何だ? ビャッ鬼はカードが飛んできた方向に視線を移す、するとそこにはヘラヘラと笑みを浮かべている糸目の少年が。

 

 

「なんだ貴様は!」

 

「あきまへん、子供達を苛めたらね」

 

 

いつの間にか電柱裏から移動していた秀善は逃げるのではなく子供達を守ると言う判断を取った。

 

 

「ホラ、今のうちや」

 

 

秀善が顎で合図を取る。

そうすると子供達も意味が分かったのか、お礼を言ってさっさと退散していった。

彼の行動にフムと唸る秀吉、始めは触れないでおこうと言うスタンスのはずだったが、流石に子供のピンチには反応したかと。

しかし秀善はいやいやと首を振ってトランプを回収した。彼は別に逃げても良かったのだ、わざわざ大ショッカーと戦う意味もメリットも無いから。

 

 

「僕ホラー映画とか嫌いやないんですわ」

 

 

だから別に子供達がバナナに貫かれて血反吐撒き散らしながら死ぬって光景もアリっちゃアリだと。

 

 

「でもまあ――」

 

 

そこで秀善は一つの事を思い出したと。

彼はそう言いながらベルトにつけていた相棒の秀吉を左手で掴みとる。

そう、バナナの錠前をだ。さらに彼は右手に出現させた戦極ドライバーを腰へと。

 

 

「ッ、貴様……!」

 

 

ビャッ鬼達も彼が普通の人間では無いと悟ったのだろう。

一気に戦闘態勢へ入った。そして彼はニヤリと笑ったまま錠前横にある解錠スイッチを押した。

すると錠前ツルが伸びて展開し、刻まれた果実の名を電子音が告げる。

 

 

「変身」『バナナ!』

 

 

秀善はツルの部分に指をかけてロックシードをクルクルと回転させる。

自分が子供達を助けた理由は単純な事。秀善はロックシードを戦極ドライバーへセットしながらそう言った。

 

 

『ロック・オン!』

 

「!?」

 

 

驚き後ろへ下がるビャッ鬼達。

たしかにその光景は驚くべき物、空間が裂けたと思えば秀善の真上に巨大なバナナが現われれたのだから。

辺りに鳴り響くのは西洋の行進曲を模した待機音。

子供を助けた理由は単純? 錠前(ヒデヨシ)が問うと秀善は相変わらず笑みを浮かべたままで頷いた。

 

 

「だって、今日の占いで人助けをしましょうって言われたんやもん」『カモン!』

 

 

秀善がドライバーにあるカッティングブレードを振り降ろすと錠前が展開、同時に上にあったバナナがズッポリと彼の頭に被さった。

瞬時に赤と銀のバトルスーツに変わる秀善の体、彼は頭にバナナを乗せたまま歩き出す。

 

 

『バナナアームズ!』

 

 

すぐにバナナの果実が展開し、アーマーとなり果汁を模したオーラエネルギーを放出する!

 

 

『ナイト・オブ・スピアー!』

 

 

現われたのは武神バロン。

彼の手にはいつの間にか皮を剥いたバナナが握られていた。いや、これは普通のバナナではない。

アームズウエポン・バナスピアー。バナナを模してはいるが立派な槍である。

 

 

「何者だ!」

 

「バナナですよ。ただの」

 

 

走り出すバロン、ビャッ鬼もまた反応を示し、チャップ達を彼に向かわせる。

自分を傷つけようと向かってくる戦闘員たちを見てもバロンは冷静だった。

むしろ仮面の中ではより深く笑っていたのだろう。

 

 

「よっ! ほっ!」

 

 

バロンは槍を一度ベルトに戻し同じくベルトに装備されていた無双セイバーを取り外す。

体を回転しながらチャップの群れに突っ込むバロン。多勢に無勢で不利かと思われたが、体を回転させた事でバナナの先端を模した肩アーマー、バーンスパルダがチャップの拳が己に届くのを防ぎ、かつ彼等の体を弾き怯ませる。

隙ができた彼等の胴をバロンは無双セイバーで切り抜いていく。こうして戦闘員達の群れを無傷で通り抜けたバロンは刀にある銃口を彼等に向けて引き金を引いた。

既にバレットスライドは引いてあったか、刀から光の弾丸が発射され四発分しっかりとチャップたちに命中していく。

 

 

「ヴォッ! ヴォヴォヴォ!!」

 

 

倒れるチャップ達、バロンは刀をベルトに戻すと槍、バナスピアーを手にする。

スイッチを入れるバロン、すると槍が伸長しリーチが変化。そして間髪いれず彼はカッティングブレードを一回振り下ろす。

 

 

『カモン!』『バナナスカッシュ!!』

 

 

ロックシードが光り、さらにバナスピアーにエネルギーが供給されていく。

黄色に光る槍を抱え、彼は倒れているチャップ達の元へと走った。

呆気に取られているビャッ鬼に背を向けながらも、倒れているチャップ一人ずつに槍を突き刺していく。

槍を引き抜くと、そこにはバナナのエフェクトエネルギーが。こうしてあっという間に全てのチャップの胴体からバナナが生えている奇妙な景色ができあがる。

 

 

「ハァアア!!」

 

 

振り返りながら槍を振るうバロン。

するとバナナのエネルギーが溢れ次々にチャップ達は爆発して消滅した。

肩を震わせ唸るビャッ鬼、まさかこの世界にこんな奴がいるとは思わなかったのだろう。そして使う武器がバナナ、よもや自分と同じとは。

 

 

「おのれぇえッッ!!」

 

 

巨大なバナナ型の棍棒を持って地面を蹴るビャッ鬼。

杖や姿を見るに特殊な力を使って戦う呪術師の様なスタイルかと思いきや、意外と力押しでくるらしい。

だがその方がコチラも対処がしやすいと言うもの、バロンは振り降ろされた棍棒を肩アーマーで受け止めると、体を旋回させ槍のグリップ部で彼を殴りつける。

ぶつけ、ぶつかり合うバナナとバナナ。

 

 

「グッ! クッ!!」

 

 

マントを翻し後ろへ下がるビャッ鬼。

いい判断だ、バロンは舌打ちを。殴った際にいい感じに距離が開いてくれた為、槍本来の機能を活かせる突きを繰り出そうと思ったのだが、ビャッ鬼はさらに後ろへ下がることでリーチの限界を超えていく。要するに突きの範囲から抜け出した訳だ、さらにバロンが追いかけるのを防ぐ為にカウンターとして凍らせたバナナを数本投擲してきた。バロンは何とか槍を引き戻す事でガードを行うが、投げられたバナナの数本は脚や胴体に命中してしまう。

 

 

「チッ! まあお堅いバナナですね!」

 

 

下ネタとちゃいますよ。

それに甘い、バロンはよろけながらもカッティングブレードに手をかけ、二回振り下ろした。

カッティングブレードは倒す回数によってロックシードに秘められている力の使い方が変わってくる。

一度目のスカッシュは武器を強化したり身体を強化したりと。そして二度目のオーレは、そのロックシードに秘められし力を解放する物。

 

 

「ひれ伏せや!」『カモン!』『バナナオーレ!!』

 

 

バロンの頭部に角として装備されている小さなバナナの一本が光ったかと思うと、後退していくビャッ鬼の後ろに現われる巨大なバナナの皮。

もちろんそれは本物ではなくバナナの皮を模したエネルギーオーラだ。スリップフィールドと呼ばれるソレは、文字通りの効果を持つバロンのトラップ。

バロンに注意していたビャッ鬼は突然後ろの、しかも地面に現われたバナナの皮に気づく事ができず、踏んでしまった。

 

 

「う、うわぁあ!!」

 

 

するとお約束と言うか何と言うか。

スリップフィールドの名の通りバナナの皮を踏んだビャッ鬼は強制的に転ばされる。

地面に倒れた彼に振り注ぐ無双セイバーの銃弾、バロンは弾を撃ちながらも前進、左に槍を右に刀を構えて倒れるビャッ鬼に突きを繰り出した。

 

 

「ホラホラ! 立ち上がらんと痛いですよ!!」

 

「人間めぇええ!!」

 

 

スカル魔!

ビャッ鬼がそう叫ぶと彼の体から黒い霧が溢れ、空中で二体の異形を作り上げる。

黒いローブに身を包み、顔は金色の角を生やした髑髏、そして手には大きな鎌。

クライシス帝国上級戦闘員スカル魔、彼等は空中から鎌を振り下ろしてビャッ鬼を守る様に攻撃を繰り出した。

 

 

「危な!」

 

 

なんとか後ろへ下がったバロン、顔のすれすれを鎌が通り抜ける。

その隙に立ち上がったビャッ鬼、彼はイライラした様に拳を握るが、ペースが向こうにあると悟ったか撤退を試みる。

 

 

「覚えておくぞバナナ男! この決着はいずれ――ッ!!」

 

 

ビャッ鬼の体をバナナの皮が包み、それが剥けた時にはもうその姿は消えていた。

やれやれとバロン、同じバナナ同士またどこかで出会いそうな物だと。

だが戦いは終わっていない、ビャッ鬼の残したスカル魔達は再びバロンを鎌で狙う!

 

 

「おっと!」

 

 

無双セイバーをベルトに戻し、バナスピアーを横に構える事で縦に振り下ろされた鎌を防ごうと試みたバロン。

しかし鎌の形状で持ち手の棒部分がガードされても、鎌の刃は自分の後ろに。そしてスカル魔が手を引くと、刃が背中を直撃した。

 

 

「ッ!」

 

 

苦痛の声を漏らすバロン。

なるほど、そこそこ強いのかもと彼は思う。

さらにもう一体の鎌がバロンの体を捉え、拘束状態に。

このまま刃を押し当てられ続けるのは避けたい、彼はため息混じりにカッティングブレードへと手を伸ばす。

 

 

『カモン!』『バナナオーレ!』

 

「「!」」

 

 

バロンを中心に広がるスリップフィールド。

バロンには影響は無いが、スカル魔達は当然その広がるエネルギーに触れてしまいスリップする事に。

これは一度使えば終わりと言う訳じゃない、先ほどは右の角が光っていたが、今度は左の角が光ってフィールドが形成された。

 

 

「いやぁ、助かりましたわ!」

 

 

スリップフィールドは二回使え、その後リロード時間が入る。

倒れるスカル魔と解放されるバロン。彼は再び無双セイバーを手に取り、バナスピアーの柄頭にセイバーの剣先を差し込んだ。

すると二つの武器が連結、無双セイバーの刃部分の殺傷能力が消え、完全な持ち手と変化。

さらにバナスピアーがさらに伸長、西洋のランスと言うイメージから、日本の長槍をイメージさせる物へと変わった。

これが矛モードと呼ばれる形態である。バロンは矛を振り回しながら倒れるスカル魔を攻撃していった。

リーチを活かして殴打、さらに槍部分での突き、スカル魔達も抵抗を示すがバロンの動きが先ほどとは違い、鎌の軌道を読んでいる様にしか思えなかった。

要するに見切ったといえばいいのか、スカル魔が繰り出す攻撃を的確に避け、受け流し、そして自らは矛で彼等を貫く!

 

 

「旅行の邪魔されて結構苛立っとたんですわぁぁ!」

 

 

スカル魔が振り降ろした鎌をバックステップでかわし、そして一気に前進して矛で鎌を押さえつける。

さらに前に出たバロンは鎌を抑えていた物を矛から足に変え、持ち上げた矛で自分に攻撃をしようとしていたもう一体のスカル魔に突きを繰り出した。

 

 

「―――」

 

 

スピアー部分がスカル魔の胴に突き刺さる感触を感じ、バロンは仮面の下で深い笑みを浮かべた。

 

 

「ほな、さいなら」『ロック・オフ』

 

 

バナナロックシードを取り外したバロンは素早く無双セイバーにロックシードを装填する。

流れる電子音、数字の単位が呼称されていき――

 

 

『バナナチャージ!!』

 

 

バロンが無双セイバーの引き金を引くと連結されていたバナスピアーが発射され、スカル魔を空中へと打ち上げて爆散させる。

バナスピアーも粉々になるが、光の粒子となって再びバロンのベルトに集り具現した。どうやら武器が無くなると言うことは無いようだ。

 

 

「……!」

 

 

仲間が爆散したことに衝撃を受けるもう一体。

彼は力を込めて鎌をバロンの足の下から引き抜こうとするが、バロンも力を込めている為それが叶わない。

仕方なく彼は鎌から手を離し、直接拳でバロンを倒そうと。

 

 

「無駄無駄、無理ですわ」

 

 

しかし武器の無い、しかも一体だけのスカル魔などバロンの敵ではなかった。

バナスピアーで切り裂かれ、怯んだ所を思い切り突かれる。

手足をバタつかせながら後方へ吹き飛んでいくスカル魔、バロンは武器を投げ捨てると仮面の奥で黒い笑みを。

 

 

「失せろや」『バナナスパーキング!』

 

 

カッティングブレードを三回倒せばロックシードの力を解放して必殺技を放つ事ができる。

地面を蹴るバロン、飛び蹴りの構えを取り、突き出した足には黄色い果汁状の光が纏わりついた。

 

 

「デイィィッッ!!」

 

「――――」

 

 

スカル魔が地面に倒れ立ち上がった時、最初に目に飛び込んできたのはバロンの足であった。

魂の力を解放して放たれる飛び蹴り、キャバリエンドが炸裂する。粉々になり爆散するスカル魔とゆっくりと立ち上がり変身を解除するバロン。

仮面が外れ秀善が晒される訳だが、彼はやはり笑みを浮かべていた。

 

 

『満足したか?』

 

「ええ、そりゃ」

 

 

スッキリとした表情の秀善、空を見ればまだ夕日は赤く燃えている。

なんとまあ美しい光景だろうか、しかしパートナーは退屈の様。秀善は仕方ないと帰る事に――

 

 

「『!』」

 

 

しかしその時だった。異質な雰囲気を感じたのは。

言葉ではうまく説明できないが、何かが呼んでいる気がすると。

それを感じたのは秀吉も同じだ、言うなれば脳に直接語りかけてくるような感覚。

ロックシードの彼でさえそれを感じる事はできた。脳に語りかけると言っても言葉ではない、体感的に呼ばれていると思える物だった。

もちろん気のせい、勘違い、もしくはトラップの類と言う可能性もある。しかし秀善はもう足を本能に任せて進めている所だった。

一応パートナーは彼の行動を注意するが、それでも明確に止めはしない。きっと彼もまた秀善同様に興味が湧いたのだろう。

秀善がそうやってやってきたのはいかにも昭和と言う感じのボロアパートだ。

 

カンカンカンと音を立てながら階段を上る彼、そして引き寄せられる様にしてなんて事は無い一室の前に立つ。

もちろん彼は直感と言うか、呼ばれている様な気がしているだけだ。このアパートに何があるのかは知らないし、誰が住んでいるのかもしれない。

けれども彼はドアノブに手をかける。鍵が掛かっているかもしれないが、秀善は開くと確信を持っていた。

 

 

「――ッ」

 

 

ドアノブを回した秀善はやはりと息を呑む。

鍵は掛かっていない、彼は緊張か恐怖かも分からぬ心臓の鼓動を感じながら部屋の中へと入った。

そしてずっと吊り上げていた唇を真っ直ぐに。

 

 

「ッ!?」

 

 

汗をたらす秀善。

若干の後悔と、大きすぎる期待が彼の身を駆ける。

何故ならばやはり彼の予想通りと言うべきか、そこにいたのは人では無かったからだ。

自分は彼に呼ばれてここにやって来た、その事実が確定された瞬間であったのだから。

 

 

「や」

 

 

ボロアパートの部屋はやはりボロいと言う印象だった。

しかし不思議と秀善の心を鷲掴みにする魅力がそこにはあったのかもしれない。

四畳半の畳の部屋に置かれたレトロなテレビや冷蔵庫。開いた窓からは心地のいい涼しげな風が吹き、それがカーテンを揺らし、奥にある夕焼けに照らされた街を映し出している。

電気はついていないが、赤く燃える日が部屋の中をオレンジ色へと染めていた。部屋の中心にはちゃぶ台がおいてあり、そしてその奥に、秀善をココへ招いた人物があぐらをかいて座っていた。

 

 

「……ッ」

 

 

喉を鳴らす秀善。

あぐらと言う人間じみた座り方ではあるが、その容姿は人間とはかけ離れている。

細長い上半身は顔からお腹までが赤く、青い下半身はどデカイ上半身に比べるとやや華奢の印象を受けた。

頭頂部から背中、両肩に黄色い縁があり。後にはタコやイカの吸盤の様な物が。

胸から腹に黄色い縁取りがあり、そこが順に発光している。手は白く、細長い筒の様な形状で、先端が花の様にギザギザと。

あれで物が持てるのだろうかと秀善は思ったり。イカ、さつま芋、柿の種、それが秀善が直感的に思った彼の印象である。

 

 

「よく来たね。まあ座んなさい」

 

「え? あ……」

 

 

彼は近くに立てかけていた座布団を一枚ちゃぶ台の向こうに投げる。

足元に来た座布団を見て秀善は靴を脱いで彼の向かいに座る事に。

 

 

「何か飲む?」

 

 

秀善の返答を聞かずして彼は冷蔵庫の中から一本の缶を取り出した。

なんだかよく分からない持ち方だが、あの手で持てるのか、などと秀善はポカンと一連の動きを見ていた。

そうしていると目の前にドンと置かれる缶、なんだ? 秀善がラベルを確認すると――

 

 

『眼兎龍茶』

 

「………」

 

「それ、メトロン茶って言うんだ。まあまあグッといってよグッと」

 

 

ジュコーっと音を立てて異形は変わった形状のストローで同じ物を飲んでいる所だった。

口どこやねん、秀善はその言葉をゴクリと飲み込んで缶を開けることに。

一瞬毒が入っているのではないかとも思ったが、まあ死んだ時は死んだ時だろうと思える奴だった。

 

 

「ああ、おいちい」

 

「………」

 

 

異形は無表情で見た目に似合わない様な事を言っていた。

ただまあ確かにうまい、秀善は一度缶から口を離すと第一声を。

 

 

「僕のこと、呼びました?」

 

「呼んだよ、だからキミはココにいるんじゃないか」

 

 

まあ、確かにそうか。秀善は再び缶を持ちお茶を口の中に含む。

 

 

「私はメトロン星人、キミには感謝しているんだ」

 

「……?」

 

「そう、だからお礼がしたくてね」

 

 

ココ最近騒がしいのが増えたと彼は告げる。

探しても無駄なのに向こうはそれを理解しない、できない。

かと言って自分が直接言う訳にもいかないし。無視すれば良いのだが、なにぶん鬱陶しさは感じてしまうもので。

 

 

「だからキミが彼等を追い払ってくれて本当に助かったよ。ハハハ!」

 

 

 

部屋に流れ始めるクラッシックの音色。

たしかフルートとピアノのための協奏曲だったか? と、ここで秀善はいやいやと首を振り意識を会話へ戻す。

 

 

「彼等って、あの大鷲の」

 

 

頷くメトロン星人。

どうやら先ほどのビャッ鬼はメトロン星人を探していた様だ。

尤も、メトロン星人はそれが迷惑の様だったが。

 

 

「これは感謝の気持ちだ、受け取ってくれ」

 

「え? ホンマですか? いやぁ、悪い……です…ね」

 

 

あっと言う間に秀善の右手にはお茶漬けの素、左手にはトイレのギュッポンが握られている。

 

 

「地球のお茶漬けは絶品でね。まあ正直私はお茶より出汁派なんだが、なかなかそれもイケるんだ」

 

「あ、そう……」

 

「後はトイレが詰まったら是非ソレを使ってくれ。おサルが作った物にしては宇宙文明を凌駕する一品だと私は思っている」

 

「………」

 

 

遠慮するなと笑うメトロン星人と、ビキビキと青筋を立てている秀善。

期待した自分が馬鹿だった、彼は感謝の気持ちを自分の横に放り投げるようにおくと再びお茶に手を伸ばす。

 

 

「にしても、何で追われてたんです?」

 

「追われてはいないさ、ただ彼等は私の力に興味があるのだろう」

 

「力?」

 

「過ぎた力さ。それに思ったよりも大したことは無い」

 

 

観測者と言う言葉をキミは知っているか?

メトロン星人の言葉に秀善は首を振った。ならば気にする事は無いとメトロン星人は笑う。

 

 

「いけないいけない、つい喋り過ぎてしまう。人と会話をするのが楽しくてね」

 

 

しばらくは人との関係を断っていた為だと彼は言うが、それは秀善の知る所ではない。

観測者と言う単語も少しは気になるが、本人が大した力ではないと言うのだからそれ以上の興味も湧かなかった。

 

 

「眼兎龍饅頭もあるけど食べる?」

 

「あ、頂きます。あとお茶もう一杯もろてもええですか?」

 

「ええで」

 

 

ボロいと思っていた四畳半の部屋も風情があっていい物だ。

秀善はカラフルな饅頭を齧りながらそう思う。

するとメトロン星人は再び口を開いた。やはり、と言うべきか? どうやら彼をココに呼んだのはお礼がしたいと言う理由だけではない様だ。

 

 

「ヒントをあげよう」

 

「ヒント?」

 

「いや、文字そのものは気にしないでくれ」

 

 

例えばソレは彼にとってのヒントになるのかもしれない。

たとえばそれは彼の知り合いにとってのヒントに。

あるいは、コレを見ているかもしれない神々にとってのヒントになるのかもと。

 

 

「真実とは何か分かるかね少年」

 

「随分と哲学的ですね」

 

 

メトロン星人は言う。例えばそれは目に映るリアルタイムの存在が構成する物か。

もしくはそれに至るまでに募らせてきた記憶が構成していくのか。いずれにせよ何を以ってして真実と言う物を証明するのかは案外と難しい物なのだ。

まあ同じ意味ではあるが、なんとなくニュアンスで結果や事実とは違うベクトルにある物だとは思わないだろうか?

 

 

「例えば殺人事件が報道されたとする」

 

 

多くの人間がそれを見れば加害者は酷い奴だと思い、被害者はかわいそうだと思うだろう。

目から入る情報は人の感情を最も左右する要因なのだから。けれどももし、その殺人の裏の動機を知れば少しは見方も変わって来るかもしれない。

たとえばそうだな、介護疲れで心中をしようとしていたが自分は死にきれなかっただとか、加害者がどうしようもないクズだったりとか、裏側にあるエピソードが人の印象をより操作していく。

 

 

「でも、いくら裏側があった所で加害者が被害者を殺した事は変わらんでしょ」

 

 

饅頭を口に放り投げ、お茶で流し込む秀善。

もちろん彼の言うとおりバックボーンや歴史、背景、ソレ等は大切な要因だろう。

だがやはり真実と言う点では根本部分に行き着くのではと。

 

 

「だが与える影響は大きく変わってくる」

 

「それはまあ……」

 

「何のための真実なのか、誰の為の真実なのか」

 

 

そして――

 

 

「本当に加害者は被害者を殺したのか」

 

「え?」

 

 

メトロン星人が言ったのは報道されていたと言う事。

それは限りなく真実に近いのだろうが、真実ではない。

どれだけの証拠があろうとも、どれだけ黒に近くても、どれだけ信頼できる情報源からのソレであろうとも。

全ては絶対とは言えない。それらが全てを教えてくれる訳ではない。

ましてや、それはこの他世界の可能性が入れば尚更だ。

 

 

「コレから先、目に映る物だけが真実ではなく――」

 

 

耳から聞こえる情報もまた疑う余地のある物になるだろう。

メトロン星人はそう秀善に告げた。世界を、真実を見極める目が無ければ待っているのは滅びの未来だけだ。

 

 

「世界を、人を構成するのは記憶か存在か」

 

 

過去が培ってきた記憶が真実を作るのか、それともそこにあるリアルと言う存在が真実を作るのか。

 

 

「難しい話や、とにかく何でも鵜呑みにせん方がええって事やろ?」

 

 

お茶を飲み干した秀善は立ち上がり伸びを行う。

お茶もお菓子もご馳走になった事だし、そろそろ帰ると。

すると待ったをかけるメトロン星人。慌ててはいけないと告げた。

 

 

「ん? まだお土産でもあるんかな?」

 

「そうか、だったら眼兎龍羊羹でも持って帰りなさい」

 

 

ゴソゴソと冷蔵庫を漁るメトロン星人。

まあ何ともシュールな光景である。

 

 

「つぶあん、こしあん、こしあん栗入りがあるけど、どうする?」

 

「えーっとじゃあ、栗入りもらえます?」

 

「おっけー、あとじゃあ袋も用意するから」

 

 

そう言った時、秀善はなにやら玄関の扉が振動しているのに気づいた。

いや、それだけでは無くなんだか外に黒い球体の様な物が見える気がする。

それにこの全身を包む嫌な感じは一体――?

 

 

「だから言ったじゃないの、今外に出たら駄目だって」

 

「ッ?」

 

 

時空の歪みに巻き込まれちゃうよ。

彼はそう言って羊羹を秀善にパスした。

時空の歪み? 秀善が問うと彼は簡単な説明を行う。

そして最後に――

 

 

「あ、羊羹は開けたら冷蔵庫に入れておいてよ」

 

「………」

 

 

緊張感の無い人や。あ、人じゃないか。秀善はため息を一つ。

メトロン星人の部屋は孤立した空間である為、ココから彼は自分の世界には帰れない。

かと言って扉を開ければ歪みが待っていると。

 

 

「まあまあ、歪みなんてすぐ消えるから待ってなさいよ」

 

「………」

 

 

その時、秀善の顔にいつもの様な笑みが。

 

 

「歪みの先には、何があるんです?」

 

「知りたい?」

 

「ええ」

 

 

そう、じゃあ教えてあげるとメトロン。

 

 

「多分だけど、凄く悲しい世界があるよ」

 

「……僕が巻き込まれたら、僕が悲しくなるんですかね?」

 

「さあ? キミの心が孤立してるなら大丈夫だとは思うけど」

 

 

簡単に言うなれば向こうにあるのは大きな悲劇。

自分に振りかかる事もあるやもしれぬが、ほぼ他人の悲劇だ。それを聞くと秀善はますます唇を吊り上げる。

仮に、もし仮に自分が歪みに巻き込まれれば元の世界に帰れる可能性はどれくらいあるのだろう?

 

 

「そりゃあ……限りなくゼロに近いんじゃない?」

 

「でも、ゼロじゃない」

 

「それはもちろんだとも」

 

「だったら、面白そうや」

 

 

あんまりおススメしないなー、メトロン星人はそう言いながら手をプラプラと動かしていた。

もちろん秀善も危ない橋は渡りたくないと常日頃から思っている。

しかしそれを勝るのが好奇心、興味をくすぐられてしまう物。

ましてやこの時空の歪みに、どこか知っている気配を感じるのは偶然では無いはず。

それになんだ、他人の不幸? ああ随分と可哀相な話ではあるが――

 

 

(蜜の味とも言うし……ね)

 

 

一応パートナーにも確認してみるが、どうやら彼もまた向こうの世界に興味がある様だ。

ならば躊躇する必要も無い、彼はメトロン星人から受け取ったお土産を手にし、迷わずドアノブを開いて外へと足を踏み出していった。

 

 

「いやー、やっぱり人間ってのは良く分からない事をするね」

 

 

まあでも、そこが面白いから今まで生きながらえてきたのかもとは思うが。

とは言え、常に破滅の未来と背中合わせなのは変わらずか。

大変だね、魔女さんも。メトロン星人はそんな事を思いながらストローを咥えてお茶を吸い込んだ。

ジュコーっと言う音と、クラシックの綺麗な音色が美しい夕日にこだましていた気がする。

 

 

 




☆エピナビ☆


・仮面ライダーディケイド

2009年1月25日から同年8月30日に放送された、全31話平成仮面ライダー10作目だ!
記憶をなくした青年、門矢士が様々な世界を巡り、多くの仮面ライダーと時に戦い、時に助け合う物語になっているぞ。
ディケイド最大の特徴はカメンライド。他の仮面ライダーに変身でき、ファイナルフォームライドを使えば変形もさせる事ができるんだ。

今作ではディケイドに変身するのは門矢士ではなく、オリジナルキャラクター聖司だ。
司はヒーローが好きで、一度大ショッカーに心を折られたが、自分の信じるヒーローの姿を思い出し、再び戦う決意を固めたぞ!


………


はい、まあ上のはメビナビのオマージュなんですけど正直あんま口調覚えてないんで、そこはごめんなさい。
でまあこの作品、鎧武ライダーが結構原作と違ってます。
簡単に説明すると――

・戦極ドライバー使用者には全てに共通して無双セイバーが存在する。
・カッティングブレードは、一回切って強化技、二回で固有能力、三回で必殺技になる。
・無双セイバーは全ての武器が連結できる。

って感じです。
固有能力は各アームズ全てに存在しており、ほぼオリジナルです。
バナナアームズの場合は、相手をスリップさせるバナナをしかける事ができる。
と、言う感じですかね。

まあまあ、自分で言うのもなんですが結構構成ガバガバって言うか、話進むのおっそいかも。
ボカロのキャラですらまだまだ出てこないかもしれませんが、どうかご了承ください。
気長に楽しんでもらえれば幸いでございます。キャラ紹介とかももうすぐ更新予定です。


ではでは
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