Episode FULL・BLAST 久遠の歌姫 作:ホシボシ
所変わって司達特別クラスがいる世界。
今回の大ショッカーとの陣取りゲームは司達の活躍により見事ライダー側の勝利で終らせる事ができた。
役目を終えた彼等には少しの間とはいえ休暇が与えられる。他の世界を旅できるのは彼等の特権の様なものだろう。
そして今回の世界は司達が住んでいる世界とよく似ている。場所は秋葉原、司達の世界にも同名の地名は存在しているし、どうやら場所や雰囲気も同じ様な物だった。
世界によっては北海道が灼熱の国だったりと混乱する事も多いが、今回は限りなく同質の世界とゼノン達から前もって教えられている。
さて、そんなアキバをニヤつきながら歩いているメガネの男が一人。
「デュフフ、コポォ!!」
ん? 笑い方が汚い?
馬鹿野郎かお前は! この聖地秋葉原において今の笑い方が礼儀だと何故誰もが理解しないのか。
それだけ彼は本気なのだ、人間は誰しもが身の丈にあった行動を取るように心掛けなければならない。
チェックのシャツをインしてヒエピタをおでこに貼っても悔いは無い。要はこのアキバと言う地において自分は、キモオタに染まりきる事こそが――
(い、いかん。つい意味不明な論理を)
それだけテンションが上がっていると言う事だ。
守輪椿は目を輝かせながら周りの景色を堪能している。
アキバなんてそうそう行ける場所でもない、そう言った文化が好きな彼にとってはココは天国だろう。
しかもアキバはアキバでも少し前の、と言うべきか。コテコテのオタク文化が栄えている時期の景色だ。
たとえば街中で石を投げればコスプレをしている者に当たりそうだとか、たとえば猫耳メイドさんが頻繁にティッシュやフリーペーパーを配っていたりとか。たとえば街中でストリートダンスならぬストリートオタ芸に熱を出している者とか。
とにかくそういう些細な事? が全て彼にとっては刺激的な物に見えてしまう訳なのである。
「さてと……」
せっかく来たのだ、何も買わずに終るというのも寂しい。
まあ意外とこういう場所に来たら来たで何を買うべきなのか迷うのが皮肉なモンである。
せっかくなんだからこの世界にしか無いアニメ、ゲーム、同人誌、パソコンの機器なんかもいいか。
「………」
ただいまひとつ乗り気になれない。理由は分かっている、自分が一番。
と言うのもこの世界に来る前に与えられた休暇の世界にて椿は一つのアニメに大きく心を奪われた。
それがまだ抜け切れていないのだろう、もう何度となく嫁を量産させてきた彼ではあるが、アレは久しぶりにドカンと来た物だ。
もう、すぐ抱き枕とか買っちゃったもん! ってな事でもう金が無いと言うのも現状。
ポカンと胸に空いた喪失感、そして金欠と言う事もあってか、感動すれど何かアクションを起こそうとは思えな――
『私の銃弾は、何を貫けばいいの?』
「……あ?」
そこでピタリと動きを止める椿。
見ればショーウインドの中にあるテレビに見覚えのあるアニメーションが。
は? え? あれ? 椿は汗を浮かべながら体を震わせてその一点を凝視する。見間違えか? 幻覚か?
あまりの名残惜しさに幻を見ているのか? 椿は己の視界を、己の目を、己が立っている世界を疑った。
だが待て、こう言うケースは珍しい話と括れはしない。要するに他世界で見たアニメが、別の世界でも同じ様に放送されていると言うケース。
もうお分かりだろうが、椿の目には彼が以前に訪れた世界で大きく心を奪われた――つまりドハマリしたアニメの映像が流れていたのである。
『ただれた悪意? 醜い終末!?』
「――!」
ポタリと椿の目から涙がこぼれる。
周りから見れば完全に通報物ではあるが、彼にとってみれば生き別れた恋人との再会と言っていい状況に出くわしたのだから。
ま、間違いない! 彼はすぐに飛び掛る様にショーウインドへと!!
どう見てもヤバイ奴、完全に変態である。
「会いたかったよぉぉぉ葵たぁああああああああああああああん!!」
『にじよめ学園ズキューーン葵!』
転がる様にショーウインドの中にあるテレビの前に転がっていく椿。
テレビの中には彼が現在絶賛魂注ぎ中の神アニメ(椿談)である、にじよめ学園ズキューーン葵の宣伝映像が流れていた。
裏の顔がアニメ評論家二段(自称)の椿氏によれば、にじよめ学園(ry は、ここ数年で最高の出来のアニメらしく、今後この様な文化遺産が出てくる事は疑問視されるレベルの秀逸な一品らしい。
ストーリーとしては主人公の市川葵が、宇宙から飛来したシードと呼ばれる物を体に宿し、銃や刃などの装甲を纏った形態に変身。
そしてシードモンスターたちと戦いを繰り広げるバトル百合百合メカっ娘萌えと様々なジャンルをブチ込んで網羅している作品なのだ。
「くぁぁー、葵たん超かわええ! 葵さんと被ってるけど超かわええ!」
性格は一見クール、だが親しい友人たちへの想いは本物でツンデレな面がある。
それが椿のアンテナに引っかかったか、彼はとにかく葵たんグッズを集めていたのだ。
同名の知り合いと暮らしているため、さすがに学校じゃ葵たん萌えを全開にできない事もあり、それが余計に想いを溜めると言うかなんと言うか。まあとにかく夢中と言う訳だ。
「うおぉっぉおおほぉぉぉお!? なんだこりゃぁぁ!?」
今回は自分でも汚い声が漏れたとは思うが、とにかく叫ばずにはいられない。
ガラスケースの中には葵たんの水着限定フィギュアが置いてあったのだ。
隣のプレートに説明が書かれていたが、葵たんの誕生日記念イベントで位置だけ配られたものらしく、とにかく数が少ないときた!
しかもアキバ限定品らしく、どうりで前回の世界では見かけなかった筈だ。決めた、これ買う! 椿は嬉々とした表情で値段を見――
「二十万んんんんんんんん!?」
馬鹿な! 馬鹿か!? フィギュアの値段じゃねーだろ!!
いや待て、命よりは安い。と言う事で安い! 椿は財布を見ながら噛み千切らんとの勢いで爪を噛む。
前回の世界で葵たんの円盤や抱き枕を買ったんだ、もう金なんて残ってる訳が無い。
クソッ! どうする椿? ここにきて諦めるのか? お前の葵たんの愛はそんなものだったのか!?
いや確かに自分はにわかかもしれない、でも今まで世界を移動してきた中で大切な物が何かってのは分かった筈だ。それは絆、つまり葵たんだ!
俺が今日ココにきたのは俺自身の試練、葵たんをこのガラスケースの中から救い出す事こそがぁぁぁあ!!
「しかたねぇ! こういう時こそ仲間だ!!」
画面をスライドして電話帳を開く椿。
今まで死地を潜り抜けてきたソウルメイトならばきっと助けになってくれる筈だ。
そうさ、アイツ等は友が困っていたら必ず救いの手を差し伸べてくれるんだから!
『もしもし? どうした椿』
「ユウスケ、実はな――!」
『分かった、じゃあな!』プツッ!
「あああああああああああああああああ!!」
まだ何も言ってじゃねーか! 何で取ったんだよ!?
今の一言で何を理解できたんだよ、何が分かったってんだよぉおお!
言いようも無い理不尽さを感じ、椿は震えながら崩れ落ちていく。いやまあ何となく断られるお膳立てをしてた気もするが、とにかくこの調子で行くと他の誰にでも断られるフラグだ。
だが諦めきれない! ここはやはり一人一人仲間に催促するしかないだろう。
そして彼が決心を固めた丁度その時、先ほどの椿同じく叫び声をあげて近づいてくる男が一人。
「あああああああああ! 葵たん限ッ定フィギュアがこんな所にぃいい!!」
「ッ!」
誰だ!?
椿は嫌な予感を胸に覚え、走ってきた男を睨みつけた。
「あああああああああ! 葵たん限ッ定フィギュアがこんな所にぃいい!!」
「ッ!」
その男は椿よりも身を乗り出し、椿よりも熱い視線を葵たんに送り、それはもう一目で椿は男の実力を把握した。
男は顔をガラスに押し付けており、もうベッタリと周りの目を気にする事なく少しでもフィギュアに近づこうと必死だった。
左分けのツンツンとした髪、緑のシャツの上に赤ジャケット、首には白マフラー。
手にはフィンガーレスの黒グローブと固めた男はこれまた椿同様にフィギュアの値段に驚いた素振りを見せたが、彼もまた独自の理論を構築して一つの答えを出した。
フィギュアの保存方法、限定と言う価値、水着と言う男の性を刺激する要素、そして何よりも葵たんへの愛。それらを考慮して――
「安い、高いが安い!」
男は意を決して財布を手に店へと――
「待ちな」
「!」
男は椿の言葉に反応して視線を移動させる。
ぶつかり合うお互いの目、その瞬間に二人は言葉無くとも理解した。
いやむしろ言葉など不要、無駄な物でしかない。今目の前にいる男は、少年は、自分が手にしようとした愛の障害。
「アンタ……見たところ俺の市川葵たんに随分お熱の様じゃねーか」
「お前のじゃない。しかし、となると君も葵たんのファンか」
「ああ。だからこそ……分かるよな?」
二人はにらみ合ったまま距離を一定に保ちグルグルと回ってみせる。
周りから見れば完全に変質者の乱舞であろうが、ここは魔都秋葉原、多少の戯れは町の雰囲気に飲み込まれると言うものだ。
「失礼だが、君からはにわかの香りがほのかにするな。葵たん歴は短いと見た」
「グッ! よく見破った。確かに俺は周りの奴らからしてみれば薄い男だろよ」
アニメはリアルタイムじゃなく全て円盤での一気見。
だがそれがどうした? たとえ知り合ってからの期間は短くとも、俺の葵たんに対する愛は本物だぜと椿は語る。
そう、愛は時間じゃ語れない、そこにある純粋な想いの大きさではないか。
「それは俺の台詞だ。俺はリアルタイムで葵たんを見続けてきた。育んできた愛の差が違う」
「クッ! 戯言をぉぉお!!」
ピリピリと張り詰めた空気が二人の間に流れる。
コレは牽制、どちらが先に仕掛けるか、相手を完膚なきまでに叩きのめし自らの愛を証明する。
それこそが自分達に許されたせめてもの情けではないか。
「一つ教えてやるよ。俺はにじよめ学園ズキューーン葵のブルーレイディスクを全巻揃えている。アンタどうせニコニコチューブかなんかで見た派だろ? あっせーんだよな、そういうの!」
「フッ、何かを勘違いしてないか?」
「何っ?」
「俺は葵たんのブルーレイを全巻5枚ずつ買ってある」
「なっ! なんだとッッ!?」
「しかも新品」
「ッッ!?」
ガクリと椿は膝の力が抜けるのを感じた。
そんな馬鹿な! よく観賞用、保存用、予備用とは分かれているのは知っているものの――。
だったらあと二枚は何に使うんだ? それに新品って事は当然それだけ金額だって膨れ上がる。
なのにヤツは――ッ! 椿はそんな理不尽な現実を突きつけられている気がして、思わず叫ばずにはいられなかった。
汗が酷い、心臓の鼓動が嫌なリズムを刻む。なんだ? なんだと言うんだ、俺は焦っているのか? 椿は震える声で言葉を放つ。
「お、教えろ! 残りの二枚は何なんだ!!」
「笑みが消えたぜ。いいだろう、教えてやる」
一つは観賞用、一つは保存用、一つは予備、そしてもう一つは予備その2だと説いた。
納得だ、悔しいが納得せざるを得ない。この世の中には何があるか分からない。
予備がなんらかの原因で使い物にならなくなる可能性だって大いにあるのだ。では最後の一つは?
「それは、棺に入れてもらう様だ」
「ッッ!!」
椿の体に電流が走る!
馬鹿な、この男は死してなお葵たんと共に天へと昇るつもりだったのか。それは愛、紛れも無い純粋な愛ではないか!
い、いかん! 認めてはいかん! 自分だって葵たんの事は愛している。いくら彼が実力者だろうが、この戦い、そう簡単に負ける訳にはいかんのだ!!
「た、確かに……物的な事で言えばアンタはすげぇ。だが所詮それは金に物を言わせただけだ」
愛は金じゃ買えない。
昔は鼻で笑っていた言葉だが、今だけは信じさせてくれと椿は思う。
「なるほど、確かに正論だ。俺としてもこの程度で葵たんの愛が証明できたとは思えないな」
言ったな? 今言ったな?
椿は目を鷹の様に鋭く光らせて笑みを一つ。愚かな男だ、その言葉さえ言わなければ有利を保てたと言うのに。
椿は水を得た魚の様に元気になって飛び上がると、勝利を勝ち取る言葉を言い放った。
「だったら教えてやるよ。俺はな、12巻までの葵たんの台詞を……完ッ全ッッコピィイイしてんだよ!!」
「!」
男の表情が一瞬険しい物に変わった。
どうだ? これが愛だ、ただテレビの前でアホ面晒してブヒブヒ鳴いてた訳じゃねぇ。
俺は豚じゃない、知能ある人間だ。葵たんの台詞を受け取り、それを記憶する事で彼女の想いを汲み取る。
言葉は後世に残す事もできる。いつか俺が語る葵たんの言葉が、世界の人たちにも伝わっていくのだろう。
養豚場の豚共とは訳が違う。コレが一つ上のランクに立つ者のアニメの嗜み方、そして示される愛だと言う訳だ。
「100の理論や正論を振りかざした演説より、一つ愛を語った不恰好な言葉が世界を変えるぜ」
「ほう」
「そう言う信念が俺にはある。アンタはどうだ?」
「……やるじゃないか、先ほどのにわか発言は謝ろう」
だが、と男は口を開く。
「俺はそうだな――」
男は一度椿から視線を外し、ニヤリと笑った後に再び椿を睨む。
「俺は12巻までの、葵たん、サトミ、シードジェンヌの台詞を完コピしている」
「―――」
なん……だと!? 椿は目の前が真っ白になるのを感じた。
サトミ~とは要するにそのアニメのメインキャラである。
要するに葵たんだけではなく周りの主要キャラクターの台詞まで完全にコピーしている?
そんな事が可能なのか、いや――ッ! できる! 奴らならば可能だ。ヤツの目は葵たんに対する愛で満ち満ちているじゃないか!
葵たんの親友であるサトミの言葉を覚える事は、即ち葵たんへの愛に繋がる。道理だ、納得できてしまう。
ウソ偽りはない、ヤツは……本物だ。
「み、認めるか! じゃあ3話、葵たんが『星は光り輝いているわ』の後にサトミはなんつった?」
「貴女の瞳もお星様みたい」
「――ッ!」
「フッ」
即答だと!? しかも合っている!
「くそっ! だったら8話! 葵たんが『み――」
「プリンよりパンツね」
「―――」
早すぎだろ! ってかどういう台詞だよ!
合ってんのか? やべッ! 覚えてねぇわ。覚えてねぇ問題出しちゃったわ!
ジャッジし辛いわコレ! どうしよう、わかんないって言おっかな……。
いかん! そんな事をしては自ら負けを認めるも同じではないか! だが分からん! 正解してるかどうかが――ッ!
くおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「……負けた!」
椿は崩れ落ちる様に両手を地面についてうな垂れた。
勝てない、この男は本物だ――ッッ!
オタクだとかマニアだとかちゃちな言葉じゃ彼を言い表す事はできない。
生きている。コイツ、二次元の世界に生きてやがる!
「認めるよ、俺の負けだ……!」
「いや、君も強敵だったよ。俺の方が少しだけ葵たんと通じていただけさ」
別に詳しいから偉いと言う訳でもない。
むしろファンの中ににわかと通を隔てる事自体が間違っているのだから。
大切なのは、愛、葵たんが好きと言う純粋な気持ちだけだ。同じ志を持っている筈のファン同士が争う事ほど醜い物は無いのだから。
男はそう言うと清清しい笑みを浮かべて椿に手を差し出した。椿も少し沈黙したが、フッと安心した様に笑みを漏らすとその手を握り締めて立ち上がる。
分かっていたんだ、自分達は戦う事でしか分かり合えない不器用で愚かな生き物だと。そして今の戦いを経て、きっと分かり合う事ができたのだろう。
自分は葵たんへの愛で負けてしまった、しかし心の中に悔しさは無い。むしろココまで彼女を愛している漢に出会え、ある意味安心した。
「アンタになら、葵たんを任せる事ができる。俺は守輪椿」
「
椿は目を閉じて再び賞賛の笑みを彼に向ける。
29にもなって萌えアニメか、多くの人は彼を痛いと言うだろうが、椿には彼が本物の漢に見えてならなかった。
勝てねぇなコリャ、二人は固い握手を交わすと戦友を称え合う事に。
「ところで椿、ちょっと聞きたいんだが」
「どうした信夫氏、俺にできる事があるんなら言ってくれ」
「ああいや、葵たんは関係ないんだが――」
信夫は椿にある人を見なかったかと問いかける。
どうやら彼は知り合いを捜している途中で葵たんの映像を見かけ飛んできた、と言う訳だ。
話を聞くと猫耳を付けてるコスプレイヤーだとか、ショートカットの気の強そうな高校生だとか、ロングヘアーの地下アイドルだとか。
信夫の説明は細かく、レイヤーと地下アイドルはメディアに露出している為にネットに画像もあった。
しかしなにぶん椿は他世界から来た人間だ、それにまだアキバに来て間もない。当然画像の二人や、ショートカットの少女も分からなかった。
「すまねぇ信夫氏……」
「いや、良いんだ。気にしないでくれ」
急ぎの用事がある訳でも無いしな、彼はそう言って笑う。
まあとにかく今は葵たんのフィギュアを買うのが先だ、彼はさっそくガラスケースを中に視線を――
「……って、あれ?」
「ん?」
無い。葵たんがいない。
あれ? なんで? だってさっきまでココに――
「ど、泥棒だぁぁあああ!!」
「「!?」」
店主と思わしき男が店から飛び出して叫んでいる。
泥棒!? 椿と信夫は店主が指を刺している方向を見る。
するとそこには葵たんのフィギュアをぞんざいに鷲掴みしている男が。
シアンのシャツに茶色いジャケット、そして髪は左右に跳ねている。
男は何と街灯の真上に立っており、ガラスケースの中から奪った葵たんのフィギュアを訝しげな目でジロジロと。
「ふぅん、ディディールは細かいね。ま、もらっておこうかな」
「か、海東!?」
味方をしてくれる時はあるが仲間と言う訳ではなく、だいたい訪れた世界でやっている事と言えば今の様な泥棒である。
本人曰くトレジャーハンターらしいが……。
「お、おい貴様ァ! それは俺が買おうと思ってたんだぞ! 返せッッ!!」
「ん? なんだい君は」
「俺か? 俺はSPD! スペシャルポ――」
「チッ、面倒そうな奴だ」
見れば分かるだろ、もうコレは僕の手にある。
つまりそれは僕の物と言う事なのさ。海東はよく分からない自論を展開し、街灯を蹴って隣の街灯まで一気に跳躍してみせる。
おいおい、椿は汗を浮かべて彼を見ていた。思いっきり人ごみの中で人間離れした動きをして、本当に自由なヤツだな!
一瞬考える椿、仮にもあのフィギュアが信夫が正式に買おうとしたもの、それを堂々と盗むのはやはり穏やかじゃねーな。
と言う訳でブレイバックルを構える椿、とりあえず人のいない所に海東を誘ってフィギュアを奪い返すしか無い様だ。
「あの動き……!」
「ああ、まあ……あのアレは――ッ」
「『ステマ乙!』 いや、『バロスw』か!」
「え? いや、まあバロスはともかくステマは別に違うんじゃ……」
いきなりのネットスラングだが椿も知識は豊富だ。
ステマとはステルスマーケティングの略であり、ごく簡単に言うなればやらせやサクラと言うべきか。
こっそりとバレない様に、かつ巧妙な手段で宣伝だの持ち上げをやる事と思ってもらえればいい。
あとバロスだが、ワロスと馬鹿、ワロスと爆笑、正直椿も本当の意味はよく分かっていないが、とにかくそう言う意味合いを含んだ言葉である。
「ってこんな事説明してる場合じゃねー! 海東……ってあれ?」
少し怯んだ隙に海東は逃げ、信夫は彼を追いかけに走っていた。
まずいな、海東は殺しこそせずとも一般人にも平気で銃を向けるタイプの人間だ、このままでは信夫が痛い目を見る可能性も。
だいたい盗みなど小悪党じみた……、本当に仕方ない奴だと椿は歯軋りを一つ。
「くそ!」
彼はため息をついて二人を追いかけようと――
「ッ」
鳴り響く携帯、椿は画面を確認して相手がシャルルだと知ると立ち止まる。
「もしもし? 今少し取り込んでるんだ、手短に頼む」
『至急学校に戻ってくれませんか?』
「っ? 悪いけど今――」
『緊急事態です』
「……ッ、まじでか」
少し迷った様に信夫の背中を見る椿。
しかしゼノンやフルーラならともかく彼が緊急事態と言うのだ、それは本当に緊急なのだろう。
椿は心の中で信夫にすまねぇと謝罪すると、そのまま踵を返して学校の方へと走るのだった。
「良太郎とハナちゃんは?」
「うん、何かEpisode DECADE使って別世界に行ったよ。友達……っていうか少し特殊な関係の知り合いに会うって」
「ふぅん、イマジンなのか?」
「うん、何タロスだったっけな……? モモタロスみたいに大きな角があるんだって」
学校では同じくシャルルから連絡を受けて多くの生徒達が学校に戻ってきていた。
そんな中で同じく連絡を受けて戻ってきた椿、どうやら彼が散っていた生徒の中では最後の様だ。
と言うのも良太郎とハナは別世界、司と我夢と双護は何故か連絡がつかないと来た。
「バイクもいつの間にか消えてるし、歩いてどっかに行ってるとは思えない」
「でも、事件に巻き込まれたら巻き込まれたであの三人なら何とかなるだろ」
それに連絡だってする筈。ケータッチに圏外なんて無いし、それこそ世界を移動しなければ。
まして双護は自分達の中でもトップクラスに強い、彼がいればなんとかなるだろうと誰もが思っていた。
そして皆が食堂に集った頃と同じくして、一同の前にシャルルが。
「シャルル、緊急事態って何なんだ?」
「ええ、それは――」
シャルルは帽子を上げて一同を確認する。
司、双護、我夢、良太郎、ハナがいない事を皆に問うシャルル。
しかし夏美達も連絡しているのだが繋がらないと言う。良太郎に関しては其方の世界に移動しなければならない問題点も。
「仕方ない。司様達には後で私が連絡を入れます」
彼は一度咳払いをすると一同の注目を集める。
簡単に言うならばイレギュラーの事態が起こったと。そして少し淡々と状況の説明を行っていった。
まず初めに起きた問題、それは世界間を移動する際に感じた違和感だ。
観測者たる彼等でなければ分からなかった事であろうが、時空の波が異常なブレを示していると。
「異常なブレ?」
「はい。椿様、ゲームでインターネットを介したランクマッチを行った事はありますか?」
「お、おう。あるけど……」
インターネットを通して世界の人間と腕前を競う、それがランクマッチだ。
対人のゲームならば割りと搭載しているそのモードには、ある特徴が備わっている。
設定等で変えられるかもしれないが、多くの場合、ランクマッチは自分と似た実力の相手を自動でコンピューターが見つけてくる。
「世界移動も似た様な事をしていました」
司達が巻き込まれたのは仮面ライダーが関係していた事だ。
だからこそ仮面ライダーに多少なりとも関係のある要素が存在する世界をピックアップしてきた。
それが彼等の成長に繋がるとナルタキが判断し、世界が混ざり合う中でも違和感をできるだけ消す事ができたからだ。
「しかし今回は、そのコンピューターが壊れていると考えてください」
「じゃ、じゃあランクマッチでいうなら1レベルの初心者と100レベルの名人様が出会うって感じか?」
「そんなところです。全く異なる種類の物が出会うと」
簡単に言うなれば、Aのゲームでランクマッチを行っていた初心者の椿が、Bのゲームの玄人様とマッチする意味不明な状況。
もちろん世界移動はゲームではないし、戦いあうために引き寄せあう訳ではない。
今起きているのは仮面ライダーとは何の関係もない、もしくは微弱な繋がりしかない世界同士が暴れまわっているのだ。
要は色々な色のボールを箱の中に入れて振り回している様な物。世界同士がぶつかり合い、壁は壊れ、歪んだ侵食と融合が続く。
「響鬼の試練時にも似た様な事が起きました。しかし今回はその時よりもさらにブレが激しい」
世界同士が引き寄せ合っている感覚。
これは非常に厄介な事になるとシャルルは言った。
いや既に兆候は出ていたのか? 分からないが、とにかく危険だとシャルルは何度も呟いた。
「具体的には何が起こる?」
「色々あります、が。簡単に言えば一番は大ショッカーがより力を付けると言う事でしょうか」
もしくは異質なる敵との会合と言うべき。
要するに仮面ライダーとは違うベクトルの何かに出会う事になるかもしれないのだから。
先ほどシャルルは色々な色のボールがぶつかり合うと言った。それを分かり易くするために彼はグラスを三つ用意する。
グラスの中には赤いビー玉と青いビー玉、黄色のビー玉を各々のグラスに入れていく。
それぞれの色のビー玉が入ったグラスは隣接しているが玉が混じる事は無いだろう。
「赤いビー玉が仮面ライダーと深い繋がりがある世界だとしましょう」
今までの試練はそのビー玉を移動してきたと。
「ですが今この時空の歪みによって全てのビー玉が交わり――」
全てのビー玉をテーブルの上に放っていくシャルル。
乱れた世界は繋がりの無い世界をも巻き込んでより深く歪な物を形成していく。
「大ショッカーが歪を早くに発見し、既に『何か』とコンタクトを取っていたならば――」
もしくは何らかの技術を既に取り込んでいたのなら、それは神なる世界への到達に大きく近づく事にもなる。
なんとしても阻止しなければならない所だ。さらにその時空間のブレが原因しているのか、もう一つ問題が起こる。
「次に向かう世界の下見に行っていたゼノンとフルーラが消息を絶ちました」
「!」
つまり行方不明。
余裕な雰囲気を出していたゼノン達であったが、いざ時間が経つと連絡が途絶えてしまった。
魔女の呼びかけにも答えず、危険な場合はオーロラを使う事も許されいたにも関わらずだ。
「だ、大丈夫なのかい?」
翼の言葉に首を振るシャルル。
「分かりません。ですが、とにかく今回の異変が異常である事を示しているとみて間違いないでしょう」
そう簡単に死ぬ二人ではないが、何らかの事件に巻き込まれたと見るのが普通だろうか。
さらに言えばもう一つ大きな問題があり、それが原因でシャルルは緊急収集をかけたのだ。
「この学校がある付近で時空の乱れが確認されました」
「乱れ?」
「ええ。私も今回起こっている異変が生み出す乱れは見た事が無いので、なんとも言えませんが、過去の経験からするにブラックホールの様な物ではないかと予想しています」
突如空間が歪み、そこへ真っ黒なトンネルや球体が出現する。
それが世界の規律が乱れた事により発生する時空の乱れ、歪みである。
それに触れれば恐らく全く違う世界に飛ばされてしまうのではないかとシャルルは言った。
そしてその時空の歪みがこの学校の近くで多く発生している筈。計算から考えても――
「まもなくこの学校を直撃します」
「「「!」」」
もちろんコレはナルタキとシャルル達の予測でしかない、全てを知っているだろう魔女はニヤニヤと笑うだけなのだから。
だがナルタキも世界については多くの知識を得ていた、彼が言うのであれば可能性は限りなく高いはず。
「でもこの学校は外の影響を受けねぇんだろ?」
真志は覚えている。
魔女に言われた事、この学校は船の役割を果たす小規模な独立した世界。
言うなれば地球の中に入っている小さな地球と同じ。つまり他世界としてカウントされるのだ。
だからこの世界の人間は学校の存在に気づかないし、影響も受けない。
「そうですね、しかし時空の歪みは世界を貫通します」
「ま、まじか」
「はい、ですので危険視されている訳です。ただ問題は私もいま一つ時空の歪みとやらの詳細が分からない事」
とにかく今やるべき事は学校を移動させる事である。
良太郎達はどうせ戻ってくれば学校に入るのだし、司たちは移動した後で事情を説明すれば何とかなろうだろうと。
「と言う訳で、一度学校をこの場所から移動させます。よろしいですね? 翼様」
丁度その言葉を言い終わったところで準備も整ったとシャルル。
翼としては司達を待ちたい所ではあったが、皆の安全が優先される所であろう。
「分かったよ。歪みが直撃するにはあとどれくらい掛かるんだい?」
「数時間後と見ています。まだ時間には余裕があるので、動くのなら今だと判断し――」
言葉を失うシャルル。
驚いた様な表情を浮かべる彼は、絶対に目にしてはいけない物を見てしまう。
それは空間がぐにゃりと曲がっている様な視界、それはすぐに他の者たちも理解した。
何だコレは? 多くの物が一瞬そう混乱するが、もう今話していた事があるじゃないか。
「しまった! 時間が早まったか!!」
「お、おいなんだコレ!?」
外が真っ暗になり激しい振動が一同を襲う。
しかし揺れているのは自分たちだけ? コップの中にある水は何にも変わっておらず、棚にある物も落ちないどころか動いてすらいない。
「強制転移を行います!」
「うおおおおお!!」
そしてその時、学校にいる者たちは例外なく聞いただろう。その声を。
『たすけて……!』
「―――ッ!」
間に合わないか!?
シャルルはオーロラを出現させようと手を伸ばすが、既にもう歪みは最大にまで達しており、一同の意識もまたブラックアウトしていくのだった。
(馬鹿な――ッ!)
シャルルは目を見開いて全身に感じる異質な感覚に震えを覚える。
この世界に生じる歪みはまさしくイレギュラーと呼ぶに相応しい程の力だ。
絶大な世界を揺るがせる意思、これはまさか――
「……っ?」
ゆっくりと目を開けると、黄色の鈍い光が視界いっぱいに広がった。
突き刺さる様な感覚に眉を顰める夏美、しかし次第に鈍っていた感覚が回復すると、彼女はバッと跳ねる様に体を起こす。
「!? ? !??」
たしか自分達は時空の歪みがどうのこうのと話していたら、本当に歪みが学校を直撃してそれから――……それからどうなったんだっけ? 彼女は一度両手で顔を覆うと、ゆっくり記憶の糸を辿っていく。
そう、そうか、恐らくではあるが自分達は時空の歪みに飲み込まれてしまったんだろう。
そしてシャルルが言っていたように望まぬまま違う世界へ放り出されたと?
夏美は目を開けて周りをグルンと確認してみる。ああ、やっぱりそうか、秋葉原にいた筈の自分達はいつのまにか中世の町並みが目立つ場所にやってきていた。
百人にココは秋葉原だと思いますかと聞いても誰一人として首を縦には振らないだろう。つまりはそう言う事、ココはアキバではなく完全に別の世界、別の街、別の場所なのだから。
「う、ううん……!」
そして夏美が目覚めたと同時に近くに倒れていた者たちも意識を取り戻す。
夏美は順に彼等の表情を伺っていった。鈍る思考の中であっても、彼等の顔はしっかりと覚えているぞ。
夏美は確認と意識を鮮明にさせる意味を込めて一人一人の顔をしっかりと見て特徴を心の中で言葉にしていく。
いやちょっと待てまずは自分の確認だ。いやいやいや、でもその前にまずは――!
「キバーラ、いますか!?」
『いるわよぉ、って言ってもフラフラだけど。もー、なんなのよさっきのは』
(良かった……。あ! えっと、わ……私の名前は
十星学園高等部二年に通っていました。
けれどもある事情から自分の住んでいた世界から、全く知らない別の世界に飛ばされて飛ばされて。
そんなこんなで色々な世界を旅しながら大ショッカーと戦ってたんですけど、今はどういう状況なんでしょか? 私にも全く分かりません、不安です……。
あ、ちなみに帽子が好きで今はキャスケットを被ってます。それと時間は掛かったんですけどキバーラの力を借りて仮面ライダーキバーラに変身できるんですよ! えっへん!
(よしよし、私は大丈夫。じゃあ落ち着いて皆の確認を)
「こ、ここは?」
キョロキョロと辺りを見回す彼は
ほとんど同じファッションスタイルで、今日もオレンジ色のパーカーに胸にアルファベットの文字がついてるスタジャンを着てますね。
一番初めに試練を終えた人で、それからは仮面ライダークウガになって戦ってます!
「……だる、頭いた――ッ」
気だるそうに体を起こしているのは
ポニーテールが特徴的な女の子です。綺麗ですけどサバサバした面があったりバイクの運転が上手かったり男勝りな性格なんです。
指輪をしているんですけど、それが少し変わっててイメージリングって言う物なんです。
それをつけていれば簡単に言うと姿を変える事ができて、彼女は銃と剣とロッドに姿を変えられるんですよ。
その能力で薫ちゃんはユウスケをサポートしています。
「皆、怪我は無いかい?」
辛そうにメガネを整えながらも皆の心配をしてくれるのは
ユウスケのお兄さんで、世界の移動に巻き込まれてからは皆の保護者になってくれてます。落ち付いていて頼りになるんですよ!
あ、ちなみに私達は試練と呼ばれる出来事を何度も体験して、それを乗り越える事で仮面ライダーの力を手に入れてきました。
先生もその試練を通して仮面ライダーアギトになったんです。
「いってぇ……! マジ何なんだよ」
ワックスとヘアスプレーで整えた茶色い髪をかくのは
いろいろな事を知ってて貴重な(?)常識人だったりします。
少し言葉遣いだとか見た目は荒かったりするんですけど優しい人なんですよ!
城戸真司さんからドラグレッダーを借りて、今は龍騎に変身します。
「うげぇ、ケツ打った! マジいッッてェ!」
お尻を擦りながら涙を浮かべてるのは
真志くん同じく髪が綺麗な茶色だからよく学校じゃ先生に怒られてたんですけど、いざ話してみると本人は気さくな人で優しいんです。
結構粗暴な態度なんですけど、実はお嬢様とかなんとか。彼女も霧島美穂さんからブランウイングを借りて、今はファムに変身します。
「………」
アンニュイな表情で辺りを確認しているのは
少し気が弱い面があるけど優しくて、でも優しすぎる事が本人としても引っかかる物があったみたいなんです。
だけど色々な事を乗り越えて行く強さも持っている人です。ファイズになる為にオルフェノクになっていますが、皆の接し方は変わりません。
「拓真、大丈夫?」
拓真くんを気に掛けるのは彼の幼馴染である
おさげ風のツインテールが揺れています。昔はよくいじめられていた拓真くんを守っていたみたいなんです。
彼女もまたデルタに変わるためにオルフェノクに、本人達は気にしていない様に振舞っているんですけど……。
「え? やだっ! 咲夜さんおパンツ見えてま――嘘だってッ! 何ですぐ蹴るの? ゴリラなの? そう言う事しちゃ行けないってお母さんか先生に言われなかったの!?」
お尻を押さえて悶絶しているのは
ネットスラングだとかアニメとかゲームに詳しいのが役に立ったり立たなかったり。
そんな彼も試練には挑戦して、ブレイドの力を手に入れました。
「……フン!」
腕を組んで椿のお尻を蹴っていたのは
綺麗な黒髪が風に揺れています。とっても美人さんなんですけど、椿にはついつい手が出ると言うか足が出ると言うか。
試練のおまけと言う訳じゃないんですけど、彼女もカリスに変身して戦うんですよ!
「我夢君達は……!?」
「ああそうだな、良太郎、ハナちゃん、双護と司も。置いてきちまったか!?」
耳鳴りや、ぼやけた思考からいち早く回復したのでしょう。
ショートヘアでボーイッシュな
彼女は中等部なので私達の後輩になります。いつも落ち着いていて敬語で話す彼女は、天鬼になって戦います。
ちなみにですけど、同じ中等部の我夢くんとお付き合いしてるんですよ! 羨ましいですよね!!
そしてそして、そんな彼女の隣で話を聞いていたのは
いつも元気な人で私達もパワーを貰ってます。ガタックに変身して、すごく強いんですよ!
憧れちゃうなぁ、私はあんまり強くないんですよ……。
「いってぇ、何だ? どうなった!?」
慌ててるのは
彼もアキラちゃんと同じ中等部の男の子なんですけど、私の従姉妹なんですよ!
一緒の家に住んでいて、いわば私の弟みたいな物ですね。
「ここは……一体?」
亘君の隣にはダークブラウンの髪色をした精悍な少年が。
なんだかオレンジと灰色が基調の変わった制服を着てますね。彼の名前は――
彼の名前は――……、そうえっとですね、名前は……。
(???)
「えっ!?」
思わず間抜けな声を上げてしまう夏美。
彼は誰なんでしょう!? 地面に伏せていたクラスメイトの特徴を順に頭の中で並べていた夏美であったが、最後の一人は全く情報が出てこなかった。
それはそうだ、だって彼は夏美たちの知り合いではないのだから。
「ど、どちら様!?」
皆も気づいたのか友里が彼に声を掛ける。
鈍る思考もだいぶ回復してきた、すると皆の中に一人だけ見知らぬ者が混じっている事に気づくのだ。
彼もまた自分のいる場所が明らかにおかしいと気づいたか、首を振って立ち上がる。
「あ、えっと……! 皆さんは?」
少年は少しフラついていたが咳払いを一つして意識を整える。
その前にまずは自己紹介が先だと気づいたらしい。
彼は手で握り拳を作るとそれを自分の胸の中心、つまり心臓に当てるように位置を取る。
「俺は明日乃ミライ。防衛軍
「ぼ、防衛?」
目を丸くする夏美。
そんな彼女の反応を見て悟ったか、明日乃はさらに細くの説明を加える。
地球は広い、自分達の存在を知らない人がいてもおかしくはないからだ。
そう、地球は。
「今まで地球に出現した怪獣達を退ける為に戦っていた組織ですよ」
「か、怪獣?」
「え? し、知らないんですか?」
夏美の反応に明日乃も思わず汗を浮かべてしまう。
かみ合わない二人の会話、夏美として怪獣とは何のこっちゃである。
一方明日乃としては怪獣を知らないのは流石に予想外だった様だ。
「地球に……来ましたよね?」
「な、何がですか?」
「か、怪獣……が」
「どうでしょう……?」
夏美以外のメンバーも明日乃の言っている事は意味不明と言う表情で聞いていた。
怪獣? まだ思考が鈍っているからよく考えられない。つまりこの世界は怪獣がいるのか?
ん? 待て、世界? ココはそう言えば外。
外!? 外ってどう言う事なんだ? だって自分達はシャルルに呼ばれて学校にいた筈じゃないか。
なのに外って――!?
「……は?」
美歩が口を開けてその光景を見る。
同じく隣に居た咲夜はまだ耳鳴りの影響があるのか難しそうな顔をして頭を抑えていた。
けれども誰もが一度明日乃から視線を外して美歩へ視線を向ける。皆が皆同時にその可能性に気づいてしまったからだ。
「どうした……?」
「ねぇんだけど」
「ッ? 何が? って――」
どええええええええええ!
友里の叫びが一同の意識を覚醒させる。
同時に口を開く美歩、上には空が広がっている訳であり、それが意味する所はただ一つ。
「学校だよッ!」
「は?」
「学校が、ない」
そう、彼らが今まで世界を移動する際に使っていた船とも言える拠点が無い。
確かに上位世界に行くときにはオーロラを直接通過した訳だが、今回はもちろん景色的に上位世界と言う訳ではない筈だ。
それに今まで自分達は学校にいた訳で、そうすると周りの人間達もおかしな事になってくる。
つまりだ、その意味を真志が叫ぶ。
「っていうか、あいつ等も戻ってねぇぞ! 良太郎達だって帰ってきてねぇし!」
「ッて事は司達って置いてかれたのか!?」
ユウスケはそれを言ってハッとする。
そうだ、学校がないと言う事はつまりそこにいた者達も居なくなる訳で。
ユウスケは周りをすぐに確認するが、やはりどこを見ても数人のメンバーがいなかった。
「葵さん達もい、いないぞ!」
戦闘能力が無い為にいつも学校で待機している
そして自分達を学校に呼んだシャルルもまた同じくして姿を消していた。一同は皆公園の広場の様な場所で気を失っていたのだ。
周りをどれだけ確認しても学校を見つける事はできなかった。
「うっそでしょ?」
思わず崩れ落ちる様に膝をつく友里。
他のメンバーも何を話していいか分からずに絶句していた。
どう言う事なのか? シャルルはイレギュラーの事態が起こっていると自分達に説明してくれた。
これがその結果だとでも言うのだろうか? それにしてもだったら司や良太郎達はどうなる? 学校に取り残された葵たちはどうなるのか。
誰も何も分からずに、しかも今までは情報をくれていたシャルルさえいないのだからどうしていいか分からない。
「あ、あの……! 少しいいですか?」
呆然としていた一同の注意をひきつけたのは明日乃だった。
彼は自分が場違いな状況にあると言う点に引け目を感じてしばらく汗を浮かべながら一同の顔色を伺っていたが、どうにも気になる点が一つ浮かび上がったので口を開く。
それは、だ。自分もまたココがどこかのか全く分からないと言う共通点、そして何故自分がココにいるのか分からない状況と言う点も共通している。
だってそうだろ? 自分は先ほどまで戦っていたんだぞ、海で。
「もしかしたら、貴方達もあのブラックホールみたいな物に巻き込まれたんですか?」
「!」
コクコクと頷く夏美、言葉も出ないようだ。
それは当てはまる記憶があるから。一同の表情でイエスなのだと明日乃は理解し、さらに翼の言葉でソレは確信に変わる。
「どうやら、僕達は情報を交換しあう必要性があるみたいだ」
そうですねと明日乃、しかし翼は彼よりも一歩先の事実を見ている。彼もまた翼の次の言葉でそれを知る事になるのだが。
翼は先ほどの彼と夏美の会話をしっかりと聞いていた。食い違う言葉の意味は、夏美か明日乃のどちらかが無知だからと言う訳ではない。全く食い違う会話の理由はただ一つ。
「どうやら僕達は……別の世界の住人同士らしいからね」
「!?」
こう言う時に、喫茶店の一角で話し合えれば形にもなるのだろうが、なにぶん学校が無い以上金を無駄遣いする訳にはいかない。
学校の金庫に貯金されていると言う事は、学校に戻らなければ金の補充ができないと言う意味でもある。
幸い直前まで皆自由な時間を過ごしていたために財布も持っているし、それなりに金額もある事にはある。
しかしだからと言って我慢できる所は我慢しておかないと後々危険かもしれないとの判断だった。
ちなみに彼等の持っている金銭は全てゼノン達が用意した特別製であり、偽札ではないが世界に合わせてその世界の通過になると言う便利なもの。
それはゼノン達がかけてくれた補正が原因だった。そして今、金はちゃんと自分達の知らない物に変わっている。
要するに補正自体はちゃんと働いていると言う訳だ、つまり身体能力の補正や補正その物はちゃんと働いていると。
つまりイレギュラーながらも機能するべき物は機能してくれていると言う訳だ。これには安心した物であるが、不安はまだまだ多い。
ゼノン達も行方不明になっているし、なんとか観測者組みが手を打ってくれればいいのだが。
とにかく、明日乃と情報を交換するために一同はその公園の広場にある木の下に座って情報交換を。
まずは翼と夏美が代表して彼に自分達の情報を簡単に伝えていく。
彼が敵になる可能性もゼロではないが、取りあえずは同じ被害者であり、先に簡単に話をしたのだが彼も悪い人ではなさそうだ。
さらに言えば一度真志とユウスケが彼の身体をくまなく捜したのだが黄金の大鷲は無かったので信用に値すると判断した。
「じゃあ、貴方達はその大ショッカーと言う敵と戦っているんですね」
「はい、今までずっと」
神なる世界の事は流石に伏せておいたが、それまでの事はほとんど包み隠さず彼に告げる。
「私達は……ああえっと今いない人もいるんですけど」
今いないのは野上良太郎、ハナ、空野葵、天王路真由、野村里奈、相原我夢、天王路双護、そして聖司の8人だ。
"彼等を含めてココにいる全員は十星学園に通う生徒だった"。誰もが当たり前の生活を送り、その日もまた友人達と変わらない生活を送るのだと確信していたのだが。
「その日は小学校を卒業した良太郎くんとハナちゃんが教科書や靴を買いに来る日でした」
その為に司達は学校が午前中で終わる。
たまたま早く来ていた良太郎とハナ、二人は学校の敷地内に足を踏み入れていた。
そして一方の夏美達も場所は違えど学校の中にいてたまたま他の生徒が中で学校に残っていたのだ。
「偶然なのか必然なのか知りませんが、学校の一角に私達が集中していたんです」
すると光が巻き起こり、激しい耳鳴りが。
平衡感覚もおかしくなり景色が歪んでいく。
そして学校に一角が丸ごと切り離され、その瞬間自分達は元々いた世界から全く違う世界に移動していた。
「ああそうだ、俺はその時校庭にいたんだけどよ、いきなり外の景色が変わってビックリさ」
鏡治の言うとおり、校庭も半分に切られたように区分されて学校は全く違う土地に存在していた。
たまたま高等部の方に来ていた亘達も巻き込まれ、自分達は混乱に飲まれるまま全く知らない場所に来ていた。
「始めは夢でも見ているのかと思ったよ」
職員室は違う場所だったため、その巻き込まれた区分にいた教師は翼のみだった。
彼は皆一箇所に集め、なんとか落ち着け様としたのだが彼自身何がどうなっているのか分からない状況。
とにかく一度外に出て状況を確認しようとした一同、そこで彼らは信じられない光景を目にする。
「僕達の目の前に化け物が現われたんだ」
「化け物……ですか」
「うん。身体のどこかに黄金の大鷲を模した刺繍だの紋章を持った奴らがね」
その名は大ショッカー、殺戮と破壊を繰り返す最悪の連中だと翼は言う。
終結した異形たちは翼たちを発見し有無を言わずに殺そうとする。
化け物に囲まれ絶体絶命になった彼等は、流石に死を覚悟したと言うもの。
「でも僕らを助けてくれた人がいてね」
「それが、仮面ライダーダブル。ゼノンくんとフルーラちゃんです」
左右非対称の人間(?)が現われたときはどうしようかと思ったと翼は懐かしむ様に笑みを浮かべた。
ダブルは夏美達を狙っていた大ショッカーの怪人たちを倒すと変身を解除して自分達に挨拶を行う。
『やあ、今回は君たちが選ばれた訳だね』
そう言ったゼノン。
それから夏美達はゼノンとフルーラから自分達の世界が大ショッカーによって滅ぼされる事を知らされる。
それを防ぐために無作為に集めた者達が夏美だったと言う訳だ。
「僕達は、僕達の世界を救う為には大ショッカーを倒さなければならないと聞かされたんだ」
「そしてゼノン君達は、私達に大ショッカーの怪人達に対抗できるだけの力をくれました」
それが仮面ライダーと言う存在だった。
夏美達の世界でもテレビ番組として放送されていたソレ。
始めはユウスケとして彼等は色々な世界を巡りながらクウガ、アギト、龍騎と順に力を覚醒させていった。
「そして最後に私と、今はいないんですけど司くんって言う男の子で試練を終えたんです」
「なるほど……! 大変だったんですね」
明日乃は衝撃で打ちのめされる思いだった。
まさか自分の知らない所でそんな攻防が繰り広げられていたなんて。
(兄さんの言っていた多次元宇宙論は本当だったんだ……!)
彼等はそれぞれの仮面ライダーの力を覚醒させ、大ショッカーとの世界を巡る戦いを繰り広げている。
明日乃には言わなかったが、その目的は世界を生み出す世界である神なる世界に到達する為だ。
大ショッカーはその神なる世界を支配する事で全ての世界の頂点、神の存在に立つつもりであり、夏美達もまた神なる世界を先に見つけることで守ろうと。
「まあ本当に色々と大変でしたけど、その分得た物も多いですから!」
夏美の言葉に反応して頷くクラスメイト達。
明日乃はそれを見て爽やかな笑みを浮かべた。
「信頼し合っているんですね。皆さんの間からは強い絆が感じられます!」
「そ、そうですか。えへへ」
夏美は嬉しいのか少し頬を染めてはにかむ。
とにかくこうして自分達十星学園の生徒たちは突如として試練と呼ばれる一般人を仮面ライダーとして半ば強引に覚醒させるシステム――
「Episode DECADEを完成させたんです」
「!!」
そこで表情を変える明日乃、夏美はハテナマークを浮かべて首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「いや、似てるなと思ったんです」
「似てる?」
頷く明日乃。彼も夏美達の事情はだいたい分かった。
要するに世界と言うのは実は知らないだけで幾つものパラレルワールドが存在していると。
そしてその世界を移動しながら破壊活動を行う大ショッカーを倒すために彼等もまた力を与えられたと言う事なのだろう。
では次は明日乃の番だ。彼は自分の目的を簡潔に一言で告げる。
「俺の目的はEpisode MEBIUSを完成させる事なんです」
「えっ!?」
なるほど、確かにソレは似ているなと誰もが思う。
けれども少し特殊な面があると明日乃は言った。と言うのも、彼はそのエピソードメビウスが何かを分かっていない。
たとえばソレは夏美達ならば大ショッカーを倒すのと同じく、明日乃にももっと直球な問題があるのだ。
どうやらソレをクリアすればエピソードメビウスは完成するらしいのだが。
「つまりキミにも試練があると?」
「はい、俺の試練は――」
翼の言葉に頷く明日乃。
夏美達に与えられた試練は内容は伝えられていない物ばかりだった。
それは試練が最初から仕組まれていたのではなく、結果的に試練として成立していた出来事がほとんどだったからだ。
たとえばブレイドに関してはキングとの一騎打ちだったり、アギトにしてみれば幻想の世界を打ち破る物だったり。
要するにそれと同じく明日乃にも試練が現在進行形で与えられているのだと。
「俺の試練は、地球に迫る10体の侵略怪獣を倒す事です」
「怪獣、さっきキミが言っていた物だね」
「はい! とっても大きな奴らなんです!」
どうやら夏美達の認識している怪獣で間違いないようだ。
火を噴きビルを破壊し、大地を揺るがす咆哮を上げる怪獣。
時には二体で一組と認識され、時には侵略宇宙人の駒であったりと多様な物だが、皆共通しているのは地球を破壊するか支配するかで狙っていると言う事だ。
「俺達は今、5体の怪獣を倒しました」
正確に言えば6体と数名の宇宙人だが。
とにかく明日乃の世界には小規模ではあるがちゃんとそう言った防衛軍が存在しており、彼はその一員らしい。
「10体全ての怪獣を倒した時、エピソードメビウスが完成して世界は平和になるって言われてるんです」
「そうなんですか……」
向こうも向こうで色々と事情があるんだなぁと、夏美はつくづく思う。
言われてみれば世界など数多にある訳なのだから、仮面ライダーが関係していない所でも日々死闘が繰り広げられていると言うのは当然の話だ。
しかしそれは少し不安になる話でもあった。だってそうだろ? もし彼の言う怪獣軍団が神なる世界に目をつければ、自分達の敵と言う事にもなるのだから。
フェザリーヌは大ショッカーの大首領さえ倒せばと言っていたが、果たしてどうなってしまうのやら。
成る程、シャルルが言っていた危機がよく分かる。世界同士が交じり合えば、自分達の敵に大ショッカー+αが追加されるかもと言う事なのかもしれない訳だ。
「メビウスとは、何なんだい?」
「……それは」
明日乃は少し迷ったように沈黙し、直後目に光を灯して答える。
「無限の……そう、希望に溢れた未来です」
「そうなんですか」
素敵な事ではないか、夏美は笑みを浮かべる。
自分達がそうだった様にきっと彼も色々な苦しみと希望をその試練の中で得たのだろう。
なんとなくだが、明日乃の精悍な顔立ちからくる笑みがそれを信用させる。
とにかく世界は互いに干渉しうる事無くも、数多に存在しており、それぞれ己の世界を守る為に今日まで必死に戦ってきたと言う訳だ。
しかしお互いがココにきた共通点の一つである時空の歪み、イレギュラーとシャルルは言っていたがやはりそれが今回こうして全く関係のない所にいた自分達を引き合わせた原因なのだろうと思う。
「僕達が今まで訪れてきた世界は何かしらは仮面ライダーの要素があったんだ」
「詳しい人がいるんですよ」
「はぁ」
しかして、今目の前にいる明日乃は全く違う敷地から来たような物。
いやもしかしたら彼もまたライダーに関係する何かがあるのかもしれないが、生憎と詳しい『彼』が行方知らず。
ここは一々気にしていてもしかたない。
「恐らく、歪みが原因しているんだろうね」
フムと唸る翼、時空の歪みとは一体何故出現したのだろうか?
シャルルも言っていた事だが、おそらくは今回はソレを何とかしないといけない筈だ。
とは言え情報は何も無い、いつも情報を与えてくれるシャルル達ですら知らなかった事なのだから。
「あ! そう言えば歪みに入る前に声を聞いた気がするんです」
明日乃の言葉にそういえばと夏美達。
確かに自分達の何か声の様な物を聞いた気がする。
「確か……助けてって」
「はい、俺も同じです」
助けて、とはつまり当たり前の話ではあるが助けを求める意味に違いない。
そしてその声を聞いた自分達が同じ世界に転送されたと言う事は偶然なのだろうか?
「もしかすると、誰かが僕達をこの世界に招いたと言う可能性も考えられるね」
翼の言葉に反応して辺りを見回してみる一同。
この世界はどうやら自分達が慣れ親しんでいる現代風の風景とはかけ離れていた。
要するにビルやコンビニなど見知った施設は何も無い。道は石畳、遠くを見れば馬車も見えた。
先ほども感じたが中世ヨーロッパを強くイメージさせる。クロークのいる世界がそうなのだから何となく慣れがある事にはあるのだが、もう一つ強烈な違和感を覚える要素が見つかった。
それは色だ、なんとなくではあるが世界全体が黄色がかっている気がする。
それはうまく説明できない事ではあるが、黄色いフィルターをカメラに通したとでもいえばいいか。
見る物全てに黄色が入っている気がするのだ、もちろんそんな事は無いのだが。
「空もおかしくない?」
薫が見上げた空は青い筈、青い筈なんだがやはり黄色に見える。
それになんだか太陽が出ていると言うのに暗い印象を受けた。
外に居るのに室内に居る様な感覚、なんだが息苦しいと言うか気味が悪いというか……。
変な話、空に向かって飛んで行けばいつか天上に当たる気がする。
「なんだろう? 随分と閉鎖的な印象を受けるね」
それにと、翼は先ほどからもう一つ違和感を覚えていた。
気のせいかもしれないが、先ほどから自分達以外の人に出会わない。
ココは公園だ、時間は午後の4時、誰かしらは遊んでいてもいい筈なのだが?
このパターンは過去にも何度かあったと言う。いずれにせよ良い展開が待っていた事は無かったが。
「とにかく、どうやらやる事は以前と変わりないみたいだ」
まずこの世界で何が起こっているのかを調べ、自分達が解決できそうな問題ならば解決してみると。
そうすればいずれ助けを求めた者にも出会えるだろうし、学校にも戻れる筈だ。
「おそらくだけど、シャルル君は葵さん達と一緒にいる筈だから」
幸いココにいる全員が戦えるだけの力を持っている。
この世界に大ショッカーがいても対抗できる術は持ち合わせている訳だ。
しかし色々不安な事もある、学校がなくなるなんて始めての事態だ。
一応翼は念のためにと葵に電話をしてみるのだが、案の定繋がらなかった。
それは他のメンバーも同じ、補正をかけられた携帯でも繋がらなかったのだから彼等は別の世界にいると見て間違いはないのだろう。
それにいないと言う事はそれだけ不安を加速させる物で――
「………」
例えばそれは我夢がいない故のアキラの心配だとか、里奈いない故の亘の不安。
それを考えるなと言う方が無理と言う話だ、思わず暗くなる一同、しかしそこに割りは入って来る元気な声が。
「きっと皆さんの仲間は大丈夫です! 元気を出しましょう!!」
屈託の無い彼の笑みは暗い雰囲気を吹き飛ばす様だった。
それに感化されて笑みを浮かべる夏美、影響されやすい鏡治もニカッと笑みを浮かべる。
「ああそうだな、きっと大丈夫だ!」
「あたし達がクヨクヨしてても仕方ないからね!」
「うっし、じゃあ出来る事をやりますか!」
不安も多いが自分達ならばきっと大丈夫だ。
皆はそれぞれ元気を取り戻してこの事態を何とかしようと意気込んでいく。
うんうんと頷く明日乃、彼を見て翼は明日乃ミライが信用できると決め付けた。なるほど、彼の笑顔からは確かに希望が感じられる。
そしてどことなく雰囲気が彼に、司に似ていると言うのもあったのかもしれない。敵である可能性はゼロではない、しかし信じてみたいと言うのが本心だった。
「明日乃くん。私達と一緒に協力してくれないかい?」
手を差し出す翼。
とにかくこの事態は初めての事だ、もちろん彼も元の世界に帰れる様にしなくては。
対してもちろんですと笑顔で翼の手を取る明日乃、二人はしっかりと協力の握手を交わす。
「助かるよ明日乃くん」
「いえ! あ、そうだ! 俺の事はミライって呼んでください!」
ミライと言うのは大切な人から貰った名前らしい。
琴美は恥ずかしがって呼んでくれないが、彼としてもこの名前で呼ばれるとより覚悟が強くなるのだとか何とか。
明日乃ミライは端的に自分の事を話すが、どうやら彼は一度死に掛けた所をある人に助けられたらしい。
その人とは一つの約束があり、それがミライと言う名に刻まれているとか何とか。
とにかく彼にとってミライと言う名前は大切な思い出の象徴だと言うのだ。
「うん、分かったよミライくん」
「よろしくな、ミライ!」
「はい! よろしくお願いします!」
彼は笑みを浮かべて深々と頭を下げた。
各々に彼に声を掛けていく夏美達、明日乃は――いやミライは律儀に一人一人に挨拶を返していった。
そして全員と話した後、いない人たちの情報も聞かされる。
「我夢兄さんがいるんですか!?」
「えっ! 我夢くんと知り合いなんですか!?」
「あ……なるほど! いやっ! すいません人違いでした!」
我夢の話題になった時ミライのテンションが跳ね上がる。
どうやら彼の兄と我夢が同じ名前だったらしい。
「へぇ、ミライくんはお兄さんがいるんだね」
「はい! とっても頭がいいんですよ!」
拓真の言葉にウキウキとした様子で答えるミライ。
彼の兄はパラレルワールドが存在するという事をミライに『多次元宇宙論』と言う言葉を使って教えていた。
ミライが夏美たちの境遇に驚きこそすれど疑う事無く信じたのはその為だ。ミライはそのガムと言う兄のことを自分の事の様に自慢して笑っていた。
さらにまだ彼には兄がいるらしく、観光案内の仕事している落ち着いた兄や、スタジアムでボールボーイをしている元気な兄がいるとか。
「あ、そうだ」
ミライはベルト横にあるポーチを空ける。
そこには六つのカラフルなビー玉程のボールが三つずつ並んでいる。
赤、青、緑、オレンジ、赤紫、銀色だ。そしてミライはその中からオレンジのボールを取ってみる。
するとビー玉サイズだったボールは野球ボールくらいの大きさに一瞬で変化を。さらにミライはエルピスと言う小型モバイルパッドを取り出して、そこにボールを接続。
エルピスは携帯の様だが、引き金が存在しており、銃口部分にボールが接続しちている状態だった。ミライはそのまま空に向かってエルピスを構え、引き金を引いた。
「皆に挨拶をしよう! ハネサブロー!」『REALIZE』
「「「!」」」
電子音と共にそのボール、怪獣ボールが発射されて空ではじけた。
すると光が一つの形を作り――
「くぁわいいーッッ!!」
「わぁ!!」
「おわっ! なんだコレ!!」
驚きの声をあげる一同。
光が形を作るとソレはミライの肩に着地した。
オレンジ色の体毛を持ったウサギの様なおサルの様な、何とも不思議な生き物だ。
良く見れば羽が生えている為、蝙蝠の様に見えなくも無い。
『こらーッッ!!』
「「「!」」」
喋った!? しかも怒ってる!!
当然の大声にビクっと肩を震わせる夏美達。
あの生き物は一体何なんだろうか? 不機嫌な様だが、どうやら話を聞くにそれはミライが原因らしい。
『酷いパムご主人様! ぼくの名前はハネタローだって何回も言ってるじゃないですか!』
「ぱ、パム?」
「ご、ごめん! ハネタロー!」
ハネタローと呼ばれた生き物は咳払いを一つ行うと一同に向かって頭を下げる。
どうやら彼は亘とキバットの様な関係らしい。ハネタローは"ムーキット"と呼ばれる生き物らしく、守り神と言う大層な別名すらある様だ。
いやそれよりも彼は一体なんなんだろう? 夏美や友里を初めとした女性陣は彼の可愛らしい容姿に心を奪われている様だが、男性陣はその不思議な現状に目を丸くしている。
それに気づいたか、ミライはハネタローを撫でながら説明を行う。
「彼はカプセル怪獣と言って、俺たちの味方なんです!」
「へぇ! 怪獣の中にも良い奴がいるんだな!」
『もちろんですパム!』
「はい! 俺とハネタローは親友なんですよ! ねぇー!」
『パム! ねぇー!』
笑いあう二人、椿もまたそんな二人を笑みを浮かべてみていた。
親友か、いい事じゃないか。
(でもさっき……名前間違えてた様な――)
あとパムってキャラ付けなのかな。
それを聞きたかったが、彼は読まなければならない空気を感じてその言葉をゴックンするのだった。
☆エピナビ☆
・カプセル怪獣
本来怪獣とは街を破壊したり、人を恐怖させる対象として認識されているが、何も全ての怪獣が悪い奴と言うわけじゃないんだ。
その代表とも言えるのが明日乃ミライに協力しているカプセル怪獣だ!
文字通り怪獣ボールと言う球体の中に眠っており、必要に応じて彼を助けるぞ!
その数は現在6体。
今回姿を見せたのはそんな中の一体、ハネタローだ!
怪獣にしては小型で、戦闘能力も皆無だが、シールドを張ったり喋れると言う点を活かしてミライをサポートするぞ!
ちなみにミライは彼をハネサブローと名づけたかったが、没となりハネタローになった。ミライはそのショックが抜けておらず、未練もあってか彼の名前を間違えてしまうんだ。
………
誤解が無い様に書いておきますが、作者が別のサイトでメビウスを書いているとかは無いです。
全てディケイドと平行して行われていた別の世界での話しと言う事ですね。
司達が戦っている間、別の世界ではミライが戦っていたと。
まあ色々分かりにくいところもあるかもしれませんが、そこも含めて楽しんでもらえればなと。
次は登場人物紹介とライダー紹介を更新する予定です。
その後、ちょっと更新をお休みするかも。ちょっと手の調子が悪いので、すいません。
ではでは。